(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る液圧制御ユニットについて、図面を用いて説明する。
なお、以下では、本発明に係る液圧制御ユニットを含むブレーキシステムが、四輪車に搭載されている場合について説明しているが、本発明に係る液圧制御ユニットを含むブレーキシステムは、四輪車以外の他の車両(二輪車、トラック、バス等)に搭載されてもよい。また、以下で説明する構成、動作等は、一例であり、本発明に係る液圧制御ユニットを含むブレーキシステムは、そのような構成、動作等である場合に限定されない。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分には、同一の符号を付している、又は、符号を付すことを省略している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0016】
実施の形態.
以下に、本実施の形態に係るブレーキシステムを説明する。
<ブレーキシステムの構成及び動作>
本実施の形態に係るブレーキシステムの構成及び動作について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの、システム構成の例を示す図である。
【0017】
図1に示されるように、ブレーキシステム1は、車両100に搭載され、マスタシリンダ11とホイールシリンダ12とを連通させる主流路13と、主流路13のブレーキ液を逃がす副流路14と、副流路14にブレーキ液を供給する供給流路15と、有する液圧回路2を含む。液圧回路2には、ブレーキ液が充填されている。
【0018】
マスタシリンダ11には、ブレーキシステム1の入力部の一例であるブレーキペダル16と連動して往復動するピストン(図示省略)が内蔵されている。ブレーキペダル16とマスタシリンダ11のピストンとの間には、倍力装置17が介在しており、ピストンには、使用者の踏力が倍力されて伝達される。ホイールシリンダ12は、ブレーキキャリパ18に設けられている。ホイールシリンダ12のブレーキ液の液圧が増加すると、ブレーキキャリパ18のブレーキパッド19がロータ20に押し付けられて、車輪が制動される。
【0019】
副流路14の上流側端部は、主流路13の途中部13aに接続され、副流路14の下流側端部は、主流路13の途中部13bに接続されている。また、供給流路15の上流側端部は、マスタシリンダ11に連通し、供給流路15の下流側端部は、副流路14の途中部14aに接続されている。
ここで、副流路14の上流側端部が、本発明の第2上流側端部に相当する。副流路14の下流側端部が、本発明の第1下流側端部に相当する。主流路13の途中部13bが、本発明の第2途中部に相当する。
主流路13の途中部13aが、本発明の第3途中部に相当する。供給流路15の上流側端部が、本発明の第1上流側端部に相当する。供給流路15の下流側端部が、本発明の第2下流側端部に相当する。副流路14の途中部14aが、本発明の第1途中部に相当する。
【0020】
主流路13のうちの、途中部13bと途中部13aとの間の領域(途中部13bを基準とするホイールシリンダ12側の領域)には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路14のうちの、上流側端部と途中部14aとの間の領域には、弛め弁(AV)32が設けられている。副流路14のうちの、弛め弁32と途中部14aとの間の領域には、アキュムレータ33が設けられている。副流路14のうちの、途中部14aと下流側端部との間の領域には、ポンプ34が設けられている。ポンプ34の吸込側は、途中部14aに連通し、ポンプ34の吐出側は、副流路14の下流側端部に連通する。込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0021】
主流路13のうちの、途中部13bを基準とするマスタシリンダ側の領域には、第1切換弁(USV)35が設けられている。供給流路15には、第2切換弁(HSV)36と、ダンパユニット37と、が設けられている。ダンパユニット37は、供給流路15のうちの、第2切換弁36と下流側端部との間の領域に設けられている。第1切換弁35は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。第2切換弁36は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0022】
込め弁31と弛め弁32とアキュムレータ33とポンプ34と第1切換弁35と第2切換弁36とダンパユニット37とは、主流路13、副流路14、及び供給流路15を構成するための流路が内部に形成されている基体51に設けられている。各部材(込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33、ポンプ34、第1切換弁35、第2切換弁36及びダンパユニット37)が、1つの基体51に纏めて設けられていてもよく、また、複数の基体51に分かれて設けられていてもよい。
