(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光透過性基板、光透過性の構造層、光透過性の第1電極、発光層を含む機能層、および第2電極をこの順に含む有機EL素子であって、前記第2電極は、少なくとも前記光透過性基板の側に複数の凸部を有し、隣接する2つの凸部の頂点間の距離が5μm以下であり、前記複数の凸部のそれぞれは、見かけ上の高さH2a、前記見かけ上の高さH2aの半値高さにおける凸幅W2h、前記見かけ上の高さH2aにおける全凸幅W2wを有し、W2wおよびW2hが
W2h ≦ W2w/2 (式2)
の関係を満たし、H2aが50nmから400nmまでの範囲内であり、W2wが400nmから3000nmまでの範囲内であり、H2a/W2wが1/4から1/10までの範囲内である有機EL素子。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、図面を参照して説明する。本発明は、有機EL素子、ならびにこの有機EL素子を含む照明装置、面状光源および表示装置を包含する。なお、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではない。本発明に対して、当業者の知識に基づいて種々の変更または修正を加えることが可能である。そして、そのような変更または修正が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
(I)有機EL素子
まず、本発明の第1の実施形態の有機EL素子について説明する。
【0019】
本発明の第1の実施形態の有機EL素子は、基板、構造層、第1電極、発光層を含む機能層、および第2電極を少なくとも含む。本実施形態の有機EL素子100の構成例を
図1に示す。本実施形態に係る有機EL素子100は、光透過性基板102、光透過性の構造層104、光透過性の第1電極106、発光層を含む機能層108、および第2電極110を、この順に積層した構造を有する。本発明の有機EL素子は、光透過性基板102の側から光を取り出す、ボトムエミッション構造を有する。
【0020】
本発明の有機EL素子は構造層104を有する。構造層104は、
図2に示すように、第1電極106側の面に、第1電極の方向に向けて複数の凹部202を有する。また、構造層104は、複数の凹部202の隣接した凹部の間の山の部分(以下、「山部」と称する)204を有する。凹部202および山部204は、構造層104の上に積層される第1電極106、機能層108および第2電極110へ、それぞれの形状が転写される。構造層104から第2電極110に転写された山部および谷状部分の形状は、第2電極110の基板側の面およびその反対側の面の両方で維持されうる。また、構造層104の形状が第2電極110で維持される限り、第2電極110の山部および谷状部分の形状は、第2電極110の光透過性基板102側の面にのみ形成されてもよい。ここで、構造層の凹部202の形状は、第2電極110の光透過性基板102側の面上では、凸部(山の部分)206に転写され、構造層104の山部204の形状は、第2電極110上では谷部208に転写される。このような凹部202および山部204の形状が転写された第2電極110は、
図2に示すように、機能層108で発光された光210を効率よく基板側への光212として取り出すことを可能にする。
【0021】
本発明における構造層104の凹部202の具体的形状および凹部形状の条件など、ならびに、第2電極110の凸部206の具体的形状および凸部形状の条件は、後述する「構造層」のセクション、および「第2電極」のセクションで詳述する。
【0022】
第1電極106は、光透過性を有し、陽極となる電極である。機能層108は発光層を含む。第2電極110は、第1電極106の対極となる電極であり、陰極となるものである。
【0023】
本明細書において、光透過性とは、光に対して透明である性質(透光性)を意味する。本発明で用いる光透過性の材料は、好ましくは、紫外領域から赤外領域までの光に対して透明である。具体的には、光透過性の材料は、350nmから800nmまでの波長領域において、50%以上の平均透過率を有することが好ましい。より好ましくは、光透過性の材料は、350nmから800nmまでの波長領域において、80%以上の平均透過率を有する。
【0024】
図3に示すように、本発明の有機EL素子の別の構成例は、光透過性基板102の構造層104とは反対側の表面に、レンズ層302と光透過性層304とを含む光取出しレンズ層310をさらに含んでもよい。
【0025】
図4に示すように、本発明の有機EL素子のさらに別の構成例は、光透過性基板102、バリア層402、構造層104、第1電極106、機能層108、および第2電極110を含むことができる。バリア層402は、構造層104、第1電極106、機能層108および第2電極110にとって有害な水分などの侵入を防止するための層である。このため、バリア層402は、光透過性基板102と構造層104との間に設けることが好ましい。また、この構成例は、
図4に示すように、光取出しレンズ層310をさらに含んでもよい。
【0026】
本明細書において、光透過性基板102、構造層104および第1電極106を少なくとも含む部分を「光取り出し基板120」とも称する。また、本めいさいしょにおいて、任意構成要素である光取出しレンズ層310およびバリア層402を光取出し基板120に含めることができる。
【0027】
次に、有機EL素子100を構成する各部について詳細に説明する。
【0028】
[光透過性基板]
光透過性基板102は、所定の光(好ましくは可視領域の光)を透過する板状部材である。その材料は、ガラス、プラスチックなどの従来から有機EL素子に利用されているものであれば特に限定されない。光透過性基板102は、ガラス板、ポリマーから構成される基板、樹脂フィルムなどであることが好ましい。
【0029】
ガラス板の例は、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを含む。
【0030】
光透過性基板102を構成するポリマーは、たとえば、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフィド、ポリスルホンなどを含む。
【0031】
樹脂フィルムの材料は、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン;セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースニトレートなどのセルロースエステル類またはそれらの誘導体;ポリ塩化ビニリデン;ポリビニルアルコール;ポリエチレンビニルアルコール;シンジオタクティックポリスチレン;ポリカーボネート;ポリエーテルケトン;ポリイミド;ポリエーテルスルホン(PES);ポリフェニレンスルフィド;ポリスルホン類;ポリエーテルイミド;ポリエーテルケトンイミド;ナイロンなどのポリアミド;フッ素樹脂;ポリメチルメタクリレート;アクリルあるいはポリアリレート類;ノルボルネン樹脂などのシクロオレフィン系樹脂等を含む。
【0032】
本発明の有機EL素子において、光透過性基板102として樹脂フィルムを用いる場合、この樹脂フィルムの表面に、以下で説明するバリア層がすでに設けられている、バリア層付き樹脂フィルムを用いることもできる。
【0033】
[バリア層]
バリア層402は、本発明の有機EL素子の任意選択的な構成要素である。バリア層は、無機物または有機物の被膜、またはその両者を含むハイブリッド被膜であってもよい。バリア層は、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定される水蒸気透過度(25±0.5℃、90±2%RH)が0.01g/(m
2・24h)以下であるバリア特性を有することが好ましい。さらに、バリア層402は、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定される、1.0×10
-3cm
3/(m
2・24h・atm)以下の酸素透過度、および1.0×10
-3g/(m
2・24h)以下の水蒸気透過度を有することが好ましい。より好ましくは、バリア層402は、1.0×10
-5g/(m
2・24h)以下の水蒸気透過度を有する。
【0034】
バリア層402の材料は、有機EL素子100の劣化をもたらす水分や酸素などの浸入を抑制する機能を有することが望ましい。たとえば、バリア層402の材料は、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを含んでもよい。なお、無機材料で構成されるバリア層402は脆弱である場合がある。この脆弱性を改良するために、バリア層402を上記の無機材料からなる無機層と、有機材料からなる有機層を積層させた積層構造とすることがより好ましい。無機層および有機層の積層順は特に制限はない。バリア層402は、好ましくは、無機層と有機層とを交互に積層させた積層構造を有する。
