特許第6816746号(P6816746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

6816746エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット
<>
  • 6816746-エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット 図000003
  • 6816746-エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット 図000004
  • 6816746-エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット 図000005
  • 6816746-エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット 図000006
  • 6816746-エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816746
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニット
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20210107BHJP
   B01D 63/14 20060101ALI20210107BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20210107BHJP
   B01D 46/52 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   B01D39/16 C
   B01D63/14
   B01D71/36
   B01D46/52 A
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-137159(P2018-137159)
(22)【出願日】2018年7月20日
(65)【公開番号】特開2020-11215(P2020-11215A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2019年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】乾 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】原 聡
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 吉之
(72)【発明者】
【氏名】清谷 秀之
(72)【発明者】
【氏名】茶圓 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠吾
【審査官】 青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−051544(JP,A)
【文献】 特開2018−111077(JP,A)
【文献】 特開2016−35265(JP,A)
【文献】 特開2017−159281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16
B01D 46/52
B01D 63/14
B01D 71/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を含み、
個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通風したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の初期透過率と、
個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風することで圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の最終透過率と、
のPAO透過率比(最終透過率/初期透過率)が2.5未満であり、
平均繊維径が50nm以上である部分の厚みを30μm以上有している
エアフィルタ濾材。
【請求項2】
前記PAO透過率比(最終透過率/初期透過率)が2.5未満の状態で用いる、
請求項1に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項3】
前記PAO透過率比が1.0以上であって、
0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通風したときの前記NaCl粒子の初期透過率と、
0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風することで圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記NaCl粒子の最終透過率と、
のNaCl透過率比(最終透過率/初期透過率)が1.0未満である、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項4】
粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて把握される圧力損失および捕集効率を用いて、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値の初期値が、25.0以上である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項5】
個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20.0g/m以上である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項6】
第1フッ素樹脂多孔膜と、前記第1フッ素樹脂多孔膜に対して気流の下流側に配置される第2フッ素樹脂多孔膜と、を備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項7】
前記第1フッ素樹脂多孔膜は、充填率が9.0%以下であって厚みが30μm以上である、
請求項6に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項8】
前記第1フッ素樹脂多孔膜は、平均繊維径が50nm以上であって厚みが30μm以上である、
請求項6または7に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項9】
繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、から主としてなるフッ素樹脂多孔膜を含んでいる、
請求項1から8のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材を備え、
前記エアフィルタ濾材が山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工されて構成されているフィルタパック。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材または請求項10に記載のフィルタパックと、
前記エアフィルタ濾材または前記フィルタパックを保持する枠体と、
を備えたエアフィルタユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、十分に清浄された空間を得るために、例えばポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)からなる多孔膜(以下、PTFE多孔膜という)が集塵フィルタとして用いられている。PTFE多孔膜は、ガラス繊維製濾材に比べて同じ圧力損失で比較したとき塵の捕集効率が高いことから、特に、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)に好適に用いられている。
【0003】
このようなフィルタとしては、例えば、特許文献1(特開2017−64713号公報)に記載のエアフィルタ濾材のように、2枚のPTFE多孔膜を互いに重ねて構成したものが提案されている。この特許文献1によれば、エアフィルタ濾材の各PTFE多孔膜において、上流側に配置されるものの平均繊維径を0.24〜0.45μmとし、下流側に配置されるものの平均繊維径を0.24〜0.45μmとすることで、オイルミスト(オイル粒子)による目詰まりを抑制させることができるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、捕集対象が液体粒子である場合に、エアフィルタ濾材の捕集効率が次第に低下するという現象を新規に発見した。
【0005】
本開示の内容は、上述した点に鑑みたものであり、捕集効率の低下を抑制させることが可能なエアフィルタ濾材、フィルタパック、およびエアフィルタユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件発明者らは、捕集対象が液体粒子である場合に、エアフィルタ濾材の捕集効率が次第に低下するという現象を新規に発見し、当該捕集効率の低下を抑制させるべく、本開示の内容を完成させた。
