特許第6816656号(P6816656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6816656複合樹脂粒子、複合樹脂発泡粒子、複合樹脂発泡粒子成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816656
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】複合樹脂粒子、複合樹脂発泡粒子、複合樹脂発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/00 20060101AFI20210107BHJP
   C08J 9/18 20060101ALI20210107BHJP
   C08J 9/232 20060101ALI20210107BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20210107BHJP
   B29C 44/02 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   C08F255/00
   C08J9/18
   C08J9/232
   B29C44/00 G
   B29C44/02
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-110417(P2017-110417)
(22)【出願日】2017年6月2日
(65)【公開番号】特開2018-203871(P2018-203871A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕太
(72)【発明者】
【氏名】越田 展允
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270209(JP,A)
【文献】 特開2008−133449(JP,A)
【文献】 特開2011−195627(JP,A)
【文献】 特開2015−183111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂にスチレン系単量体を含浸重合させた複合樹脂を基材樹脂とする複合樹脂粒子において、
上記複合樹脂は、5〜35質量%の上記オレフィン系樹脂に由来する成分と、65〜95質量%の上記スチレン系単量体に由来する成分とを含み(ただし、両者の合計が100質量%である。)、
上記スチレン系単量体は、スチレンと多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含み、
上記複合樹脂のメチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度が108℃以上である、複合樹脂粒子。
【請求項2】
全反射吸収赤外分光分析により測定された、上記複合樹脂粒子の表面の赤外線吸収スペクトルにおける波数1730cm-1及び波数2850cm-1での吸光度比As1730/2850と、上記複合樹脂粒子の中心断面の赤外線吸収スペクトルにおける波数1730cm-1及び波数2850cm-1での吸光度比Ai1730/2850との比As1730/2850/Ai1730/2850が1.0以下である、請求項1に記載の複合樹脂粒子。
【請求項3】
上記複合樹脂が、5質量%以上20質量%未満の上記オレフィン系樹脂に由来する成分と、80質量%を超え95質量%以下の上記スチレン系単量体に由来する成分とを含む(ただし、両者の合計が100質量%である。)、請求項1又は2に記載の複合樹脂粒子。
【請求項4】
上記スチレン系単量体中の多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルの含有量が20質量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合樹脂粒子。
【請求項5】
上記多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルが、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダンマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートから選択される1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合樹脂粒子。
【請求項6】
上記オレフィン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合樹脂粒子。
【請求項7】
上記オレフィン系樹脂がエチレンとエステル基を有するビニル化合物との共重合体をさらに含有する、請求項6に記載の複合樹脂粒子。
【請求項8】
上記共重合体がエチレン−酢酸ビニル共重合体である、請求項7に記載の複合樹脂粒子。
【請求項9】
上記複合樹脂粒子の平均粒子径が1.0〜2.0mmである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合樹脂粒子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合樹脂粒子を発泡してなる、複合樹脂発泡粒子。
【請求項11】
請求項10に記載の複合樹脂発泡粒子を型内成形してなる、複合樹脂発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体が含浸重合された複合樹脂を基材樹脂とし、発泡粒子の製造に用いられる複合樹脂粒子、複合樹脂粒子を発泡してなる複合樹脂発泡粒子、及び複合樹脂発泡粒子が相互に融着した成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂やスチレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子を型内成形して相互に融着させてなる発泡成形体は、その優れた緩衝性、軽量性、断熱性等の特性を生かして、包装材料、建築材料、衝撃吸収材料等の幅広い用途に利用されている。
【0003】
オレフィン系樹脂発泡成形体は、耐衝撃性、靱性、圧縮後の復元性に特に優れているため、精密部品及び重量の大きな製品等の梱包材や包装材として利用されている。また、オレフィン系樹脂の中でもプロピレン系樹脂は、耐熱性や耐油性にも優れているため、その発泡成形体が、衝撃吸収材、バンパ、フロアースペーサー等の自動車部材としても利用されている。
【0004】
しかしながら、オレフィン系樹脂発泡成形体は、スチレン系樹脂発泡成形体に比べて剛性が低いという課題を有している。また、オレフィン系樹脂発泡成形体は、機械的物性の温度依存性が大きく、特に、プロピレン系樹脂発泡成形体は、低温度域での機械的物性の変化が大きいという特性を有している。
【0005】
オレフィン系樹脂が有する優れた靭性を維持しつつ、剛性を付与するために、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体を含浸重合してなる、オレフィン系樹脂成分とスチレン系樹脂成分とを含む複合樹脂を基材樹脂とする発泡粒子成形体が開発されている。具体的には、複合樹脂中のオレフィン系樹脂として、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの混合物を用いることにより、−35〜65℃という広い温度範囲に亘って、機械的特性の温度依存性を抑制する技術が知られている(特許文献1参照)。さらに、複合樹脂中のスチレン系樹脂成分の割合を高めることにより、−30〜65℃という広い温度範囲に亘って、機械的物性の温度依存性をより小さくする技術が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−193789号公報
【特許文献2】特開2015−172155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、例えば自動車用のエネルギー吸収材には、機械的物性の温度依存性が小さいという特性だけではなく、65℃よりもはるかに高い温度領域での耐熱性が求められている。しかしながら、特許文献1に記載されている技術のように、複合樹脂の成分として高密度ポリエチレンなどの融点の高いオレフィン系樹脂を用いても、高温領域での発泡粒子成形体の耐熱性を改善することはできなかった。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、内部融着が良好で靭性に優れ、圧縮物性の耐温度依存性が良好であり、耐熱性に優れた成形体を得ることができる複合樹脂粒子、複合樹脂発泡粒子、及び該複合樹脂発泡粒子を用いた成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体を含浸重合させた複合樹脂を基材樹脂とする複合樹脂粒子において、
