(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の故障診断装置が搭載される建設機械の好適な例として移動式クレーン30のクレーン作業時の状態を示している。
図1では、移動式クレーン30は、下部フレーム31の前後に設けられたアウトリガ32のジャッキシリンダ33が伸長し、移動式クレーン30全体をジャッキアップしたクレーン作業姿勢となっている。
【0011】
旋回台34は、下部フレーム31の上面に、旋回自在に搭載されている。伸縮ブーム35は、起伏自在となるようピン36により旋回台34と連結されている。伸縮ブーム35は、旋回台34に対し起伏シリンダ37により起伏駆動される。
【0012】
伸縮ブーム35は、内部に配置された伸縮シリンダ(図示略)により伸縮駆動される。ワイヤロープ38が、旋回台34に配置されたウインチ(図示略)から繰り出され、伸縮ブーム35の背面に沿って伸縮ブーム先端39に導かれている。さらに、ワイヤロープ38は、伸縮ブーム先端39のシーブ40に掛け回され、その先端にフック41を吊り下げている。フック41には吊り荷43が吊り下げられている。なお、旋回台34に配置されたもう一つのウインチから繰り出されるワイヤには、フック42が吊り下げられている。
【0013】
移動式クレーン30は、アウトリガ32の4本のジャッキシリンダ33により安定的に支持された状態にある。このとき、移動式クレーン30各部の強度状態は制限内となっている。このクレーン作業姿勢から、今仮に起伏シリンダ37を縮小させ伸縮ブーム35を倒伏させていくとすると、吊り荷43の作業半径は増大していく。それに伴い、移動式クレーン30の安定状態は所定の安定限界に近づくとともに、移動式クレーン30各部の強度状態も所定の強度限界に近づく。安定状態が安定限界に近づく、又は強度状態が強度限界に近づくと、移動式クレーン30の安全装置が働き、起伏シリンダ37の油圧システムにおけるアンロード回路が作動する。これにより、伸縮ブーム35の倒伏動作が自動停止され、安定限界又は強度限界を超えないようになっている。
【0014】
図2は、移動式クレーン30の油圧システムの一例を示す図である。油圧システムは、移動式クレーン30の油圧アクチュエータ8を駆動する油圧回路1を備える。油圧回路1は、油圧アクチュエータ8を動作させないときには作動油を無負荷で流通させることができるアンロード回路で構成される(以下、「アンロード回路1」と称する)。
図2では、アンロード回路1は、アンロード状態となっている。
【0015】
アンロード回路1は、ポンプ油路3、油圧ポンプ4、方向制御弁5、タンク油路6、油圧タンク7、圧力補償付流量調整弁10、パイロット作動型リリーフ弁12、及びアンロード用ソレノイド弁16を有する。アンロード回路1は、通常のクレーン作業時はオンロード状態に保持され、安全装置2によって安定限界又は強度限界が近いことが検出された場合にアンロード状態に切り替えられる。
【0016】
方向制御弁5は、パイロット圧によって駆動方向が切り換えられ、油圧ポンプ4からの作動油をコントロールして油圧アクチュエータ8に供給する。方向制御弁5は、パイロット圧が供給されていないときにすべてのポートが閉状態となるクローズドセンタ形の制御弁である。
【0017】
ポンプ油路3は、油圧ポンプ4と方向制御弁5を連絡する。タンク油路6は、方向制御弁5と油圧タンク7とを連絡する。油圧アクチュエータ8は、方向制御弁5によって油圧ポンプ4からの作動油が一方の油室に供給されることにより、駆動される。
【0018】
圧力補償付流量調整弁10は、ポンプ油路3とタンク油路6との間に介装され、方向制御弁5の入口と出口の圧力差を一定に保つ(圧力補償する)。これにより、油圧アクチュエータ8の負荷が変動することにより作動圧が変動しても、作動油は、方向制御弁5の開度に応じた所定の流量で油圧アクチュエータ8に供給される。
【0019】
なお、移動式クレーン30には多くの油圧アクチュエータ8が搭載されるが、
図2では油圧アクチュエータ8が油圧シリンダ(例えば、
図1に示す起伏シリンダ37)で構成される場合について示している。
【0020】
パイロット作動型リリーフ弁12は、親弁13、子弁14及びベント油路15を有し、ポンプ油路3とタンク油路6との間に介装される。親弁13のベント油路15には子弁14が介装されている。パイロット作動型リリーフ弁12では、ベント油路15に設けられた子弁14の設定圧力で親弁13のパイロット操作が行われるので、リリーフ性能が良く、圧力の制御が容易であるという特性を持っている。
