(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭化水素化合物を分子状酸素で酸化することによって得られる酸化反応液中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解し、前記炭化水素化合物と炭素数が同数であるケトン及び/又はアルコールを製造する方法であって、
前記酸化反応液とアルカリ金属の炭酸塩を含んだ第1アルカリ液とを接触させることにより、前記酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和し、反応系を第1の油相とpHが9.4以上10.5以下の第1の水相とに分離する中和工程と、
前記第1の油相と、前記第1アルカリ液よりpHが高く10重量ppm以上100重量ppm以下の遷移金属化合物を含む第2アルカリ液とを接触させることにより、前記第1の油相中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解させ、反応系を第2の油相と第2の水相とに分離するケン化工程と、
前記第2の油相から未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する未反応炭化水素回収工程と、
前記未反応炭化水素の少なくとも一部が回収された後の前記第2の油相からケトン及び/又はアルコールを精製する精製工程と、
前記第1の水相からアルカリ金属の炭酸塩を回収して前記第1アルカリ液にリサイクルするアルカリ回収工程と、
前記第2の水相の一部又は全部を前記第1アルカリ液の一部としてリサイクルする工程と、
を含み、
前記中和工程において、ハイドロパーオキサイドの転化率が10%以下になるように調整する、ケトン及び/又はアルコールの製造方法。
前記炭化水素化合物がシクロヘキサンであり、前記ハイドロパーオキサイドがシクロヘキシルハイドロパーオキサイドであり、前記ケトンがシクロヘキサノンであり、前記アルコールがシクロヘキサノールであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
炭化水素化合物を分子状酸素で酸化することによって得られる酸化反応液中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解し、前記炭化水素化合物と炭素数が同数であるケトン及び/又はアルコールを製造するシステムであって、
前記酸化反応液とアルカリ金属の炭酸塩を含んだ第1アルカリ液とを接触させることにより、前記酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和し、反応系を第1の油相とpHが9.4以上10.5以下の第1の水相とに分離する中和部と、
前記第1の油相と、前記第1アルカリ液よりpHが高く10重量ppm以上100重量ppm以下の遷移金属化合物を含む第2アルカリ液とを接触させることにより、前記第1の油相中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解させ、反応系を第2の油相と第2の水相とに分離するケン化部と、
前記第2の油相から未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する未反応炭化水素回収部と、
前記未反応炭化水素の少なくとも一部が回収された後の前記第2の油相からケトン及び/又はアルコールを精製する精製部と、
前記第1の水相からアルカリ金属の炭酸塩を回収して前記第1アルカリ液にリサイクルするアルカリ回収部と、
前記第2の水相の一部又は全部を前記第1アルカリ液の一部としてリサイクルする第2の水相のリサイクル部と、
を含み、
前記中和部において、ハイドロパーオキサイドの転化率が10%以下になるように調整する、ケトン及び/又はアルコールの製造システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハイドロパーオキサイドをアルカリ水溶液を用いて速やかに且つ高選択率で分解するとともに、アルカリを回収及びリサイクルすることによって、対応する目的のケトン及び/又はアルコールを安価に製造する方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、以下の事項に関する。
【0007】
1.炭化水素化合物を分子状酸素で酸化することによって得られる酸化反応液中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解し、前記炭化水素化合物と炭素数が同数であるケトン及び/又はアルコールを製造する方法であって、
前記酸化反応液とアルカリ金属の炭酸塩を含んだ第1アルカリ液とを接触させることにより、前記酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和し、反応系を第1の油相と第1の水相とに分離する中和工程と、
前記第1の油相と前記第1アルカリ液よりpHが高い第2アルカリ液とを接触させることにより、前記第1の油相中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解させ、反応系を第2の油相と第2の水相とに分離するケン化工程と、
前記第2の油相から未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する未反応炭化水素回収工程と、
前記未反応炭化水素の少なくとも一部が回収された後の前記第2の油相からケトン及び/又はアルコールを精製する精製工程と、
前記第1の水相からアルカリ金属の炭酸塩を回収して前記第1アルカリ液にリサイクルするアルカリ回収工程と
を含んだケトン及び/又はアルコールの製造方法。
2.前記第1の水相のpHが8.5以上12.0以下であり、前記第2の水相のpHが前記ハイドロパーオキサイドのpKa以上14.0以下であることを特徴とする第1項に記載の方法。
3.前記第2の水相のpHが12.6以上14.0以下であることを特徴とする第1又は第2項に記載の方法。
4.前記第2の水相のpHが13.0以上14.0以下であることを特徴とする第1〜第3項の何れかに記載の方法。
5.前記第2の水相の一部又は全部を前記第1アルカリ液の一部としてリサイクルする工程を更に含んでいることを特徴とする第1〜第4項の何れかに記載の方法。
