(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内方部材が、前記中実部、および、前記フランジ部の軸方向外側部を構成する被補強部を有する第1の部材と、前記フランジ部の軸方向内側部を構成する補強部、および、前記軸部を有する第2の部材とを、軸方向に結合固定することにより構成されており、
前記応力波抑制部が、前記被補強部の軸方向内側面と前記補強部の軸方向外側面との当接部により構成されている、請求項1または2に記載のハブユニット軸受。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持されている。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置された転動体とを備える。外方部材は、使用時には懸架装置に結合固定されて回転しない。内方部材は、車輪および制動用回転体を支持するための回転フランジを有している。
【0003】
ところで、車両の走行中に、車輪が縁石に接触するなどして回転フランジに衝撃荷重が加わると、この衝撃荷重に基づいて、外輪軌道や内輪軌道に圧痕が形成される可能性がある。このような圧痕は、特に、回転フランジに近い軸方向外側の外輪軌道や内輪軌道で形成されやすい。また、近年普及し始めている扁平率が低いタイヤを装着した車両では、タイヤではなく、ホイールのリム部が直接縁石に衝突するなどして、回転フランジに衝撃荷重が加わりやすくなっている。
【0004】
これに対し、特開2014−134234号公報には、外輪軌道や内輪軌道に圧痕が形成されることを防止するための構造を備えたハブユニット軸受が記載されている。
図5は、特開2014−134234号公報に記載されている、ハブユニット軸受1の構造を示している。ハブユニット軸受1は、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ3と、複数個の転動体4とを備える。
【0005】
外輪2は、内周面に設けられた複列の外輪軌道5a、5bと、外輪2を懸架装置のナックル12に支持固定するための静止フランジ6とを有する。ハブ3は、外輪2の内径側に外輪2と同軸に配置されており、外周面のうちで複列の外輪軌道5a、5bに対向する部分に設けられた複列の内輪軌道7a、7bと、車輪および制動用回転体(図示せず)を支持するための回転フランジ8とを有する。転動体4は、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道7a、7bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。このような構成により、ハブ3が、外輪2の内径側に回転自在に支持されている。
【0006】
回転フランジ8は、図示の例では円輪状に構成され、径方向外側の薄肉部13と、径方向内側の厚肉部14と、薄肉部13の軸方向内側面と厚肉部14の軸方向内側面とを接続する段差部15とを備える。このような構成により、回転フランジ8の剛性を確保しつつ、ハブ3の軽量化が図られている
【0007】
また、ハブ3は、軸方向内端部に小径筒部9を有するハブ本体10と、小径筒部9に圧入された内輪11とを備える。なお、軸方向に関して「内」とは、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる、
図1〜
図5の右側をいう。反対に、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる、
図1〜
図5の左側を、軸方向に関して「外」という。
【0008】
図示の例では、外輪2の軸方向外端部で、かつ、ハブユニット軸受1が車両に組み付けられた状態での鉛直方向下方(
図5の下方)に位置する部分に、径方向外方に突出した突起16が設けられている。突起16の径方向外端部の軸方向外端面には、突き当て面17が設けられており、突き当て面17は、回転フランジ8の軸方向内側面に近接対向している。
【0009】