【0007】
第1観点に係るエアフィルタ濾材は、フッ素樹脂を含み、PAO透過率比(最終透過率/初期透過率)が2.5未満である。ポリアルファオレフィン粒子の初期透過率は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で初期の状態のエアフィルタ濾材に通風したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の透過率をいう。ポリアルファオレフィン粒子の最終透過率は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風することで圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の透過率をいう。エアフィルタ濾材は、平均繊維径が50nm以上である部分の厚みを30μm以上有している。
【0008】
このエアフィルタ濾材は、ポリアルファオレフィン粒子を対象とした使用により圧力損失が250Pa上昇した後であっても、捕集対象の低下を抑制することができる。
【0009】
第2観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点のエアフィルタ濾材であって、PAO透過率比(最終透過率/初期透過率)が2.5未満の状態で用いる。
【0010】
このエアフィルタ濾材は、圧力損失が250Pa上昇した時点で寿命を迎えるとされているエアフィルタであっても、当該寿命を迎えるまでの間、透過率を小さく抑えた状態で使用することが可能になる。
【0011】
第3観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点または第2観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、PAO透過率比が1.0以上である。また、NaCl透過率比(最終透過率/初期透過率)が1.0未満である。ここで、NaCl粒子の初期透過率は、0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で初期の状態のエアフィルタ濾材に通風したときの前記NaCl粒子の透過率をいう。また、NaCl粒子の最終透過率は、0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒でエアフィルタ濾材に連続通風することでエアフィルタ濾材の圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記NaCl粒子の透過率をいう。
【0012】
このエアフィルタ濾材は、捕集対象が固体粒子である場合には捕集効率が使用と共に増大(透過率が使用と共に減少)していくものの、捕集対象が液体粒子である場合には捕集効率が使用と共に低下(透過率が使用と共に増大)する傾向があるエアフィルタ濾材について、その使用に伴う液体粒子の透過率の増大を小さく抑えることが可能になる。
【0013】
第4観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第3観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて把握される圧力損失および捕集効率を用いて、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値の初期値が、25.0以上である。
【0014】
第5観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第4観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20.0g/m以上である。
【0015】
このエアフィルタ濾材は、十分な保塵量を確保しつつ、捕集効率の低下を抑えることができる。
【0016】
第6観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第5観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、第1フッ素樹脂多孔膜と、第1フッ素樹脂多孔膜に対して気流の下流側に配置される第2フッ素樹脂多孔膜と、を備える。
【0017】
第7観点に係るエアフィルタ濾材は、第6観点のエアフィルタ濾材であって、第1フッ素樹脂多孔膜は、充填率が8.0%未満であって厚みが30μm以上である。
【0018】
このエアフィルタ濾材は、より下流側に配置される第2フッ素樹脂多孔膜の目詰まりを抑制させることが可能になる。
【0019】
第8観点に係るエアフィルタ濾材は、第6観点または第7観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、第1フッ素樹脂多孔膜は、平均繊維径が50nm以上であって厚みが30μm以上である。
【0020】
このエアフィルタ濾材は、捕集効率の低下をより十分に抑制することができる。
【0021】
第9観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第8観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、から主としてなるフッ素樹脂多孔膜を含んでいる。
【0022】
従来の繊維化し得るPTFE(高分子量PTFE)のみから主として構成されるPTFE多孔膜では、繊維径の細い微細なフィブリルを多く含んでおり、繊維1本当たりの表面積が大きく、捕集効率が高い反面、膜厚が比較的薄く、繊維同士の重なりが多いために多くの微粒子を保塵することができず、繊維1本当たりの捕集効率の高さが有効に発揮されていない。
【0023】
これに対して、このエアフィルタ濾材は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、の3成分を主として含んで構成されているため、従来のPTFE多孔膜と比べて、比較的太い繊維により空隙を多くして膜厚を増やすことで保塵量を高めることが可能になっている。
【0024】
なお、上記各エアフィルタ濾材は、強度を向上させるための通気性支持材を1枚または複数枚さらに備えていてもよい。
【0025】
第10観点に係るエアフィルタパックは、第1観点から第9観点のいずれかのエアフィルタ濾材を備え、エアフィルタ濾材が山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工されて構成されている。なお、「フィルタパック」は、特に限定されるものではないが、例えば、フラットなシート状のものではなく、山折りおよび谷折りを交互に行うことで折り畳まれたジグザグ形状であり、任意の枠体に収容可能となるように整形されているものであってよい。
【0026】
第11観点に係るエアフィルタユニットは、第1観点から第9観点のいずれかのエアフィルタ濾材または第10観点のフィルタパックと、エアフィルタ濾材またはフィルタパックを保持する枠体と、を備えている。
【発明の効果】
【0027】
本開示に係るエアフィルタ濾材、フィルタパック、または、エアフィルタユニットによれば、捕集効率の低下を抑制させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】エアフィルタ濾材1の層構成を示す概略断面図である。
図2】エアフィルタ濾材2の層構成を示す概略断面図である。
図3】エアフィルタ濾材3の層構成を示す概略断面図である。
図4】フィルタパックの外観斜視図である。
図5】エアフィルタユニットの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、エアフィルタ濾材(以降、単に濾材ともいう)、フィルタパック、およびエアフィルタユニットについて、実施形態を例に挙げて説明する。
【0030】
(1)エアフィルタ濾材
エアフィルタ濾材としては、フッ素樹脂を含んだ膜を有しており、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通風したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の初期透過率と、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風することで圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の最終透過率と、のPAO透過率比(最終透過率/初期透過率)が3.0未満であるものであれば、特に限定されない。これにより、エアフィルタ濾材の圧力損失が、初期状態から250Pa分だけ上昇したような寿命を迎える状態の直前まで、捕集効率の初期状態からの低下を小さく抑えたままでの使用が可能になる。このため、エアフィルタ濾材は、PAO透過率比が3.0未満の状態で用いられるものであることが好ましい。なお、捕集効率の低下を十分に抑制させる観点から、PAO透過率比(最終透過率/初期透過率)が2.5未満であるものがより好ましく、この点で、PAO透過率比が2.5未満の状態で用いられるものであることが好ましい。
【0031】
