(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記カバーは、上記各側壁の上記上縁部に密着し、相対的に厚肉な厚肉部と、上下方向視において上記厚肉部に囲まれ、相対的に薄肉でガス透過性を有する薄肉部と、を有する、請求項1に記載の培養容器輸送用セット。
上記収納容器は、底板、およびこの底板から起立する側板によって構成される収納部を有するベース部材と、上記ベース部材の開口を塞ぐための蓋体と、可撓性を有する材料で形成されたリング状のパッキン部材と、を備え、
上記ベース部材および上記蓋体の少なくともいずれか一方には、上記ベース部材と上記蓋体とにより上記パッキン部材が挟まれた状態で上記ベース部材と上記蓋体との相対移動を阻止する係止手段が設けられている、請求項1ないし6のいずれかに記載の培養容器輸送用セット。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0025】
図1〜
図5は、本発明に係る培養容器輸送用セットの第1実施形態を示している。本実施形態の培養容器輸送用セットA1は、培養容器1と、カバー2と、押さえ部材3と、クッション材4と、雰囲気調整剤5と、収納容器6とを備えている。詳細は後述するが、
図1、
図3〜
図5は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、クッション材4を重ね合わせたアセンブリ状態を示す。
図2は、培養容器輸送用セットA1の構成部材を分解した状態の斜視図である。
【0026】
本実施形態において、培養容器1は、シャーレ(受皿)に相当するものであり、底壁11と、この底壁11の周縁から起立する円筒状の側壁12によって構成された1つの容器部13を有する。この容器部13(培養容器1)は、培養細胞や培地を収容するためのものである。培養容器1は、例えば透明プラスチック材料により形成されている。透明プラスチック材料としては、例えば医療用プラスチックとして一般的なポリスチレンやメチルペンテンのほか、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーなどの、好適には透明性を有する材料が用いられるが、これらに限定されない。なお、容器部13において接着性細胞を培養する場合を考慮して、細胞を付着させる培養面(底壁11の上面)に例えばコロナ放電やプラズマ放電による親水化処理を施してあってもよい。
【0027】
カバー2は、容器部13の上から被せて当該容器部13の開口を塞ぐものである。カバー2は、可撓性、弾力性を有する素材によって構成されている。また、カバー2は、好ましくは自己粘着性を有する。カバー2を構成する素材としては、例えば、シリコーンゴム、天然ゴム、ウレタンゴム、エラストマー樹脂などが挙げられ、シリコーンゴムが好ましい。カバー2と培養容器1の内容物(培養細胞や培地)との接触を考慮すると、カバー2の素材としては、細胞毒性が無く、かつ生体適合性を有する医療用シリコーンゴムがより好ましい。また、カバー2の硬さについては、例えばゴム硬度が20度〜40度程度であるのが好ましい。
【0028】
カバー2は、例えばゴム成形品であり、
図2、
図4、
図5に示すように、平板状の環状部21と、環状部21の外周部から垂れ下がる外側円筒部22と、環状部21の内周縁から垂れ下がる内側円筒部23と、内側円筒部23の下端を塞ぐ底部24とを有する。
【0029】
環状部21は、側壁12の上縁部121に密着しており、側壁12の径方向外側から径方向内側に跨るように配される。環状部21は、適度な厚さを有し、上下方向の荷重に対して適度な弾性復元力を有する。環状部21の厚さは、例えば1〜3mm程度である。環状部21は、本発明で言う厚肉部に相当する。環状部21が適度な厚さを有し、また弾性復元力を有することにより、環状部21は、注射針の突き刺し孔を塞ぐ再シール性を有する。また、本実施形態においては、環状部21の一部が径方向内方に張り出しており、張出し部211とされている。
【0030】
図4、
図5に示すように、内側円筒部23および底部24は、容器部13における側壁12の内側に収まっており、上下方向において容器部13の底壁11に向かって突き出ている。これら内側円筒部23および底部24は、本発明で言う突出部に相当する。
【0031】
図4、
図5に示すように、本実施形態において、底部24の中央には薄肉部241が設けられている。薄肉部241は、他の部位に比べて厚さが薄くされた部分であり、フィルム状である。薄肉部241の厚さは、例えば0.2〜0.3mm程度である。この薄肉部241は、ガス透過性を有する。薄肉部241は、上下方向視において環状部21に囲まれている。
【0032】
図4、