車両の走行中に、車輪が縁石に接触するなどして、回転フランジ8に軸方向の衝撃荷重が加わり、回転フランジ8の鉛直方向下側部が、軸方向内方に向かって倒れるように変形すると、回転フランジ8の軸方向内側面が、突き当て面17に接触する。このため、前記衝撃荷重の一部は、懸架装置に支持固定された外輪2に伝わる。この結果、外輪軌道5a、5bや内輪軌道7a、7bと、転動体4との転がり接触部に加わる衝撃荷重を低減できて、外輪軌道5a、5bや内輪軌道7a、7bに圧痕が形成されにくくなっている。
【0010】
その他の関連技術として、特開2015−85812号公報には、外輪の静止フランジに変形許容空間を設けて、外輪本体が衝撃荷重に基づき鉛直方向に変位することに対する剛性を低くすることにより、軸方向内側の外輪軌道に圧痕が形成されることを防止する技術が開示されている。また、特開2013−136068号公報には、ハブを構成するハブ本体を、低融点金属製で円柱状の芯材と、鉄系合金製で、芯材の端部を除いた外側部分覆う有底円筒状の表層材とにより構成される素材に鍛造加工を施した後、芯材を構成する低融点金属を融解して除去することにより形成する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図5に示した構造には、次の面から改良の余地がある。すなわち、車輪が縁石に接触するなどして、回転フランジ8の軸方向内側面が突き当て面17に接触するほどの衝撃荷重が加わった場合には、車両の挙動が不安定になっている可能性がある。この状態で、回転フランジ8の軸方向内側面と、突き当て面17とが接触すると、その車輪の回転だけがスムーズでなくなり、4輪のうちの1輪のみに対し一時的にブレーキがかかったのと同じ状態となるため、車両の挙動の不安定化が助長されやすい。
【0013】
また、回転フランジ8の軸方向内側面と、突き当て面17との間は、回転フランジ8に衝撃荷重が加わっていない通常状態での接触を防止しつつ、外輪軌道5a、5bや内輪軌道7a、7bに圧痕が形成されることを防止するため、隙間を厳密に規制する必要がある。このため、ハブユニット軸受1の製造コストが増大する可能性がある。
【0014】
また、車輪を回転フランジ8に支持固定するためのハブボルトやスタッドなどの結合部材と、突起16との干渉を回避するためには、ハブ3の中心軸を中心とする突起16の外接円直径を、結合部材の頭部の内接円直径よりも小さくする必要がある。
【0015】
また、突起16の径方向内側部の軸方向外側面と、回転フランジ8の軸方向内側面との干渉を防止するために、段差部15を、突起16を設けていない構造と比較して径方向内方に位置させる必要がある。この結果、回転フランジ8の剛性が、突起16を設けていない構造と比較して低下してしまう。
【0016】
また、突き当て面17と接触する部分が、除肉部などを有する不連続面であると、突起16の周方向側面が不連続部に突き当たり、車輪がロックする可能性があるので、回転フランジ8の軸方向内側面のうちで突き当て面17と接触する部分は、全周にわたり連続した平坦面とする必要がある。したがって、回転フランジ8を、放射状に配置された複数本の腕部により構成した構造では、腕部同士の間部分に存在する、腕部よりも肉厚が小さな部分や除肉部の占める割合が小さくなって、ハブ3の重量が増大する可能性がある。
【0017】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、外輪軌道や内輪軌道に圧痕が形成されることを防止できるハブユニット軸受の構造を、車両の挙動の不安定化を助長することなく実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のハブユニット軸受は、外方部材と、内方部材と、転動体とを備える。
前記外方部材は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記内方部材は、外周面に複列の内輪軌道を有する。
前記転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
