(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1パラメータの値に基づいて音信号の定位を設定する第1定位設定部、又は、前記第1パラメータとは異なる第2パラメータの値に基づいて音信号の定位を設定する第2定位設定部の何れか一方のパラメータの値を調整する調整手順と、
前記第1パラメータ又は前記第2パラメータの何れか一方の値の調整に応じて、他方の値を変更する制御を行う制御手順であって、前記第1パラメータの値と前記第2パラメータの値を対応付ける対応付け手順を含み、前記対応付けに基づいて、前記変更する制御を行う前記制御手順
を備える方法。
前記対応付け手順は、定位付けされた音信号を聴取者が聴いた場合の両耳の間での時間差及び音量差を計算により求めた値に基づいて、前記対応付けを行うことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の方法。
前記第1パラメータは音量であって、前記第1定位設定部は複数チャンネル間の音量差により定位を設定するものであり、前記第2パラメータは遅延量であり、前記第2定位設定部は複数チャンネル間の時間差により定位を設定するものである請求項1乃至9の何れかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、この発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、この発明に係る音処理装置の構成例を説明する概念的ブロック図である。
図1において、音処理装置10は、第1パラメータの値に基づいて音信号の定位を設定する第1定位設定部11と、前記第1パラメータとは異なる第2パラメータの値に基づいて音信号の定位を設定する第2定位設定部12と、前記第1パラメータ又は前記第2パラメータの何れか一方の値を調整する操作を受け付ける操作部13と、前記第1パラメータ又は前記第2パラメータの何れか一方の値の調整に応じて、他方の値を変更する制御部14を備える。
【0016】
図1の音処理装置10は、例えば、オーディオミキサ等の音信号を扱う音響機器に適用され得る。以下の一実施形態は、一例として、音処理装置10をオーディオミキサ(以下単に「ミキサ」とも言う)に適用した例について説明する。ミキサ20は、専らデジタル信号処理により音信号を処理するデジタルミキサとする。
【0017】
図2は、ミキサ20の電気的ハードウェア構成例を示すブロック図である。ミキサ20は、CPU(中央処理ユニット)21、メモリ22、ディスプレイ23、操作子群24、及び、ミキシング部(図において「MIX」)25を含み、各部21〜25が相互に接続される。
【0018】
CPU21は、メモリ22に記憶された各種のプログラムを実行して、ミキサ20の全体動作を制御する。メモリ22は、CPU21が実行する各種のプログラムや各種のデータなどを不揮発に格納するほか、CPU21が実行するプログラムのロード領域やワーク領域に使用される。
図1の制御部14の動作(後述の
図5や
図9の処理)は、CPU21が実行するプログラムにより提供される。メモリ22は、リードオンリーメモリ、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリあるいはハードディスク等の各種メモリ装置を適宜組み合わせて構成されてよい。
【0019】
ディスプレイ23は、CPU21から与えられた表示制御信号に基づく各種情報を、各種画像や文字列等により表示する。操作子群24は、ミキサ20の操作パネル上に配置された複数の操作子および関連するインターフェース回路等であり、操作子群24には複数のフェーダ操作子や、イコライザやパン調整等に用いる回転式つまみ操作子等が含まれる。ユーザは、操作子群24を用いて、音信号の経路設定や各種パラメータの値の調整等を含む各種操作を行う。CPU21は、ユーザによる操作子群24又はディスプレイ23での入力操作に応じた検出信号を取得して、その検出信号に基づいてミキサ20の動作を制御する。操作子群24が、
図1の操作部13を構成する。
【0020】