【0023】
少なくとも、基体51と、基体51に設けられている各部材と、制御器(ECU)52と、によって、液圧制御ユニット50が構成される。液圧制御ユニット50において、込め弁31、弛め弁32、ポンプ34、第1切換弁35、及び第2切換弁36の動作が制御器52によって制御されることで、ホイールシリンダ12のブレーキ液の液圧が制御される。すなわち、制御器52は、込め弁31、弛め弁32、ポンプ34、第1切換弁35、及び第2切換弁36の動作を司るものである。
【0024】
制御器52は、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。また、制御器52は、基体51に取り付けられていてもよく、また、他の部材に取り付けられていてもよい。また、制御器52の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。なお、本実施の形態では、制御器52の一部を制御基板で構成している。そして、当該制御基板は、ハウジングを介して基体51に取り付けられている。当該制御基板の基体51への取り付け構成については、後述する。
【0025】
制御器52は、例えば、周知の液圧制御動作(ABS制御動作、ESP制御動作等)に加えて、以下の液圧制御動作を実施する。
込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1切換弁35が開放され、且つ、第2切換弁36が閉鎖されている状態で、車両100のブレーキペダル16が操作された際に、ブレーキペダル16のポジションセンサの検出信号及び液圧回路2の液圧センサの検出信号から、液圧回路2の液圧の不足又は不足の可能性が検知されると、制御器52は、アクティブ増圧制御動作を開始する。
【0026】
アクティブ増圧制御動作において、制御器52は、込め弁31を開放状態のままにすることで、主流路13の途中部13bからホイールシリンダ12へのブレーキ液の流動を可能にする。また、制御器52は、弛め弁32を閉鎖状態のままにすることで、ホイールシリンダ12からアキュムレータ33へのブレーキ液の流動を制限する。また、制御器52は、第1切換弁35を閉鎖することで、マスタシリンダ11からポンプ34を介することなく主流路13の途中部13bに至る流路のブレーキ液の流動を制限する。また、制御器52は、第2切換弁36を開放することで、マスタシリンダ11からポンプ34を介して主流路13の途中部13bに至る流路のブレーキ液の流動を可能にする。また、制御器52は、ポンプ34を駆動させることで、ホイールシリンダ12のブレーキ液の液圧を増加させる。
【0027】
液圧回路2の液圧の不足の解消又は回避が検知されると、制御器52は、第1切換弁35を開放させ、第2切換弁36を閉鎖させ、且つ、ポンプ34の駆動を停止することで、アクティブ増圧制御動作を終了する。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの、システム構成の他の例を示す図である。
ブレーキシステム1は、
図2に示されるような、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1であってもよい。このような倍力装置17が省略されたブレーキシステム1の場合、使用者のブレーキペダル16の踏力は、倍力装置17で倍力されず、直接、マスタシリンダ11のピストンに伝達されることとなる。このため、使用者がブレーキペダル16を踏み込もうとした際、マスタシリンダ11のピストンを介して、ブレーキペダル16には、液圧回路2内のブレーキ液の液圧が反力として作用する。
【0029】
したがって、使用者がブレーキペダル16を踏み込んでからアクティブ増圧制御動作が開始されるまでの期間において、ブレーキペダル16に伝わる液圧回路2内のブレーキ液のこの反力により、使用者は、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と比べ、ブレーキペダル16を踏み込むことができない。つまり、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1の場合、使用者がブレーキペダル16を踏み込んでからアクティブ増圧制御動作が開始されるまでの期間において、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と比べ、ブレーキペダル16の踏み込み量が小さくなってしまう。
【0030】
このため、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1である場合には、ダンパユニット37が、供給流路15のうちの、上流側端部と第2切換弁36との間の領域に設けられているとよい。このような位置にダンパユニット37を設けることにより、使用者がブレーキペダル16を踏み込んだ際、ブレーキ液がダンパユニット37に流れ込むことができ、ブレーキペダル16に伝わる液圧回路2内のブレーキ液の反力が低減する。したがって、使用者がブレーキペダルを踏み込んだ際、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と同様のブレーキペダル16の踏み込み量が得られる。このため、使用者は、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1において、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と同様の使用感を得ることができる。