前記内方部材は、円板状の中実部、および、該中実部の外周部から径方向外方に突出したフランジ部を有する回転フランジと、該回転フランジの軸方向内側面から軸方向内方に突出し、かつ、外周面に前記複列の内輪軌道を有する中空筒状の軸部とを備える。さらに、前記内方部材は、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道よりも軸方向外側に位置する部分に、前記回転フランジで発生した応力波が前記軸部の軸方向中間部に伝達されるのを抑制するための応力波抑制部を有する。
【0019】
本発明では、前記軸部を、軸方向に関して前記中実部と前記軸方向外側の内輪軌道との間に位置する部分に存在
し、かつ、前記応力波抑制部を構成する薄肉筒部と、該薄肉筒部よりも軸方向内側に存在し、かつ、該薄肉筒部の径方向厚さよりも厚い径方向厚さを有する厚肉筒部とを有するものとすることができる。
【0020】
代替的にあるいは追加的に、前記内方部材を、前記中実部、および、前記フランジ部の軸方向外側部を構成する被補強部を有する第1の部材と、前記フランジ部の軸方向内側部を構成する補強部、および、前記軸部を有する第2の部材とを、軸方向に結合固定することにより構成することができる。
この場合、前記応力波抑制部は、前記被補強部の軸方向内側面と前記補強部の軸方向外側面との当接部により構成される。
【0021】
本発明では、前記回転フランジに、前記内方部材とは別体の抑制部材を支持することができる。具体的には、例えば、前記抑制部材は、車輪を前記回転フランジに支持固定するためのスタッドやハブボルトなどにより、該回転フランジに対して支持される。なお、前記抑制部材は、前記応力波を抑制できる限り、その材質や形状は特に制限されないが、例えば円環状の金属板により構成することができる。
【0022】
具体的には、前記抑制部材
を、前記応力波抑制部を構成し、かつ、前記外方部材の一部または該外方部材に固定された部材に近接対向させ、前記回転フランジに加わった衝撃荷重を、前記外輪軌道や前記内輪軌道、前記転動体を介すことなく、前記外方部材にバイパスするバイパス部材とする
。この場合、前記外方部材に対し軸受を支持し、該軸受に前記バイパス部材を近接対向させれば、前記軸受と前記バイパス部材とが接触した場合でも、前記回転フランジの回転抵抗の増大を抑えることができるため、好ましい。前記軸受として転がり軸受を使用すれば、前記軸受内で前記応力波を吸収することができるため、より好ましい。ただし、前記軸受として滑り軸受を使用することもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のハブユニット軸受によれば、外輪軌道や内輪軌道に圧痕が形成されることを防止することができる構造を、車両の挙動の不安定化を助長することなく実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のハブユニット軸受1aは、
図5に示した従来構造と同様に、外方部材である外輪2aと、内方部材であるハブ3aと、複数個の転動体4とを備える。
【0026】
外輪2aは、中炭素鋼などの硬質金属からなり、複列の外輪軌道5a、5bと、外輪2aを懸架装置に支持固定するための静止フランジ6とを備える。複列の外輪軌道5a、5bは、外輪2aの内周面に設けられている。静止フランジ6は、外輪2aの軸方向中間部に径方向外方に突出するように設けられている。静止フランジ6の径方向中間部の円周方向複数箇所にはそれぞれ、支持孔18が設けられている。外輪2aは、支持孔18のそれぞれに螺合あるいは挿通されたボルトなどの結合部材により、懸架装置を構成するナックルに支持固定される。
【0027】
ハブ3aは、外輪2aの内径側に外輪2aと同軸に配置されている。複列の内輪軌道7a、7bは、ハブ3aの外周面のうちで複列の外輪軌道5a、5bと対向する部分に設けられている。このようなハブ3aは、中炭素鋼などの硬質金属製のハブ本体10aと、軸受鋼などの硬質金属製の内輪11とを組み合わせることにより構成されている。
【0028】