ミキシング部25は、例えばDSP(Digital Signal Processor)や、CPU21およびメモリ22に記憶されたソフトウェアにより仮想的に実現された信号処理装置で構成される。ミキシング部25は、信号処理用のプログラムを実行することにより、図示しない入力機器から供給された1又は複数の音信号を処理して、該処理した音信号を、図示しない出力機器へ出力する。
【0021】
図3は、ミキサ20のミキシング部25により実行される信号処理の構成例を示すブロック図である。ミキサ20は、複数のチャンネル30と複数のバス40を有する。各チャンネル30は、入力された音信号に対して、音量調整等を含む各種信号処理を施し、処理された音信号を、ユーザにより選択された1又は複数のバス40に供給する。各バス40は、1又は複数チャンネル30から供給された音信号を混合する。混合された音信号は、各バス40に対応する出力チャンネル(不図示)で処理された後に、メインスピーカやモニタスピーカ等の出力先(不図示)から出力される。ミキサ20のユーザは、操作子群24を用いて、各チャンネル30の各種パラメータの値の調整を行う。CPU21は、操作子群24の操作に応じて、メモリ22に記憶された、各種パラメータの値を変更する。
図3の信号処理は、メモリ22に記憶されたパラメータの値に基づいて制御される。
【0022】
図4は、1つのチャンネル30の構成例を示す。
図4に示す通り、チャンネル30は、音信号に対する定位を設定するための処理モジュールとして、複数チャンネル間の音量差により音信号に定位を付ける音量パン31と、複数チャンネル間の時間差(遅延量)により音信号に定位を付ける遅延パン32とを備えており、選択部33により、音量パン31又は遅延パン32の何れか一方を選択するように構成されている。
【0023】
チャンネル30に入力された音信号は、図示外の特性制御や音量調整を経て、選択部33により選択中の音量パン31又は遅延パン32に供給される。該選択中の音量パン31又は遅延パン32は、パラメータの値に従って、供給された音信号に定位を付与し、定位付けされた音信号をステレオバス41に供給する。ステレオバス41は、2チャンネルステレオ構成のバス(図において「L」、「R」の2本のバス)であり、供給された音信号を2チャンネルのステレオ信号に混合して、混合された音信号を出力する。ステレオバス41は、
図3のバス40に含まれる。
【0024】
音量パン31は、周知の通り、複数チャンネル間で音量差を付けることにより、音量の大きいチャンネル側に定位が偏って聴こえるようにするものである。音量パン31は、ステレオバス41に対応する2チャンネル間の音量差を規定するパラメータの値(以下、音量パン31の値という)に基づいて音信号に定位を付ける。また、遅延パン32は、周知の通り、先行して音の聞こえる側に定位が偏って聴こえるという人間の聴覚の特性(Haas効果、ハース効果、先行音効果)を利用したものである。遅延パン32は、ステレオバス41に対応する2チャンネル間の時間差(遅延量)を規定するパラメータの値(以下、遅延パン32の値という)に基づいて音信号に定位を付ける。このミキサ20は、音量パン31の値と遅延パン32の値とを連動させる(
図3の符号34の矢印)ことに1つの特徴がある。すなわち、この実施例においては、音量パン31が
図1の第1定位設定部11に相当し、音量パン31の値が第1パラメータの値に相当する。また、遅延パン32が
図1の第2定位設定部12に相当し、遅延パン32の値が第2パラメータの値に相当する。
【0025】
なお、周知の通り、音信号の定位とは、2チャンネルステレオ又は多チャンネルサラウンド環境において、聴取者に対する音源の位置(角度)を表す。例えば、定位が中央位置に設定されていれば、聴取者は、音源が中央に位置しているように感じる、すなわち、音信号が中央位置から聞こえるように感じる。また、定位が左側に偏って設定された場合、聴取者は、音源が左側に位置するように感じる、すなわち、音信号が左のほうから聞こえるように感じる。この明細書において「左」、「右」の表現は、2チャンネルステレオの「左」、「右」に対応する。
【0026】
図5は、音量パン31の値又は遅延パン32の値を調整する操作に応じた処理例のフローチャートを示す。CPU21は、ユーザによる或るチャンネル30の音量パン31の値又は遅延パン32の値を調整する操作に応じて、
