特許第6816588号(P6816588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816588
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】ロール状トイレットペーパー
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   A47K10/16 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-53586(P2017-53586)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-153482(P2018-153482A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年6月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 遥絵
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−140472(JP,A)
【文献】 特開2016−209487(JP,A)
【文献】 特開2013−108197(JP,A)
【文献】 特表2009−542481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のトイレットペーパーがロール状に巻回されてなるロール状トイレットペーパーであって、前記ロール状トイレットペーパーがマルチプライのトイレットペーパーから構成され、ロール状トイレットペーパーから巻き出されたトイレットペーパーについて日本工業規格JIS P8113に準じて測定された際の縦方向の引張破断伸びが19.1%以上35%以下であり前記トイレットペーパーの吸水量が30mg/プライ数以上であり、前記トイレットペーパーの原紙は、ヤンキードライヤーの周速よりも、トイレットペーパー原紙のリールへの巻き取り速度を遅らせることにより、クレープが付与された、ロール状トイレットペーパー。
【請求項2】
前記引張破断伸びが、21.3%以上31.4%以下である、請求項1に記載のロール状トイレットペーパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状トイレットペーパーに関する。
【背景技術】
【0002】
長尺のトイレットペーパーを巻回してなるロール状トイレットペーパーには、柔らかく肌触りが良いこと、水解性を有しつつ使用に耐え得る程度の強度を有すること、などといった複数の要求品質がある。
【0003】
近年のシャワートイレの普及などに伴い、多量の水分を裏抜けなく拭き取ることのできる、吸水量の多いロール状トイレットペーパー製品に対する要求がある。
【0004】
例えば特許文献1は、水分の吸収能力を確保するためにはバルク(比容積)を高くすることが重要であるとし、兼備が困難であるとする高バルク、高強度および柔らかさの3つの要求品質を満たすために、トイレットペーパー原紙となるウェブに対して凹凸を付与することを提案している。
【0005】
また、特許文献2は、吸水性を確保すると共に裏抜け防止を確実に図ることのできる水解性衛生紙として、表層、中層、裏層の3プライからなり、外層(表層および裏層)と中層の吸水量および吸水時間を異ならせて水分を内部に閉じ込める構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−734204号公報
【特許文献2】特許第4969592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2記載の発明では、外層(表層および裏層)と中層の物性をそれぞれ数値規定しており、実施のためには、各層を別個の構成で製造する必要がある。また、特許文献1記載の発明では、水分の吸収能力に関するトイレット製品の実用性の判断基準として、旧JIS−S3104法に従う吸水度(所定量の水を吸い込むのに要する時間)を用いているが、この吸水度は、水の吸い込み易さを示すが、吸収可能な水の量の多少、特に実際のトイレにおける短時間における拭き取り量を反映するものではない。そこで、新規な構成の、トイレなどにおける実際の使用状態に対応した短時間における水の吸い取り性の高いロール状トイレットペーパーに対する要求がある。
【0008】
本発明の目的は、短時間における吸水量の多いロール状トイレットペーパーの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の態様を有する。
【0010】