ハブ本体10aの軸方向内側部には、筒状の小径筒部9aが設けられている。内輪11は、小径筒部9aに外嵌され、かつ、小径筒部9aのうちで内輪11の軸方向内端面よりも軸方向内方に突出した部分を径方向外方に塑性変形させることで形成されたかしめ部21により軸方向内端面が押さえつけられている。このような構成により、ハブ本体10aと内輪11とが結合固定されている。
【0029】
なお、複列の内輪軌道7a、7bのうちの軸方向外側の内輪軌道7aは、ハブ本体10aの軸方向中間部外周面に設けられており、軸方向内側の内輪軌道7bは、内輪11の外周面に設けられている。
【0030】
本例では、ハブ3aは、一枚板状の回転フランジ8aと、該回転フランジ8aの軸方向内側面から軸方向内方に突出し、かつ、外周面に複列の内輪軌道7a、7bを有する中空筒状の軸部25と、回転フランジ8aの軸方向外側面から軸方向外方に突出する円筒状のパイロット部26とを備える。
【0031】
回転フランジ8aは、円板状の中実部27と、該中実部27の外周部から径方向外方に突出したフランジ部38とを備える。フランジ部38は、径方向外側の薄肉部13と、径方向内側の厚肉部14とを有しており、薄肉部13の軸方向内側面と厚肉部14の軸方向内側面とは、段差部15により接続されている。薄肉部13の径方向中間部の円周方向複数箇所にはそれぞれ、取付孔19が設けられている。車輪および制動用回転体は、取付孔19のそれぞれに圧入されたスタッド20、あるいは螺合されたハブボルトなどによりフランジ部38に支持される。
【0032】
本例では、回転フランジ8aの軸方向外側面が、ハブ3aの中心軸に直交する平坦面となっている。すなわち、中実部27の軸方向外側面とフランジ部38の軸方向外側面とが、ハブ3aの中心軸に直交する同一の平面上に存在している。また、中実部27の軸方向厚さは、フランジ部38を構成する厚肉部14の軸方向厚さよりも薄く、薄肉部13の軸方向厚さと同じになっている。すなわち、厚肉部14の軸方向内側面は、中実部27の軸方向内側面よりも軸方向内側に位置しており、中実部27の軸方向内側面と薄肉部13の軸方向内側面とが、ハブ3aの中心軸に直交する同一の平面上に存在している。このような構造により、フランジ部38の軸方向に関する剛性が高くなっている。
【0033】
なお、本例では、フランジ部38は、全周にわたり連続した円輪状に構成されている。ただし、フランジ部を、中実部の外周部から放射状に延びるように設けられた複数本のフランジ片から構成することもできる。
【0034】
軸部25は、軸方向外端部に存在する薄肉筒部29と、該薄肉筒部29よりも軸方向内側に存在し、かつ、該薄肉筒部29の径方向厚さよりも厚い径方向厚さを有する厚肉筒部30とを備える。なお、複列の内輪軌道7a、7bは、厚肉筒部30の外周面の軸方向2箇所位置に全周にわたって設けられている。
【0035】
薄肉筒部29は、軸部25の軸方向外端部、すなわち、軸方向に関して、中実部27と軸方向外側の内輪軌道7aとの間に位置する部分に存在する。要するに、薄肉筒部29は、軸部25のうちで軸方向外側の内輪軌道7aよりも軸方向外側に外れた部分に存在する。図示の例では、薄肉筒部29は、中実部27の軸方向内側に隣接する部分に設けられて、断面略円弧形の曲面である内周面を有する。薄肉筒部29のうちで最も径方向厚さが小さい部分の径方向厚さは、厚肉筒部30の軸方向外端部の径方向厚さの1/4〜1/2程度、好ましくは1/3〜1/2程度となっている。このような薄肉筒部29の外周面には、シールリング23を構成するシールリップが全周にわたって摺接している。
【0036】
なお、本例では、厚肉筒部30の内周面は、軸方向内側に向かうほど内径が小さくなる方向に傾斜した円すい面となっている。
【0037】
薄肉筒部29の軸方向内端部と厚肉筒部30の軸方向外端部とは、断面略台形の接続筒部31により接続されている。すなわち、接続筒部31は、軸方向外側の内輪軌道7aの溝肩部を含んで構成されている。接続筒部31の内周面は、軸方向内側に向かうほど内径が小さくなる方向に傾斜し、かつ、ハブ3aの中心軸に対する傾斜角度が、厚肉筒部30の内周面の傾斜角度よりも大きい円すい面となっている。
