特許第6816734号(P6816734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6816734-水力発電システム 図000002
  • 特許6816734-水力発電システム 図000003
  • 特許6816734-水力発電システム 図000004
  • 特許6816734-水力発電システム 図000005
  • 特許6816734-水力発電システム 図000006
  • 特許6816734-水力発電システム 図000007
  • 特許6816734-水力発電システム 図000008
  • 特許6816734-水力発電システム 図000009
  • 特許6816734-水力発電システム 図000010
  • 特許6816734-水力発電システム 図000011
  • 特許6816734-水力発電システム 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816734
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】水力発電システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   H02P9/04 C
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-44038(P2018-44038)
(22)【出願日】2018年3月12日
(65)【公開番号】特開2019-161811(P2019-161811A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳幸
(72)【発明者】
【氏名】須原 淳
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴裕
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−118207(JP,A)
【文献】 特開平09−184486(JP,A)
【文献】 特開2017−040537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並列な第1分流路(11)及び第2分流路(12)が本流路(10)に接続される水路(C)を対象とする水力発電システムであって、
前記第1分流路(11)に設けられる水力機械(31)と、前記水力機械(31)の回転軸(33)に連結される発電機(32)とを有する第1流量調節部(30)と、
前記第2分流路(12)に設けられる第2流量調節部(40)と、
前記第1流量調節部(30)及び前記第2流量調節部(40)を制御する制御部(60)とを備え、
前記制御部(60)は、前記第2流量調節部(40)を制御することにより、前記第2分流路(12)の水を排出する排水動作を実行させ
前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記本流路(10)の総流量を前記第1分流路(11)の最大流量以下とするように前記第2流量調節部(40)を制御することを特徴とする水力発電システム。
【請求項2】
互いに並列な第1分流路(11)及び第2分流路(12)が本流路(10)に接続される水路(C)を対象とする水力発電システムであって、
前記第1分流路(11)に設けられる水力機械(31)と、前記水力機械(31)の回転軸(33)に連結される発電機(32)とを有する第1流量調節部(30)と、
前記第2分流路(12)に設けられる第2流量調節部(40)と、
前記第1流量調節部(30)及び前記第2流量調節部(40)を制御する制御部(60)とを備え、
前記制御部(60)は、前記第2流量調節部(40)を制御することにより、前記第2分流路(12)の水を排出する排水動作を実行させ、
前記制御部(60)は、前記発電機(32)の発電電力が所定値より大きいときに、前記排水動作を実行させないことを特徴とする水力発電システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記本流路(10)の総流量を前記第1分流路(11)の最大流量以下とすることを特徴とする水力発電システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
前記制御部(60)は、前記第2分流路(12)が非通水状態であることを示す指標、及び第2分流路(12)が微小流量のみ流れる状態を示す指標のうちの少なくとも一つに基づいて、前記排水動作の開始の要否を判定することを特徴とする水力発電システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
前記制御部(60)は、前記第2分流路 (12)内の水質を示す指標に基づいて、前記排水動作の開始の要否を判定することを特徴とする水力発電システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つにおいて、
前記制御部(60)は、前記第2分流路 (12)の積算流量に基づいて、前記排水動作の終了の要否を判定することを特徴とする水力発電システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記第2分流路 (12)の全体の容量以上の量の水を該第2分流路 (12)から排出させることを特徴とする水力発電システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つにおいて、
前記制御部(60)は、前記本流路(10)が非通水状態であるときに、前記排水動作を実行させないことを特徴とする水力発電システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つにおいて、