上記複合樹脂は、5〜35質量%の上記オレフィン系樹脂に由来する成分と、65〜95質量%の上記スチレン系単量体に由来する成分とを含み(ただし、両者の合計が100質量%である。)、
上記スチレン系単量体は、スチレンと多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含み、
上記複合樹脂のメチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度が108℃以上である、複合樹脂粒子にある。
【0010】
本発明の他の態様は、複合樹脂粒子を発泡してなる、複合樹脂発泡粒子にある。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、複合樹脂発泡粒子を型内成形してなる、複合樹脂発泡粒子成形体にある。
【発明の効果】
【0012】
上記複合樹脂粒子は、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体を含浸重合させた複合樹脂を基材樹脂とし、上記オレフィン系樹脂由来の成分と、上記スチレン系単量体由来の成分との含有割合が上記所定の範囲に調整されており、複合樹脂中のスチレン系単量体由来の成分の含有割合が高い。そのため、該複合樹脂粒子を発泡させた複合樹脂発泡粒子(以下、適宜「発泡粒子」という)は、内部融着が良好で靱性に優れ、圧縮物性等の機械的物性の温度依存性が低い複合樹脂発泡粒子成形体(以下、適宜「成形体」という)の製造を可能にする。さらに、上記のように、スチレンと多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含むスチレン系単量体がオレフィン系樹脂に含浸重合されており、複合樹脂のメチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度が上記所定値以上に調整されている。そのため、例えば95℃という高温での加熱寸法変化率が小さく耐熱性に優れた成形体の製造が可能になる。
【0013】
上記複合樹脂粒子を発泡してなる発泡粒子は、例えば型内成形により、発泡粒子が相互に融着した成形体の製造に用いることができる。成形体は、内部融着が良好で靱性に優れ、圧縮物性等の機械的物性の温度依存性が低く、耐熱性に優れる。したがって、成形体は、これらの特性が要求される各種用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における、共重合成分の含有量(ただし、仕込み量)とガラス転移温度との関係を示す図。
図2】実施例における、共重合成分の含有量(ただし、仕込み量)と95℃における加熱寸法変化率との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(複合樹脂粒子)
次に、上記複合樹脂粒子の好ましい実施形態について説明する。複合樹脂粒子は、これを発泡させることにより、発泡粒子を製造するために用いられる。さらに、発泡粒子は、例えば型内成形により成形体を得るために用いられる。すなわち、多数の発泡粒子を成形型内に充填し、成形型内で複合樹脂発泡粒子同士を相互に融着させることにより、所望形状の成形体を得ることができる。
【0016】
複合樹脂粒子は、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体が含浸重合された複合樹脂を基材樹脂とする。本明細書において、複合樹脂は、上述のようにオレフィン系樹脂にスチレン系単量体等が含浸、重合された樹脂であり、オレフィン系樹脂由来の成分と、スチレン系単量体由来の成分とを含有する樹脂である。通常、スチレン系単量体由来の成分の主成分は、スチレン系単量体が重合してなるスチレン系樹脂である。また、スチレン系単量体の重合時には、スチレン系単量体同士の重合だけでなく、オレフィン系樹脂を構成するポリマー鎖にスチレン系単量体のグラフト重合が起こる。この場合、複合樹脂は、上記オレフィン系樹脂成分と、スチレン系単量体が重合してなるスチレン系樹脂成分とを含有するだけでなく、さらにスチレン系単量体がグラフト重合したオレフィン系樹脂成分(すなわち、PO−g−PS成分)を含有する。また、スチレン系単量体の重合時には、オレフィン系樹脂の架橋が起こる場合があり、この場合には、複合樹脂は、オレフィン系樹脂成分として、架橋していないオレフィン系樹脂と架橋したオレフィン系樹脂を含む。したがって、複合樹脂は重合済みのオレフィン系樹脂と重合済みのスチレン系樹脂とを溶融混練してなる混合樹脂とは異なる概念である。
【0017】
上記複合樹脂粒子では、複合樹脂が5〜35質量%のオレフィン系樹脂由来の成分と、65〜95質量%のスチレン系単量体由来の成分とを含む(ただし、両者の合計が100質量%である。)。オレフィン系樹脂由来の成分とスチレン系単量体由来の成分との含有割合を上記範囲内で任意に調整することによって、温度変化によって圧縮物性等の機械的物性が大きく変動することがない成形体を得ることができる。オレフィン系樹脂由来の成分が多すぎる(スチレン系単量体由来の成分が少なすぎる)場合には、温度に対する機械的物性の変化が大きくなる。また、オレフィン系樹脂由来の成分が少なすぎる(スチレン系単量体由来の成分が多すぎる)場合には、成形体が割れやすく脆いものとなる。尚、温度に対する成形体の機械的物性変化は、複合樹脂中のオレフィン系樹脂成分とスチレン系樹脂成分との比率に起因し、機械的物性の測定温度領域(例えば−30℃〜65℃)でガラス転移が起こらないスチレン系樹脂の比率を多くすることによって、温度に対する機械的物性変化が小さくなると考えられる。
【0018】
成形体の機械的物性の温度依存性を低くし、また、剛性をより向上させるという観点から、複合樹脂は、30質量%以下のオレフィン系樹脂由来の成分と、70質量%以上のスチレン系単量体由来の成分とを含む(ただし、両者の合計が100質量%である。)ことがより好ましく、25質量%未満のオレフィン系樹脂由来の成分と、75質量%を超えるスチレン系単量体由来の成分とを含む(ただし、両者の合計が100質量%である。)ことがさらに好ましく、20質量%未満のオレフィン系樹脂由来の成分と、80質量%を超えるスチレン系単量体由来の成分とを含む(ただし、両者の合計が100質量%である。)ことが特に好ましい。また、成形体の靭性、復元性を向上させるという観点から、10質量%以上のオレフィン系樹脂由来の成分と、90質量%以下のスチレン系単量体由来の成分とを含む(ただし、両者の合計が100質量%である。)ことがより好ましい。なお、本明細書において、数値範囲の上限及び下限に関する好ましい範囲、より好ましい範囲、さらに好ましい範囲は、上限及び下限の全ての組み合わせから決定することができる。
【0019】
(オレフィン系樹脂)
オレフィン系樹脂としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等のエチレン系樹脂を用いることができる。また、オレフィン系樹脂としては、例えばプロピレンホモ重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−4-メチル−1−ペンテン共重合体等のプロピレン系樹脂を用いることもできる。また、オレフィン系樹脂としては、1種の重合体でもよいが又は2種以上の重合体の混合物を用いることもできる。
【0020】
複合樹脂粒子の発泡性が向上すると共に、発泡粒子が優れた型内成形性を示すことから、オレフィン系樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。この場合、成形体の靱性をより向上させることができる。この効果をより高めるという観点から、オレフィン系樹脂中の直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。このような比較的融点が低いオレフィン系樹脂を用いても、上記樹脂粒子は、上述の所定構成の複合樹脂を含有しているため、温度に対する機械的物性変化が小さく、かつ優れた耐熱性を示すことが可能になる。
【0021】