【0038】
換言すれば、軸部25は、軸方向内側面に開口し、かつ、内周面が略三角フラスコ形状である凹部28を有する。そして、ハブ3aの中心軸に直交する平坦面である中実部27の軸方向内側面を略三角フラスコ形状の底面とした場合に、略三角フラスコ形状の底部に相当する部分の周囲を薄肉筒部29とし、略三角フラスコ形状の円すい状の胴体部に相当する部分の周囲を接続筒部31とし、略三角フラスコ形状の首部に相当する部分を厚肉筒部30としている。ただし、接続筒部31を省略し、薄肉筒部29の軸方向内端部と厚肉筒部30の軸方向外端部とを、段部により接続することもできる。
【0039】
パイロット部26は、円筒面である外周面を有する。パイロット部26は、ハブユニット軸受1aの使用時に、車輪および制動用回転体を外嵌して、車輪および制動用回転体の径方向に関する位置決めを図るための部分である。図示の例では、円筒状のパイロット部26の内径側は中空構造となっているが、パイロット部26の内周面と中実部27の軸方向外側面との間に、複数の補強リブをかけ渡すように設けるなどして、フランジ部38の軸方向に関する剛性をさらに向上させることもできる。
【0040】
転動体4は、軸受鋼などの硬質金属、あるいはセラミックにより構成されており、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道7a、7bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。なお、図示の例では、転動体4として、玉を使用しているが、円すいころを使用することもできる。
【0041】
なお、本例では、外輪2aの内周面とハブ3aの外周面との間に存在する円筒状の内部空間22の軸方向外側開口部は、シールリング23により塞がれている。一方、内部空間22の軸方向内側開口は、外輪2aの軸方向内端部に内嵌固定された有底円筒状のカバー24により塞がれている。ただし、内部空間の軸方向内側開口を、シールリングとスリンガとを組み合わせて構成される組み合わせシールリングにより塞ぐこともできる。
【0042】
ハブ本体10aの製造方法の1例について、
図2を参照しつつ説明する。ハブ本体10aを造る際には、まず、
図2に示すような、軸方向内側面に開口し、かつ、内周面が円筒状である凹部28zを有する、断面略π字形の中間素材32を造る。中間素材32は、素材となる金属材料を鍛造加工などにより塑性変形させることで造られる。中間素材32の軸方向中間部には、完成状態で薄肉筒部29となる薄肉筒部29zが設けられており、該薄肉筒部29zよりも軸方向内側に存在する部分には、完成状態で厚肉筒部30となる厚肉筒部30zが設けられている。厚肉筒部30zの外径は、薄肉筒部29zの外径よりも大きくなっている。さらに、中間素材32の軸方向内端部には、完成状態で小径筒部9aとなる小径筒部9zが設けられている。このような中間素材32の軸方向内側部を縮径させ、さらに、切削加工や研削加工などの必要な加工を施すことにより、ハブ本体10aを造ることができる。
【0043】
あるいは、ハブ本体10aは、特開2013−136068号公報に記載の技術のように、低融点金属製で円柱状の芯材と、鉄系合金製で、芯材の端部を除いた外側部分覆う有底円筒状の表層材とから成る素材に鍛造加工を施した後、芯材を構成する低融点金属を融解して除去することにより造ることもできる。
【0044】
本例のハブユニット軸受1aによれば、外輪軌道5a、5bや内輪軌道7a、7bに圧痕が形成されることを防止することができる構造を、車両の挙動の不安定化を助長することなく実現することができる。
【0045】
すなわち、ハブユニット軸受1aを搭載した車両の走行中に、車輪が縁石に接触するなどして、回転フランジ8aに支持されたホイールを介して、
