(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非消耗電極又は消耗電極の一方又は両方からなる2本以上の複数電極が溶接方向に沿って配置され、前記複数電極とワークとの間に溶接電流を印加してアークを発生させるアーク溶接装置であって、
前記複数電極の少なくとも前記ワークの接地接続部に最も近くに配置された電極の、当該電極を挟んだ両脇側に設けた一対の磁気コイルと、
前記一対の磁気コイルを励磁して磁束を発生させるコイル励磁部と、
前記電極と前記一対の磁気コイルとの相対位置、及び前記電極の電流の向きに対する前記一対の前記磁気コイルの電流の向きを変化させて前記アークの方向を制御する制御部と、
を備え、
前記一対の磁気コイルの軸線は、前記ワークの溶接面に対して平行又は傾斜しており、
前記制御部は、前記一対の磁気コイルの極性を、同極性にする設定と、互いに異なる極性にする設定とを有する、
アーク溶接装置。
非消耗電極又は消耗電極の一方又は両方からなる2本以上の複数電極が溶接方向に沿って配置され、前記複数電極とワークとの間に溶接電流を印加してアークを発生させるアーク溶接方法であって、
前記複数電極の少なくとも前記ワークの接地接続部に最も近くに配置された電極の、当該電極を挟んだ両脇側に設けた一対の磁気コイルを励磁して磁束を発生させ、前記電極と前記一対の磁気コイルとの相対位置、及び前記電極の電流の向きに対する前記一対の前記磁気コイルの電流の向きを変化させる工程を有し、
前記一対の磁気コイルの軸線は、前記ワークの溶接面に対して平行又は傾斜されており、
前記工程では、前記一対の磁気コイルの極性を、同極性にする設定と、互いに異なる極性にする設定と、が選択可能にされた中から、いずれかの設定を選択する、
アーク溶接方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明のアーク溶接装置は、アーク溶接を行う構成であれば、特に溶接方式は限定されない。例えば、TIG溶接等のガスシールド非消耗電極式アーク溶接法や、MIG溶接、炭酸ガスアーク溶接等のガスシールド消耗電極式アーク溶接法にも好適に用いることができる。
【0016】
ここでは、アーク溶接装置として、立向溶接にて上側に向かって移動しながら溶接を行うTIG溶接を行う装置を例に説明するが、これに限らず、任意の溶接姿勢にも適用でき、横方向や下方向へ向かう溶接にも適用可能である。
【0017】
[第1構成例]
図1は第1構成例のアーク溶接装置の外観図である。なお、本明細書において、Z軸の方向は溶接方向、Y軸の方向は溶接面の法線方向、X軸の方向は溶接方向と溶接面法線に直交する方向であり、各方向は
図1の矢印の方向で示される。
【0018】
アーク溶接装置100は、後述するアーク溶接システム200(
図6参照)の主要な装置となる。ワーク13は、開先部15を有し、ワーク13の手前側にはレール11と、レール11に沿って移動可能なキャリッジ17が配置される。キャリッジ17には、アーク溶接装置100が搭載され、開先部15の溶接加工がなされる。本構成のアーク溶接装置100は、レール11に沿って鉛直方向下方から上方に向けて立向溶接が可能な構成となっている。このアーク溶接装置100には、その他、後述する各種の電源、ガス供給部、冷却水供給部等が接続される。
【0019】
図2は
図1に示すアーク溶接装置100の要部斜視図である。なお、
図2は
図1に示すアーク溶接装置100を、レール11が下方となるように水平配置した状態で示している。
アーク溶接装置100のキャリッジ17は、レール11と平行に取り付けられたベース21と、ベース移動用のモータ29とを有する。ベース21には、溶接方向上流側(
図2の左側)から、第1コイルユニット57、第1トーチユニット35、第2トーチユニット37、第2コイルユニット59が設けられる。第1トーチユニット35と第2トーチユニット37とは、ベース21上で移動可能とする不図示のスライド部をそれぞれ備える。また、ベース21は、フィラーワイヤを供給するワイヤリール23及びワイヤ送給ヘッド25、ガス吸引部27、モータ29、操作部31、等が設けられ、モータ29の駆動によりレール11に沿って移動可能に構成される。
【0020】
図3は
図2に示すアーク溶接装置の一部拡大図である。
第1トーチユニット35は、2軸スライダ47と、2軸スライダ47に取り付けられた第1溶接トーチ39とを有する。第1溶接トーチ39には図示しないアーク溶接用の電極が内蔵される。第2トーチユニット37も同様に、2軸スライダ48と、2軸スライダ48に取り付けられた第2溶接トーチ43とを有する。第2溶接トーチ43にも図示しないアーク溶接用の電極が内蔵される。
【0021】