長尺のトイレットペーパーがロール状に巻回されてなるロール状トイレットペーパーであって、ロール状トイレットペーパーから巻き出されたトイレットペーパーについて日本工業規格JIS P8113に準じて測定された際の縦方向の引張破断伸びが16.9%よりも高い、ロール状トイレットペーパー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間における吸水量の多いロール状トイレットペーパーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。以下の実施の形態は一例であり、本発明は下記実施の形態に限定して解釈されるものではない。
【0013】
(ロール状トイレットペーパー)
「ロール状トイレットペーパー」とは、長尺のトイレットペーパーがロール状に巻回されてなるものをいう。ロール状トイレットペーパーには、長尺のトイレットペーパーが芯管に対して巻回されてロール状を示すもの、および芯管を有さず長尺のトイレットペーパーのみが巻回されてロール状を示すもの(いわゆる「ノンコア」タイプ)が含まれる。
【0014】
ロール状トイレットペーパーの寸法形状は、日本工業規格JISなどの規格や一般的なホルダーのサイズ等を勘案して決定することができ、例えば、幅は105〜114mm、および巻径は120mm以下の巻取りとすることができる。この寸法形状であると、ロール状トイレットペーパーを通常のホルダーに収めることができる。ロール状トイレットペーパーにおける長尺のトイレットペーパーの巻回長さは、ロール状トイレットペーパーの所定の巻径が達成されるものであればよく、90m以下とすることが一般的である。
【0015】
巻回長さは、トイレットペーパーの厚さや、トイレットペーパーをロール状に巻回する工程においてトイレットペーパーに掛かる張力などによって、制限を受け得る。一般に、同一の巻径を得るための巻回長さは、トイレットペーパーの厚さが厚いほど短くなり、巻回工程における張力が高いほど長くなる傾向にある。また、巻回工程における張力が高いほど、トイレットペーパーの厚さがつぶされてクレープ(皺)や凹凸が平坦化される傾向が大きい。クレープや凹凸が平坦化されると、その後のトイレットペーパーは、構造上の遊び部分が減り、引っ張っても伸びにくくなる傾向にある。トイレットペーパーのクレープや凹凸の低減の程度の大小は、巻回工程における張力の大小の設定により制御し得る。その結果、トイレットペーパーには、構造上の遊び部分が残り、引っ張った場合に伸びを示す傾向にある。
【0016】
「巻回」の方法は特に限定されないが、例えば、長尺のトイレットペーパーの原反からトイレットペーパーを巻き出して先端部を芯管に接着固定し、ワインダーにより芯管を回転させてロール状トイレットペーパーの製品長さ分だけトイレットペーパーを巻回してロール状とし、巻回したトイレットペーパーを原反から切離し、巻回したトイレットペーパーの後端部をロールの外周面に接着固定する方法等を挙げることができる。
【0017】
また、ノンコアタイプの場合は、長尺のトイレットペーパーの原反から巻き出したトイレットペーパーの先端部を、芯管を用いずに、ワインダーの軸に直接取り付けて同様に巻回を行い、ロール状トイレットペーパーの外観形状を得た後に、これを軸から取り外す方法等を挙げることができる。
【0018】
「芯管」とは、ロール状トイレットペーパーの巻き芯となる部材である。芯管は、例えば、ボール紙等の厚紙からなり、外径35〜50mmφ、厚さ0.5〜1.5mmの紙管が好適に用いられる。一時に複数個のロール状トイレットペーパー製品を製造できるように、通常は、巻回工程において、製品幅の複数倍(例えば、10〜60倍)程度の長尺な管長の芯管を用い、この長尺な芯管に長尺のトイレットペーパーが巻回されたロール(「ログ」ともいう)を得て、このログを切断刃により製品幅にカットして、ロール状トイレットペーパー製品を得る。
【0019】
「切断刃」としては、ログソー(丸刃)、バンドソー(平刃)等、従来公知の切断刃を用いることができる。刃の厚さとしては、2〜10mmのものが好適に用いられる。
【0020】
(トイレットペーパー)
本実施の形態にかかるロール状トイレットペーパーを構成する長尺のトイレットペーパーは、トイレットペーパー原紙1枚からなるもの(1プライ)であってもよく、トイレットペーパー原紙を複数枚重ねたもの(マルチプライ)であってもよい。トイレットペーパー原紙を2枚重ねたものを2プライといい、3枚重ねたものを3プライといい、以下同様に、重ねたトイレットペーパー原紙の枚数をNとしたとき、その数に応じてNプライと称される。
【0021】
一般に、トイレットペーパー原紙のプライ数が多いほど、裏抜けを防止し厚み感を付与することができるが、一方、プライ数が多いと、トイレットペーパーの柔軟性が低くなり、また、ロール状に巻回したときに所定の巻径とするための巻回長さが短くなってしまう傾向にある。そのため、好ましいプライ数には上限がある。
【0022】
マルチプライ(Nプライ)のトイレットペーパーは、複数枚(N枚)のトイレットペーパー原紙をプライマシン(不図示)にて積層することにより得ることができる。プライマシンは、公知のものを特段の制限なく使用することができる。