【0035】
バリア層402の形成方法は特に限定はない。本技術分野で通常利用されている手段を用いてバリア層402を形成することができる。たとえば、真空蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いて、バリア層402を形成することができる。
【0036】
[構造層]
構造層104は、第1電極106側の面に、第1電極106の方向に向けて複数の凹部202を有する(たとえば、
図2参照)。また、複数の凹部202の隣接した凹部の間には、山部204が存在する。凹部202および山部204は、構造層104の上に積層される第1電極106、機能層108および第2電極110へ、それぞれの形状が転写され、それぞれの層においてその形状が維持される。
【0037】
構造層104に設けられる凹部202は、以下に
図5〜
図7を用いて説明する所定の条件を満たすことが必要である。
【0038】
構造層104において、隣接する凹部202の底点間の距離が所定の範囲内にあることが望まれる。
【0039】
図5は、複数の凹部202が形成された構造層104を示す。隣接する凹部202の底点間の距離は、5μm以下が好ましい。さらに好ましくは、隣接する凹部202の底点間の距離は3μm以下である。前述の範囲内の底点間距離を設定することにより、構造層104の凹部202から第2電極110へ転写された凸部が、機能層108で発した光を効率よく光透過性基板102側に反射することができる形状となる。具体的には、
図5の「A」で表される凹部の底点と、隣接する「B」、「C」、「D」、「H」で表される凹部の底点との距離が上記範囲内にあるか、あるいは、
図5の「A」で表される凹部の底点と、隣接する「E」、「F」、「G」、「I」で表される凸部の底点との距離が上記範囲内にあることが望ましい。
【0040】
次に、
図6および
図7を参照し、構造層104に設けられた複数の凹部502の間の関係を説明する。
【0041】
図6は、
図5と同様の凹部502を有する構造層104を示す。複数の凹部の底点702、704、706、708、および709を通り、構造層104に垂直である平面602を考える。
図7は、平面602で示す断面において、凹部502a(底点702を有するもの)と、これに隣接する2つの凹部502b(底点704を有するもの)および502c(底点706を有するもの)の断面形状を示したものである。
【0042】
ここで、1つの凹部に着目する(以下の説明では、
図7の凹部502aとする)。
図7に示すように、凹部502aは、構造層104の底辺104aからその底点702までの高さH
10を有する。凹部502aと、凹部502bとの間の山部770は、構造層104の底辺104aからその頂点710までの高さH
11を有する。また、凹部502aと、凹部502cの間の山部772は、構造層104の底辺104aからその頂点712までの高さH
12を有する。
【0043】
次に、上記2つの山部770の高さH
11と、山部772の高さH
12とを比較して、小さい方をとり、山部の高さH
1aとする。この山部の高さH
1aから、凹部502aの底点702までの高さH
10を引き、この値を、凹部502aの見かけ上の深さD
1aとする。次に、この凹部502aの見かけ上の深さD
1aの二分の一の位置を凹部502aの半値高さ764とする。
【0044】
山部の半値高さ764の位置における凹部502aの幅を、凹幅W
1hと定義する。次に、山部の高さH
1aと同じ高さの、山部772の斜面部の位置を780とする。そして、山部770の頂点710と山部772の位置780との距離を、凹部の全凹幅W
1wと定義する。
【0045】
本発明では、上記凹幅W
1hが、全凹幅W
1wを2で割った値以下であることが望ましい。即ち、以下の式を満たすことが望まれる。
【0047】
上記の式の必要な値は、走査型プローブ顕微鏡(たとえば、株式会社日立ハイテクサイエンス製AFM5400)などを使用して、構造層の凹部および山部の所望の領域を2次元で観察することによって得ることができる。本発明では、凹部および山部の10箇所について画像を測定した後、画像中の任意の凹部と、この凹部に隣接する凹部との間の山部を1点の間隔として10点以上の間隔を用いて、その平均を求めた。
【0048】
上述の(式1)を満たす領域であるならば、その領域が、構造層104で周期的に配列していてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。上述の(式1)を満たす領域は、構造層の全領域の50%〜100%、好ましくは80%〜100%の範囲である。本発明では、規則的に凹部が配列した構造層104がより好ましく、規則的な凹部が構造層104全体に配列したものが最も好ましい。
【0049】
構造層104は、光透過性を有する。構造層104の凹部の形状は、第2電極110へ転写された形状が、機能層108から発せられた光を効率よく光透過性基板102側へ反射するものであれば特に限定されない。
【0050】
具体的には、たとえば、凹部の例は、
図8(a)〜(c)に示すような凹部の頂辺が四角形である四角錐形状の凹部502を含む。
図8(a)は四角錐形状の凹部502を有する構造層104の概略を示す斜視図であり、
図8(b)は構造層104を鳥瞰する上面図であり、
図8(c)は、
図8(b)の切断線VIIIc−VIIIcに沿った構造層104の断面図である。
【0051】
本発明では、凹部502は、
図8に示すように規則的な配列を有することが好ましいが、第2電極110へ転写された配列が、機能層108から発せられた光を効率よく光透過性基板102側へ反射するものであれば特に限定されない。たとえば、
図8(b)の点線で囲んだ領域810、812のように、規則的な配列を有する領域が、構造層の全面の一部に存在するような配列を有していてもよい。
【0052】
本発明の構造層104の凹部の形状について図面を参照して説明したが、本発明はこのような形状に限定されない。構造層104の凹部は、
図8に示す四角錐形状ではなく、三角錐形状、五角錐形状、六角錐形状などの多角錐の形状を有してもよい。本発明では、特に円形に近い底面形状を有するものが好ましい。
【0053】
また、構造層104の凹部の見かけ上の深さD
1a(
図7参照)は、50nm以上400nm以下であることが好ましい。複数の凹部の見かけ上の深さD
1aが50nmより低い場合は、構造層104の形状が転写される第2電極110の凸部の見かけ上の高さH
2aが低くなるため、表面プラズモン共鳴の効果が得られない。複数の凹部の見かけ上の深さD
1aが400nmより高い場合は、凹部の見かけ上の深さD
1aが機能層108に含まれる発光層などの層の膜厚を大きく超え、層の均一性が著しく低下する。その結果、発光むら、ショート(短絡)などによる発光不良が発生する。
【0054】
構造層104の1つの凹部に隣接する2つの山部の頂点の高さ差(たとえば、山部770の高さH
11と、山部772の高さH
12との差(
図7参照))は、凹部の見かけ上の深さD
1aの20%以内であることが好ましい。1つの凹部に隣接する2つの山部の高さ差が、凹部の見かけの高さの20%を超えると、山部の高さの均一性が低下し、機能層108および第2電極110の均一性が低下する。その結果、発光むら、ショートなどによる発光不良が発生する。
【0055】
さらに、構造層104の凹部の全凹幅W
1wは、400nm以上3000nm以下であることが好ましい。全凹幅W
1wが400nmより小さい場合は、構造層104の形状が転写される第2電極110の凸部の全凸幅W
2wが発光波長より小さくなり、表面プラズモン共鳴が不十分なために再放射がされない。その結果、表面プラズモン吸収を低減させる効果が十分に得られない。また、全凹幅W
1wが3000nmより大きい場合は、構造層104の形状が転写される第2電極110の凸部の全凸幅W
2wが発光波長より大き過ぎるため、共鳴せずに吸収される光が増加する。その結果として、表面プラズモン吸収を低減させる効果が十分に得られない。
【0056】
また、本発明では、構造層104の凹部の見かけ上の深さD
1aと凹部の全凸幅W
1wとの比、D
1a/W
1wが、1/4から1/10の範囲であることが好ましい。D
1a/W
1wが、1/4より大きいと、凹部と山部との間の斜面が成膜時に均一にならない。その結果として、発光むら、ショートなどによる発光不良が発生する。D
1a/W