第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43は、2軸スライダ47,48によって、それぞれ独立に移動可能になっている。2軸スライダ47,48は、ワーク19の開先の幅方向であるX軸方向に第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43をスライド、すなわち、オシレートする横スライド部51と、ワーク19の厚さ方向であるY軸方向に溶接トーチをスライドさせる縦スライド部53とをそれぞれ有する。
【0022】
横スライド部51及び縦スライド部53は、図示しないモータの動力を伝達する動力伝達機構等を有し、各溶接トーチの電極をそれぞれX軸方向、Y軸方向に自動でスライドさせる。また、溶接途中に各溶接トーチをウィービング動作させることも可能である。
【0023】
第1コイルユニット57は、第1溶接トーチ39をX軸方向に挟むように、一対の磁気コイル65,67を備える。磁気コイル65,67は、コアとなる鉄心69と、導線が巻回された巻線部68とを備え、アークを偏向させる外部磁場を発生させる。鉄心69の形状は特に問わないが、例えば、馬蹄型(U字型)であってもよい。その場合、U字型の一対の先端部にそれぞれ巻線部68を設ければよい。
【0024】
第2コイルユニット59は、第1コイルユニット57と同じ構成であり、第2溶接トーチ43をX軸方向に挟むように、一対の磁気コイル65,67を備える。磁気コイル65,67は、コアとなる馬蹄形(U字型)の鉄心69と、導線が巻回された巻線部68とを備える。
【0025】
第1コイルユニット57、第2コイルユニット59は、Y軸方向と平行に配置された溶接トーチ39,43からトーチ間の外側に傾斜して配置される。したがって、各磁気コイル65,67は、溶接トーチ39,43の両脇に鉄心69の先端が斜め方向から挿入された状態で配置される。
【0026】
第1コイルユニット57は、コイル移動機構71によって支持される。コイル移動機構71は、ベース21に一端部が固定され、第1コイルユニット57を支持する。コイル移動機構71は、Z軸方向、X軸方向、Y軸方向へのスライダを備え、第1コイルユニット57を溶接トーチ39との相対位置を変更可能に支持する。
【0027】
第2コイルユニット59は、コイル移動機構71と同様の構成のコイル移動機構72によって、溶接トーチ43との相対位置を変更可能に支持される。
【0028】
なお、コイル移動機構71,72は、第1コイルユニット57、第2コイルユニット59を、モータ駆動により移動させる構成であってもよく、手動により移動させる構成であってもよい。更に、コイル移動機構71,72は、第1コイルユニット57、第2コイルユニット59を、所望の位置に固定するだけの機構であってもよい。
【0029】
また、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43との間には、ガス吸引部27が配置される。ガス吸引部27は、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43の中間位置に配置され、第2溶接トーチ43から発生するスパッタやヒュームを含む周囲ガスや、余剰なシールドガスを吸引する。吸引量は、0.1〜2.0(m
3/分)の範囲で行うことが好ましい。
【0030】
なお、ガス吸引部27の代わりに、溶接トーチ毎に周囲空間を遮蔽する板材等の遮蔽部材を、溶接トーチ同士の間に設けてもよい。更に、ガス吸引部27と遮蔽部材とを共に設けてもよい。
【0031】
上記した2軸スライダ47,48は、ワーク19の形状に応じて第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43による溶接位置や、溶接トーチ間隔を変更する。また、コイル移動機構71,72は、溶接トーチ39,43の移動に追従させ、且つ溶接トーチ39,43と各磁気コイル65,67との相対位置を変更する。
【0032】
図4は第1コイルユニット57、第2コイルユニット59、及び第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43の模式的な上視図である。
第1コイルユニット57と第2コイルユニット59は、馬蹄型(U字型)の鉄心69の開放端側を向き合わせ、巻線部68の軸線方向がZ軸方向と平行にして配置される。第1溶接トーチ39が有する電極41と、第2溶接トーチ43が有する電極41との電極間距離Wtは、50mm〜400mmであることが好ましい。電極間距離Wtが50mm以上であることでワークへの入熱量を抑制でき、400mm以下であることで、ビード外観をより良好にできる。
【0033】
