(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造やステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0015】
実施の形態1.
先ず、
図1乃至
図11を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
【0016】
<エンドレス圧延ライン>
図1は、本発明の実施の形態1に係る温度制御装置が適用されるエンドレス圧延ラインの構成の一例を説明する図である。
【0017】
図1に示すエンドレス圧延ラインは、連続鋳造機10、加熱炉12、粗ミル14、仕上ミル16、巻取機前シヤ18および巻取機20を、主な設備として備えている。
【0018】
連続鋳造機10はスラブを連続鋳造する。加熱炉12は、連続鋳造機10から抽出されたスラブを加熱して粗ミル14に送る。粗ミル14は、通常、2〜4基のスタンド(
図1では第1スタンドR1〜第3スタンドR3)を備えている。粗ミル14は、加熱炉12からのスラブをそのスタンドによって圧延する。粗ミル14の出側では、圧延されたスラブは粗バーと呼ばれており、粗バー厚が目標となるまで粗ミルで圧下する。
【0019】
粗ミル14で圧延された粗バーは、仕上ミル16に送られる。仕上ミル16は、通常、5〜7基のスタンド(
図1では第1スタンドF1〜第5スタンドF5)を備えている。仕上ミル16は、粗ミル14からの粗バーをそのスタンドによって更に圧延する。仕上ミル16の出側では、圧延された粗バーはストリップと呼ばれており、ストリップの目標板厚(製品板厚)となるまで、仕上ミルで圧下する。
【0020】
仕上ミル16で圧延されたストリップは、巻取機20に送られる。巻取機20は、仕上ミル16からのストリップをコイル状に巻き取る。エンドレス圧延においては、連続して鋳造されるスラブから、複数のコイルを生成するため、巻取機前シヤ18は、板厚変更部分の周辺にてストリップを切断する。
図1に示すように、巻取機20は、少なくとも2基設けられている。例えば、切断される箇所より下流側(巻取機側)のストリップ(以下、「先行材」ともいう。)が、前方側(即ち、仕上ミル16から遠い側)の巻取機20によって巻き取られている場合、切断される箇所より上流側(ミル側)のストリップ(以下、「後行材」ともいう。)は、後方側(即ち、仕上ミル16に近い側)の巻取機20にて巻き取られる。後方側の巻取機20にて、ストリップを巻き取っている間に、前方側の巻取機20で巻き取られたコイルは払い出され、前方側の巻取機20は次の切断後の巻取り準備に入る。
【0021】
図1に示すエンドレス圧延ラインは、安定的な圧延と製品の材質管理のために、圧延材の温度を各所で計測する。粗ミル出側温度計22は、粗ミル14の出側における粗バーの温度を計測する。仕上ミル入側温度計24は、仕上ミル16の入側における粗バーの温度を計測する。仕上ミル出側温度計26は、仕上ミル16の出側におけるストリップの温度を計測する。巻取機前温度計28は、巻取機20の上流側におけるストリップの温度を計測する。各所で計測した圧延材の温度は、温度制御装置による温度制御の入力値として利用される。
【0022】
エンドレス圧延ラインは、温度制御に基づいて操作されるアクチュエータとして、熱交換装置30と、冷却装置32および34と、を備えている。熱交換装置30は、粗バーを加熱または冷却する。熱交換装置30は、例えば誘導加熱により粗バーを加熱するが、燃料の燃焼熱により粗バーを加熱してもよい。熱交換装置30は、例えば、スプレーノズルからの冷却水により圧延材を冷却する。冷却に際しては、粗バーの温度の降下量を制御するヒートカバーを適宜使用することができる。冷却装置32は、仕上ミル16において隣り合う2つのスタンドの間に設けられている。冷却装置32は、例えば、スプレーノズルからの冷却水によりストリップを冷却する。冷却装置34は、例えば、ラミナーノズルからの冷却水によりストリップを冷却する。
【0023】
<エンドレス圧延ラインの操業の説明>
エンドレス圧延ラインにおける基本的な操業について説明する。連続圧延においては、単一のスラブから板厚の異なる複数のコイルを作り出す。具体的には、圧延材の圧延中に、粗ミル14および仕上ミル16が有するスタンドのロールギャップを変更する。同時に、これらのスタンドの間の張力を変更する。これにより、粗ミル14の出側におけるバー厚を変更し、および、仕上ミル16の出側における板厚を変更する。切断する位置は、目標板長などから圧延前に予め決めておき、切断する位置が巻取機前シヤ18の位置まで来たら、ストリップを切断する。ストリップの切断は、できるだけ歩留りを低下させるべく、板厚変更部分の周辺にて行う。これにより、先行材のコイルと、先行材とは板厚の異なる後行材のコイルと、が作り出される。
【0024】
エンドレス圧延ラインでは、連続鋳造機10から抽出された単一のスラブが圧延ラインに導入される。そのため、粗ミル14の入側におけるスラブの速度は、連続鋳造機10でのスラブの生成速度(即ち、鋳造速度)に支配される。鋳造速度が一定の場合、スタンド出側の圧延材の速度は、走間板厚変更に伴い変化する。この圧延材の速度の変化が、温度制御の外乱となる。
【0025】
<温度制御装置の構成>
図2は、本発明の実施の形態1に係る温度制御装置の構成の一例を説明するブロック図である。
図2に示す温度制御装置は、設定計算機能40、温度制御機能42、ギャップ変更機能44、速度調整機能46、および、トラッキング機能48を、主な機能として備えている。
【0026】