【0031】
ブレーキシステム1は、
図2に示されるように、副流路14のうちの、途中部14aと下流側端部との間の領域に、複数のポンプ34が並列に接続されているとよい。そのように構成されることで、個々のポンプ34からのブレーキ液の吐出量を低減することができる。また、ポンプ34のそれぞれのブレーキ液の吐出タイミングをずらすこともできる。このため、
図2のように複数のポンプ34を並列に接続して設けることにより、第2切換弁36が開いた状態でポンプ34が駆動されることで生じる脈動を抑制することができる。なお、
図1で示した倍力装置17を備えたブレーキシステム1において、
図2のように複数のポンプ34を並列に接続して設けても勿論よい。
【0032】
<ダンパユニットの詳細>
実施の形態に係るブレーキシステムのダンパユニットの詳細について説明する。
図3及び
図4は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの、ダンパユニットの搭載状態を示す部分断面図である。なお、
図3は、ダンパユニット37のカートリッジ60の内部空間にブレーキ液が流入していない状態を示している。また、
図4は、ダンパユニット37のカートリッジ60の内部空間にブレーキ液が流入している状態を示している。
【0033】
図3及び
図4に示されるように、基体51には、供給流路15の一部を構成する内部流路55が形成されている。つまり、内部流路55には、ブレーキ液が充填されている。この内部流路55は、基体51の側面51aに開口部55aを有している。そして、当該開口部55aにダンパユニット37が圧入されることにより、ダンパユニット37は基体51に取り付けられている。この際、ダンパユニット37は、後述のカートリッジ60の内部空間が内部流路55と連通するように、基体51に取り付けられる。なお、基体51へのダンパユニット37の取り付け構成は、圧入に限定されるものではない。開口部55aとダンパユニット37との間からブレーキ液が漏れ出さなければ、基体51へのダンパユニット37の取り付け構成は、任意である。例えば、カシメ又はネジ止め等により、基体51へダンパユニット37を取り付けてもよい。
【0034】
例えば
図1の場合、供給流路15は、第2切換弁36と下流側端部との間において分岐している。そして、この分岐している流路の1つがダンパユニット37に接続されている。
図1の位置にダンパユニット37を設ける場合、ダンパユニット37に接続されているこの分岐した流路部分の少なくとも一部が、内部流路55となる。すなわち、
図1の位置にダンパユニット37を設ける場合、ダンパユニット37における後述のカートリッジ60の内部空間は、ポンプ34の吸込側に加えて、第2切換弁36にも連通する。また、
図2の場合、供給流路15は、上流側端部と第2切換弁36との間において分岐している。そして、この分岐している流路の1つがダンパユニット37に接続されている。
図2の位置にダンパユニット37を設ける場合、ダンパユニット37に接続されているこの分岐した流路部分の少なくとも一部が、内部流路55となる。すなわち、
図2の位置にダンパユニット37を設ける場合、ダンパユニット37における後述のカートリッジ60の内部空間は、ポンプ34の吸込側に加えて、マスタシリンダ11にも連通する。なお、
図2の位置にダンパユニット37を設ける場合、カートリッジ60の内部空間は、第2切換弁36を介してポンプ34の吸込側に連通する。
【0035】
ダンパユニット37は、カートリッジ60、ロッド63、シーリングリング64、及びバネ65を備えている。
【0036】
カートリッジ60は、一端側に開口部60aを有し、他端側に底部を有する有底筒形状をしている。例えば、カートリッジ60は一端に開口部60aを有する有底円筒形状をしている。このカートリッジ60は、開口部60a側の端部が開口部55aに圧入されることにより、基体51に取り付けられている。すなわち、カートリッジ60は、開口部60aを介して内部空間が内部流路55と連通するように、基体51に設けられている。換言すると、カートリッジ60は、開口部60aを介して、内部空間が供給流路15と連通している。
【0037】
ロッド63は、カートリッジ60内において、該カートリッジ60の軸心方向(
図3及び
図4の左右方向)に移動自在に設けられている。このロッド63の外面側には、シーリングリング64が設けられている。すなわち、シーリングリング64は、ロッド63の外面とカートリッジ60の内面との間に設けられ、ロッド63の外面とカートリッジ60の内面との間を閉塞するものである。本実施の形態においては、シーリングリング64は、ロッド63に固定されている。詳しくは、シーリングリング64は、一対のガイドリング66によってカートリッジ60の軸心方向に挟持され、ロッド63に固定されている。つまり、シーリングリング64は、ロッド63と共に、カートリッジ60の軸心方向に移動自在となっている。このため、
