特許第6816334号(P6816334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6816334-スポット溶接用電極の研磨方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816334
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】スポット溶接用電極の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   B23K11/30 350
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-67799(P2017-67799)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167303(P2018-167303A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 信浩
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−125361(JP,A)
【文献】 特開2006−341271(JP,A)
【文献】 特開2004−74237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ガンの先端に設けられた一対の電極によりカッターが装着されたカッターホルダを押し付けて挟みながら当該カッターホルダを回転させて行う、スポット溶接用電極の研磨方法であって、
上記カッターホルダを正転方向に回転させて電極先端を切削しながらモータの駆動状態に基づいて上記カッターホルダにおける切削屑の詰まりの有無を判定する工程を行い、
上記切削屑の詰まりの有無を判定する工程において切削屑が有ると判定される場合、上記モータを上記正転方向とは反対の逆転方向に回転させ、且つ上記一対の電極を上記カッターから離間させる切削屑除去工程を行う、スポット溶接用電極の研磨方法。
【請求項2】
上記切削屑除去工程の後に、上記切削屑の詰まりの有無を判定する工程を再度行う、請求項1に記載のスポット溶接用電極の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接用電極の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接に用いられる電極は、溶接作業時に高温状態で加圧力がかかるとともに大電流が流れるため、使用するうちに先端が摩耗して平坦部分が形成されたり、溶接対象物の金属成分が付着したりする。この状態のまま溶接作業を続けると、電流密度が低下して所定のジュール熱を得ることができなくなり、溶接不良を引き起こす。このような電極の劣化による溶接不良を防ぐため、電極の先端部を所定の曲面形状に戻すべく、一定周期毎に電極先端を切削研磨している。
【0003】
電極先端の研磨は、溶接ロボットの近くに配置された研磨装置を使用して行われる。研磨装置は、例えば電極先端部を嵌入可能な凹み部にカッターが装着されたカッターホルダを有する。電極研磨の際には、溶接ガン先端に設けられた一対の電極で上記カッターホルダを押し付けて挟みながら、当該カッターホルダをモータの駆動力によって一定方向に回転させる。
【0004】
電極研磨作業時には、電極先端が削られて切削屑が発生する。ここで、切削屑の多くは適度に分断されながらカッターホルダから排出される。その一方、切削屑が連続してつながる場合やカッターに溶着する場合もある。このような場合、カッターホルダの凹み部に切削屑が滞留し、切削屑の排出が阻害されて当該切削屑が詰まり、電極の研磨が適切に行われなくなる。このような事態を未然に防ぐために、電極研磨作業時において、カッターホルダを、電極切削方向である正転方向およびそれと反対の逆転方向に正逆回転させる技術が開示されている(例えば特許文献1を参照)。同文献においては、電極研磨時にカッターホルダが複数回にわたって正逆転を繰り返す。これにより、カッターホルダの凹み部への切削屑の詰まりについて抑制されることが期待できる。
【0005】
特許文献1において、電極研磨時のカッターホルダは、予め定められたタイムチャートに従って正逆回転を繰り返すように回転制御される。このような電極研磨時の固定条件での正逆転制御では、カッターホルダにおける切削屑の詰まりが必ずしも解消しているとは限らず、切削屑の詰まりが解消していない状態で研磨を継続しても電極先端が適正な形状に仕上がらないおそれがある。その一方、切削屑の詰まりが発生していないのに複数回の正逆転動作を繰り返したのでは電極研磨作業に無駄が生じ、引いては溶接作業全体の作業効率の低下の要因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−287046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、電極研磨作業時の不都合(切削屑の詰まり)を防止するとともに、作業効率の低下を回避するのに適したスポット溶接用電極の研磨方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
本発明によって提供されるスポット溶接用電極の研磨方法は、溶接ガンの先端に設けられた一対の電極によりカッターが装着されたカッターホルダを押し付けて挟みながら当該カッターホルダを回転させて行う、スポット溶接用電極の研磨方法であって、上記カッターホルダを正転方向に回転させて電極先端を切削しながらモータの駆動状態に基づいて上記カッターホルダにおける切削屑の詰まりの有無を判定する工程を行い、上記切削屑の詰まりの有無を判定する工程において切削屑が有ると判定される場合、上記モータを上記正転方向とは反対の逆転方向に回転させ、且つ上記一対の電極を上記カッターから離間させる切削屑除去工程を行うことを特徴としている。