1wが、1/10より小さいと、構造層104の形状が転写される第2電極110の凸部と谷部との間の斜面の傾斜が緩くなり、表面プラズモンの変換により再放射される光の進行方向が素子の横方向に広がり、光透過性基板102を通して取り出される光が減少する。このため、発光効率の向上が図れない。
【0057】
構造層104を構成する材料は光透過性樹脂が好ましい。樹脂は、たとえば、低密度または高密度のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ジメタノオクタヒドロナフタレン共重合体[エチレン−ドモン(DMON)共重合体]、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂等を挙げることができる。
【0058】
構造層104に対して微粒子を添加して、屈折率調整効果、および/または光散乱効果を付与してもよい。このような微粒子は、無機微粒子、有機微粒子またはこれらの組み合わせからなる粒子であってよい。たとえば、有機微粒子は、アクリル系ポリマー、スチレンポリマー、スチレン−アクリルポリマーおよびその架橋体、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ポリウレタン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、これらの共重合体からなる微粒子、またはこれらの組み合わせからなる微粒子を含む。また、無機微粒子は、スメクタイト、カオリナイト、タルクなどの粘土化合物粒子、シリカ、酸化チタン、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化ストロンチウムなどの無機酸化物からなる微粒子、あるいは、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、塩化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、ガラスなどの無機化合物からなる微粒子を含む。
【0059】
〔電極〕
以下、第1電極106および第2電極110について説明する。ここでは、第1電極106が陽極、第2電極110が陰極であるものとして説明する。ただし、本発明は、これらの例に限定されない。
【0060】
(第1電極:陽極)
第1電極106を陽極として用いる場合、第1電極106を形成するための材料には、たとえば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、またはこれらの混合物が好適である。陽極の材料は、たとえば、アンチモン、フッ素などをドープ(添加)した酸化スズ(ATO、FTO)、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケルなどの金属、これらの金属と導電性金属酸化物との混合物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料などを含む。陽極は積層体であってもよい。たとえば、陽極は、上記材料からなる層の積層体であってもよい。本発明では、導電性金属酸化物を用いて陽極を形成すること好ましい。生産性、高導電性、透明性などの点から、ITOを用いて陽極を形成することが特に好ましい。
【0061】
陽極側から発光した光を取り出す場合には、陽極の光透過率を10%より大きくすることが望ましい。また、陽極のシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに、使用する材料にもよるが、陽極は、通常10nm以上1000nm以下の範囲内、好ましくは10nm以上200nm以下の範囲内の膜厚を有する。
【0062】
(第2電極:陰極)
第2電極110には、上述したとおり、構造層104の形状が転写される。構造層104の凹部202および山部204から転写された、第2電極110の凸部206および谷部208の形状は、第2電極110の光透過性基板102側の面および反対側面の両面に形成されうる。また、構造層104の形状が第2電極110で維持される限り、第2電極110の凸部206および谷部208の形状は、第2電極110の基板側の面にのみ形成されてもよい。
【0063】
ここで、
図9および
図10を参照して、第2電極についてさらに詳細に説明する。
図9(a)は凸部902を有する第2電極110の概略を示す斜視図であり、
図9(b)は第2電極110を凸部902の形成された方向(光透過性基板102側)から見た平面図であり、
図9(c)は、
図9(b)の切断線IXc−IXcに沿った第2電極110の断面図である。また、
図10は、
図9(c)の断面図を拡大したものである。なお、
図10の1050の矢印の方向は、光透過性基板102側を示す。
【0064】
図9に示されるように、構造層104の凹部202の形状は、第2電極110の基板面側の面上では、凸部902に転写され、構造層104の山部は、第2電極110上では谷部904に転写される。
【0065】
第2電極110において、隣接する2つの凸部902は、以下に説明するような所定の距離の範囲内で設けられることが必要である。以下の説明では、第2電極110は、
図9に示すように、正方形の形状の底面を有する凸部902を有するものとする。本発明では、たとえば、
図9(a)の「A」で表される凸部の頂点と、隣接する「B」、「C」、「D」、「H」で表される凸部の頂点との距離か、あるいは、
図9(a)の「A」で表される凸部の頂点と、隣接する「E」、「F」、「G」、「I」で表される凸部の頂点との距離が5μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、凸部902の隣接する2つの頂点の距離は3μm以下であることが望まれる。このような間隔よりも大きな距離であると、第2電極110の凸部902の形状が、機能層108で発した光を効率よく光透過性基板102側に反射することができなくなる。
【0066】
図9(b)に示すように、第2電極110の複数の凸部902の頂点を通る切断線IXc−IXcを含む垂直面で第2電極110を切断した断面を考える。
図9(c)は、このような断面を表したものであり、
図10は、
図9(c)を拡大したものである。
図10では、凸部902aと、これに隣接する2つの凸部902bおよび902cの断面形状を示した。
【0067】
ここで、1つの凸部に着目する(以下の説明では、
図10の凸部902aとする)。
図10に示すように、この凸部902aは、2つの谷部904aおよび904bに隣接する。この谷部904aの底点1010から凸部902aの頂点1080までの距離を、高さH
21とする。同様に、904bの底点1012から、凸部902aの頂点1080までの距離を、高さH
22とする。高さH
21と高さH
22とのより小さい方を、凸部902aの見かけの高さH
2aとする。次に、この凸部902aの見かけの高さH
2aの二分の一の位置を凸部902aの半値高さ1068とする。
【0068】
凸部の半値高さ1068の位置における凸部902aの幅を、凸幅W
2hと定義する。次に、谷部904b(高さ1060の定義に用いなかった谷部)の凸部902a側の斜面における凸部902aの見かけの高さH
2aの位置(頂点1080からの高さが高さH
2aに等しい位置)1070とする。位置1070と、谷部904aの底点1010(H
2aを定義する底点)との間の距離を、全凸幅W
2wと定義する。
【0069】
本発明では、第2電極110の凸幅W
2hと全凸幅W
2wの間には以下の(式2)の関係を満たすことが必要である。
【0071】
上記の式の必要な値は、たとえば、集束イオンビーム加工(FIB)加工法により、第2電極上の任意の箇所における光の放射方向への断面を露出させ、走査電子顕微鏡分析により第2電極110の凸部902および谷部904を観察することによって得ることができる。FIB加工には、たとえば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製NB−5000などの装置を用いることができる。また、走査電子顕微鏡分析には、株式会社日立ハイテクノロジーズ製S−5500などの装置を用いることができる。本発明では、凸部902および谷部904の10箇所について画像を測定した後、画像中の任意の凸部902と、この凸部902に隣接する2つの谷部904を1点の間隔として10点以上の間隔を用いて、その平均を求めた。
【0072】
上述の(式2)を満たす領域であるならば、その領域が、第2電極110で周期的に配列していてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。上述の(式2)を満たす領域は、第2電極110の全領域の50%〜100%、好ましくは80%〜100%の範囲である。本発明では、規則的に凸部が配列した第2電極110がより好ましい。最も好ましくは、規則的な凸部が第2電極110全体に配列される。