オレフィン系樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレンを含有すると共に、エチレンとエステル基を有するビニル化合物との共重合体を含有することが好ましい。すなわち、オレフィン系樹脂は、エチレンとエステル基を有するビニル化合物との共重合体と、直鎖状低密度ポリエチレンとの混合物(すなわち、混合樹脂)であることが好ましい。この場合には、直鎖状低密度ポリエチレンに由来する優れた発泡性、型内成形性を維持しつつ、該共重合体を含むことにより、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体が含浸されやすくなり、成形体における靱性をより高めることができる。
【0022】
オレフィン系樹脂が、エチレンとエステル基を有するビニル化合物との共重合体を含有する場合には、オレフィン系樹脂中の該共重合体の含有量は20〜40質量%であることが好ましく、25〜35重量%であることがより好ましい。
【0023】
直鎖状低密度ポリエチレンとしては、メタロセン重合触媒を用いたものが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと1−ブテンや1−ヘキセン等のα−オレフィンとの共重合体であり、密度が910〜925kg/m3のものを意味する。
【0024】
エステル基を有するビニル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル等の不飽和ジカルボン酸エステル等から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。したがって、エチレンとエステル基を有するビニル化合物との共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを含む概念であり、これらの一方、又は双方を意味する。オレフィン系樹脂にスチレン系単量体がより含浸されやすくなり、成形体の靱性をより向上できるという観点から、該共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。
【0025】
温度190℃、荷重2.16kgの条件における直鎖状低密度ポリエチレンのメルトマスフローレイト(すなわち、MFR)は、発泡性の向上の観点から、0.5〜4.0g/10分が好ましく、1.0〜3.0g/10分がより好ましい。なお、オレフィン系樹脂のMFRは、JIS K7210−1:2014に基づいて測定される、温度190℃、荷重2.16kgの条件における値である。また、測定装置としては、メルトインデクサー(例えば宝工業(株)製の型式L203など)を用いることができる。
【0026】
また、オレフィン系樹脂の融点Tmは、80℃〜115℃であることが好ましい。この場合には、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体を充分に含浸させることができ、重合時に懸濁系が不安定化することを防止することができる。その結果、スチレン系樹脂の優れた機械的物性とオレフィン系樹脂の優れた粘り強さとをより高いレベルで兼ね備えた成形体を得ることが可能になる。同様の観点から、オレフィン系樹脂の融点(Tm)は85〜110℃であることがより好ましい。なお、オレフィン系樹脂の融点(Tm)は、JIS K7121−1987に基づいて、示差走査熱量測定(DSC)にて融解ピーク温度として測定することができる。試験片の状態調節として、「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を採用する場合」を採用し、加熱温度、冷却温度は共に10℃/分とする。また、DSC曲線に融解ピークが2個以上存在する場合には最も低温側の融解ピークをオレフィン系樹脂の融点(Tm)とする。
【0027】
(スチレン系樹脂)
複合樹脂は、スチレン系単量体が重合してなるスチレン系樹脂成分を含有する。なお、本明細書では、スチレン系樹脂成分を構成するスチレン、必要に応じて添加されるスチレンと共重合可能なモノマーを、併せてスチレン系単量体と称することがある。スチレン系単量体中のスチレンの割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。スチレンと共重合可能なモノマーとしては、例えば後述のスチレン誘導体、その他のビニルモノマー等があるが、スチレン系単量体は、少なくともスチレンと多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含む。多環式炭化水素基の炭素数は10〜20であることが好ましい。本明細書においては、多環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルのことを以下適宜「多環式基含有エステル」という。
【0028】
上記のごとく、スチレン系単量体がスチレンと多環式基含有エステルとを含むため、複合樹脂はスチレン系樹脂成分としてスチレン−多環式基含有エステル共重合体成分を含む。これにより、スチレン系樹脂成分のガラス転移温度が高められ、その結果、成形体の耐熱性を高めることができる。また、スチレン−多環式基含有エステル共重合体成分を含むことで、成形体の機械的物性の耐温度依存性を向上させることができる。かかる観点からスチレン系単量体中の多環式基含有エステルの含有量は15質量%以上であることが好ましい。含浸重合時における重合安定性をより向上させると共に、成形体の耐熱性をより向上させるという観点から、スチレン系単量体中の多環式基含有エステルの含有量は16〜45質量%であることがより好ましく、18〜40質量%であることがさらに好ましく、20〜35質量%であることが特に好ましい。
【0029】
多環式基含有エステルは、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダンマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートから選択される1種以上であることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子のスチレン系樹脂成分のガラス転移温度を高めることができ、成形体の耐熱性をより向上させることができる。また、上記多環式基含有エステルは親油性が高く、スチレン系単量体との親和性が高いため、後述の改質工程において、上記多環式基含有エステルを含むスチレン系単量体が核粒子に含浸されやすくなり、複合樹脂粒子製造時における重合安定性を向上させることができる。そのため、発泡粒子成形体としたときに、所望の物性が発揮されやすくなる。また、耐熱性と重合安定性をさらに向上させるという観点から、後述する実施例に示すように、スチレン系単量体はスチレンとメタクリル酸イソボルニルであることがより好ましい。
【0030】
スチレン系単量体としては、以下のスチレン誘導体、その他のビニルモノマー等をさらに含有することもできる。
スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、単独でも2種類以上を混合したものを用いても良い。
【0031】
また、その他のビニルモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、水酸基を含有するビニル化合物、ニトリル基を含有するビニル化合物、有機酸ビニル化合物、オレフィン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物、マレイミド化合物などが挙げられる。これらのビニルモノマーは、単独でも2種類以上を混合したものを用いても良い。
【0032】
また、本発明の効果を阻害しない範囲において、複合樹脂は、上記したオレフィン系樹脂成分やスチレン系樹脂成分以外の、その他の樹脂成分を含むことができる。その他の樹脂成分としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール等が挙げられる。その場合、その他の樹脂成分の含有量は、複合樹脂(その他の樹脂成分を含む)100質量%に対して、概ね10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0033】
