(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態における化学反応装置100は、
図1の模式図に示すように、還元反応用電極102、酸化反応用電極104、電解液106、太陽電池セル108、窓材110及び枠材112を含んで構成される。
【0016】
図2及び
図3は、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の構成を示す斜視図及び断面図である。
図3は、
図2におけるラインA−Aに沿った断面図である。なお、
図2及び
図3では、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の構造を明確に示すために各部の寸法は実際とは変更して示している。
【0017】
本実施の形態では、還元反応用電極102と酸化反応用電極104は、基板114の同一面上に交互に配置される。具体的には、
図2及び
図3に示すように、y方向に沿って延びる短冊形状の還元反応用電極102と酸化反応用電極104とをx方向に沿って交互に配置するようにすればよい。このとき、
図2に示すように、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の端部をそれぞれ接続することで、それぞれ櫛形形状とされた還元反応用電極102と酸化反応用電極104を組み合わせた構成となる。
【0018】
ここで、還元反応用電極102と酸化反応用電極104とを交互に配置するとは、
図2に示すように短冊形状の電極を直線状に並べる構成に限定されない。例えば、基板114の面上に還元反応用電極102を渦巻き形状に配置し、基板114の同一面上において渦巻き形状の還元反応用電極102の間に酸化反応用電極104を渦巻き形状に嵌め込んだような構成としてもよい。また、例えば、還元反応用電極102と酸化反応用電極104とが基板114の同一面上において並べて配置されていれば、それぞの形状は不定形としてもよい。
【0019】
還元反応用電極102は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。還元反応用電極102は、
図3の断面図に示すように、基板114上に形成される。還元反応用電極102は、導電層10及び導電体層12を含んで構成される。
【0020】
基板114は、還元反応用電極102を構造的に支持する部材である。本実施の形態では、基板114は、酸化反応用電極104と共通とされる。基板114は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板114は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板114として用いられる金属は、特に限定されるものではない。基板114として用いられる半導体は、特に限定されるものではない。基板114を金属又は半導体を含むものとした場合、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104と基板114との間には絶縁層を形成する。絶縁層は、特に限定されるものではないが、半導体の酸化物、窒化物や樹脂等とすることができる。
【0021】
導電層10は、還元反応用電極102における集電を効果的にするために設けられる。導電層10は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電層とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0022】
導電体層12は、還元触媒機能を有する材料を含む導電体から構成される。導電体は、カーボン材料(C)を含む材料から構成することができる。カーボン材料の構造体の単体のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。また、カーボン材を含む材料として、カーボンペーパー(CP)を用いてもよい。また、カーボンペーパー(CP)に対して、カーボンナノチューブ(CNT)等を塗布したものを用いてもよい。
【0023】
導電体層は、錯体触媒等、還元機能を有する材料により修飾される。錯体触媒は、例えば、ルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)(MeCN)Cl
2]、[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)
2Cl
2]、[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)
2]
n、[Ru{4,4’−di(1−H−1−pyrrolypropyl carbonate)−2,2’−bipyridine}(CO)(CH
3CN)Cl
2]等とすることができる。
【0024】
錯体触媒による修飾は、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電体層12の導電体の上に塗布することで作ることができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。作用極として導電体層12の導電体の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag
+電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag
+電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag
