(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816525
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20210107BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20210107BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20210107BHJP
【FI】
B60C15/00 P
B29D30/06
D04H1/425
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-6822(P2017-6822)
(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-114843(P2018-114843A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2020年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川添 真幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特表平07−502471(JP,A)
【文献】
特開2008−012945(JP,A)
【文献】
特開平04−071910(JP,A)
【文献】
特開2015−063615(JP,A)
【文献】
特開2004−196255(JP,A)
【文献】
特開2009−057552(JP,A)
【文献】
特開2015−227517(JP,A)
【文献】
特開2012−025949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/00
B29D 30/06
D04H 1/425
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部のリムと当接する領域の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が1〜1000nm、平均アスペクト比が10〜1000であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記不織薄層の厚さが1〜200μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
未加硫の空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、前記セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し加硫成形することを特徴とする請求項1,2又は3に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
加硫した空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、前記セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させることにより前記不織薄層を形成することを特徴とする請求項1,2又は3に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ耐久性を向上するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーや有機繊維コードからなるチェーファーを、空気入りタイヤのビード部の補強層として配置し、タイヤ耐久性を高めることが行われている(例えば特許文献1を参照)。このようなチェーファーは、バスやトラックの重荷重用空気入りタイヤや、建設用大型トラック用の大型タイヤでビート部の耐久性を高めるため採用されている。しかし、乗用車用等の比較的小型の空気入りタイヤへの採用例は少なく、ホイールから取り外した空気入りタイヤのビード部に、嵌合してしたリムの表面の凹凸が転写することがある。このためホイールを交換すると前のホイールのリムの痕跡が残り外観が損なわれることが懸念される。
【0003】
一方、重荷重用空気入りタイヤなどに採用されているチェーファーを、乗用車用空気入りタイヤのビード部に配置すると、タイヤビード部の硬さが過大になり、嵌合させるアルミホイールなどのリムの内周面が傷付くことがあった。このためタイヤビード部の耐久性を改良するための従来方法は必ずしも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−168500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、リムを傷つけることなくタイヤ耐久性を向上するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、ビード部のリムと当接する領域の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、ビード部のリムと当接する領域の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層を配置したので、リムを傷つけることなくタイヤ耐久性を向上することができる。また最表面に極薄の不織薄層を配置しただけなので基材のゴム組成物のゴム特性に悪影響を及ぼすことがない。
【0008】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径は1〜1000nm、平均アスペクト比は10〜1000であるとよい。また前記不織薄層の厚さは1〜200μmであるとよい。
【0009】
本発明の空気入りタイヤは、未加硫の空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、前記セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し加硫成形することにより製造することができる。または加硫した空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、前記セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させることにより前記不織薄層を形成することにより製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの実施形態において、ビード部の一例を示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【
図2】
図1に記載された空気入りタイヤのビード部が、リムに嵌合する様子を模式的に示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、図に示す実施形態を参照して詳細に説明する。
図1に示す本発明の実施形態による空気入りタイヤTにおいて、ビード部1にはビードコア2がタイヤ1周にわたるように埋設され、このビードコア2の回りにカーカス3の端部がタイヤ内側から外側へ折り返すように巻き上げられている。また、ビード部1のリムと当接する領域の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層4が配置される。このように形成されたビード部1は、
図2に示すようにリムRに嵌合する。
【0012】
不織薄層4は、ビード部1のリムRと当接する領域の少なくとも一部の領域の最表面に配置される。このようにリムRと当接するビード部1の表面に不織薄層4を配置し、保護するようにしたので、ビード部1の表面に擦過傷が付いたり、リムRの表面の凹凸がビード部1の表面に転写するのを抑制することができる。またワイヤーや有機繊維コードからなる従来のチェーファーと比べ、厚さが薄く柔軟であるため、アルミホイール等のリムを傷つけることがない。
【0013】
不織薄層4は、セルロースナノファイバーにより構成される。セルロースナノファイバーはセルロースからなる平均繊維径が1〜1000nmの極細繊維である。セルロースナノファイバーの原料は、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のどちらでもよい。
【0014】
セルロースナノファイバーの作製方法としては、通常の解繊方法を挙げることができる。解繊方法は、パルプ化された原料を水に分散させ機械的な高せん断力をかけて解繊する方法と、原料に化学的な前処理を施し解繊しやすくしてから機械的なせん断力をかけて解繊する方法に大別される。一般に化学的な前処理を施した後に機械的なせん断力により解繊する方法のほうが、機械的な高せん断力だけで解繊する方法より、低いエネルギーでより細かく均質に解繊できるので好ましい。化学的な前処理としては、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、「TEMPO」という。)酸化、リン酸エステル化、過ヨウ素酸処理などを挙げることができる。