図1に矢印αで示す様に、フランジ部38に衝撃荷重が下方から上方に向けて加わると、この衝撃荷重は、一枚板状に構成された回転フランジ8aにより支承される。また、フランジ部38に衝撃荷重が加わると、慣性の影響により、回転フランジ8a内で応力波が発生する。この応力波は、回転フランジ8aから軸部25へと伝播する。なお、応力波は、ハブ本体10aを構成する金属材料の物性に応じて決まる伝播速度で、ハブ本体10a内を伝播する。また、応力波は波であるので、異なる媒質同士の境界面で一部が反射し、残りが透過する。
【0046】
本例では、中実部27の軸方向内側に隣接する、軸部25の軸方向外端部には、薄肉筒部29が設けられているので、回転フランジ8aから軸部25へと伝播した応力波は、
図1に矢印βで示す様に、薄肉筒部29の内周面や外周面で繰り返し反射される。これにより、応力波を構成する波の位相がずれ、ハブ本体10aの外周面に設けられた複列の内輪軌道7a、7bに伝播する応力波のピークが平均化されて小さくなり、内輪軌道7a、7bや外輪軌道5a、5bと、転動体4との転がり接触部に加わる衝撃荷重が減少する。この結果、内輪軌道7a、7bや外輪軌道5a、5b、特に、軸方向外側の内輪軌道7aや外輪軌道5aに圧痕が形成されることが防止される。すなわち、本例では、薄肉筒部29が、回転フランジ8aで発生した応力波が軸部25の軸方向中間部に伝達するのを抑制するための応力波抑制部として機能する。
【0047】
これに対し、
図5に示した従来構造では、ハブ本体10のうち、軸方向に関して回転フランジ8と軸方向外側の内輪軌道7aとの間に存在する部分の径方向厚さが、ハブ本体10のうちで軸方向外側の内輪軌道7aの内径側に存在する部分の径方向厚さよりも厚くなっている。このため、ホイールを介して、回転フランジ8に衝撃荷重が加わり、回転フランジ8内で応力波が発生すると、
図5に矢印γで示す様に、応力波が、直接あるいは少ない反射回数で内輪軌道7a、7bに伝播される可能性がある。この結果、内輪軌道7a、7bや外輪軌道5a、5bと、転動体4との転がり接触部に大きな衝撃荷重が加わり、内輪軌道7a、7bや外輪軌道5a、5bに圧痕が形成される可能性がある。
【0048】
本例では、内輪軌道7a、7bや外輪軌道5a、5bに圧痕が形成されることを防止できる構造を、
図5の従来構造のように、回転フランジ8に衝撃荷重が加わった際に、回転フランジ8の軸方向内側面と接触する突き当て面17を設けることなく実現できる。したがって、回転フランジ8aに衝撃荷重が加わった場合でも、車両の挙動の不安定化が助長されることがない。また、
図5の従来構造のように、回転フランジ8の軸方向内側面と、突き当て面17との間の隙間を厳密に規制する必要がないため、ハブユニット軸受1aの製造コストが徒に増大することを防止できる。さらに、
図5の従来構造のように、回転フランジ8の剛性が低下したり、ハブ3の重量が増大したりすることを防止できる。
【0049】
なお、本発明は、特開2015−85812号公報に記載の技術と組み合わせて実施することもできる。すなわち、静止フランジに変形許容空間を設けて、外輪本体が衝撃荷重に基づき鉛直方向に変位することに対する剛性を低くすれば、外輪軌道や内輪軌道、特に、軸方向内側の外輪軌道に圧痕が形成されることをより効果的に防止することができる。
【0050】
[実施の形態の第2例]
図3は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のハブユニット軸受1cを構成するハブ3bは、軸方向外側の第1の部材39と、軸方向内側の第2の部材40とを軸方向に結合固定することにより構成されている。
【0051】
第1の部材39は、中実部27と、該中実部27の外周部から径方向外方に突出し、かつ、フランジ部38aの軸方向外側部を構成する被補強部41と、パイロット部26とを備え、かつ、軸方向内側面に嵌合凹部42を有する。嵌合凹部42の底面は、ハブ3bの中心軸に直交する平坦面となっている。また、被補強部41の径方向中間部の円周方向複数箇所にはそれぞれ、第1の通孔43が設けられている。なお、本例の場合も、パイロット部26の内周面と中実部27の軸方向外側面との間に、複数の補強リブをかけ渡すように設けるなどして、フランジ部38の軸方向に関する剛性をさらに向上させることもできる。