設定計算機能40は、先行材の板厚スケジュールと先行材の目標板長に基づいて、板厚変更点を決定する機能である。設定計算機能40は、小機能である走間板厚変更量決定機能40aと、速度変化量計算機能40bと、速度パターン作成機能40cと、を備えている。
【0027】
走間板厚変更量決定機能40aは、操業指令50に基づき、板厚スケジュールと板厚変更時間とを計算する機能である。板厚スケジュールは、スタンドの出側における圧延材の板厚の目標値を、スタンド毎に定めたものである。板厚変更時間は、先行材の目標板厚に相当する板厚から、後行材の目標板厚に相当する板厚へと変更する時間である。板厚変更時間は、仕上ミルの出側における後行材の板厚目標値、および、仕上ミルの出側におけるストリップの板厚変更量(即ち、先行材と後行材の製品板厚目標値の差)の少なくとも一方に基づいて計算される。つまり、板厚変更時間は、板厚スケジュールに基づいて計算される。
【0028】
速度変化量計算機能40bは、走間板厚変更に伴う圧延材の速度変化量を予測計算する機能である。速度変化量は、後行材の板厚スケジュールと、先行材の板厚スケジュールと、各スタンドの出側における圧延材の速度と、に基づいて計算される。速度変化量計算機能40bの詳細については後述する。
【0029】
速度パターン作成機能40cは、速度変化量に基づいて、圧延材の速度パターンを作成し、または、更新する機能である。速度パターン作成機能40cの詳細については後述する。
【0030】
温度制御機能42は、小機能である初期出力決定機能42aと、フィードフォワード制御機能42bと、フィードバック制御機能42cと、を備えている。
【0031】
初期出力決定機能42aは、設定計算機能40から受信した最新の速度パターンに基づいて、冷却装置32および34から供給する冷却水の初期流量を決定する機能である。
【0032】
フィードフォワード制御機能42bは、仕上ミル入側温度計24から受信した温度計測値52と、最新の速度パターンと、に基づき、冷却装置32からの冷却水の流量を決定する機能である。フィードフォワード制御機能42bは、仕上ミル出側温度計26から受信した温度計測値52と、最新の速度パターンと、に基づき、冷却装置34からの冷却水の流量を決定する機能でもある。
【0033】
フィードバック制御機能42cは、仕上ミル出側温度計26から受信した温度計測値52と、目標温度との間の誤差を補正するように冷却装置32からの冷却水の流量を変更する機能である。フィードバック制御機能42cは、巻取機前温度計28から受信した温度計測値52と、目標温度との間の誤差を補正するように冷却装置34からの冷却水の流量を変更する機能でもある。
【0034】
ギャップ変更機能44は、設定計算機能40から受信した各スタンドでの板厚変更量(即ち、スタンド毎に定められた圧延材の板厚の現在の目標値と次の目標値の差)に基づき、トラッキング機能48から指定されたタイミングにおいて、各スタンドのロールギャップを変更する機能である。
【0035】
速度調整機能46は、各スタンドのロール速度を調整する機能である。速度調整機能46は、ギャップ変更機能44によってあるスタンドのロールギャップが変更された場合、そのスタンドのロール速度を調整し、スタンドの間の張力を概ね一定に維持する。
【0036】
トラッキング機能48は、板厚変更点を追跡し、設定計算機能40、温度制御機能42およびギャップ変更機能44を適切なタイミングで起動する機能である。
【0037】
尚、操業指令50は、少なくとも先行材と後行材の製品寸法(即ち、板厚、板幅および板長)を含んでいる。操業指令50は、熱間圧延ラインの各所における圧延材の温度の目標値(即ち、仕上ミル入側温度、仕上ミル出側温度および巻取機前温度の目標値)を含んでいる。
【0038】
<走間板厚変更に伴う圧延材の温度変化>
既に述べたように、エンドレス圧延ラインでは、粗ミルの入側におけるスラブの速度が鋳造速度に支配される。従って、鋳造速度が変わらなければ、粗ミルの入側におけるスラブの速度は一定である。鋳造速度が変わらない場合、ミルで圧延される圧延材の速度は、スタンドの間において成立するマスフロー一定則に支配される。即ち、鋳造速度一定条件下において、あるスタンドで圧延材の板厚を減少させたときには、そのスタンドの出側における圧延材の速度が同スタンドの入側における速度に比べて大きくなる。
【0039】
例えば、仕上ミルの最終スタンドの出側におけるストリップの板厚(即ち、製品板厚)を変更するために、仕上ミルの各スタンドの圧下率を順番に変更するケースを考える。
圧下率は、下記式(1)で定義される。
r(i)=(H(i)-h(i))/H(i) -(1)
r(i):スタンドi(1≦i≦n)の圧下率
H(i):スタンドiの入側における圧延材の板厚
h(i):スタンドiの出側における圧延材の板厚
【0040】
マスフロー一定則によれば、あるスタンドiの圧下率が変化すると、そのスタンドiの出側における圧延材の速度が変化する。スタンドi出側とその下流に位置する隣接スタンドi+1の入側の速度は同期する必要があるので、隣接スタンドi+1の入側における圧延材の速度は、スタンドiの出側における圧延材の速度と同様に変化する。更には、隣接スタンドi+1の出側における圧延材の速度も変化することになる。その結果、仕上ミルの出側における圧延材の速度は、各スタンドでの圧延材の速度の変化に伴って、段々と変化することになる。
【0041】
図3乃至
図4を参照して、仕上ミルの各スタンドでの粗バーの速度の変化に伴って、仕上ミルの出側におけるストリップの速度が段々と変化することを具体的に説明する。
図3は、圧延中の板厚変更点の移動状況を説明する図である。