6.前記第2の水相の一部又は全部を前記第2アルカリ液の一部としてリサイクルする工程を更に含んでいることを特徴とする第1〜第5項の何れかに記載の方法。
7.前記第2アルカリ液に遷移金属化合物を添加することを特徴とする第1〜第6項の何れかに記載の方法。
8.前記炭化水素化合物がシクロヘキサンであり、前記ハイドロパーオキサイドがシクロヘキシルハイドロパーオキサイドであり、前記ケトンがシクロヘキサノンであり、前記アルコールがシクロヘキサノールであることを特徴とする第1〜第7項の何れかに記載の方法。
9.炭化水素化合物を分子状酸素で酸化することによって得られる酸化反応液中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解し、前記炭化水素化合物と炭素数が同数であるケトン及び/又はアルコールを製造するシステムであって、
前記酸化反応液とアルカリ金属の炭酸塩を含んだ第1アルカリ液とを接触させることにより、前記酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和し、反応系を第1の油相と第1の水相とに分離する中和部と、
前記第1の油相と前記第1アルカリ液よりpHが高い第2アルカリ液とを接触させることにより、前記第1の油相中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解させ、反応系を第2の油相と第2の水相とに分離するケン化部と、
前記第2の油相から未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する未反応炭化水素回収部と、
前記未反応炭化水素の少なくとも一部が回収された後の前記第2の油相からケトン及び/又はアルコールを精製する精製部と、
前記第1の水相からアルカリ金属の炭酸塩を回収して前記第1アルカリ液にリサイクルするアルカリ回収部と
を含んだケトン及び/又はアルコールの製造システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭化水素化合物を分子状酸素で酸化することによって得られるハイドロパーオキサイドを速やかに且つ高選択率で分解し、目的のケトン及び/又はアルコールを製造することができる。また、本発明によれば、アルカリ金属の炭酸塩を高収率で回収・リサイクルできるため、目的のケトン及び/又はアルコールの安価な製造方法を提供することができる。特に、本発明によれば、ケトンを安価に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるハイドロパーオキサイドとしては、鎖式炭化水素、脂環式炭化水素等の炭化水素化合物のハイドロパーオキサイドであれば特に限定されない。また、炭化水素化合物が置換基を有していても差し支えない。例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロドデカン、シクロペンタデカン、シクロヘキサデカン等の炭素数5〜20のシクロアルカンのハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。また、2種類以上の炭化水素化合物を共酸化して得られるハイドロパーオキサイドの混合物であってもよい。例えばシクロドデカンのシクロヘキサン溶液を酸化することによって得られるシクロドデシルハイドロパーオキサイドとシクロヘキシルハイドロパーオキサイドからは、最終的にナイロン12とナイロン6の原料であるラウロラクタムとカプロラクタムを併産することができる。
【0010】
ハイドロパーオキサイドは、対応する炭化水素化合物を無溶媒又は溶媒存在下、分子状酸素による酸化反応によって製造することができる。例えば、シクロアルキルハイドロパーオキサイドは、反応温度が120〜180℃、反応圧が1〜20気圧の条件でシクロアルカンを空気等の分子状酸素と液相接触反応させることによって得ることができる。
【0011】
溶媒としては、原料の炭化水素化合物又はベンゼン、トルエン等を用いることができる。本発明ではこの酸化反応液をそのまま又は濃縮して用いることができる。
【0012】
炭化水素化合物の分子状酸素による酸化反応は一般に低い転化率で行われる。
低い転化率にとどめる理由は、出発原料である炭化水素化合物より酸化されやすいケトン及びアルコールの逐次酸化を防止し、カルボン酸等の高次酸化物の副生を防止するためである。
また、一般的に酸化触媒として使用されるコバルト等の遷移金属化合物を敢えて添加せず酸化反応を行わせる方法(無触媒酸化法という)や、リン酸ジエステル等ハイドパーオキサイドの安定化剤を添加することによって酸化工程でのハイドロパーオキサイドの分解を抑制し(例えば、特開昭62−120359号公報)、次の工程(ハイドロパーオキサイド分解工程)にて非酸化雰囲気中でハイドロパーオキサイドを分解する方法が採用される。
さらに、反応容器の素材であるステンレスによるハイドロパーオキサイドの分解を防止するため、ピロリン酸塩等で反応器表面の不活性化する方法や、さらには酸化反応装置をPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)でコーティングする方法(例えば、国際公開第2011−054809号)を用いても良い。
【0013】
ハイドロパーオキサイドの分解は非酸化雰囲気下で行われるが、油相中ではラジカル分解が進行する。ラジカル分解は選択性に乏しく、ハイドロパーオキサイドの分解選択率は高くない。
また、油相中には目的物であるケトンが比較的高濃度で存在するため、ハイドロパーオキサイドによるケトンの酸化が進行し、ケトンから高次酸化物が副生するため、ハイドロパーオキサイドの分解選択率はさらに低下する。
【0014】
すなわち、ハイドロパーオキサイドを高選択率で分解するためには、ハイドロパーオキサイドを選択的にかつ速やかにアルカリ性水相に移動させ、アルカリ性水相中でイオン的に分解する必要がある。
しかし、ハイドロパーオキサイドの油水分配平衡定数K
D([油相中のハイドロパーオキサイド濃度]/[水相中のハイドロパーオキサイド濃度])は大きく、ハイドロパーオキサイドは水相に分配し難い。
一方、ハイドロパーオキサイドのROO―Hの水素原子は酸的性質を持っており、その酸解離定数(K
a)は10
−12〜10
−13である。すなわち、pH13以上のアルカリ水溶液中ではハイドロパーオキサイドはそのアニオン(ROO