【0023】
トイレットペーパー原紙、および/または複数枚のトイレットペーパー原紙が積層されてなる積層体には、必要に応じて、エンボス加工が施されていてもよい。つまり、マルチプライのトイレットペーパーの場合、マルチプライのトイレットペーパーを構成する全てのトイレットペーパー原紙を積層した状態でエンボス加工を行うことができる。また、各々のトイレットペーパー原紙が積層されていない状態でエンボス加工を施してもよく、この場合には全ての原紙が積層された状態において再度エンボス加工を行うことが好ましい。
【0024】
「エンボス」とは、1対のロール間に対象物(トイレットペーパー原紙および/または複数枚のトイレットペーパー原紙が積層されてなる積層体)を挟み込んで押圧し、ロール表面に形成された凸模様を原紙および/または積層体に型押し(転写)することによって形成される型押し模様である。
【0025】
このエンボス加工によって、原紙および/または積層体に凹凸が形成され、空気層を含んだ嵩高い状態とすることができる。そのため、トイレットペーパーに柔軟性を付与することができるとともに、この嵩高い部分に水分を取り込むことができ、吸水量が増大し得る。
【0026】
エンボス加工は、トイレットペーパー原紙および/または複数枚のトイレットペーパー原紙が積層されてなる積層体の両面に多数の凸部と多数の凹部とを有するエンボスパターンを形成するように行う。エンボス加工を施すことによって、トイレットペーパー原紙、および/または複数枚のトイレットペーパー原紙が積層されてなる積層体に、嵩高さ、柔かさ、吸水性を付与し得る。
【0027】
また、紙面に見た目にも楽しい図柄を施すことにより外観上の美しさ(装飾的効果)を高めるというデザイン的な要求から、多数の凸部または凹部の組み合わせによって図柄模様を形成してもよい。このようなエンボスは、デザインエンボスとも称される。
【0028】
積層体に筋状エンボスを施すことによって、各層を相互に結合してもよい。筋状エンボスは、重ねられたトイレットペーパー原紙の流れ方向(抄紙方向に相当する縦方向)に沿って直線状に設けられ、両端の少なくとも一方、あるいは中央部に設けることができる。流れ方向に沿って結合することによって、使用時に生じやすい切り離し位置のずれを抑止することができる。特に、両端部に設けた場合にその効果が顕著である。筋状エンボスは、エッジエンボスとも称される。
【0029】
エンボス加工の方法は、従来公知の方法の中から目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、マッチドスチール法、ラバースチール法、ネステッド法、ポイント・トゥー・ポイント法等の方法を挙げることができる。
【0030】
(トイレットペーパー原紙)
トイレットペーパー原紙は、以下に非限定目的で例示する原料を、公知の抄紙機および公知の抄紙工程、具体的には、ワイヤー(フェルト)パート、プレスパート、ドライヤーパートを経て、抄造することにより得ることができる。
【0031】
公知の抄紙機としては、サクションブレストフォーマー(円網タイプ、長網タイプ)、ツインワイヤーフォーマー、円網フォーマー(Cラップ、Sラップ)、クレセントフォーマー等の抄紙機にヤンキードライヤーを組合わせたヤンキー抄紙機が使用されるが、クレセントフォーマーが低坪量のウェブを製造することが可能であるため好ましい。
【0032】
トイレットペーパー原紙の製造工程においては、吸水性を向上させるための種々の手法を施すことができる。例えば、プレスパートにおいて、凹凸のあるフェルトを湿紙ウェブに押し付けて凹凸付けを行ってもよい(例えば、特許文献1参照)。また、ドライヤーパートにおいて、公知のクレープ付け手法を行ってもよい。例えば、ヤンキードライヤーの回転速度より巻き取り用のリールの回転速度を遅くする手法がある。ここで、クレープ付けとは、紙を縦方向(抄紙機の走行方向)に機械的に圧縮し、クレープと称される波状の皺を形成する公知の方法である。クレープ付与により、トイレットペーパー原紙に嵩高さ(バルク感)を与えると共に、吸水性を付与することができる。
【0033】
(原料)
トイレットペーパー原紙を抄造するための原料は、特に限定されず、適宜の原料を使用することができる。原料として、パルプ繊維を使用する場合、このパルプ繊維(原料パルプ)としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプなどから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、1種または数種を適宜選択して使用することができる。
【0034】