図5の処理を開始する。値調整操作は、操作子群24に含まれる物理的スイッチやディスプレイ23を用いた指示入力などにより行い得る。
【0027】
音量パン31の値を調整する操作が行われた場合(ステップS1のYES)、CPU21は、その操作に応じて、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の音量パン31の値を変更する(ステップS2)。そして、CPU21は、該音量パン31の値の変更に応じて、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の遅延パン32の値を変更する(ステップS3)。
【0028】
また、遅延パン32の値を調整する操作が行われた場合(ステップS1のNO)、CPU21は、その操作に応じて、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の遅延パン32の値を変更する(ステップS4)。そして、CPU21は、該遅延パン32の値の変更に応じて、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の音量パン31の値を変更する(ステップS5)。
【0029】
一例として、CPU21は、音量パン31の値と遅延パン32の値とを対応付けたデータテーブル(以下、対応付けテーブルと称する)に基づいて、前記ステップS3及び前記ステップS5の処理を行う。例えば、対応付けテーブルはメモリ22に記憶される。この場合、CPU21は、前記ステップS3において、対応付けテーブルに基づいて、前記ステップS2で変更された音量パン31の値に対応する遅延パンの値を取得して、メモリ22に記憶された該チャンネル30の遅延パン32の値を、取得された値に変更する。また、CPU21は、前記ステップS5において、対応付けテーブルに基づいて、前記ステップS4で変更された遅延パン32の値に対応する音量パンの値を取得して、メモリ22に記憶された該チャンネル30の音量パン31の値を、取得された値に変更する。
【0030】
図6は、前記対応付けテーブルの一例を示す。
図6の例では、音量パン31の値と遅延パン32の値とが、互いに共通の分解能(例えば128段階の値)で表されており、各値が共通の定位を表すものとする。例えば、音量パン31の値と遅延パン32の値の最小値「0」が右端、中央値「64」が中央、最大値「128」が左端を表す。この場合、
図6の対応付けテーブルは、音量パン31の各値「0」〜「128」と遅延パン32の各値「0」〜「128」とを直線的に対応付けたものとなる。
【0031】
従って、
図6の対応付けテーブルによれば、音量パン31と遅延パン32とが共通の定位付けを行うように、音量パン31の値と遅延パン32の値とが対応付けられる。例えば、音量パン31の値が中央位置から右側へ30度偏った位置を表す場合、該対応付けテーブルによれば、その音量パン31の値に対応する遅延パン32の値も中央位置から右側へ30度偏った位置を表す値となる。従って、
図6の対応付けテーブルによれば、音量パン31又は遅延パン32の一方の値を調整するだけで、自動的に、音量パン31及び遅延パン32が共通の定位付けを行うように、音量パン31及び遅延パン32の両方の値が設定される。
【0032】
前記
図5のステップS3及びS5により、CPU21は、音量パン31又は遅延パン32の一方の値の変更を、他方の値に反映することができる、すなわち、音量パン31の値と遅延パン32の値とを連動させることができる。従って、音量パン31の設定と遅延パン32の設定とを自動的に対応付ける(関連付ける)ことができる。
【0033】
図7は、定位設定方法を切り替える処理例のフローチャートを示す。CPU21は、ユーザにより、選択中の音量パン31又は遅延パン32を他方に切り替える指示が行われたときに、
図7の処理を開始する。前記指示は、例えば操作子群24に含まれる物理的スイッチやディスプレイ23を用いて音量パン31又は遅延パン32の何れか一方を選択する操作により、行い得る。
【0034】