なお、エアフィルタ濾材としては、PAO透過率比が1.0以上のものであること、すなわち、初期状態からPAO粒子等の液体粒子について用いられることで、液体粒子の透過率が増大していくものであってよい。このように、液体粒子に用いられることで液体粒子の透過率が増大していくような性質を有するエアフィルタ濾材であっても、その増大程度が抑えられ、捕集効率の低下を小さく抑えることができる。このような、液体粒子に用いられることで液体粒子の透過率が増大していくような性質を有するエアフィルタ濾材としては、固体粒子の透過率については減少していくような性質を有するものであってよい。具体的には、0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通風したときの前記NaCl粒子の初期透過率と、0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風することで圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記NaCl粒子の最終透過率と、のNaCl透過率比(最終透過率/初期透過率)が1.0未満であってよく、0.7未満であってもよく、0.4未満であってもよい。これにより、固体粒子に対して用いられる場合には透過率が次第に低下していく(捕集効率は増大していく)性質を有するにもかかわらず、液体粒子に対して用いられる場合には透過率が次第に増大していく(捕集効率は低下していく)という性質を有するエアフィルタ濾材であっても、その透過率の増大程度が抑えられ、捕集効率の低下を小さく抑えることができる。
【0032】
ここで、固体粒子に対して用いられる場合には透過率が次第に低下していく(捕集効率は増大していく)性質を有するにもかかわらず、液体粒子に対して用いられる場合には透過率が次第に増大していく(捕集効率は低下していく)という性質を有するエアフィルタ濾材としては、特に限定されないが、エアフィルタ濾材を構成している繊維に対して固体粒子が付着した場合と液体粒子が付着した場合とで、以下に述べるような違いが生じる濾材であるものと考えられる。すなわち、このようなエアフィルタ濾材では、エアフィルタ濾材が有する繊維に対して固体粒子が付着した場合には、当該付着した固体粒子があたかも新たな繊維であるかのように機能して、さらに流れてくる固体粒子を捕らえる働きを備えるようになることで、捕集効率が増大していき、透過率が低下していくものと考えられる。これに対して、このようなエアフィルタ濾材が有する繊維に対して液体粒子が付着した場合には、当該付着した液体粒子が繊維の周囲に纏わり付くことで液体粒子が付着した繊維の繊維径が大きくなっているかのように作用し、繊維径が大きくなっているように振る舞う繊維同士の間を、液体粒子が通過しがちになることで、捕集効率が減少していき、透過率が増大していくものと考えられる。
【0033】
以上のような液体粒子としては、特に限定されないが、例えば、オイルミスト、水、薬液等を挙げることができ、固体粒子が混ざったものであってもよい。
【0034】
また、このような液体粒子の平均粒子径としては、例えば、0.05μm以上1.0μm以下であってよく、0.1μm以上0.5μm以下であってもよい。ここでの液体粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による数平均値である。
【0035】
なお、液体粒子による影響と同様の影響は、エアフィルタ濾材を構成している繊維に対して固体粒子が付着した状態で、当該固体粒子が湿潤した場合にも生じるものと考えられる。すなわち、繊維に付着した固体粒子およびこれが凝集成長した粒子において流動性が生じるほど湿潤化した場合には、当該湿潤化した粒子が液体粒子と同様に繊維の周囲に纏わり付くことで、繊維径の肥大化に繋がるものと考えられる。このような固体粒子の湿潤条件としては、例えば、固体粒子の平均粒子径が0.05μm以上2.5μm以下であり、使用環境下における相対湿度が60%以上(より好ましくは75%以上)であること、とすることができる。
【0036】
エアフィルタ濾材としては、粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて把握される圧力損失および捕集効率を用いて、次式:PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値の初期値が、25.0以上であってよく、30.0以上であってもよく、32.0以上であってもよい。エアフィルタ濾材のPF値が高い場合に生じがちである液体粒子の捕集効率の低下の程度を小さく抑えることが可能になる。
【0037】
エアフィルタ濾としては、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20.0g/m以上であってよく、25.0以上であることが好ましく、50.0以上であることがより好ましい。これにより、液体粒子の十分な保塵量が確保できるエアフィルタ濾材について、液体粒子の捕集効率の低下を抑えることができる。
【0038】
エアフィルタ濾材の圧力損失(初期値)は、特に限定されないが、例えば、200Pa未満であることが好ましく、30Pa以上155Pa以下であってよい。
【0039】
また、エアフィルタ濾材の粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて把握される捕集効率(初期値)は、98.0%以上であることが好ましく、99.97%以上であってよい。
【0040】
エアフィルタ濾材の厚みは、特に限定されないが、300μm以上1300μm以下であってよく、400μm以上800μm以下であってよい。エアフィルタ濾材の厚みは、特定の測定装置において、測定対象に0.3Nの荷重をかけたときの厚さの値である。
【0041】
以上に述べたエアフィルタ濾材の具体的な構成は、特に限定されるものではなく、例えば、図1に示すエアフィルタ濾材1のように、上流通気性支持材21と、第1フッ素樹脂多孔膜31と、第2フッ素樹脂多孔膜32と、下流通気性支持材22とが、空気流れ方向において順に重ねて構成されるものであってもよい。
【0042】
また、図2に示すエアフィルタ濾材2のように、プレ捕集材10と、第1フッ素樹脂多孔膜31と、第2フッ素樹脂多孔膜32と、下流通気性支持材22とが、空気流れ方向において順に重ねて構成されるものであってもよい。
【0043】
さらに、図3に示すエアフィルタ濾材3のように、上流通気性支持材21と、第1フッ素樹脂多孔膜31と、下流通気性支持材22とが、空気流れ方向において順に重ねて構成されるものであってもよい。
【0044】
なお、これらの各膜や材等の重ね合わせの仕方は、特に限定されず、加熱による一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用した貼り合わせであってもよいし、反応性接着剤等を用いた貼り合わせであってもよいし、単に重ね置くだけであってもよい。なお、貼り合わせにより各膜や材の厚みは実質的に変化しない。
【0045】
第1フッ素樹脂多孔膜31は、フッ素樹脂を主として含んでいる。第2フッ素樹脂多孔膜32は、フッ素樹脂を主として含み、第1フッ素樹脂多孔膜31よりも気流の下流側に配置される。上流通気性支持材21は、第1フッ素樹脂多孔膜31よりも気流の上流側に配置され、第1フッ素樹脂多孔膜31を支持する。下流通気性支持材22は、第2フッ素樹脂多孔膜32よりも気流の下流側またはエアフィルタ濾材の最下流側に配置され、第2フッ素樹脂多孔膜32を支持する。プレ捕集材10は、第1フッ素樹脂多孔膜31よりも気流の上流側に配置され、気流中の塵の一部を捕集する。
【0046】
以下、各層および各層間の関係について具体的に説明する。
【0047】
(2)多孔膜
第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32は、いずれも、主としてフッ素樹脂を含んで構成されており、図示しないフィブリル(繊維)とフィブリルに接続されたノード(結節部)とを有する多孔質な膜構造を有することが好ましい。
【0048】
ここで、「主として」とは、複数種類の成分を含有する場合にはフッ素樹脂が最も多く含有されていることを意味する。第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32は、例えば、構成成分全体の50重量%を超えてフッ素樹脂が含有されていてもよい。すなわち、第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32は、フッ素樹脂と異なる成分を50重量%未満含有してもよい。
【0049】
フッ素樹脂と異なる成分としては、例えば、後述する繊維化しない非溶融加工性成分(B成分)である無機フィラーが挙げられる。
【0050】