図5は溶接トーチの電極とコイルユニットとの位置関係を示す模式的な説明図である。なお、図示例では第1コイルユニット57と第1溶接トーチ39のみ示しているが、第2コイルユニット59と第2溶接トーチ43についても同様である。
図5は、磁気コイル65,67のコイル軸線Lxに垂直な方向から見た平面図であり、図中の第1溶接トーチ39の電極41は、電極先端位置を示している。
【0034】
磁気コイル65,67は、電極41を中心として各コイル軸線Lxが平行に配置される。る。電極41は、溶接方向であるZ軸方向に関して磁気コイル65,67と相対移動可能に配置される。この相対移動可動な距離Lsは、磁気コイル65,67の巻線部68における軸線方向全長Lcの中点Ocを中心として、巻線部68の軸線方向全長Lcの1.5倍以内が好ましい。
【0035】
つまり、電極41と磁気コイル65,67とは、前述の2軸スライダ47,48の横スライド部51、及びコイル移動機構71,73によって、双方の相対位置が距離Lsの間で変更可能となっている。
【0036】
磁気コイル65,67は、巻線部68における導線の巻数が1600回であり、それぞれの磁気コイル65,67のコイル軸線Lx同士の軸間距離Wcが、80mm〜200mmの範囲であるものを使用できる。導線の巻き数が800回以上であることで磁界の不足が生じず、1600回以下であることで磁気コイル外径の肥大化が生じない。また一対の巻線部同士の間の距離が80mm以上であることで磁気コイルと電極の干渉を抑制でき、200mm以下であることで磁界の不足が生じにくくなる。なお、上記した軸間距離Wcは、構成部品の形状に応じて適宜に増減される。また、アーク点に与える所望の磁束密度に応じて上記した導線の巻き数も適宜に増減される。
【0037】
これら電極41と磁気コイル65,67との相対位置は、後述するように、電極41から発生するアークを偏向させる調整パラメータとなる。
【0038】
図6はアーク溶接システム200の制御ブロック図である。
アーク溶接システム200は、キャリッジ17に搭載されるアーク溶接装置100とは別途に設けられた制御部73を有する。
【0039】
制御部73は、アーク溶接装置100を構成する各部の動作を制御する。例えば、制御部73は、モータ29によるキャリッジ17の移動、2軸スライダ47,48による第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43のスライド、コイル移動機構71,72による第1コイルユニット57、第2コイルユニット59のスライド、ワイヤ送給ヘッド25によるフィラーワイヤの供給、等の動作を制御する。
【0040】
また、制御部73には、第1コイルユニット57、第2コイルユニット59の磁気コイル65,67(
図3参照)へ電力を供給するコイル励磁部61が接続される。制御部73は、コイル励磁部61から入力されるコイル励磁用の電力を、第1コイルユニット57、第2コイルユニット59にそれぞれ出力する。また、制御部73は、磁気コイル65,67へ供給する電力量を制御し、電流の向きを反転させる機能を有する。このように、制御部73は、励磁極性を反転させたり、コイル移動機構71,72によりコイル位置を変更させたりすることで、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43のアーク周囲における外部磁場を変化させる機能を有する。また、励磁極性の反転や、コイル位置の移動は、制御部73が行ってもよいが、制御部73とは別体に設けたコントローラ等により行ってもよい。
【0041】
制御部73は、キャリッジ17に搭載された中継部33を介して操作部31に接続される。操作部31は、溶接条件やコイルユニットの制御条件等を設定する、不図示の操作ボタンや表示部等を有する。各操作ボタンにより、ユーザからの溶接作業において定められた溶接条件の設定を変更する操作や、溶接作業を開始する操作等を受け付ける。また、操作部31は、外部メモリとのコネクタを有し、コネクタに接続された外部メモリに、溶接作業中に制御部73から転送された溶接条件を記憶させる。外部メモリは、操作部31に対して装脱着可能に設けられる記憶媒体であり、例えば、汎用的、大容量、小型の観点からフラッシュメモリが用いられるが、これに限らない。
【0042】
操作部31の表示部は、液晶モニタ等により構成され、溶接条件の内容やエラー情報等を表示する。ここで、エラー情報とは溶接作業前や溶接作業中に発生したエラーに関する情報である。エラー情報には、例えば、アーク切れ、アークストップ、電極短絡、サーボ異常、電源異常等のエラーに関する情報が含まれる。
【0043】