+電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電体層12の導電体上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0025】
このように形成された導電体層12は、還元反応用電極102を構成する導電層10上に担持、塗布又は貼付される。これにより、導電層10及び導電体層12を含む還元反応用電極102が形成される。
【0026】
酸化反応用電極104は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。酸化反応用電極104は、
図3の断面図に示すように、基板114上に形成される。酸化反応用電極104は、導電層14及び酸化触媒層16を含んで構成される。
【0027】
導電層14は、酸化反応用電極104における集電を効果的にするために設けられる。導電層14は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0028】
導電層10及び導電層14は、基板114の還元反応用電極102及び酸化反応用電極104が設けられる面の全面に透明導電層を設け、それを還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の形状に併せた櫛形に加工することで形成することができる。具体的には、透明導電膜をレーザースクライブにより、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の間に隙間が形成され、還元反応用電極102と酸化反応用電極104とが電気的に絶縁された状態となるように加工することが好適である。
【0029】
なお、導電層10及び導電層14には、導電性を高めるためにフィンガー電極やバス電極のように集電電極を設けてもよい。例えば、基板114上にバス電極を形成し、バス電極からフィンガー電極を延ばして形成することで導電層10及び導電層14における集電機能を向上させることができる。集電電極は、例えば、銀、銅、金等の金属層とすればよい。具体的には、例えば、スクリーン印刷によって基板114上に銀ペーストを所望の形状に塗布し、焼成することによって集電電極を形成することができる。
【0030】
酸化触媒層16は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料とすることができる。酸化イリジウムは、ナノコロイド溶液として導電層14の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci 8, 1998 (2015))。
【0031】
例えば、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを合成する。次に、2mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(K
2IrCl
6)水溶液50mlに10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH13に調整した黄色溶液を、ホットスターラーを用いて90℃で20分加熱する。これによって得られた青色溶液を氷水で1時間冷却する。そして、冷やした溶液(20ml)に3M硝酸(HNO
3)を滴下してpH1に調整し、80分攪拌し、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を得る。さらに、この溶液に1.5wt%NaOH水溶液(1−2ml)を滴下してpH12に調整する。このようにして得られた酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を、導電層14上にpH12に塗布し、乾燥炉内において60℃で40分間保持して乾燥させる。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極104を形成することができる。なお、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液の塗布及び乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0032】
化学反応装置100は、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の間に電解液106を導入することで機能する。例えば、
図1に示すように、還元反応用電極102と酸化反応用電極104を囲むように枠材112を配置し、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の表面に反応物が溶解された電解液106を供給する。反応物は、炭化化合物とすることができ、例えば、二酸化炭素(CO
2)とすることができる。また、電解液106は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、二酸化炭素(CO
2)飽和リン酸緩衝液の供給用タンクを設け、ポンプによって当該液を還元反応用電極102と酸化反応用電極104との表面に供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)を外部の回収用タンクに回収する。
【0033】
また、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間を電気的に接続し、適切なバイアス電圧を印加した状態とする。バイアス電圧を印加する手段は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池等が挙げられる。このとき、酸化反応用電極104に正極が接続され、還元反応用電極102に負極が接続される。
【0034】