図5に示すように、押さえ部材3は、カバー2の上に積載されており、例えばポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどの硬質な合成樹脂材料からなる。本実施形態において、押さえ部材3は、一定厚さを有する平板状であり、外形が円形をなしている。押さえ部材3の径方向中央には、厚さ方向(上下方向)に貫通する貫通孔31が形成されている。この貫通孔31は、上下方向視において側壁12の内側に位置し、カバー2の薄肉部241に通じている。
【0033】
図4、
図5によく表れているように、押さえ部材3の下面301は平面とされている。アセンブリ状態において、カバー2の環状部21は押さえ部材3の下面301に密着している。
【0034】
図2に示したクッション材4は、形状復元性を有しており、例えば三次元立体構造の網状体である。当該三次元立体構造網状体は、例えば熱可塑性弾性樹脂からなる多数の線条がランダムに屈曲し、且つ上記線条どうしの接触部が融着されてなるものである。
図2に示すように、クッション材4は、自然状態においては、所定寸法の概略直方体形状で区切られた空間(同図において仮想線で表しており、以下、クッション材形成空間40という)に形成されている。クッション材形成空間40においてクッション材4自体が占める占有体積は比較的小さい。クッション材形成空間40の厚さ方向寸法は、例えば20〜30mm程度である。
【0035】
クッション材4は、外部から荷重を受けることで圧縮されるとともに弾性復元力が生ずる。そして、外部からの荷重を解放すると、クッション材4は元の自然状態に戻る。クッション材4は、クッション材形成空間40における厚さ方向に圧縮することで当該クッション材形成空間40の厚さ方向寸法が25〜30%程度(例えば5〜10mm程度)に圧縮することができる。
【0036】
収納容器6は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、クッション材4、および雰囲気調整剤5を密閉状態で収納するものである。
図2、
図4、
図5に示すように、収納容器6は、ベース部材61と、蓋体62と、パッキン部材63と、を備える。
【0037】
ベース部材61は、底板611、側板612、仕切板613、および係止板614を有する。本実施形態において、底板611は、平面視において概略矩形状の板状である。側板612は、底板611の外周縁から起立しており、平面視において略矩形環状をなす。なお、
図4、
図5に示すように、ベース部材61の深さ(側板612の高さ寸法)は、培養容器1の高さ寸法と同程度または当該培養容器1の高さ寸法よりも小さくされている。仕切板613は、底板611から起立しており、平面視において略矩形環状をなす。仕切板613は、側板612から所定の距離を隔てた内側に形成されている。本実施形態において、底板611、側板612および仕切板613で囲まれた環状空間は、後述するパッキン部材63の収容空間となっている。係止板614は、側板612の上端から外側に延びており、後述の蓋体62に取り付けられた回動部624を係止する部分である。
図2等に示すように、本実施形態において、係止板614は、平面視において略矩形状をなす側板612の各辺に対応する4箇所に設けられている。
【0038】
図2、
図4、
図5に示すように、パッキン部材63は、略矩形状の横断面形状を有し、平面視において略矩形環状をなす。パッキン部材63は、所定の弾性復元性を有するゴム材料により構成されている。パッキン部材63は、ベース部材61における、底板611、側板612および仕切板613で囲まれた環状空間に装着されている。
【0039】
蓋体62は、ベース部材61の開口を塞ぐものであり、天井板621、側板622、支持部623、および回動部624を有する。天井板621は、平面視において概略矩形状の板状である。側板612は、底板611の外周縁から垂れ下がっており、平面視において略矩形環状をなす。また、側板612は、平面視において、ベース部材61に装着されたパッキン部材63全体と重なり得る。
【0040】
支持部623は、回動部624を回動可能に支持するものであり、側板622の外面に設けられている。本実施形態において、支持部623は、平面視において略矩形状をなす側板622の各辺に対応する4箇所に設けられている。
【0041】
回動部624は、支持部623に取り付けられており、所定の回動軸O1回りに回動可能である。回動部624は、例えば金属製の線材を屈曲させて形成されたものである。回動部624は、支持部623に対応した4箇所に取り付けられている。なお、上記のベース部材61および蓋体62は、それぞれ、例えば比較的硬質な合成樹脂材料により一体形成される。
【0042】
図4、