前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記第1流量調節部(30)を制御することにより、前記第1分流路(11)の流量を低下させることを特徴とする水力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の水力発電システムでは、本管に主管(第1分流路)とバイパス管(第2分流路)とが並列に接続される。主管には水車(水力機械)が設けられ、バイパス管には電動弁(第2流量調節部)が設けられる。本管の水は、原則的には、主管を流れ、水車の回転に利用される。水車の回転動力は、発電機の発電に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−118207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイパス管では、例えば電動弁が長期に亘って閉状態あるいは微小開度であると、バイパス管の水が滞ってしまう。この結果、例えば上水道を対象とするシステムでは、水の塩素濃度が規定濃度を下回ってしまう可能性がある。その後、電動弁が開放され、塩素濃度が低下した水が下流側へ送られると、供給対象において塩素濃度の基準値を満足できない可能性がある。また、バイパス管の水が滞ると、水中の菌やカビ等が繁殖したり、水中の成分が固着してスケールが発生したり、配管の腐食を招いたりする可能性もある。
【0005】
本開示の目的は、第2流量調節部が設けられる分流路において、長期に亘って水が滞ってしまうことを抑制できる水力発電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、互いに並列な第1分流路(11)及び第2分流路(12)が本流路(10)に接続される水路(C)を対象とする水力発電システムであって、前記第1分流路(11)に設けられる水力機械(31)と、前記水力機械(31)の回転軸(33)に連結される発電機(32)とを有する第1流量調節部(30)と、前記第2分流路(12)に設けられる第2流量調節部(40)と、前記第1流量調節部(30)及び前記第2流量調節部(40)を制御する制御部(60)とを備え、前記制御部(60)は、前記第2流量調節部(40)を制御することにより、前記第2分流路(12)の水を排出する排水動作を実行させ、前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記本流路(10)の総流量を前記第1分流路(11)の最大流量以下とするように前記第2流量調節部(40)を制御することを特徴とする水力発電システムである。
【0007】
第1の態様では、第2分流路(12)の水を排出する排水動作を実行することで、第2分流路(12)の水を速やかに排出できる。このため、第2分流路(12)において、長期に亘って水が滞ってしまうことを抑制できる。
【0008】
第2の態様は、互いに並列な第1分流路(11)及び第2分流路(12)が本流路(10)に接続される水路(C)を対象とする水力発電システムであって、前記第1分流路(11)に設けられる水力機械(31)と、前記水力機械(31)の回転軸(33)に連結される発電機(32)とを有する第1流量調節部(30)と、前記第2分流路(12)に設けられる第2流量調節部(40)と、前記第1流量調節部(30)及び前記第2流量調節部(40)を制御する制御部(60)とを備え、前記制御部(60)は、前記第2流量調節部(40)を制御することにより、前記第2分流路(12)の水を排出する排水動作を実行させ、前記制御部(60)は、前記発電機(32)の発電電力が所定値より大きいときに、前記排水動作を実行させないことを特徴とする水力発電システムである。
【0009】
第2の態様では、発電電力が大きい状況下において、排水動作に起因して発電電力が大幅に低下してしまうことを防止できる。
【0010】
第3の態様は、第2の態様において、前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記本流路(10)の総流量を前記第1分流路(11)の最大流量以下とすることを特徴とする水力発電システムである。
【0011】
第4の態様は、第1乃至第3のいずれか1つの態様において、前記制御部(60)は、前記第2分流路(12)が非通水状態であることを示す指標、及び第2分流路(12)が微小流量のみ流れる状態を示す指標のうちの少なくとも一つに基づいて、前記排水動作の開始の要否を判定することを特徴とする水力発電システムである。
【0012】
第5の態様は、第1乃至第3のいずれか1つの態様において、前記制御部(60)は、前記第2分流路 (12)内の水質を示す指標に基づいて、前記排水動作の開始の要否を判定することを特徴とする水力発電システムである。
【0013】
第6の態様は、第1乃至5の態様のいずれか1つにおいて、前記制御部(60)は、前記第2分流路 (12)の積算流量に基づいて、前記排水動作の終了の要否を判定することを特徴とする水力発電システムである。
【0014】
第7の態様は、第1乃至6の態様のいずれか1つにおいて、前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記第2分流路 (12)の全体の容量以上の量の水を該第2分流路 (12)から排出させることを特徴とする水力発電システムである。
【0015】
第8の態様は、第1乃至7の態様のいずれか1つにおいて、前記制御部(60)は、前記本流路(10)が非通水状態であるときに、前記排水動作を実行させないことを特徴とする水力発電システムである。第8の態様では、排水動作において、第2分流路(12)内にある水の全てを該第2分流路(12)から排出できる。
【0016】