図3に示すように、Timing 1では、第1スタンドF1の位置に板厚変更点54がある。Timing 2では、第5スタンドF5の出側まで板厚変更点54が移動してきている。Timing 3では、巻取機前温度計28の直下まで板厚変更点54が移動してきている。
【0042】
Timing 1において、第1スタンドF1の出側における粗バーの板厚を減少させるため、そのロールギャップを狭める。同様に、第2スタンドF2〜第5スタンドF5の各出側における圧延材の板厚を減少させるため、各スタンドのロールギャップを狭める。各スタンドのロールギャップの変更は、また、第2スタンドF2〜第5スタンドF5の位置に板厚変更点54が移動してきたそれぞれのタイミングで行う。このような圧延を行ったときの各スタンドの出側における圧延材の速度を示したのが
図4である。
図4の縦軸は、仕上ミルの各スタンドの出側における圧延材の速度を表している。
【0043】
図4に示すように、Timing 1において第1スタンドF1のロールギャップを狭めると、第2スタンドF2〜第5スタンドF5の出側における圧延材の速度は、マスフロー一定則に従って大きくなり、その後、一定となる。また、各スタンドの位置に板厚変更点54が移動してきたそれぞれのタイミングで各スタンドのロールギャップを狭めると、ロールギャップを狭めたスタンド、および、その下流側に位置するスタンドの出側における圧延材の速度が、Timing 1以降の挙動と同様の挙動を示す。例えば、板厚変更点54が第3スタンドF3の位置にあるTiming 1.3で同スタンドのロールギャップを狭めると、第3スタンドF3〜第5スタンドF5の出側における圧延材の速度がそれぞれ大きくなり、その後、何れの速度も一定となる。
【0044】
このように、圧延材の板厚と速度が段々と変化することで、最終スタンドの出側におけるストリップの温度が複雑に変化する。速度変化だけではなく、スタンドの圧下率を高めれば、変形に伴う加工発熱、及びロールと圧延材の間に生じる摩擦熱が大きくなり、圧延材の温度が上昇する。一方、圧延材の板厚が減少すれば、圧延材の表面積が増えるので、圧延材の温度が下がり易くなる。このように、圧延材の温度は複雑に変化する。
【0045】
<走間板厚変更に伴う問題点>
図5は、圧延材の板厚と速度が段々と変化するときの問題点を説明する図である。
図5に示すCT計測値は、
図1に示した巻取機前温度計28(Coiling Thermometer)からの温度計測値を表している。CT計測値は、最終スタンドF5の出側における圧延材の速度が上昇することで、主に冷却時間が短くなることから、上昇する。フィードバック制御により冷却水の流量を増加させて目標温度を達成することができるが、巻取機前温度計28を通過するタイミングでは温度が下がっている。これは、板厚変更点後は板厚が小さくなっており、温度が低下しやすく、フィードバック制御出力により増加した冷却水の流量により冷やしすぎてしまったことによるものである。
【0046】
図5に示すCT直下板厚は、巻取機前温度計28の直下におけるストリップの板厚を表している。
図3乃至
図4において説明したように、Timing 1では板厚変更点は第1スタンドF1の位置にある。そのため、Timing 1では、CT直下板厚は未だ変更する前(先行材)と同じ板厚である。CT直下板厚は、板厚変更点が巻取機前温度計28の直下を通過するTiming 3において変化する。
【0047】
図5に示すCT直下速度は、巻取機前温度計28の直下におけるストリップの速度を表している。
図4において説明したように、第5スタンドF5の出側におけるストリップの速度は、各スタンドのロールギャップを狭めるタイミングで段々と上昇する。そして、巻取機前温度計28は仕上ミル16の下流に位置する。従って、CT直下速度は、第5スタンドF5の出側におけるストリップの速度と同様に、Timing 1からTiming 2までの間、段々と上昇する。
【0048】
図5に示すTotal流量は、
図1に示した冷却装置34からの冷却水の総流量を表している。Total流量には、巻取機前温度計28の直下におけるストリップの目標温度と、CT計測値との誤差に基づいたフィードバック制御に基づく補正流量、即ち、FB流量が反映されている。
図5に示す例では、Timing 1以降のCT計測値の上昇に伴ってFB流量が増やされ、これによりTotal流量が増やされている。但し、フィードバック制御には遅れがあることから、CT計測値の上昇を抑えられない可能性がある。実際、
図5に示す例では、Timing 1の直後においてCT計測値が上限を超えてしまっている。
【0049】
また、
図5に示す例では、上記フィードバック制御と並行して冷却装置34からの冷却水の流量のフィードフォワード制御が行われている。
図5において、走間板厚変更により板厚は小さくなっているため、フィードフォワード制御により、Timing 2からTiming 3にかけて、Total流量を変化させている。
【0050】
このフィードフォワード制御は、板厚変更点が冷却装置34に差し掛かるタイミング(具体的には、Timing 2よりも少し後のタイミング)において開始される。そのため、このタイミング以降はTotal流量が減少していく。しかし、このタイミング以前には既にフィードバック制御が行われている。そのため、FB流量の強い影響によりCT計測値が大きく低下する可能性がある。実際、
図5に示す例では、Timing 3の前後において、CT計測値が下限を超えてしまっている。
【0051】
<実施の形態1の温度制御の特徴>
そこで、本実施の形態1に係る温度制御装置では、
図2に示した構成を用いて、以下に説明する温度制御を実行する。この温度制御について、
図6乃至
図8を参照して説明する。