【0052】
第2の部材40は、中空筒状の軸部25と、該軸部25の軸方向外端部から径方向外方に折れ曲がるように設けられ、かつ、フランジ部38aの軸方向内側部を構成する補強部44とを有する。すなわち、補強部44は、内径側に第2の部材40を構成する金属材料が存在しない中空構造となっている。また、補強部44の径方向中間部の円周方向複数箇所にはそれぞれ、第2の通孔45が設けられている。本例では、第2の部材40は、断面略π字形で、軸方向内側部に小径筒部9aを有し、かつ、軸方向中間部に軸方向外側の内輪軌道7aを有する本体部分46と、外周面に軸方向内側の内輪軌道7bを有する内輪11とを組み合わせることにより構成されている。
【0053】
第1の部材39と第2の部材40とは、補強部44の軸方向外側部外周面を嵌合凹部42に内嵌することにより軸合わせを図り、かつ、嵌合凹部42の底面に第2の部材40の軸方向外側面を突き当てた状態で、第1の通孔43および第2の通孔45にスタッド20を軸方向内側から圧入することで、軸方向に結合固定されている。
【0054】
本例では、回転フランジ8bを構成するフランジ部38aが、軸方向外側の被補強部41と、軸方向内側の補強部44とを組み合わせることにより構成されている。そして、被補強部41は、内径側に中実部27が存在する中実構造であるため、軸方向および径方向に関する剛性が高くなっている。これに対し、補強部44は、内径側に第2の部材40を構成する金属材料が存在しない中空構造であるため、軸方向および径方向に関する剛性が、被補強部41よりも低くなっている。したがって、本例のハブユニット軸受1cを搭載した車両の走行中に、
図3に矢印αで示す様に、フランジ部38aに衝撃荷重が加わると、この衝撃荷重の大部分が補強部44に加わって、被補強部41に加わる衝撃荷重が小さくなる。この結果、第2の部材40を構成する補強部44内で発生する応力波を小さくでき、軸部25へと伝播される応力波のピークを小さくできる。
【0055】
また、被補強部41の剛性と補強部44の剛性とが異なるため、軸方向および径方向に関する衝撃荷重の入力に伴う、被補強部41の弾性変形量と補強部44の弾性変形量とに差が生じる。そして、被補強部41の軸方向内側面と補強部44の軸方向外側面との当接部で微小な振動が生じ、摩擦熱が発生する。したがって、回転フランジ8bのうち、被補強部41内で発生した応力波は、補強部44に伝達される際に、
図3に矢印β1→β2で示す様に減衰されて、軸部25へと伝播される応力波のピークをさらに小さくできる。このように本例では、回転フランジ8bを、内径側に中実部27が存在する中実構造の被補強部41と、中空構造の補強部44とを組み合わせてなる構造とすることにより、回転フランジ8bで発生した応力波が軸部25の軸方向中間部に伝達するのを抑制するための応力波抑制部を構成している。
【0056】
なお、本例では、ハブ3bは、中実部27を有する第1の部材39と、中空構造の第2の部材40とを組み合わせることにより構成されている。第1の部材39および第2の部材40のそれぞれは、実施の形態の第1例のハブ本体10aのように複雑な形状をしていないため、鍛造加工により容易に造ることができる。その他の部分の構造および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0057】
[実施の形態の第3例]
図4は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例のハブユニット軸受1bでは、外輪2bの軸方向外端部に、軸受33が外嵌固定されている。本例では、軸受33として、内部空間の軸方向両端部がシールリングにより密封された玉軸受を使用している。ただし、軸受33として、円筒ころ軸受などの各種転がり軸受、または滑り軸受を使用することもできる。このような軸受33により、外輪2bの外周面に付着した水分が外輪2bの外周面を伝って、外輪2bの軸方向外端面と回転フランジ8aの軸方向内側面との間の隙間まで達することが防止されている。すなわち、軸受33が、水分を堰き止めるための堰部として機能する。