第9の態様は、第1乃至8の態様のいずれか1つにおいて、前記制御部(60)は、前記排水動作において、前記第1流量調節部(30)を制御することにより、前記第1分流路(11)の流量を低下させることを特徴とする水力発電システムである。
【0017】
第9の態様では、排水動作において第2分流路(12)の流量が増大しても、第1分流路(11)の流量を低下させるために、本流路(10)の総流量が大幅に増大することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態に係る水力発電システムの概略構成図である。
図2図2は、コントローラの概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、水力発電システムの運転動作を説明するためのタイミングチャートである。
図4図4は、第1条件の変形例4に係る水力発電システムの概略構成図である。
図5図5は、第1条件の変形例4に係るタイミングチャートである。
図6図6は、第2条件の変形例1に係るタイミングチャートである。
図7図7は、第2条件の変形例2に係るタイミングチャートである。
図8図8は、第1制御に係る水力発電システムの概略構成図である。
図9図9は、第1制御に係るタイミングチャートである。
図10図10は、第2制御に係るタイミングチャートである。
図11図11は、第3制御に係るタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0020】
《発明の実施形態》
図1は、本発明の水力発電システム(20)の概略構成図である。水力発電システム(20)は、水が流れる水路(C)に適用される。
【0021】
〈水路〉
本実施形態の水路(C)は、上水道に適用されている。例えば水路(C)の上流側には貯留槽が設けられ、水路(C)の下流側には受水槽が設けられる(図示省略)。水路(C)では、貯留槽と受水槽との間の落差により、水が流れる。
【0022】
水路(C)は、本流路である1本の本管(10)と、該本管(10)に並列に接続される主管(11)及びバイパス管(12)を備えている。本管(10)は、主管(11)の上流側の上流配管(10a)と、主管(11)の下流側の下流配管(10b)とを含んでいる。主管(11)は、第1流量調節部(30)が設けられる第1分流路を構成している。バイパス管(12)は、電動弁(40)が設けられる第2分流路を構成している。本実施形態のバイパス管(12)は、例えば発電機(32)の異常時において、水が水車(31)を迂回するための迂回路である。ここで、発電機(32)の異常時とは、電力系統(E)の停電や瞬時電圧低下に起因する発電の停止や、発電機(32)、コンバータ(34)、系統連系インバータ(62)などの機器の故障(電気的な断線や、メカの焼き付き)が挙げられる。
【0023】
〈水力発電システム〉
図1に示すように、水力発電システム(20)は、第1流量調節部(30)、第2流量調節部(電動弁(40))、第1流量計(21)、第2流量計(22)、コントローラ(60)、及び系統連系インバータ(62)を備えている。第1流量調節部(30)は、水車(31)、発電機(32)、及びコンバータ(34)を含んでいる。
【0024】
〈水車〉
水車(31)は、水路(C)に設けられる水力機械である。水車(31)は、主管(11)に設けられる。水車(31)は、ケーシングと、ケーシングの内部に収容される羽根車とを備えている(図示省略)。羽根車の軸心部は、回転軸(33)を介して発電機(32)に連結される。水車(31)では、ケーシング内の水流により、羽根車、ひいては回転軸(33)が回転する。
【0025】
〈発電機〉
発電機(32)は、水車(31)によって回転駆動されることで発電を行う。発電機(32)は、例えば永久磁石埋込型のロータと、コイルを有するステータとを備える。
【0026】
〈コンバータ〉
コンバータ(34)は、コントローラ(60)からの指令に基づいて発電機(32)のトルクを調節する。これにより、主管(11)の水の流量(第1流量(Q1))が調節される。
【0027】
〈電動弁〉
電動弁(40)は、水路(C)に設けられる第2流量調節部である。電動弁(40)は、バイパス管(12)に接続される。電動弁(40)は、バイパス管(12)の水の流量(第2流量(Q2))を調節する。電動弁(40)は、バイパス管(12)を全閉とする全閉状態と、バイパス管(12)を100%開放する全開状態との間で、その開度が多段階に調節可能に構成される。電動弁(40)を制御することで、バイパス管(12)の流量及び圧力が変化する。つまり、電動弁(40)は、圧力を調節する弁ということもできる。
【0028】
〈第1流量計及び第2流量計〉
第1流量計(21)は、主管(11)に設けられる。第1流量計(21)は、主管(11)を流れる水の流量(第1流量(Q1))を検出ないし計測する第1流量取得部を構成している。第2流量計(22)は、バイパス管(12)を流れる水の流量(第2流量(Q2))を検出ないし計測する第2流量取得部を構成している。第1流量取得部及び第2流量取得部は、必ずしも各流量を直接検出しなくてもよい。例えば第1流量取得部及び第2流量取得部は、水車(31)の特性(水車(31)ないし発電機(32)の運転点、トルク、発電電力、その他の特性を含むデータベース(特性マップ)から、各流量を推定することもできる。
【0029】
〈コントローラ〉
図2に示すように、コントローラ(60)(制御部)は、第1制御部(70)と、第2制御部(80)とを備える。
【0030】
〈第1制御部〉
第1制御部(70)は、第1流量調節部(30)を制御する。第1制御部(70)は、原則として、本管(10)の総流量を目標値に近づける流量制御を行う。本実施形態では、この目標値は、本管(10)から水が供給される供給対象の要求によって定められる。第1制御部(70)には、この目標値に相当する流量指令値(Q*)が入力される。