図6は、本発明の実施の形態1に係る温度制御装置が走間板厚変更に関する動作を行うときの処理の一例を説明するフローチャートである。
図7および
図8は、
図6において説明する各タイミングでの圧延材の移動状況を示す図である。なお、
図6乃至
図8においては、単一の圧延材内に先行材60と後行材62があり、仕上ミル16の出側における目標板厚が両者の間で異なることを前提として説明する。
【0052】
図6に示すように、温度制御装置は、先ず、先行材60が加熱炉12から抽出されるタイミング(
図7のTiming 6.1参照)において、先行材60の設定計算を実施する(ステップS10)。具体的に、温度制御装置は、走間板厚変更量決定機能によって、先行材60の板厚スケジュールと板厚変更時間を計算する。また、温度制御装置は、板厚スケジュールに基づき、速度変化量計算機能によって速度変化量を計算する。そして、温度制御装置は、速度変化量に基づき、速度パターン作成機能によって先行材60の速度パターンを作成する。
【0053】
ステップS10に続き、温度制御装置は、先行材60の先端部60aが仕上ミル入側温度計24の位置に到達したタイミング(
図7のTiming 6.2参照)において、先行材60の設定計算を実施する(ステップS12)。具体的に、温度制御装置は、走間板厚変更量決定機能によって、先行材60の板厚スケジュールと板厚変更時間を計算する。また、温度制御装置は、板厚スケジュールに基づき、速度変化量計算機能によって速度変化量を計算する。そして、温度制御装置は、速度変化量に基づき、速度パターン作成機能によって先行材60の速度パターンを更新(一回目の更新)する。
【0054】
また、温度制御装置は、更新一回目の先行材60の速度パターンに基づき、初期出力決定機能によって初期流量を決定する。初期流量は、先行材60を冷却するために冷却装置32および34から供給する冷却水の流量の初期値である。そして、温度制御装置は、初期流量に基づき、フィードフォワード制御機能によって冷却装置32および34から供給する冷却水量のフィードフォワード制御を開始する。
【0055】
ステップS12に続き、温度制御装置は、後行材62が加熱炉12から抽出されるタイミング(
図7のTiming 6.3参照)において、後行材62の設定計算を実施する(ステップS14)。粗ミル14の出側における目標板厚が先行材60と後行材62の間で異なる場合、温度制御装置は、走間板厚変更量決定機能によって後行材62の板厚スケジュールと板厚変更時間を計算する。また、温度制御装置は、板厚スケジュールに基づき、速度変化量計算機能によって速度変化量を計算する。そして、温度制御装置は、速度変化量に基づき、速度パターン作成機能によって後行材62の速度パターンを作成し、また、先行材60の速度パターンを更新(二回目の更新)する。
【0056】
また、温度制御装置は、更新二回目の先行材60の速度パターンと、仕上ミル入側温度計24からの温度計測値と、に基づき、フィードフォワード制御機能によって冷却装置32から供給する冷却水量のフィードフォワード制御を継続する。また、温度制御装置は、更新した先行材60の速度パターンと、仕上ミル出側温度計26からの温度計測値と、に基づき、フィードフォワード制御機能によって冷却装置34から供給する冷却水量のフィードフォワード制御を継続する。
【0057】
ステップS14に続き、温度制御装置は、後行材62の先端部62aが第1スタンドR1の入側に到達したタイミング(
図7のTiming 6.4参照)において、粗ミルでの走間板厚変更を開始する(ステップS16)。具体的に、温度制御装置は、後行材62の板厚スケジュールに基づき、ギャップ変更機能により第1スタンドR1のロールギャップを変更する。ステップS16と同様の処理は、先端部62aが第2スタンドR2および第3スタンドR3の入側に到達したそれぞれのタイミングにおいても行われる。
【0058】
また、温度制御装置は、第1スタンドR1〜第3スタンドR3のロールギャップを変更するそれぞれのタイミングにおいて、速度調整機能により各スタンドのロール速度を調整する。但し、このロール速度の調整に伴う圧延材の速度の変化は、速度パターン作成機能による先行材60の速度パターンの更新、および、この速度パターンに基づいたフィードフォワード制御において既に考慮されている。つまり、速度調整機能によるロール速度の調整による圧延材の温度変化を見越したフィードフォワード制御が実行されている。
【0059】
尚、粗ミル14の出側における目標板厚が先行材60と後行材62の間で変わらない場合、ステップS14,S16の処理は行われない。
【0060】
ステップS16に続き、温度制御装置は、先端部62aが仕上ミル入側温度計24の位置に到達したタイミング(
図8のTiming 6.5参照)において、後行材62の設定計算を実施する(ステップS18)。具体的に、温度制御装置は、走間板厚変更量決定機能によって、後行材62の板厚スケジュールと板厚変更時間を計算する。また、温度制御装置は、板厚スケジュールに基づき、速度変化量計算機能によって速度変化量を計算する。そして、温度制御装置は、速度変化量に基づき、速度パターン作成機能によって先行材60の速度パターンを更新(三回目の更新)し、後行材62の速度パターンを更新する。
【0061】
また、温度制御装置は、更新三回目の先行材60の速度パターンと、仕上ミル出側温度計26からの温度計測値と、に基づき、フィードフォワード制御機能によって冷却装置34から供給する冷却水量のフィードフォワード制御を継続する。また、温度制御装置は、更新した後行材62の速度パターンに基づき、初期出力決定機能によって初期流量を決定する。初期流量は、後行材62を冷却するために冷却装置32から供給する冷却水の流量の初期値である。そして、温度制御装置は、初期流量に基づき、フィードフォワード制御機能によって冷却装置32から供給する冷却水量のフィードフォワード制御を開始する。