図4に示すように、ロッド63がカートリッジ60内において底部側(開口部60aとは反対側)に移動した際、カートリッジ60の内部空間は、シーリングリング64により、底部側の第1空間61と、開口部60a側の第2空間62とに仕切られる。
【0038】
バネ65は、カートリッジ60内の第1空間61に設けられている。このバネ65は、例えばコイル型の圧縮バネであり、ロッド63を第2空間62側(つまり開口部60a側)に押圧するものである。なお、バネ65は、コイル型の圧縮バネに限定されるものではなく、ロッド63を第2空間62側(つまり開口部60a側)に押圧できるバネであればよい。例えば、バネ65として複数の皿バネを用い、これら皿バネを重ね合わせて、ロッド63を第2空間62側(つまり開口部60a側)に押圧してもよい。また例えば、バネ65として板バネを用いてもよい。
【0039】
このように構成されたダンパユニット37においては、ロッド63の第2空間62側の端部には、内部流路55及び開口部60aを通ってカートリッジ60内の第2空間62に流入するブレーキ液の液圧が作用する。つまり、ロッド63の第2空間62側の端部には、ブレーキ液の液圧に応じた力が作用する。また、ロッド63の第1空間61側の端部には、バネ65の押圧力と、第1空間61に密封された空気の圧力による力との合力が作用する。このため、ロッド63は、第2空間62側の端部に作用するブレーキ液による力と、第1空間61側の端部に作用するバネ65及び空気による合力とが釣り合った位置に移動する。
【0040】
例えば、ポンプ34が駆動しているときに生じるブレーキ液の脈動により、ブレーキ液の液圧が上昇した際、
図4に示すように、ブレーキ液は、開口部60aからカートリッジ60内の第2空間62に流入し、ロッド63を第1空間61側へ押し込んでいく。これにより、バネ65は、ロッド63によって押し縮められ、反力(つまり押圧力)が増大していく。また、第1空間61内の空気も、圧縮されていき、圧力が増大していく。そして、第2空間62側の端部に作用するブレーキ液による力と、第1空間61側の端部に作用するバネ65及び空気による合力とが釣り合った位置で、ロッド63は停止する。
【0041】
また、
図4に示す状態からブレーキ液の液圧が低下した際、バネ65の反力(つまり押圧力)及び第1空間61内の空気の圧力によって、ロッド63は、第2空間62側へ押されていく。つまり、第2空間62内のブレーキ液が、内部流路55に押し出されていく。そして、例えば
図3に示すように、ロッド63が開口部60aに設けられたストッパー67に到達し、第2空間62内のブレーキ液が全て内部流路55に押し出されたところで、換言すると第2空間62が消滅したところで、ロッド63は停止する。なお、ロッド63がストッパー67に到達する前の状態において、第2空間62側の端部に作用するブレーキ液による力と、第1空間61側の端部に作用するバネ65及び空気による合力とが釣り合った場合、ロッド63は、
図3に示す位置と
図4に示す位置との間で停止することとなる。
【0042】
このように、ダンパユニット37は、第2空間62側の端部に作用するブレーキ液による力と、第1空間61側の端部に作用するバネ65及び空気による合力とに応じてロッド63がカートリッジ60内を移動し、ブレーキ液の液圧に応じて第2空間62にブレーキ液を流入させることにより、ポンプ34駆動時の脈動を減衰することができる。また、
図2に示す位置にダンパユニット37を設けた場合、使用者がブレーキペダル16を踏み込んでブレーキ液の液圧が上昇した際、第2空間62側の端部に作用するブレーキ液による力と、第1空間61側の端部に作用するバネ65及び空気による合力とに応じてロッド63がカートリッジ60内を移動し、ブレーキ液の液圧に応じて第2空間62にブレーキ液が流入する。これにより、使用者がブレーキペダルを踏み込んだ際、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と同様のブレーキペダル16の踏み込み量が得られる。このため、使用者は、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1において、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と同様の使用感を得ることができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、カートリッジ60の開口部60aに設けられたストッパー67に、オリフィス68を形成している。すなわち、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50は、ダンパユニット37の第2空間62に流入するブレーキ液の流れを絞るオリフィス68を備えている。このため、ブレーキ液がオリフィス68を通って第2空間62に流入する際、オリフィス68においてエネルギーが損失し、ブレーキ液の脈動をより減衰することが可能となっている。