【0031】
第1制御部(70)は、マイクロコンピュータと、それを動作させるためのプログラムが格納されたメモリディバイスとを用いて構成されている。第1制御部(70)は、流量制御器(71)、トルク制御器(72)、及びPWM制御器(73)を備えている。
【0032】
流量制御器(71)には、第1流量計(21)で検出した第1流量(Q1)と、目標値である流量指令値(Q*)とが入力される。流量制御器(71)は、第1流量(Q1)を流量指令値(Q*)に収束させるためのトルク指令値(T*)を算出する。
【0033】
トルク制御器(72)には、発電機(32)の制御目標となるトルク指令値(T*)が入力される。トルク制御器(52)は、トルク指令値(T*)に従い電圧指令値を算出する。
【0034】
PWM制御器(73)は、トルク制御器(72)から出力された電圧指令値に基づいて、コンバータ(34)のスイッチング素子をPWM制御する。これにより、第1流量(Q1)が流量指令値(Q*)に収束する。
【0035】
〈第2制御部〉
第2制御部(80)は、第2流量調節部である電動弁(40)を制御する。本実施形態の第2制御部(80)は、発電機(32)の異常を示す条件(異常条件)が成立すると、本管(10)の水が水車(31)を迂回するバイパス動作を実行させるように、電動弁(40)を制御する。第2制御部(80)は、第1条件が成立すると、バイパス管(12)の水を排出する排水動作を実行させるように電動弁(40)を制御する。第2制御部(80)は、第2条件が成立すると、排水動作を終了させるように電動弁(40)を制御する。
【0036】
第2制御部(80)は、マイクロコンピュータと、それを動作させるためのプログラムが格納されたメモリディバイスとを用いて構成されている。
【0037】
第2制御部(80)は、第1判定部(81)、第2判定部(82)、及び弁制御部(83)を備えている。
【0038】
第1判定部(81)は、異常条件に基づいてバイパス動作の実行の要否を判定する。例えば第1判定部(81)は、発電機(32)に接続するコンバータ(34)の電流値に基づいて判断される。異常条件が成立すると、第1判定部(81)は、バイパス動作を実行させるための指令を弁制御部(83)に出力する。
【0039】
第2判定部(82)は、第1条件に基づいて排水動作の開始の要否を判定する。第1条件が成立すると、第2判定部(82)は、排水動作を実行させるための指令を弁制御部(83に出力する。第2判定部(82)は、第2条件に基づいて排水動作の終了の要否を判定する。第2条件が成立すると、第2判定部(82)は、排水動作を終了させるための指令を弁制御部(83)に出力する。
【0040】
弁制御部(83)は、第1判定部(81)及び第2判定部(82)から出力された指令に基づいて、電動弁(40)の開度を制御する(詳細は後述する)。
【0041】
〈系統連系インバータ〉
図1に示すように、系統連系インバータ(62)は、インバータ部を構成する複数のスイッチング素子を備える。系統連系インバータ(62)には、コンバータ(34)からの直流電力が入力される。系統連系インバータ(62)では、複数のスイッチング素子をスイッチングすることで、直流電力が交流電力に変換される。系統連系インバータ(62)が生成した交流電力は、電力系統(E)に供給(逆潮流)される。
【0042】
なお、コンバータ(34)及び系統連系インバータ(62)とを含む電力変換回路は、発電機(32)のトルクを制御する機能と、発電機(32)で発電した電力を電力系統(E)に供給できる機能とを有するのであれば、他の方式であってもよい。例えば電力変換回路は、系統連系インバータ(62)とコンバータ(34)とを一体としてもよく、マトリックスコンバータを採用することも可能である。
【0043】
〈水力発電システムの運転動作〉
水力発電システム(20)の運転動作について説明する。本実施形態の水力発電システム(20)は、通常動作、バイパス動作、及び排水動作を実行可能に構成される。
【0044】
〈通常動作〉
通常動作は、発電機(32)で発電を行うとともに、第1流量(Q1)を目標値に近づける動作である。通常動作では、原則的に電動弁(40)が全閉状態となる。このため、上流配管(10a)の水は、主管(11)のみを流れ、下流配管(10b)から所定の供給対象へ送られる。なお、詳細は後述するが、通常動作において電動弁(40)を微小開度で開放してもよい。主管(11)では、水流によって水車(31)が回転駆動され、発電機(32)で発電が行われる。この際、第1制御部(70)によって発電機(32)が制御されることで、第1流量(Q1)が目標値(Q*)に調節される。通常動作では、バイパス管(12)が閉鎖されているため、第1流量(Q1)は、本管(10)の総流量(QT)と等しくなる。従って、通常動作では、実質的に本管(10)の総流量(QT)が目標値(Q*)に調節される。原則として、目標値(Q*)は、主管(11)を流れる水の最大流量以下に設定される。
【0045】
〈バイパス動作〉
バイパス動作は、発電機(32)の異常時であっても、供給対象へ水を送るための動作である。バイパス動作は、発電機(32)の異常時において実行される。具体的には、例えば電力系統(E)の瞬時電圧低下に起因して発電を停止したとする。この場合、第1判定部(81)において異常条件が成立し、電動弁(40)を所定の開度で開放される。これにより、上流配管(10a)の水は、バイパス管(12)を経由して下流配管(10b)へ送られる。つまり、バイパス動作では、本管(10)の水が、主管(11)の水車(31)をバイパスする。従って、本管(10)の水を所定の供給対象へ確実に送ることができる。
【0046】
〈排水動作〉
排水動作は、バイパス管(12)に長期に亘って水が滞るのを抑制するための動作である。排水動作は、通常動作において、本管(10)の総流量(QT)の目標値(Q*)が主管(11)の最大流量以下(より詳細には、水車(10)の運転範囲の最大流量以下)であるときにも実行される。
