(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。尚、以下の実施の形態は、あくまで実施の一形態であって、特許請求の範囲を拘束するものではない。
【0021】
まず、
図1から
図5を用いて、床土B詰め、播種及び覆土Cの作業を行う播種機1について説明する。
【0022】
播種機1は、育苗箱2を一方向に搬送する搬送経路3を備え、該搬送経路3上に支持され該搬送経路3に沿って該搬送経路3の上手側から順に、上下に複数枚に積み重ねられた育苗箱2を下側から順に繰り出して搬送経路3上に供給する育苗箱供給装置4と、育苗箱2に床土Bを詰める床土詰装置6と、床土Bを詰めた育苗箱2に灌水する灌水装置29と、育苗箱2に播種する播種装置7と、育苗箱2に覆土する覆土装置8を設けている。
【0023】
なお、育苗箱供給装置4及び床土詰装置6及び播種装置7及び覆土装置8の各々の装置は、他の装置と独立して単独で設置できるように前後左右計4本の脚部9,10で支持されている。
【0024】
また、覆土装置8の前側の左右の脚部10には上下に回動するアーム11を介して該脚部10の下端より下方に突出させることができる車輪12を各々取り付けており、該車輪12を下方に突出させ播種機1を持ち上げて他の脚部9を地面から浮かせることにより、播種機1を容易に移動させることができる。
【0025】
搬送経路3は、左右の搬送ガイド15で構成され、この左右の搬送ガイド15の間で長手方向を前後に向けた育苗箱2を搬送する構成となっている。搬送経路3には、駆動するコンベアとして、ベルト式の育苗箱搬送コンベアである育苗箱供給部搬送コンベア16及び床土詰部搬送コンベア17と、ローラ式の育苗箱搬送コンベアである播種部搬送コンベア18及び覆土部搬送コンベア28を備えている。
【0026】
そして、非駆動でフリーで回転するローラ式のコンベアとして、育苗箱供給部搬送コンベア16と床土詰部搬送コンベア17の間に床土詰前コンベア62を設け、床土詰部搬送コンベア17と播種部搬送コンベア18の間に灌水部コンベア63を設け、播種部搬送コンベア18と覆土部搬送コンベア28の間に覆土前コンベア64を設け、覆土部搬送コンベア28の後側に育苗箱取出コンベア75を設けている。
【0027】
育苗箱供給装置4は、上下に複数枚に積み重ねられた育苗箱群を下側から受ける下受板34と、前記育苗箱群の下から2枚目の育苗箱2を下側から受ける上受板35と、育苗箱群の最下位の育苗箱2を強制的に下方へ落とす落とし板36を備え、人手等により上受板35上に供給された育苗箱群を先ず下受板34上に引き継ぎ、上受板35で育苗箱群の下から2枚目の育苗箱2から上側の育苗箱2を支持した状態で下受板34による育苗箱群の最下位の育苗箱2の支持を解除し、その状態で落とし板36が最下位の育苗箱2を上側から下方に押して育苗箱群から分離して落下させて繰り出して育苗箱供給部搬送コンベア16上に供給し、以下この作動工程を繰り返すことにより育苗箱群の下側の育苗箱2から順に育苗箱供給部搬送コンベア16上に供給する構成としている。
【0028】
なお、下受板34、上受板35及び落とし板36は、育苗箱群に作用する各々の部分が前後方向で重複しないように各々育苗箱群の前後左右4箇所に設けられ、育苗箱群の左右外側から作用し、育苗箱供給部搬送コンベア16の作動に連動し、育苗箱供給部搬送コンベア16上において先に供給した育苗箱2と次に供給する育苗箱2との間に隙間が生じないように作動する。
【0029】
前記伝動構成について説明すると、育苗箱供給モータ94に設けた出力スプロケット95から搬送伝動チェーン96及び駆動スプロケット38へ伝動し、該駆動スプロケット38と一体回転する搬送上手側のローラ37を介して育苗箱供給部搬送コンベア16を駆動する。
【0030】
