(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6816332
(24)【登録日】2020年12月25日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】アデノウイルス結膜炎に対する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20210107BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20210107BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20210107BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20210107BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K9/08
A61P27/02
A61P31/20
A61P29/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-538878(P2020-538878)
(86)(22)【出願日】2020年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2020016447
【審査請求日】2020年7月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593212758
【氏名又は名称】奥田 研爾
(73)【特許権者】
【識別番号】520282085
【氏名又は名称】水木 信久
(73)【特許権者】
【識別番号】520252103
【氏名又は名称】島田 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】奥田 研爾
(72)【発明者】
【氏名】島田 勝
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−526075(JP,A)
【文献】
日本伝染病学会雑誌,1968年,Vol.41,p.245-251
【文献】
医学のあゆみ,2011年,Vol.237, No.2,p.210-214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アデノウイルスポリクローナル抗体を含有することを特徴とするアデノウイルス結膜炎の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物が点眼剤であることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物がアデノウイルス結膜炎の治療用であることを特徴とする請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物がアデノウイルス結膜炎の感染していない側の目の予防用であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノウイルス結膜炎に対する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルス結膜炎、すなわち、流行性角結膜炎に対しては、予防及び治療のいずれについても、有効な薬剤はないとされている。
例えば、非特許文献1には、流行性角結膜炎に関して、
「治療・予防
アデノウイルス全般について有効な薬剤はない。対症療法的に抗炎症剤の点眼を行い、さらに角膜に炎症が及び混濁がみられるときは、ステロイド剤を点眼する。細菌の混合感染の可能性に対しては、抗菌剤の点眼を行う。眼疾患患者の分泌物の取扱いと処分に注意し、手洗い、消毒をきちんと行う。点眼瓶類がウイルスで汚染されないように注意をし、汚染された病院内の器具類はオートクレーブで滅菌するか、あるいはアルコール、ヨード剤などで消毒する。予防の基本は接触感染予防の徹底である。タオルや点眼液など目に接触するものは個人用とする。」
と説明されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】国立感染症研究所感染症疫学センター、“流行性角結膜炎とは”、[online]、2014年4月1日、国立感染症研究所、[2020年4月8日検索]、インターネット〈URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/yellow-fever/392-encyclopedia/528-ekc.html〉
【非特許文献2】国立感染症研究所感染症疫学センター、“病原微生物検出情報”、Vol.38 No.7(No.449)、[online]、2017年7月、国立感染症研究所、[2020年4月8日検索]、インターネット〈https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/iasr/38/449.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、アデノウイルス結膜炎に対して非常に有効な医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の医薬組成物は、抗アデノウイルスポリクローナル抗体を含有することを特徴とするアデノウイルス結膜炎
の治療又は予防用である。
【0006】
前記医薬組成物が点眼剤であるで、内服薬ほどには、厳密な規制に制約されることなく製品化できて、実用性が高い。