−)に解離している。そのため、上記pH領域では分配比D([油相中のハイドロパーオキサイド濃度]/[水相中のハイドロパーオキサイド+ハイドロパーオキシアニオン濃度])が低下し、油相中のハイドロパーオキサイド濃度は低下する。
【0015】
さらに、ハイドロパーオキシアニオンはpH13以上のアルカリ水溶液中では速やかに対応するケトン及び/又はアルコールに分解する。
分解したハイドロパーオキシアニオンを補給する(油相と水相の分配比Dを一定に保つ)ため油相中のハイドロパーオキサイドは速やかにアルカリ水相中に移動する。従って、ハイドロパーオキサイドの総括分解速度(物質移動、解離、分解の全過程の速度)は著しく加速される。すなわちpH13以上の強アルカリと接触させることによってハイドロパーオキサイドを速やかに分解することができる。pH13以上の強アルカリ水溶液としてはアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液が用いられる。
【0016】
また、炭化水素化合物並びに対応するケトン及びアルコールのK
Dは一般的に大きく、これらのアルカリ水相中の濃度は低い。従って、これらの化合物がハイドロパーオキサイドに酸化されることによって生じる副生物は少なく、ハイドロパーオキサイドの分解選択率は高い。
【0017】
しかし、酸化反応液中には副生したカルボン酸及びカルボン酸エステルが存在し、それらの中和及び加水分解(ケン化)のためにアルカリが消費される。とりわけ、カルボン酸の中和反応はハイドロパーオキサイドの分解反応より遥かに速く進行するため、酸化反応液とアルカリ金属水酸化物水溶液とを接触させた時点でアルカリ金属水酸化物水溶液のpHは瞬時に低下する。因ってハイドロパーオキサイドの分解反応の際に高いpHを保つためには大量のアルカリ金属水酸化物が必要になる。できるだけ少量のアルカリ金属水酸化物で高いpHを保ちつつハイドロパーオキサイドの分解を行うためには、ハイドロパーオキサイドの分解を行う前に酸化反応液中に副生したカルボン酸及びカルボン酸エステル、とりわけカルボン酸を排出及び除去しなければならない。これが、中和工程である。
【0018】
中和工程は、カルボン酸の除去を主目的とするため、比較的低温且つ低pHで実施することが好適である。中和工程は、例えば60℃以上140℃以下、好ましくは80℃以上110℃以下で行う。中和反応自体はより低温で実施しても、何ら支障はないが、前述の如く炭化水素化合物の酸化が比較的高温で行われるため、60℃以下で実施する場合には、降温のために冷却が必要になる。また、この場合、後述する未反応炭化水素の回収のために、再加熱が必要になり、エネルギーロスが比較的大きい。一方、140℃以上で実施する場合には、低pHでのハイドロパーオキサイドの分解が進行し、分解選択率が低下する可能性がある。
【0019】
酸化反応液を上記所定温度まで降温する方法としては、熱交換器等を用いて低温媒体と熱交換を行ってもよいが、未反応炭化水素化合物および/又は酸化反応溶媒をフラッシュ留去・回収する際の蒸発潜熱によって降温する方法は好ましい態様である。
【0020】
本発明において、上記酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和するための第1アルカリ液は、アルカリ金属の炭酸塩を含んでいる。この第1アルカリ液は、アルカリ金属炭酸塩水溶液であってもよく、アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属炭酸水素塩との混合物の水溶液であってもよい。中和工程は、この中和反応を行う工程と、反応液を第1の油相(以下、中和液ともいう)と第1の水相(以下、第1廃アルカリ液ともいう)とに分離する工程とを含んでいる。上述した第1アルカリ液を用いることによって、第1廃アルカリ液を後述のpH範囲に容易に調節することができる。また、当該炭酸塩は、後述のアルカリ回収工程から容易に回収し、再利用することができる。
【0021】
中和工程における第1アルカリ液の使用量は、第1廃アルカリ液のpHが例えば8.5以上12.0以下、好ましくは9以上10.5以下となるように調整される。pHが8.5以下の場合、カルボン酸の一部が未中和のままケン化工程に送られ、後述する第2アルカリ液のpHを下げることがある。一方、pH12.0以上ではハイドロパーオキサイドの分解が起き、同pH域での分解では選択率が低下することがある。
【0022】
中和工程の混合時間には特に制約はないが、中和反応は非常に速やかに進行するため、酸化反応液と第1アルカリ液とが十分に混合されれば、短時間であっても差し支えない。例えば、混合装置としてスタティックミキサーを用いた場合、混合時間は1分以内であってもよい。
【0023】
中和液と第1廃アルカリとの分離は、多孔板抽出塔、回転円板抽出塔、脈動多孔板塔、振動プレート塔等の抽出塔によって、前記中和工程と一体化して実施してもよく、セトラー、遠心分離装置、液体サイクロン等分離専用の装置を用いて実施してもよい。これらの装置のうちで、スタティックミキサーとセトラーとの組み合わせは最も簡便な装置である。
【0024】
中和液と第1廃アルカリの分離装置内の滞留時間は、油/水の分離が完結すれば、短い方が好ましく、例えば1分以上60分以下、好ましくは1分以上30分以下である。滞留時間が短すぎる場合、運転制御が難しく油相と水相の分離が不十分となる場合がある。長すぎる場合、長大な装置が必要となり好ましくない。
【0025】
上記中和液は、第1アルカリ液よりpHが高い第2アルカリ液と混合され、中和液中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物が分解され、対応するケトン及び/又はアルコールが得られる。このケン化工程では、ハイドロパーオキサイドやエステル化合物以外の前駆体、例えばジアルキルパーオキサイドも分解され、ケトン及び/又はアルコールが得られる。この工程により、反応系は、第2の油相(以下、ケン化液ともいう)と第2の水相(以下、第2廃アルカリ液ともいう)とに分離される。
【0026】