【0044】
ここで、ダンパユニットとしては、ゴム製のドーム状膜体を用いたものが知られている。発明者らは、当初、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットを本実施の形態に係る液圧制御ユニット50に採用することも検討した。すなわち、
図1及び
図2のダンパユニット37の位置に、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットを設けることを検討した。この場合、ゴム製のドーム状膜体の内面側に空気を密閉し、ゴム製のドーム状膜体の外面側にブレーキ液の液圧を作用させることとなる。そして、ブレーキ液の液圧が上昇した際、内面側の空気を圧縮するようにゴム製のドーム状膜体を変形させ、ポンプ34の駆動時の脈動を減衰させることとなる。
【0045】
しかしながら、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットにおいては、ゴム性のドーム状膜体が変形を繰り返すうち、内周側に密閉されている空気がドーム状膜体を透過してブレーキ液内に流出していき、減衰性能が変化してしまうことが懸念された。換言すると、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットは、長期に渡って安定した減衰性能を実現できないのではないかと懸念された。また、ブレーキシステム1換言すると液圧制御ユニット50は、広い温度範囲での使用が求められる。しかしながら、ゴムは、温度変化に対して硬度が変わりやすい。また、ゴムは、温度変化によって膨張もしやすい。すなわち、ゴム製のドーム状膜体は、温度変化によって、内周側の容積(空気が密閉されている箇所の容積)が変化しやすい。このため、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットにおいては、周囲の温度変化によって減衰性能が変化してしまうことが懸念された。換言すると、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットは、広い温度範囲に渡って安定した減衰性能を実現できないのではないかと懸念された。
【0046】
そこで、発明者らは、ブレーキ液の脈動を減衰するという課題に加え、長期に渡って、且つ広い温度範囲において安定した減衰性能を実現するという課題もさらに解決すべく、上述のようなダンパユニット37を発明した。すなわち、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、ポンプ34の駆動時の脈動によってブレーキ液の液圧が上昇した際、ブレーキ液がカートリッジ60内の第2空間62に流入し、ブレーキ液の液圧を第1空間61に設けられたバネ65で受けることにより、ポンプ34の駆動時の脈動を減衰する構成となっている。すなわち、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、バネ65の弾性力によってポンプ34の駆動時の脈動を減衰する構成となっている。ここで、バネ65の弾性力は、ゴムと比べて、長期に渡って安定しており、温度依存性(周囲の温度変化による値の変化度合い)も小さい。このため、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、長期に渡って、且つ広い温度範囲において安定した減衰性能を実現することができる。
【0047】
また、ダンパユニット37は広い温度範囲において安定した減衰性能を実現することができるので、つまり、ダンパユニット37はゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットよりも熱に対する耐性が高いので、搭載の自由度が向上して、液圧制御ユニット50を小型化及び軽量化することもできる。
【0048】
図5は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの、液圧制御ユニットを示す図である。なお、
図5では、ハウジング54を断面として示している。
上述のように、制御器52の一部は、制御基板53として構成されている。そして、液圧制御ユニット50は、制御基板53を収容するハウジング54を備えている。このハウジング54は、基体51の一部(側面51a側)を覆うように、基体51に取り付けられている。つまり、制御基板53は、ハウジング54を介して、基体51に取り付けられている。この制御基板53は、込め弁31、弛め弁32、第1切換弁35及び第2切換弁36のソレノイドに電力を供給する複数のコイル53aを備えている。
【0049】
