【課題を解決するための手段】
【0014】
而して請求項1は、下記式(1)で表されるFe
2VAl基ホイスラー化合物からなる結晶粒を有する母材と、前記結晶粒内に分散したCu相と、からなることを特徴とする。
(Fe
1-aM1
a)
2-x-y(V
1-bM2
b)
1+x(Al
1-cM3
c)
1+y・・・式(1)
但し、M1は
CoまたはNiからなる群から選ばれた1種以上の元素、M2は
Ti、Zr、Cr、Mn、Mo、Wからなる群から選ばれた1種以上の元素、M3は
Si、Ge、Sn、Sbからなる群から選ばれた1種以上の元素で、a≦0.2,b≦0.4,c≦0.4,|x|≦0.2,|y|≦0.2である
(ただし、a,b,cのうち1つは0より大きい)。
【0015】
請求項2のものは、請求項1において、前記Cu相の平均析出間隔が
27〜424nmであることを特徴とする。ここで平均析出間隔とは、選択したCu相についての最近接にあるCu相までの間隔(Cu相の中心同士の距離)を測定し、その値を平均して求めたものである。
【0016】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、Cuの含有量が
1.0〜10質量%であることを特徴とする。
【0017】
一般に熱伝導率κは、電子移動に由来する熱伝導率κeと格子振動の伝播に由来する熱伝導率κphの和で表される。即ち、熱伝導率κ=κe+κphである。
先に述べた電気抵抗率ρと密接に結び付いているのは、このうち電子移動に由来する熱伝導率κeである。従って、電気抵抗率ρの上昇を抑えて熱伝導率κを低下させるには、格子振動の伝播に由来する熱伝導率κphを下げることが効果的であるとの着想の下、本発明者らは、格子振動の伝播を阻害するのに有効な手段を調査するなかで、Fe
2VAl基ホイスラー化合物からなる母材の結晶粒内にCu相を分散析出させることで、熱伝導率κを低下させることが可能であることを突き止めた。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0018】
即ち本発明のホイスラー型鉄系熱電材料は、Fe
2VAl基ホイスラー化合物からなる結晶粒を有する母材と、結晶粒内に分散したCu相と、からなるものである。本発明によれば、電気抵抗率ρの上昇を抑えて熱伝導率κを低下させることができる。この効果は、結晶粒内に分散析出したCu相が、格子振動の伝播を効果的に阻害したことによるものと推測される。そして本発明によれば、従来のホイスラー型鉄系熱電材料に対して、熱電特性としての性能指数ZTを向上させることができる。
【0019】
本発明では、Fe
2VAl基ホイスラー化合物(合金)として以下を対象とする。
(Fe
1-aM1
a)
2−x−y(V
1−bM2
b)
1+x(Al
1−cM3
c)
1+y・・・式(1)
ここでM1はFeを置換する元素で、3d,4d,5d遷移金属元素(Feを除く)から成る群から選ばれた1種以上の元素であり、式中a≦0.2である。
M2はVを置換する元素で、3d,4d,5d遷移金属元素(Vを除く)の群から選ばれた1種以上の元素であり、式中b≦0.4である。
M3はAlを置換する元素で、IIIb(Alを除く),IVb(Cを除く),Vb(Nを除く)族元素から成る群から選ばれた1種以上の元素であり、式中c≦0.4である。
【0020】
これらの元素を置換して下記の式(2)で示される価電子濃度を制御することで、ホイスラー化合物の熱電材料のゼーベック係数を制御することができる。
(価電子濃度)=Σ[(元素のモル分率)×(価電子数)]・・・式(2)
式(1)中添え字のxおよびyは化学量論組成からのずれを示す。ホイスラー化合物はある程度化学量論組成から外れてもその構造を保つことができ、高いゼーベック係数を保つことができる。
本発明に係る熱電材料では、|x|および|y|を増やすことにより材料に軟化および延性を持たせることができ、材料の焼結および成形を容易にすることができる。
但し|x|および|y|が高すぎるとホイスラー構造が不安定になり、ゼーベック係数が低下するので|x|,|y|は何れも0.2以下とする。
【0021】