そして、駆動スプロケット38からチェーン39及び従動スプロケット40を介して第一のカウンタ軸41へ伝動し、該第一のカウンタ軸41と一体回転する駆動スプロケット42からチェーン43、従動スプロケット44及び一方向クラッチを介して第二のカウンタ軸45へ伝動し、該第二のカウンタ軸45の左右両端部に設けた駆動ベベルギヤ46から従動ベベルギヤ47を介して左右各々の落とし用軸48を互いに反対側に駆動回転させる。この落とし用軸48と落とし板36とが一体回転し、落とし板36が左右内側で下側に移行する方向に回転する。
【0031】
また、落とし用軸48の他端部からアーム49,51及びリンク50等を介して落とし用軸48の上方に位置する各々の受板用軸52を所定角度範囲内で揺動させ、該受板用軸52と一体回転する下受板34及び上受板35を揺動させ、下受板34と上受板35とを育苗箱群に交互に作用させて、育苗箱群を順次下降させる。
【0032】
また、第二のカウンタ軸45を手動で回転させるための手動供給操作具となる手動供給レバー53を設けており、該手動供給レバー53により作業者が任意に育苗箱供給部搬送コンベア16上に育苗箱2を落下させて供給することができる。
【0033】
床土詰装置6は、床土Bとなる培土Sを貯留する床土タンク54と、該床土タンク54内の床土Bを所定量ずつ繰り出して育苗箱2へ落下させて供給する床土繰出具となる床土繰出ベルト55と、育苗箱2上で溢れる床土Bを均す均平具となる均平ブラシ19と、育苗箱2内に突入して床土Bを鎮圧する床土鎮圧具となる床土鎮圧ローラ57と、床土繰出ベルト55上の隙間を調節して床土Bの繰出量を変更調節する床土量調節具となる床土量調節レバーを備え、床土繰出ベルト55が床土Bを供給する搬送経路3上の床土B詰位置の搬送下手側に均平ブラシ19が位置し、均平ブラシ19の搬送下手側に床土鎮圧ローラ57が位置する。
【0034】
床土詰装置6の伝動構成について説明すると、床土繰出モータ20により床土繰出ベルト55が駆動し、該床土繰出ベルト55から歯車伝動機構を介して均平ブラシ19が駆動する。また、床土詰搬送モータ21に設けた出力スプロケット97から搬送伝動チェーン59を介して駆動スプロケット60へ伝動し、該駆動スプロケット60と一体回転する搬送下手側のローラ61により床土詰部搬送コンベア17を駆動する。なお、均平ブラシ19と床土繰出ベルト55とが互いに逆方向に回転する構成としている。
【0035】
なお、床土繰出モータ20又は床土詰搬送モータ21の一方の駆動で、床土繰出ベルト55と均平ブラシ19と床土詰部搬送コンベア17へ伝動する構成としてもよい。
【0036】
播種装置7は、
図6に示すとおり、種子タンク68の下部に調節板68bを設けて、種子を所定量ずつ流下口に繰り出し、反時計方向に回転する播種繰出ローラ69の凹溝に種子を取り込み、播種繰出ローラ69の表面に付着した余分の種子を第1ブラシ68dにより落下させる構成とする。該播種繰出ローラ69の外周縁部には、苗トレイ2の床土Bに接触して種子が入り込む穴開け突起部69a…が、左右方向の所定間隔毎で、且つ円周方向の所定間隔毎に形成される。左右方向の所定間隔、及び円周方向の所定間隔は、苗トレイ2を構成する複数の育苗セル121の左右方向の所定間隔、及び円周方向の所定間隔に対応するものとする。
【0037】
そして、播種繰出ローラ69の上部には回転ブラシ68eをバネにより弾圧的に圧接し、播種繰出ローラ69の凹溝から溢れた種子を除去して種子収容タンク68fに回収し、播種繰出ローラ69の下方に回転した凹溝から搬送中の苗トレイ2の床土Bに播種する構成としている。
【0038】
また、播種繰出ローラ69の播種位置から種子取り込み位置までの間に固定状の落下ブラシ70を設け、播種できなかった種子を苗トレイ2の床土B上に掻き落とし、播種精度の向上と湿った種子の播種精度の向上を図る。
【0039】
また、