制御基板53はコイル53a等から発熱するため、ハウジング54内は高温となる。このため、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットを液圧制御ユニット50に採用した場合、当該ダンパユニットは温度変化に対して減衰性能の変化が大きいので、ハウジング54内の熱の影響を極力避けるように、当該ダンパユニットを基体51に設ける必要がある。例えば、基体51内に埋め込むように、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットを基体51に設ける必要がある。このため、ゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットを液圧制御ユニット50に採用した場合、基体51が大きくなってしまうので、液圧制御ユニット50が大型化してしまい、また重量も重くなってしまう。
【0050】
一方、ダンパユニット37はゴム製のドーム状膜体を用いたダンパユニットよりも熱に対する耐性が高い。このため、カートリッジ60の一部が基体51の外面(より詳しくは側面51a)からハウジング54の内部に突出するように、ダンパユニット37を基体51に設けることができる。したがって、ダンパユニット37を液圧制御ユニット50に採用することにより、基体51の厚みを薄くすることができる。すなわち、ダンパユニット37を液圧制御ユニット50に採用することにより、液圧制御ユニット50を小型化することができ、また軽量化することもできる。
【0051】
なお、上述したダンパユニット37は、あくまでも一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変形可能である。以下では、ダンパユニット37の変形例のいくつかを紹介する。
【0052】
図6は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムにおける、ダンパユニットの他の一例の搭載状態を示す部分断面図である。
図6に示すように、ダンパユニット37のカートリッジ60は、第1空間61と該カートリッジ60の外部空間とを連通し、空気が流通する貫通穴60bが形成されていてもよい。このようにカートリッジ60を構成した場合、第1空間61内の空気が温度上昇によって膨張した際、貫通穴60bから外部に流出することができる。また、第1空間61内の空気が温度低下によって収縮した場合、貫通穴60bから第1空間61へ外部の空気が流入することができる。このため、カートリッジ60に貫通穴60bを形成することにより、温度変化によって第1空間61内の空気の圧力が変化することを抑制でき、温度変化によるダンパユニット37の減衰性能の変化をより抑制することができる。また、カートリッジ60に貫通穴60bを形成することにより、第1空間61内の空気がシーリングリング64とカートリッジ60の内面との間を通って内部流路55側に流出した場合も、貫通穴60bから第1空間61へ外部の空気が流入することとができる。このため、カートリッジ60に貫通穴60bを形成することにより、長期に渡ってダンパユニット37を使用しても、第1空間61内の空気の圧力変化を抑制することができるので、長期に渡る減衰性能の安定性がより向上する。
【0053】
一方、
図3及び
図4で示すように、第1空間61内に空気を密閉するダンパユニット37の構成とした場合、シーリングリング64とカートリッジ60の内面との間を通って、内部流路55から第1空間61に万が一ブレーキ液が漏れ出た場合でも、ブレーキ液が外部に漏れ出ることを抑制できる。このため、
図3及び
図4で示すようにダンパユニット37を構成した場合、液圧回路2からのブレーキ液の漏れ出しによるブレーキ性能の低下、及び、ブレーキ液が付着することによる制御基板53の故障等を抑制でき、ブレーキシステム1つまり液圧制御ユニット50の安全性をより向上させることができる。
【0054】
図7は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムにおける、ダンパユニットのさらに他の一例の搭載状態を示す部分断面図である。
ストッパー67は、カートリッジ60内からロッド63が飛び出すことを抑制できればよく、ダンパユニット37の構成の一部である必要は必ずしもない。例えば、
図7に示すように、ストッパー67を基体51と一体形成してもよい。また、オリフィス68も、ダンパユニット37の第2空間62に流入するブレーキ液の流れを絞ることができれば、ダンパユニット37の構成の一部である必要は必ずしもない。例えば、
図7に示すように、基体51にオリフィス68を形成してもよい。
【0055】
図8は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムにおける、ダンパユニットのさらに他の一例の搭載状態を示す部分断面図である。
例えば、
図8に示すように、ロッド63の外面全周に渡って凹溝63aを形成し、該凹溝63aにシーリングリング64を挿入し、シーリングリング64をロッド63に固定してもよい。ここで、シーリングリング64をロッド63に固定する場合、シーリングリング64の内径は、ロッド63におけるシーリングリング64の取り付け位置の外径よりも、若干小さく設計される。ロッド63にシーリングリング64を取り付けた際、シーリングリング64が若干伸ばされることにより、シーリングリング64とロッド63との間に隙間ができないようにするためである。このため、