元素置換によりゼーベック係数の絶対値を大きくできること、電気抵抗率、熱伝導度を抑制できること、特に重元素を添加することで熱伝導率を著しく抑制できることは知られている(例えば特開平2004−253618に開示)。このため原料コストのかからない元素を添加することは、熱電特性の向上に有効である。
【0022】
Fe
2VAlのFeサイトに置換する元素M1としては、上記に示した元素の内Co,Ni,Cuからなる群から選ばれた1以上の元素が好ましい。
これら元素Co,Ni,Cuは何れも周期表でFeよりも右側にある元素で、Feサイトの一部をこれら元素で置換すると合金全体の総価電指数が増加し、キャリアに占める電子の割合が増加してゼーペック係数は負の値を示すようになる。
これらの元素は何れも原材料コストをさほど上げることなく効果的にゼーベック係数を増大させあるいは電気抵抗率若しくは熱伝導率を減少させる作用がある。
【0023】
Vサイトに置換する元素M2としては、上記に示した元素の内Ti,Zr,Ta,Cr,Mn,Mo,Wからなる群から選ばれた何れか1以上の元素であることが望ましい。
このうちTiとZrは周期表でVよりも左側にある元素で、これらでVを部分置換すると総価電子数は減少し、キャリアに占める正孔の割合が増加してゼーベック係数は正の値を示すようになる。またCr,Mn,Mo,WはVよりも右側にある元素で、置換によりゼーべック係数は負の値を示すようになる。
これら置換元素のうちTi,Cr,Mnはいずれも原材料コストを下げ、かつゼーベック係数を増大させあるいは電気抵抗率若しくは熱伝導率を減少させる作用がある。
また、それ以外の元素は原材料コストをさほど上げることなく効果的にゼーベック係数を増大させあるいは電気抵抗率若しくは熱伝導率を減少させる作用がある。
【0024】
Alに置換する元素M3としては、上記に示した元素の内Si,Ga,Ge,Sn,Sbからなる群から選ばれた1以上の元素が望ましい。
このうちSi,Ge,Sn,Sbは電子の割合が増加してゼーベック係数は負の値を示すようになる。
Siは原材料コストを下げ、かつゼーベック係数を増大させあるいは電気抵抗率および熱伝導率を減少させる作用がある。
また、それ以外の元素は原材料コストをさほど上げることなく効果的にゼーベック係数を増大させあるいは電気抵抗率若しくは熱伝導率を減少させる作用がある。
【0025】
Fe
2VAlの化学量論組成では、(価電子濃度)=[(Feのモル分率=0.5)×(Feの価電子数8)+(Vのモル分率=0.25)×(Vの価電子数3)+(Alのモル分率=0.25)×(Alの価電子数5)]=6であり、p型とn型の境界であるためゼーベック係数は低い。
高い熱電特性を得るには価電子濃度が6からわずかに大きい、若しくは小さい必要があるため、Feを置換する元素の量a、Vを置換する元素の量b、Alを置換する元素の量cのうち、少なくとも1つ以上は0より大きいことが好ましく、より好ましくは0.004以上である。
但し価電子濃度が6から大きくずれるとゼーベック係数は低下するため、置換最大量はaが0.2以下、bおよびcが0.4以下であることが必要である。
【0026】
上述のように本発明では、ホイスラー化合物からなる母材の結晶粒内にCu相を分散析出させることで、熱伝導率κを低下させることが可能であるが、その熱伝導率低下の効果は、結晶粒内に析出するCu相の平均析出間隔によっても左右されることが確認された。本発明者らの研究によれば、Cu相の平均析出間隔は10〜500nmの範囲内とすることが望ましい(請求項2)。更に好ましい析出間隔は10〜150nmである。
【0027】
また本発明では、Cuの含有量を0.5〜10質量%とすることが望ましい(請求項3)。Fe
2VAl基ホイスラー化合物においては、Feの一部をCuで置換する場合も考えられるが、Cuの固溶限界は0.5質量%よりも小さいため、Cuの含有量を0.5質量%以上とすれば、Feの一部をCuで置換する系であっても、またCuで置換しない系であっても、確実にCu相を析出させることができる。一方、Cuの含有量が10質量%を超えると粒界に粗大なCu相が析出して、熱伝導率低下の効果が薄れるため、Cu含有量の上限は10%に規定するのが望ましい。