図7に示すとおり、播種繰出ローラ69の播種位置から種子取り込み位置までの間に回転する第2落下ブラシ68gを設け、播種繰出ローラ69の外周部に第2落下ブラシ68gの外周部を接触させて、播種繰出ローラ69により第2落下ブラシ68gを回転させながら播種残りの種子を落下するように構成してもよい。
【0040】
また、播種装置7は、播種繰出ローラ69に臨む種子タンク68の出口の隙間を調節して播種繰出ローラ69への種子の供給状態を変更調節する種子供給調節具となる種子供給調節ハンドル72を備える。
【0041】
よって、該種子供給調節ハンドル72で調節される種子タンク68の出口から播種繰出ローラ69の繰出溝に種子が供給され、播種繰出ローラ69の回転により該繰出溝が上方へ移動することにより該繰出溝で所定量の種子を移送し、芒、枝梗が付いた種子や芽の伸び過ぎた種子等の播種に不適な種子を繰出溝から除去し、該繰出溝は播種繰出ローラ69の回転により下方へ移動してその下死点位置(播種位置H)で育苗箱2に種子を落下供給する構成となっている。
【0042】
なお、一般的に播種繰出ローラ69の繰出溝は、左右方向(播種繰出ローラ69の回転軸心方向)に長い溝で播種繰出ローラ69の外周に複数配列された構成となっている。種籾の長手方向(長径部)が育苗箱2の長手方向に向くべく、種籾の向きを揃えて育苗箱2へ播種する際は、播種繰出ローラ69の繰出溝を、前後方向(播種繰出ローラ69の回転外周方向)に長い溝で左右に複数配列した構成とすれば、種籾の長手方向(長径部)が繰出溝の方向(前後方向)に沿い、所望の向きで種籾を播種できる。
【0043】
また、播種直後に種籾を床土Bに軽く押し付ける際は、押付ローラを播種位置Hの直後に設け、押付ローラにより種籾を押し付ける構成とすればよい。
【0044】
播種装置7の伝動構成について説明すると、播種モータ65に設けた出力スプロケット66から繰出伝動チェーン67を介して播種繰出ローラ69へ伝動され、前記出力スプロケット66から第一除去チェーン73及び第二除去チェーン74を介して除去ブラシ70へ伝動され、前記出力スプロケット66から搬送伝動チェーン71を介して播種部搬送コンベア18の搬送下手側のローラ75へ伝動し、該搬送下手側のローラ75からチェーン77を介して搬送上手側のローラ76へ伝動する。尚、搬送上手側のローラ76と搬送下手側のローラ75の間に、播種繰出ローラ69が種子を繰り出して供給する播種位置Hがある。尚、除去ブラシ70及び播種部搬送コンベア18と播種繰出ローラ69とが互いに逆方向に回転するべく、第一除去チェーン73と搬送伝動チェーン71を側面視で交差するように巻き掛けている。尚、播種繰出ローラ69の外周部において除去ブラシ70の位置と播種位置との間には、繰出溝から種子が脱落しないように該繰出溝を覆うガイド体を設けている。
【0045】
覆土装置8は、覆土Cとなる培土Sを貯留する覆土タンク84と、該覆土タンク84内の覆土Cを所定量ずつ繰り出して育苗箱2へ落下させて覆土位置で供給する覆土繰出具となる覆土繰出ベルト85と、育苗箱2上で溢れる覆土Cを均す均平具となる均平板86と、覆土繰出ベルト85上の隙間を調節して覆土Cの繰出量を変更調節する覆土量調節具となる覆土C量調節レバーとを備え、覆土繰出ベルト85が覆土Cを供給する搬送経路3上の覆土位置の搬送下手側に均平板86が位置する。覆土装置8の伝動構成について説明すると、覆土モータ78により覆土繰出ベルト85が駆動し、覆土モータ78に設けた出力スプロケット79から搬送伝動チェーン80を介して覆土部搬送コンベア28の搬送下手側のローラ81へ伝動し、該搬送下手側のローラ81からチェーン98を介して搬送上手側のローラ82へ伝動する。尚、搬送上手側のローラ82と搬送下手側のローラ81の間に、覆土位置がある。尚、覆土繰出ベルト85と覆土部搬送コンベア28とが互いに逆方向に回転するべく、搬送伝動チェーン80を側面視で交差するように巻き掛けている。