また、アーク溶接システム200は、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43の各電極に溶接電圧を印加し、アークを発生させるTIG溶接電源75A,75B、ワイヤ送給ヘッド25を介してそれぞれの電極のフィラーワイヤに電力を供給するMC電源77A,77B、各溶接トーチに冷却水を循環させる冷却水循環駆動部79、各溶接トーチにシールドガスを供給するシールドガス供給駆動部91を備える。これらもそれぞれ制御部73に接続されて駆動制御される。
【0044】
TIG溶接電源75A,75Bは、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43の各電極とワークとの間に溶接電圧を印加する。また、MC電源77A,77Bは、フィラーワイヤを通じて周知のアーク調整用電圧を供給する。TIG溶接電源75A,75B、MC電源77A,77Bの各接地線Eは、ワークの接地接続部を介してワークに接続される。
【0045】
シールドガス供給駆動部91は、圧力制御器93の設けられたArガスボンベ95に、ガスホース97を通じて接続され、Arガスボンベ95から送給されるアルゴンガスを、ガスホース99を通じて、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43に供給する。
【0046】
冷却水循環駆動部79は、第1溶接トーチ39及び第2溶接トーチ43に冷却水を循環させる。冷却水循環駆動部79は、これら溶接トーチから戻された冷却水を熱交換により所定温度まで冷却した後、再びそれぞれの溶接トーチに供給して冷却を行う。
【0047】
アーク溶接システム200は、全ての制御を一つの制御部73で実施してもよいが、用途ごとに、それぞれ別体の制御部を設けてもよい。例えば、TIG溶接電源75A,75Bから電極とワークとの間に供給される電力や、MC電源77A,77Bからフィラーワイヤに供給される電力を制御する制御部、コイル励磁部61からコイルユニットに供給される電力を制御する制御部等を、制御部73とは別に設けてもよい。
【0048】
また、制御部73は、溶接作業中、溶接条件を制御部73の内部メモリに記憶し、内部メモリに記憶した溶接条件を、操作部31のコネクタに接続された外部メモリへ転送する。
【0049】
次に、上記構成のアーク溶接装置100の作用を説明する。
以下、
図7〜
図10を用いて、磁気コイルにより外部磁場を生成し、アーク干渉や磁気吹きを抑制する様子を説明する。
図7はアークを溶接方向上流側に向かわせる電磁力を作用させる場合の電極と磁気コイルの位置及び電流方向を表す動作説明図である。なお、第1コイルユニット57と第2コイルユニット59、及び第1溶接トーチと第2溶接トーチ43とはそれぞれ同一の構成であるため、双方において同じ作用が得られる。
【0050】
電極41と磁気コイル65,67との相対位置と、磁気コイル65,67に印加する電流、電流方向によって、磁束密度及び磁力線が変化する。例えば、直流電流、電極マイナス極性(DCEN)の条件の場合、電極41を磁気コイル65,67の溶接方向WDの下流側に配置し、磁気コイル65に溶接方向WDの上流側がN極となるように電流を流し(図中矢印D1方向)、磁気コイル67に溶接方向WDの下流側がN極となるように電流を流す(図中矢印D2方向)。すると、磁気コイル65による磁力線LMF1と、磁気コイル67による磁力線LMF2と、電極41による磁力線LMF3との方向が、電極41の溶接方向WDの下流側で同じ向きに揃い、磁束密度が高くなる。一方、電極41周囲の他の部位では、磁気コイル65,67及び電極41からの磁力線の方向が一致せず、磁束密度が相対的に低くなる。その結果、溶接時に電極41から発生するアークには、主に磁束密度の高い部位の合成磁力線LMFが作用して、溶接方向WDの上流側に向かう電磁力EMFが作用する。
【0051】
アークに作用する電磁力EMFの方向は、電極41、磁気コイル65,67の電流の向きと、電極41と磁気コイル65,67との相対位置とによって変化する。したがって、本構成のアーク溶接装置では、電極41と磁気コイル65,67の電流の向きと、電極41と磁気コイル65,67との相対位置とを、制御部73(
図6参照)が制御することで、アークを溶接方向WDに対して溶接方向上流側に偏向させることが可能となる。
【0052】
図8はアークを溶接方向下流側に向かわせる電磁力を作用させる場合の電極と磁気コイルの位置及び電流方向を表す動作説明図である。
図7に示す場合の印加電流と同じ条件で
図8のように電極41を磁気コイル65,67の溶接方向WDの上流側に配置した場合、磁気コイル65からの磁力線LMF1と、磁気コイル67からの磁力線LMF2と、電極41からの磁力線LMF3との方向が、電極41の溶接方向の上流側で同じ向きに揃い、磁束密度が高くなる。一方、電極41周囲の田の部位では、磁気コイル65,67及び電極41からの磁力線の向きが一致せず、磁束密度が相対的に低くなる。その結果、溶接時に電極41から発生するアークには、主に磁束密度の高い部位の合成磁力線LMFが作用して、溶接方向WDの下流側に向かう電磁力EMFが作用する。