【0073】
具体的には、たとえば、第2電極110の凸部は、
図9(a)〜(c)に示す四角錐形状の凸部902を含む。
図9(a)は凸部902を有する第2電極110の概略を示す斜視図であり、
図9(b)は第2電極110を俯瞰する下面図であり、
図9(c)は、
図9(b)の切断線IXc−IXcに沿った第2電極110の断面図である。
【0074】
本発明では、凸部902は、
図9に示すように規則的な配列を有することが好ましいが、機能層108から発せられた光を効率よく光透過性基板102側へ反射するものであれば特に限定されない。たとえば、
図9(b)の点線で囲んだ領域918、920のように、規則的な配列を有する領域が、構造層の全面の一部に存在するような配列を有していてもよい。
【0075】
本発明の第2電極110の凸部の形状について図面を参照して説明したが、本発明はこのような形状に限定されない。上述した
図9のような第2電極110の凸部が四角錐形状ではなく、三角錐形状、五角錐形状、六角錐形状などの多角錐の形状を有するものであってもよい。本発明では、特に円形に近い形状を有するものが好ましい。
【0076】
本発明では、第2電極110の表面上の微細構造は、上述した構造層104の形状を転写したものである。従って、第2電極110の凸部および谷部の形状は、構造層104によって決定される。よって、上記(式1)の条件が満たされれば、(式2)の条件も満たされることになる。
【0077】
(式2)が成立しない場合は、第2電極110の凸部の斜面が構造層104側に膨らんだ形状になる。すなわち、第2電極110の谷部の斜面が底点に向かって急峻になることで、谷部の底点に近い空間が狭くなる。この条件では、機能層108中の発光層を発して第2電極110側に進んできた光の一部が第2電極110の凸部内に多重反射して閉じ込められるので、第2電極110での光の反射が減少する。その結果として、有機EL素子全体としての光の取出し効率が低下する。従って、(式2)が成立しない場合は、光取出し効率の観点から好ましくない。
【0078】
第2電極110の凸部902の見かけ上の高さH
2aは、50nm以上400nm以下であることが好ましい。凸部902の見かけ上の高さH
2aが50nmより低い場合は、凸部の見かけ上の高さH
2aが低いため、表面プラズモン共鳴の効果が得られない。凸部の見かけ上の高さH
2aが400nmより高い場合は、形状の転写元である構造層104の凹部の見かけ上の深さD
1aが機能層に含まれる発光層などの層の膜厚を大きく超え、層の均一性が著しく低下する。その結果として、発光むら、ショートなどによる発光不良が発生する。
【0079】
さらに、第2電極110の全凸幅W
2wは、400nm以上3000nm以下であることが好ましい。全凸幅W
2wが400nmより小さい場合は、全凸幅W
2wが発光波長より小さくなり、共鳴が不十分なために再放射がされない。その結果、表面プラズモン吸収を低減させる効果が十分に得られない。また、全凸幅W
2wが3000nmより大きい場合は、全凸幅W
2wが発光波長より大き過ぎるため、共鳴せずに吸収される光が増加する。その結果として、表面プラズモン吸収を低減させる効果が十分に得られない。
【0080】
また、本発明では、凸部の見かけ上の高さH
2aと全凸幅W
2wとの比、H
2a/W
2wが、1/4から1/10の範囲であることが好ましい。H
2a/W
2wが1/4より大きいと、谷部の斜面が成膜時に均一にならない。その結果として、発光むら、ショートなどによる発光不良が発生する。H
2a/W
2wが1/10より小さいと、谷部の斜面の傾斜が緩くなり、表面プラズモンの変換により再放射される光の進行方向が素子の横方向に広がり、光透過性基板102を通して取り出される光が減少する。このため、発光効率の向上が図れない。
【0081】
本発明では、第2電極110の下面の微細形状が表面プラズモン吸収を抑制する。また、機能層108の発光層から発した光の一部は第2電極110で光透過性基板102側へ反射され、有効に取り出すことができる。なお、本明細書において、第2電極110での光の「反射」とは、第2電極110の下面の微細形状が表面プラズモンを変換して、光透過性基板102側へ光を出射すること、および、機能層108の発光層から発した光の一部が第2電極110で光透過性基板102側へ反射されることの両方の意味を包含するものとする。
【0082】
第2電極110を陰極として用いる場合、第2電極110を形成するための材料には、たとえば、仕事関数の小さい金属(「電子注入性金属」と称する)、電気伝導性合金化合物、およびこれらの混合物が好適である。電子注入性金属は、4eV以下の仕事関数を有することが望ましい。用いることができる材料は、たとえば、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al
2O
3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属などを含む。中でも、電子注入性および酸化などに対する耐久性の点から、より好適な陰極の材料は、電子注入性金属と、より大きな仕事関数を有する安定な金属である第二金属との混合物を含む。そのような混合物の例は、たとえば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、およびリチウム/アルミニウム混合物を含む。
【0083】
また、第2電極110のシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。第2電極110は、通常10nm以上5μm以下の範囲内、好ましくは50nm以上200nm以下の範囲内の膜厚を有する。
【0084】
〔機能層〕
機能層108は、第1電極106と第2電極110との間に設けられ、発光層を含む。第1電極106、機能層108および第2電極110は、様々な積層構造をとることができる。
【0085】
以下、具体的に第1電極106、機能層108および第2電極110の積層構造について説明する。一例として、以下の層構成a)〜p)を示す。ここでは、上記の通り、第1電極106が陽極、第2電極110が陰極である。すなわち、陽極と陰極との間の層は全て機能層108である。また、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。なお、機能層108の構成および第1電極106、機能層108および第2電極110の積層構造は、以下の層構成a)〜p)に限定されない。
【0086】
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n)陽極/発光層/電子注入層/陰極
o)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
p)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0087】
以下、機能層108を構成する各層(発光層、注入層、輸送層)について説明する。
【0088】
(発光層)
発光層は、電極、注入層、または輸送層から移動してくる電子と正孔(ホール)とが再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であってもよく、発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0089】
発光層の膜厚の総和は特に制限されない。たとえば、膜厚は、2nm以上5μm以下とすることが好ましく、2nm以上200nm以下とすることがより好ましく、10nm以上20nm以下の範囲とすることが特に好ましい。上記の範囲内の膜厚は、膜の均質性の向上、発光時における不必要な高電圧の印加の防止、および駆動電流に対する発光色の安定性の向上に寄与する。
【0090】
発光層は、青色発光層、緑色発光層および赤色発光層の少なくとも1層である。有機EL素子において、青色発光層は430nm以上480nm以下の発光極大波長を有する単色発光層であり、範囲、緑色発光層は510nm以上550nm以下の発光極大波長を有する単色発光層であり、赤色発光層は600nm以上640nm以下の発光極大波長を有する単色発光層であることが好ましい。
【0091】
また、発光層は、これらの少なくとも3色の発光層(青色発光層、緑色発光層、赤色発光層)を積層して白色発光層とした層であってもよい。さらに、複数の発光層を積層する場合には、発光層間に非発光性の中間層が設けられていてもよい。
【0092】
本発明の有機EL素子の発光層は、白色発光層であることが好ましい。すなわち、本発明の有機EL素子は、有機EL素子の発光層が白色発光層である場合が特に有効である。また、本発明の照明装置、面状光源および表示装置は、白色発光層を含むことが好ましい。したがって、本発明の照明装置、面状光源および表示装置は、発光層が白色発光層である有機EL素子を少なくとも一部に有することが好ましい。