第2アルカリ液の種類、濃度、及び使用量は、ケン化工程から排出される第2廃アルカリのpHが例えば前記ハイドロパーオキサイドのpKa以上14.0以下、好ましくは12.6以上14.0以下、より好ましくは13.0以上14.0以下になるように調整することが好ましい。第2アルカリ液としては、好ましくは、苛性アルカリ水溶液、又は苛性アルカリを含有する混合アルカリ水溶液が用いられる。苛性アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられるが、コスト面で水酸化ナトリウムが好ましい。
【0027】
なお、第2廃アルカリのpHがハイドロパーオキサイドのpKaより低い場合、ハイドロパーオキサイドの解離が進まず、分配比Dが高く、大部分のハイドロパーオキサイドは油相中に留まる可能性がある。そのため、ハイドロパーオキサイドの分解速度が遅く、ハイドロパーオキサイドを完全に分解するために長大なケン化反応槽が必要となる場合がある。また、油相中でのハイドロパーオキサイドの分解は選択率が低く、ケトン及び/又はアルコールの選択率が低下する可能性がある。
【0028】
一方、第2廃アルカリのpHが14.0より高い場合、当該pHを維持するために大量の苛性アルカリが必要になる。また、アルドール縮合等の縮合反応が進行し、ケトンの選択率が低下する可能性もある。
【0029】
ケン化工程の入口温度は、中和工程の温度と必ずしも同じでなくとも差し支えないが、同じとすることが一般的である。ケン化工程の出口温度は、ハイドロパーオキサイドの分解発熱のため、入口温度より上昇する。出口温度はハイドロパーオキサイドの種類及び濃度によって異なるが、ハイドロパーオキサイドがシクロヘキシルハイドロパーオキサイドの場合、例えば80℃以上170℃以下、好ましくは90℃以上150℃以下である。温度が低すぎる場合、ハイドロパーオキサイドおよびエステルの加水分解速度が遅く、これらの分解を完結させるために長大な反応槽が必要となる。一方、温度が高すぎる場合、ハイドロパーオキサイドの分解選択率が低下する可能性がある。なお、ハイドロパーオキサイドの分解発熱によって、ケン化工程の出口温度が前記温度を越える場合には、ケン化装置を冷却することによって、上記温度範囲内に制御することが好ましい。
【0030】
ケン化工程の滞留時間は、ハイドロパーオキサイドの分解を完結させられればよく、温度、アルカリ相のpH、油/水比、油/水の混合状態等によって異なるが、長時間の滞留時間を要することは長大な反応装置が必要であることを意味し、好ましくない。従って、滞留時間が2時間以下、好ましくは1時間以下となるように前記反応条件を設定する。一方、ハイドロパーオキサイドの分解反応は発熱反応であるため、反応を制御する目的で滞留時間を1分以上とすることが好ましい。
【0031】
ケン化装置には特に制約はなく、多孔板抽出塔、回転円板抽出塔、脈動多孔板塔、振動プレート塔等の抽出塔を用いてハイドロパーオキサイドの分解反応およびエステルの加水分解反応と次工程である第2廃アルカリの分離とをひとつの装置内で行っても差支えないが、前記ケン化反応部分と分液部分とが分離された装置を用いても差支えない。後者の場合、ケン化反応部分には、例えば攪拌槽型反応器、管型反応器、塔型反応器が用いられる。油/水の混合、分散を図る目的で反応器直前にスタティックミキサー等を挿入することは好ましい態様である。第2廃アルカリの分離部分には、例えばセトラー、遠心分離装置、液体サイクロン等が用いられる。これらの中でスタティックミキサー、塔型反応器、セトラーの組合せは最もシンプルで簡便な装置である。また、セトラー内にコアレッサー等の分液を促進するパーツを内装させても差支えない。ケン化反応工程出口温度と分液工程の温度は異なっても差し支えないが、同じ温度であることが一般的である。
【0032】
第2廃アルカリ分離工程の滞留時間は、油/水の分離が完結すれば、短い方が好ましく、例えば1分以上60分以下、好ましくは1分以上30分以下である。滞留時間が短すぎる場合、運転制御が難しく油相と水相の分離が不十分となる場合がある。長すぎる場合、長大な装置が必要となり好ましくない。
【0033】
ケン化工程の後、上記ケン化液から、未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する。その後、この未反応炭化水素の少なくとも一部が回収されたケン化液から、ケトン及び/又はアルコールを精製する。このようにして、ケトン及び/又はアルコールが製造される。
【0034】
未反応炭化水素の回収方法には特に制約はないが、蒸留により回収する方法が一般的である。蒸留はフラッシュ蒸留、加圧蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留のいずれであってもよく、またこれらの蒸留方法を組み合わせてもよい。回収された未反応炭化水素は、典型的には、酸化工程にリサイクルされる。
【0035】
ケトン及び/又はアルコールの精製方法には特に制約はなく、晶析、再結晶、抽出等によって精製してもよいが、蒸留により精製する方法が一般的である。蒸留の際の圧力は加圧、常圧、減圧のいずれであってもよいが、製造目的物であるケトン及び/又はアルコールと副生不純物の蒸気圧によって適宜選択される。蒸留の順序に特に制約はないが、主生成物であるケトンとアルコールの沸点を比較した場合、一般的にアルコールが高沸点であるため、低沸点不純物の除去、目的ケトンの精製、目的アルコールの精製及び高沸点不純物の排出の順で精製を行う方法が一般的である。低沸点不純物の留分に未反応炭化水素が含まれている場合、酸化工程にリサイクルすることもできる。製造目的物がケトンの場合、精製されたアルコールを脱水素等の反応によってケトンに転換後ケトン精製工程にリサイクルし、精製することもできる。製造目的物がアルコールの場合、精製されたケトンを水添等の反応によってアルコールに転換後、アルコール精製工程で精製することもできる。
【0036】
上記製造方法においては、上記第1廃アルカリ液から、アルカリ金属の炭酸塩が回収される。そして、このアルカリ金属の炭酸塩は、上記第1アルカリ液にリサイクルされる。このアルカリ回収工程により、アルカリ金属の炭酸塩を高収率で回収・リサイクルできるため、目的のケトン及び/又はアルコールの安価な製造方法を提供することができる。
【0037】
なお、第2廃アルカリ液の一部又は全部を第1アルカリ液の一部としてリサイクルすることは好ましい態様である。当該リサイクルの目的はアルカリ使用量の削減である。従って、リサイクルされる第2廃アルカリ量は、第1廃アルカリ液のpHが、例えば8.5以上12.0以下、好ましくは9以上10.5以下となるように調整することが望ましい。