【0053】
図7と
図8に示すように、電極41と磁気コイル65,67との相対位置を、溶接方向WDに沿って変化させることで、電極41から発生するアークに作用する電磁力の向きを溶接方向WDの上流側又は下流側のいずれの向きに調整できる。また、電磁力の強さは、磁気コイル65,67への印加電流を増減することで調整できる。
【0054】
図9はアークを溶接方向に直交する一方の側方(図中右側)に向かわせる電磁力を作用させる場合の電極と磁気コイルの位置及び電流方向を表す動作説明図である。
図7,
図8の場合と同様に、直流電流、電極マイナス極性(DCEN)の条件で、電極41を磁気コイル65,67の溶接方向WDの中央に配置し、磁気コイル65,67に溶接方向WDの上流側がN極となるようにそれぞれ電流を流す(図中矢印D1、D2方向)。すると、磁気コイル67による磁力線LMF2と、電極41による磁力線LMF3との方向が、電極41の溶接方向WDに直交する一方の側方(図中左側)で同じ向きに揃い、磁束密度が高くなる。一方、電極41周囲の他の部位では、磁気コイル65,67及び電極41からの磁力線の方向が一致せず、磁束密度が相対的に低くなる。その結果、溶接時に電極41から発生するアークには、主に磁束密度の高い部位の合成磁力線LMFが作用して、溶接方向WDに直交する他方の側方(図中右側)に向かう電磁力EMFが作用する。
【0055】
図10はアークを溶接方向に直交する他方の側方(図中左側)に向かわせる電磁力を作用させる場合の電極と磁気コイルの位置及び電流方向を表す動作説明図である。
図10の場合は、
図9の場合と磁気コイル65,67の極性を逆にしている点以外は、
図9の場合の条件と同じである。この場合、磁気コイル65による磁力線LMF1と、電極41による磁力線LMF3との方向が、電極41の溶接方向WDに直交する他方の側方(図中右側)で同じ向きに揃い、磁束密度が高くなる。一方、電極41周囲の他の部位では、磁気コイル65,67及び電極41からの磁力線の方向が一致せず、磁束密度が相対的に低くなる。その結果、溶接時に電極41から発生するアークには、主に磁束密度の高い部位の合成磁力線LMFが作用して、溶接方向WDに直交する一方の側方(図中左側)に向かう電磁力EMFが作用する。
【0056】
図9、
図10に示すように、電極41を磁気コイル65,67の溶接方向WDの中央に配置し、磁気コイル65,67の極性を溶接方向WDに関して同極性にしつつ、電流の向きを変化させることで、電極41から発生するアークに作用する電磁力の向きを溶接方向WDに直交する一方の側又は他方の側のいずれの向きに調整できる。また、電磁力の強さは、磁気コイル65,67への印加電流を増減することで調整できる。
【0057】
このように、アーク溶接装置100は、溶接方向WDに対して、上流方向、下流方向、及び溶接方向に直交する2方向の合計4方向にアークの偏向方向を制御できるため、例えば、磁気吹きが生じた場合、磁気吹きの方向に対し、逆方向に電磁力を発生させることによって、磁気吹きによる影響をキャンセルできる。
【0058】
ここで、アークにかかる力は、電極位置の磁束密度によって変化し、10mTを下回るとアークに作用する力が不足し、90mTを上回るとアークに作用する力が過剰となる。よって、溶接品質を最も安定化しうる範囲として、10〜90mTであることが好ましい。また、磁気吹き防止の場合、最も大きくなる磁気吹きの強さは、複数の電極に流れる電流の合計に依存する。よって、最も接地接続部に近い電極(本構成例では第2溶接トーチ43の電極)において、合計電流と磁束密度の比率(合計電流/磁束密度)の範囲が1.5〜60.0であることがより好ましい。合計電流と磁束密度の比率を60.0以下とすることで磁界の不足を生じさせず、1.5以上とすることで磁気コイル外径の肥大化を抑制できる。
【0059】
次に、上記構成のアーク溶接装置100を用いたアーク溶接方法を説明する。
アーク溶接装置100は、例えばLNGタンクの側板を溶接する等の用途に適用可能である。つまり、上下方向に沿って延在するワークの開先49(
図3参照)に対して、その延在方向に第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43を配置し、ワーク19と第1溶接トーチ39の電極及び第2溶接トーチ43の電極との間にアークを発生させて溶接を行う。側板には、開先49に沿ってレール11が取り付けられ、アーク溶接装置100は、このレール11をキャリッジ17が自走する。
【0060】