【0093】
発光層は、ホスト化合物と、リン光ドーパント、蛍光ドーパントなどの発光性ドーパント化合物とを含有してもよい。
【0094】
ホスト化合物は、たとえば、カルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物などの基本骨格を有するもの、または、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体などを含む。
【0095】
発光性ドーパント化合物は、たとえば、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体を含む。
【0096】
(注入層:正孔注入層、電子注入層)
注入層は、駆動電圧の低下、発光輝度向上などのために、必要に応じて電極と発光層との間に設けられる層である。注入層は、正孔注入層(陽極バッファー層)と、電子注入層(陰極バッファー層)とを含む。
【0097】
正孔注入層は、上述したように、陽極と発光層との間に設けられる(たとえば、上記の層構成b)、c)、d)、e))か、または陽極と正孔輸送層との間(たとえば、上記の層構成j)、k)、l)、m))に設けられる。
【0098】
また、電子注入層は、陰極と発光層との間に設けられる(たとえば、層構成(c)、g)、k)、n))か、または陰極と電子輸送層との間(たとえば、層構成e)、i)、m)、p))に設けられる。
【0099】
正孔注入層を形成するための材料は、たとえば、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン、酸化バナジウムに代表される酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)、ポリチオフェンなどの導電性高分子などを含む。
【0100】
電子注入層を形成するための材料は、たとえば、ストロンチウムおよびアルミニウムに代表される金属、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される酸化物などを含む。
【0101】
正孔注入層および電子注入層は、ごく薄い膜であることが望ましい。用いる材料にもよるが、正孔注入層および電子注入層は、0.1nm以上5μm以下の範囲内の膜厚を有することが好ましい。
【0102】
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられる層である。阻止層は、正孔阻止層と、電子阻止層とを含む。
【0103】
正孔阻止層は、広い意味では電子輸送層の機能を有している。正孔阻止層は、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなる。正孔阻止層は、電子を輸送しつつ正孔の輸送を阻止することで、発光層における電子と正孔の再結合の確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を、必要に応じて正孔阻止層として用いることができる。
【0104】
正孔阻止層は、前述のホスト化合物として挙げたカルバゾール誘導体、またはカルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体などを含有することが好ましい。
【0105】
一方、電子阻止層は、広い意味では正孔輸送層の機能を有している。電子阻止層は、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなる。電子阻止層は、正孔を輸送しつつ電子の輸送を阻止することで、発光層における電子と正孔の再結合の確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を、必要に応じて電子阻止層として用いることができる。
【0106】
正孔阻止層および電子阻止層は、好ましくは3nm以上100nm以下、より好ましくは5nm以上30nm以下の膜厚を有する。
【0107】
(輸送層:正孔輸送層、電子輸送層)
輸送層は、正孔または電子の輸送のために、必要に応じて設けられる層である。輸送層は、正孔輸送層と、電子輸送層とを含む。
【0108】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなる。上述した正孔注入層、電子阻止層は、広い意味で正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は、単層であってもよいし、複数層の積層構造であってもよい。
【0109】
正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送、電子の障壁となる特性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。正孔輸送材料は、たとえば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、および、チオフェンオリゴマーなどの導電性高分子オリゴマーを含む。正孔輸送層は、上述した正孔輸送材料のうちの1種または2種以上の材料を含む。
【0110】
正孔輸送層は、上述した正孔輸送材料を、たとえば、真空蒸着法、LB法などの公知の方法により、薄膜として形成される。正孔輸送層の膜厚に、特に制限はない。正孔輸送層は、通常5nm以上5μm以下、好ましくは5nm以上200nm以下の膜厚を有する。
【0111】
(電子輸送層)
電子輸送層は、電子を輸送する機能を有する電子輸送材料からなる。上述した電子注入層、正孔阻止層は、広い意味で電子輸送層に含まれる。電子輸送層は、単層であってもよいし、複数層の積層構造であってもよい。電子輸送層は、発光層の陰極側に隣接するように設けられる。
【0112】
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。このような機能を有する従来公知の化合物の中から任意のものを選択して、電子輸送材料として用いることができる。電子輸送材料は、たとえば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体などを含む。さらに、オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらに、これらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0113】
また、電子輸送材料は、8−キノリノール誘導体の金属錯体、たとえば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等を含む。また、電子輸送材料は、上記の金属錯体の中心金属をIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置換した金属錯体も含む。加えて、メタルフリーフタロシアニン、メタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されている材料を、電子輸送材料として用いてもよい。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。電子輸送層は、上述した電子輸送材料のうちの1種または2種以上の材料を含む。また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。
【0114】
電子輸送層は、上述した電子輸送材料を、たとえば、真空蒸着法、LB法などの公知の方法により形成される。電子輸送層の膜厚については特に制限はない。電子輸送層は、通常5nm以上5μm以下の範囲内、好ましくは5nm以上200nm以下の範囲内の膜厚を有する。
【0115】
〔光取出しレンズ層〕
任意選択的に、光透過性基板102の構造層104を設ける面とは反対側の面には、光散乱あるいは集光層として光取出しレンズ層310を設けてもよい(
図3および
図4参照)。光取出しレンズ層310は、光透過性を有する光透過性層304と、光透過性層304の表面に設けられたレンズ層302とを備える。レンズ層302は、光透過性層304の表面をマイクロレンズアレイ状に成形したものであってもよい。あるいはまた、いわゆる集光シートをレンズ層302として用いてもよい。このような光取出しレンズ層310によって、特定方向、たとえば、有機EL素子の光取出し方向(
図1の112の方向)に集光して、特定方向の輝度を高めることができる。
【0116】