【0015】
セルロースナノファイバーの表面は、上述した解繊工程中の前処理として化学的に改質される他にも、複合化させる高分子との相性を改良するために、解繊工程のあとにセルラーゼ処理、カルボキシメチル化、エステル化、カチオン性高分子による処理などを施すことができる。このような処理により、ゴムラテックス等との親和性を向上することができる。
【0016】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は好ましくは1〜1000nm、より好ましくは1〜50nmである。またセルロースナノファイバーの平均アスペクト比(繊維長さ/繊維径)は好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜1000である。平均繊維粒径および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であると、セルロースナノファイバーの分散性が低下する。また平均繊維粒径および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えるとセルロースナノファイバーの補強性能が低下する。本明細書において、セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長さは、固形分率で0.05重量%〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得、この画像中の少なくとも50本以上において測定した繊維径および繊維長さの平均値を用いる。こうして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比(繊維長さ/繊維径)を算出するものとする。
【0017】
セルロースナノファイバーからなる不織薄層は、上述したセルロースナノファイバーにより構成された不織構造の極薄層である。不織薄層の厚さは、好ましくは1〜200μm、より好ましくは2〜150μm、更により好ましくは5〜100μmである。不織薄層の厚さを1μm以上にすることにより、外部からの擦過や衝突に対し基材を確実に保護することができる。また不織薄層の厚さを200μm以下にすることにより、基材のゴム特性を損なうことがなく、また生産コストを抑制することができる。
【0018】
ビード部のリムと当接する領域の最表面に、上述した不織薄層を配置する方法は、特に制限されるものではなく、通常の方法を用いることができる。例えば、未加硫の空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し加硫成形する方法、加硫した空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させる方法などが挙げられる。
【0019】
ワニスとしては、特に制限されるものではなく、セルロースナノファイバーを略均一に分散させることが可能な有機溶剤であればよい。有機溶剤として、極性、非極性のいずれでもよいが、セルロース表面のヒドロキシ基との親和性から極性の有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤は、通常用いられるものの中から適宜選択して使用することができる。
【0020】
ゴムラテックスとしては、特に制限されるものではなく、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられる水分散系ラテックスを使用することができる。例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレンブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、等を挙げることができる。また、それぞれのラテックスにおいてゴム分子骨格部分は、部分的に水素添加等の変性がされていてもよい。
【0021】
セルロースナノファイバーを含むワニスおよびゴムラテックスは、加硫剤および/または架橋剤、加硫促進剤などの加硫系配合剤や各種補強性充填剤を配合することができ、未加硫の空気入りタイヤに塗布し、必要に応じ乾燥させた後、加硫成形することにより、タイヤ加硫と同時に表面に加硫接着することができる。また加硫系配合剤が、未加硫タイヤの基材からワニスおよびゴムラテックスへ移行するときは、加硫系配合剤の配合量を削減または省略することができる。
【0022】
また加硫した空気入りタイヤのビードヒールを含むリムと当接する領域の少なくとも一部に、セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させることができる。加硫した空気入りタイヤは、加硫成形の後、工場出荷前のタイヤでも、出荷後の販売店等に納められたタイヤでもよい。またリムに装着し使用を開始した後のタイヤでもよく、未使用または使用開始後に限定されない。セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し、必要に応じ乾燥させ、熱をかけて固着させることにより、未使用タイヤの品質を高くすることの他、使用中のタイヤの修理や外観の改良を行うことができる。
【0023】
セルロースナノファイバーを含むワニスおよびゴムラテックスの塗布方法は、特に制限されるものではなく、スプレーコート、ロールコート、ブレードコート、エアナイフコート、ブラッシュコート、ダイコート、バーコート、等を例示することができる。
【0024】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1〜3
天然ゴムラテックス(固形分濃度60質量%)200g、セルロースナノファイバー(第一工業製薬(株)製「レオクリスタ」:固形分濃度2質量%)600gと水200mlを、ホモジナイザー混合により毎分5000回転で5分間混合し均一に分散させた天然ゴムラテックス分散液を得た。
【0026】
また通常の方法で未加硫の空気入りタイヤ(サイズ195/65R16)をグリーン成形した。この未加硫の空気入りタイヤのビードトウのリム嵌合部に、上記で得られた天然ゴムラテックス分散液を、得られる不織薄層の厚さを三水準(実施例1〜3)で異ならせるようにスプレーコートし、乾燥により水分を除去した。上記と同じスプレーコートを薄いシート上で行い乾燥させた後の不織薄層の厚さは、10μm(実施例1)、55μm(実施例2)、および100μm(実施例3)であった。
【0027】
上記で得られた未加硫の空気入りタイヤを、通常のタイヤ用加硫機にて170℃、10分間の加硫を行い、ビードトウのリム嵌合部にセルロースナノファイバーからなる不織薄層がコーティングされた加硫タイヤを得た。
【0028】
一方、比較例1としてビードトウのリム嵌合部に、セルロースナノファイバーの天然ゴムラテックス分散液を塗布せず、本発明の補強処理をしなかった空気入りタイヤを作製した。また、比較例2としてビードトウのリム嵌合部にナイロンチェーファーを配置した補強処理をした空気入りタイヤを作製した。
【0029】
得られた5種類の空気入りタイヤ(実施例1〜3、比較例1〜2)について下記の方法で、走行後のビードトウのリム嵌合部の外観(転写した跡)およびリム側の外観(跡)の評価を行った。
得られた空気入りタイヤを標準サイズのアルミホイールにリム組みし空気圧230kPaに調整し、国産の乗用車(排気量2000cc)に装着した。この乗用車でテストコースを5,000km走行した後、空気入りタイヤをアルミホイールから取り外し、空気入りタイヤのビードトウのリム接触部の外観およびアルミホイールのビードトウ接触部の外観を目視評価した。目視評価は、空気入りタイヤのビードトウのリム接触部にリム(アルミホイール)の模様や凹みが転写した跡があるか否か、またアルミホイールのビードトウ接触部に空気入りタイヤのビードトウと接触していた跡があるか否かについて行った。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例1〜3の空気入りタイヤでは、走行後のビードトウのリム嵌合部への転写した跡およびアルミホイール側の跡が全く確認されなかった。
【0032】
比較例1の空気入りタイヤではタイヤ5,000km走行後のビードトウのリム接触部にリム(アルミホイール)の模様や凹みが全面的に転写した跡が認められた。また、比較例2の空気入りタイヤはリム側にナイロンチェーファーが当たって跡が確認された。
【符号の説明】
【0033】
1 ビード部
2 カーカス層
3 ビードコア
4 不織薄層
T 空気入りタイヤ
R リム