【0047】
上述した通常動作では、バイパス管(12)が電動弁(40)によって閉鎖される。このため、バイパス管(12)では、その内部の水が滞ることになる。バイパス管(12)内の水が長期に亘って滞ると、この水の塩素濃度が低下していく。このようにして、水の塩素濃度が規定値を下回ると、その後の、バイパス動作では、塩素濃度が極めて低い水が供給対象へ送られる。この場合、供給対象の水質が、一時的に基準値を満たすことができなくなる可能性がある。そこで、本実施形態の水力発電システム(20)では、バイパス管(12)に長期に亘って水が滞ることを抑制するために、強制的に排水動作が実行される。
【0048】
本実施形態の第2判定部(82)は、バイパス管(12)が非通水状態であることを示す指標に基づいて第1条件の判定を行う。この指標として、電動弁(40)が閉状態であることを示す信号が用いられる。第2判定部(82)には、予め第1設定時間(Ts1)が設定される。第2判定部(82)は、電動弁(40)が閉状態である時間が第1設定時間(Ts1)に達すると、排水動作の開始が要と判定する。ここで、第1設定時間(Ts1)は、規定時間(Td)よりも小さい所定時間である。規定時間(Td)は、バイパス管(12)に水が滞ることに起因して水の塩素濃度が規定値を下回るまでに要する時間であり、温度や塩素注入量に応じて変化する。
【0049】
本実施形態の第2判定部(82)は、排水動作の実行時間に基づいて第2条件の判定を行う。第2判定部(82)には、予め第2設定時間(Ts2)が設定される。第2判定部(82)は、排水動作において、排水動作の実行時間が第2設定時間(Ts2)に達すると、排水動作の終了が要と判定する。
【0050】
例えば図3に示すように、例えばバイパス動作が実行された後、再び通常動作が実行されたとする。この場合、通常動作の開始時t1に電動弁(40)が閉状態となる。この時点t1から第1設定時間(Ts1)が経過して時点t2に至ると、第2判定部(82)は、排水動作が要であると判定する。この結果、弁制御部(83)は、電動弁(40)を所定の開度で開放させ、排水動作が開始される。
【0051】
排水動作では、上流配管(10a)の水が、主管(11)とバイパス管(12)との双方を流れる。主管(11)では、水車(31)を水が通過するため、発電機(32)において継続して発電が行われる。同時に、バイパス管(12)が通水状態になることにより、バイパス管(12)に滞っていた水が下流配管(10b)へ排出される。これにより、バイパス管(12)の水の塩素濃度が上昇する。
【0052】
排水動作では、バイパス管(12)から排出される水の総排水量(Ve)が、バイパス管(12)の内部の総容積(VT)以上となるように電動弁(40)が制御される。ここで、総容積(VT)は、電動弁(40)の開度(即ち、第2流量(W2))、及び電動弁(40)を開放する時間(即ち第2設定時間(Ts2))によって調節できる。このように、総排水量(Ve)を総容積(VT)以上とすることで、バイパス管(12)の水の全てをバイパス管(12)の外部へ確実に排出できる。
【0053】
排水動作では、本管(10)の総流量(QT)(QT=Q1+Q2)が、主管(11)の最大流量以下になるように、電動弁(40)が制御される。総流量(QT)を低下させるためには、電動弁(40)の開度を比較的小さくし、且つ排水動作の実行時間を長くすればよい。また、詳細は後述するが、主管(11)の流量(第1流量(Q1))を低下させることで、総流量(QT)を低下させる制御を行うことも可能である。
【0054】
排水動作において、総流量(QT)が過剰に大きくなると、本管(10)の内壁に付着した汚れなどが剥がれ落ち、供給対象へ流出する可能性がある。この場合、供給対象の水質が、一時的に悪化する可能性がある。これに対し、排水動作において、本管(10)の総流量(QT)を、水車(31)の最大流量以下に制限することで、このような不具合を回避できる。
【0055】
排水動作の終了時t3において電動弁(40)が閉鎖されると、通常動作が再開される。そして、時点t3より第1設定時間(Ts1)が経過すると、再び排水動作が行われる。
【0056】
このように、本実施形態では、規定時間(Td)よりも短い間隔(第1設定時間(Ts1))で排水動作が実行される。これにより、バイパス管(12)に滞った水の塩素濃度が規定値を下回ることを確実に防止できる。この結果、その後にバイパス動作が実行されたとしても、供給対象の水質が基準値を下回ることを防止できる。
【0057】
−実施形態の効果−
本実施形態では、コントローラ(60)が、第2流量調節部である電動弁(40)を制御することにより、バイパス管(12)の水を強制的に排出する排水動作を実行させる。排水動作は、通常動作よりも優先して実行されるので、通常動作の目標値(Q*)によらず確実に実行される。これにより、バイパス管(12)に長期に亘って水が滞ることを抑制できる。
【0058】
バイパス管(12)に長期に亘って水が滞ると、水の塩素濃度が規定値を下回ってしまう。加えて、この水の菌やカビが繁殖したり、水中の成分が固着してスケールが発生したり、水中の配管の腐食、サビの発生を招いたりする不具合が生じる。これに対し、本実施形態では、バイパス管(12)の水を適宜強制的に排出するため、このような問題を解決できる。
【0059】
本実施形態では、バイパス管(12)が非通水状態であることを示す指標(即ち、電動弁(40)が閉状態であること)に基づいて、排水動作の開始の要否を判定する。このため、電動弁(40)が閉状態となることに起因してバイパス管(12)に長期に亘って水が滞る前に、排水動作を確実に実行することができる。
【0060】