音量パン31が選択された場合(ステップS6のYES)、CPU21は、音量パン31に音信号を供給するように、当該チャンネル30の選択部33のスイッチを切り替える(ステップS7)。これにより、音量パン31により定位付けされた音信号がステレオバス41に供給され、該音量パン31により定位付けされた音信号を含む混合結果が該ステレオバス41から出力される(ステップS8)。また、遅延パン32が選択された場合(ステップS6のNO)、CPU21は、遅延パン32に音信号を供給するように、当該チャンネル30の選択部33のスイッチを切り替える(ステップS9)。これにより、遅延パン32により定位付けされた音信号がステレオバス41に供給され、該遅延パン32により定位付けされた音信号を含む混合結果が該ステレオバス41から出力される(前記ステップS8)。
【0035】
前述の通り、音量パン31の値と遅延パン32の値とが連動して設定されているので、前記ステップS8において該ステレオバス41から出力される音信号の定位は、前記切り替え前後で対応付けられたもの(例えば切り替え前後で共通の定位)となる。従って、ユーザは、選択部33のスイッチを切り替えるだけで、切り替えた後に定位の設定を再度行う手間をかけることなく、簡単に、音量パン31と遅延パン32とを互換的に使用することが可能となる。例えば、ユーザは、音量パン31と遅延パン32との定位付け結果を聞き比べて、所望の音量パン31又は遅延パン32を選択する、という使い方を簡単に行うことができる。或いは、例えばコンサートにおけるミキサ設定の仕込み(準備)段階では、ユーザが普段使いなれた音量パン31を使って定位を決定し、コンサートの本番ではサービスエリアの広い遅延パン32を使って音信号に定位を付与する、といった使い方を簡単に行うことができる。
【0036】
前記
図5では、値調整操作に応じてリアルタイムで、音量パン31の値と遅延パン32の値との連動処理(ステップS3又はS5)を行う例を示した。変形例として、定位設定方法を切り替える操作に応じて、前記連動処理(ステップS3又はS5)を行うようにしてもよい。その場合、或るチャンネル30にて現在選択中の音量パン31又は遅延パン32の値調整操作があったときは、CPU21は、該選択中の音量パン31又は遅延パン32の値の変更(ステップS2又はS4)のみを行う。そして、定位設定方法を切り替える操作に応じて、CPU21は、メモリ22に記憶された現在選択中の音量パン31又は遅延パン32の値に応じて、メモリ22に記憶された音量パン31又は遅延パン32の他方の値を変更し(前記ステップS3、S5の変形例)、且つ、選択部33のスイッチを切り替える(前記ステップS7,S9)。
【0037】
図8は、別の実施形態に係るチャンネル30の構成例を示す。
図8において、1つのチャンネル30は、音量パン31に対応する第1バス42と、遅延パン32に対応する第2バス43を備える。この構成例の場合、音量パン31と遅延パン32のそれぞれに音信号が供給される。そして、音量パン31により定位付与された音信号が第1バス42へ供給され、また、遅延パン32により定位付与された音信号が第2バス43へ供給される。したがって、音量パン31により定位付与された音信号と、遅延パン32により定位付与された音信号との2つの音信号が個別に出力される。第1バス42と第2バス43は、
図3のバス40に含まれるものである。この場合も、後述の通り、音量パン31の値と遅延パン32の値とが連動する(
図8の符号34の矢印)ようになっている。
【0038】
一例として、第1バス42と第2バス43は、それぞれ用途が異なる、すなわち、音信号の送出先の環境が異なる。例えば、第1バス42は、例えばコンサート会場のステージ上の演奏者モニタ出力用のモニタ出力バスである。また、第2バス43は、例えばコンサート会場の客席向けメイン出力用のステレオバスである。
【0039】
客席向けメイン出力は、モニタ出力に比べてサービスエリアが広い。特にスタジアムのような巨大なコンサート会場では、メイン出力のサービスエリアが極めて広い。これに対して、モニタ出力は、ステージ上のモニタスピーカや、或いは、演奏者のインイヤーモニタ等に使用されるので、前記メイン出力よりもサービスエリアが狭い。音量パン31は、例えば巨大なコンサート会場のような広大なサービスエリアにおいては、左右何れか一方に定位を振り切った場合に音の届かないエリアが生じてしまうことがあり、広大なサービスエリアでの利用に不向きな面がある(言い換えれば、音量パン31の使用によりサービスエリアが狭くなる場合がある)。この点、