【0062】
ステップS18に続き、温度制御装置は、先端部62aが仕上ミル16の第1スタンドF1の入側に到達したタイミング(
図8のTiming 6.6参照)において、仕上ミルでの走間板厚変更を開始する(ステップS20)。具体的に、温度制御装置は、後行材62の仕上ミル16における板厚スケジュールに基づき、ギャップ変更機能により第1スタンドF1のロールギャップを変更する。ステップS20と同様の処理は、先端部62aが第2スタンドF2〜第5スタンドF5の入側に到達したそれぞれのタイミングにおいても行われる。
【0063】
また、温度制御装置は、第1スタンドF1〜第5スタンドF5のロールギャップを変更するそれぞれのタイミングにおいて、速度調整機能により各スタンドのロール速度を調整する。但し、このロール速度の調整に伴う圧延材の速度の変化は、速度パターン作成機能による先行材60と後行材62の速度パターンの更新、および、これらの速度パターンに基づいたフィードフォワード制御において既に考慮されている。つまり、速度調整機能によるロール速度の調整による圧延材の温度変化を見越したフィードフォワード制御が実行されている。
【0064】
ステップS20に続き、温度制御装置は、仕上ミル出側温度計26の位置に到達したタイミング(
図8のTiming 6.7参照)において、最新の後行材62の速度パターンに基づき、初期出力決定機能によって初期流量を決定する(ステップS22)。初期流量は、後行材62を冷却するために冷却装置34から供給する冷却水の流量の初期値である。そして、温度制御装置は、初期流量に基づき、フィードフォワード制御機能によって冷却装置34から供給する冷却水量のフィードフォワード制御を開始する。
【0065】
尚、温度制御装置は、ステップS10〜ステップS22の間、フィードバック制御機能によってフィードバック制御を行っている。具体的に、温度制御装置は、仕上ミル出側温度計26からの温度測定値とその目標値の間の誤差に基づき、フィードバック制御機能によってフィードバック制御を行っている。また、温度制御装置は、巻取機前温度計28からの温度測定値とその目標値の間の誤差に基づき、フィードバック制御機能によってフィードバック制御を行っている。仕上ミル出側温度計26からの温度測定値は、板厚変更点がこの直下を通過する際に乱れることがある。巻取機前温度計28からの温度測定値も同様である。このような場合、温度制御装置は、フィードバック出力を一時的に保持して冷却装置32または34からの冷却水の流量を一定に保持する。
【0066】
<速度変化量計算機能>
次に、速度変化量計算機能による速度変化量の予測計算手法について説明する。
【0067】
走間板厚変更前のマスフロー一定則は、下記式(2)で表される。
v(E)h(E)=v(0)
Ah(0)
A=…=v(i)
Ah(i)
A=v(i+1)
Ah(i+1)
A=・・・=v(n)
Ah(n)
A -(2)
v(E):鋳造速度[m/s]
h(E):スラブの板厚[m]
v(i)
A:スタンドiの出側における圧延材の速度[m/s]
h(i)
A:スタンドiの出側における圧延材の板厚[m]
v(n)
A:最終スタンドnの出側におけるストリップの速度[m/s]
h(n)
A:最終スタンドnの出側におけるストリップの板厚[m]
【0068】
走間板厚変更が全てのスタンドで完了した後のマスフロー一定則は、下記式(3)で表される。
v(E)h(E)=v(0)
Bh(0)
B=…=v(i)
Bh(i)
B=v(i+1)
Bh(i+1)
B=・・・=v(n)
Bh(n)
B -(3)
v(i)
B:スタンドiの出側における圧延材の速度[m/s]
h(i)
B:スタンドiの出側における圧延材の板厚[m]
v(n)
B:最終スタンドnの出側におけるストリップの速度[m/s]
h(n)
B:最終スタンドnの出側におけるストリップの板厚[m]
【0069】
走間板厚変更前後において鋳造速度は変わらない。従って、式(2)および(3)から下記関係(4)および(5)が導き出される。
v(n)
Ah(n)
A=v(n)
Bh(n)
B=v(i)
Bh(i)
B -(4)
⇔(v(i)
B/h(n)
A)=(v(n)
A/h(i)
B) -(5)
【0070】
スタンドj(i≦j≦n)での走間板厚変更の完了後であって、板厚変更点がスタンドjとスタンドj+1の間にある状況において、スタンドj+1の入側における圧延材の速度は、スタンドjの出側における圧延材の速度の変化に伴い、v(j)
Aからv(j)
Bへと変わる。但し、スタンドj+1の入側に板厚変更点は到達していない。そのため、スタンドj+1の入側の圧延材の板厚H(j+1)
Aは、走間板厚変更前の板厚h(j)
Aに等しい。これに着目すると、板厚変更点がスタンドjとスタンドj+1の間にあるタイミングにおいて、スタンドj+1の入側と、スタンドj+1の出側と、スタンドj+1の下流側に位置する各スタンドの出側と、の間に成立するマスフロー一定則は、下記式(6)で表される。
v(j)
Bh(j)
A=v(j+1)
A(j)h(j+1)
A=・・・=v(n)
A(j)h(n)
A -(6)
v(j+1)
A(j):板厚変更点がスタンドjとスタンドj+1の間にあるタイミングでのスタンドj+1の出側における圧延材の速度[m/s]
v(n)
A(j):板厚変更点がスタンドjとスタンドj+1の間にあるタイミングでの最終スタンドnの出側における圧延材の速度[m/s]
【0071】