光取出しレンズ層310を構成する樹脂材料は、たとえば:低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン(ethylene-DMON)共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体、ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン;スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;ポリアクリロニトリル;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂などを含む。
【0117】
光取出しレンズ層310では、上述した樹脂材料に微粒子を添加して、光散乱効果をさらに向上させてもよい。光取出しレンズ層310に含まれる微粒子は、無機微粒子、有機微粒子またはこれらの組み合わせからなる粒子であってよい。
【0118】
光取出しレンズ層310に添加するための有機微粒子は、たとえば、アクリル系ポリマー、スチレンポリマー、スチレン−アクリルポリマーおよびその架橋体、メラミン−ホルマリン縮合物、ポリウレタン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、これらの共重合体からなる微粒子、またはこれらの組み合わせからなる微粒子を含む。また、光取出しレンズ層310に添加するための無機微粒子は:スメクタイト、カオリナイト、タルクなどの粘土化合物粒子;シリカ、酸化チタン、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化ストロンチウムなどの無機酸化物からなる微粒子;あるいは、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、塩化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、ガラスなどの無機化合物からなる微粒子などを含む。
【0119】
〔封止部材〕
有機EL素子100の表示領域は、封止部材によって覆われることが好ましい。たとえば、封止部材と電極および/または支持基板とを接着剤で接着して、表示領域の封止を実施してもよい。
【0120】
封止部材は、有機EL素子100の表示領域を覆うことができる限りにおいて、凹板状でも平板状でもよい。また、封止部材は、透明性、電気絶縁性の有無は特に問われない。
【0121】
封止部材は、たとえば、ガラス板、ポリマー板またはフィルム、あるいは、金属板またはフィルムなどを含む。ガラス板は、特にソーダ石灰ガラス、バリウム−ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどの板を含む。また、ポリマー板は、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフィド、ポリスルホンなどの板を挙げることができる。金属板として、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウムおよびタンタルからなる群から選ばれる1種又は複数種の金属の板、またはそれら金属を含む合金の板を含む。
【0122】
封止に用いられる接着剤は、たとえば:アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーなどの反応性ビニル基を有する光硬化型または熱硬化型接着剤;2−シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型の接着剤;エポキシ系などの熱硬化型または化学硬化型(二液混合)の接着剤;ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンなどのホットメルト型の接着剤;カチオン硬化型の紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤などを含む。
【0123】
なお、有機EL素子100は、熱処理により劣化する場合がある。このため、接着剤は、室温から80℃までの温度範囲で接着硬化できることが好ましい。また、乾燥剤を分散させた接着剤を用いてもよい。封止部分への接着剤の塗布は、市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷により行ってもよい。
【0124】
封止部材と有機EL素子100の表示領域との間隙には、気相または液相の不活性物質を注入することが好ましい。不活性物質は、たとえば、窒素、アルゴンなどの不活性気体、フッ化炭化水素、シリコーンオイルなどの不活性液体を含む。また、封止部材と有機EL素子100の表示領域との間隙を真空とすることも可能である。
【0125】
任意選択的に、封止部材と有機EL素子100の表示領域との間隙に、吸湿性化合物を含む吸湿部材を配置することもできる。吸湿性化合物は、たとえば、金属酸化物(たとえば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(たとえば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(たとえば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(たとえば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)などを含む。これらのうち、硫酸塩、金属ハロゲン化物、および過塩素酸類においては、無水塩が好適に用いられる。
【0126】
<有機EL素子の製造方法>
本発明は、上記有機EL素子の製造方法を包含する。この製造方法は、
(A)光透過性基板102を準備する工程と、
(B)光透過性基板102上に構造層104を形成する工程と、
(C)構造層104上に第1電極106を形成する工程と、
(D)第1電極106上に機能層108を形成する工程と、
(E)機能層108上に第2電極110を形成する工程であって、第2電極110は、少なくとも光透過性基板102の方向に、周囲を谷部で囲まれた複数の凸部を有し、前記凸部の頂点間の距離が5μm以下である工程と
を少なくとも含む
【0127】
工程(A)は、上述したような光透過性基板102から適切なものを選択し、これを必要に応じて、選択した光透過性基板102に対して洗浄および必要な前処理を施す工程である。洗浄および必要な前処理は、有機EL素子の基板で通常行われるものであり、特に制限はない。
【0128】
工程(B)は、複数の凹部を有する構造層104を形成する工程である。工程(A)で準備した光透過性基板102上に、上述した構造層104を構成するための光透過性樹脂を均一に塗布し、この樹脂に、所望の凹部を形成できる凸部形状を有する形状転写基板を押下し、所望の凹部形状を光透過性樹脂に転写する。得られた凹形状を有する光透過性樹脂を光硬化または熱硬化させて構造層104を形成する。このような手順で構造層104を形成できる。なお、形状転写基板は、前述の凹部の条件を満たすように、予め転写される形状を有する。
【0129】
工程(B)は、上記のような転写法以外にも、フォトリソグラフィー法などの従来のパターン形成方法を利用して実施することができる。
【0130】
工程(C)は、陽極として用いる第1電極106を形成する工程である。工程(C)は、第1電極106を構成する材料との適性を考慮して、たとえば、(1)真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などの物理的方式、(2)CVD、プラズマCVD法などの化学的方式などの公知の方法の中から適宜選択される方法によって実施することができる。たとえば、ITOを用いて第1電極106を形成する場合には、工程(C)は、直流スパッタ法、高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などによって実施することができる。
【0131】
なお、工程(C)において、第1電極106を形成する際のパターニングには、フォトリソグラフィー法などによる化学的エッチング、レーザーなどによる物理的エッチングを使用して、第1電極106をパターニングしてもよい。また、マスクを通した真空蒸着法、あるいはマスクを通したスパッタ法などによって、パターン状の第1電極106を形成してもよい。あるいはまた、リフトオフ法、印刷法などを採用して、パターン状の第1電極106を形成してもよい。
【0132】
工程(D)は、発光層を含む機能層108を形成する工程である。上述した機能層108の必要な材料を用いて、真空蒸着法、LB法などの公知の方法により機能層を形成することができる。
【0133】