【0007】
前記医薬組成物がアデノウイルス結膜炎の治療用であることで、アデノウイルス結膜炎の治療に寄与できる。
【0008】
前記医薬組成物がアデノウイルス結膜炎の感染していない側の目の予防用であることで、アデノウイルス結膜炎の予防に寄与できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アデノウイルス結膜炎に対して非常に有効な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】アデノウイルス免疫血清の有効性試験結果を示すグラフである。
【
図2】アデノウイルス免疫血清の感染阻害試験結果を示すグラフである。
【
図3】アデノウイルス免疫血清のウサギでの治療実験結果を示すグラフである。
【
図4】流行性角結膜炎のアデノウイルス血清型の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明ではポリクローナル抗体の点眼によって感染症であるアデノウイルス結膜炎の予防及び治療に成功した。
【0012】
具体的にはアデノウイルス抗体をマウスに腹内投与し、レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)を発現するアデノウイルスの眼への感染に対するルシフェラーゼ活性を測定することによりアデノウイルス結膜炎感染に対する予防及び治療効果を確認できた。
【実施例1】
【0013】
[マウスでの予防実験]
[材料及び方法]
[アデノウイルス及びベクター]
緑色蛍光タンパク質(GFP)(Ad5−GFP)、及びルシフェラーゼ(Ad5−Luci)などのレポーター遺伝子を発現するE1、E3欠失アデノウイルス5型ベクターを構築した。これらのアデノウイルスベクターをHEK293細胞中で増殖させ、そして塩化セシウム平衡密度勾配遠心分離により精製した。10mMトリス(pH7.5)、1mM MgCl2、及び10%グリセロールを含む溶液で、Float-A-Lyzer G2透析装置(MWCO:20kD、Spectrum Laboratories Inc.)を用いて透析した。使用するまで−80℃で保存した。各調製物中のビリオンの濃度は、次式
1 OD 260 = 1×10
12ウイルス粒子(VP)/mL (式1)
を用いて260nmでの光学密度(OD 260)から計算した。
【0014】
[アデノウイルスに対する免疫血清の調整]
【0015】
8週齢の雌ICRマウス(日本エスエルシー株式会社)を用いて抗アデノウイルス免疫血清を調製した。0及び14日目にマウスあたり10
10 VPのAd5、Ad7、Ad8、Ad19及びAd37で筋肉内免疫し、最初の免疫の3か月後に採血した。
【0016】
[免疫血清の点眼による抗体投与及び感染]
8週齢の雌BALB/cマウス(1群あたり5匹のマウス、日本エスエルシー株式会社)に5μLのAd5特異的免疫血清、10倍又は100倍希釈した血清を30分間隔で2回点眼した(抗体投与)。抗体処理の30分後、5μLの10
10 VPのAd5−Luciをマウスに点眼した(感染)。通常血清を陰性対照として使用した。
【0017】
感染の72時間後、結膜を含むマウスの眼を単離し、PBSで洗浄して血液を除去し、300μLの1×Cell Culture Lysis試薬(プロメガ株式会社)を含む1.5mLのチューブ(Eppendorf AG)に浸した。組織を、1.5mLの微量遠心管(Scientific Specialties, Inc.)用のマイクロチューブ乳棒でホモジナイズし、8,000gで10分間遠心分離した後、上清をルシフェラーゼ検定に使用した。4μLの細胞溶解物を20μLのルシフェラーゼ検定基質と混合し、ルミノメータでルシフェラーゼ活性を測定した。
【0018】
[中和実験]
Ad5、Ad7、Ad8、Ad19及びAd37に対する免疫血清を56℃で30分間インキュベートした。連続2倍希釈液を対応するウイルスと共に37℃で1時間それぞれインキュベートした。通常血清を対照として使用した。ウイルス−血清混合物を96ウェルプレート中で37℃、5%・CO2で7〜10日間、A547細胞(卵巣黒色腫細胞株)とインキュベートした。中和抗体価は、細胞変性効果(CPE)をもたらす最高希釈として決定した。
【0019】
[結果]
1.
図1にAd5についての結果を示した。横軸の「通常血清」は対照群である免疫されていない血清の群であり、「免疫血清」は上述の免疫血清の群であり、「1/10血清」はその免疫血清の10倍希釈免疫血清の群であり、「1/100血清」は100倍希釈血清の群である。縦軸は、通常血清を「1」とする相対ルシフェラーゼ活性である。この結果を見ると、免疫血清及び10倍希釈免疫血清は、対照群と比較して、アデノウイルス感染の86.6%及び62.1%の阻害を示した(それぞれP = 0.0003及び0.0116)。しかし、100倍希釈免疫血清群(19.9%阻害、P = 0.448)ではそうではなかった。
【0020】
2.中和抗体:結膜炎を引き起こす他の種類のAd5、Ad7、Ad8、Ad19及びAd37のようなアデノウイルスに対して、免疫血清がAdウイルス感染を阻害する同様の能力を有するかどうかを調べた。中和検定を実施した。
【0021】
図2に結果を示した。横軸の「CTL」は、免疫をしていない通常血清の対照群(コントロール)であり、「Ad5」〜「Ad37」は、各アデノウイルスの群である。縦軸は、中和抗体価を対数目盛り(log2)で示した。
図2に示されるように、各アデノウイルスの免疫化はAd5(2
13.4)と同様の中和抗体価を誘導した。この結果は、Ad7(2
