(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量基準で0.19%から0.22%のC、2%から2.6%のMn、1.45%から1.55%のSi、0.15%から0.4%のCr、0.020%未満のP、0.011%未満のS、0.008%未満のN、0.015%から0.07%のAlを含有し、残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできている、降伏強度YSが1000MPaを超え、引張強度TSが1150MPaを超え、且つ全伸びEが8%を超える高強度鋼板であって、鋼板が80%を超える焼き戻しマルテンサイト、5%を超える残留オーステナイト、5%未満のフェライト、5%未満のベイナイトおよび6%未満のフレッシュマルテンサイトを含有する組織を有する、高強度鋼板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、鋼板が数百秒間とどまる過時効区域を含む連続焼鈍ラインを使用し、Mnおよび/またはマイクロ合金化元素を過度に添加せずに、降伏強度が1000MPaを超え、引張強度が1150MPaを超え、且つ伸びが8%を超える冷間圧延鋼板を製造することが可能となることが依然として望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明は、降伏強度YSが1000MPaを超え、引張強度TSが1150MPaを超え、且つ全伸びEが8%を超える鋼板を製造する方法であって、以下の工程:
− 重量パーセントで0.19%から0.22%のC、2%から2.6%のMn、1.45%から1.55%のSi、0.15%から0.4%のCr、0.020%未満のP、0.011%未満のS、0.008%未満のN、0.015%から0.070%のAlを含有し、残部がFeおよび不可避不純物である鋼から、圧延により鋼板を調製する工程、
− 圧延鋼板を焼鈍する工程であって、860℃から890℃の間の焼鈍温度TAにおいて100秒から210秒の間の時間で鋼板を均熱化する工程を含む、工程、
− 焼鈍した鋼板を220℃から330℃の間の焼入れ温度TQまで冷却する工程であって、鋼板を500℃以上の初期冷却温度TCから焼入れ温度TQまで15℃/秒以上の冷却スピードで冷却する工程を含む、工程、
− 115秒から240秒の間の時間をかけて380℃を超える第1の過時効温度TOA1まで鋼板を加熱し、次いで300秒から610秒の間の時間をかけて420℃から450℃の間の第2の過時効温度TOA2まで鋼板を加熱する工程、および
− 鋼板を100℃未満の温度まで5℃/秒未満の冷却スピードで冷却する工程、
を含み、鋼板が80%を超える焼き戻しマルテンサイト、5%を超える残留オーステナイト、5%未満のフェライト、5%未満のベイナイトおよび6%未満のフレッシュマルテンサイトを含有する組織を有する、方法に関する。
【0008】
焼鈍する工程は、焼鈍温度TAから795℃の間の温度において90秒から190秒の間の時間で鋼板を均熱化する第2の工程を含んでいてもよい。
【0009】
この方法は、均熱化する第2の工程と冷却する工程との間に、均熱化する第2の工程の終了時の温度から初期冷却温度TCまで7℃/秒から16℃/秒の間の冷却スピードで初期冷却する工程をさらに含んでいてもよい。
【0010】
圧延による鋼板の調製は、
− 本発明に対応する鋼でできたスラブを、1030℃を超える温度で加熱する工程、
− 厚さが2mmから3mmの間である熱間圧延鋼板を得るようにスラブを熱間圧延する工程であって、終了時の圧延温度が880℃を超え、好ましくは890℃から910℃の間である、工程、
− 熱間圧延鋼板を520℃から600℃の間、好ましくは550℃から570℃の間の温度で巻取りする工程、
− 厚さが0.7mmから1.5mmの間である冷間圧延鋼板を得るために、熱間圧延鋼板を50%から60%の間の圧延率で冷間圧延する工程
を含んでいてもよい。
【0011】
この方法は、巻取りする工程と冷間圧延する工程との間に、600℃から700℃の間の温度において30時間を超える時間でHNX雰囲気下においてバッチ焼鈍する工程をさらに含んでいてもよい。
【0012】