【0058】
本例では、回転フランジ8aの軸方向内側面に、バイパス部材であるバイパスリング34が支持固定されている。バイパスリング34は、金属板を曲げ成形することにより、断面L字形で円環状に構成されており、円筒部35と、円筒部35の軸方向外端部から径方向外方に折れ曲がった折れ曲がり部36とを有する。円筒部35の内周面は、軸受33を構成する外輪の外周面に近接対向している。折れ曲がり部36の円周方向複数箇所にはそれぞれ、通孔37が設けられている。本例では、折れ曲がり部36の通孔37のそれぞれに挿通されたスタッド20の軸部を、さらに回転フランジ8aの取付孔19に圧入することにより、回転フランジ8aに対しバイパスリング34が支持されている。
【0059】
本例では、バイパスリング34は、回転フランジ8aとは別体に設けられ、かつ、スタッド20により回転フランジ8aに対し支持固定されている。このため、ハブユニット軸受1bを搭載した車両の走行中に、車輪が縁石に接触するなどして、回転フランジ8aに軸方向の衝撃荷重が加わった際に、この衝撃荷重の一部を、複列の外輪軌道5a、5bや複列の内輪軌道7a、7b、転動体4を介すことなく、外輪2bにバイパスすることができる。具体的には、回転フランジ8aに軸方向の衝撃荷重が加わることに伴い、回転フランジ8aの鉛直方向下側部が軸方向内方に向かって倒れるように変形すると、バイパスリング34の円筒部35の内周面と、軸受33の外輪の外周面とが接触する。この結果、衝撃荷重の一部が、軸受33を介して、懸架装置に支持固定された外輪2bに伝達されるため、内輪軌道7a、7bおよび外輪軌道5a、5bと、転動体4との転がり接触部に加わる衝撃荷重を低減することができる。
【0060】
本例では、回転フランジ8aに衝撃荷重が加わった際に、円筒部35の内周面が接触する部分を、外輪2bに対し回転可能な軸受33の外輪の外周面としているため、車両の挙動の不安定化が助長されることを防止できる。また、円筒部35の内周面と、軸受33の外輪の外周面とが接触した場合でも、回転フランジ8aの回転抵抗が増大することを抑えられるため、衝撃荷重が加わる以前の円筒部35の内周面と、軸受33の外輪の外周面との間の距離を短くできる。この結果、衝撃荷重入力時に、外輪2bへのバイパスを速やかに行わせることができたり、衝撃荷重の大きさが小さい場合でも、外輪2bへのバイパスを行わせることができたりする。また、軸受33やバイパスリング34の取付公差を比較的緩くできるため、ハブユニット軸受1bの製造コストが増大することを防止できる。
【0061】
軸受33は、通常、回転フランジ8aに衝撃荷重が加わった場合以外で回転することはないため、衝撃荷重の入力に伴って圧痕が形成されたり、フレッチング摩耗による損傷が発生したりしても、特に問題はない。さらに、本例では、軸受33として、転がり軸受である玉軸受を使用しているため、軸受33内においても応力波を吸収することができる。したがって、バイパスリング34から入力された応力波は、軸受33内で減衰されつつ、外輪2bにバイパスされるため、応力波による外輪2bへのダメージを抑えることができる。
【0062】
なお、回転フランジの軸方向内側面との当接部での反射による衝撃荷重の低減効果を得る面からすれば、回転フランジに支持される抑制部材として円筒部を有しないもの、すなわち、例えば単なる円輪状のものを使用することもできる。その他の部分の構造および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0063】
本発明のハブユニット軸受を実施する場合に、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。すなわち、実施の形態の第2例のような、第1の部材と第2の部材とを組み合わせてなるハブの軸部に、実施の形態の第1例の構造が有する薄肉筒部を設けることができる。あるいは、実施の形態の第2例の構造に、実施の形態の第3例にかかるバイパスリングを設けても良い。