第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32に用いられるフッ素樹脂は、1種類の成分からなってもよく、2種以上の成分からなってもよい。また、2種以上の成分からなるフッ素樹脂としては、例えば、繊維化し得るPTFE(以降、A成分ともいう)、繊維化しない非熱溶融加工性成分(以降、B成分ともいう)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以降、C成分ともいう)の3成分の混合物が挙げられる。第1フッ素樹脂多孔膜31は、好ましくは、これら3種の成分の組み合わせからなる。これら3種の成分からなる第1フッ素樹脂多孔膜31は、従来の繊維化し得るPTFE(高分子量PTFE)多孔膜と比べ、空隙が多く、膜厚の厚い膜構造を有していることで、気体中の微粒子を濾材の厚み方向の広い領域で捕集でき、これにより、保塵量を向上させることができる。多孔膜をこれら3種の成分から構成することにより、固体粒子よりも液体粒子の保塵量を特に増大させることが可能になる。このような観点からは、第1フッ素樹脂多孔膜31だけでなく第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32の両方が、これら3種の成分からなることがより好ましい。これにより、エアフィルタ濾材全体の厚みを十分に確保でき、保塵量がより向上する。
【0051】
以下、上記3種の成分についてより詳細に説明する。なお、第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32のいずれにも該当する内容に関しては、これらを区別することなく、単に「多孔膜」との表現を使って説明する。
【0052】
(2−1)A成分:繊維化し得るPTFE
繊維化し得るPTFEは、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)の乳化重合、または懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。ここでいう高分子量とは、多孔膜作成時の延伸の際に繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られるものであって、標準比重(SSG)が、2.130〜2.230であり、溶融粘度が高いため実質的に溶融流動しない大きさの分子量をいう。繊維化し得るPTFEのSSGは、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、2.130〜2.190が好ましく、2.140〜2.170が更に好ましい。SSGが高すぎると、A〜Cの各成分の混合物の延伸性が悪化するおそれがあり、SSGが低すぎると、圧延性が悪化して、多孔膜の均質性が悪化し、多孔膜の圧力損失が高くなるおそれがある。また、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、乳化重合で得られたPTFEが好ましい。標準比重(SSG)は、ASTM D 4895に準拠して測定される。
【0053】
繊維化性の有無、すなわち、繊維化し得るか否かは、TFEの重合体から作られた高分子量PTFE粉末を成形する代表的な方法であるペースト押出しが可能か否かによって判断できる。通常、ペースト押出しが可能であるのは、高分子量のPTFEが繊維化性を有するからである。ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがない場合、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れるような場合は繊維化性がないとみなすことができる。
【0054】
上記高分子量PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53−60979号公報、特開昭57−135号公報、特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭62−190206号公報、特開昭63−137906号公報、特開2000−143727号公報、特開2002−201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEなら好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57−135号公報、特開昭63−137906号公報、特開2000−143727号公報、特開2002−201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
【0055】
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEには、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。変性PTFEは、例えば、特開昭60−42446号公報、特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭62−190206号公報、特開昭64−1711号公報、特開平2−261810号公報、特開平11−240917、特開平11−240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているものを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭64−1711号公報、特開平11−240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
【0056】
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001〜0.500重量%含まれることが好ましく、好ましくは、0.01〜0.30重量%含まれる。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
【0057】
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0058】
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
【0059】
CF=CF−ORf・・・(1)
式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。
【0060】
本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0061】
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0062】
上記パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
【0063】
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
ホモPTFEは、特に、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、繊維化し得るPTFEの50重量%を超えて含有されていることが好ましい。
【0065】
なお、繊維化し得るPTFEは、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0066】
繊維化し得るPTFEは、多孔膜の繊維構造を維持する観点から、多孔膜の50重量%を超えて含有されているのが好ましい。
【0067】
(2−2)B成分:繊維化しない非熱溶融加工性成分
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、主に結節部において非繊維状の粒子として偏在し、繊維化し得るPTFEが繊維化されるのを抑制する働きをする。
【0068】
繊維化しない非熱溶融加工性成分としては、例えば、低分子量PTFE等の熱可塑性を有する成分、熱硬化性樹脂、無機フィラー、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0069】
熱可塑性を有する成分は、融点が320℃以上であり、溶融粘度が高い方が好ましい。例えば低分子量PTFEは溶融粘度が高いため,融点以上の温度で加工しても結節部に留まることができる。本明細書において、低分子量PTFEとは、数平均分子量が60万以下、融点が320℃以上335℃以下、380℃での溶融粘度が100Pa・s〜7.0×10Pa・sのPTFEである(特開平10−147617号公報参照)。
【0070】
低分子量PTFEの製造方法としては、TFEの懸濁重合から得られる高分子量PTFE粉末(モールディングパウダー)またはTFEの乳化重合から得られる高分子量PTFE粉末(ファインパウダー)と特定のフッ化物とを高温下で接触反応させて熱分解する方法(特開昭61−162503号公報参照)や、上記高分子量PTFE粉末や成形体に電離性放射線を照射する方法(特開昭48−78252号公報参照)、また連鎖移動剤とともにTFEを直接重合させる方法(国際公開第2004/050727号パンフレット,国際公開第2009/020187号パンフレット,国際公開第2010/114033号パンフレット等参照)等が挙げられている。低分子量PTFEは、繊維化し得るPTFEと同様、ホモPTFEであってもよく、前述の変性モノマーが含まれる変性PTFEでもよい。
【0071】
低分子量PTFEは繊維化性が無い。繊維化性の有無は、上述した方法で判断できる。低分子量PTFEは、ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがなく、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れる。
【0072】