図5によく表れているように、上記構成の収納容器6は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3およびクッション材4を重ね合わせたアセンブリ状態でこれらを収納可能である。このアセンブリ状態において、蓋体62に設けられた複数の回動部624がベース部材61に設けられた係止板614に係止されている。このとき、ベース部材61と蓋体62とによりパッキン部材63が挟まれて圧縮された状態にあり、パッキン部材63の弾性復元力によって蓋体62(天井板621)が上方に付勢される。ここで、収納容器6の内部空間は外部に対して密閉された状態にある。また、
図4、
図5に示した状態においては、底板611の上面と天井板621の下面との間の距離が一定値になり、ベース部材61と蓋体62との相対移動が阻止される。本実施形態においては、係止板614および回動部624を用いてベース部材61および蓋体62を密閉状態で組み付けることが可能であり、組み付け時には底板611と天井板621との離間寸法が固定される。係止板614および回動部624は、本発明で言う係止手段を担う。なお、係止手段の構成はこれに限定されない。例えば金属線材からなる回動部624に代えて、薄肉状部分を介して蓋体として一体形成されたヒンジ部を設け、当該ヒンジ部が上記薄肉状部分を回動軸として回動可能となるように構成してもよい。
【0043】
また、
図4、
図5に示した収納容器6において、底板611の上面から天井板621の下面までの距離は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3およびクッション材4を自然に積み重ねたときのこれらの高さ寸法よりも小さくされている。底板611(ベース部材61)の上に培養容器1、カバー2、押さえ部材3およびクッション材4を自然に積み重ね、その上から蓋体62を被せて押さえつけてベース部材61および蓋体62を組み付けると、
図4、
図5等に示すように、クッション材4が圧縮変形する。ここで、クッション材4の弾性復元力により、積層された培養容器1、カバー2、押さえ部材3は、高さ方向において互いに押圧された状態にある。そして、このとき、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、クッション材4は、互いが積層されたアセンブリ状態で底板611(ベース部材61)および天井板621(蓋体62)によって上下から押圧されており、収納容器6によって一体的に保持される。
【0044】
雰囲気調整剤5は、収納容器6の内部空間のガスについて、所定のガス成分の濃度を調整するためのものである。雰囲気調整剤5は、例えばアスコルビン酸類を含み、酸素濃度および二酸化炭素濃度を調整可能である。雰囲気調整剤5は、使用前において袋内に封入されており、当該袋を開封した後に収納容器6内に収納することにより、収納容器6内のガス濃度を調整することができる。雰囲気調整剤5を用いることにより、収納容器6のガス濃度について、例えば、酸素濃度が5〜10容量%程度、二酸化炭素濃度が5〜10%容量程度に調整される。雰囲気調整剤5を用いる場合において、収納容器6内の酸素濃度や二酸化炭素濃度は、収納容器6の内部空間の容積に応じて変化しうる。
【0045】
次に、培養容器輸送用セットA1の使用方法および作用について説明する。
【0046】
培養容器輸送用セットA1は、培養細胞あるいは生体組織や培地を培養容器1(容器部13)に収容し、培養状態を維持しながら輸送(培養状態維持輸送)するのに使用される。容器部13に収容される培養細胞、生体組織や培地については、特に限定されるものではない。
【0047】
培養細胞として例えばiPS細胞などの接着性細胞が用いられる場合、当該接着性細胞は、必要量の培地で覆われた培養面(底壁11の上面)に付着した状態で増殖する。接着性細胞を培養状態維持輸送する際、培地が波打つことによって底壁11に付着した細胞が剥がれるのを防止するため、容器部13内全体に培地を満たして培地の動きを抑える必要がある。
【0048】
容器部13に培地を収容する手順の一例について
図6、
図7を参照して説明する。まず、
図6に示すように、容器部13に適当量の培地M1を入れ、カバー2を被せる。ここで、培地は、カバー2の突出部(内側円筒部23および底部24)によって押し退けられ、培地M1の液面は側壁12の上端より少し下方に位置する。そして、容器部13においてカバー2に覆われた収容空間には、僅かな空隙部が残る。次に、
図7に示すように、注射器S1を用いて上記収容空間に培地M1を注入する。培地M1の注入は、環状部21(張出し部211)に注射針N1を突き刺して行う。
【0049】
その後、押さえ部材3、クッション材4を被せ、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4を収納容器6の内部に収納する。これにより、培養状態維持輸送の際、