工程(E)は、陰極として用いる第2電極110を形成する工程である。第2電極110は、真空蒸着、スパッタ法などの公知の方法で上述の材料を堆積させることによって、形成することができる。本工程で形成された第2電極110は、構造層で形成された凹部および山部の構造が転写された、たとえば
図9に示すような微細構造を有するパターンを有する。
【0134】
本発明の製造方法では、上記工程(A)と工程(B)との間に、バリア層を形成する工程をさらに含んでいてもよい。バリア層は、上述したバリア層の材料を、真空蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などの公知の方法により成膜することで得ることができる。
【0135】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、上記工程(E)に続いて、集光レンズ層302および光透過性層304を有する光取出しレンズ層310を形成する工程を含んでいてもよい。光取出しレンズ層310の形成は、従来と同様の方法で行うことができる。
【0136】
本発明の方法では、構造層104は、
図2を参照して説明したように、第1電極106側の面に、第1電極106の方向に向けて複数の凹部202を有するように形成される。また、複数の凹部202の隣接した凹部の間には、山部204が存在する。この凹部202および山部204は、
図9に示すように第2電極110へ、それぞれの形状が転写される。この第2電極の形状は、機能層で発光された光を効率よく反射し、基板側への光として取り出すことを可能にする。
【0137】
本発明は、上記有機EL素子を含む照明装置、面状光源および表示装置を包含する。
【0138】
<照明装置および面状光源>
本発明の有機EL素子は照明装置および面状光源の一部として用いることができる。たとえば光の出射側から、光透過性基板、陽極、機能層、陰極、吸湿部材および封止部材を含む照明装置であれば、光透過性基板から陰極までの部分に、本発明の有機EL素子を使用できる。より具体的には、本発明の照明装置の例は、たとえば、
図11に示すように、光の出射側から、光透過性基板102、構造層104、第1電極(陽極)106、機能層108、第2電極(陰極)110、吸湿部材(デシカント)1202および封止部材1204を含む。本発明の上記有機EL素子100は、光透過性基板102から第2電極110までの構成に対応する。また、面状光源も、照明装置と同様の構成とすることができる。このような照明装置および面状光源の製造は、上記有機EL素子の製造に従って行うことができる。
【0139】
<表示装置>
本発明の有機EL素子は、カラーディスプレイなどの表示装置の一部に使用することができる。たとえば、装置の表示側から、カラーフィルターガラス基板(ガラス基板およびカラーフィルター層を含む)、保護層、陽極、白色有機EL発光層を含む有機層および陰極を含む表示装置を挙げることができる。本発明の表示装置では、陰極部は、シリコン駆動基板などの駆動部分を含んでいてもよい。
【0140】
より具体的には、
図12に示すように、本発明の表示装置は、光取出し方向から、光透過性基板102、カラーフィルター層(たとえば、RGBカラーフィルター層など)1302、バリア層402、構造層104、第1電極(陽極)106、機能層108、第2電極(陰極)110を含む有機ELディスプレイを含むことができる。このような表示素子の製造は、上記有機EL素子の製造に加え、公知の適切な成膜工程(たとえば、カラーフィルター層ではスピンコート法、蒸着法など)を挿入することで行うことができる。
【実施例】
【0141】
上述した実施形態を具体化した実施例を、比較対象としての比較例とともに説明する。以下の実施例では、構造層104の複数の凹部502は、
図8に示すような、光透過性基板102に向かって四角錐形状を有する。複数の凹部502を、その間の山部(即ち凹部の頂辺部分)が格子状になるように周期的に配置した。それぞれの凹部502の間の幅および高さは走査型プローブ顕微鏡を用いて測定した。具体的には、10箇所の凹部502の画像を得た後に、
図7に示すように、画像中の任意の凹部502aと、この凹部502aに隣接する凹部502bおよび502cとの間の山部770および772を1点として、凹部502の間隔の幅および高さを測定した。そして、10点以上の間隔を測定し、その平均値を、構造層における凹部の間隔の幅および高さとした。
【0142】
以下の実施例では、構造層104上の微細構造の値を基に説明するが、本実施例では、構造層104上の微細構造は、その微細構造が反転して、第2電極110の光透過性基板側の面に転写されており、本発明の第2電極110上の微細構造の設定条件を満たしていた。
【0143】
<実施例1>
まず、光透過性基板102、構造層104および光透過性を有する第1電極106がこの順に積層された光取出し基板120を作製した。30mm×40mmの寸法および0.7mmの厚さを有する無アルカリガラス板を洗浄した、光透過性基板102を準備した。
【0144】
スピンコーターを用いて、光透過性基板102上に、UV(紫外線)硬化型アクリル系樹脂(東洋インキ株式会社製 リオデュラスTYT)を塗布し、次いで熱風オーブンの中において100℃で1分間加熱して、膜厚1μmの樹脂層を形成した。続いて、この樹脂層の表面に、微細な凸形状のパターンを有するフィルム板を押し付けた後、UV光(150mJ/cm
2)を照射した。次に、フィルム板を剥離して、樹脂層表面に凹形状のパターンを有する構造層104を得た。構造層104の表面には、凹部の見かけ上の深さD
1aが150nmであり、凹部の全凹幅W
1wが750nmであり、かつ凹幅W
1hが375nmである複数の凹部が形成された。構造層104の表面の形状は、走査型プローブ顕微鏡で確認した。
【0145】
次に、スパッタ法を用いて、構造層104の表面に、膜厚100nmのITO膜を堆積させ、続いてパターニングを行い、光透過性を有する第1電極106(陽極)を形成した。
【0146】
第1電極106の表面に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層をそれぞれ蒸着法で堆積させて、機能層108を形成した。
【0147】
最初に、4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾール)トリフェニルアミンを堆積して、膜厚35nmの正孔輸送層を形成した。続いて、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)錯体をドープした4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾール)トリフェニルアミンの膜厚15nmの層と、トリス[1−フェニルイソキノリン−C2,N]イリジウム(III)錯体をドープした1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼンの膜厚15nmの層とを堆積し、2層構造の発光層を形成した。続いて、1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼンを堆積して、膜厚65nmの電子輸送層を形成した。最後に、フッ化リチウムを堆積して、膜厚1.5nmの電子注入層を形成し、発光層を含む機能層108を得た。
【0148】
続いて、蒸着法を用いて、機能層108の表面に、アルミニウムを堆積して、膜厚50nmの第2電極110を形成し、層構成i)を有する有機EL素子を得た。
【0149】
続いて、PETフィルム(光透過性シートからなる光透過性層304)の一方の表面に、直径5μmの半球形状のマイクロレンズと5μmピッチの頂角89度のクロスプリズム構造とからなる集光レンズ層302を形成し、光取出しレンズ層310を得た。続いて、光透過性層304の他方の表面を、粘着剤を介して光透過性基板102に貼り合わせて、
図3に示す光取出しレンズ層310を有する有機EL素子100を得た。このとき、集光レンズ層302が光取り出し側の最表面である。
【0150】
<実施例2>
凹部の見かけ上の深さD
1aが190nmであり、凹部の全凹幅W
1wが1000nmであり、かつ凹幅W
1hが500nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0151】
<実施例3>
凹部の見かけ上の深さD
1aが380nmであり、凹部の全凹幅W
1wが2000nmであり、かつ凹幅W
1hが1000nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0152】
<実施例4>
凹部の見かけ上の深さD
1aが50nmであり、凹部の全凹幅W
1wが400nmであり、かつ凹幅W
1hが150nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0153】