低分子量PTFEは、特に限定されないが、380℃での溶融粘度が1000Pa・s以上であることが好ましく、5000Pa・s以上であることがより好ましく、10000Pa・s以上であることがさらに好ましい。このように、溶融粘度が高いと、多孔膜の製造時に、C成分として繊維化しない熱溶融加工可能な成分が溶融しても、繊維化しない非熱溶融加工性成分は結節部に留まることができ、繊維化を抑えることができる。
【0073】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、シリコーン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、フェノール、およびこれらの混合物等の各樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、後述する共凝析の作業性の観点から、未硬化状態で水分散された樹脂が望ましく用いられる。これら熱硬化性樹脂は、いずれも市販品として入手することもできる。
【0074】
無機フィラーとしては、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、およびこれらの混合物等が挙げられる。中でも、繊維化しうる高分子量のPTFEとの親和性および比重の点から、タルクが好ましく用いられる。無機フィラーは、多孔膜の製造時に安定な分散体を形成できる観点から、粒子径3μm以上20μm以下のものが好ましく用いられる。粒子径は、平均粒径であり、レーザー回折・散乱法によって測定される。これら無機フィラーは、いずれも市販品として入手することもできる。
【0075】
なお、繊維化しない非溶融加工性成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0076】
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、多孔膜の1重量%以上50重量%以下含有されることが好ましい。繊維化しない非熱溶融加工性成分の含有量が50重量%以下であることで、多孔膜の繊維構造を維持させやすい。繊維化しない非熱溶融加工性成分は、好ましくは20重量%以上40重量%以下含有され、より好ましくは30重量%含有される。20重量%以上40重量%以下含有されることで、繊維化し得るPTFEの繊維化をより有効に抑えることができる。
【0077】
(2−3)C成分:融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分
融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、繊維化しない熱溶融加工可能な成分ともいう)は、溶融時に流動性を有することにより、多孔膜の製造時(延伸時)に溶融して結節部において固まることができ、多孔膜全体の強度を高めて、後工程で圧縮等されることがあってもフィルタ性能の劣化を抑えることができる。
【0078】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分は,380℃において10000Pa・s未満の溶融粘度を示すことが好ましい。なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度10℃/分で融点以上まで昇温して一度完全に溶融させ、10℃/分で融点以下まで冷却した後、10℃/分で再び昇温したときに得られる融解熱曲線のピークトップとする。
【0079】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分としては、熱溶融可能なフルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド等の各樹脂、あるいはこれらの混合物であり、多孔膜の製造時の延伸温度における溶融性、流動性を十分に発揮しうるものが挙げられる。中でも、多孔膜製造時の延伸温度での耐熱性に優れ、耐薬品性に優れる点から、熱溶融可能なフルオロポリマーが好ましい。熱溶融可能なフルオロポリマーは、下記一般式(2)
RCF=CR・・・(2)
(式中、Rはそれぞれ独立して、H、F、Cl、炭素原子1〜8個のアルキル、炭素原子6〜8個のアリール、炭素原子3〜10個の環状アルキル、炭素原子1〜8個のパーフルオロアルキルから選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2つのRが同じで残る1つのRがこれらと異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。)で示される少なくとも1種のフッ素化エチレン性不飽和モノマー、好ましくは2種以上のモノマー、から誘導される共重合単位を含むフルオロポリマーが挙げられる。
【0080】
一般式(2)で表される化合物の有用な例としては、限定されないが、フルオロエチレン、VDF、トリフルオロエチレン、TFE、HFP等のパーフルオロオレフィン、CTFE、ジクロロジフルオロエチレン等のクロロフルオロオレフィン、PFBE、PFHE等の(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ−1,3−ジオキソールおよびその混合物等が挙げられる。
【0081】
また、フルオロポリマーは、少なくとも1種類の上記一般式(2)で示されるモノマーと、
上記一般式(1)および/または下記一般式(3)
C=CR・・・(3)
(式中、Rは、それぞれ独立して、H、Cl、炭素原子1〜8個のアルキル基、炭素原子6〜8個のアリール基、炭素原子3〜10個の環状アルキル基から選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2以上のRが同じでこれら2以上のRと残る他のRとが異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。前記他のRは、複数ある場合は互いに異なってよい。)で示される少なくとも1種の共重合性コモノマーとの共重合から誘導されるコポリマーも含み得る。
【0082】
一般式(1)で表される化合物の有用な例としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。このPAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0083】
一般式(3)で表される化合物の有用な例としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0084】
フルオロポリマーのより具体的な例としては、フルオロエチレンの重合から誘導されるポリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)の重合から誘導されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)の重合から誘導されるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、2種以上の異なる上記一般式(2)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマー、少なくとも1種の上記一般式(2)のモノマーと、少なくとも1種の上記一般式(1)および/または少なくとも1種の上記一般式(3)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマーが挙げられる。
【0085】
かかるポリマーの例は、VDFおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される共重合体単位を有するポリマー、TFEおよびTFE以外の少なくとも1種の共重合性コモノマー(少なくとも3重量%)から誘導されるポリマーである。後者の種類のフルオロポリマーとしては、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/エチレン共重合体(ETFE)、TFE/HFP/エチレン共重合体(EFEP)、TFE/VDF共重合体、TFE/VDF/HFP共重合体、TFE/VDF/CTFE共重合体等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0086】
なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0087】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、0.1重量%以上20重量%未満であることが好ましい。20重量%未満であることで、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が多孔膜中の結節部以外の部分にも分散して多孔膜の圧力損失が高くなることが抑制される。また、20重量%未満であることで、後述する伸長面積倍率が40倍以上の高倍率での延伸を行いやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量が0.1重量%以上であることで、後工程において圧縮力等が与えられたとしても多孔膜のフィルタ性能の劣化を十分に抑えやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、15重量%以下であるのが好ましく、10重量%以下であるのがより好ましい。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、多孔膜の強度を確保する観点から、0.5重量%以上であるのが好ましい。中でも、5重量%程度であるのが特に好ましい。