本実施の形態では、太陽電池セル108を採用している。太陽電池セル108は、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104に隣接して配置することができる。
図1の例では、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との背面に太陽電池セル108を配置し、太陽電池セル108の正極を酸化反応用電極104に接続し、負極を還元反応用電極102に接続している。
【0035】
二酸化炭素(CO
2)からギ酸(HCOOH)等を合成する場合、水(H
2O)は酸化されて二酸化炭素(CO
2)に電子とプロトンを供給する。pH7付近では水(H
2O)の酸化電位は0.82V、還元電位は-0.41V(何れもNHE)である。また、二酸化炭素(CO
2)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メチルアルコール(CH
3OH)への還元電位はそれぞれ-0.53V,-0.61V,-0.38Vである。したがって、酸化電位と還元電位の電位差は1.20〜1.43Vである。
【0036】
太陽電池セル108に対しては、受光面側に窓材110を設けることが好適である。窓材110は、太陽電池セル108を保護する部材である。窓材110は、太陽電池セル108において発電に寄与する波長の光を透過する部材とし、例えば、ガラス、プラスチック等とすることができる。還元反応用電極102、酸化反応用電極104、太陽電池セル108及び窓材110は、枠材112によって構造的に支持される。
【0037】
[電極構造についての検討]
水(H
2O)の酸化電位と二酸化炭素(CO
2)からギ酸(HCOOH)への還元電位の差は1.43eVである。人工光合成を実現するためには反応の過電圧が必要であるから、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間に約2V以上の電圧を印加することが求められる。
【0038】
SnO
2:F(FTO)付ガラス基板にIrO
xを担持した1cm
2の酸化反応用電極(アノード)と、カーボンペーパーに多層カーボンナノチューブ、次いでRu錯体ポリマーを担持したものをSnO
2:F(FTO)付ガラス基板に固定した同サイズの還元反応用電極(カソード)を、内径2.5cmのチューブ状容器に満たされた電解液に浸漬して一定電圧2Vを印加したときの電流値の測定結果を
図4に示す。電解液は濃度0.4Mまたは0.8Mのリン酸バッファー水溶液に二酸化炭素(CO
2)を飽和溶解させたものである。横軸はチューブ内の酸化反応用電極−還元反応用電極間の距離Lである。
【0039】
なお、
図4では、丸印(破線)が0.8Mのリン酸バッファー水溶液を適用した場合の測定値、四角印(破線)が0.4Mのリン酸バッファー水溶液を適用した場合の測定値を示す。実線は、それぞれについて後述するフィッティングの結果を示す。
【0040】
図4に示すように、酸化反応用電極−還元反応用電極間の距離Lが増大すると電流値は低下した。すなわち、プロトンが電解液中を酸化反応用電極から還元反応用電極へ伝播することに伴う抵抗成分が、酸化反応用電極、還元反応用電極での反応抵抗に比べて無視できないことがわかった。したがって、酸化反応用電極及び還元反応用電極を光電荷分離素子に接続して人工光合成セルを構成し、太陽光エネルギーからギ酸(HCOOH)の化学エネルギーへと高い効率で変換するためには、酸化反応用電極−還元反応用電極距離を短く保たなければならない。そのため、光電荷分離素子の一方の面に酸化反応用電極を形成し、他方に還元反応用電極を形成した一体型のセルを大型化した場合には高い反応効率を得ることが困難である。一方、酸化反応用電極と還元反応用電極を対向させてその間を電解液で満たして対流させるような対向型のセルでは、酸化反応用電極−還元反応用電極距離が限られるため、原料である二酸化炭素(CO
2)の十分な供給と生成物であるギ酸(HCOOH)の速やかな排出のために十分な量の電解液を大型化されたセル内に均一に対流させることが難しくなる。
【0041】
<抵抗成分の定量評価>
プロトンの電解液中の伝播に伴う抵抗成分を定量評価した。
図5(a)は、上記の実験に用いられた酸化反応用電極の電流密度(j
a)−電位(V
a)特性を示す。
図5(b)は、上記比較例の実験に用いられた還元反応用電極の電流密度(j
c)−電位(V
c)特性を示す。なお、いずれも電解液のリン酸バッファー濃度は0.4Mとした。
【0042】
酸化反応用電極と還元反応用電極を接続したときの酸化反応用電極−還元反応用電極間の電流密度(j
ac)−電圧(V
ac)特性は、プロトン伝播に伴う抵抗成分を比抵抗ρ
H+のオーミック抵抗と考えると、数式(1)及び数式(2)の連立方程式を解くことにより求められる。
【数1】
【数2】
【0043】
酸化反応用電極−還元反応用電極間の距離Lが小さくなり、チューブの内径に近くなると、チューブと電極の形状の影響が大きくなるので、抵抗成分が距離Lに対する比例関係からずれる。これを補正するためのパラメータがρ
0である。リン酸バッファー濃度0.4M、V
a=2Vのときのj
acが実験値に一致するようにフィッティングにより抵抗r
H+を求めたところ、ρ
H+=28Ω・cm、ρ
0=35Ωであった。ただし、先に述べたように距離Lが小さいと数式(2)が成り立たなくなるので、フィッティングは距離L≧10cmの範囲で行った。
図4に示したように、フィッティング結果は実験値とよく一致した。
【0044】
さらに、電解液のリン酸バッファー濃度を2倍の0.8Mにしたときの計算結果を実験値と比較する。ただし、今度はρ
H+,ρ
0それぞれの値に、0.8Mの実験結果とのフィッティングではなく、0.4Mのときの1/2の値(ρ