図5に示すように容器部13が培地M1で満たされる。ここで、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4は、アセンブリ状態で収納容器6(ベース部材61および蓋体62)により上下から押圧保持されている。これにより、容器部13に収容された内容物(培養細胞や培地)は、カバー2によって液封されている。したがって、培養状態維持輸送の際、振動等によって内容物が溢れることはない。
【0050】
本実施形態のカバー2においては、内側円筒部23および底部24が側壁12の内側において底壁11に向かって突き出ている。このような構成によれば、容器部13における培地等の収容空間が減じられている。したがって、培養状態維持輸送に際し、培地M1の使用量の削減を図ることができる。
【0051】
また、上記したように、カバー2の環状部21は、注射針N1の突き刺し孔を塞ぐ再シール性を有する。また、アセンブリ状態において、環状部21は押さえ部材3の下面301に密着している。これにより、培養容器輸送用セットA1の輸送時において、上記突き刺し孔から内容物(培地等)が漏洩することはない。
【0052】
カバー2の環状部21は側壁12の上縁部121に密着している。また、カバー2は、ガス透過性を有する薄肉部241を有する。上記薄肉部241は、上下方向視において環状部21に囲まれている。このため、容器部13の内容物について、当該容器部13の外部であって収納容器6の内部空間との通気状態が維持される。したがって、本実施形態によれば、輸送時において、容器部13の内容物について通気状態での培養を行うことができる。
【0053】
押さえ部材3には、上下方向視において側壁12の内側に位置する貫通孔31が設けられている。このような構成によれば、カバー2の上に積載する押さえ部材3によって薄肉部241が塞がれることはなく、容器部13について外部との通気状態を確保するのに適する。
【0054】
本実施形態の培養容器輸送用セットA1は、収納容器6の内部のガス濃度を調整可能な雰囲気調整剤5を備えている。このような構成によれば、上記のように容器部13について外部(収納容器6の内部空間)との通気状態を維持しながら、所定のガス環境下での培養状態維持輸送が可能となる。
【0055】
本実施形態において、クッション材4は三次元立体構造の網状体であり、クッション材4自体が占める占有体積は比較的小さい。このような構成のクッション材4によれば、上記したクッション材形成空間40の大きさ(容積)に対して重量が小さく、クッション材4の軽量化を図ることができる。また、雰囲気調整剤5により収納容器6の内部のガス濃度を調整する場合、クッション材4の占有体積が小さいことにより、当該クッション材4の占有が収納容器6内のガス濃度に与える影響を抑制することができる。
【0056】
収納容器6は、ベース部材61、蓋体62およびパッキン部材63を備え、ベース部材61と蓋体62とによりパッキン部材63が挟まれた状態でベース部材61と蓋体62との相対移動が阻止される。このような構成によれば、ベース部材61の底板611と蓋体62の天井板621との間の距離を一定値に固定することができる。したがって、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4をアセンブリ状態で収納容器6に収納することで、これら培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4が収納容器6によって一定の押圧力で保持されることとなり、収納容器6による押圧状態が安定する。
【0057】
培養容器輸送用セットA1を輸送した後、収納容器6の回動部624の係止板614への係止を解除し、蓋体62をベース部材61から取り外すと、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4を容易に分解することができる。即ち、アセンブリ状態の培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4は互いに重なり合っているだけであるので、上から順にクッション材4、押さえ部材3、カバー2をスムーズに外すことが可能である。したがって、培養容器1からカバー2を外す際、培養容器1(容器部13)の内容物が溢れるといった不都合は防止される。
【0058】
また、本実施形態において、ベース部材61の深さ(側板612の高さ寸法)は、培養容器1の高さ寸法と同程度または当該培養容器1の高さ寸法よりも小さくされている。このような構成によれば、
図8に示した、ベース部材61の底板611に置かれた培養容器1を取り出す際、培養容器1の側壁12を掴んで容易に持ち上げることができる。したがって、収納容器6から培養容器1を取り出す際に、培養容器1(容器部13)の内容物が溢れるといった不都合は防止される。
【0059】
図9〜
図12は、本発明に係る培養容器輸送用セットの第2実施形態を示している。なお、