【0088】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率は、伸長面積倍率40倍以上800倍以下での延伸を良好に行うために、10重量%以下であるのが好ましい。
【0089】
上記説明した3種の成分からなる多孔膜では、フィブリルは主にA成分からなり、結節部はA〜Cの成分からなる。このような結節部は、多孔膜中で比較的大きく形成され、これにより厚みの厚い多孔膜が成形される。また、このような結節部は、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含むことで比較的固く、多孔膜を厚み方向に支える柱のような役割を果たすため、通気性支持材の積層や、後述するプリーツ加工などの後工程において厚み方向の圧縮力等を受けることがあっても多孔膜のフィルタ性能が低下することを抑えることが可能になる。
【0090】
(2−4)多孔膜の他の性質
第1フッ素樹脂多孔膜31の膜厚は、保塵量および捕集効率を高める観点から、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。第1フッ素樹脂多孔膜31の膜厚の上限値は、特に限定されないが、例えば100μmであってよい。また、第2フッ素樹脂多孔膜32の膜厚は、例えば、第2フッ素樹脂多孔膜32が上記3種の成分からなる場合は、5μmを超えるのが好ましく、40μmを超えるのがより好ましい。第2フッ素樹脂多孔膜32の膜厚の上限値は、特に限定されないが、例えば100μmであってよい。膜厚は、測定対象を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その値を5で割って得られる値である。
【0091】
第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32は、次式に従って求まる充填率が2%以上9%以下であることが好ましく、3%以上8%以下であることがより好ましい。なお、第1フッ素樹脂多孔膜31の充填率は、第2フッ素樹脂多孔膜32の充填率よりも小さいことが好ましい。
【0092】
充填率(%)=(濾材の目付)/(濾材の厚み)/(原料の比重)×100
第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32は、繊維径(平均繊維径)が、50nm以上250nm以下であることが好ましく、60nm以上200nm以下であることがより好ましい。また、第1フッ素樹脂多孔膜31の繊維径は、第2フッ素樹脂多孔膜32の繊維径よりも太いことが好ましい。
【0093】
なお、フッ素樹脂多孔膜が上記膜厚、上記充填率、上記繊維径を有するものである場合には、液体粒子を捕集対象とした場合の経時的な捕集効率の低下が起こる場合があることから、ポリアルファオレフィン(PAO)粒子(液体粒子)の透過率の経時変化を評価することが好ましい。
【0094】
なお、上述したフッ素樹脂多孔膜は、特に限定されないが、例えば、特開2017−159281号公報に記載の製造方法を参考として製造してもよい。
【0095】
(3)通気性支持材
上流通気性支持材21は、第1フッ素樹脂多孔膜31の上流側に配置されており、第1フッ素樹脂多孔膜31を支持する。このため第1フッ素樹脂多孔膜31の膜厚が薄い等で自立が困難であっても、上流通気性支持材21の支持により第1フッ素樹脂多孔膜31を立たせることが可能になる。
【0096】
下流通気性支持材22は、第2フッ素樹脂多孔膜32の下流側に配置されており、第2フッ素樹脂多孔膜32を支持する。なお、下流通気性支持材22は、エアフィルタ濾材の最下流側層を構成するように配置されている。第2フッ素樹脂多孔膜32も同様に、膜厚が薄い等で自立が困難であっても、下流通気性支持材22の支持により第2フッ素樹脂多孔膜32を立たせることが可能になる。
【0097】
上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の材質及び構造は、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、金属メッシュ、樹脂ネットなどが挙げられる。なかでも、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。不織布は、構成繊維の一部または全てが芯/鞘構造を有する不織布、低融点材料からなる繊維の層と高融点材料からなる繊維の層の2層からなる2層不織布、表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布が好ましい。このような不織布としては、例えば、スパンボンド不織布が挙げられる。また、芯/鞘構造の不織布は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いものが好ましい。例えば、芯/鞘の各材料の組み合わせとしては、例えば、PET/PE、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルが挙げられる。2層不織布の低融点材料/高融点材料の組み合わせとしては、例えば、PE/PET、PP/PET、PBT/PET、低融点PET/高融点PETが挙げられる。表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布としては、例えばPET不織布にEVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)が塗布されたもの、PET不織布にオレフィン樹脂が塗布されたものが挙げられる。
【0098】
不織布の材質は、特に限定されず、ポリオレフィン(PE、PP等)、ポリアミド、ポリエステル(PET等)、芳香族ポリアミド、またはこれらの複合材などを用いることができる。
【0099】
上流通気性支持材21は、加熱により上流通気性支持材21の一部が溶融することで、或いはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等の接着を利用して、第1フッ素樹脂多孔膜31に接合することができる。また、下流通気性支持材22も、同様に第2フッ素樹脂多孔膜32に対して接合することができる。
【0100】
上流通気性支持材21と下流通気性支持材22とは、同種のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。
【0101】
上流通気性支持材21および下流通気性支持材22は、いずれも上述した多孔膜と比較すると、圧力損失、捕集効率および保塵量のいずれも極めて低く、実質的に0とみなすこともできるものであってもよい。
【0102】
上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の各圧力損失は、例えば、いずれも、10Pa以下であることが好ましく、5Pa以下であることがより好ましく、1Pa以下であることがさらに好ましい。
【0103】
また、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の粒子径0.3μmのNaClの各捕集効率は、例えば、いずれも実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであってもよい。
【0104】
また、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の各厚みは、例えば、いずれも、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましい。
【0105】
また、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22の各目付は、例えば、いずれも、20g/m以上50g/m以下であることが好ましい。
【0106】
(4)プレ捕集材
プレ捕集材10は、第1フッ素樹脂多孔膜31よりも上流側に配置されており、気流中の塵の一部を捕集することができる。
【0107】
プレ捕集材10は、エアフィルタ濾材全体の圧力損失を低く抑える観点から、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が5Pa以上55Pa未満であることが好ましく、15Pa以上45Pa未満であることがより好ましい。
【0108】
また、プレ捕集材10は、粒子径0.3μmのNaClの捕集効率が、15%以上85%未満であることが好ましく、30%以上75%未満であることがより好ましい。
【0109】
なお、プレ捕集材10は、エアフィルタ濾材をプリーツ条に折り畳む場合における折り畳み作業を容易にするという観点から、厚みが0.8mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましく、0.4mmより小さくてもよい。また、プレ捕集材10の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上としてもよい。
【0110】