【0046】
覆土装置8の前側の脚部10には、育苗箱搬送コンベアを手動で回転させるための操作具となる手動搬送ハンドル92をフック93を介して保持している。この手動搬送ハンドル92により、播種装置7で播種をしている途中で故障で播種機1が停止したときや播種作業を終了するために播種機1を停止させたとき、手動で育苗箱2を搬送して該育苗箱2を播種機1から容易に取り出すことができる。
【0047】
灌水装置29は、灌水部コンベア63の上側に設けられ、灌水部コンベア63の左右の搬送ガイド15から各々立ち上がる左右の支持フレーム100を設け、左右に配列される複数のノズルを備える左右に延びる灌水パイプ99を、左右の支持フレーム100で両持ち支持している。該灌水パイプ99すなわち灌水位置は、灌水部コンベア63の搬送上手寄りの位置に配置されている。
【0048】
床土詰前コンベア62及び灌水部コンベア63及び覆土前コンベア64及び育苗箱取出コンベア75の各々のコンベアは、左右の搬送ガイド15の前後端部で搬送上手側及び搬送下手側の装置に嵌る嵌合部材101により、播種機1本体に対して独立して個別に着脱可能に設けられている。従って、灌水部コンベア63を播種装置7と覆土装置8の間に組み付けることにより、播種装置7と覆土装置8の間に灌水装置29を配置することができる。あるいは、灌水部コンベア63を覆土装置8の後側に組み付けることにより、覆土C後に灌水する構成とすることもできる。
【0049】
播種装置7と覆土装置8の間に灌水装置29を配置する際は、灌水装置29と覆土装置8の間隔が十分に得られるように、覆土前コンベア64を灌水部コンベア63の後側に組み付けたり、灌水装置29の後側に組み付けられる覆土前コンベア64を長いコンベアに交換したりすることが望ましい。これにより、床土Bに吸水性の悪い田土を使用しても、灌水装置29の灌水を床土Bに浸透させることができ、床土Bの上面の水がひいた状態で覆土Cできるので、播種した種籾が酸素欠乏状態になりにくく、安定した発芽率が得られる。また、覆土前コンベア64を非駆動のローラで構成し、この非駆動のローラを任意の位置に組み付けできる構成とすることにより、覆土前コンベア64を伸縮できる構成としてもよい。尚、床土詰装置6と播種装置7の間に灌水装置29を配置する際は、上述と同様の理由から、灌水装置29と播種装置7の間のコンベアを長くすることが望ましい。
【0050】
なお、種子タンク68の上端の開口より覆土タンク84の上端の開口を低位に設け、覆土タンク84の上端の開口より床土タンク54の上端の開口を低位に設けている。これにより、使用量が多いため作業者が頻繁に床土タンク54へスコップで床土Bを供給しなければならないが、この床土供給作業を低位で容易に行え、次いで供給頻度が高い覆土タンク84への覆土供給作業を容易に行える。しかも、種子タンク68の上端の開口が高位となるので、床土供給作業又は覆土供給作業を行うとき、誤って種子タンク68へ床土B又は覆土Cを供給するようなことを防止でき、土が供給されることで播種装置7が故障するようなことを防止できる。
【0051】
床土タンク54は変形可能なゴム製の弾性体113を介して支持されており、作業者が床土Bを供給する度にその重みで揺れる構成となっている。これにより、床土タンク54内での床土Bのブリッジ現象を防止でき、特に水田の土壌等、ブリッジ現象を生じ易い土壌を床土Bとして使用するとき、床土Bの繰り出しを適正に行える。尚、作業者がスコップ等で床土タンク54に触れることで、床土タンク54を揺らすこともできる。
【0052】
また、左右幅がコンベアの左右幅より小さい(30cm未満の)育苗箱110に播種作業を行うときは、