本構成例において、アーク溶接装置100は、TIG溶接により一対の非消耗電極(電極41)が、溶接方向に対する上流側と下流側とに一つずつ配置される。これら電極は、
図6に示す制御部73による2軸スライダ47,48の位置決め動作により、XYZ軸方向の所定の溶接位置に配置される。アーク溶接装置100は、複数電極の内、少なくとも、ワーク19の接地接続部に最も近い側の電極の両脇に配置される磁気コイル65,67により外部磁場を発生させる。
【0061】
アーク溶接装置100は、第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43のそれぞれに生じるアークを、制御部73により制御される外部磁場によって偏向し、磁気吹きを抑制する。磁気吹きの抑制動作は、予め記憶した磁気吹き抑制データテーブル等の諸データに基づき制御される。磁気吹き抑制データテーブルには、例えば溶接電流に応じた第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43に発生する磁気吹き量(変位量)、この磁気吹き変位量を是正するためのそれぞれのコイルユニットの駆動電流等の情報が含まれる。磁気吹き抑制データテーブルは、例えば制御部73の内部メモリに格納される。アーク溶接装置100は、制御部73からこれらコイルユニットの駆動電流を、他の溶接条件と共に操作部31の外部メモリに記憶させて溶接を行う。これにより、本アーク溶接方法では、第1溶接トーチ39、第2溶接トーチ43のそれぞれにおける溶接電流に対応し、アーク発生位置を制御部73により溶接方向に対して上流側及び下流側、並びに溶接方向に直交する2方向との合計4方向に方向制御し、磁気吹きを抑制した状態で溶接を行うことが可能となる。
【0062】
上記した本構成のアーク溶接装置100によれば、ワーク19の接地接続部に最も近接した電極の両脇に、一対の磁気コイル65,67が配置される。電極を挟むこれら磁気コイル65,67は、磁気コイル65,67の軸線がワーク19の溶接方向に沿う姿勢で配置される。ワーク19の溶接方向に沿う姿勢とは、ワーク19に対する磁気コイル65,67の軸線が、垂直以外でワーク19の溶接面に対して平行又は傾斜する姿勢をいう。
【0063】
また、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43の各電極41は、電極プラス又は電極マイナスとなって、電極周囲に磁場を生じさせる。一方、電極41を挟む磁気コイル65,67にも電流が流れることにより磁場を生じさせる。アークは、これら電極周囲の磁場、及び磁気コイル65,67の磁場により偏向する。このアークを偏向する力(電磁力)は、磁力線が揃ったところの合成磁場で強くなる。その電磁力の方向は、電極41、磁気コイル65,67の電流の向きと、電極41と磁気コイル65,67との相対位置によって変化する。そのため、アーク溶接装置では、電極、コイルユニットの電流の向きと相対位置と、を制御部73により制御して、アークを、溶接方向を含む合計4方向に方向制御することが可能となる。これにより、アーク干渉と磁気吹きを抑制できる。
【0064】
また、アーク溶接装置100は、電極41の位置が、一対の磁気コイル65,67の間において、磁気コイルの先端から、巻線部全長の1.5倍を超える距離で離れることがない。これにより、アークを偏向するのに必要な電磁力を低電力で確保できる。
【0065】
また、アーク溶接装置100は、例えば2電極で接地線が1本のみの構成で、各電極に150Aの電流が流れる場合、合計電流は300Aとなる。合計電流が大きいほど磁気吹きが大きくなるため、磁気吹きを抑制するためには、より大きい磁束密度が必要となる。そこで、合計電流と磁束密度の比率の範囲を、上記したように1.5〜60.0とする。
【0066】
また、アーク溶接装置100は、ガス吸引部27(又は遮蔽部材)により、溶接方向上流側の溶接トーチの電極(先行極)におけるアークの不安定が抑制される。すなわち、立向き上方向への溶接において、溶接方向下流側の溶接トーチの電極(後行極)におけるシールドガスが開先49に沿って上昇し、周辺空気を巻き込むことで、先行極のシールドガスを乱すことにより発生する先行極のアーク不安定を抑制できる。なお、このガス吸引部27(又は遮蔽物)は、特に立向き溶接でアーク安定化の効果が顕著となる。
【0067】
また、アーク溶接装置100は、コイル移動機構71,72の駆動により、第1コイルユニット57と第2コイルユニット59との溶接トーチの電極に対する相対位置を任意に変更できる。この相対位置の変更により、アークに作用する電磁力の方向を溶接方向に関して反転させることができる。また、一対の磁気コイル65,67は、離間方向(X軸方向)に移動可能となることにより離間方向中央に容易に電極を位置決めできる。