本発明は、重量基準で0.19%から0.22%のC、2%から2.6%のMn、1.45%から1.55%のSi、0.15%から0.4%のCr、0.020%未満のP、0.0011%未満のS、0.008%未満のN、0.015%から0.07%のAlを含有し、残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできている、降伏強度YSが1000MPaを超え、引張強度TSが1150MPaを超え、且つ全伸びEが8%を超える高強度鋼板であって、鋼が80%を超える焼き戻しマルテンサイト、5%を超える残留オーステナイト、5%未満のフェライト、5%未満のベイナイトおよび6%未満のフレッシュマルテンサイトを含有する微細組織を有する、高強度鋼板も関する。
【0013】
好ましくは、残留オーステナイト中の炭素の量は少なくとも0.9%、好ましくは最大で1.5%である。
【0014】
さらに好ましくは、残留オーステナイト中の炭素の量は0.9%から1.2%の間に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を、限定することなく詳細に説明し、例によって示す。
【0016】
本発明による鋼の組成は重量%で以下を含む:
− 十分な強度を確保し、十分な伸びを得るのに必要である残留オーステナイトの安定性を改善するための、0.19%≦C≦0.22%であるC。炭素含量が高すぎる場合、熱間圧延鋼板は硬すぎて冷間圧延できず、溶接性が不十分である。
− 2%≦Mn≦2.6%。鋼板が製造される連続焼鈍ラインの冷却能力を考慮し、また2%未満では引張強度が1150MPa未満となるため、少なくとも80%の焼き戻しマルテンサイトを含む組織を得ることを可能とするために十分な硬化性を有するように、マンガン含量は2%を超える必要があり、好ましくは2.1%を超える必要がある。2.6%を超えると、成形性に悪影響を与える分離の問題が現れることになる。好ましい実施形態において、分離の問題を低減するためにMn含量は2.3%以下である。
− 1.3%≦Si≦1.6%;好ましくはSi≧1.45%;好ましくはSi≦1.55%。Si含量はオーステナイトを安定化させるため、および固溶強化を得るために十分でなければならない。さらに、Siは、過時効によって生じるマルテンサイトからオーステナイトへの炭素の再分配の間に炭化物が形成されるのを遅らせ、そのため炭素を固溶体中に保持してオーステナイトを安定化させる。しかしSi含量が高すぎると、酸化ケイ素が表面に形成されることになりこれは被覆性に対して悪影響を与える。
− 硬化性を高めるため、および過時効処理の間のベイナイトの形成を遅らせるために残留オーステナイトを安定化させるための、0.15%≦Cr≦0.4%であるCr。好ましくはクロム含量は0.30%以上である。
− P≦0.02%。リンは炭化物の形成を減少させることができ、それにより炭素のオーステナイトへの再分配を促進する。しかしPの添加が多すぎると熱間圧延温度において鋼板を脆化させ、マルテンサイトの靱性を低下させる。
− S≦0.011%、好ましくは≦0.005%。硫黄は、中間製品または最終製品を脆化させる可能性がある不純物である。
− N≦0.008%。この元素は精錬から生じる。Nは焼鈍の間にオーステナイト結晶粒が粗大化するのを制限する窒化アルミニウムを形成することができる。
− 0.015%≦Al≦0.070%。アルミニウムは脱酸素の目的で通常の場合に溶鋼に加えられる。さらに、酸素と結びつかないアルミニウムの残部は、高温でオーステナイト結晶粒径の粗大化を制限する窒化物を形成することができる。
【0017】
組成の残部は鉄および不可避不純物である。本発明において、Ni、Mo、Cu、Ti、Nb、V、Bなどは不純物と考えられる。したがって、これらの含量は、Niについては0.050%未満、Moについては0.04%未満、Cuについては0.01%未満、Tiについては0.007%未満、Nbについては0.005%未満、Vについては0.007%未満、Bについては0.0007%未満である。
【0018】
本発明による鋼板を製造するためには、第一に、熱間圧延鋼板を得るためにスラブなどの半製品が熱間圧延される。所望の厚さを有する冷間圧延鋼板を得るために、次いで熱間圧延板は冷間圧延される。次いで、所望の微細組織ならびにYS≧1000MPa、TS≧1150MPaおよびE(全伸び)≧8%である所望の機械的特性を得るために、冷間圧延鋼板は連続焼鈍ラインを用いて熱処理される。
【0019】
熱間圧延において、炭化物を完全に溶解させるために、スラブを加熱する温度は1030℃を超える。スケールロスの増加を防ぐために、この温度は1340℃未満に維持される必要がある。しかし、好ましくは仕上げ温度が高すぎないようにするために、この温度は1150℃未満に維持する必要がある。
【0020】