プレ捕集材10の平均繊維径は、0.8μm以上2.0μm未満であることが好ましい。
【0111】
プレ捕集材10の目付は、特に限定されないが、例えば、10g/m以上70g/m以下とすることができ、30g/m以上67g/m以下であることが好ましい。
【0112】
このようなプレ捕集材10は、特に限定されないが、ガラス繊維濾材によって構成されていてもよいし、メルトブローン法、エレクトロスピニング法、海島法およびこれらのハイブリット法の1つにより製造された繊維材料で構成された不織布あるいは繊維層構造体であってもよい。ハイブリット法には、例えば、メルトスピニング法あるいはエレクトレットブローン法が含まれる。海島法は、例えば、複数の吐出口から吐出させることで繊維を構成する場合において、吐出経路によって原料に違いを設け、一部の原料によって海部分を構成させ、他の異なる原料によって島部分を構成させ、断面が海島構造となるようにする方法である。ここで、海島の二成分または複数成分のポリマーを紡糸し、後加工にて海成分を溶かすことで、島部分を残して繊維とすることができる。なお、吐出経路による原料の組み合わせにより、かさ密度やストレッチ性等を調節することが可能である。メルトブローン法では、溶融されたポリマーを押出機によってノズルから吐出させながら、加熱された空気をノズルに沿うように吹き出すことで、糸を形成させる。ここで、ノズルからの単位時間当たりのポリマーの吐出量や加熱された空気の吹き出し速度等を調節することにより、より径の細い糸を得ることができる。また、当該糸の物性は、用いるポリマーの溶融粘度によっても変化させることができる。プレ捕集材10をメルトブローン法、エレクトロスピニング法、海島法およびこれらのハイブリット法の1つにより製造する場合の材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0113】
プレ捕集材10は、第1フッ素樹脂多孔膜31や第2フッ素樹脂多孔膜32と共に用いられるため、静電気によるスパークが生じることで第1フッ素樹脂多孔膜31や第2フッ素樹脂多孔膜32に穴が開くことを抑制するため、帯電しにくい材料であるガラス繊維濾材によって構成されていることが好ましい。なお、ガラス繊維濾材は、上記各物性を備えるものを製造してもよいが、商業的に入手してもよい。
【0114】
(5)用途の例
エアフィルタ濾材は、例えば次のような用途に用いられる。
【0115】
ULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)(半導体製造用)、HEPAフィルタ(病院、半導体製造用)、円筒カートリッジフィルタ(産業用)、バグフィルタ(産業用)、耐熱バグフィルタ(排ガス処理用)、耐熱プリーツフィルタ(排ガス処理用)、SINBRAN(登録商標)フィルタ(産業用)、触媒フィルタ(排ガス処理用)、吸着剤付フィルタ(HDD組込み用)、吸着剤付ベントフィルタ(HDD組込み用)、ベントフィルタ(HDD組込み用等)、掃除機用フィルタ(掃除機用)、汎用複層フェルト材、ガスタービン用カートリッジフィルタ(ガスタービン向け互換品用)、クーリングフィルタ(電子機器筐体用)等の分野;
凍結乾燥用の容器等の凍結乾燥用材料、電子回路やランプ向けの自動車用換気材料、容器キャップ向け等の容器用途、電子機器向け等の保護換気用途、医療用換気用途等の換気/内圧調整分野;
半導体液ろ過フィルタ(半導体製造用)、親水性フィルタ(半導体製造用)、化学薬品向けフィルタ(薬液処理用)、純水製造ライン用フィルタ(純水製造用)、逆洗型液ろ過フィルタ(産業排水処理用)等の液濾過分野。
【0116】
なお、エアフィルタ濾材は、捕集対象が液滴粒子である場合であっても、使用に伴う捕集効率の低下が抑制されるものである点で、オイルミスト等の液滴粒子が捕集対象に含まれている医療用クリーンルームや製薬工場におけるクリーンルームにおいて用いられることが好ましい。
【0117】
(6)フィルタパック
次に、図4を参照して、本実施形態のフィルタパックについて説明する。
【0118】
図4は、本実施形態のフィルタパック40の外観斜視図である。
【0119】
フィルタパック40は、上記説明したエアフィルタ濾材(例えば、エアフィルタ濾材1〜3等)を備えている。フィルタパック40のエアフィルタ濾材は、山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工(プリーツ加工)された加工済み濾材である。プリーツ加工は、例えば、ロータリー式折り機によって行うことができる。濾材の折り幅は、特に限定されないが、例えば25mm以上280mm以下である。フィルタパック40は、プリーツ加工が施されていることで、エアフィルタユニットに用いられた場合の濾材の折り込み面積を増やすことができ、これにより、捕集効率の高いエアフィルタユニットを得ることができる。
【0120】
フィルタパック40は、濾材のほか、エアフィルタユニットに用いられた場合のプリーツ間隔を保持するためのスペーサ(不図示)をさらに備えていてもよい。スペーサの材質は特に限定されないが、ホットメルト樹脂を好ましく用いることができる。
【0121】
(7)エアフィルタユニット
次に、図5を参照して、エアフィルタユニット60について説明する。
【0122】
図5は、本実施形態のエアフィルタユニット60の外観斜視図である。
【0123】
エアフィルタユニット60は、上記説明したエアフィルタ濾材またはフィルタパックと、エアフィルタ濾材またはフィルタパックを保持する枠体50と、を備えている。言い換えると、エアフィルタユニットは、山折り谷折されていない濾材が枠体に保持されるように作製されてもよいし、フィルタパック40が枠体50に保持されるように作製されてもよい。図5に示すエアフィルタユニット60は、フィルタパック40と枠体50を用いて作製したものである。
【0124】
枠体50は、例えば、板材を組み合わせてあるいは樹脂を成形して作られ、フィルタパック40と枠体50の間は好ましくはシール剤によりシールされる。シール剤は、フィルタパック40と枠体50の間のリークを防ぐためのものであり、例えば、エポキシ、アクリル、ウレタン系などの樹脂製のものが用いられる。
【0125】
フィルタパック40と枠体50とを備えるエアフィルタユニット60は、平板状に延在する1つのフィルタパック40を枠体50の内側に収納するように保持させたミニプリーツ型のエアフィルタユニットであってもよく、平板状に延在するフィルタパックを複数並べて枠体に保持させたVバンク型エアフィルタユニットあるいはシングルヘッダー型エアフィルタユニットであってもよい。
【実施例】
【0126】
以下、実施例および比較例を示して、本開示の内容を具体的に説明する。
【0127】
(実施例1)
実施例1のエアフィルタ濾材としては、図1に示すような構成のエアフィルタ濾材を用意した。具体的には、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22として、いずれも、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。また、第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32としては、いずれも、厚みが55.0μm、充填率が4.0%、平均繊維径が105nmであるものを用いた。これらを重ね合わせることで実施例1のエアフィルタ濾材を得た。
【0128】
(実施例2)
実施例2のエアフィルタ濾材としては、図2に示すような構成のエアフィルタ濾材を用意した。具体的には、プレ捕集材10として、平均繊維径1.6μm、PPからなるメルトブローン不織布(目付30g/m、暑さ0.25mm)を用いた。下流通気性支持材22として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。また、第1フッ素樹脂多孔膜31および第2フッ素樹脂多孔膜32としては、いずれも、厚みが50.0μm、充填率が4.0%、平均繊維径が100nmであるものを用いた。これらを重ね合わせることで実施例2のエアフィルタ濾材を得た。
【0129】
(実施例3)
実施例3のエアフィルタ濾材としては、図1に示すような構成のエアフィルタ濾材を用意した。具体的には、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22として、いずれも、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。また、第1フッ素樹脂多孔膜31としては、厚みが38.6μm、充填率が4.2%、平均繊維径が150nmであるものを用いた。第2フッ素樹脂多孔膜32としては、厚みが8.0μm、充填率が8.0%、平均繊維径が70nmであるものを用いた。これらを重ね合わせることで実施例3のエアフィルタ濾材を得た。
【0130】
(実施例4)
実施例4のエアフィルタ濾材としては、図3に示すような構成のエアフィルタ濾材を用意した。具体的には、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22として、いずれも、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。また、第1フッ素樹脂多孔膜31としては、厚みが38.6μm、充填率が4.2%、平均繊維径が150nmであるものを用いた。これらを重ね合わせることで実施例4のエアフィルタ濾材を得た。