複合樹脂のメチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度は、108℃以上である。Tgが低すぎる場合には、耐熱性が不足するおそれがある。耐熱性をより向上させるという観点から、Tgは、110℃以上がより好ましい。一方、成形性を向上させるという観点からは、Tgは135℃以下であることが好ましく、130℃以下がより好ましく、125℃以下がさらに好ましい。なお、複合樹脂中のメチルエチルケトン可溶分は、主にスチレン系樹脂(スチレン−多環式基含有エステル共重合体成分)である。上記ガラス転移温度は、JIS K7121−1987に基づき求められる中間点ガラス転移温度を意味する。試験片の状態調節として「(3)一定の熱処理を行なった後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用する。
【0034】
複合樹脂粒子は、上述のごとく、スチレンと多環式基含有エステルとを含むスチレン系単量体がオレフィン系樹脂に含浸重合された複合樹脂を含有し、複合樹脂粒子の表面における吸光度比As1730/2850と中心断面における吸光度比Ai1730/2850との比As1730/2850/Ai1730/2850が1.0以下であることが好ましい。これは、複合樹脂粒子中に多環式基含有エステル成分が均一に分布していること、または、複合樹脂粒子の表面における多環式基含有エステル成分の含有割合が複合樹脂粒子の内部に比べて少ないことを意味している。この場合には、複合樹脂粒子は、より融着性に優れた発泡粒子の製造を可能にし、内部融着のより良好な成形体の製造を可能にする。それ故、成形体の靱性がより向上する。
【0035】
成形体における発泡粒子同士の融着性をより向上させるという観点から、As1730/2850/Ai1730/2850は0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。As1730/2850/Ai1730/2850は、例えばスチレン系単量体として使用する多環式基含有エステルの量や、多環式基含有エステルの添加のタイミングを調整することにより上述の範囲に調整することができる。タイミングの調整としては、例えば、多環式基含有エステルを後述の第2モノマーとして添加する方法や、後述のシード比を調整する方法などがある。
【0036】
As1730/2850は、赤外全反射吸収測定法によって測定される複合樹脂粒子の表面の赤外線吸収スペクトルにおける波数2850cm-1での吸光度As2850に対する波数1730cm-1における吸光度As1730の比である。As1730/2850=As1730/As2850の関係が成り立つ。また、Ai1730/2850は、赤外線全反射吸収法によって測定される複合樹脂粒子の断面の赤外線吸収スペクトルにおける波数2850cm-1での吸光度Ai2850に対する波数1730cm-1における吸光度Ai1730の比である。Ai1730/2850=Ai1730/Ai2850の関係が成り立つ。
【0037】
赤外全反射吸収測定法によって測定される合樹脂粒子の赤外線吸収スペクトルにおいて、波数1730cm-1における吸光度As1730及び吸光度Ai1730は、多環式基含有エステル成分のカルボニル基のC=O伸縮振動に由来する、波数1730cm−1付近に現れるピークから求められる値である。一方、波数2850cm-1における吸光度As2850及び吸光度Ai2850は、オレフィン系樹脂成分及びスチレン系樹脂成分のメチレン基のC−H対称伸縮振動に由来する、波数2850cm−1付近に現れるピークから求められる値である。
【0038】
As1730/2850の値が大きいということは、複合樹脂粒子の表面付近に含まれる多環式基含有エステル成分の割合が高いことを意味する。一方、Ai1730/2850の値が大きいということは、複合樹脂全体に含まれる多環式基含有エステル成分の割合が高いことを意味する。
多環式基含有エステル成分は、主にスチレンと共重合し、スチレン−多環式基含有エステル共重合体として複合樹脂中に存在しており、スチレン系樹脂は多環式基含有エステルを共重合成分として含むことにより、そのガラス転移温度が向上する。
【0039】
上記複合樹脂粒子においては、スチレン系単量体との親和性が高い上記多環式基含有エステルを用いると共に、後述する重合条件を採用することにより、スチレン系樹脂成分のガラス転移点を高めるために多環式基含有エステル成分を多く含む場合であっても、スチレン系樹脂成分が複合樹脂の表面に偏在することを抑制でき、発泡粒子同士の融着性をさらに良好なものとすることができる。
【0040】
吸光度比As1730/2850/Ai1730/2850が1.0以下であるということは、複合樹脂粒子中に多環式基含有エステル成分が均一に分布していること、または、複合樹脂粒子全体に対して表面付近の多環式基含有エステル成分が少ないことを意味し、複合樹脂粒子表面付近のスチレン系樹脂のガラス転移温度が過度に高くなっていないため、このような複合樹脂粒子を発泡してなる発泡粒子は融着性に優れたものとなる。
【0041】
成形時における成形型内への充填性を向上させるという観点から、複合樹脂粒子の平均粒子径は、2.0mm以下であることが好ましく、1.8mm以下であることがより好ましい。一方、その下限は1.0mm程度である。平均粒子径は、後述の方法によって求めた粒度分布における体積積算値63%での粒径(すなわち、d63)を意味する。
【0042】
(核粒子の造粒方法)
核粒子は、必要に応じて添加される添加剤をオレフィン系樹脂に配合し、配合物を溶融混練してから造粒することにより製造できる。添加剤としては、気泡調整剤、着色剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、耐候剤、分散径拡大剤等がある。溶融混練は押出機により行うことができる。均一な混練を行うためには、予め樹脂を混合した後に押出を行うことが好ましい。溶融混練は、例えばダルメージタイプ、マドックタイプ、ユニメルトタイプ等の高分散タイプのスクリュを備えた単軸押出機や二軸押出機を用いて行うことが好ましい。
【0043】
核粒子の造粒は、例えばストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式、ホットカット方式等によって行うことができる。
【0044】
気泡調整剤としては、脂肪酸モノアミド、脂肪酸ビスアミド、タルク、シリカ、ポリエチレンワックス、メチレンビスステアリン酸、硼酸亜鉛、明礬、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
着色剤としては、顔料、染料のいずれも用いることができ、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックや、黒鉛、炭素繊維等の炭素系顔料を用いることが好ましい。
難燃剤としては、例えばヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA系化合物、トリメチルホスフェート、臭素化ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水酸化アルミニウム等を用いることができる。
【0045】
(複合粒子の製造方法)
複合樹脂粒子は、オレフィン系樹脂を含有する核粒子にスチレン系単量体を含浸、重合させて得られる。複合樹脂粒子は、例えば以下のように分散工程及び改質工程を行うことにより得られる。分散工程においては、まず、オレフィン系樹脂を主成分とする核粒子を水性媒体中に分散させて分散液を作製する。
【0046】
水性媒体としては、例えば脱イオン水を用いることができる。核粒子は、懸濁剤とともに水性媒体中に分散させることが好ましい。この場合には、スチレン系単量体を水性媒体中に均一に懸濁させることができる。懸濁剤としては、例えばリン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第2鉄、水酸化チタン、水酸化マグネシウム、リン酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、ベントナイト等の微粒子状の無機懸濁剤を用いることができる。また、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の有機懸濁剤を用いることもできる。好ましくは、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウムがよい。これらの懸濁剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