図8の構成例では、第1バス42と第2バス43それぞれの用途(モニタ出力用とメイン出力用)に合わせて音量パン31と遅延パン32とを使い分けることができる。したがって、ユーザは、音信号の送出先の環境に合せた適切な定位設定方法を使用できる。
【0040】
図9は、
図8に示すチャンネル構成例において、音量パン31の値又は遅延パン31の値を調整する操作に応じてCPU21が実行する処理を示す。或るチャンネル30の音量パン31の値を調整する操作が行われたとき(ステップS10のYES)、CPU21はその操作に応じて、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の音量パン31の値を変更し(ステップS11)、そして、該変更された音量パン31の値に応じて(例えば前記
図6の対応付けテーブルに基づいて)、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の遅延パン22の値を変更する(ステップS12)。
【0041】
また、或るチャンネル30の遅延パン32の値を調整する操作が行われたとき(ステップS10のNO)、CPU21は、その操作に応じて、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の遅延パン32の値を変更し(ステップS15)、そして、変更された遅延パン32の値に応じて(例えば前記
図6の対応付けテーブルに基づいて)、メモリ22に記憶された当該チャンネル30の音量パン22の値を変更する(ステップS16)。
【0042】
そして、音量パン31により定位付けされた音信号は、第1バス42に供給され、該音量パン31により定位付けされた音信号を含む混合結果が第1バス42から出力される(ステップS13)。また、遅延パン32により定位付けされた音信号は、第2バス43に供給され、該遅延パン32により定位付けされた音信号を含む混合結果が第2バス43から出力される(ステップS14)。
【0043】
従って、前記
図9のステップS12及びS16により、CPU21は、音量パン31又は遅延パン32の一方の値の変更を、他方の値に反映させることができる。すなわち、音量パン31の値と遅延パン32の値とを連動させることができる。これにより、手間をかけず簡単に、音量パン31の設定と遅延パン32の設定とを相互に対応付ける(関連付ける)ことが可能となる。
【0044】
例えば、前記ステップS12及びS16において、
図6の対応付けテーブルに基づいて音量パン31の値と遅延パン32の値とを連動させた場合、ユーザは、音量パン31の値と遅延パン32の値の何れか一方を調整するだけで、第1バス42と第2バス43の何れの音信号の送出先の環境に対しても、手間をかけず簡単に、共通の定位を設定できる。例えば、ミキサ20のユーザは、第1バス42の出力するモニタ出力音を聞きながら音量パン31の値を調整するだけで、第2バス43の出力するメイン出力の定位(遅延パン32の値)も、モニタ出力音の定位と共通の設定にできる。したがって、第1バス42と第2バス43の何れの音信号の送出先の環境においても、ユーザの意図通りの適切な、違和感のない定位の設定を行うことができる。また、第1バス42と第2バス43とで音量パン31と遅延パン32とを使い分ける構成であっても、音量パン31の値と遅延パン32の値の何れか一方を調整するだけで、両方の値を設定できるので、手間がかからない。
【0045】
別の実施形態において、前記ステップS3、S5、S12及びS16において、音量パン31の値と遅延パン32の値とを段階的に対応付けるようにしてもよい。
図10は、音量パン31の値と遅延パン32の値と段階的に対応付けたテーブルの構成例を示す。
図10において、横軸は音量パン31の値を示し、縦軸は遅延パン32の値を示す。音量パン31と遅延パン32は、それぞれ128段階の値(0〜128)で表され、各値が共通の定位を表す。なお、
図10において、遅延パン32の値はミリ秒単位(図において「ms」)で示されている。