【0038】
また、第2廃アルカリ液の一部又は全部を第2アルカリ液の一部としてリサイクルすることも好ましい態様である。当該リサイクルの目的は、ハイドロパーオキサイドの油水分配平衡定数K
D([油相中のハイドロパーオキサイド濃度]/[水相中のハイドロパーオキサイド濃度])を低下させることである。すなわち、アルカリ水相中のハイドロパーオキサイドの平衡濃度を上昇させることによって、ハイドロパーオキサイドの分解速度を上昇させることである。また、第2廃アルカリ液の循環は、油/水の界面張力を低下させ、油/水エマルジョンの形成を促進する。従って、ハイドロパーオキサイドの油/水間の物質移動を促進し、ハイドロパーオキサイドの分解速度を上昇させる。
【0039】
リサイクルされる第2廃アルカリ液の量と第2アルカリ液との量比は、第2廃アルカリ液のpHがハイドロパーオキサイドのpKa以上、例えば12.6以上となるように設定することが好ましい。第2廃アルカリ液のpHが当該pHより低い場合、前記のハイドロパーオキサイドの分解促進効果を考慮しても、分解速度が不十分となる可能性がある。それゆえ、ハイドロパーオキサイドのケトン及び/又はアルコールへの分解選択率が低下する可能性がある。
【0040】
第2アルカリ液に遷移金属化合物を添加することはハイドロパーオキサイドの分解を促進するため好ましい態様である。さらに、ケトンの取得を目的にする場合、ケトン/アルコールの生成比率が上昇し、特に好ましい。前記遷移金属のアルカリ相中の濃度は例えば0.1重量ppm以上1000重量ppm以下、好ましくは1重量ppm以上100重量ppm以下である。遷移金属濃度が低すぎる場合、顕著なハイドロパーオキサイドの分解促進効果が得られない。遷移金属濃度が高すぎても、それ以上のハイドロパーオキサイドの分解加速効果は発現されず、遷移金属触媒が浪費されるのみであり好ましくない。
【0041】
ただし、前記のような遷移金属化合物の第2アルカリ液への添加を行った場合、中和工程でのハイドロパーオキサイドの分解が促進されるため、注意が必要である。中和工程の低温化(80℃〜90℃)及び滞留時間の短縮(1分〜10分)を組合せることによって、ハイドロパーオキサイドの分解率を、例えば20%以下、好ましくは10%以下に調整する。
【0042】
第1廃アルカリは、典型的には、燃料と混合され燃焼炉で焼却される。また、第2廃アルカリの全部又は一部も、典型的には、燃焼炉で焼却される。燃料は重油等の精製された化石燃料を用いてもよいが、廃油等の有機物含有廃液を有効利用しても差し支えない。廃アルカリ中のカルボン酸塩等はアルカリ金属の炭酸塩として回収され、水に溶解して第1アルカリ液として中和工程にリサイクルされる。すなわち本プロセスではアルカリ金属塩はほとんど全て炭酸塩として回収されるプロセスであり、少なくとも中和に必要なアルカリはほとんど全て回収・リサイクルされる。また、余剰のアルカリ金属炭酸塩は第2アルカリ液のアルカリ源として使用することも、別途のアルカリ源として利用することも可能である。
【0043】
なお、廃アルカリ液中に遷移金属が含まれる場合、これは、典型的には、遷移金属酸化物として回収される。遷移金属の酸化物はアルカリ性水溶液への溶解度は極めて低いため、遷移金属酸化物の沈殿を含んだまま、第1アルカリ液として中和工程にリサイクルしても差し支えないが、遷移金属酸化物をリサイクルされるアルカリ金属炭酸塩水溶液から一旦分離した後、鉱酸等に再度溶解させ適度のpHに調整した後、第2アルカリ液と共にケン化工程にリサイクルしてもよい。
【0044】
なお、廃アルカリ液の燃焼を行う前に廃アルカリ濃縮工程を挿入することは、アルカリ回収工程での燃焼用燃料を削減し、燃焼炉を小型化できる等のメリットがあり、好ましい態様である。
【0045】
廃アルカリの濃縮は蒸留又はフラッシュ蒸留等によって行われ、水が留去される。濃縮によって廃アルカリ中に微量溶解しているケトン及び/又はアルコールも留出水と共に回収できる。回収水を回収アルカリの溶解水として再利用することによって、炭化水素原単位が低減されるメリットもある。
【0046】
濃縮倍率は高いほど上記効果は顕著に現れるが、廃アルカリ濃縮液の高粘度化等運転操作上の問題が生じるため、例えば1.5倍以上10倍以下、好ましくは2倍以上5倍以下で運転することが好適である。
【0047】
次いで、ケトン及び/又はアルコールの製造システムについて以下説明する。
本発明のケトン及び/又はアルコールの製造システムは、炭化水素化合物を分子状酸素で酸化することによって得られる酸化反応液中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解し、前記炭化水素化合物と炭素数が同数であるケトン及び/又はアルコールを製造するシステムであって、
前記酸化反応液とアルカリ金属の炭酸塩を含んだ第1アルカリ液とを接触させることにより、前記酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和し、反応系を第1の油相と第1の水相とに分離する中和部と、
前記第1の油相と前記第1アルカリ液よりpHが高い第2アルカリ液とを接触させることにより、前記第1の油相中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解させ、反応系を第2の油相と第2の水相とに分離するケン化部と、
前記第2の油相から未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する未反応炭化水素回収部と、
前記未反応炭化水素の少なくとも一部が回収された後の前記第2の油相からケトン及び/又はアルコールを精製する精製部と、
前記第1の水相からアルカリ金属の炭酸塩を回収して前記第1アルカリ液にリサイクルするアルカリ回収部と
を含んでいる。
【0048】
(中和部)
中和部は、例えば、酸化反応液とアルカリ金属の炭酸塩を含んだ第1アルカリ液とを接触させる中和反応槽を含んでいる。中和部は、上記作用により、酸化反応液中のカルボン酸の少なくとも一部を中和し、その後反応系を第1の油相と第1の水相とに分離する。
(ケン化部)
ケン化部は、例えば、前記第1の油相と前記第1アルカリ液よりpHが高い第2アルカリ液とを接触させるケン化反応槽を含んでいる。ケン化部は、上記作用により、前記第1の油相中のハイドロパーオキサイド及びエステル化合物を分解させ、その後反応系を第2の油相と第2の水相とに分離する。