図2に示すように、コンベアの左右一方側にコンベア搬送方向の適宜間隔で複数の規制ガイド112を取り付け、コンベア上の育苗箱110の左右位置を規制するようにすればよい。このとき、播種装置7で繰り出される種子が前記左右一方側の部分で無駄になるので、この種子を受ける受け容器111を播種装置7下方で前記左右一方側の位置に配置すればよい。
【0053】
水稲を苗箱120で栽培するときは、苗箱120に床土Bを敷設し、床土Bの上に水稲の種子を播種した後、覆土Cを敷設することが一般的である。床土Bは種子から生える根部の生長や張り込みを考慮する必要があると共に、覆土Cは種子の保温や水の浸透性等を考慮する必要があるので、異なる質の土砂を用いることが多い。特に、覆土Cは水の浸透性をよくするべく、砂質を多く含んだものとすることがある。
【0054】
しかしながら、覆土Cの材料に砂質が多いと、培土S全体の強度が低く、崩れやすくなる。苗箱120が平坦な場所に起かれると共に、振動の加わる機会の無い水稲の育苗中には特に問題は生じないが、水稲の育苗後、田植機や野菜移植機に積載すると、機体の振動により砂質が崩れ、苗の搬送経路等に砂や小さい石が大量に落下し、苗の搬送を妨げ、苗の植付精度を低下させる問題がある。
【0055】
この問題を解消すべく、
図8、
図9(a)に示すように、育苗用の培土Sの原料のうち、粘土質Xや砂質Wを含む土質Zの比率を全材料中の重量比で80%以上とすると共に、覆土Cに用いる粘土質Xの比率を、重量比で10〜20%とするとよい。
【0056】
これにより、水稲の苗の植付作業時に砂や小石が散らばることを防止できるので、苗の搬送が妨げられることがなく、苗の植付精度や作業能率が向上する。
【0057】
なお、砂質をまとめる材料を、粘土質Xの代わりに、
図8、
図9(b)に示すように、含水すると元の体積の数倍に膨張すると共に、強い粘性を示すモンモリロナイト等の成分を含むベントナイトを用いてもよい。ベントナイトは、一般的な粘土質Xに比べて高い粘性を有するので、覆土Cには重量比で2〜10%となる量を添加するとよい。その分、砂質、或いはその他の材料の比率を高くし、根部の張り込みや吸水性を向上させるとよい。
【0058】
上記により、培土Sの原料とする土が、採取地の環境により粘土質Xの含有量の少ないものであっても、覆土Cが崩れにくい粘性を有させることができる。
【0059】
上記の方法では、粘土質X、あるいは粘性の高い材料を用いることで砂質の崩壊を抑えているが、水稲の品種や栽培の方針によっては、粘土質Xを多用できないこともあり得る。このときは、粘土質Xに代わり、ピートモスやヤシガラ等の植物由来の繊維質Yを、重量比で10〜20%覆土C中に含有させるとよい。繊維質Yを含有させることにより、砂質や小石は繊維に絡め取られるので、振動が加わっても覆土C中から砂質が落下することを防止できる。
【0060】
また、繊維質Yは水の浸透性が高いので、栽培時に供給する水を水稲の根に届きやすく、水不足による生育不良や立ち枯れが防止される。
【0061】
なお、
図9(c)に示すように、粘土質Xと繊維質Yを混合し、覆土Cに重量比で10%以上20%未満含有させることも考えられる。粘土質Xで水が過度に早く床土B側に移動してしまうことを防止しつつ、繊維質Yに水を保持させることができるので、培土S中に水を安定して保持し、水不足の発生を防止することができる。粘土質Xと繊維質Yの混合比については、栽培する水稲の品種や、栽培する時期に合わせて作業者が適切な量を選択する。
【0062】
苗箱120に先に敷き詰める床土Bは、水稲の苗の栽培に必要な水や肥料成分Fが底部にすぐに流下することを防止すべく、粘土質Xを混入させている。
【0063】
しかしながら、粘土質Xが多過ぎると、根部の張りが悪く根鉢が崩れやすいときには、田植機や野菜移植機の苗の搬送経路に崩れた粘土質Xが付着し、除去作業に余分な時間と労力を生じさせると共に、付着した粘土質Xが苗の搬送を妨害し、苗の植付精度を低下させる問題がある。