<実施例5>
凹部の見かけ上の深さD
1aが300nmであり、凹部の全凹幅W
1wが3000nmであり、かつ凹幅W
1hが1000nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0154】
<実施例6>
凹部の見かけ上の深さD
1aが100nmであり、凹部の全凹幅W
1wが400nmであり、かつ凹幅W
1hが180nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0155】
<実施例7>
凸部の見かけ上の深さD
1aが400nmであり、凹部の全凹幅W
1wが2500nmであり、かつ凹幅W
1hが1200nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0156】
<比較例1>
光透過性基板102上に形成した樹脂層の表面に、微細な凸形状のパターンを有するフィルム板を押し付けずにUV光(150mJ/cm
2)を照射して、平坦な上表面を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0157】
<比較例2>
凹部の見かけ上の深さD
1aが150nmであり、凹部の全凹幅W
1wが500nmであり、かつ凹幅W
1hが260nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0158】
<比較例3>
凹部の見かけ上の深さD
1aが90nmであり、凹部の全凹幅W
1wが350nmであり、かつ凹幅W
1hが100nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0159】
<比較例4>
凹部の見かけ上の深さD
1aが30nmであり、凹部の全凹幅W
1wが500nmであり、かつ凹幅W
1hが260nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0160】
<比較例5>
凹部の見かけ上の深さD
1aが500nmであり、凹部の全凹幅W
1wが1000nmであり、かつ凹幅W
1hが400nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0161】
<比較例6>
凹部の見かけ上の深さD
1aが300nmであり、凹部の全凹幅W
1wが4000nmであり、かつ凹幅W
1hが2200nmである凹部を有する構造層104を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子100を得た。
【0162】
<評価>
実施例1〜7および比較例1〜6の有機EL素子について、光の取出し効率の測定を行った。第1表に、実施例1〜7および比較例1〜6の有機EL素子における構造層104の構成の詳細と、光の取出し効率比およびショートの有無の評価の結果を示す。
【0163】
有機EL素子に、直流(DC)電源から電流密度20mA/cm
2の定電流を流し、出射される全放射光を積分球により計測し、その計測結果に基づいて光取出し効率比を求めた。光取出し効率比は、構造層に凹部を持たない比較例1の全放射光の量に対する、実施例1〜7および比較例2〜6の全放射光の量の比である。光取出し効率比が1.6以上の場合を、「◎」と判定し、光取出し効率比が1.5以上1.6未満の場合を、「○」と判定した。また、光取出し効率比が1.1以上1.5未満の場合を「×」と判定した。さらに、光取出し効率比が1.1未満の場合を「××」と判定した。
【0164】
【表1】
【0165】
第1表に示すように、実施例1〜7の有機EL素子は、1.55から1.85の高い光の取出し効率比を有することが確認された。これにより、実施例1から実施例7の有機EL素子では、比較例1の有機EL素子に比べて、光の取出し効率が向上していることが分かった。これは、第2電極110の機能層108側の面に、構造層104の凹部から転写された凸形状の構造が、表面プラズモン吸収を抑制し、かつ、第2電極上の光の反射率を向上させたためと推定される。
【0166】
一方、比較例2の有機EL素子は、1.45の光の取出し効率比は1.45を有し、十分な効果が示さなかった。
これは:
(a)構造層104の全凹幅W
1wに対して凹幅W
1hが大きいために、凹部の斜面が光透過性基板102側に膨らんだ形状となったこと;および
(b)構造層104の全凹幅W
1wに対して凹部の見かけ上の深さD
1aが大きいこと
によると推定される。要因(a)は、第2電極110の凸部を、光透過性基板102側に膨らんだ形状とする。その結果、第2電極110の凸部に隣接する谷部の斜面が谷部の底点に向かって急峻になり、谷部の特に底点付近の空間が狭くなって、第2電極110表面における光の反射率が低下したと推定される。要因(b)は、第2電極110の全凸幅W
2wに対する凸部の見かけ上の高さH
2aを過剰に増大させる。その結果として、機能層108から第2電極110側に進んだ光のうち、第2電極110の谷部の底点付近に進んだ光の反射率が大きく低下したと推定される。
【0167】
比較例3の有機EL素子は、比較例1の有機EL素子よりやや高い、1.23の光の取出し効率比を有するものの、十分な効果を示さなかった。これは、構造層104の全凹幅W
1wが小さく、第2電極110の全凸幅W
2wが小さくなったために、(c)第2電極110表面における表面プラズモンの再変換による光の再放射が十分でないこと;および、(d)第2電極110表面における反射率の低下が起こったことによると推定される。
【0168】
比較例4の有機EL素子は、比較例1の有機EL素子と同等の光の取出し効率比を有し、十分な効果を示さなかった。これは:(a)構造層104の全凹幅W
1wに対して凹幅W
1hが大きいために、凹部の斜面が光透過性基板102側に膨らんだ形状となったこと;および(e)構造層104の凹部の見かけ上の深さD
1aが小さいことによると推定される。要因(e)は、第2電極110の見かけ上の高さH
2aを低下させ、第2電極110表面における表面プラズモンの再変換による光の再放射を不十分にしたと推定される。
【0169】
比較例5の有機EL素子は、比較例1の有機EL素子より低い光の取出し効率比を有し、十分な効果を示さなかった。これは:(f)構造層104の表面の全凹幅W
1wに対して凹部の見かけ上の深さD
1aが大きく、かつ、構造層104の凹部の見かけ上の深さD
1aが機能層108の膜厚よりも著しく大きくなったことに起因すると推定される。要因(f)は、第2電極110の全凸幅W
2wに対する凸部の見かけ上の高さH
2aが過剰に増大した結果として、機能層108から第2電極110側に進んだ光のうち、第2電極110の谷部の底点付近に進んだ光の反射率を大きく低下させたと推定される。さらに、第1電極106上に形成される機能層108の膜厚の均一性に悪影響を及ぼしたと推定される。より具体的には、第2電極110の全凸幅W
2wに対する凸部の見かけ上の高さH
2aが過剰であるために、構造層104の山部が急峻な形状となり、機能層108の膜厚が相対的に減少したと推定される。そして、山部の一部の上方において、第1電極106上の機能層108の膜厚が減少し、第1電極106と第2電極110との間のキャリア(正孔および電子)の移動が、その周辺部よりも局所的に優勢となり、発光に寄与せずに機能層108(具体的には発光層)を通過するキャリアが増大したと推定される。要因(b)および(f)の影響により、比較例5の有機EL素子の光取り出し効率比は、凹凸構造のない第2電極110を有する比較例1の有機EL素子よりも低くなったと推定される。
【0170】
比較例6の有機EL素子は、比較例1の有機EL素子と同等の光の取出し効率比を有し、十分な効果を示さなかった。これは、(g)構造層104の凹部の見かけ上の深さに対して、構造層104の全凹幅W
1wが非常に大きいことによると推定される。要因(g)は、構造層104の凹部形状が転写された第2電極110の凸部を緩やかにし、第2電極110の光透過性基板102側表面を平面に近くする。その結果として、表面プラズモン変換による光の再放射の効果が得られなかったと推定される。
【0171】
以上のように、本発明に係る有機EL素子は、光透過性基板102上に、光透過性を有する構造層104、光透過性を有する第1電極106、発光層を含む機能層108、および、第2電極110をこの順で積層したものである。また、構造層104には、(式1)の関係を有する凹部が設けられる。これにより、向上した光の取出し効率を有する有機EL素子が得られることが分かった。
【0172】
また、本発明を実施例により説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲内で適宜変更または修正することができる。