【0010】
好ましくは、上記切削屑除去工程の後に、上記切削屑の詰まりの有無を判定する工程を再度行う。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るスポット溶接用電極の研磨方法を実行するための研磨装置の一例を示す概略斜視図である。
図2】カッターホルダの部分拡大斜視図である。
図3】カッターホルダの拡大縦断面図である。
図4】スポット溶接用電極が搭載された溶接ロボットの一例を示す概略図である。
図5】本発明に係るスポット溶接用電極の研磨方法の一例を示す処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るスポット溶接用電極の研磨方法を実行するための研磨装置の一例を示している。図1に示した研磨装置A1は、ギアケース1の先端部に設けられたカッターホルダ2と、ギアケース1の基端部に取り付けられたモータ3とを備えている。カッターホルダ2は、垂直方向に沿う回転軸線Ox回りに回転可能な状態でギアケース1に支持されている。モータ3は、正転方向および逆転方向に回転駆動可能とされており、例えばサーボモータである。モータ3が回転すると、モータ3の回転駆動力はギアケース1内の動力伝達機構(図示略)を介してカッターホルダ2に伝達される。
【0015】
図2図3に示すように、カッターホルダ2は、スポット溶接用電極としての一対の電極6,6の研磨作業時において、当該一対の電極6,6により挟まれるものである。一対の電極6,6は、主要部が概略円柱状であるとともに、先端部が先細り曲面形状とされている。カッターホルダ2は、これら一対の電極6,6の各先端部が嵌入可能な一対の凹み部21を有する。一対の凹み部21は、一方が上方を向き、かつ他方が下方を向いており、各々、電極6の先端部に対応する凹曲面形状とされており、研磨の際のガイドとして機能する。
【0016】
カッターホルダ2には、電極6の先端を切削研磨するためのカッター22が装着されている。本実施形態において、2枚のカッター22が固定されている。カッター22は、電極6の先端形状に対応する概略円弧形状の刃部22aを有する。刃部22aは、凹み部21の表面よりも僅かに突出している。
【0017】
また、本実施形態において、カッターホルダ2には切欠き溝23が形成されている。切欠き溝23は、切削屑を半径方向外方へ排出するためのものであり、凹み部21の一部が掘り下げられた形状とされている。切欠き溝23は、各カッター22に隣接するように設けられている。切欠き溝23は、カッター22に対して、電極6を切削する時のカッターホルダ2の回転方向(図2中の矢印N1が向く方向であり、以下、適宜「正転方向」という)の前方に隣接する位置にある。
【0018】
スポット溶接用電極(一対の電極6,6)は、例えば溶接ロボットに搭載されている。図4は、スポット溶接用電極が搭載された溶接ロボットの一例を示す概略図である。溶接ロボットB1は、複数のアーム部41が互いに所定の回動軸回りに回動可能に連結された可動アーム4を有し、この可動アーム4の先端に溶接ガン5が支持されている。スポット溶接用電極(一対の電極6,6)は、溶接ガン5の先端に対向するように配されている。
【0019】
一対の電極6,6について、下方に位置するものは溶接ガン5先端に固定された固定電極であり、上方に位置するものは、サーボモータ7により固定電極に対して近接ないし離反するように相対移動可能とされた可動電極である。
【0020】
溶接作業時において、一対の電極6,6により溶接対象物(ワーク)を所定の加圧力で挟みつつ一対の電極6,6間に所定値の溶接電流が流れる。なお、一対の電極6,6の内部には、当該電極6の過熱を防止するための冷却水用の流路(図示略)が形成されており、溶接作業時には当該流路に冷却水が流される。
【0021】
溶接ロボットB1の駆動制御は、図示しないロボット制御盤により行う。当該ロボット制御盤は、研磨装置A1の駆動制御も行う。例えば溶接作業時には、ロボット制御盤から溶接ロボットB1へ制御信号が出力されつつ、各種センサ等による検出信号がロボット制御盤に入力される。また、研磨作業時には、ロボット制御盤から溶接ロボットB1や研磨装置A1へ制御信号が出力されつつ、各種検出信号がロボット制御盤に入力される。
【0022】
研磨装置A1を用いて一対の電極6,6の研磨作業を行う際、モータ3の回転数、一対の電極6,6間の距離、一対の電極6,6によるカッターホルダ2に対する加圧力等の研磨条件について可変制御しており、所定のタイムチャートに沿って実行される。また、研磨作業時には、モータ3の駆動状態(例えばトルクや電流等)が検出され、当該検出値情報がロボット制御盤に入力される。なお、一対の電極6の研磨作業時において、各電極6には冷却水が流される。
【0023】