【0064】
この問題を防止すべく、
図8、
図9(a)〜(c)に示すように、床土Bの粘土成分は、重量比で15%以下とする。これにより、供給する水や肥料の流下を遅らせつつ、且つ崩れた粘土質Xが苗の搬送経路に付着することを防止できるので、粘土質Xの除去作業に要する時間と労力が軽減されると共に、苗の植付精度が向上する。
【0065】
粘土質Xを減らした分、床土Bの水の保持力を補うときは、ピートモスやヤシガラ等の繊維質Yを含有させるとよい。特に、ヤシガラは多孔質であり、粒一つ一つの保水力が高く、水を比較的長い時間に亘って保持させることができるので、水不足による生育不良や立ち枯れが防止される。
【0066】
上記の繊維質Yのうち、ヤシガラの原料となる椰子は、土中の塩分を吸い上げる性質があるので、ヤシガラをチップ状にする前に原木Lを数年間(2〜3年)野外に晒し、雨水で塩分を洗い流す除塩を行っている。
【0067】
しかしながら、野外に放置している間には他の植物の種子が入り込むので、このヤシガラを床土Bや覆土Cの培土S中に混ぜると、水稲以外の作物の種子も培土S中に混入し、苗箱120内のマット苗121に雑草が生える原因となる。
【0068】
この問題を防止すべく、
図10に示すとおり、ヤシガラは、椰子の原木Lを野外に晒した後、あるいは野外に晒すことなく硫化鉄FSの水溶液に漬け込んだものを用いるとよい。
【0069】
水溶液中に原木Lを漬け込むことにより、原木Lを野外に晒している間に付着した種子を流す、あるいは枯らすことができるので、雑草の発生を抑えることができる。
【0070】
また、水溶液中の硫化鉄FSは、原木Lの中に残っている塩分と化学反応し、硫酸成分を発生させる。硫酸成分を含むヤシガラを土中に混ぜると酸性度を高めることができるので、培土Sを中性〜酸性化させることができる。水稲の根部は、pH6.5(中性〜弱酸性)前後で最も伸びやすくなるので、マット苗121の強度をより早く高めることができる。
【0071】
上記のpH調整は水稲の根部の成長の理想値であり、ヤシガラに混入した雑草の種子も、このpHでは活性化しやすい。特に、雑草の種子は生命力が強く、硫化鉄FSの水溶液に漬け込んでも完全に死滅するとは限らない。但し、椰子の原木Lを野外に放置して除塩作業を行う地域で、且つ椰子の原木Lに付着しやすい種子は、好アルカリ性のものが多く、ある程度強めの酸性土壌では、発芽しない特性を有する。したがって、培土S、特に床土Bの酸性度をpH4.5程度とするとよい。
【0072】
これにより、雑草の種子が生存していても、土壌がある程度強い酸性であるので、発芽できず、水稲が使用すべき養分を奪うことがなく、苗の生育が安定する。
【0073】
しかしながら、ヤシガラは水に接したときの保水力は高いものの、土に比べて広い間隔が空くので、ヤシガラ同士の間隔部から水が苗箱120の底部に逃げてしまい、育苗中に水不足になることがある。
【0074】
この問題を解消すべく、
図11、
図12に示すとおり、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸系ポリマーの吸水材Aを、培土Sの1L当たり5〜20g程度添加するとよい。この培土Sは、床土B側であり、床土B内に根部が伸びる際、水を十分に与えることができるようになる。もし、覆土Cに吸水材Aを含ませると、マット苗121を作成する際に散布する水が、覆土C側に殆どとどまり、しかも吸水材Aにより殆ど床土B側に移動しなくなるので、培土S全体での水分は足りているのに、苗が水不足により弱ったり枯れたりする問題が生じるので、覆土Cには吸水材Aを含有させないことが望ましい。
【0075】
これにより、多くの水が吸水材Aに吸水された状態で培土S、特に床土B中に留まるので、苗の根部はこの吸水材中から水分を得ることができ、水不足による生育不良が防止される。