懸濁剤の使用量は、懸濁重合系の水性媒体(具体的には、反応生成物含有スラリーなどの水を含む系内の全ての水)100質量部に対して、固形分量で0.05〜10質量部が好ましい。より好ましくは0.3〜5質量部がよい。懸濁剤を上記範囲にすることで、改質工程において、スチレン系単量体を安定して懸濁させることができると共に、改質工程後に得られる複合樹脂粒子の粒子径分布が広がることを抑制することができる。
【0048】
水性媒体には、界面活性剤からなる分散剤を添加することができる。界面活性剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。これらの界面活性剤は、単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0049】
アニオン系界面活性剤としては、例えばアルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等を用いることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等を用いることができる。
【0050】
また、水性媒体には、必要に応じて、例えば塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等の無機塩類からなる電解質を添加することができる。また、靭性、機械的強度により優れた成形体を得るためには、水性媒体に水溶性重合禁止剤を添加することが好ましい。水溶性重合禁止剤としては、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸アンモニウム、L−アスコルビン酸、クエン酸等を用いることができる。複合樹脂粒子の最表面付近におけるスチレン系樹脂成分の量を低減する観点から、水溶性重合禁止剤の添加量は、水性媒体(具体的には、反応生成物含有スラリーなどの水を含む系内の全ての水)100質量部に対して0.001〜0.1質量部が好ましく、より好ましくは0.005〜0.06質量部がよい。
【0051】
改質工程においては、水性媒体中において、スチレン系単量体を核粒子に含浸、重合させる。なお、スチレン系単量体等の重合は、重合開始剤の存在下で行うことができる。この場合には、スチレン系単量体等の重合と共に、エチレン系樹脂等のオレフィン系樹脂の架橋が生じることがある。また、必要に応じて架橋剤を併用することができる。重合開始剤、架橋剤を使用する際には、予めスチレン系単量体に重合開始剤、架橋剤を溶解させておくことが好ましい。
【0052】
重合開始剤としては、スチレン系単量体の懸濁重合法に用いられるものを用いることができる。例えばスチレン系単量体に可溶で、1時間半減期温度が70〜140℃である重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えばラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物を用いることができる。また、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ化合物等を用いることができる。これらの重合開始剤は1種類、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、スチレン系単量体を核粒子内部まで含浸させやすいという観点から1時間半減期温度が100〜140℃である重合開始剤が好ましく、ジクミルパーオキサイドを用いることが好ましい。重合開始剤は、スチレン系単量体100質量部に対して0.01〜3質量部で使用することが好ましい。
【0053】
また、架橋剤としては、1時間半減期温度が110〜160℃の架橋剤を用いることが好ましい。具体的には、例えばt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジt−ブチルパーオキサイド等の過酸化物を用いることができる。架橋剤は、単独または2種類以上併用して用いることができる。架橋剤の配合量は、スチレン系単量体100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。なお、重合開始剤及び架橋剤としては、同じ化合物を採用することもできる。
【0054】
核粒子にスチレン系単量体を含浸させて重合させるにあたって、核粒子を分散させた水性媒体中に、配合予定のスチレン系単量体の全量を例えば2以上に分割し、これらのモノマーを異なるタイミングで添加することが好ましい。具体的には、配合予定のスチレン系単量体の全量のうちの一部を、核粒子が分散された水性媒体中に添加して、スチレン系単量体を含浸、重合させつつ、次いで、さらに配合予定のスチレン系単量体の残部を1回又は2回以上に分けて水性媒体中に添加することができる。後者のように、スチレン系単量体を分割して添加することにより、重合時の樹脂粒子同士の凝結を抑制することや、複合樹脂発泡粒子表面における多環式基含有エステル成分の含有量を少なくすることが可能になる。
【0055】
また、重合開始剤は、スチレン系単量体に溶解させた状態で、水性媒体中に添加することができる。上述のごとく、配合予定のスチレン系単量体を2回以上に分割して異なるタイミングで添加する場合には、いずれのタイミングで添加されるスチレン系単量体にも重合開始剤を溶解させることができ、異なるタイミングで添加される各スチレン系単量体に重合開始剤を添加することもできる。スチレン系単量体を分割して添加する場合には、少なくとも最初に添加されるスチレン系単量体(以下、「第1モノマー」という)には重合開始剤を溶解させておくことが好ましい。第1モノマーには、配合予定の重合開始剤の全量のうちの75%以上を溶解させることが好ましく、80%以上を溶解させておくことがより好ましい。この場合には、重合時に懸濁系が不安定化することを防止することができる。その結果、スチレン系樹脂の優れた剛性とオレフィン系樹脂の優れた粘り強さとをより高いレベルで兼ね備えた成形体を得ることが可能になる。また、上述のように、配合予定のスチレン系単量体の一部を第1モノマーとして添加する場合には、配合予定のスチレン系単量体の全量のうちの残部を第2モノマーとして、第1モノマーの添加後に第1モノマーとは異なるタイミングで添加することができる。なお、第2モノマーをさらに分割して添加することや、第2モノマーを所定の時間をかけて連続的に添加することもできる。
【0056】
配合予定のスチレン系単量体を2回以上に分割して異なるタイミングで添加する場合には、2回目以降のタイミングで添加されるスチレン系単量体が多環式基含有エステルを含有することが好ましい。1回目に添加するスチレン系単量体中に多環式基含有エステルを添加してもよいが、添加予定の多環式基含有エステルの総量のうちの90質量%以上は、例えば第2モノマーとして2回目以降のタイミングで添加することが好ましい。1回目に添加するスチレン系単量体中の多環式基含有エステルの含有量を0にすることや、例えば10質量%以下にまで少なくすることにより、多環式基含有エステルが核粒子に含浸重合されやすくなり、上述のAs1730/2850/Ai1730/2850を1.0以下にすることが容易になる。多環式基含有エステルをより十分に含浸重合させるという観点から、1回目に添加するスチレン系単量体は多環式基含有エステルを含有しておらず、2回目以降のタイミングで添加されるスチレン系単量体が多環式基含有エステルを含有することが好ましい。
【0057】
なお、第1モノマーとして添加するスチレン系単量体のシード比(すなわち、核粒子に対する第1モノマーの質量比)は、0.5以上であることが好ましい。この場合には、複合樹脂中のスチレン系樹脂成分の割合が高い場合であっても、第2モノマーの添加量が多くなりすぎることを抑制できるため、スチレン系単量体の含浸性を高めることができ、粒子表面のスチレン系樹脂成分を低減することができる。また、複合樹脂粒子の形状をより球状に近づけることが容易になる。同様の観点から、シード比は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。また、シード比は、1.5以下であることが好ましい。この場合には、複合樹脂中のスチレン系単量体由来の成分の割合が高い場合であっても、スチレン系単量体の含浸性を高めることができ、スチレン系単量体を核粒子に十分に含浸させることができる。また、スチレン系単量体が核粒子に充分に含浸される前に重合することをより防止することができ、樹脂の塊状物の発生をより防止することができる。同様の観点から、第1モノマーのシード比は、1.3以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。