図9は、式(6)を説明する図である。既に説明したように、板厚変更点がスタンドjとスタンドj+1の間にある状況では、スタンドj+1の入側における圧延材の速度はv(j)
Bであり、また、スタンドj+1の入側における圧延材の板厚H(j+1)
Aは、スタンドjの出側における圧延材の板厚h(j)
Aに等しい。従って、スタンドj+1の入側におけるマスフローはv(j)
Bh(j)
Aで表される。そして、このマスフローv(j)
Bh(j)
Aは、スタンドj+1の出側におけるマスフロー(j+1)
A(j)h(j+1)
Aに等しく、更には、最終スタンドnの出側におけるマスフローv(n)
A(j)h(n)
Aとも等しい。
【0072】
式(6)の関係は、板厚変更点がスタンドj-1とスタンドjの間にあるタイミングにおいても成立する。具体的に、板厚変更点がスタンドj-1とスタンドjの間にあるタイミングにおいて、スタンドjの入側と、スタンドjの出側と、スタンドjの下流側に位置する各スタンドの出側と、の間に成立するマスフロー一定則は、下記式(7)で表される。
v(j-1)
Bh(j-1)
A=v(j)
A(j-1)h(j)
A=・・・=v(n)
A(j-1)h(n)
A -(7)
【0073】
式(6)および(7)から、板厚変更点がスタンドjの入側から出側に移動するときの、スタンドk(j≦k≦n)の出側における圧延材の速度変化量は、次のように導き出される。
v(k)
A(j)-v(k)
A(j-1)=(h(j)
A/h(k)
A)v(j)
B-(h(j-1)
A/h(k)
A)v(j-1)
B
=h(j)
A(v(k)
A/h(j)
B)-h(j-1)
A(v(k)
A/h(j-1)
B) (式(5)より)
=v(k)
A((h(j)
A/h(j)
B)-v(k)
A(h(j-1)
A/h(j-1)
B))
=v(k)
A{(h(j)
A/h(j)
B)-(h(j-1)
A/h(j-1)
B)} -(8)
v(k)
A(j):板厚変更点がスタンドjとスタンドj+1の間にあるタイミングでのスタンドkの出側における圧延材の速度[m/s]
v(k)
A(j-1):板厚変更点がスタンドj-1とスタンドjの間にあるタイミングでのスタンドkの出側における圧延材の速度[m/s]
【0074】
<速度パターン作成機能>
次に、速度パターン作成機能が作成し、または、更新する速度パターンについて説明する。
【0075】
図10は、速度パターン作成機能が作成し、または、更新する速度パターンの一例を示した図である。
図10に示すCT位置は、
図1に示した巻取機前温度計28の位置を表している。
図10に示すFDT位置は、
図1に示した仕上ミル出側温度計26(Finishing mill Delivery Thermometer)の位置を表している。
図10の横軸に示す部位64は、先端部62aが仕上ミル入側温度計24の位置に到達したタイミングにおいて、FDT位置に位置する先行材60の部位である(
図8のTiming 6.5参照)。部位64は、
図8のTiming 6.6と6.7にも描かれている。
【0076】
図10の実線は、走間板厚変更による圧延材の速度変化を予測して速度パターンに組み込んだときの部位64の速度履歴を表している。この実線に示すように、部位64がFDT位置に位置するタイミングでの圧延材の速度は一定である。但し、
図7のステップS18の説明で述べたように、
図8のTiming 6.5では後行材62の設定計算が行われて先行材60の速度パターンが更新される。従って、部位64がFDT位置を過ぎた後のタイミングから、部位64の速度が段々と上昇し始める。また、
図7のステップS22の説明で述べたように、
図8のTiming 6.7では先端部62aが仕上ミル16の出側に到達している。つまり、
図8のTiming 6.7では、仕上ミル16の全てのスタンドでの走間板厚変更が完了している。従って、部位64がCT位置に到達する少し前のタイミングから、部位64の速度が再び一定となる。
【0077】
尚、
図10の破線は、走間板厚変更による圧延材の速度変化を速度パターンに組み込まないときの部位64の速度履歴を表している。この破線に示すように、圧延材の速度変化を速度パターンに組み込まないと、部位64の速度は一定のままとなる。従って、部位64の温度が予期しない温度域に移行してしまう。
【0078】
<実施の形態1の温度制御による効果>
図11は、本発明の実施の形態1の温度制御による効果を説明する図である。
図11に示すCT計測値、CT直下板厚、CT直下速度、Total流量、およびFB流量は、
図5で説明した通りである。
【0079】
図5と
図11を比較すると分かるように、本実施の形態1の温度制御では、Timing 1以前からTotal流量が増加し始め、尚且つ、Timing 2以降はTotal流量が大幅に減少している。これは、圧延材の速度変化を速度パターンに組み込んだフィードフォワード制御がTiming 1以前から実施されているからである。故に、
図11においてはFB流量がほとんど変わらず、板厚変更点が仕上ミルを通過する間もフィードフォワード制御によってTotal流量が調整される。そして、このようなTotal流量の調整により、上限と下限の間にCT計測値が制御される。
【0080】
以上、本実施の形態1に係る温度制御装置によれば、巻取機前温度計28の位置におけるストリップの温度、即ち、巻取機20による巻取り直前のストリップの温度を、高い精度で許容範囲内に制御することができる。
【0081】