本実施形態では、コントローラ(60)が、排水動作において、バイパス管(12)の全体の容量(総容積(VT))以上の量の水をバイパス管(12)から排出させる。このため、1回の排水動作において、バイパス管(12)の水を全て排出でき、バイパス管(12)内の水質を改善できる。
【0061】
《第1条件の変形例》
排水動作の開始の要否を判断するための第1条件は、以下のような各変形例としてもよい。
【0062】
〈第1条件の変形例1〉
バイパス管(12)が非通水状態であることを示す指標は、水路(C)の既知の運転計画に関するデータであってもよい。つまり、このデータには、どの時間/時刻においてバイパス管(12)が非通水状態となるかを示す情報が含まれる。従って、第2判定部(82)は、このデータに基づき排水動作の実行の要否を判定することで、適切なタイミングで排水動作を実行できる。
【0063】
〈第1条件の変形例2〉
バイパス管(12)が非通水状態であることを示す指標は、バイパス管(12)の第2流量(Q2)であってもよい。例えばバイパス管(12)の第2流量(Q2)が継続してゼロであり、この時間が第1設定時間(Ts1)に達すると、排水動作を実行させる。
【0064】
〈第1条件の変形例3〉
バイパス管(12)が微小流量のみ流れる状態を示す指標を用いて、排水動作の開始の要否を判定してもよい。つまり、例えば通常運転において、電動弁(40)が微小開度である場合にも、バイパス管(12)内で水が滞る(十分に流れない)ため、水の塩素濃度が低下したり、菌やカビの増殖が促進されたり、水中の成分が固着してスケールが発生したり、配管の腐食やサビの発生を招く問題が生じうる。つまり、バイパス管(12)の電動弁(40)が、このような課題が生じうる微小開度であり、バイパス管(12)の第2流量(Q2)が、このような課題が生じる微小流量である場合、排水動作を実行する必要がある。
【0065】
そこで、バイパス管(12)が微小流量のみ流れる状態を示す指標として、例えば電動弁(40)が微小開度である状態を示す信号を用いる。例えば、この状態が第1設定時間(Ts1)より長い所定時間に達すると、排水動作を開始させる。
【0066】
なお、第1条件の判定として、バイパス管(12)が非通水状態であることを示す指標と、バイパス管(12)が微小流量のみ流れる状態を示す指標との双方を用いてもよい。また、上述した第1条件の変形例1や、第1条件の変形例2と同様に、バイパス管(12)が微小流量のみ流れる状態を示す指標は、既知の運転計画に関するデータであってもよいし、バイパス管(12)の第2流量(Q2)であってもよい。
【0067】
〈第1条件の変形例4〉
コントローラ(60)の第2判定部(82)は、バイパス管(12)の水質を示す指標を用いて排水動作の開始の要否を判定してもよい。例えば図4に示すように、バイパス管(12)には、バイパス管(12)内の水質を計測する水質計測部(50)が設けられる。図4では、水質計測部(50)がバイパス管(12)における電動弁(40)の上流側に配置されるが、これを電動弁(40)の下流側に配置してもよい。水質計測部(50)は、例えば水の塩素濃度を計測する塩素濃度計、水の電気伝導度を計測する導電率計、その他の水質指標を計測するセンサである。
【0068】
図5に示すように、通常動作においてバイパス管(12)に水が滞ると、この水の塩素濃度が徐々に低下していく。これに伴い、水質計測部(50)で検出された塩素濃度(D)が低下していく。本例では、通常動作において、検出された塩素濃度(D)が所定の第1値(D1)に達すると、第1条件が成立し、排水動作が実行される。この第1値(D1)は、例えば飲料水として許容できる塩素濃度の基準値と同じ、又はそれよりも大きな値である。
【0069】
このように、バイパス管(12)の水の水質を直接検出し、この検出結果に基づいて排水動作を実行することで、通常動作の実行時間を十分に確保しつつ、バイパス管(12)内の水質の悪化を確実に回避できる。
【0070】
〈第1条件の変形例5〉
コントローラ(70)の第2判定部(82)は、バイパス管(12)の所定時間における積算流量に基づいて排水動作の開始の要否を判定してもよい。具体的には、例えば上述した規定時間(Td)よりも短い所定の時間(Ts3)毎に、バイパス管(12)の第2流量(Q2)の積算値(積算流量(QI))が求められる。この積算流量(QI)は、第2流量(Q2)に基づき計算されてもよいし、積算流量計により直接計測されてもよい。そして、所定の時間(Ts3)が経過したときに、この時間(Ts3)における積算流量(QI)が所定値より小さい場合、排水動作を実行させる。これにより、バイパス管(12)の水が滞ることを確実に回避できる。一方、所定の時間(Ts3)が経過したときに、この時間(Ts3)における積算流量(QI)が所定値より大きい場合、排水動作を実行せず、時間(Ts3)を再びカウントする。
【0071】
この例では、バイパス管(12)の電動弁(40)を瞬時に開放した場合などにバイパス管(12)から排出された水の量を考慮しつつ、適切なタイミングで排水動作を実行することができる。
【0072】
《第2条件の変形例》
排水動作の終了の要否を判断するための第2条件は、以下のような各変形例としてもよい。
【0073】
〈第2条件の変形例1〉
第2条件の判定に、排水動作中にバイパス管(12)から排水される水の積算流量を用いてもよい。つまり、コントローラ(60)の第2判定部(82)は、バイパス管(12)の積算流量を示す指標に基づいて、排水動作の終了の要否を判定する。
【0074】
図6の例では、排水動作の開始時から、バイパス管(12)の流量(第2流量(Q2))の積算値(積算流量(QI))が求められる。この積算流量(QI)は、第2流量(Q2)に基づき計算されてもよいし、積算流量計により直接計測されてもよい。この例では、積算流量(QI)が所定値(I1)に達すると、排水動作が終了し、通常動作が開始される。この所定値(I1)は、バイパス管(12)の内部の総容積(VT)以上の値である。所定値(I1)は総容積(VT)と等しくするのが好ましい。