H+=14Ω・cm、ρ
0=17.5Ω)を用いて計算した。
図4に示すように、0.8Mのときの測定結果とフィッティング結果はよい一致を示した。
【0045】
これらのフィッティングの結果から、プロトンの電解液中の伝播に伴う抵抗成分を、抵抗値がリン酸バッファー濃度に比例するオーミック抵抗として扱ってよいといえる。
【0046】
<本実施の形態における電極構造(実施例)>
以下、本実施の形態における櫛形形状とされた還元反応用電極102と酸化反応用電極104を組み合わせた電極構造(以下、相互貫入型電極という)について検討する。
【0047】
当該電極は、複数を並べて配置した場合であってもそれぞれの間隔はプロトンの伝播には直接影響しないので、電解液の対流による影響のみを考慮して設計すればよい。以下、相互貫入型電極の還元反応用電極102−酸化反応用電極104の間の電流密度(j
ac)−電圧(V
ac)特性を求め、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の幅の影響を調べる。
【0048】
簡単化のために、短冊形状の還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の周期2d(x方向)に比べて長さ(y方向)は十分に長い場合を考える。この場合、長さ方向の端の影響を無視することができるため、y方向の電位は一定、電流はゼロとなり、x−z面内の2次元問題とすることができる。
【0049】
まず、短冊形状の還元反応用電極102と酸化反応用電極104の幅が等しい場合について検討する。ここで、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間の隙間をwとし、幅を周期d−隙間w/2とする。先に述べたようにプロトンの電解液(リン酸バッファー濃度0.4M)中の伝播に伴う抵抗成分を、比抵抗ρ
H+=28Ω・cmのオーミック抵抗として扱うと、数式(3)及び数式(4)のポアッソン方程式と拡散方程式が成り立つ。
【数3】
【数4】
【0050】
ここで、φ(x,z),j
(b)H+(x,z)はそれぞれ位置(x,z)における局所電位(相対値)とプロトン流密度ベクトルである。なお、本明細書では、ベクトルは、数式中では太字で示し、本文中では添字(b)を付して示す。
【0051】
なお、xの原点は酸化反応用電極104と還元反応用電極102の間の中間点であり、zの原点は還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の表面とする。また、以下では、導電体層12及び酸化触媒層16の厚さが0である仮想的な電極構成を想定し、導電層10と導電体層12との界面及び導電層14と酸化触媒層16との界面をz=0で示し、導電体層12及び酸化触媒層16の表面をz=0
+で示す。
【0052】
酸化反応用電極104での反応に伴う電圧降下は、電流密度j
a−電圧V
aの関係を線形近似すると、数式(5)のように表される。
【数5】
【0053】
数式(5)は、プロトン流密度ベクトルj
(b)H+のy成分を示している。φ(x,0)は、酸化反応用電極104の触媒が坦持されている導電材料(FTO)の電位、φ(x,0
+)は触媒表面の電位である。還元反応用電極102についても同様にして扱うことができる。
【数6】
【0054】
ここで、V
a0−V
c0=1.4969Vは反応が生じる閾値電圧である。
【0055】
酸化反応用電極104から流れ出るプロトン流密度j
H+a、還元反応用電極102へ流れ込むプロトン流密度j
H+cに電流密度j
acは一致する。
【数7】
【数8】
【数9】
【0056】
図6(a)は、還元反応用電極102−酸化反応用電極104の間の電圧V
ac=2Vの一定電圧を印加したときの還元反応用電極102−酸化反応用電極104の間の電流密度j
acの値を周期dの関数として計算した結果を示す。このときの還元反応用電極102と酸化反応用電極104の隙間w=0.1cmとし、リン酸バッファー濃度は0.4Mとした。
図6(b)は、比較例として、還元反応用電極と酸化反応用電極とを向かい合わせた対向型セルにおいて、電解液の流れが不十分であることによる悪影響がないことを仮定した計算結果を示す。
図6(c)は、比較例として、従来の一体型セルにおいて、同様に電解液の流れが不十分であることによる悪影響がないことを仮定した計算結果を示す。ただし、計算負荷を低減するため、円盤形状のセルについて円筒座標を用いて計算した。
【0057】
周期dが小さいときはその影響は僅かであり、相互貫入型電極としたときの還元反応用電極102−酸化反応用電極104の電流密度j
acは、周期d≦1.0cmの範囲では対向型において電極間隔Lを1cmとしたときの値(3.5mA/cm
2)以上となった。また、周期d≦3cmであるなら、相互貫入型電極としたときの還元反応用電極102−酸化反応用電極104の間の電流密度j
acは、対向型において電極間隔Lを2cmとしたときの値(2.9mA/cm
2)以上となった。一方、従来の一体型の大型セルの場合、直径Dが20cmのときには電流密度j
acは1.3mA/cm
2にまで低下した。これに対して、相互貫入型電極としたときには周期dが10cmであっても当該値を上回った。
【0058】
また、周期dが小さいほど還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の単位面積当たりの電流値は大きくなる。ただし、全体に占める隙間wの比率が大きくなるので、周期d=1cmに比べて周期d=0.5cmのときは電流密度j
acは小さくなった。
【0059】