(未反応炭化水素回収部)
未反応炭化水素回収部は、例えば、上記第2の油相から蒸留等の方法によって、未反応炭化水素の少なくとも一部を回収する炭化水素回収装置を含んでいる。
(精製部)
精製部は、例えば、未反応炭化水素の少なくとも一部が回収された前記第2の油相から蒸留等の方法によって、ケトン及び/又はアルコールを精製する精製装置を含んでいる。
(アルカリ回収部)
アルカリ回収部は、例えば、上記第1の水相を燃焼し、アルカリ金属の炭酸塩を回収する燃焼炉を含んでいる。また、アルカリ回収部は、例えば、回収したアルカリ金属の炭酸塩を水に溶解する溶解槽と、当該水溶液を中和部にリサイクルする配管とを更に備えている。なお、上記の回収は、第2の水相について同時に行ってもよい。
【0049】
上記各部は、配管により接続し、順次、対象物は次の部に送られる。
【実施例】
【0050】
以下にシクロヘキサン(Cx)を分子状酸素で酸化することによって生成するシクロヘキシルハイドロパーオキサイド(CHP)の分解に関する実験を例に挙げて本発明を更に詳しく説明する。ただし、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない
。
また、以下、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」および「実施例4」は、それぞれ、「参考例21」、「参考例22」、「参考例23」および「参考例24」と読み替えるものとする。
なお、参考例、実施例、及び比較例の選択率は以下のようにして算出される。例えば、シクロヘキサノン(CxON)及びシクロヘキサノール(CxOL)の合計選択率(CxONOL)は、シクロヘキシルハイドロパーオキシド(CHP)、シクロヘキサノン(CxON)、シクロヘキサノール(CxOL)及び副生成物のモル量をガスクロマトグラフィー及び全有機体炭素計(TOC)により定量して、次式により求められる。ここで、溶媒消費量(モル)は反応後のCHP、CxON、CxOL、及び副生物(炭素数6に換算したモル量)の合計モル量から、反応前のCHP、CxON、CxOL、及び副生物(炭素数6に換算したモル量;以下C−6換算ともいう)の合計モル量を差し引いたモル量である。なお、この溶媒消費量(モル)は、CHPによって酸化されたCxの量(モル)に等しく、ケン化工程から排出される全生成物のモル量(C−6換算)と中和工程にフィードされる全生成物のモル量(C−6換算)との差に相当する。
【0051】
【数1】
【0052】
[中和工程およびケン化工程の好適pH]
[参考例1]
表面をテフロン(登録商標)でコーティングした内容積1000mlのSUS製反応器に、シクロヘキサン450g、17重量%の炭酸ナトリウム水溶液40gを入れ、140℃に加熱した。この混合液に20重量%のシクロヘキシルハイドロパーオキサイド、10重量%のシクロヘキサノン、20重量%のシクロヘキサノールを含有するシクロヘキサン溶液50gを圧入し、所定時間毎に試料を採取しながら、シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの分解速度を測定した。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.065(1/分)、20分後の分解率は72.7%であった。なお、反応後の水相のpHは11.23であった。
【0053】
[参考例2]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、17重量%炭酸ナトリウム水溶液99重量%と10重量%水酸化ナトリウム水溶液1重量%からなる混合アルカリ水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.100(1/分)、20分後の分解率は86.5%であった。なお、反応後の水相のpHは11.77であった。
【0054】
[参考例3]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、17重量%炭酸ナトリウム水溶液98重量%と10重量%水酸化ナトリウム水溶液2重量%からなる混合アルカリ水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.100(1/分)、20分後の分解率は86.6%であった。なお、反応後の水相のpHは12.31であった。
【0055】
[参考例4]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、17重量%炭酸ナトリウム水溶液97重量%と10重量%水酸化ナトリウム水溶液3重量%からなる混合アルカリ水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.097(1/分)、20分後の分解率は85.6%であった。なお、反応後の水相のpHは12.58であった。
【0056】
[参考例5]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、17重量%炭酸ナトリウム水溶液96重量%と10重量%水酸化ナトリウム水溶液4重量%からなる混合アルカリ水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.115(1/分)、20分後の分解率は90.0%であった。なお、反応後の水相のpHは12.82であった。
【0057】
[参考例6]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、17重量%炭酸ナトリウム水溶液95重量%と10重量%水酸化ナトリウム水溶液5重量%からなる混合アルカリ水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.166(1/分)、20分後の分解率は96.4%であった。なお、反応後の水相のpHは12.93であった。
【0058】
[参考例7]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、17重量%炭酸ナトリウム水溶液90重量%と10重量%水酸化ナトリウム水溶液10重量%からなる混合アルカリ水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は0.249(1/分)、20分後の分解率は99.3%であった。なお、反応後の水相のpHは13.40であった。