図8のようにロッド63の凹溝63aにシーリングリング64を取り付ける場合、シーリングリング64の内径は、ロッド63に形成された凹溝63aの底部の外径よりも、若干小さく設計されることとなる。そして、
図8のようにロッド63の凹溝63aにシーリングリング64を取り付ける場合、ロッド63の凹溝63a以外の部分(凹溝63aの底部よりも外径が大きい部分)をシーリングリング64の内周側に挿入した後、ロッド63の凹溝63aにシーリングリング64を取り付けることとなる。
【0056】
つまり、
図8のようにロッド63の凹溝63aにシーリングリング64を取り付ける場合、ロッド63の凹溝63a以外の部分(凹溝63aの底部よりも外径が大きい部分)をシーリングリング64の内周側に通す際、凹溝63aに取り付けられているときよりもシーリングリング64をさらに伸ばす必要がある。このため、
図8のようにロッド63の凹溝63aにシーリングリング64を取り付ける場合、ロッド63の凹溝63a以外の部分(凹溝63aの底部よりも外径が大きい部分)をシーリングリング64の内周側に通す際の容易性、当該部分を通す際にシーリングリング64が損傷することの抑制等を考慮すると、凹溝63aの深さをあまり深くできない。したがって、ロッド63及びシーリングリング64にかかる荷重等によっては、シーリングリング64とカートリッジ60の内面との間の摩擦力によって、シーリングリング64が捩れることが懸念される。つまり、シーリングリング64が捩れることにより、シーリングリング64とカートリッジ60の内面との間を通って第1空間61側にブレーキ液が漏れ出したり、シーリングリング64とカートリッジ60の内面との間を通って第1空間61内の空気が内部流路55に流出することが懸念される。
【0057】
このため、ロッド63にシーリングリング64を固定する場合、
図3及び
図4で示したように、シーリングリング64を一対のガイドリング66によってカートリッジ60の軸心方向に挟持し、ロッド63に固定するのが好ましい。シーリングリング64を一対のガイドリング66によって挟持することにより、
図8に示すシーリングリング64の固定構造に比べて、シーリングリング64の側面部分を広い範囲で押さえることができるため、シーリングリング64の捩れを抑制できるからである。つまり、シーリングリング64を一対のガイドリング66によって挟持することにより、
図8に示すシーリングリング64の固定構造に比べて、シーリングリング64とカートリッジ60の内面との間を通って第1空間61側にブレーキ液が漏れ出ること、及び、シーリングリング64とカートリッジ60の内面との間を通って第1空間61内の空気が内部流路55に流出することを抑制できるからである。
【0058】
なお、シーリングリング64をカートリッジ60の内面に固定してもよい。この場合にも、一対のガイドリング66によってカートリッジ60の軸心方向にシーリングリング64を挟持することにより、シーリングリング64の捩れを抑制できる。
【0059】
<ブレーキシステムの効果>
本実施の形態に係るブレーキシステムの効果について説明する。
ブレーキシステム1の液圧制御ユニット50では、供給流路15にダンパユニット37が設けられている。そのため、第2切換弁36が開いた状態でポンプ34が駆動されることで生じる脈動が、供給流路15及びマスタシリンダ11を介して、ブレーキシステム1の入力部(例えばブレーキペダル16等)に伝搬することが抑制される。したがって、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50をブレーキシステム1に採用することにより、使用者のブレーキシステムの使用感を向上することができる。
【0060】
ダンパユニット37は、供給流路15のうちの、第2切換弁36と下流側端部との間の領域に設けられていてもよく、また、供給流路15のうちの、上流側端部と第2切換弁36との間の領域に設けられていてもよい。
【0061】
例えば、供給流路15のうちの、第2切換弁36と下流側端部との間の領域に、ダンパユニット37が設けられている場合には、ポンプ34の吸入側の近くで、脈動の伝搬が抑制されることとなって、液圧制御ユニット50の基体51等に生じる異音等を効率的に抑制することができる。
【0062】
例えば、ブレーキシステム1が、倍力装置17が省略されているものであり、且つ、供給流路15のうちの、上流側端部と第2切換弁36との間の領域に、ダンパユニット37が設けられている場合には、使用者がブレーキシステム1の入力部を操作してからアクティブ増圧制御動作が開始されるまでの期間において、使用者が、倍力装置17が省略されていることに起因する反力の増大を感じてしまうことが、ダンパユニット37のクッション性によって抑制されることとなる。そのため、供給流路15のうちの、上流側端部と第2切換弁36との間の領域にダンパユニット37を設けることは、ブレーキシステム1が、倍力装置17が省略されているものである場合において、特に好適である。