図9以降の図においては、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0060】
図9に示した培養容器輸送用セットA2は、培養容器1と、カバー2と、押さえ部材3と、クッション材4と、雰囲気調整剤5と、収納容器6とを備えている。
図10〜
図12は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、クッション材4を重ね合わせたアセンブリ状態を示す。
図9は、培養容器輸送用セットA2の構成部材を分解した状態の斜視図である。本実施形態において、培養容器1は、いわゆるウェルプレートに相当するものであり、複数(本実施形態では6つ)の容器部13としてのウェルを有する。複数の容器部13は、各々、共通の長矩形状の底壁11と、この底壁11の適所から起立する円筒状の側壁12によって構成されている。
【0061】
カバー2は、例えばゴム成形品であり、
図9、
図11、
図12に示すように、概略長矩形状の平板部21’と、平板部21’の外周部から垂れ下がる外側筒部22’と、複数ずつの内側円筒部23および底部24とを有する。
【0062】
平板部21’は、側壁12の上縁部121に密着しており、側壁12の径方向外側から径方向内側に跨るように配される。平板部21’は、適度な厚さを有し、上下方向の荷重に対して適度な弾性復元力を有する。平板部21’の厚さは、例えば1〜3mm程度である。平板部21’は、本発明でいう厚肉部に相当する。平板部21’が適度な厚さを有し、また弾性復元力を有することにより、平板部21’は、注射針の突き刺し孔を塞ぐ再シール性を有する。また、本実施形態においては、平板部21’の一部が内側円筒部23の径方向内方に張り出しており、張出し部211’とされている。
【0063】
図11、
図12に示すように、内側円筒部23および底部24は、各容器部13における側壁12の内側に収まっており、上下方向において容器部13の底壁11に向かって突き出ている。これら内側円筒部23および底部24は、本発明でいう突出部に相当する。
【0064】
図11、
図12に示すように、本実施形態において、底部24の中央には薄肉部241が設けられている。薄肉部241は、フィルム状であり、ガス透過性を有する。各薄肉部241は、上下方向視において平板部21’に囲まれている。
【0065】
図11、
図12に示すように、押さえ部材3は、カバー2の上に積載されている。本実施形態において、押さえ部材3は、一定厚さを有する平板状であり、外形が略矩形状をなしている。押さえ部材3の適所には、厚さ方向(上下方向)に貫通する複数の貫通孔31が形成されている。これら貫通孔31は、各々、上下方向視において側壁12の内側に位置し、カバー2の薄肉部241に通じている。
【0066】
図11、
図12によく表れているように、押さえ部材3の下面301は平面とされている。アセンブリ状態において、カバー2の平板部21’は押さえ部材3の下面301に密着している。
【0067】
クッション材4、収納容器6、および雰囲気調整剤5は、それぞれ上記第1実施形態におけると実質的に同一であるので、これらの各部の説明は省略する。なお、
図11、
図12に示すように、収納容器6におけるベース部材61の深さ(側板612の高さ寸法)は、培養容器1の高さ寸法よりも小さくされている。
【0068】
図11、
図12によく表れているように、収納容器6は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3およびクッション材4を重ね合わせたアセンブリ状態でこれらを収納可能である。このアセンブリ状態において、蓋体62に設けられた複数の回動部624がベース部材61に設けられた係止板614に係止されている。このとき、ベース部材61と蓋体62とによりパッキン部材63が挟まれて圧縮された状態にあり、パッキン部材63の弾性復元力によって蓋体62(天井板621)が上方に付勢される。ここで、収納容器6の内部空間は外部に対して密閉された状態にある。また、
図11、
図12に示した状態においては、底板611の上面と天井板621の下面との間の距離が一定値になり、ベース部材61と蓋体62との相対移動が阻止される。本実施形態においては、係止板614および回動部624を用いてベース部材61および蓋体62を密閉状態で組み付けることが可能であり、組み付け時には底板611と天井板621との離間寸法が固定される。係止板614および回動部624は、本発明で言う係止手段を担う。
【0069】
また、
図11、
図12に示した収納容器6において、底板611の上面から天井板621の下面までの距離は、培養容器1、カバー2、押さえ部材3およびクッション材4を自然に積み重ねたときのこれらの高さ寸法よりも小さくされている。底板611(ベース部材61)の上に培養容器1、カバー2、押さえ部材3およびクッション材4を自然に積み重ね、その上から蓋体62を被せて押さえつけてベース部材61および蓋体62を組み付けると、