トイレットペーパーとして一般に所望される品質、例えば柔らかさや白さ等を得るためには、NBKP:LBKP=10:90〜70:30(質量比)の木材パルプを原料とすることが好ましく、より好ましくはNBKP:LBKP=20:80ないし70:30、さらに好ましくはNBKP:LBKP=20:80ないし40:60である。上記LBKPの材種として、ユーカリ属グランディスおよびユーカリグロビュラスに代表される、フトモモ科ユーカリ属から製造されるパルプが好ましい。このパルプ比率の木材パルプに対し、古紙パルプを50質量%程度まで含むことができる。古紙パルプは品質的バラツキが大きく、配合割合が増えると製品の品質、特に、柔らかさに大きく影響するので、木材パルプに対して20質量%以下配合するのが望ましい。
【0035】
かかる原料は、例えば、水に分散させたスラリー状の抄紙原料(紙料)の形態で、抄紙に用いることができる。
【0036】
ただし、当該原料としては、上記に限るものではなく、必要に応じて公知の添加剤等を使用してもよい。
【0037】
このトイレットペーパーは、日本工業規格JIS P 8124に従って測定したトイレットペーパー原紙1枚当りの坪量が11〜23g/m2であり、マルチプライの場合は積層体の坪量が24〜35g/m2であることが好ましい。トイレットペーパー原紙の坪量11g/m2未満では、トイレットペーパー原紙の強度が弱くなり、トイレットロールを製造することができなくなる場合がある。また、坪量が23g/m2を超えて多くなると、マルチプライの場合、形成される積層体が厚くなり、これを所定の長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり過ぎてしまい、通常のホルダーに収まらなくなってしまう場合がある。
【0038】
このトイレットペーパーは、トイレットペーパー原紙1枚当りの厚さが86〜109μmであることが好ましく、マルチプライの場合、重ね合せたトイレットペーパー原紙の積層体は、、JIS P8118に準じて測定したロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー1組あたりの厚さが107〜196μmであることが好ましい。トイレットペーパー原紙の厚さが86μm未満になるとトイレットペーパー原紙の強度が低下し、一方、109μmを超えて厚くなると、これを重ね合せた積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まりにくくなる。
【0039】
また、積層体の厚さを107μm未満まで薄くすると、ウェブの密度が高くなり、柔らかさが損なわれてしまい、一方、196μmを超えて厚くすると、積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まりにくくなる。
【0040】
(吸水量)
本実施形態においては、ロール状トイレットペーパーの液体吸収能力を、ロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー原紙が吸収可能な水の量(吸水量)の観点から判断する。具体的には、吸水量を、以下の手順に従って算出する。
(1)ロール状トイレットペーパーをJIS P8111に準じて調温調湿する。
(2)前記ロール状トイレットペーパーからトイレットペーパーを巻き出し、縦方向15mm、横方向100mmの短冊形の試験片を切り出して、当該試験片の水浸漬前の重量を量る。なお、本明細書において、「縦方向」とは、トイレットペーパー原紙の抄紙方向に相当する方向をいい、横方向は、縦方向に直交する方向をいう。
(3)前記試験片を、試験片の長辺方向の端から3mmが水中に浸かるように、バットに張った水に漬ける。
(4)前記試験片を水に漬けてから2秒後に引き上げて質量を測定し、ロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー原紙のプライ数により割った値(単位:mg/プライ数)を算出する。
【0041】
上記規定による吸水量は、従来のJIS等に規定された測定法と異なり、2秒という短時間における吸水性を示す。洗浄便座などによって汚れが落とされた状態のお尻などに対してトイレットペーパーをあてがう場合には、汚れを落とす性能よりも/だけでなく、水分を吸収する性能がより強く求められる。したがって、上記した吸水量は、洗浄便座によってお尻を水洗いした場合などにおける水分の拭き取り性を評価する指標(トイレットペーパーの使用状態に即した速乾性・速吸性を評価するための指標)と言える。
【0042】
トイレットペーパーの水分拭き取り性能の観点からは、吸水量の値は大きいほど好ましい。
【0043】
(伸び)
トイレットペーパーについての縦方向の伸びは、ロール状トイレットペーパーからトイレットペーパーを巻き出して計測する。具体的には、日本工業規格JIS P8113に準じて、ロール状トイレットペーパーからトイレットペーパーを巻き出して、トイレットペーパーの縦方向の長さを150mmとし、縦方向と直交する横方向の長さを15mmとした短冊形の試験片を切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機 RTC1250)にて引張試験を行い、引張破断伸びを計測して、これを伸び(単位:%)とする。