【0063】
ここで、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50では、ダンパユニット37は、マスタシリンダ11に連通する供給流路15、つまり、使用者のブレーキシステム1の使用感に多大な影響を及ぼす箇所に設けられる。このため、ダンパユニット37には、長期に渡って安定した減衰性能が望まれる。また、ブレーキシステム1換言すると液圧制御ユニット50は、広い温度範囲での使用が求められる。このため、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50に設けられたダンパユニット37には、広い温度範囲に渡って安定した減衰性能が望まれる。
【0064】
このため、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、一端側に開口部60aを有して他端側に底部を有する有底筒形状をしており、開口部60aを介して内部空間が供給流路15と連通するカートリッジ60と、カートリッジ60内において、カートリッジ60の軸心方向に移動自在に設けられたロッド63と、ロッド63の外面とカートリッジ60の内面との間に設けられ、カートリッジ60の内部空間を、底部側の第1空間61と開口部60a側の第2空間62とに仕切るシーリングリング64と、第1空間61に設けられ、ロッド63を第2空間62側へ押圧するバネ65と、を備えている。
【0065】
つまり、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、ポンプ34駆動時の脈動によってブレーキ液の液圧が上昇した際、ブレーキ液がカートリッジ60内の第2空間62に流入し、ブレーキ液の液圧を第1空間61に設けられたバネ65で受けることにより、ポンプ34駆動時の脈動を減衰する構成となっている。すなわち、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、バネ65の弾性力によってポンプ34駆動時の脈動を減衰する構成となっている。
【0066】
ここで、バネ65の弾性力は、長期に渡って安定しており、温度依存性(周囲の温度変化による値の変化度合い)も小さい。このため、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50のダンパユニット37は、長期に渡って、且つ広い温度範囲において安定した減衰性能を実現することができる。したがって、本実施の形態に係る液圧制御ユニット50を車両用のブレーキシステム1に採用することにより、長期に渡って、且つ広い温度範囲において、使用者のブレーキシステム1の使用感を向上することができる。
【0067】
なお、カートリッジ60は、第1空間61と該カートリッジ60の外部空間とを連通し、空気が流通する貫通穴60bが形成されていてもよい。また、カートリッジ60は、貫通穴60bが形成されておらず、第1空間61内の空気が密封される構成となっていてもよい。カートリッジ60に貫通穴60bが形成されている場合、温度変化及び長期使用によって第1空間61内の空気の圧力が変化することを抑制できる。このため、カートリッジ60に貫通穴60bが形成されている場合、長期に渡って、且つ広い温度範囲において、ダンパユニット37のより安定した減衰性能を実現することができる。また、カートリッジ60を第1空間61内の空気が密封される構成にした場合、液圧回路2からのブレーキ液の漏れ出しによるブレーキ性能の低下等を抑制でき、安全性をより向上させることができる。
【0068】
ここで、液圧制御ユニット50は、第2空間62に流入するブレーキ液の流れを絞るオリフィス68を備えることが好ましい。オリフィス68においてエネルギーを損失させ、ブレーキ液の脈動をより減衰することができる。
【0069】
また、好ましくは、液圧制御ユニット50は、供給流路15の一部を構成する内部流路55を有する基体51と、込め弁31、弛め弁32、ポンプ34、第1切換弁35、及び第2切換弁36の動作を司る制御器52の一部を構成する制御基板53と、内部に制御基板53を収容し、基体51の一部を覆うハウジング54と、を備える。この場合、カートリッジ60は、基体51に設けられて、開口部60aを介して内部空間が内部流路55に連通する。この際、カートリッジ60の一部は、基体51の外面からハウジング54の内部に突出していることが好ましい。このように液圧制御ユニット50を構成することにより、基体51の厚みを薄くすることができるので、液圧制御ユニット50を小型化及び軽量化することができる。
【0070】
また、シーリングリング64は、一対のガイドリング66によってカートリッジ60の軸心方向に挟持され、ロッド63又はカートリッジ60に固定されているのが好ましい。シーリングリング64の捩れを抑制できるので、第1空間61側にブレーキ液が漏れ出ること、及び、第1空間61内の空気が内部流路55に流出することを抑制できる。