【0076】
さらに、土中にはゼオライトU等の沸石類を、重量比で5%程度添加すると、水に溶けた肥料成分FをゼオライトUの孔内に取り込むことができるので、肥料成分Fが苗箱120の底部から水と共に逃げることが防止され、肥料不足による生育不良の発生が防止される。
【0077】
あるいは、
図15に示すとおり、培土Sに粘性を持たせるべく、粘りの元となるアルギン酸ナトリウム等の粘性材Vの水溶液に、種子を覆土Cで覆った後の苗箱120を漬け込んでもよい。この水溶液は、粘性材Vを重量比1%としたときに、粘土が60mPa・s以下とし、過度に土中に粘り気を持たせ、根部の生育を妨げないものとする。
【0078】
これにより、培土Sが粘性物質により纏められるので、苗取りの際の衝撃や、苗箱120に加わる振動により培土Sが崩れることが防止され、苗を確実に圃場に植え付けることが可能になる。
【0079】
上記の苗箱120を粘性材Vの水溶液に漬けるときは、その分作業が余分に増える問題がある。この問題を解消するには、
図16に示すように、苗箱に粘性材Vの水溶液を、水タンク200からポンプ201で汲み上げ、ホース202の一端部に設ける散水具から苗の生育用の水と共に供給することが考えられる。
【0080】
このとき、粘性材Vを重量比で0.5%溶かし込んだ水溶液を用いると、水溶液が土中に浸透しつつ粘性を発揮できるので、培土S全体の強度を向上させることができる。
【0081】
水稲の植付作業においては、株間、即ち苗同士の植付の前後間隔を、慣行のものよりも広くし、圃場当たりの苗箱120の必要数を削減する、所謂疎植を行うことがある。疎植により、苗箱120の使用数を減らせるだけでなく、植え付けられた苗同士の間隔が広くなるので、日当たりや風通しがよくなり、苗の生育が良好になると共に、風が病原菌や害虫を留まりにくくするので、成長中に枯れるものが減少する。
【0082】
また、疎植では、圃場内に植え付ける苗の本数が減るが、その分苗一株ごとの生育可能なスペースは広くなるので、苗はより多く分蘖することができる。従って、最終的に収穫される米の収量は、慣行の苗の植付間隔の圃場と殆ど変らない。
【0083】
この疎植よりも、さらに苗箱120の単位面積当たりの使用量を減らし、作業能率を向上させるべく、苗箱120内で育てる苗の本数を増やし、苗の密度を高める、所謂密播という方法がある。この密播は、矩形の一般的な苗箱120(内部寸法:縦580mm、横280mm)を用いるときには、一箱当たり180g以上、多いときには220g程度の乾籾を播種する。
【0084】
なお、密播では一株当たりの苗の本数が多くなるので、苗の分蘖は疎植に比べると少なくなり、単位面積当たりの収量は疎植より少なくなる。しかしながら、苗箱120の使用数を単位面積当たり2〜3箱削減することができるので、作業能率や、農業コストの低減が図られる効果がある。
【0085】
密播を行うときは、一回当たりの苗取量を通常よりも少なく設定する必要があるが、これにより通常よりも苗と共に取られる床土Bの量が少なくなるので、水田に移植すると、重量が軽すぎて苗が浮いて流れてしまうことや、掻き取った苗の床土Bが崩れ、一部の苗がばらけて落ちてしまうことがある。しかしながら、床土Bはマット苗121を成形しやすい軽量の培土Sを用いる方が、マット苗121が安定した品質に仕上がるので、床土Bを重くして対応することは考えにくい。
【0086】
したがって、密播苗の育苗を行う培土Sは、次のとおり形成する。
【0087】
図17に示すとおり、床土Bの高さは18mm以下とし、床土Bの比重は0.7以下となるよう、軽量培土ZLを用いる。そして、覆土Cには、比重0.9以上の重量培土ZHを用いる。
【0088】
床土Bの表層を覆う覆土Cを重くすることにより、床土Bは軽量培土ZLを用いて苗の根部の張り込みをよくすることができると共に、植え付ける苗を覆土Cの培土Sの重量で圃場にしっかりと定着させることができる。