以上の結果から、周期dをおおよそ3cm以下に設定し、隣接する電極あるいは隔壁との間隔を十分に確保して電解液の流れを確保すれば、高い変換効率を得ることができるといえる。実際には、対向型を大きくすると、先に述べたように十分な量の電解液を均一に滞留させることが難しくなるので、本実施の形態のような相互貫入型電極がより優位となると推察される。
【0060】
図7(a)は、電流密度j
acが最大となる周期d=1cmのときの電流密度j
ac−電圧V
ac特性を示す。
図7では、従来の対向型で電極間距離L=1cmの場合の電流密度j
ac(L=1)の結果、従来の一体型の場合の電流密度j
ac(D=20)を併せて示す。相互貫入型電極の電流密度j
acは、電極の外形には依存しないので、大型化しても従来の対向型の電流密度j
ac(L=1)にほぼ一致する高い値が得られる。一方、従来の一体型電極において直径20cmの場合、電流密度j
ac(D=20)は極端に低い値となった。実用化のために従来の一体型電極において直径をより大きくすると、電流密度j
ac(D)はさらに小さくなることは
図6(c)の結果から明らかである。また、対向型電極を大型化すると、電解液の対流の問題が生ずる。
【0061】
図8は、電圧V=3.2584Vを印加したときの還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の局所プロトン流密度j
H+(x,0
+)と、ρ
H+に起因するφ(x,z)の変動(相対値)である。局所プロトン流密度j
H+(x,0
+)は還元反応用電極102と酸化反応用電極104とで大よそ一定であった。局所プロトン流密度j
H+(x,0
+)が大きくなると反応抵抗が大きくなるため、電圧降下が生じ、局所プロトン流密度j
H+(x,0
+)の増大が抑制される。φ(x,0
+)の変化を見ると、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の端部(x=±0.5cm)付近に比べて中央付近ではφ(x,0
+)が0に近づく。この結果は、仮に反応抵抗がゼロの場合には、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104内のφ(x,0
+)は一定であり、その結果、局所プロトン流密度j
H+(x,0
+)は両者の距離が短く、抵抗が小さい中央付近に集中することと対照的である。
【0062】
リン酸バッファー濃度が高くなるとρ
H+が低くなるので電流密度j
ac−電圧V
ac特性が影響を受ける。濃度が2倍の0.8Mになると、ρ
H+は1/2の14Ω・cmとなる。ただし、対向型電極及び相互貫入型電極では共にρ
H+の影響が小さいような電極間距離L及び周期dが用いられているので、
図7(b)に示されるように、電流密度j
ac(L=1)及び電流密度j
ac(d=1)は僅かに大きくなるのみであった。一方、従来の大型セルへのρ
H+の影響が小さくなるため電流密度j
ac(D=20)は増大するが、それでも電流密度j
ac(L=1),電流密度j
ac(d=1)の約1/2に留まった。
【0063】
還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の触媒性能の向上、又は、表面に凹凸形状を設けること、または多孔体の基材を用いることによる実効的な表面積の増大に伴い還元反応用電極102及び酸化反応用電極104が2倍になった場合を想定すると、
図7(c)に示されるように、電流密度j
acは2倍近くにまで大きくなった。ただし、ρ
H+の影響があるため完全に2倍にはならなかった。一方、電流密度j
ac(D=20)も大きくなるものの、ρ
H+の影響がより著しいため、僅かな向上に留まった。その結果、相互貫入型電極の方が優れた特性が得られた。
【0064】
<一体型化学反応装置>
図9に示すように、相互貫入型電極と光電荷分離素子(太陽電池)とを組み合わせて、一体型の化学反応装置100を構成することもできる。このような一体型の化学反応装置100では、光電荷分離素子(太陽電池)の両側にそれぞれ酸化反応用電極と還元反応用電極とを形成した場合に比べて電極面積が1/2になるにもかかわらず、高い動作電流j
op、すなわち高い反応収率が得られる。ここで、動作電流j
opは、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の幅の影響を受けるが、化学反応装置100の外形には依存しない。したがって、電解液の供給が十分であれば、大型化による効率の低下を防ぐことができる。
【0065】
これまでに述べたように、人工光合成の動作のためには、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間に2V以上の電圧を印加する必要があるので、結晶シリコン太陽電池を複数個直列接続した素子を用いることを想定する。
【0066】
結晶シリコン太陽電池の電流密度(j
pv)−電圧(V
pv)は、数式(10)にて表すことができる。ここで、q,k
B,Tはそれぞれ電荷素量、ボルツマン定数、温度(300K)、j
phは光電流密度、j
0,nはそれぞれダイオードの逆飽和電流と理想因子である。
【数10】
【0067】
太陽光の標準条件であるAM1.5Gスペクトル、1sun(強度100mW/cm
2)の光を照射したときに市販品の典型的な特性が得られるようにこれらの値を求めたところ、j
ph=40mA/cm
2,j
0=2×10
-8,n=1.1となり、このとき変換効率19.9%、開放端電圧0.61V、形状因子0.82であった。
図10(a)は、このときの電流密度j
pv−電圧V
pv特性を示す。
【0068】
一方、現在変換効率が最も高いシリコン系太陽電池はアモルファスシリコン/結晶シリコンヘテロ接合を用いたものであり、変換効率は26%が実現されている。今のところ製造コストが高いものの、将来的には徐々に普及すると予想される。したがって、これを用いた場合についても併せて考える。文献に報告されている電流密度(j