研磨装置A1を用いて行うスポット溶接用電極の研磨作業は、例えば溶接作業時において所定の打点数に到達する毎に実行される。図5は、本発明に係るスポット溶接用電極の研磨方法の一例を示す処理フロー図である。同図に示すように、本実施形態においては、溶接作業時に打点数の判定(S1)を行う。打点数判定において所定の打点数に到達していると判定された場合、所定サイクルの溶接作業を完了させ、そのサイクルの終了後に研磨作業を開始する(S2)。ここで、一対の電極6,6によりカッターホルダ2を挟み、モータ3を正転方向に回転させる。これにより、各電極6の先端が切削研磨される。研磨作業時において、切削屑の詰まりの有無を判定する(S3)。切削屑の詰まりの有無判定は、モータ3の駆動状態の検出値に基づいて行う。ここでの検出値は、例えばモータ3のトルク値や電流値である。研磨作業時に切削屑が切欠き溝23等に詰まると、通常の切削研磨時と比べて切削抵抗に変化が生じる。これにより、モータ3のトルク値や電流値について通常の切削研磨時と比べて減少あるいは増大するといった変化が生じる。そして、トルク値や電流値が所定の閾値の範囲から外れる場合、切削屑の詰まりが有る(NG)と判定される(S3:YES)。なお、本実施形態では、溶接作業時における打点数に基づいて溶接作業から研磨作業に移行する場合について説明したが、研磨作業へ移行する基準としてはこれに限定されない。例えば、溶接対象物(自動車等のワーク)の数量または作業者の指示等に基づいて溶接作業から研磨作業に移行するようにしてもよい。
【0024】
切削屑の詰まりが有ると判定されると(S3:YES)、研磨装置A1は切削屑の除去を行う(S4)。切削屑を除去する際、モータ3を正転方向とは反対の逆転方向に回転させ、一対の電極6,6をカッター22から離間させる。ここで、モータ3を逆転方向に回転させると、カッターホルダ2は、図2で示した正転方向(矢印N1が向く方向)とは反対の逆転方向に回転する。切削屑の詰まりは、切削屑が個片化されずに纏まってカッター22へ溶着する等によって生じ、切削屑が切欠き溝23ないし凹み部21において塊状となる。そこで一対の電極6,6によりカッターホルダ2を加圧したまま当該カッターホルダ2を逆転させると、切削屑の塊がカッター22から引き離される。次いで、カッターホルダ2を逆転させたまま一対の電極6,6をカッター22から離間させる。そうすると、切削屑の塊が切欠き溝23ないし凹み部21から除去される。
【0025】
切削屑の除去時において、カッターホルダ2を逆転させる時間は短時間(例えば0.2sec程度)とされ、カッターホルダ2の逆転時の回転速度は、正転時の回転速度の約60%程度とされる。
【0026】
上記の切削屑の詰まりの有無判定(S3)の処理は、例えば研磨作業を開始してから終了するまで、常時実行する。また、予め設定された研磨時間T(例えば1.2sec程度)のうち研磨開始後所定時間経過した後に実行してもよい。
【0027】
本実施形態において、切削屑の詰まりが有ると判定され(S3:YES)、切削屑の除去(S4)を行った後は、研磨作業を再開するとともに、再度、切削屑の詰まりの有無を判定する(S3)。予め設定された研磨時間Tに対し、切削屑の詰まりが有ると判定されるまでの研磨時間をT1(T1<T)とすると、研磨作業の再開後終了までの研磨時間T2については、例えばT2=T−T1とされる。このようにすると、研磨作業の途中で切削屑の除去が行われる場合においても、トータルでの研磨時間に変化はないので、研磨作業の長期化を回避しつつ、電極6の研磨量を適切に確保することができる。なお、研磨作業の再開後終了までの研磨時間T2について、上述とは異なり、T2>T−T1としてもよく、あるいはT2<T−T1としてもよい。
【0028】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0029】
本実施形態のスポット溶接用電極の研磨方法においては、カッターホルダ2を正転方向に回転させて電極6先端を切削しながら、モータ3の駆動状態に基づいてカッターホルダ2における切削屑の詰まりの有無を判定する(S3)。そして、切削屑の詰まりの有無を判定する工程において切削屑が有ると判定されると(S3:YES)、モータ3を正転方向とは反対の逆転方向に回転させ、且つ一対の電極6,6をカッター22から離間させて切削屑を除去する(S4)。このような構成によれば、切削屑の詰まりの有無判定において切削屑が有る(NG)と判定される場合に限り、モータ3を逆転させて切削屑の除去を行う。これにより、例えば、電極研磨時にモータ(カッターホルダ)を固定条件で正逆回転させる場合と比べて、不必要なカッターホルダの逆転操作が省略される。したがって、溶接品質維持に必要な電極6先端の研磨を行いつつ、研磨作業時間を実質的に短縮することができる。
【0030】
本実施形態においては、切削屑の詰まりが有ると判定され(S3:YES)、切削屑の除去(S4)を行った後は、研磨作業を再開するとともに、再度、切削屑の詰まりの有無を判定する(S3)。このような構成によれば、切削屑の除去が適切になされなかった場合であっても、再度切削屑の有無が判定されるので、切削屑が詰まったまま研磨作業を継続するといった不都合を回避することができる。
【0031】
このようなことから理解されるように、本実施形態のスポット溶接用電極の研磨方法によれば、研磨作業時間の短縮により研磨作業を効率よく行うことができ、また、電極6の研磨量が過大となることもない。したがって、電極6の長寿命化を図ることができ、電極交換サイクルを延長することができるので、電極交換作業を含めた溶接作業全体での作業効率の向上を図ることができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は上記した実施形態に限定されるものではない。本発明の各部の具体的な構成は、種々に変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
A1 研磨装置
B1 溶接ロボット
Ox 回転軸線
1 ギアケース
2 カッターホルダ
21 凹み部
22 カッター
22a 刃部
23 切欠き溝
3 モータ
4 可動アーム
41 アーム部
5 溶接ガン
6 電極
7 サーボモータ
図1
図2
図3
図4
図5