図11、
図12等に示すように、クッション材4が圧縮変形する。ここで、クッション材4の弾性復元力により、積層された培養容器1、カバー2、押さえ部材3は、高さ方向において互いに押圧された状態にある。そして、このとき、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、クッション材4は、互いが積層されたアセンブリ状態で底板611(ベース部材61)および天井板621(蓋体62)によって上下から押圧されており、収納容器6によって一体的に保持される。
【0070】
次に、培養容器輸送用セットA2の使用方法および作用について説明する。
【0071】
培養容器輸送用セットA2は、培養細胞あるいは生体組織や培地を培養容器1(容器部13)に収容し、培養状態を維持しながら輸送(培養状態維持輸送)するのに使用される。容器部13に収容される培養細胞、生体組織や培地については、特に限定されるものではない。
【0072】
培養細胞として例えばiPS細胞などの接着性細胞が用いられる場合、当該接着性細胞は、必要量の培地で覆われた培養面(底壁11の上面)に付着した状態で増殖する。接着性細胞を培養状態維持輸送する際、培地が波打つことによって底壁11に付着した細胞が剥がれるのを防止するため、容器部13内全体に培地を満たして培地の動きを抑える必要がある。
【0073】
容器部13に培地を収容する手順は、上記実施形態の培養容器輸送用セットA1に関して
図6、
図7を参照して説明したのと同様の方法で行うことができる。即ち、適当量の培地を入れた各容器部13にカバー2を被せた後、各容器部13においてカバー2に覆われた収容空間に注射器を用いて培地を注入する。培地の注入は、平板部21’ (張出し部211’)に注射針を突き刺して行う。
【0074】
次いで、押さえ部材3、クッション材4を被せ、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4を収納容器6の内部に収納する。これにより、培養状態維持輸送の際、
図12に示すように各容器部13が培地M1で満たされる。ここで、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4は、アセンブリ状態で収納容器6(ベース部材61および蓋体62)により上下から押圧保持されている。これにより、容器部13に収容された内容物(培養細胞や培地)は、カバー2によって液封されている。したがって、培養状態維持輸送の際、振動等によって内容物が溢れることはない。
【0075】
本実施形態のカバー2においては、内側円筒部23および底部24が側壁12の内側において底壁11に向かって突き出ている。このような構成によれば、容器部13における培地等の収容空間が減じられている。したがって、培養状態維持輸送に際し、培地M1の使用量の削減を図ることができる。
【0076】
また、上記したように、カバー2の平板部21’は、注射針N1の突き刺し孔を塞ぐ再シール性を有する。また、アセンブリ状態において、平板部21’は押さえ部材3の下面301に密着している。これにより、培養容器輸送用セットA2の輸送時において、上記突き刺し孔から内容物(培地等)が漏洩することはない。
【0077】
カバー2の平板部21’は側壁12の上縁部121に密着している。また、カバー2は、ガス透過性を有する薄肉部241を有する。上記薄肉部241は、上下方向視において平板部21’に囲まれている。このため、各容器部13の内容物について、当該容器部13の外部であって収納容器6の内部空間との通気状態が維持される。したがって、本実施形態によれば、輸送時において、各容器部13の内容物について通気状態での培養を行うことができる。
【0078】
押さえ部材3には、上下方向視において各側壁12の内側に位置する貫通孔31が設けられている。このような構成によれば、カバー2の上に積載する押さえ部材3によって薄肉部241が塞がれることはなく、容器部13について外部との通気状態を確保するのに適する。
【0079】
本実施形態の培養容器輸送用セットA2は、収納容器6の内部のガス濃度を調整可能な雰囲気調整剤5を備えている。このような構成によれば、上記のように各容器部13について外部(収納容器6の内部空間)との通気状態を維持しながら、所定のガス環境下での培養状態維持輸送が可能となる。
【0080】
クッション材4は三次元立体構造の網状体であり、クッション材4自体が占める占有体積は比較的小さい。このような構成のクッション材4によれば、上記したクッション材形成空間40の大きさ(容積)に対して重量が小さく、クッション材4の軽量化を図ることができる。また、雰囲気調整剤5により収納容器6の内部のガス濃度を調整する場合、クッション材4の占有体積が小さいことにより、当該クッション材4の占有が収納容器6内のガス濃度に与える影響を抑制することができる。