pv)−電圧(V
pv)特性に近い値となるように数式(10)のパラメータを定めたところ、j
ph=42mA/cm
2,j
0=2×10
-10,n=1.1となり、このとき変換効率26.2%、開放端電圧0.74V、形状因子0.84であった。
図10(b)は、このときの電流密度j
pv−電圧V
pv特性を示す。
図10(a)と比べると、こちらの方が開放端電圧が高いことが特徴である。
【0069】
人工光合成反応に必要な電圧を得るため、結晶シリコン太陽電池をm個直列に接続したときの電流密度j
pv(m)−電圧V
pv特性は、数式(11)で表すことができる。
【数11】
【0070】
結晶シリコン太陽電池の電流密度j
pv−電圧V
pv特性と、
図7に示した化学反応装置100の電流密度j
ac−電圧V
ac特性からなる連立方程式を解くことにより、動作点の電流密度が得られる。
図9の相互貫入電極を用いた一体型の化学反応装置100の場合も同様に考えればよく、太陽電池の面積に比べて還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の面積はそれぞれ1/2であるから、電流密度j
acを電流密度j
ac/2に置き換えた特性を用いればよい。
【0071】
図11は、周期d=1cmの場合の電流密度j
ac−電圧V
ac特性から算出された電流密度j
ac/2を、比較例である従来の対向型で電極間距離L=1cmの場合の電流密度j
ac(L=1)、比較例である従来の一体型の場合の電流密度j
ac(D=20)及び太陽電池の電流密度j
pv−電圧V
pv特性と併せて示す。
図11(a)は、結晶シリコン太陽電池を4個直列に接続したときの特性を示す。同様に、
図11(b)〜
図11(e)は、それぞれ結晶シリコン太陽電池を5個〜8個直列に接続したときの特性を示す。また、
図12(a)は、
図11において化学反応装置100の電流密度j
ac−電圧V
ac特性と太陽電池の電流密度j
pv−電圧V
pv特性のグラフの交点である動作点における電流密度(太陽電池の単位面積あたり)を示す。
【0072】
結晶シリコン太陽電池の直列接続数(個数)mの最適値は還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の特性及びρ
H+に依存する。電流密度j
acの立ち上がり(閾値)電圧が低く、その後の傾斜が急峻であるほど、結晶シリコン太陽電池の直列接続数mは少なくてよく、そのため大きい動作電流密度が得られる。動作電流密度は、結晶シリコン太陽電池の直列接続数mが少ないときには電流密度j
acに依存し、結晶シリコン太陽電池の直列接続数mが多いときには電流密度j
pvにより規定される。化学反応装置100の電流密度j
ac−電圧V
ac特性と太陽電池の電流密度j
pv−電圧V
pv特性の交点である動作点が太陽電池の最大出力点(j
pv´V
pvが最大となる点、大よそはj
pvが低下し始める点)に近いときに動作電流が最大となる。動作電流が最大となるのは、従来の小型の対向型電極を用いた化学反応装置の場合は結晶シリコン太陽電池の直列接続数mが5個のときであり、そのときの動作電流は7.7mA/cm
2となった。一方、本実施の形態における相互貫入型電極を用いた化学反応装置100の場合、結晶シリコン太陽電池の直列接続数mが5個のときの電流密度は低く、直列接続数mが6個のときに動作電流が最大となり、そのときの動作電流は6.0mA/cm
2となった。この動作電流の値は、従来の小型電極を用いた化学反応装置の場合の最大値に近い値となった。一方、従来の一体型電極(直径D=20cm)を用いた化学反応装置の場合、直列接続数mが7個のときに動作電流は5.5mA/cm
2であり、相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100の場合の値には及ばない値であった。さらに、従来の一体型電極を用いた化学反応装置では、実際には通常太陽電池の光入射面側に形成される酸化反応用電極104の光吸収が無視できないので、動作電流j
opはさらに小さくなる。また、直径Dがより大きくなれば動作電流j
opはより小さくなるのに対し、本実施の形態における相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100の場合は動作電流j
opがセルの外形に依存しないことが特長であるので、大型セルを構成するためには相応しい構造である。なお、対向型電極を大きくすると、十分な量の電解液を均一に滞留させることが難しくなるので、動作電流j
opが低下するおそれがあることは先に述べた通りである。
【0073】
照射光強度が弱くなると、太陽電池の短絡電流値が小さくなるので、動作点はより低電流、定電圧側に変化する。そのため、最適な結晶シリコン太陽電池の直列接続数mの値が小さくなる。
図12(b)に示されるように、0.5sun照射の場合には結晶シリコン太陽電池の直列接続数mが5個のときが最適(最大値3.7mA/cm
2)であった。この場合、従来の対向型電極を用いた化学反応装置と本実施の形態における相互貫入型電極を用いた化学反応装置100との差は殆どなかった。
【0074】
このように、各構成のセルの特徴、優位性は照射光強度によって変化する。そこで、1日に生成される電荷量を比較する。1日のうちのスペクトルの変動を無視し、太陽高度の変化のみを考慮して、日射量の変動I
sun(t)を数式(12)のような単純な余弦曲線により表す。
【数12】
【0075】
図13(a)は、各時刻における日射強度に対応する動作電流j