【0058】
核粒子中のオレフィン系樹脂の融点Tm(℃)と、改質工程における含浸重合温度Tp(℃)とが、Tm−10≦Tp≦Tm+30の関係を満足することが好ましい。この場合には、複合樹脂中のスチレン系樹脂成分の割合が高い場合であっても、オレフィン系樹脂にスチレン系単量体を充分に含浸させることができ、重合時に懸濁系が不安定化することを防止することができる。特に、上記含浸重合温度の範囲と、上述した第1モノマーのシード比の範囲と、第1モノマー中の多環式基含有エステルの含有量の低減を組み合わせることで、複合樹脂中のスチレン系樹脂成分の割合が高い場合であっても、As1730/2850/Ai1730/2850を1.0以下にすることができる。また、改質工程における含浸重合温度Tp(℃)と、架橋温度Tx(℃)とが、Tp+10≦Tx≦Tp+30の関係を満足することが好ましい。この場合、複合樹脂中のオレフィン系樹脂を十分に架橋させることができ、発泡粒子の内部融着が良好であり、靱性にも優れた成形品を得ることができる。
【0059】
また、スチレン系単量体には、必要に応じて可塑剤、油溶性重合禁止剤、難燃剤、着色剤、気泡調整剤、連鎖移動剤等を添加することができる。可塑剤としては、例えば脂肪酸エステル、アセチル化モノグリセライド、油脂類、炭化水素化合物等を用いることができる。脂肪酸エステルとしては、例えばグリセリントリステアレート、グリセリントリオクトエート、グリセリントリラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ブチルステアレート等を用いることができる。また、アセチル化モノグリセライドとしては、例えばグリセリンジアセトモノラウレート等を用いることができる。油脂類としては、例えば硬化牛脂、硬化ひまし油等を用いることができる。炭化水素化合物としては、例えばシクロヘキサン、流動パラフィン等を用いることもできる。また、油溶性重合禁止剤としては、例えばパラ−t−ブチルカテコール、ハイドロキノン、ベンゾキノン等を用いることができる。難燃剤、着色剤、気泡調整剤としては、前述したものと同様のものを用いることができる。連鎖移動剤としては、例えばn−ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー等を用いることができる。上記添加剤は、単独または2種以上の組合せで添加することができる。
【0060】
上述の可塑剤、油溶性重合禁止剤、難燃剤、着色剤、連鎖移動剤等の添加剤は、溶剤に溶解させて核粒子に含浸させることもできる。溶剤としては、例えばエチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素等を用いることができる。
【0061】
(発泡方法)
複合樹脂粒子を発泡させることにより発泡粒子を得ることができる。発泡方法としては、特に限定されるものではないが、例えばガス含浸予備発泡方法、分散媒放出発泡方法、或いはこれらの方法、原理を基本としたその他の発泡方法が挙げられる。
【0062】
ガス含浸予備発泡方法においては、重合中、及び/又は重合後の複合樹脂粒子に物理発泡剤等の発泡剤を含浸させて発泡性粒子を作製する。その後、発泡性粒子を予備発泡機に投入し、水蒸気、熱風、或いはそれらの混合物などの加熱媒体にて加熱することにより発泡性粒子を発泡させて発泡粒子を得ることができる。また、作製後の複合樹脂粒子を圧力容器内に充填し、発泡剤を圧入することにより複合樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性粒子を作製することもできる。
【0063】
一方、分散媒放出発泡方法においては、まず、圧力容器内の水性媒体中に分散させた複合樹脂粒子に、加熱、加圧下で発泡剤を含浸させる。次いで、発泡適正温度条件下において、水性媒体と共に発泡剤を含む複合樹脂粒子を圧力容器から圧力容器内よりも低圧下に放出することにより、複合樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得ることができる。発泡剤の含浸には、液相含浸法、気相含浸法を適宜選択できる。
【0064】
物理発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気、ヘリウム、水等の無機発泡剤;メタン、エタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン等の有機発泡剤が挙げられる。好ましくは、無機発泡剤がよい。この場合には、発泡後に発泡粒子から発泡剤が放散し、発泡粒子内に発泡剤が残留しない。そのため、型内成形時に発泡粒子の内圧が過度に上昇しにくく、短時間で成形体の冷却を完了し、成形型から取り出すことが可能となる。また、圧縮物性等の機械的物性の温度依存性は、残存発泡剤量で変化し、残存発泡剤量が多いほど温度依存性が大きくなるため、発泡剤が成形体に残りやすく、徐々に放散していく有機発泡剤より、残存発泡剤量の経時的変化が実質的にない二酸化炭酸、空気、窒素などの無機発泡剤が好ましい。すなわち、温度に対する圧縮物性変化をより小さくできるという観点から、無機発泡剤が好ましい。発泡性により優れるという観点から、二酸化炭素が特に好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例にかかる複合樹脂粒子、発泡粒子、成形体について説明する。なお、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0066】
(実施例1)
(1)核粒子の作製
オレフィン系樹脂として、メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(具体的には、東ソー社製「ニポロンZ HF210K」)を準備した。直鎖状低密度ポリエチレンのことを、以下適宜「LL」という。このLLの融点Tmは、103℃である。また、気泡調整剤として、ホウ酸亜鉛の10質量%濃度マスターバッチ(具体的には、ポリコール社製「CE−7335」、基材樹脂:直鎖状低密度ポリエチレン)を、黒色系の着色剤としてカーボンブラックの40質量%濃度マスターバッチ(具体的には、東京インキ社製「PEX 999018Black」、基材樹脂:直鎖状低密度ポリエチレン)を、それぞれ準備した。さらに、酸化防止剤のマスターバッチ(具体的には、東邦社製「TMB113」、直鎖状低密度ポリエチレン:90質量%、リン系安定剤:6.5質量%、ヒンダードフェノール系酸化防止剤:3.5質量%)を準備した。そして、オレフィン系樹脂15.75kgと、ホウ酸亜鉛のマスターバッチ2.6kgと、黒色剤のマスターバッチ1.65kgと、酸化防止剤のマスターバッチ0.2kgをヘンシェルミキサー(具体的には、三井三池化工機社製;型式FM−75E)に投入し、5分間混合し、樹脂混合物を得た。
次いで、バレル内径26mmの二軸押出機(具体的には、東芝機械社製;型式TEM―26SS)を用いて、樹脂混合物を押出機設定温度250℃で溶融混練し、水中カット方式により平均0.19mg/個に切断することにより、核粒子を得た。
【0067】
(2)複合樹脂粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、室温で30分間撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。次に、オートクレーブ内に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(具体的には、10質量%水溶液)2g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.15g、及び核粒子75gを投入した。
【0068】
次いで、重合開始剤としてのジクミルパーオキサイド1.72g(日油社製「パークミルD(1時間半減期温度:136℃)」)、連鎖移動剤としてのαメチルスチレンダイマー(日油社製「ノフマーMSD」)0.63gを第1モノマー(スチレン系単量体)に溶解させた。そして、この溶解物を撹拌速度500rpmで撹拌しながらオートクレーブ内に投入した。なお、第1モノマーとしてはスチレン75gを用いた。
【0069】
次いで、オートクレーブ内の空気を窒素にて置換した後、昇温を開始し、2時間かけてオートクレーブ内の温度(内容物の温度)を120℃まで昇温させた。昇温後、この温度を120℃で30分間保持した。その後撹拌速度を450rpmに下げ、120℃で7.5時間保持した。尚、120℃に到達してから30分経過時に、第2モノマー(具体的にはスチレン系単量体)として、スチレン243.7gとメタクリル酸イソボルニル106.3gとの混合モノマーを6時間かけてオートクレーブ内に添加した。なお、メタクリル酸イソボルニルのことを、以下適宜「IBOMA」という。