帯状の微細組織を含まない均質な組織を得るために、仕上げ温度または圧延の終了時の温度は鋼のAc
3変態点を超えたまま維持するように880℃を超える必要がある。この温度は非再結晶温度を超えないようにするために1000℃未満で維持する必要がある。好ましくは仕上げ温度は890℃−910℃の範囲で維持する必要があり、最適な仕上げ温度は900℃である。
【0021】
熱間圧延後に、厚さが一般に2mmから3mmの間に含まれる熱間圧延鋼板は、520℃から600℃の間、好ましくは550℃から570℃の間の温度で巻取りされる。巻取り温度は、高すぎる冷間圧延力を使用せずに冷間圧延できる熱間圧延鋼板を得るために520℃を超える必要があり、疲労特性に対して悪影響を与える粒界酸化を避けるために570℃未満である必要がある。
【0022】
任意に、硬度を均一にするためおよび鋼板の縁部および先端部の脆性を低減するために、鋼板はバッチ焼鈍される。バッチ焼鈍は600℃から700℃の間の温度においてHNX雰囲気下で行われる。好ましくは焼鈍時間は30時間を超える時間である。次いで鋼板は70℃までゆっくりと冷却される。好ましくは、冷却は少なくとも30時間を必要としなければならない。
【0023】
次いで、0.7mmから1.5mmの間、好ましくは0.8mmを超えおよび/または1.4mm未満である所望の厚さに到達するために、鋼板は好ましくは50%から60%の間の圧延比で冷間圧延される。
【0024】
次いで冷間圧延鋼板は最小ラインスピードが50m/分である連続焼鈍ラインで焼鈍される。これはラインにおいて鋼板が移動するスピードである。このスピードは鋼板の厚さによって決まる。そのような連続ラインにおいて、鋼板が厚いほどスピードがより遅いことが当技術分野において周知である。
【0025】
連続ラインは少なくとも、鋼板を焼鈍温度まで加熱することが可能な加熱ゾーン、2つの部分に分けることができる均熱化ゾーン(ラジアントチューブ炉である第1の部分、および鋼板を焼鈍温度において数百秒間維持することが可能である第2の部分)、鋼板をあまり早くない冷却スピードで急速冷却の最初の温度まで冷却するための初期冷却ゾーン、急速冷却が停止される焼入れ温度TQまで鋼板を焼入れすることが可能な急速冷却ゾーン、鋼板を過時効工程に対応する温度で加熱および維持することが可能な過時効ゾーンの第1および第2の部分、ならびに鋼板を周囲温度まで冷却することが可能な最終冷却ゾーンを含む。
【0026】
加熱ゾーンにおいて、完全オーステナイト組織を得るために860℃を超えて鋼のAc
3変態点を超えるようにする焼鈍温度であるが、好ましくはオーステナイト結晶粒を過度に粗大化させないために890℃未満である焼鈍温度まで、鋼板が加熱される。
【0027】
ラジアントチューブを含む均熱化ゾーンの第1の部分において、鋼板のスピードに応じて100から200秒の時間、焼鈍温度TAまたはこの温度の付近であるが860℃を超える温度で鋼板が維持され、このスピードは鋼板の厚さによって決まる。
【0028】
均熱化ゾーンの第2の部分において、鋼板の厚さに応じて約80秒から約180秒の時間、鋼板が焼鈍温度で維持される。鋼板の温度は、ゾーンの端で温度が焼鈍温度より低いが795℃を超えたままであるように、ゆっくりと低下する。
【0029】
均熱化の後、鋼板は第1の冷却ゾーンを通過し、第1の冷却ゾーンでは鋼板の厚さに応じて7℃/秒から16℃/秒の間の冷却スピードで、鋼板が500℃以上の温度TCまで冷却される。鋼板が厚いほど、冷却スピードはより遅い。
【0030】
この第1の冷却後、鋼板の組織は完全オーステナイトのままである。
【0031】
次いで、鋼板は急速冷却のゾーンを通過し、急速冷却のゾーンでは15℃/秒以上のスピードで、第1の冷却の終了時の温度TCから、220℃から330℃の間の焼入れ温度QTまで鋼板が冷却される。冷却スピードは鋼板の厚さによって決まるが、残留オーステナイトを含むマルテンサイト組織を得るために、必ず臨界焼入れ速度よりも速い。この組織はさらに一定量のフェライトを含有していてもよいが、5%未満、好ましくは2%未満であり、理想的にはフェライトを全く含有しない。
【0032】
少なくとも5%を超える残留オーステナイト、好ましくは約15%の残留オーステナイトを含有する組織を得るために、焼入れ温度が選択される。約15%の残留オーステナイトを得るために、本発明による組成を有する鋼の理論上の最適焼入れ温度は約235℃である。したがって、好ましくは、焼入れ温度は220℃から245℃の間である。
【0033】