なお、上記実施の形態1においては、仕上ミル16が本発明の「ミル」に相当する。また、冷却装置32および34が本発明の「熱交換装置」に相当する。また、仕上ミル出側温度計26および巻取機前温度計28が本発明の「下流側温度計」に相当する。また、仕上ミル出側温度計26が「下流側温度計」に相当するときの仕上ミル入側温度計24が、本発明の「上流側温度計」に相当する。また、巻取機前温度計28が「下流側温度計」に相当するときの仕上ミル出側温度計26が、本発明の「上流側温度計」に相当する。
【0082】
<実施の形態1の変形例>
ところで、上記実施の形態1の温度制御においては、フィードフォワード制御の制御対象を
図1に示した冷却装置32および34として、これらの冷却装置からの冷却水量を制御した。しかし、フィードフォワード制御の制御対象を減らして冷却装置34のみとしてもよい。この場合は、仕上ミル出側温度計26からの温度計測値と、最新の速度パターンに基づき、冷却装置34からの冷却水量のみをフィードフォワード制御すればよい。反対に、フィードフォワード制御の制御対象を増やして熱交換装置30を加えてもよい。この場合は、粗ミル出側温度計22からの温度計測値と、最新の速度パターンに基づき、熱交換装置30からの冷却水量または加熱量をフィードフォワード制御すればよい。
【0083】
上記実施の形態1の温度制御は、巻取機20による巻取り直前におけるストリップの温度を許容範囲内に制御することを目的としている。そのため、巻取機20の直上流に位置する冷却装置34からの冷却水量を少なくともフィードフォワード制御する態様であれば、上記目的を達成できる。従って、少なくとも冷却装置34からの冷却水量をフィードフォワード制御する限りにおいて、上記実施の形態1の温度制御は各種の変形が可能である。
【0084】
また、上記実施の形態1の温度制御においては、巻取機20による巻取り直前のストリップの温度を許容範囲内に制御した。しかし、許容範囲内に制御する圧延材の温度は、巻取機20による巻取り直前の温度に限られない。即ち、仕上ミル16の出側におけるストリップの温度を許容範囲に制御してもよい。仕上ミル16の入側における粗バーの温度を許容範囲に制御してもよい。
【0085】
仕上ミル16の出側におけるストリップの温度を許容範囲に制御する場合、冷却装置32からの冷却水量を少なくともフィードフォワード制御すればよい。
図12は、仕上ミル16の出側におけるストリップの温度を許容範囲に制御する温度制御の一例を説明する図である。
図13は、
図12に示すTiming 1〜3を説明する図である。
【0086】
図12に示すFDT計測値は、
図13に示す仕上ミル出側温度計26からの温度計測値を表している。FDT直下板厚は、仕上ミル出側温度計26の直下におけるストリップの板厚を表している。FDT直下速度は、仕上ミル出側温度計26の直下におけるストリップの速度を表している。Total流量は、
図13に示す冷却装置32から供給する冷却水の総流量を表している。
【0087】
図13に示すように、Timing 1では、第1スタンドF1の位置に板厚変更点54がある。Timing 2では、第5スタンドF5の出側まで板厚変更点54が移動してきている。Timing 3では、仕上ミル出側温度計26の直下まで板厚変更点54が移動してきている。
【0088】
この変形例の温度制御では、Timing 1以前からTotal流量が増加し始め、尚且つ、Timing 2以降はTotal流量が減少している。これは、圧延材の速度変化を速度パターンに組み込んだフィードフォワード制御がTiming 1以前から実施されているからである。故に、
図12においてはFB流量(即ち、仕上ミル出側温度計26の温度計測値とその目標値との間の誤差に基づくフィードバック制御に基づく補正流量)がほとんど変わらず、板厚変更点が仕上ミルを通過する間もフィードフォワード制御によってTotal流量が調整される。そして、このようなTotal流量の調整により、上限と下限の間にFDT計測値が制御される。
【0089】
仕上ミル16の入側における粗バーの温度を許容範囲に制御する場合は、熱交換装置30からの冷却水量または加熱量をフィードフォワード制御すればよい。
図14は、仕上ミル16の入側における粗バーの温度を許容範囲に制御する温度制御の一例を説明する図である。
図15は、
図14に示すTiming 1〜3を説明する図である。
【0090】
図14に示すFET計測値は、
図15に示す仕上ミル入側温度計24(Finishing mill Entry Thermometer)からの温度計測値を表している。FET直下板厚は、仕上ミル入側温度計24の直下における粗バーの板厚を表している。FET直下速度は、仕上ミル入側温度計24の直下における粗バーの速度を表している。Total加熱量は、
図15に示す熱交換装置30から供給する熱量を表している。
【0091】
図15に示すように、Timing 1では、第1スタンドR1の位置に板厚変更点54がある。Timing 2では、第3スタンドR3の出側まで板厚変更点54が移動してきている。Timing 3では、仕上ミル入側温度計24の直下まで板厚変更点54が移動してきている。
【0092】
この変形例の温度制御では、Timing 1以前からTotal加熱量が減少し始め、尚且つ、Timing 2以前でTotal加熱量が一定に保たれる。これは、粗バーの速度変化を速度パターンに組み込んだフィードフォワード制御がTiming 1以前から実施されているからである。故に、
図14においてはFB加熱量(即ち、仕上ミル入側温度計24の温度計測値とその目標値との間の誤差に基づくフィードバック制御に基づく補正加熱量)がほとんど変わらず、板厚変更点が粗ミルを通過する間もフィードフォワード制御によってTotal加熱量が調整される。そして、このようなTotal加熱量の調整により、上限と下限の間にFET計測値が制御される。
【0093】
実施の形態2.