【0070】
次いで、オートクレーブ内の温度を135℃まで2時間かけて昇温させ、そのまま135℃で5時間保持した。その後、オートクレーブ内を冷却させ、複合樹脂粒子を取り出した。次いで、硝酸を添加して複合樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機により脱水及び洗浄を行い、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去した。なお、製造時に用いたスチレン系単量体とオレフィン系樹脂との配合比(具体的には質量比)から、複合樹脂中のスチレン系単量体に由来する成分とオレフィン系樹脂に由来する成分との質量比を求めた。
【0071】
上記のようにして得られた複合樹脂粒子について、製造時に使用した核粒子のオレフィン系樹脂の種類、核粒子の量、スチレン系単量体の配合量、スチレン系単量体中の多環式基含有エステル成分(具体的には、IBOMA)の含有量、重合に使用した重合開始剤の1時間半減期温度、複合樹脂におけるオレフィン系樹脂成分(すなわち、PO)とスチレン系単量体に由来する成分(すなわち、PS)との質量比を表1に示す。さらに、複合樹脂粒子について、平均粒子径d63、メチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度Tg、キシレン不溶分量、アセトン可溶分の重量平均分子量Mw、粒子表面の吸光度比As1730/2850、粒子中心断面の吸光度比Ai1730/28500を以下のようにして測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
「平均粒子径d63」
日機装社製の粒度分布測定装置「ミリトラック JPA」を用いて複合樹脂粒子の粒度分布を測定した。具体的には、まず、測定装置の試料供給フィーダから複合樹脂粒子40gを自由落下させ、投影像をCCDカメラで撮像した。次いで、撮像した画像情報に対して演算・結合処理を順次行い、粒度分布・形状指数結果を出力する画像解析方式の条件で測定を行った。これにより、粒度分布における体積積算値63%での粒径(d63)mmを求めた。この粒径(d63)を平均粒子径とする。
【0073】
「メチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度Tg」
分析ミル(具体的には、IKA社製A−11)によって、複合樹脂粒子3.0gを粒径1mm以下になるまで粉砕した。粉砕物をメチルエチルケトン20mL中に温度23℃で12時間浸漬した後、メチルエチルケトン可溶分を分取した。次いで、メチルエチルケトン可溶分をメタノール50mLに滴下することで得られた白色沈殿物を採取し、十分に乾燥させた。得られたメタノール不溶分2〜4mgについて、ティ・エイ・インスツルメント社製のDSC測定器Q1000を用い、JIS K7121−1987に基づき熱流束示差走査熱量測定を行った。状態調節として、(3)一定の熱処理を行なった後、ガラス転移温度を測定する場合を採用し、そして、加熱速度20℃/分の条件で得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度として、メチルエチルケトン可溶分のガラス転移温度Tgを求めることができる。なお、複合樹脂中のメチルエチルケトン可溶分は、主にスチレン系樹脂である。
【0074】
「キシレン不溶分の含有量(XYゲル量)」
まず、150メッシュの金網袋中に複合樹脂粒子1.0gを入れた。次いで、容量200mlの丸底フラスコに約200mlのキシレンを入れ、ソックスレー抽出管に上記金網袋に入れたサンプルをセットした。マントルヒーターで8時間加熱することにより、ソックスレー抽出を行った。抽出終了後、空冷により冷却した。冷却後、抽出管から金網を取り出し、約600mlのアセトンにより金網ごとサンプルを洗浄した。次いで、アセトンを揮発させてから温度120℃の乾燥器内でサンプルを4時間乾燥させた。この乾燥後に金網内から回収したサンプルが「キシレン不溶分」である。初期の複合樹脂粒子量に対するゲル分量(質量)の割合を百分率で表し、これをキシレン不溶分の含有量、すなわち、XYゲル量(質量%)とした。キシレン不溶分は、主に複合樹脂中の架橋されたオレフィン系樹脂成分である。
【0075】
「アセトン可溶分の重量平均分子量Mw」
まず、150メッシュの金網袋中に複合樹脂粒子1.0gを入れた。次に、容積200mlの丸底フラスコにキシレン約200mlを入れ、ソックスレー抽出管に上記金網袋に入れたサンプル(すなわち複合樹脂粒子)をセットした。マントルヒーターで8時間加熱し、ソックスレー抽出を行った。抽出したキシレン溶液をアセトン600mlへ投下し、デカンテーションの後、減圧蒸発乾固し、アセトン可溶分を得た。アセトン可溶分のMwは、直鎖ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(すなわち、GPC)法により測定した。測定には、高分子測定用ミックスゲルカラムを用いた。具体的には、東ソー(株)製の測定装置(具体的には、HLC−8320GPC EcoSEC)を用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(すなわち、THF)、流量:0.6ml/分、試料濃度:0.1wt%という測定条件で測定を行った。カラムとしては、TSKguardcolumn SuperH−H×1本、TSK−GEL SuperHM−H×2本を直列に接続したカラムを用いた。即ち、Mwは、テトラヒドロフランに溶解させたアセトン可溶分の分子量をGPC法で測定し、標準ポリスチレンで校正することによって求めた。なお、複合樹脂中のキシレン可溶分をさらにアセトンに溶解させて得られるアセトン可溶分は、主にスチレン系樹脂である。
【0076】
「吸光度比の測定」
複合樹脂粒子の吸光度比の測定は、ATR法によって測定され、全反射吸収測定装置を用いて行った。全反射吸収測定装置としては、日本分光社製の赤外分光光度計「FT/IR-460plus」と、同社製の全反射吸収測定装置「ATR PRO 450−S型」を用いた。また、全反射吸収測定装置の測定条件は、プリズム:ダイヤモンドプリズム(D480)、入射角 45°とした。具体的には、まず、全反射吸収測定装置のプリズムに複合樹脂粒子を170kg/cm2の圧力で押し付けて密着させて複合樹脂粒子の表面における赤外線吸収スペクトル(ただし、ATR補正なし)を得た。次に、赤外線吸収スペクトルから得られる波数1730cm-1における吸光度As1730、波数2850cm-1における吸光度As2850を測定した。そして、吸光度As2850に対する吸光度As1730の比、すなわち、吸光度比As1730/2850を算出した。吸光度比の算出にあたっては、同様の測定を5つの複合樹脂粒子について行い、これらの平均値を求めた。
【0077】
また、剃刀により、複合樹脂粒子をその中心を通るように約2等分に切断した。次いで、その切断面を全反射吸収測定装置のプリズムに押し付けた点を除いては、上述と同様の方法により、赤外線吸収スペクトル(ただし、ATR補正なし)を得た。次に、赤外線吸収スペクトルから得られる波数1730cm-1における吸光度Ai1730、波数2850cm-1における吸光度Ai2850を測定した。そして、吸光度Ai2850に対する吸光度Ai1730の比、すなわち、吸光度比Ai1730/2850を算出した。吸光度比の算出にあたっては、同様の測定を5つの複合樹脂粒子について行い、これらの平均値を求めた。次いで、吸光度比Ai1730/2850に対する吸光度比As1730/2850の比、すなわち、As1730/2850/Ai1730/2850を算出した。
【0078】
(3)発泡
次いで、複合樹脂粒子1000gを分散媒である水3000gと共に撹拌機を備えた5Lの圧力容器内に仕込んだ。続いて、容器内の分散媒中に分散剤としてのカオリン3.0g、界面活性剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0g、硫酸アルミニウム0.1gを添加した。次いで、回転速度300rpmで容器内を撹拌しながら発泡温度160℃まで昇温させた。その後、無機物理発泡剤である二酸化炭酸(CO2)を容器内の圧力が4MPa(G:ゲージ圧)になるように容器内に圧入し、4MPa(G)を維持しつつ同温度(すなわち、160℃)で15分間保持した。これにより複合樹脂粒子中に二酸化炭素を含浸させた。次いで、発泡剤を含む複合樹脂粒子を分散媒と共に容器から大気圧下に放出することにより、嵩密度が33kg/m3の発泡粒子を得た。