12.8)、Ad8(2
12.5)、Ad19(2
11.6)及びAd37(2
13.5)の免疫血清が、対応するアデノウイルス感染に対して同様の能力を有していることを示している。
【0022】
以上の結果から、本発明の、抗アデノウイルスポリクローナル抗体を含有する医薬組成物はアデノウイルス結膜炎の予防に対して強い効果があることが示された。
【実施例2】
【0023】
[ウサギでの治療実験]
[感染及び治療]
[感染] 8週齢、1.3−1.6kg、メスのニュージーランド白ウサギを使用した。合計11匹のウサギをソムノペンティル(共立製薬株式会社)で麻酔し、0日目に無菌25ゲージ針(テルモ株式会社)で12本のクロスハッチングストロークによる目の表面の擦過の後、4時間間隔で2回、10
10vg(vector genome)のAd5、20μLを両眼に接種した。
【0024】
[治療:抗体血清群] その後、6匹のウサギを1日目から7日目までAd5特異的マウス免疫血清(マウスにAd5型ベクター10
10vgを3回、筋肉注射した後、約10日後に採血して得た血清、力価:1:1,000)を、50μL/目、3回/日、点眼した。
[対照:通常血清群] 5匹のウサギを対照として、200倍希釈した通常マウス血清を同様に点眼した。
【0025】
[採取] 経過日数0、1、2、3、5、7、9、12、14、及び16日に、血清治療する日はその血清治療の前に、綿棒で眼をぬぐう作業(涙液採取)を行った。その各綿棒によって抽出した細胞を、抗生物質と共に(抗生物質を入れないと、ウイルス力価を定量する時、細胞が雑菌に汚染されるから)、0.5mLのDMEM培地を含む1.5mLチューブに入れた。チューブをボルテックスにて細粒拡散させ、プラークアッセイに使用するまで−80℃で眼綿棒培養物を凍結・保存した。
【0026】
[プラークアッセイ]
Ad5力価は、TCID50の標準的なプラークアッセイ(http://www.virapur.com/protocols/TCID50%20Protocol.pdf)によりA549細胞(ヒト肺がん細胞株)で決定した。上記で凍結・保存した眼綿棒培養物を、2%FBS(ウシ胎児血清)及び抗生物質を加えたDMEM培地を用いて連続的に希釈し、96ウェルプレートに入れ、次いで、3×10
4 A549細胞/ウェルを加え、プレートを37℃、5%・CO2で10日間インキュベートした。そして、ウイルス力価を計算した。
【0027】
[結果]
図3に結果を示した。横軸は経過日数であり、縦軸は各群における平均のウイルス力価を対数目盛りで示した。対数目盛りであるため、小さい力価で誤差が大きく見える。2日目に高いウイルス性力価が検出された。その後、抗体血清群では緩やかな減少が認められたが、通常血清群では認められなかった。5日目から16日目までのP値は0.05以下となり、通常血清群と抗体血清群との間に有意差が認められた(*印参照)。14日と16日には、抗体血清群の検体の半分ではウイルスを検出しなかったが、通常血清群ではすべての検体でウイルスを検出した。
以上の結果から、本発明の、抗アデノウイルスポリクローナル抗体を含有する医薬組成物はアデノウイルス結膜炎の治療に対して効果があることが示された。
【0028】
ヒトに他の動物由来の抗体を注入すると、多くの場合アナフィラキシー等の症状が出現するが、体表面に点眼することは、このような副反応が出現しにくい。何よりも強力なウイルス中和抗体が直接患部に作用し、ただちに作用する点に高い有益性がある。
【0029】
ヒトのアデノウイルス流行性角結膜炎は、約8割以上が3,4,8,19/64,37,53,54,56型の感染者であり、8種類の抗体を混合することで、ほとんどのAd結膜炎の治療が可能である。ヒトのモノクローナル抗体を作成する技術は公知であるが、モノクローナル抗体の場合は本発明と比べて約1000倍ぐらいのコストがかかり点眼液としては実用化できなかった。
図3に示すように我々の作成した抗体の点眼によるAdの中和はベストである。安価に作成できるAdウイルスの抗体は結膜炎の治療かつ予防に高い実用的な効果を有する。
【0030】
アデノウイルスには51以上の血清型及び100以上の遺伝子型があり多くの種類がある。呼吸型感染症はAd3,7型である。プール熱と言われる咽頭結膜炎は、主として3型を中心として4,5,7,8,19,37型で発症する。夏期に起こす流行性角結膜炎も3,8,19,37,54型に多くがある。19,37型は性行為により感染し、尿道炎や子宮頸管炎を起こす。
【0031】
アデノウイルス流行性角結膜炎の8割程が3,4,8,19/64,37,53,54,56型であり我々の発見した動物由来抗体を8種類混合すれば85%以上のウイルス性結膜炎の悪化を防ぐ重要な発見である(
図4、非特許文献2)。アデノウイルス由来結膜炎は結膜炎で最も多く小児等ではインフルエンザに次ぐ大規模な発現であり、その点では治療薬及び予防薬としての必要性が大きい。
【0032】
国内では上記アデノウイルス3,4,8,19/64,37,53,54,56で85%以上のヒトのアデノウイルスの感染予防ができる。
【0033】
本明細書で引用したすべての刊行物、特許及び特許出願は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
【要約】
アデノウイルス結膜炎に対して有効な医薬組成物を提供すること。
抗アデノウイルスポリクローナル抗体を含有するアデノウイルス結膜炎に対する医薬組成物。前記医薬組成物が点眼剤である。前記医薬組成物がアデノウイルス結膜炎の治療用である。前記医薬組成物がアデノウイルス結膜炎の感染していない側の目の予防用である。