【0021】
アンロード用ソレノイド弁16は、子弁14をバイパスするようにベント油路15に設けられている。アンロード用ソレノイド弁16は、
図2に示すように、非通電のとき連通側(出力ポートと入力ポートが連通している状態)に切り換わって子弁14をバイパスする。一方、アンロード用ソレノイド弁16は、通電されると遮断側(出力ポートと入力ポートが遮断された状態)に切り替わる(
図5参照)。
【0022】
図2では、アンロード用ソレノイド弁16が連通側となっており、ベント油路15が油圧タンク7に連通しているため、ベント油路圧は0となり親弁13は開弁している。そのため、油圧ポンプ4から吐出された作動油は、ポンプ油路3からパイロット作動型リリーフ弁12の親弁13を通ってタンク油路6に流れ込み、タンクに戻る(いわゆるアンロード状態)。
【0023】
油圧ポンプ4は、PTO(Power take-off)20を介してエンジン21に接続されている。PTO20は、エンジン21の動力を油圧ポンプ4に伝達する。
【0024】
安全装置2は、圧力センサー22、コントローラ23、クレーン状態検出器24及び警報器25を有する。
【0025】
圧力センサー22は、ポンプ油路3に設置され、ポンプ油路3の圧力(以下、「ポンプ油路圧」と称する)を測定する。圧力センサー22の圧力信号は、コントローラ23に送られる。圧力センサー22からの圧力信号に基づいて、アンロード回路1の故障診断が行われる。アンロード回路1の故障診断は、後述する診断フローに従って行われる。
【0026】
警報器25は、移動式クレーン30の運転室(符号略)に配置され、コントローラ23からの警報信号に従って、警報を発する。コントローラ23は、圧力センサー22からの圧力信号に基づいて、アンロード回路1を故障と診断したときに、警報器25に向けて警報信号を出力する。
【0027】
クレーン状態検出器24は、移動式クレーン30のクレーン作業時のクレーンの姿勢と負荷を検出する。具体的には、アウトリガ32の張出幅、旋回フレーム34の旋回角、伸縮ブーム35の伸縮長さと起伏角、及び吊り荷43による負荷を検出する。検出結果は、クレーン状態信号(クレーンの姿勢と負荷)として、コントローラ23に送られる。
【0028】
移動式クレーン30のクレーン作業中には、コントローラ23は、常時クレーン状態検出器24からのクレーン状態信号を受け取っている。また、コントローラ23は、クレーンの作業姿勢ごとの安定限界と強度限界のデータを記憶しており、受け取ったクレーン状態信号との比較を行う。
【0029】
コントローラ23は、移動式クレーン30が安定限界あるいは強度限界を超えそうなときは、アンロード用ソレノイド弁16に対する通電を止めることにより、アンロード用ソレノイド弁16を連通側へ切り換える。すると、ベント油路15が油圧タンク7と連通し、ポンプ油路3からの作動油は、パイロット作動型リリーフ弁12の親弁13を経由してタンク油路6へ流れる。すなわち、アンロード回路1はアンロード状態となる。これにより、油圧アクチュエータ8へ作動油が流れなくなるため、移動式クレーンは自動停止する。
【0030】
また、コントローラ23は、圧力センサー22からの圧力信号に基づいて、アンロード回路1の故障診断を行う。すなわち、コントローラ23及び圧力センサー22によって、アンロード回路1の故障診断装置が構成される。アンロード回路1の故障診断を、
図3に示すフローチャート及び
図4に示すグラフに基づいて説明する。
【0031】
STEP1では、PTO20がエンジン21に接続される。これにより、エンジン21の動力が油圧ポンプ4に伝達され、油圧ポンプ4は回転駆動を開始する(
図4に示す時間T1)。このとき、アンロード用ソレノイド弁16は、コントローラ23から通電されない非励磁状態のままとなっている。そのため、アンロード回路1はアンロード状態にある。
【0032】
STEP2では、圧力センサー22がアンロード時のポンプ油路3の圧力P1(以下、「ポンプ油路圧P1」と称する)を計測する。なお、アンロード時のポンプ油路圧P1は、アンロード回路1がアンロード状態となるようにアンロード用ソレノイド弁16が制御されたときのポンプ油路圧であり、アンロード回路1が実際にアンロード状態となっているときのポンプ油路圧ではない。
【0033】