【0059】
[参考例8]
17重量%炭酸ナトリウム水溶液を、10重量%水酸化ナトリウム水溶液に変えた以外は[参考例1]と同条件で反応を行った。シクロヘキシルハイドロパーオキサイドの総括分解速度定数は1.825(1/分)、20分後の分解率は100.0%であった。なお、反応後の水相のpHは13.83であった。
【0060】
[参考例9]
反応時間を75分とした以外は[参考例1]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率51.7%、CxOL選択率25.8%、CxONとCxOLの選択率合計77.5%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は2.0であった。なお、反応後の水相のpHは11.10であった。
【0061】
[参考例10]
反応時間を50分とした以外は[参考例2]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率51.9%、CxOL選択率25.9%、CxONとCxOLの選択率合計77.8%、生成したCxON対CxOLの比は2.0であった。なお、反応後の水相のpHは11.72であった。
【0062】
[参考例11]
反応時間を50分とした以外は[参考例3]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率52.0%、CxOL選択率26.0%、CxONとCxOLの選択率合計78.0%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は2.0であった。なお、反応後の水相のpHは12.15であった。
【0063】
[参考例12]
反応時間を50分とした以外は[参考例4]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率52.1%、CxOL選択率26.0%、CxONとCxOLの選択率合計78.1%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は2.0であった。なお、反応後の水相のpHは12.42であった。
【0064】
[参考例13]
反応時間を40分とした以外は[参考例5]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率55.4%、CxOL選択率24.1%、CxONとCxOLの選択率合計79.5%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は2.3であった。なお、反応後の水相のpHは12.69であった。
【0065】
[参考例14]
反応時間を30分とした以外は[参考例6]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率57.2%、CxOL選択率22.9%、CxONとCxOLの選択率合計80.1%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は2.5であった。なお、反応後の水相のpHは12.92であった。
【0066】
[参考例15]
反応時間を20分とした以外は[参考例7]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率64.7%、CxOL選択率20.2%、CxONとCxOLの選択率合計84.9%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は3.2であった。なお、反応後の水相のpHは13.4であった。
【0067】
[参考例16]
反応時間を10分とした以外は[参考例8]と同様に反応を行った。反応液を油相、水相に分液後、各相のGC分析、水相TOC分析を行って、前記式[数1]に従いCxON,CxOLの選択率を算出した。CHPの分解率は100%、CxON選択率72.8%、CxOL選択率18.2%、CxONとCxOLの選択率合計91.0%、生成したCxON対CxOLの比(CxON/CxOL)は4.0であった。なお、反応後の水相のpHは13.82であった。
【0068】
[ハイドロパーオキサイドのpKaの測定]
[参考例17]
表面をテフロン(登録商標)でコーティングした内容積1000mlのSUS製反応器に、シクロヘキサン450g、17重量%の炭酸ナトリウム水溶液38g、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液2gを入れ、25℃にて十分に攪拌した。この混合液に20重量%のシクロヘキシルハイドロパーオキサイド、10重量%のシクロヘキサノン、20重量%のシクロヘキサノールを含有するシクロヘキサン溶液50gを加え、さらに5分間攪拌した。静置・分液後、油相中のCHP濃度をガスクロマトグラフィーで定量し、水相中のCHP濃度をガスクロマトグラフィーとヨードメトリーで定量した。また、水相のpHを測定し、水素イオン濃度を算出した。
D=[油相中のCHP濃度(GC分析)]/[水相中のCHP濃度(ヨードメトリー分析)]
K
D=[油相中のCHP濃度(GC分析)]/[水相中のCHP濃度(GC分析)]
pK
a=−log
10{(K
D/D−1)[H
+]}
上式からpK
aを算出した結果、12.62であった。
【0069】
[参考例18]
[参考例17]の油相をシクロヘキサンを空気で酸化し、シクロヘキサン転化率を4.0%とした酸化反応液に変え、水相を10重量%の水酸化ナトリウム水溶液に変え、[参考例17]と同様の方法で、pKaを算出した。pKaは12.47であった。なお、シクロヘキサンの酸化反応液中には0.89重量%のCxON、2.01重量%のCxOL、0.98重量%のCHPを含み、AV値、EV値は、それぞれ、2.69mgKOH/g、1.14mgKOH/gであった。
【0070】
上記の結果を以下の表1にまとめる。
【表1】
以上の結果から分かる通り、反応後のpHがCHPのpKa以上である場合に、CHPの総括分解速度定数が上昇し、選択率が特に向上する。
【0071】
[実施例1]