【0044】
本実施形態におけるロール状トイレットペーパーの伸びは、16.9%より高く、好ましくは19.1%以上、より好ましくは21.3%以上とされる。伸びを16.9%より高くすると吸水量が25mg/プライ数より高くなりしっかりと水分を拭取ることができるため好ましい。19.1%以上にすると吸水量が30mg/プライ数以上となり裏抜けを防止するも可能となるためより好ましい。21.3%以上にすると吸水量が35mg/プライ数以上となり拭いた後の肌の状態をさらさらな状態にすることができるため極めて好ましい。
【0045】
また、本実施形態に係るロール状トイレットペーパーの伸びは、好ましくは35%以下とされ、より好ましくは31.4%以下とされる。伸びを35%より高くすると製造時に断紙が発生しやすくなるため35%以下とすることが好ましい。また、伸び率を31.4%以下とし、下限値を上記したいずれかの値の範囲とすれば、良好な吸水性を有する歩留まりのよいトイレットペーパーとなり好適である。
【0046】
すなわち、伸びを16.9%より高く35%以下、より好適には16.9%より高く31.4%以下とすると、吸水量を25mg/プライとすることができ、1プライであってもお尻に付着した水を一度の拭き取りで十分に吸収することができ、かつ、歩留まりよく製造することができ好適である。伸びを19.1%以上35%以下、好ましくは19.1%以上31.4%以下とすれば、30mg/プライ以上の吸水量とすることができる。さらに、伸びを21.3%以上35%以下、好ましくは21.3%以上31.4%以下とすれば、35mg/プライ以上という驚異的な吸水量のトイレットペーパーを提供することが可能となる。このようなトイレットペーパーは、従来の吸水量のトイレットペーパーを3プライにして/3枚重ねにして実現していた吸水量とほぼ同等の性能を2プライで実現することができ、洗浄便座によって洗われた直後の水分の極めて多いお尻について一度の拭き取りでも拭き取り可能とすることも可能となる。従来の同プライのトイレットペーパーと比較すれば、本実施の形態にかかるトイレットペーパーは、極めて優れた吸水性能、すなわちトイレにおける実際の使用時に求められる速乾性能(すばやい吸水性能)を実現でき、洗浄便座用のトイレットペーパーとして特に適していると言い得る。これらの数値の意義については、下記実施例・比較例によっても明らかとなる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれに制限されるものではない。なお、各実施例および比較例で得られたロール状トイレットペーパーについて行った評価と評価方法は、次の通りである。
【0048】
(坪量)
日本工業規格JIS P 8124に従って、ロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー原紙1枚あたりの坪量を測定した。
【0049】
(紙厚)
JIS P 8118に準じてロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー1組あたりの紙厚を測定した。すなわち、3プライについては3枚、2プライについては2枚の厚さを測定した。
【0050】
(吸水量)
ロール状トイレットペーパーの液体吸収能力を、上記した吸水量によって測定・算出した。
【0051】
(伸び)
伸びは上記したようにして算出した。
【0052】
(実施例1)
古紙パルプ(DIP)70質量%および広葉樹木材パルプ30質量%からなる原料パルプを水中に分散させたスラリー(抄紙原料)を、ヤンキードライヤーにて乾燥を行う抄紙機で抄紙してリールに巻き取って、トイレットペーパー原紙の原反とした。このとき、ヤンキードライヤーの周速よりも、トイレットペーパー原紙のリールへの巻き取り速度を遅らせることにより、トイレットペーパー原紙を縦方向(抄紙機の走行方向)に機械的に圧縮し、クレープと称される波状の皺をトイレットペーパー原紙に対して付与した。
【0053】
このようにして製造したトイレットペーパー原紙の原反を3つ準備してワインダーにかけ、各々からトイレットペーパー原紙を巻き出しつつ積層させ、エンボス装置により、3枚のトイレットペーパー原紙の積層体(3プライ)の両面に多数の凸部と多数の凹部とを有するエンボスパターンが形成されるようなエンボス加工(シングルエンボス)を施し、筋状エンボス装置により、トイレットペーパーの使用時に各層がずれるのを防止するためにトイレットペーパーの幅方向端部付近となる箇所に筋状のエンボス加工を施し、仕上げ原反として巻き取った。仕上げ原反を、通称ロール状トイレットペーパー製造装置にかけ、ミシン目を付与しつつ、所定の巻回長さになるまで芯管に巻回し、スリッターにより幅方向を製品寸法に合わせて切断して表1に示す伸びを有する実施例1のロール状トイレットペーパーを得た。巻長、巻径、坪量は表1に示す通りである。
【0054】
(実施例2〜4)