図10の対応付けテーブルでは、右チャンネルが10ミリ秒以上遅いことを表す遅延パン32の値に対して音量パン31の値=20を対応付けて、右チャンネルが5〜10ミリ以上遅いことを表す遅延パン32の値に対して音量パン31の値=48を対応付けて、右チャンネルが5ミリ以下〜左チャンネルが5ミリ以下遅いことを表す遅延パン32の値に対して音量パン31の値=64(中央位置)を対応付けて、左チャンネルが5〜10ミリ以上遅いことを表す遅延パン32の値に対して音量パン31の値=80を対応付けて、左チャンネルが10ミリ以上遅いことを表す遅延パン32の値に対して音量パン31の値=108を対応付ける。音量パンの値=20以下に対しては遅延パン32の値=0(右端の振り切り定位)を対応付け、音量パンの値=108以上に対しては遅延パン32の値=128(左端の振り切り定位)を対応付ける。
図10の対応付けテーブルを使用した場合も、CPUI21は、音量パン31又は遅延パン32の何れか一方の値が変更されたとき、その変更に対応付けて(関連付けて、或いは、連動して)、他方の値を変更することができる(前記ステップS3、S5、S12及びS16)。
【0046】
別の実施形態において、前記ステップS3、S5、S12及びS16において、定位付けされた音信号を聴取者が聴いた場合の両耳の間での時間差と音量差を計算によって求めた値に基づいて、音量パン31の値と遅延パン32の値との対応付けが決定されてもよい。前記計算は、例えば、聴取者の両耳の間隔、音源と聴取者との距離、「両耳を結ぶ線」と「音源と聴取者を結ぶ線」とがなす角度等に基づいて行うことができる。前記時間差と音量差は、例えば、音源位置(定位)毎に、算出される。例えば、ミキサ20のメモリ22には、計算により求めた音源位置(定位の位置)毎の時間差と音量差とを規定する対応付けテーブルが記憶される。前記ステップS3、S5、S12及びS16において、CPU21は、該対応付けテーブルに基づいて、音量パン31又は遅延パン32の一方の値に対応する他方の値を取得できる。
【0047】
別の実施形態において、前記ステップS3、S5、S12及びS16における音量パン31の値と遅延パン32の値との対応付けは、ユーザが設定したものであってもよい。この場合、ユーザは、自身の好み等に従って、自由に音量パン31の値と遅延パン32の値とを対応付けることができる。また、音量パン31の値と遅延パン32の値との対応付けは、音量パン31の定位設定と遅延パン32の定位設定とが互いに関連付けられさえすれば、どのような対応付けでもよい。すなわち、音量パン31又は遅延パン32の一方の値に相関して、他方の値を決定できさえすれば、どのような対応付けであってもよい。
【0048】
また、別の実施形態において、メモリ22に複数種類の対応付けテーブルを用意しておき、ユーザが1つの対応付けテーブルを選択するようにしてもよい。一例として、メモリ22は、サービスエリアの広さや形状等の条件(例えば、サービスエリアとなる建物の種類や、空間の幅、面積などの)に応じた複数種類の対応付けテーブルを記憶する。ユーザは、音信号の出力先の環境等に応じて適切な対応付けテーブルを選択できる。サービスエリアの広さや形状等の条件に応じた対応付けテーブルの具体例としては、例えば大規模ホール用の対応付けテーブルにおいては、遅延パン32の各定位に対応付ける音量パン31の定位の振り幅(中央位置からの角度)を狭くする、すなわち、遅延パン32に大きい時間差が設定された場合であっても、音量パン31では定位を大きく振らないようにする、というような態様が考えられる。別の例として、ユーザがサービスエリアの広さや形状等の条件を入力し、該入力された条件に応じて、音量パン31の値と遅延パン32の値との対応付けが生成されるようにしてもよい。
【0049】
また、別の実施形態において、音信号の出力先の環境に応じて自動的に、音量パン31又は遅延パン32の何れか一方が選択されるように構成されてもよい。例えば、ユーザが音信号の出力先の環境(例えば、メイン出力又はモニタ出力のいずれか)を入力すると、該入力された環境に応じて、CPU21は、前記
図7の処理を行う。例えば、出力先の環境がモニタ出力のときは、自動的に音量パン31が選択される、といった実施態様が可能である。
【0050】
また、音量パン31及び遅延パン32の値を調整する操作子は、音量パン31の値調整用と遅延パン32の値調整用とで別個の操作子でもよいし、音量パン31の値調整用と遅延パン32の値調整用とで1つの共通の操作子でもよい。また、その値調整用の操作子は、各チャンネル30毎に別個の操作子であってもし、複数のチャンネル30で共通の操作子であってもよい。