アンロード状態では、エンジン21の動力が油圧ポンプ4に伝達されるが、油圧アクチュエータ8には作動油が供給されないので、クレーンは動作しない。よって、アンロード状態では、エンジン21はアイドリング状態となり、油圧ポンプ4の吐出量は、アイドリング状態であるときに油圧ポンプ4が吐出する作動油の量となる。アイドリング状態では、油圧ポンプ4からの作動油は、親弁13、タンク油路6を通って、油圧タンク7に戻る。親弁13での圧力損出をΔp1、タンク油路6での圧力損出をΔp2とすると、油圧タンク7での油圧p0=0より、ポンプ油路圧P1=Δp1+Δp2が発生する。
【0034】
図4に示すように、このアンロード状態がΔT秒間継続される。具体的には、PTO20をエンジン21に接続して油圧ポンプ20が駆動され、作動油がポンプ油路3に吐出され始めてから、アンロード時のポンプ油路圧P1が安定するまでの時間、アンロード状態が継続される。コントローラ23は、圧力センサー22が計測したポンプ油路圧P1を示す圧力信号を受け取り記憶する。
【0035】
STEP3では、アンロード回路1がオンロード状態に切り換えられる(
図4に示す時間T2)。オンロード状態に切り換えられたアンロード回路1を
図5に示す。具体的には、コントローラ23からアンロード用ソレノイド弁16に通電が行われることで、アンロード用ソレノイド弁16が遮断側に切り換えられる。ベント油路15とタンク7とが遮断されることにより、ベント油路15の圧力が上昇し、パイロット作動型リリーフ弁12の親弁13が閉じられる。
【0036】
なお、
図5に示すオンロード状態では、ポンプ油路3の圧力がパイロットリリーフ弁12の子弁14の設定圧まで上昇すると、子弁14が開くことで親弁13が開く。これにより、パイロット作動型リリーフ弁12は、ポンプ油路3の作動油をタンク油路6に逃がす本来の安全弁としての機能を発揮する。
【0037】
図5に示すように、方向制御弁5はクローズドセンタ形であり、パイロット圧が供給されていない状態では中立状態となっている。したがって、コントローラ23がアンロード回路1をオンロード状態に切り換えた時点(
図4の時間T2)では、方向制御弁5を経由して油圧アクチュエータ8に作動油が流れることはない。よって、エンジン21はアイドリング状態のままである。
【0038】
油圧ポンプ4から吐出された作動油は、油圧アクチュエータ8には流れず、ポンプ油路3から圧力補償付流量調整弁10を経由してタンク油路6に流れる。圧力補償付流量調整弁10は閉じ側に向けバネ11で付勢されているので、バネ11の付勢力に打ち勝って圧力補償付流量調整弁10を作動油が流れるための圧力Pc(以下、「補償圧力Pc」と称する)がポンプ油路3に発生する。
【0039】
STEP4では、圧力センサー22がオンロード時のポンプ油路圧P2を計測する。なお、オンロード時のポンプ油路圧P2は、アンロード回路1がオンロード状態となるようにアンロード用ソレノイド弁16が制御されたときのポンプ油路圧であり、アンロード回路1が実際にオンロード状態となっているときのポンプ油路圧ではない。ポンプ油路圧P2は、アンロード回路1がオンロード状態に切り替えられた後、ポンプ油路3の圧力が安定してから計測されるのが好ましい。
図4に示す時間T3でポンプ油路圧P2が圧力センサー22によって計測され、その圧力信号がコントローラ23に送られる。
【0040】
STEP5では、コントローラ23内部で、記憶していたアンロード時のポンプ油路圧P1とオンロード時のポンプ油路圧P2との差圧ΔP=P2−P1が演算される。
【0041】
STEP6では、コントローラ23内部で差圧ΔPが所定値と比較される。所定値は、予め実験的に求められたオンロード時のポンプ油路圧P2の正常値と、アンロード時のポンプ油路圧P1の正常値に基づいて設定される。具体的には、所定値は、オンロード時のポンプ油路圧P2が正常値(補償圧力Pc)であり、かつ、アンロード時のポンプ油路圧P1が正常値(低い値)である場合の差圧ΔPよりも測定誤差を考慮した分だけ小さい値に設定される。
【0042】
差圧ΔPが所定値より大きい場合、STEP7でアンロード回路1は正常と診断される。この場合、STEP8において、移動式クレーン30におけるクレーン作業が可能となる。
【0043】
差圧ΔPが所定値以下である場合、STEP9において、アンロード回路1は故障と診断される。この場合、STEP10において、コントローラ23から警報器25に警報信号が送られる。警報器25は警報を発し、移動式クレー30におけるクレーン作業は不能となる。
【0044】
故障の原因として以下の場合が想定される。
例えば、アンロード用ソレノイド弁16が、断線又はコンタミにより連通側(