導入口と排出口を有する100mlのオートクレーブ(中和槽)に[参考例18]の酸化反応液と17重量%の炭酸ナトリウム水溶液からなる第1アルカリ液とをそれぞれ20.1g/分、0.36g/分の速度でフィードし、酸化反応液中のカルボン酸類の中和を行った。中和工程の温度は120℃であり、排出された液は分離槽にて分液された。分液後排出された第1廃アルカリ液のpHは9.57であった。また、中和液、第1廃アルカリ液のGC分析、及び第1廃アルカリのTOC分析から算出されたCHP転化率は4.3%で、CxON及びCxOLの選択率は、それぞれ、51.7%及び25.8%であった。得られた中和液はフィード量0.136g/分の10%水酸化ナトリウム水溶液からなる第2アルカリ液と混合され、500mlのオートクレーブからなるケン化反応槽に送られた。ケン化工程の温度は140℃であり、排出された液は分離槽にて分液された。分液後排出された第2廃アルカリ液のpHは13.89であった。また、ケン化液、第1廃アルカリ液、第二廃アルカリ液のGC分析、第1廃アルカリ、及び第2廃アルカリ液のTOC分析から算出されたCHP転化率は100%で、CxON及びCxOLの選択率は、それぞれ、71.9%及び18.5%であり、CxONOL選択率は90.4%であった。上記連続反応操作を8時間行い、第1廃アルカリ液、第2廃アルカリ液を混合して蒸発乾固後、マッフル炉で空気中1000℃で30分間焼成し、32.3gの粉末を回収した。X線回折分析の結果、当該粉末は炭酸ナトリウム無水物であり、水酸化ナトリウム又は酸化ナトリウムは含まれていなかった。なお、8時間の運転で消費された炭酸ナトリウムは29.4gであり、水酸化ナトリウムは6.5g(いずれも無水物換算)であった。
【0072】
[実施例2]
第2アルカリ液のフィード量を0.107g/分とした以外は[実施例1]と同様に運転を行った。第2廃アルカリ液のpHは13.37であり、CHPの最終転化率は100%、CxON及びCxOLの最終選択率は、それぞれ、63.5%及び20.4%であり、CxONOL選択率は83.9%であった。また、炭酸ナトリウム消費量29.4g、水酸化ナトリウム消費量5.2gに対し、炭酸ナトリウムの回収量は30.8gであった。
【0073】
[比較例1]
酸化反応液を直接ケン化工程にフィードした。また、ケン化槽にフィードする10%水酸化ナトリウム水溶液(第2アルカリ液に相当)のフィード量を0.487g/分に増量した。ケン化工程から排出される廃アルカリ液(第2廃アルカリ液に相当)のpHは12.32であり、CHPの最終転化率は80.7%、CxON及びCxOLの最終選択率は、それぞれ、52.1%及び26.8%であり、CxONOL選択率は78.9%であった。また、水酸化ナトリウム消費量23.4gであり、回収物は26.3gの炭酸ナトリウムだった。水酸化ナトリウムは回収されなかった。
【0074】
[実施例3]
17重量%の炭酸ナトリウム水溶液0.27g/分とケン化工程からリサイクルされる第2廃アルカリ液(全量)からなる混合液を第1アルカリ液として中和工程にフィードしたこと以外は[実施例1]と同様に運転を行った。第1廃アルカリ液のpHは9.55、CHP転化率は4.1%で、CxON及びCxOLの選択率は、それぞれ、52.1%及び26.0%であった。ケン化後の第2廃アルカリのpHは13.88、CHP転化率は100%、CxON及びCxOLの最終選択率は、それぞれ、72.2%及び18.8%であり、CxONOL選択率は91.0%であった。また、炭酸ナトリウム消費量22.1g、水酸化ナトリウム消費量6.5gに対し、炭酸ナトリウムの回収量は27.7gであった。
【0075】
[実施例4]
第2アルカリ液として10重量%水酸化ナトリウム水溶液23重量部と17重量部の炭酸ナトリウム水溶液77重量部とからなる混合アルカリ水溶液を用い、第2アルカリ液のケン化工程へのフィード量を0.67g/分とし、第1アルカリ液は第2廃アルカリのリサイクルで賄って新たな炭酸ナトリウム水溶液の追加は行わなかったこと以外は[実施例3]と同様に運転を行った。第1廃アルカリ液のpHは9.50、CHP転化率は3.6%で、CxON及びCxOLの選択率は、それぞれ、52.0%及び26.2%であった。ケン化後の第2廃アルカリのpHは13.38、CHP転化率は100%、CxON及びCxOLの最終選択率は、それぞれ、63.1%及び21.8%であり、CxONOL選択率は84.9%であった。また、炭酸ナトリウム消費量41.9g、水酸化ナトリウム消費量7.3gに対し、炭酸ナトリウムの回収量は46.5gであった。
【0076】
[比較例2]
第2アルカリ液を17重量部の炭酸ナトリウム水溶液のみとし、水酸化ナトリウム水溶液を添加しなかったこと以外は[実施例4]と同様に運転を行った。
第1廃アルカリ液のpHは9.45、CHP転化率は3.5%で、CxON及びCxOLの選択率は、それぞれ、51.8%及び26.5%であった。ケン化後の第2廃アルカリ溶液のpHは12.03、CHP転化率は80.5%、CxON及びCxOLの最終選択率は、それぞれ、51.0%及び26.9%であり、CxONOL選択率は77.9%であった。また、炭酸ナトリウム消費量54.3gに対し、炭酸ナトリウムの回収量は48.9gであった。
【0077】
[実施例5]
中和工程の温度を80℃、ケン化工程の温度を90℃とし、2630ppmの硫酸コバルト水溶液を1.36mg/分の速度で第2アルカリ水溶液に混合(コバルト濃度10ppm)してケン化工程にフィードした以外は[実施例3]と同様に運転をおこなった。第1廃アルカリ液のpHは9.40、CHP転化率は3.1%で、CxON及びCxOLの選択率は、それぞれ、62.7%及び31.3%であった。ケン化後の第2廃アルカリのpHは13.95、CHP転化率は100%、CxON及びCxOLの最終選択率は、それぞれ、74.7%及び21.2%であり、CxONOL選択率は95.9%であった。また、炭酸ナトリウム消費量22.1g、水酸化ナトリウム消費量6.5gに対し、炭酸ナトリウムの回収量は27.9gであった。
【0078】
以上の結果を、下記表2にまとめる。
【表2】
以上の結果から分かるように、ケン化工程における第2の水相(第2廃アルカリ液)のpHを中和工程における第1の水相(第1廃アルカリ液)のpHより高くし、特にハイドロパーオキサイドのpKaより高くすることにより、ケトン及び/又はアルコールの選択率を向上させると共に、アルカリ消費を低減させることができた。