次に、
図16乃至
図17を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。尚、上記実施の形態1の内容と重複する説明については適宜省略する。
【0094】
<温度制御装置の構成>
図16は、本発明の実施の形態2に係る温度制御装置の構成の一例を説明するブロック図である。
図16に示す温度制御装置は、設定計算機能40、温度制御機能42、ギャップ変更機能44、速度調整機能46、および、トラッキング機能48を、主な機能として備えている。これらの機能については、
図2で説明した通りである。
【0095】
本実施の形態2に係る温度制御装置は、設定計算機能40がスケジュール調整機能40dを備える点において、上記実施の形態1に係る温度制御装置と異なる。
【0096】
スケジュール調整機能40dは、速度変化量計算機能40bにおいて計算した速度変化量に基づいて算出される圧延材の速度変化率が閾値を超えるか否かを、スタンド毎に判定する機能である。スケジュール調整機能40dは、速度変化率が閾値を超えると判定された場合、判定に係るスタンドでの圧延材の板厚の変更量を減らす機能でもある。
【0097】
スケジュール調整機能40dは、各スタンドの圧下率が許容範囲内にあるか否かを判定する機能でもある。スケジュール調整機能40dは、判定に係るスタンドの圧下率が許容範囲外にあると判定された場合、そのスタンドの圧下率を上限値または下限値に変更する機能でもある。
【0098】
スケジュール調整機能40dは、各スタンドでの圧延材の板厚の変更量の調整、および、各スタンドの圧下率の調整の結果、最終スタンドの出側におけるストリップの板厚が目標値を達成できない場合、板厚スケジュールをリセットし、板厚変更時間を変更した上で、速度変化率と圧下率に関する判定を再度行う機能でもある。
【0099】
<実施の形態2の温度制御の特徴>
図17は、本発明の実施の形態2に係る温度制御装置がスケジュール調整に関する動作を行うときの処理の一例を説明するフローチャートである。尚、
図17に示すルーチンにおいて、カウンタの初期値は0に設定されている。
【0100】
図17に示すルーチンにおいて、温度制御装置は、先ず、スタンドiの初期値i=1を入力し(ステップS30)、スタンドi(1≦i≦n)での圧延材の速度変化率Δα(i)を計算する(ステップS32)。速度変化率Δα(i)は、式(8)の変数をkからiに置き換えた式と、板厚変更時間t
FGCと、を用いて下記式(9)により表される。
Δα(i)=Δv(i)/t
FGC -(9)
Δv(i)=v(i)
A(j)-v(i)
A(j-1)
v(i)
A(j):板厚変更点がスタンドj(i≦j≦n)とスタンドj+1の間にあるタイミングにおいて、スタンドiの出側における圧延材の速度[m/s]
v(i)
A(j-1):板厚変更点がスタンドj-1とスタンドjの間にあるタイミングにおいて、スタンドkの出側における圧延材の速度[m/s]
【0101】
ステップS32に続き、温度制御装置は、圧延材の速度変化率(即ち、圧延材の加速率または減速率)Δα(i)の絶対値abs(Δα(i))が、閾値Δα
threを超えるか否かを判定する(ステップS34)。
【0102】
ステップS34において、abs(Δα(i))>Δα
threが成立すると判定された場合、温度制御装置は、Δα(i)の値に応じ、下記式(10)または下記式(11)を用いてスタンドiの出側における板厚の目標値h(i)
Bを修正する(ステップS36)。また、温度制御装置は、下記式(12)を用いて板厚変更時間t
FGCの最適値t
FGCoptを算出する。
h(i)
B=h(i)
A/{(h(i-1)
A/h(i-1)
B)+(t
FGC*Δα
thre/v(n)
A(j))}(Δα(i)>0の場合) -(10)
h(i)
B=h(i)
A/{(h(i-1)
A/h(i-1)
B)-(t
FGC*Δα
thre/v(n)
A(j))}(Δα(i)<0の場合) -(11)
t
FGCopt(i)=Δv(i)/Δα
thre -(12)
【0103】
ステップS36に続き、温度制御装置は、スタンドiの圧下率γ(i)が許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップS38)。ステップS38において、圧下率γ(i)は、以下のように計算される。
γ(i)=(h(i-1)
B-h(i)
B)/h(i-1)
B -(13)
許容範囲は、事前に定めたスタンドiの圧下率の上限γ(i)
highおよび下限γ(i)
lowで規定される。式(13)から算出した圧下率γ(i)が許容範囲内であると判定された場合、温度制御装置は、ステップS40の処理に進む。
【0104】
一方、ステップS38において、式(13)から算出した圧下率γ(i)が許容範囲外であると判定された場合、温度制御装置は、下記式(14)または式(15)を用いて、スタンドiの出側における板厚の目標値h(i)
Bを修正する(ステップS42)。
h(i)
B=h(i)
B*(1-γ(i)
high)(γ(i)>γ(i)
highの場合) -(14)
h(i)
B=h(i)
B*(1-γ(i)
low)(γ(i)<γ(i)
lowの場合) -(15)
【0105】
ステップS40において、温度制御装置は、スタンドiの値をi+1に更新する。続いて、温度制御装置は、現在のスタンドiの値についてi=nが成立するか否かを判定する(ステップS44)。i=nが成立しないと判定された場合、温度制御装置は、ステップS32の処理に戻る。
【0106】
ステップS44の判定において、i=nが成立すると判定された場合、温度制御装置は、最終スタンドnの出側におけるストリップの板厚h(n)
Bが目標値を達成するか否かを判定する(ステップS46)。温度制御装置は、板厚h(n)
Bと目標値の差が閾値未満であるか否かを判定し、目標値の達成の有無を判定する。この差が閾値以上であると判定された場合、温度制御装置は、板厚スケジュールを一旦リセットする(ステップS48)。差が閾値未満であると判定された場合、温度制御装置は、本ルーチンを抜ける。
【0107】
ステップS48に続き、温度制御装置は、カウンタの値が0であるか否かを判定する(ステップS50)。カウンタの値が0であると判定された場合、温度制御装置は、カウンタの値を0から1に変更し、下記式(16)を用いて板厚変更時間t
FGCを変更する(ステップS52)。
t
FGC=max(t
FGCopt(1),t
FGCopt(2),…,t
FGCopt(n),t
FGCmaxlmt) -(16)
板厚変更時間t
FGCの変更後、温度制御装置は、ステップS30の処理に戻る。一方、ステップS50において、カウンタの値が0でないと判定された場合、温度制御装置は、本ルーチンを抜ける。
【0108】
以上、
図17に示したルーチンによれば、スタンドiの速度変化率Δα(i)と閾値との比較に基づいて、スタンドiでの圧延材の板厚の変更量を調整することができる。また、スタンドiの圧下率γ(i)と許容値との比較に基づいて、圧下率γ(i)を調整することもできる。更に、最終スタンドnの出側におけるストリップの板厚h(n)
Bと閾値との比較に基づいて、速度変化率Δα(i)と圧下率γ(i)に関する判定を再度行うこともできる。従って、各スタンドでの速度変化率と圧下率を適切な範囲に収めて、走間板厚変更に伴う圧延材の速度の変化が急峻になることを抑えることができる。従って、温度制御装置による温度制御の精度をより一層高めることができる。