opを求めた結果を示す。ただし、直列接続数mの値はそれぞれの化学反応装置の最適値であり、従来の対向型電極(電極間距離L=1cm)を用いた化学反応装置については直列接続数mを5個、従来の一体型電極(直径D=20cm)を用いた化学反応装置及び相互貫入型電極(周期d=1cm,隙間w=0.1cm)を用いた一体型の化学反応装置100については直列接続数mを6個とした。また、直径D=50cmの従来の一体型電極を用いた化学反応装置についても、同様の計算を行ったところ、直列接続数mが8個のときに最適であった。このようにして求めた動作電流j
opを時刻tで積分すれば、
図13(b)に示すように1日の電荷量が求められる。相互貫入型電極を用いることにより、従来の一体型電極(直径D=20cm)の値を約1割上回る電荷量が得られた。なお、従来の一体型電極(直径D=50cm)の場合は更に低い値に留まった。
【0076】
図14(a)及び
図14(b)は、
図7(b)及び
図7(c)において電流密度j
ac−電圧V
ac特性を示したリン酸バッファー濃度0.8Mであり、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の電流密度2倍のときの動作電流j
opの計算結果を示す。相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100及び対向型電極を用いた化学反応装置の場合、リン酸バッファー濃度0.4Mに比べて0.8Mになると動作電流j
opがそれぞれ0.2mA/cm
2程度大きくなったが、直列接続数mへの依存性の傾向は変わらなかった。一方、従来の一体型電極を用いた化学反応装置では、電流密度j
acの増大が大きいため、動作電流j
opの最大値(6.4mA/cm
2,直列接続数m=6)は相互貫入型電極を用いた化学反応装置100における値(6.2mA/cm
2,直列接続数m=6)を僅かに上回った。しかしながら、先に述べたように、直径Dに対する依存性及び還元反応用電極102の光吸収の影響を避けられないことが欠点である。
【0077】
これとは対照的に、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の電流密度が2倍になると、相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100の場合、直列接続数mが5個のときに最適となり、このとき動作電流j
opは7.3mA/cm
2にまで増大した。一方、従来の一体型電極を用いた化学反応装置の場合は、
図7(c)に示されるように、
図12(a)の値から僅かに増大するのみであった。すなわち、より活性の高い還元反応用電極102及び酸化反応用電極104が実現されれば、従来の一体型電極に比べて相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100の優位性がより顕著となった。
【0078】
また、光電荷分離素子の特性によっても特性は変化した。
図14(c)は、ヘテロ接合シリコン太陽電池を用いた場合の結果を示す。相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100については直列接続数mが6個のときに最適値となるが、
図12(a)とは異なり、直列接続数mが5個のときの値とあまり変わらなかった。また、同じ直列接続数mが6個であっても、結晶シリコン素子の場合には、
図12(a)に示されるように、動作点では電流密度が太陽電池の短絡電流密度よりもやや低くなったのに対し、ヘテロ接合シリコン素子の場合にはより高電圧まで短絡電流密度に近い値が維持されるので、高い動作電流j
op(6.9mA/cm
2)が得られた。
【0079】
このように、相互貫入型電極を用いた化学反応装置100では、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の特性、電解液の濃度及び組み合わせる太陽電池の特性に応じて適切な直列接続数mを選ぶことで、従来の一体型電極を用いた化学反応装置よりも大型化が可能となり、対向型電極を用いた化学反応装置に近い動作電流j
opを得ることができる。
【0080】
また、本実施の形態における化学反応装置100によれば、酸化反応用電極104から還元反応用電極102へのプロトンのスムーズな流れと、原料(CO
2等)の十分な供給と生成物(HCOOH等)の速やかな排出のために十分な量の電解液の対流を両立させることができる。
【0081】
[第2の実施の形態]
なお、本実施の形態では、還元反応用電極102の周期d
cと酸化反応用電極104の周期d
aを等しいものとしたが、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の化学活性の特性に応じて異なるようにしてもよい。具体的には、還元反応用電極102及び酸化反応用電極104のうち単位面積当たりの化学活性が低い方の幅をより広くし、活性が高い方の幅をより狭くすることで、両者のバランスがとれるので好ましい。
【0082】
先に述べたように、触媒機能は材料、担体、製造プロセスによって大きく異なり得る。
図5の示した還元反応用電極と酸化反応用電極の特性と文献(T.Arai, S.Sato, and T.Morikawa, Energy Envision. Sci 8, 1998(2015))に示される特性を比較した。還元反応用電極の特性はおおよそ同じであったが、酸化反応用電極では閾値は変わらないものの、閾値以上の所定印加電圧時の電流密度が文献の方が約3倍であった。そこで、
図15に示すように、酸化反応用電極の電流密度のみが
図5(a)に示した電流密度の3倍である場合について検討した。
【0083】
この場合、酸化反応用電極及び還元反応用電極の各々の反応の微分抵抗は、dV
a/dj
a=14Ω・cm,dV
c/dj