【0068】
また、アーク溶接装置100は、第1溶接トーチ39と第2溶接トーチ43の電極間距離が50〜400mmの範囲に設定される。これにより、電極間の距離が50mm以上であることにより入熱を抑制でき、また、400mm以下であることによりビード外観が良好となる。
【0069】
また、アーク溶接装置100は、MC電源77A,77Bによりフィラーワイヤへ印加する電流や極性を変化させることによって、フィラーワイヤによる磁場をアークに作用させることができる。このため、第1コイルユニット57、第2コイルユニット59による外部磁場の形成に併用することによって、アークの方向制御を補助できる。
【0070】
[第2構成例]
次に、第2構成例のアーク溶接装置を説明する。
図11は第2構成例のアーク溶接装置の要部構成図である。
本構成例のアーク溶接装置300は、電極107を有する溶接トーチ109と、2軸スライダ111と、磁気コイル65、磁気コイル67と、カメラ115とを有する。また、磁気コイル65,67は、前述同様のコイル励磁部61に接続され、制御部73からの指令によって駆動される。
【0071】
制御部73は、2軸スライダ111、カメラ115の他に、図示はしないが、前述と同様のコイル移動機構71,72(
図3参照)等に接続され、各部を統括制御する。
【0072】
カメラ115は、アークを撮像できるように、例えば溶接トーチの近傍に取り付けられる。カメラ115は、撮像された画像データを出力情報として出力する。制御部73は、カメラ115から出力された出力情報を内部メモリ等に設けられた画像メモリに保存する。そして、保存された出力情報の画像データを、内部メモリに格納されたプログラムにより処理し、アークの姿勢、例えばアーク中心位置を求める。制御部73は、求めたアークの姿勢から磁気吹きの偏向量を演算して、この磁気吹きの偏向量に応じてコイル励磁部61を駆動する。
【0073】
これにより、アーク溶接装置300は、アークに発生する磁気吹きに応じて、磁気コイル65,67に印加される電流、電流方向と、コイル移動機構とを制御し、磁気吹きによるアークの偏向を正常状態に戻すことができる。その結果、磁気吹きを逐次抑制しながら溶接を実施できる。
【0074】
したがって、上記した各構成例のアーク溶接装置100,300によれば、溶接姿勢や極間距離等の施工条件に影響されず、アーク干渉と磁気吹きを抑制して、高品質な溶接を高能率で実現できる。
【実施例】
【0075】
次に、上記構成1,2によりアーク溶接を実施した実施例を説明する。なお、ここで説明する溶接条件は一例であり、本発明は以下の溶接条件に限定されるものではない。
【0076】
アーク溶接条件は以下の範囲がより好ましい。
溶接電流:80〜300A
アーク電圧:5〜15V
溶接速度:5〜30cm/min
電極間距離:50〜400mm
【0077】
上記溶接条件でアーク溶接を実施したところ、構成例1,2共に、アーク干渉や磁気吹きの発生が抑制され、高品質な溶接が行えることが確認できた。
【0078】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0079】
例えば、上記した一対の溶接トーチは、それぞれにコイルユニットを配置しているが、ワークの接地接続部に最も近くに配置された溶接トーチ側にのみコイルユニットを配置した構成であってもよい。
【0080】
また、上記した一対の溶接トーチは、いずれも非消耗電極であるが、消耗電極であってもよく、いずれか一方が非消耗電極、いずれか他方が消耗電極とした構成であってもよい。
【0081】
また、上記したアーク溶接装置は、アークを発生させる溶接トーチ側と磁場を発生させるコイルユニット側とを分離した構成としてもよい。その場合、コイルユニット、コイル移動機構、コイル励磁部、制御部とを備えたアーク溶接用磁気制御装置を、任意のアーク溶接装置に付加することで、汎用的に使用可能な装置構成にできる。
【0082】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 非消耗電極又は消耗電極の一方又は両方からなる2本以上の複数電極が溶接方向に沿って配置され、前記複数電極とワークとの間に溶接電流を印加してアークを発生させるアーク溶接装置であって、
前記複数電極の少なくとも前記ワークの接地接続部に最も近くに配置された電極の、当該電極を挟んだ両脇側に設けた一対の磁気コイルと、
一対の前記磁気コイルを励磁して磁束を発生させるコイル励磁部と、
前記電極と一対の前記磁気コイルとの相対位置、及び前記電極と一対の前記磁気コイルからの磁束に応じて、前記アーク周囲の外部磁場を変化させる制御部と、