【0079】
(4)型内成形
発泡粒子を小型成形機(ダイセン工業社製D−30SF)の金型内に充填した。金型は、縦200mm、横250mm、厚み50mmの平板形状のキャビティを有する。次いで、金型内にスチームを導入することにより、発泡粒子を加熱して相互に融着させた。その後、金型内を冷却した後、金型より成形体を取り出した。次いで、成形体を40℃に調整されたオーブン内で24時間静置することにより、成形体の乾燥及び養生を行った後、オーブンから成形体を取り出した。成形条件として、成形時のスチームの圧力(成形圧:MPa(G))を後述の表1に示す。また、上記のようにして作製した成形体について、見掛け密度、融着率、圧縮物性とその温度依存性、耐熱性(95℃)、曲げ試験による靭性を以下のようにして評価した。その結果を後述の表1示す。
【0080】
「見掛け密度」
見掛け密度は、成形体の質量をその見掛けの体積で除することにより算出した。
【0081】
「融着率」
成形体を破断させ、その破断面を観察し、材料破壊した発泡粒子数と、界面で剥離した発泡粒子数をそれぞれ計測した。次いで、材料破壊した発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子の合計数に対する材料破壊した発泡粒子の割合を算出し、これを百分率で表した値を融着率(%)とした。
【0082】
「圧縮物性の温度依存性」
成形体から縦50mm、横50mm、厚み25mmの直方体形状の成形スキンを含まない試験片を切り出した。次いで、試験片を、−30℃、23℃、65℃の各温度で48時間保管した。その後、JIS K6767−1999に準拠して、保管温度と同じ温度、すなわち、−30℃、23℃、65℃の各温度における静的圧縮応力(試験速度:10mm/min)を測定し、各温度における50%歪時の圧縮応力(すなわち、50%圧縮応力)を求めた。圧縮方向は、成形体の厚み方向とした。−30℃における50%圧縮応力CS-30と、23℃における50%圧縮応力CS23と、65℃における50%圧縮応力CS65とから、下記の式(I)に基づいて低温側での圧縮物性の温度依存性TDを算出し、式(II)に基づいて、高温側での圧縮物性の温度依存性TDHを算出した。また、圧縮物性の温度依存性TDを式(III)から算出した。さらに、圧縮物性の温度依存性TDが0.6未満の場合を「優」、0.6以上0.7未満の場合を「良」、0.7以上の場合を「不可」として、圧縮物性の温度依存性を評価した。なお、温度依存性TDの値が小さいほど温度依存性が優れていると判断できる。
TDL=CS-30/CS23 ・・・(I)
TDH=CS65/CS23 ・・・(II)
TD=TDL−TDH ・・・(III)
【0083】
「耐熱性(95℃における加熱寸法変化率)」
成形体から長さ50mm、横50mm、厚み25mmの直方体形状の成形スキンを含まない試験片を切り出した。この試験片をさらに23℃で一日以上安置した後、ノギスで試験片の縦、横の各部位の寸法を測定した。次いで、寸法測定後の試験片を95℃のオーブンで22時間加熱した。次いで、加熱後の試験片を23℃で一日安置した後、加熱前と同じ箇所の寸法を測定した。加熱前の成形体の寸法S1と加熱後の成形体の寸法S2とから、次の式(IV)に基づいて加熱寸法変化率Cを算出した。異なる3つの試験片について、縦、横それぞれの加熱寸法変化率Cを算出し、これらの相加平均値を、加熱寸法変化率として表1に示す。さらに、加熱寸法変化率Cの絶対値が1%未満の場合を「優」、1%以上2%未満の場合を「良」、2%以上の場合を「不可」として、耐熱性を評価した。なお、加熱寸法変化率はその絶対値が小さいほど耐熱性が優れていると判断できる。
C(%)=(S1−S2)×100/S1 ・・・(IV)
【0084】
「靭性(破断点歪)」
曲げ試験は、JIS K7221−2:1999に記載の3点曲げ試験方法に準拠して測定した。長さ120mm、幅25mm、厚み20mmの直方体状の試験片を成形体から全面が切削面となるように切り出し、室温23℃、湿度50%の恒室内に24時間以上放置して状態調節した後、支点間距離100mm、圧子の半径R15mm、支持台の半径R15mm、試験速度20mm/min、室温23℃、湿度50%の条件で、オートグラフAGS−10kNG(島津製作所製)試験機により破断点歪を測定した。さらに、破断点歪が15%以上の場合を「優」、10%以上15%未満の場合を「良」、10%未満の場合を「不可」として、靭性を評価した。なお、破断点歪の値が高いほど靱性が優れていると判断できる。
【0085】
(実施例2)
本例は、スチレン系単量体におけるIBOMAの含有量を40質量%にした例である。本例においては、第1モノマーとしてスチレン75.0gを用い、第2モノマーとしてスチレン180.0gとIBOMA170.0gとの混合モノマーを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0086】
(実施例3)
本例は、複合樹脂におけるPOとPSとの質量比をPO/PS=25/75にした例である。本例においては、核粒子を125.0g用い、第1モノマーとしてスチレン125.0gを用い、第2モノマーとしてスチレン156.2gとIBOMA93.8gとの混合モノマーを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0087】
(実施例4)
本例は、核粒子にエチレン−酢酸ビニル共重合体を配合した例である。エチレン−酢酸ビニル共重合体のことを以下適宜「EVA」という。本例においては、核粒子の作製時に、エチレン系樹脂であるメタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製「ニポロンZ HF210K」)10.77kgとEVA(東ソー社製「ウルトラセン626」)4.98kgと、ホウ酸亜鉛のマスターバッチ2.6kgと、黒色剤のマスターバッチ1.65kgと、酸化防止剤のマスターバッチ0.20kgとを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0088】
(実施例5)
本例は、共重合成分としてメタクリル酸ジシクロペンタニルを用いた例である。メタクリル酸ジシクロペンタニルのことを以下適宜「DCPMA」という。本例においては、第1モノマーとしてスチレン75.0gを用い、第2モノマーとしてスチレン243.7gとDCPMA106.3gとの混合モノマーを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0089】
(比較例1)
本例は、多環式基含有エステルを用いない例である。本例においては、第1モノマーとしてスチレン75.0gを用い、第2モノマーとしてスチレン350.0gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0090】
(比較例2)
本例は、スチレン系単量体におけるIBOMAの含有量を15質量%にした例である。本例においては、第1モノマーとしてスチレン75.0gを用い、第2モノマーとしてスチレン286.2gとIBOMA63.8gとの混合モノマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0091】
【表1】
【0092】
表1より知られるように、実施例1〜5では、成形体の温度に対する圧縮物性変化が小さい。また、95℃という高温での寸法変化率が小さく、耐熱性にも優れている。さらに、融着率が高く、成形体における発泡粒子の内部融着が良好であり、靱性にも優れている。このような成形体は、広い温度範囲に亘って優れたエネルギー吸収性能を示し、耐熱性にも優れたおり、例えば自動車用の衝撃吸収材に好適である。これに対し、比較例1及び比較例2では、成形体の温度に対する圧縮物性変化は小さいが、耐熱性が低い。
【0093】
また、各実施例、比較例の結果に基づいて、図1には、多環式基含有エステル(つまり共重合成分)の含有量(ただし、仕込み量。)とTgとの関係を示し、図2には、多環式基含有エステルの含有量と加熱寸法変化率との関係を示す。図1及び図2より知られるように、複合樹脂中の多環式基含有エステル由来の成分の含有量が多くなるとスチレン系樹脂成分のTgが上昇し、成形体の加熱寸法変化率が低下し、耐熱性が向上する。
図1
図2