焼入れ後、鋼板は、鋼板を350℃から450℃の間の温度まで加熱することが可能な過時効区域を通過する。この過時効ゾーンでは、この過時効ゾーンを2つのゾーンに分ける2つの異なる点で温度が測定され、第1の測定は過時効区域に入った後数メートルで行われ、第2の測定は過時効区域の出口で行われる。
【0034】
第1のゾーンでは、350℃を超え好ましくは380℃を超える第1の過時効温度TOA1まで徐々に加熱するために、鋼板は厚さに応じて115秒から240秒の間の時間で加熱される。
【0035】
第2のゾーンでは、第1の過時効温度からTOA1を超える第2の過時効温度TOA2まで加熱するために、鋼板の厚さに応じて300秒から610秒の間の時間で鋼板が加熱され、TOA2は420℃から450℃の間である。
【0036】
この処理の目的は、鋼板が温度70℃未満の温度まで冷却されたときにオーステナイトが安定なままであるようにオーステナイトを炭素が豊富なものにするために、炭素をマルテンサイトからオーステナイトへ移動させることである。残留オーステナイト中の炭素の量は少なくとも0.9%であり、この量は残留オーステナイトの十分な安定化を確実にし、および最大で1.5%である。残留オーステナイト中の炭素が1.5%を超えると、前記残留オーステナイトは硬くなりすぎることになる。好ましくは、残留オーステナイト中の炭素の量は0.9%から1.2%の間に含まれる。
【0037】
さらにマルテンサイトは、炭化物の形成を伴わずに炭素が大幅に減少し、それによって脆性が低下する。
【0038】
過時効の時間および温度は、ベイナイトがほとんど形成されない、好ましくは全く形成されないような時間および温度である。
【0039】
過時効処理後、フレッシュマルテンサイトが全くまたはほとんど形成されないようにするために、鋼板は70℃未満の温度まで好ましくは5℃/秒未満の冷却スピードで冷却される。しかしこの冷却スピードは、ベイナイトが全くまたはほとんど形成されないようにするため、ならびにラインの特性および鋼板のスピードと適合させるために、十分に速い必要がある。
【0040】
そのような処理によって、80%を超える、好ましくは85%を超えるマルテンサイト、少なくとも5%、好ましくは8%を超える残留オーステナイト、5%未満、好ましくは2%未満のフェライトを含有する組織を有する、上記で規定される化学組成を有する鋼板を得ることが可能である。
【0041】
室温まで冷却した後の残留オーステナイト中の炭素の量は少なくとも0.9%、最大で1.5%、好ましくは0.9%から1.2%のままである。
【0042】
マルテンサイト、すなわち過時効により生じる炭素含量が減少したマルテンサイトは、好ましくは炭化物を含まずに焼き戻しされる。しかしこれは最大で6%のフレッシュマルテンサイトおよび一定量のベイナイトも含有することが可能であり、後者の組織含量は5%未満、好ましくは2%未満である。いずれの場合も、少なくとも80%の焼き戻しマルテンサイトの組織含量よりも好ましい。
【0043】
残留オーステナイトの割合は、好ましくは、低く見積もられにくい結果が得られる方法であるXRD方法によって測定される。
【0044】
そのような組織によって、鋼板の降伏強度YSは1000MPaを超え、引張強度TSは1150MPaを超え、且つ全伸びEは8%を超える。
【0045】
所望の結果を得ることができる鋼の化学組成を決定するために、表1に重量%で記載される組成を有する試料S1、S2、S3およびS4を用いていくつかの試験を行った。
【0047】
相当量の残留オーステナイトを含むマルテンサイト組織を得るように、化学組成が選択された。
【0048】
鋼は工業規模で製造、熱間圧延、次いで冷間圧延され、試料は塩浴処理を使用して熱処理された。
【0049】
熱処理は、Ac
3を超える焼鈍の温度TAにおける焼鈍、焼入れ温度QTまでの焼入れ、その後の過時効温度TOAにおける、過時効時間であるOA時間での過時効で構成される。相当量の残留オーステナイトを含むマルテンサイト組織を得るように、焼入れ温度が選択された。
【0050】
熱処理の条件および得られる結果:降伏強度YS、引張強度TS、全伸びE、残留オーステナイトの割合%γが表2に記載される。
【0052】
試料S1およびS4については、過時効は一定温度での保持ではなく、保持の最初の300℃から保持の終了時の450℃まで規則的に上昇する温度での保持であった。
【0053】
すべての焼鈍温度は鋼のAC
3温度よりも高かった。したがって、焼入れ前は組織が完全オーステナイトであった。