【0081】
収納容器6は、ベース部材61、蓋体62およびパッキン部材63を備え、ベース部材61と蓋体62とによりパッキン部材63が挟まれた状態でベース部材61と蓋体62との相対移動が阻止される。このような構成によれば、ベース部材61の底板611と蓋体62の天井板621との間の距離を一定値に固定することができる。したがって、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4をアセンブリ状態で収納容器6に収納することで、これら培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4が収納容器6によって一定の押圧力で保持されることとなり、収納容器6による押圧状態が安定する。
【0082】
培養容器輸送用セットA2を輸送した後、収納容器6の回動部624の係止板614への係止を解除し、蓋体62をベース部材61から取り外すと、培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4を容易に分解することができる。即ち、アセンブリ状態の培養容器1、カバー2、押さえ部材3、およびクッション材4は互いに重なり合っているだけであるので、上から順にクッション材4、押さえ部材3、カバー2をスムーズに外すことが可能である。したがって、培養容器1からカバー2を外す際、培養容器1(容器部13)の内容物が溢れるといった不都合は防止される。
【0083】
また、本実施形態において、ベース部材61の深さ(側板612の高さ寸法)は、培養容器1の高さ寸法よりも小さくされている。このような構成によれば、
図13に示した、ベース部材61の底板611に置かれた培養容器1を取り出す際、培養容器1の側壁12を掴んで容易に持ち上げることができる。したがって、収納容器6から培養容器1を取り出す際に、培養容器1(容器部13)の内容物が溢れるといった不都合は防止される。
【0084】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0085】
上記実施形態においては、カバーがゴムやエラストマー樹脂により構成される場合について説明したが、これに限定されない。カバー2は、例えば樹脂フィルムにより構成してもよい。当該樹脂フィルムは、例えば、不定形でガス透過性を有し、オレフィン配合ポリメチルペンテンやポリ塩化ビニリデンにより構成することができる。
【0086】
また、カバーは、比較的に厚さが大きい一定厚さのシート材によって構成してもよい。当該シート材はガス透過性を有さないが、比較的に短時間の輸送の場合、培養容器1の液封を安価なシート材によって担うことが可能である。したがって、コスト削減および構造の簡素化を図ることができる。
【0087】
なお、カバーとしてガス透過性を必要としないシート材を用いる場合、押さえ部材としては、製品としての培養容器1にセットされている蓋を用いてもよい。
図14、
図15は、そのようなカバー2および押さえ部材3の構成例を示す。
図14は培養容器1がシャーレの場合を示し、押さえ部材3については当該シャーレにセットされている蓋をそのまま使用することができる。
図15は培養容器1がウェルプレートの場合を示し、押さえ部材3については当該ウェルプレートにセットされている蓋をそのまま使用することができる。
【0088】
収納容器の内部に雰囲気調整剤を入れない場合、収納容器としては、外部に対して密閉されていない構成を採用してもよい。さらに、カバーについては、培養容器1の側壁12の上縁部121のみを覆う構成としてもよい。
図16は、そのようなカバー2の構成例を示す。同図に示したカバー2は、培養容器1における側壁12の上縁部121を覆うよう環状に形成され、押さえ部材3については、カバー2および培養容器1の上端開口全体を覆う平板状とされる。
【0089】
さらに、カバーがガス透過性を有する場合であっても、収納容器として密閉されていない容器を用いてもよい。収納容器が外部に対して通気性を有する場合、培養容器1を大気環境下での培養状態輸送が可能となる。
【0090】
上記実施形態においては、クッション材4が押さえ部材3と収納容器6(蓋体62)との間に介装される場合について説明したが、クッション材4は、収納容器6(ベース部材61)と培養容器1との間に介装させてもよい。また、例えばクッション材4に追加の板部材を重ね合わせるなどの手段により、クッション材4の圧縮度合を調整してもよい。
【0091】
なお、本発明の培養容器輸送用セットを利用して行う培養状態維持輸送の際、培養容器の容器部には内容物(培養細胞あるいは生体組織や培地)を収容する。当該内容物を収容した状態の培養容器輸送用セットからなるユニット(細胞・生体組織輸送用ユニット)についても、本発明の範囲である。