ヤンキードライヤーの周速およびトイレットペーパー原紙のリールへの巻き取り速度を実施例1と異なるようにしたこと以外は実施例1と同じ材料・条件とし、表1に示す伸びを有する実施例2〜4のロール状トイレットペーパーを製造した。巻長、巻径、プライ数、坪量は表1に示す値とした。
【0055】
(比較例1〜3)
ヤンキードライヤーの周速およびトイレットペーパー原紙のリールへの巻き取り速度を実施例1と異なるようにしたこと以外は実施例1と同じ材料・条件とし、表1に示す伸びを有する比較例1〜3のロール状トイレットペーパーを製造した。なお、比較例1については3プライ、比較例2〜3については2プライで製造した。巻長、巻径、坪量は表1に示す値とした。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、各比較例の1プライあたり、すなわちトイレットペーパー原紙1枚当たりの吸水量は、28mg/プライ数以下であったのに対し、各実施例のロール状トイレットペーパーのトイレットペーパー原紙1枚当たりの吸水量は、いずれもそれを上回る値であり、全てが30mg/プライ数以上であり、良好であった。すなわち、速乾性(速吸性)に優れたものとなった。また、伸びが31.4%以下のトイレットペーパーは、断紙などの問題が発生することなく作製することができた。
【0058】
また、ロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー1組当たりの伸びは、各比較例が16.9%以下の値であるが、各実施例はいずれもそれを上回る値となるように製造した。
【0059】
以上の実施例および比較例によると、ロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパーについての伸びの数値が大きいほど、トイレットペーパーを構成するトイレットペーパー原紙1枚あたりの吸水量が多い傾向にあり、伸びの数値の大きさと吸水量の多さとの間には相関関係が見られた。また、伸びが16.9%を超えるようにすれば吸水量(上記した速乾性/速吸性を示す本願発明者による新たな指標)が25mg/プライを超えた良好なトイレットペーパーとなることが分かった。伸びを19.1%以上とすると吸水量が30mg/プライ以上となり、21.3%以上とすると吸水量が35mg/プライ以上となることが分かった。すなわち、伸びを21.3%以上にすると、比較例(従来例)において3プライにすることで実現する吸水量75〜84mg/組(一組あたりの吸水量)に対して、実施例1〜3ではそれと同等の吸水量70〜72mg/組を2プライで実現できることが分かった。
【0060】
上記傾向は伸びが高くなればなるほど吸水量が高くなることを示しているが、少なくとも伸びが31.4%になるまでは製造上の問題も生じることなく上記性能を実現できることがわかった。
【0061】
以上のことから、本実施形態によれば、吸水量の多いロール状トイレットペーパーが得るためには、ロール状トイレットペーパーを製造するための諸条件を、ロール状トイレットペーパーを構成するトイレットペーパーについての伸びの数値が大きくなるように設定すればよい。つまり、トイレットペーパーがシングルプライである場合はもちろん、マルチプライである場合であってもマルチプライを構成する各トイレットペーパー原紙の物性を別々に規定することなく、トイレットペーパー全体としての総合的な伸びを制御すればよい。
【0062】
本発明の実施形態において、伸びの値は、上記した以外の方法によっても制御できる。すなわち、ロール状トイレットペーパーの各製造工程の製造条件を適宜設定することにより、制御することができる。
【0063】
例えば、非限定的な1つの例として、トイレットペーパー原紙を抄造する際に、湿紙ウェブに凹凸フェルトを押し付けることにより、トイレットペーパーに凹凸を形成することができ、これによりロール状トイレットペーパーの伸びの値を向上させ得る。また、ヤンキードライヤーと巻取りリールとの速度差を設けることによりトイレットペーパー原紙にあらかじめクレープを付与することができ、これによりロール状トイレットペーパーの伸びの値を向上させ得る。同様に、トイレットペーパー原紙を抄造工程において、その他任意の公知のクレープ付与手法を施すことにより、ロール状トイレットペーパーの伸びの値を向上させ得る。
【0064】
また、複数のトイレットペーパー原紙をプライマシンにかけて積層させる工程や、エンボス加工を施す工程、ロール状トイレットペーパーを巻き取る工程等において、ワインダーやリワインダーにトイレットペーパー原紙またはトイレットペーパーの原反をかけて巻き取る際に掛かる張力により、伸びの値は低減する方向に向かう。したがって、このような工程において、巻取り速度を遅くするなど、張力が低くなるような設定をすることにより、伸びの値の低減を抑制し得る。
【0065】
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことは理解されよう。