【0075】
この例では、排水動作において、バイパス管(12)に滞った水の全量を確実に排出できる。また、積算流量(I)を総容積(VT)と等しくすると、バイパス管(12)に滞った水を過不足なく排出でき、排水動作の実行時間を必要最小限に抑えることができる。
【0076】
〈第2条件の変形例2〉
この例では、通常動作においてバイパス管(12)の電動弁(40)が微小開度で開放されている場合に、この際の第2流量(Q2)の積算流量も考慮して排水動作を行うものである。例えば図7に示すように、通常動作において電動弁(40)が微小開度で開放されていたとする。この場合、通常動作においても積算流量(I)が増大していく。そして、排水動作において、積算流量(I)が更に増大し、積算流量(I)が所定値(I1)に達すると、第2条件が成立したと判定される。つまり、この例では、通常動作の開始時から排水動作が終了するまでの間の積算流量に基づいて第2条件の判定が行われる。このようにすると、排水動作の実行時間を、上述した第2条件の変形例1よりも短くできる。
【0077】
〈第2条件の変形例3〉
コントローラ(60)の第2判定部(82)は、バイパス管(12)の水質を示す指標を用いて排水動作の終了の要否を判定してもよい。つまり、図4に示すように、バイパス管(12)には、上述した水質計測部(50)が設けられる。図5に示すように、排水動作において、バイパス管(12)の水が排出されると、塩素濃度(D)が徐々に上昇していく。排水動作において、検出された塩素濃度(D)が所定の第2値(D2)に達すると、第2条件が成立し、排水動作が実行される。この第2値(D2)は、第1値(D1)よりも大きな値である。
【0078】
《排水動作の他の制御例》
排水動作は、次に示すような各制御例を採用してもよい。
【0079】
〈第1制御〉
コントローラ(60)の第2制御部(80)は、本管(10)が非通水状態であるときに、排水動作が実行されないように電動弁(40)を制御してもよい。図8に示すように、例えば水路(C)には、本管(10)の上流部に開閉機構(15)が設けられる。開閉機構(15)は、本管(10)の開閉可能な開閉弁である。開閉機構(15)は、原則として、水力発電システム(20)の運転とは無関係に開閉状態が切り換えられる。
【0080】
水力発電システム(20)のコントローラ(60)には、例えば開閉機構(15)の開閉状態を示す信号が入力される。本例の第2制御部(80)は、本管(10)が通水状態であるときには、排水動作の実行を許容する。第2制御部(80)は、本管(10)が非通水状態であるときには、排水動作の実行を禁止する。
【0081】
具体的には、図9の時点t1に示すように、本管(10)が通水状態であると判定されているときに、第1条件が成立したとする。この場合、第2制御部(80)は、電動弁(40)を開放させ、排水動作を実行させる。一方、図9の時点t2に示すように、本管(10)が非通水状態であると判定されているときに、第1条件が成立するとする。この場合、第2制御部(80)は、第1条件が成立していても電動弁(40)を開放せず、排水動作の実行を禁止する。この場合には、時点t2の後、本管(10)が再び通水状態であると判定された時点t3において、電動弁(40)が開放され、排水動作が実行される。
【0082】
以上のように、この例では、非通水状態であるときに排水動作が実行されない。このため、電動弁(40)を開放したが、実際にはバイパス管(12)を水が流れない、という不具合を回避できる。そして、次の通水状態の排水動作において、バイパス管(12)の水を確実に排出できる。
【0083】
〈第1制御の変形例1〉
第1制御は、水路(C)の既知の運転計画に関するデータに基づいて行われてもよい。つまり、このデータには、本管(10)が、どの時間/時刻において通水状態、及び非通水状態になるかを示す情報が含まれる。コントローラ(60)は、このデータに基づき、本管(10)の非通水状態を避けるように排水動作を実行させる。
【0084】
〈第1制御の変形例2〉
本管(10)が通水状態であるか非通水状態であるかの判定は、開閉機構(15)の開閉状態以外の指標を用いてもよい。例えば水路(C)の流量(通水状態)や圧力を検出することによって判定することもできる。
【0085】
〈第2制御〉
コントローラ(60)の第2制御部(80)は、排水動作において、主管(11)の流量(第1流量(Q1))を小さくするように発電機(32)を制御してもよい。具体的には、通常動作から排水動作に移行しても、本管(10)の総流量(QT)が目標値に維持されるように、発電機(32)を制御するとよい。
【0086】
例えば図10に示すように、時点t1において排水動作が実行されるとする。この場合、第2制御部(80)は、電動弁(40)を所定開度で開放させる。これにより、第2流量(Q2)がΔQだけ増大する。一方、第1制御部(70)は、排水動作の実行の開始時に第1流量(Q1)を小さくするように発電機(32)を制御する。本例では、排水動作において第1流量(Q1)をΔQだけ減少させる。こうすると、排水動作において第2流量(Q2)が増大しても、総流量(QT)が大きく変化しない。これにより、排水動作においても、総流量(QT)を目標値(Q*)に近づける、あるいはそのまま維持できる。
【0087】
排水動作において、例えば電動弁(40)の開度を比較的小さくし、かつ排水動作の実行時間を長くすると第2流量(Q2)の減少幅ΔQは小さくなる。これに伴い、排水動作では、第1流量(Q1)の増大幅(即ちΔQ)も小さくなる。従って、総流量(QT)の変動を抑えるという観点からいうと、排水動作の電動弁(40)の開度を比較的小さくし、且つ排水動作の実行時間を比較的長くするのがよい。
【0088】
〈第3制御〉