【0051】
前記
図4のチャンネル構成例において、音量パン31の値調整用と遅延パン32の値調整用とで共通の操作子を用いる場合、前記選択部33により現在選択中の音量パン31又は遅延パン32の値が調整対象となってよい。別の例として、選択部33の選択とは独立して、操作子の調整対象として、音量パン31又は遅延パン32の何れかを、ユーザが指定してもよい。また、
図8のチャンネルの構成例において、音量パン31の値調整用と遅延パン32の値調整用とで共通の操作子を用いる場合、ユーザが、操作子の調整対象として、音量パン31又は遅延パン32の何れかを指定してよい。
【0052】
また、音量パン31及び遅延パン32の値調整操作子は、音量パン31及び/又は遅延パン32の値調整に専用の操作子でもよいし、操作対象として任意のパラメータを割当可能な汎用の操作子でもよい。
【0053】
また、音量パン31及び遅延パン32の値調整操作子は、物理的な操作子に限らず、ディスプレイ23に表示された操作子画像などの画像オブジェクトであってもよい。
【0054】
また、別の実施形態において、前記ステップS3、S5、S12及びS16において、CPU21は、音量パン31又は遅延パン32の何れか一方の値調整操作に応じた操作量に基づいて、音量パン31又は遅延パン32の他方の値を変更するようにしてもよい。更に別の実施形態において、CPU21は、或るチャンネルの定位を設定する操作に応じて、メモリ22に記憶された、当該チャンネルの音量パン31の値(第1定位設定部の第1パラメータの値)、及び、当該チャンネルの遅延パン32の値(第2定位設定部の第2パラメータの値)の両方を変更する制御を行ってもよい(前記ステップS2〜S5、S11、S12、S15、及び、S16の変形例)。定位を設定する操作は、例えば、操作パネルに設けられた定位設定用の操作子(操作子群24)の操作や、ディスプレイ23の画面上での操作である。この場合、ユーザは、定位設定方法(音量パン31及び遅延パン32)の違いを意識することなく定位を設定する操作を行うだけで、音量パン31及び遅延パン32の両方に、対応付けられた値(例えば共通の定位付けを行う値)を設定できる。
【0055】
また、別の実施形態においては、前述の各実施形態を任意に組み合わせてよい。
【0056】
前記の各実施形態において、CPU21による前記ステップS3、S5、S12及びS16の処理が、
図1の制御部14の動作に相当する。
【0057】
以上、この発明の一実施形態を説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、音処理装置10は、ミキサ20に限らず、レコーダ、プロセッサなど、音信号に定位付けを行う機能を含む装置であれば、どのような装置に適用されてもよい。また、音処理装置10は、
図1に示す各部11、12、13及び14の動作を実行するように構成された専用ハードウェア装置(集積回路等)からなっていてもよい。また、音処理装置10は、
図1に示す各部11、12、13及び14の動作を行なうためのプログラムを実行する機能を持つプロセッサ装置により構成されてよい。例えば、音処理装置10は、パーソナルコンピュータ上で実行されるDAW(Digital Audio Workstation)ソフトウェアアプリケーションや、或いは、ビデオ編集ソフトウェアアプリケーションに適用され得る。
【0058】
また、この発明は、第1パラメータの値に基づいて音信号の定位を設定する第1定位設定部11又は前記第1パラメータとは異なる第2パラメータの値に基づいて音信号の定位を設定する第2定位設定部12の何れか一方のパラメータの値を調整する調整手順と、前記第1パラメータ又は前記第2パラメータの何れか一方の値の調整に応じて、他方の値を変更する制御を行う制御手順を備える方法の発明として、構成及び実施されてもよい。また、前記方法を構成する各ステップを、コンピュータに実行させるプログラムの発明として、構成及び実施されてもよい。CPU21による前記ステップS2、S4、S11、S15の処理が調整手順に相当し、また、CPU21による前記ステップS3、S5、S12、S16の処理が制御手順に相当する。