【0089】
上記に加えて、育苗時の苗の生育を良好にするには、床土Bに肥料成分Fが過剰には無いことが望ましい。床土B中の肥料濃度が高いと、苗は伸びることなく養分を吸収できるので、苗が伸びず、床土Bの強度が低下し、苗の植付作業時に崩れやすくなる問題が生じる。
【0090】
また、床土B内の肥料成分Fが少ないと、苗が生育途中で肥料成分Fを使い果たしてしまい、成長不良により苗が植え付け可能な状態になるまでに、余分な時間を費やす問題がある。
【0091】
この問題を解決すべく、
図18、
図19に示すように、床土Bに用いる肥料成分Fのうち、窒素成分Nの使用量を300mg/L未満とする。一方、覆土Cに用いる肥料成分Fのうち、窒素成分Nの使用量を360mg/L以上とする。
【0092】
これにより、根部の周囲の肥料濃度を抑えることができるので、根部を十分に伸ばすことができ、苗箱120内のマット苗121の強度を向上させることができる。
【0093】
また、根部から離れた床土Bの表層側に肥料成分Fを溜めておくことができるので、培土Sの深部の肥料が使い尽くされても表層部の肥料を用いて成長することができるので、苗の成長が止まらず、予定通りに苗の植付を行うことができる。
【0094】
根部は、肥料成分Fのうち、窒素成分Nが近くにあると伸びが悪くなるので、床土Bに窒素成分Nを入れないことが考えられる。これは、土や砂の密度が比較的低く、根が多方向に伸びやすい軽量培土ZLであれば、より有効である。
【0095】
しかしながら、培土Sを構成する床土B及び覆土Cの比重を1.0前後にする必要がある品種を育苗するときは、根部は決まった方向に伸びやすく、また、籾一粒から生える根部の専有面積は従来よりも狭いので、根部が土中に活着しにくくなることがある。
【0096】
この問題を解消すべく、
図20、
図21に示すとおり、床土Bには窒素成分Nを加えず、水溶性のリン酸塩Pを、床土B中に1000mg/L以上添加し、覆土Cには窒素成分Nを600mg/L以上添加する。
【0097】
根部の活着を促進するリン酸塩Pが床土B側に多く含まれることにより、根が土に絡みやすく、マット苗121の強度が控除する。
【0098】
また、窒素成分Nは覆土Cに含まれるので、水の供給により深部に浸透すると共に、根部が表層側に成長すると使用されるので、根部の成長を促進しつつ苗全体の生育も促すことができる。
【0099】
なお、密播で水稲を育苗する際、籾の数が多いので、肥料成分Fの消費は従来よりも早くなる。従って、肥料切れによる生育不良が生じやすい問題がある。
【0100】
この問題を解消すべく、窒素肥料は、速効性のあるアンモニア態窒素である硫酸アンモニウム等を用いると共に、コーティング剤に覆われており、所定時間が経過すると肥料成分Fが培土S中に浸透し始める緩効性肥料を混合して使用する。
【0101】
軽量培土ZLを用いるときは、
図22、
図23(a)に示すとおり、覆土Cに360mg/L以上の速効性肥料を添加し、床土Bに100〜500mgのコーティング肥料FCを用いる。
【0102】
一方、通常の比重の重量培土ZHを用いるときは、
図23(b)に示すとおり、覆土Cに300〜600mg/Lの速効性肥料を添加し、床土Bに100〜800mgのコーティング肥料FCを用いる。
【0103】
これにより、苗の根部は、成長の初期段階では覆土Cから浸透してくる肥料成分Fを用いると共に、覆土C中の肥料成分Fに向かって伸びるので、根部の張り込みがよくなり、マット苗121の強度の向上が図られる。そして、覆土C中の肥料成分Fが消費されることにコーティング剤が無くなることで、十分に伸びた根部は苗の成長に床土B内の肥料成分Fを用いることができるので、苗が肥料不足により成長不良となることが防止される。