【0054】
焼入れ後、試料S2、S3およびS4については、組織は一定量の残留オーステナイトを含むマルテンサイトであった。
【0055】
試料S1については、組織はわずかな割合のフェライトおよびベイナイトも含有していた。
【0056】
これらの結果は、所望の特性がS2の鋼(すなわちCMnSiMo鋼)およびS4の鋼(すなわちCMnSiCr鋼)によってのみ実現できることを示している。しかしこれらの鋼に対応する鋼板の製造は、CMnSiMo鋼は冷間圧延するのが非常に困難であったことを示し、なぜなら、熱間圧延および530℃から550℃の間の温度での巻取りの後に、鋼が硬すぎて冷間圧延できなかったからである。
【0057】
したがってこれらの結果は、所望の特性(YS>1000MPa、TS>1150MPa、E>8%)を有する冷間圧延鋼板を製造するのに有用な唯一の許容可能な鋼のタイプが、約0.2%のC、約2.3%のMn、約1.5%のSiおよび0.35%のCrを含有するタイプCMnSiCrであることを示している。
【0058】
この鋼を用いて、熱間圧延および冷間圧延によって鋼板が製造され、次いで連続焼鈍ラインで熱処理された。
【0059】
2つの鋳造物が使用され、その組成が表3に記載される。
【0061】
鋼が連続鋳造されてスラブが得られた。スラブが熱間圧延されて厚さが2.8mmから2.05mmであるホットコイル(または熱間圧延鋼板)が得られた。
【0062】
スラブは1050℃で加熱され、鋳造物1については930℃から950℃の間の温度で、鋳造物3については860℃から910℃の間の温度で圧延が完了した。
【0063】
第1の冷間圧延試験の間、熱間圧延鋼板の縁部の硬度が高すぎるためにエッジクラックが現れた。
【0064】
他の鋼板は650℃で6時間、HNX雰囲気下でバッチ焼鈍された。このバッチ焼鈍後、もう冷間圧延は困難ではなくなった。
【0065】
熱間圧延鋼板は冷間圧延されて、厚さが0.8mm、1mmおよび1.4mmである冷間圧延鋼板が得られた。
【0066】
冷間圧延鋼板は連続焼鈍ラインで熱処理され、ラインスピードは鋼板の厚さおよび所望の焼入れ温度に応じて50m/mnから100m/mnの間であった。
【0067】
連続ラインでは、熱処理は以下の工程を含んでいた:
− 鋼板を周囲温度から焼鈍温度TAまで加熱する工程;
− 鋼板を焼鈍温度TA1で均熱化する工程(第1の均熱化);
− 鋼板を焼鈍温度から795℃の間の温度TA2で均熱化する工程であって、鋼板の温度が焼鈍温度TA1から温度TA2まで規則的にゆっくりと低下する、工程(第2の均熱化);
− 鋼板を500℃以上の初期冷却温度TCまで冷却する工程(初期冷却);
− 鋼板を焼入れするために、鋼板を温度TCから焼入れ温度TQまで15℃/秒を超える冷却スピードで冷却する工程;
− 鋼板を115から240秒の間の時間t
1の間、第1の過時効温度TOA1まで加熱する工程;
− 鋼板を300秒から610秒の間の時間t
2の間、第1の過時効温度から第2の過時効温度TOA2まで加熱する工程;
− 鋼板を室温(または周囲温度)まで冷却する工程。
【0068】
例および反例についての熱処理のパラメーターおよび得られる機械的特性は表4に記載される。
【0069】
表4において、例C−1、C−2およびC−3は反例であり、およびE−1、E−2、E−3、E−4、E−5、E−6およびE−7は本発明による例である。
【0071】
この表では、第1のおよび第2の過時効温度が厚さおよび加熱の持続時間(すなわちラインにおける鋼板のスピード)のみによって決まるのではないことが分かる。これは各ゾーンの火力を部分的に調整できるという事実から生じる。
【0072】
反例C−1は多すぎるフェライトが存在するために低い降伏強度を示す。これは焼鈍温度TA1が低すぎるという事実から生じる。この温度851℃はAC3温度よりも低い。したがって、鋼は焼入れ前は完全オーステナイトではなく、5%を超えるフェライトが残っている。
【0073】
反例C−2およびC−3は、過時効温度が低すぎ、マルテンサイトが十分に焼き戻しされなかったために、低い伸びを示す。さらに、残留オーステナイトは炭素が十分に豊富にならなかったので、オーステナイトは十分に安定化されず、6%を超えるフレッシュマルテンサイトが形成された。
【0074】
例E−5、E−6および5−7は、焼入れ温度が計算された最適温度である235℃まで低くする必要がないことを示している。
【0075】
しかし例E−1からE−7は、所望の機械的特性を得ることが可能であることを示している。