【0131】
(比較例1)
比較例1のエアフィルタ濾材としては、図3に示すような構成のエアフィルタ濾材において上流側にさらにプレ捕集材10を設けたエアフィルタ濾材を用意した。具体的には、プレ捕集材10として、平均繊維径1.6μm、PPからなるメルトブローン不織布(目付30g/m、暑さ0.25mm)を用いた。上流通気性支持材21および下流通気性支持材22として、いずれも、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。また、第1フッ素樹脂多孔膜31としては、厚みが8.0μm、充填率が8.0%、平均繊維径が70nmであるものを用いた。これらを重ね合わせることで比較例1のエアフィルタ濾材を得た。
【0132】
(比較例2)
比較例2のエアフィルタ濾材としては、図1に示すような構成のエアフィルタ濾材を用意した。具体的には、上流通気性支持材21および下流通気性支持材22として、いずれも、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径20μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。また、第1フッ素樹脂多孔膜31としては、厚みが4.0μm、充填率が10.0%、平均繊維径が400nmであるものを用いた。第2フッ素樹脂多孔膜32としては、厚みが1.0μm、充填率が10.0%、平均繊維径が40nmであるものを用いた。これらを重ね合わせることで比較例2のエアフィルタ濾材を得た。
【0133】
なお、実施例および比較例において測定した各物性は、以下の通りである。
【0134】
(圧力損失)
エアフィルタ濾材の測定サンプルを、直径100mmのフィルタホルダにセットし、コンプレッサで入口側を加圧し、流速計で空気の透過する流量を5.3cm/秒に調整した。そして、この時の圧力損失をマノメータで測定した。
【0135】
(粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集効率)
JIS B9928 附属書5(規定)NaClエアロゾルの発生方法(加圧噴霧法)記載の方法に準じて、アトマイザーで発生させたNaCl粒子を、静電分級器(TSI社製)で、粒子径0.3μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて、測定試料である濾材の前後での粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。なお、捕集効率の初期値は、未だ使用されていない状態のエアフィルタ濾材を用いて測定した。
【0136】
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=測定試料が捕集したNaCl 0.3μmの粒子数
CI=測定試料に供給されたNaCl 0.3μmの粒子数
(粒子径0.3μmのNaCl粒子のPF値)
粒子径0.3μmのNaCl粒子を用いて、濾材の圧力損失及び捕集効率(粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集効率)とから、次式に従いPF値を求めた。
【0137】
PF値={−log((100−捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)
(ポリアルファオレフィン粒子の保塵量)
ポリアルファオレフィン(PAO)粒子(液体粒子)透過時の圧力損失上昇試験で評価した。即ち、PAO粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときに、濾材に保持されているPAO粒子の濾材の単位面積当たりの重量である保塵量(g/m2)を求めた。なお、PAO粒子は、ラスキンノズルで発生させたPAO粒子(個数中位径0.25μm)を用い、PAO粒子の濃度は、約100万〜600万個/cm3とした。
【0138】
HEPA濾材に関して、保塵量の定義がないが、フィルタの初期圧力損失は一般的にHEPAユニットでは約250Pa以下とされており、フィルタの交換時期としては、一般的にフィルタの初期圧力損失の2倍を超えた時点が推奨されている。また、標準的なHEPA用ガラス濾材の初期圧力損失は約250〜300Paである。そのため、エアフィルタ濾材の保塵量評価のための上記試験の終点を、圧力損失が250Pa分だけ上昇した時点とした。
【0139】
(NaCl粒子の保塵量)
NaCl粒子(固体粒子)透過時の圧力損失上昇試験で評価した。即ち、NaCl粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときに、濾材に保持されているNaCl粒子の濾材の単位面積当たりの重量である保塵量(g/m2)を求めた。なお、NaCl粒子は、アトマイザーで発生させたNaCl粒子(個数中位径0.1μm)を用い、NaCl粒子の濃度は、約500万〜700万個/cm3とした。
【0140】
なお、上記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量の測定と同様に、濾材の保塵量評価のための上記試験の終点を、圧力損失が250Pa分だけ上昇した時点とした。
【0141】
(多孔膜の厚み)
膜厚計(1D−110MH型、ミツトヨ社製)を使用し、測定対象を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚とした。
【0142】
(多孔膜の充填率)
多孔膜の充填率は、次式に従って求めた。
【0143】
充填率(%)=(濾材の目付)/(濾材の厚み)/(原料の比重)×100
ここで、目付は、4.0cm×12.0cmの長方形にカットした試料を精密天秤にて測定した質量(g)を面積(0.0048m2)で除した値とした。
【0144】
(多孔膜の繊維径)
多孔膜の繊維径(平均繊維径)については、以下のようにして測定した。走査型電子顕微鏡(商品名:SU8020、HITACHI社製)を用いて、5000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真において、任意の25μm×20μmの領域を観察し、縦横直交する直線を引いて、各直線にクロスする繊維の直径すべてを定規で測定し、縮尺換算して繊維径(nm)を求める。次に、求めた繊維径の累積頻度分布を、対数確率紙において、横軸に繊維径、縦軸に累積頻度を採って対数正規プロットし、累積頻度が50%となる値を平均繊維径(メディアン径)とした。
【0145】
(ポリアルファオレフィン粒子の透過率および透過率比)
ポリアルファオレフィン(PAO)粒子(液体粒子)透過時の圧力損失上昇試験時におこなった。すなわち、PAO粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したとき、通風開始後約30秒後のサンプル濾材下流でのPAO粒子濃度を初期値として測定した。同時に、濾材の圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときに、サンプル濾材下流でのPAO粒子濃度を最終値として測定した。サンプル濾材の上流濃度から初期捕集効率(初期透過率)、最終捕集効率(最終透過率)を求めた。
【0146】
なお、PAO粒子は、ラスキンノズルで発生させたPAO粒子(個数中位径0.25μm)を用い、PAO粒子の濃度は、約100万〜600万個/cm3とした。
【0147】
また、各実施例および比較例について、いずれも、NaCl粒子の透過率比(最終透過率/初期透過率)が1より小さいことは明らかであったため、測定は行っていない。なお、NaCl粒子(固体粒子)の透過率比は、以下のようにして求められる値である。すなわち、NaCl粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したとき、通風開始後約30秒後のサンプル濾材下流でのNaCl粒子濃度を初期値として測定し、同時に、濾材の圧力損失を、差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときに、サンプル濾材下流でのNaCl粒子濃度を最終値として測定する。そして、サンプル濾材の上流濃度から初期捕集効率(初期透過率)、最終捕集効率(最終透過率)を求めることができる。この場合、NaCl粒子は、アトマイザーで発生させたNaCl粒子(個数中位径0.1μm)を用い、NaCl粒子の濃度は、約500万〜700万個/cm3とする。
【0148】
各実施例および各比較例のエアフィルタ濾材(フィルタパックやエアフィルタユニットとする前の状態のもの)の各物性と、各多孔膜の物性を、以下の表1に示す。
【0149】
【表1】
【0150】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0151】
1 エアフィルタ濾材
2 エアフィルタ濾材
3 エアフィルタ濾材
10 プレ捕集材
21 上流通気性支持材
22 下流通気性支持材
31 第1フッ素樹脂多孔膜
32 第2フッ素樹脂多孔膜
40 フィルタパック
50 枠体
60 エアフィルタユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0152】
【特許文献1】特開2017−64713号公報
図1
図2
図3
図4
図5