図2参照)で動かなくなった場合には、通電しても遮断側に切り換わらないため、アンロード状態のままとなり、
図4の時間T3で計測したポンプ油路圧P2はアンロード時のポンプ油路圧P1と同じになる。したがって、差圧ΔPは所定値以下(具体的には0)となり、故障と判定される。
【0045】
また例えば、アンロード用ソレノイド弁16が、断線又はコンタミにより遮断側(
図5参照)で動かなくなった場合、通電をやめても連通側に切り換わらないため、オンロード状態のままとなり、
図4に示したΔTの間(T1からT2の間)に計測したポンプ油路圧P1はオンロード時のポンプ油路圧P2と同じになる。したがって、差圧ΔPは所定値以下(具体的には0)となり、故障と判定される。
【0046】
このように、アンロード回路1は、油圧ポンプ4と方向制御弁5とを連絡するポンプ油路3と、方向制御弁5と油圧タンク7とを連絡するタンク油路6と、ポンプ油路3とタンク油路7との間に介装された圧力補償付流量調整弁10と、ポンプ油路3とタンク油路6との間に介装されたパイロット作動型リリーフ弁12と、パイロット作動型リリーフ弁12のベント油路15に介装されたアンロード用ソレノイド弁16と、を備える。アンロード回路1の故障診断装置は、ポンプ油路3の圧力を計測する圧力センサー22と、圧力センサー22からの圧力信号を受け取るコントローラ23と、を備える。コントローラ23は、アンロード時のポンプ油路圧P1(第1のポンプ油路圧)とオンロード時のポンプ油路圧P2(第2のポンプ油路圧)との差圧ΔPに基づいて、アンロード回路1の故障診断を行う。
【0047】
具体的には、コントローラ23は、差圧ΔPが所定値以下の場合にアンロード回路1が故障したと診断する。
【0048】
故障診断装置は、差圧ΔPに基づいてアンロード回路1の故障診断を行うので、温度変化(粘性変化)に伴う圧力変化が相殺されることとなり、アンロード回路1が正常にアンロード状態又はオンロード状態に切り換えられるか否かを確実に診断することができる。また、差圧ΔPを利用して診断するため、圧力センサー22の特性のばらつきによる影響を受けず、確実に故障診断を行うことができる。したがって、移動式クレーン30の安全装置2による自動停止が確実に行われることが担保されるので、移動式クレーン30の安全性及び信頼性が格段に向上する。
【0049】
また、コントローラ23は、油圧ポンプ4が駆動開始されたことを条件として、アンロード回路1の故障診断を行う。すなわち、クレーン作業に入るとき必ず行われるPTO20の接続操作を条件に、アンロード回路1の故障診断が自動的に行われるので、作業前点検として確実にアンロード回路1の故障を発見することができる。
【0050】
さらに、油圧ポンプ4は、PTO20を介して駆動されており、コントローラ23は、油圧ポンプ4の駆動開始後、所定時間アンロード状態を維持した後のポンプ油路圧P1(第1のポンプ油路圧)と、オンロード状態に切り替えた後のポンプ油路圧P2(第2の油路圧)との差圧に基づいて、アンロード回路1の故障診断を行う。これにより、油圧ポンプ4の駆動直後の不安定な状態におけるポンプ油路圧P1ではなく、安定した状態におけるポンプ油路圧P1を用いて差圧ΔPが算出されるので、誤診断を防止することができる。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0052】
例えば、実施の形態では、移動式クレーン30の油圧アクチュエータ8(起伏シリンダ37)を駆動する油圧システムについて説明したが、本発明は、その他のアクチュエータ(例えば、伸縮シリンダ)の油圧システムに適用することもできる。また、本発明は、移動式クレーン以外の建設機械の油圧システムに適用することもできる。
【0053】
また例えば、実施の形態では、エンジンがアイドリング状態であるときの診断例を説明したが、故障診断時のエンジン回転数はアイドリング時の回転数でなくてもよい。すなわち、エンジン回転数が増加することによるポンプ吐出量の増加に伴いポンプ油路圧P1、P2が変化しても、その変化が差圧ΔPよりも小さければ、実施の形態と同様にアンロード回路の故障診断が可能である。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0055】
2016年3月24日出願の特願2016−059486の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。