c=73Ω・cm(絶対値)である。すなわち、還元反応用電極の微分抵抗は、酸化反応用電極の微分抵抗より遥かに大きい。そこで、相互貫入型電極のように還元反応用電極及び酸化反応用電極の総面積が限定される場合、還元反応用電極の面積を相対的に大きくすると総面積あたりの電流値を増大させることができる。
【0084】
図16に示されるように、酸化反応用電極104の幅をd
a-w/2、還元反応用電極102の幅をd
c-w/2とする。数式(5)〜(9)は、数式(13)〜(17)に変更される。
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【0085】
図17(a)は、酸化反応用電極104の周期d
a+還元反応用電極102の周期d
c=2cmの制約下で周期d
a,周期d
cを変化させて、電圧V
ac=2Vの一定電圧を印加したときの電流密度j
acを計算した結果を示す。周期d
a=周期d
c=1cmの場合に比べて、最適値である周期d
a=0.7cm,周期d
c=1.3cmの非対称型を用いると、電流密度j
acが約1割増大する。なお、非対称にすることの欠点は特にないと考えられる。
【0086】
還元反応用電極102及び酸化反応用電極104の過電圧(動作電位と反応が生じる閾値電位の差)が大きくなると、触媒の劣化が進行する場合があり、また反応の選択性が損なわれることがある。還元反応用電極102にて二酸化炭素(CO
2)からギ酸(HCOOH)への還元反応を目的とする場合、過電圧が大きくなると一酸化炭素(CO)など他の物質が生じたり、水溶液中の場合は水(H
2O)が還元されて水素(H
2)が生成したりするおそれがある。
【0087】
酸化反応用電極104及び還元反応用電極102の各々の平均の過電圧V
op−a,V
op−cは、数式(18)及び数式(19)で表すことができる。
【数18】
【数19】
【0088】
図17(b)は、
図17(a)に対応する電圧V
ac=2Vのときの過電圧V
op−a,V
op−cを示す。反応の微分抵抗が大きい還元反応用電極102の幅を広くすることにより過電圧V
op−cが小さくなる一方、過電圧V
op−aの増大は僅かであるので、上記の劣化や反応選択性低下の問題が低減される。
図17(c)は、対称型である周期d=1cm及び非対称型の最適値である周期d
a=0.7cm,周期d
c=1.3cmのときの電流密度j
ac−電圧V
ac特性(それぞれj
ac(d=1),j
ac(d
a=0.7,d
c=1.3))を示す。
【0089】
図18は、対称型(周期d=1cm,隙間w=0.1cm)及び非対称型(周期d
a=0.7cm,周期d
c=1.3cm,隙間w=0.1cm)の相互貫入型電極に電圧V
ac=2Vを印加したときの酸化反応用電極104及び還元反応用電極102の局所プロトン流密度j
H+(y)(x,0
+)と、ρ
H+に起因するφ(x,z)の変動(相対値)を比較した結果を示す。局所プロトン流密度j
H+(y)(x,0
+)の平均値であるj
H+a,j
H+cは、対称型の場合はj
H+a=j
H+c=4.4mA/cm
2、非対称型についてはj
H+a=7.0mA/cm
2,j
H+c=3.8mA/cm
2であった。いずれの場合も、酸化反応用電極104の方は活性が高い(反応の微分抵抗dV
a/dj
aの絶対値が小さい)ため、相対的にρ
H+の影響が大きくなるので、還元反応用電極102に近い側(x=0に近い側)の値が大きく、遠い側の値は小さくなる。逆に還元反応用電極102についてはdV
a/dj
aが支配的になるので、局所プロトン流密度j
H+(x,0
+)は酸化反応用電極104からの距離に殆ど依存しない。
【0090】
次に、非対称型の相互貫入型電極を用いた一体型の化学反応装置100の特性を求める。還元反応用電極102及び酸化反応用電極104については、
図15に示したような、酸化反応用電極104の方が活性が著しく高いような場合を想定し、
図17(c)に示した電流密度j
ac−電圧V
ac特性を用いた。
【0091】
図19は、結晶シリコン太陽電池をm個直列に組み合わせた一体型の化学反応装置の動作点における電流密度j
op(太陽電池の単位面積あたり)を示す。照射光強度が1sunのときは直列接続数mが6個のときに電流密度j
opが最大となるのに対し、0.5sunの場合には直列接続数mが5個のときに最適値となった。ただし、非対称型の場合は、1sun照射時の直列接続数mが5個のときと6個のときの差が小さくなった。
【0092】
これらを反映し、1日に生成される電荷量は両者共に直列接続数mが5個のときに最大となった。
図20に示すように、照射光が弱いときの電流密度j
opには両者の差は殆どないが、照射光強度が大きくなると非対称型(周期d
a=0.7cm,周期d
c=1.3cm,隙間w=0.1cm)が優位となった。その結果、対称型(周期d=1cm,隙間w=0.1cm)値を約5%上回る電荷量が得られた。これに加えて、劣化や反応選択性低下の問題を低減することができる。
【0093】
[変形例]
図21は、複数の化学反応装置100を並列に接続した構成を示す。この場合、並列接続された複数の化学反応装置100を電解液に浸漬させ、電源(太陽電池等)から電圧を印加することが好適である。なお、複数の化学反応装置100の接続構成はこれに限定されるものではない。例えば、複数の化学反応装置100を直列又は直並列に組み合わせて接続し、直列接続数に応じた電圧を印加してもよい。電源に太陽電池を用いる場合、
図22に示すように、接地場所等の条件に応じて複数の太陽電池セル108を直列又は並列に組み合わせて接続した構成としてもよい。
【0094】
なお、上記実施の形態及び変形例では、相互貫入型電極を化学反応装置100の片面に形成する構成としたが、両面に形成する構成としてもよい。