コントローラ(60)の第2制御部(80)は、発電機(32)の発電電力が所定値より大きいときに、排水動作が実行されないように電動弁(40)を制御してもよい。水力発電システム(20)では、発電機(32)の発電電力が変動することがある。例えば水路(C)の総流量(QT)の目標値(Q*)が計画的に変化したり、発電機(32)の電力需要が変化したりする場合である。発電機(32)の発電電力(P)は、第1流量(Q1)の三乗に比例する。このため、発電機(32)の発電電力(P)が比較的大きい状態で、排水動作が実行されると、第1流量(Q1)が小さくなり、ひいては発電電力(P)が著しく低下してしまう可能性がある。そこで、本例では、発電電力(P)が所定値(P1)よりも大きいときに、排水動作が禁止され、その後、発電電力(P)が所定値(P1)以下になると、排水動作が実行される。なお、発電電力(P)を示す指標として、他の指標(第1流量(Q1)など)を用いてもよい。
【0089】
例えば図11の時点t1において、発電電力(P)が所定値(P1)以下のときに、第1条件が成立したとする。この場合、第2制御部(80)は、電動弁(40)を開放させ、排水動作を実行させる。一方、図11の時点t2に示すように、発電電力(P)が所定値(P1)より大きいときに、第1条件が成立したとする。この場合、第2制御部(80)は、第1条件が成立していても電動弁(40)を開放せず、排水動作の実行が禁止される。この場合には、時点t2の後、発電電力(P)が所定値(P1)以下になった時点t3において、電動弁(40)が開放され、排水動作が実行される。
【0090】
以上のように、この例では、発電電力(P)が比較的大きな条件下において、排水動作が実行されない。このため、排水動作に起因して発電電力が大幅に低下することを抑制できる。
【0091】
〈第3制御の変形例〉
第3制御は、水路(C)及び発電機(32)の既知の運転計画に関するデータを用いてもよい。つまり、このデータには、本管(10)の目標値(Q*)や発電機(32)の目標の発電電力等を示す情報が含まれる。コントローラ(60)は、このデータに基づき、発電電力(P)が所定値(P1)より大きい期間を避けるように、排水動作を実行させる。
【0092】
《その他の実施形態》
上記実施形態については以下のような構成としてもよい。
【0093】
上述した実施形態、第1条件の各変形例、第2条件の各変形例、及び他の各制御例を可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0094】
上述した実施形態は、本管(10)の総流量(QT)ないし第1流量(Q1)を目標値に近づけるように、発電機(32)を制御するものである。しかし、水力発電システム(20)は、本管(10)の下流側の圧力、あるいは主管(11)の下流側の圧力を目標値に近づけるものであってもよい。この場合、上述した各例においては、第1流量(Q1)を主管(11)の圧力(第1圧力(p1))に置き換え、第2流量(Q2)をバイパス管(12)の圧力(第2圧力(p2))に置き換えて、同様の制御を行うこともできる。ここで、第1圧力(p1)及び第2圧力(p2)は、必ずしもセンサ等で直接計測しなくてもよく、水車(31)ないし発電機(32)の運転点、トルク、発電電力、その他の特性を含むデータベース(特性マップ)から推定することもできる。
【0095】
第1流量調節部(30)は、主管(11)に直列に接続された2つ以上の水力機械(31)であってもよい。第1流量調節部(30)は、主管(11)に直列に接続された少なくとも1つの水力機械(31)と、少なくとも1つの電動弁(40)であってもよい。
【0096】
第1流量調節部(30)が設けられる主管(11)(第1分流路)は、必ずしも1本でなくてもよく、本管(10)に2本以上の主管(11)を並列に接続してもよい。
【0097】
第2流量調節部は、バイパス管(12)に直列に接続された2つ以上の電動弁(40)であってもよい。また、第2流量調節部(40)は、電動弁(40)である必要はなく、バイパス管(12)の流量(厳密には圧力も含む)を調節できれば、如何なる構成であってもよい。
【0098】
例えば第2流量調節部(40)は、発電機に繋がる少なくとも1つの水力機械(水車)であってもよい。上述した水車(31)と同様、この水力機械を制御することで、バイパス管(12)を非通水状態としたり、微小流量としたり、通水状態としたりできるからである。また、第2流量調節部は、少なくとも1つの電動弁と、少なくとも1つの水力機械とを直列に接続した構成であってもよい。この場合にも、電動弁及び水力機械を協調して制御することで、バイパス管(12)を非通水状態としたり、微小流量としたり、通水状態としたりできる。
【0099】
第2流量調節部(40)が設けられるバイパス管(12)(第2分流路)は、必ずしも1本でなくてもよく、本管(10)に2本以上のバイパス管(12)を並列に接続してもよい。上述した実施形態では、排水動作中は主管(11)(第1分流路)が通水状態であることを原則としている。しかし、排水動作中は主管(11)が非通水状態であってもよい。また、排水動作前と排水動作後の少なくともいずれかで、主管(11)が通水状態となればよい。
【0100】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。また、以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、水力発電システムとして有用である。
【符号の説明】
【0102】
10 本管(本流路)
11 主管(第1分流路)
12 バイパス管(第2分流路)
30 第1流量調節部
32 発電機
40 電動弁(第2流量調節部)
60 コントローラ(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11