を備えるアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、ワークの接地線に最も近接した電極の両側に、磁気コイルが配置される。電極を挟むこの磁気コイルは、鉄心の軸線がワークの溶接方向に沿う姿勢で配置される。電極は、電極プラス又は電極マイナスとなって、電極自体に磁場を生じる。一方、この電極を挟む磁気コイルにも電流が流れることにより磁場が生じる。アークは、これら電極自体の磁場、及びそれぞれの磁気コイルの磁場により偏向する。このアークを偏向する電磁力は、各部からの磁力線の向きが揃ったところで強くなる。電磁力の方向は、電極、磁気コイルの電流の向きと、電極と磁気コイルの相対位置と、によって変わる。したがって、アーク溶接装置では、磁気吹きによるアークの偏向を、電極、磁気コイルの電流の向きと、電極と磁気コイルの相対位置と、を制御することによって、アークの磁気吹きによる影響をキャンセルできる。
【0083】
(2) 前記電極は、前記溶接方向に関して、前記磁気コイルの巻線部全長の中点を中心に、前記巻線部全長の1.5倍以内の範囲に配置される(1)のアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、電極の位置が、一対の磁気コイルの間において、アークを偏向するのに必要な電磁力を低電力で確保できる。
【0084】
(3) 前記コイル励磁部が前記電極に発生させる磁束密度は10〜90mTであり、
前記接地接続部に流れる合計電流と前記磁束密度との比率は1.5〜60.0である(1)又は(2)のアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、例えば2電極で接地線が1本であって、各電極に150A流れる場合、合計電流は300Aとなる。磁気吹きは、合成される合計電流が大きいほど強く生じるため、磁気吹きを抑制するためには大きい磁束密度が必要となる。そこで、合計電流と磁束密度の比率を60.0以下とすることで磁界の不足を生じさせず、1.5以上とすることで磁気コイル外径の肥大化を抑制できる。
【0085】
(4) 前記複数電極の電極同士の間に、周囲ガスを吸引するガス吸引部が設けられた(1)〜(3)のいずれか一つのアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、複数電極のうち先行極のアークの不安定が抑制される。例えば、立向き上方向への溶接において、後行極のシールドガスが開先に沿って上昇し、この上昇ガスが周辺空気を巻き込んだガスとなって先行極の周囲を覆い、その結果、先行極のアークが不安定になることを抑制できる。
【0086】
(5) 前記複数電極の電極同士の間に、前記電極毎の周囲空間を遮蔽する遮蔽部材が設けられた(1)〜(4)のいずれか一つのアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、複数電極のうち先行極のアークの不安定が抑制される。例えば、立向き上方向への溶接において、後行極のシールドガスが開先に沿って上昇し、先行極のシールドガスを乱すことにより発生する先行極のアーク不安定を抑制できる。
【0087】
(6) 前記制御部は、前記磁気コイルを前記溶接方向に沿って移動させる(1)〜(5)のいずれか一つのアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、それぞれの磁気コイルが、コイル移動機構により移動自在となる。磁気コイルは、溶接方向に移動されることにより、アークに作用する電磁力の方向を反転できる。
【0088】
(7) 制御部は、前記磁気コイルの励磁極性を反転させる(1)〜(6)のいずれか一つのアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、磁気コイルに供給する電流の向きを反転させることで、アーク周囲における外部磁場の磁力線の向きが反転し、発生する電磁力の方向を簡単に反転できる。
【0089】
(8) 前記複数電極は、2電極からなる非消耗電極からなり、2電極間の極間距離が50〜400mmである(1)〜(7)のいずれか一つのアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、2電極間の極間距離が50mm以上であることでアーク干渉や入熱の集中がなくなり、400mm以下であることでビード外観が良好となる。
【0090】
(9) 前記非消耗電極に少なくとも1本以上のフィラーワイヤを送給するワイヤ送給ヘッドと、前記フィラーワイヤに独立して電流を印加するワイヤ電源と、前記フィラーワイヤに印加する電流と極性の少なくとも一方を変化させるワイヤ電流調整部と、を備える(8)のアーク溶接装置。
このアーク溶接装置によれば、ワイヤ電流調整部によりフィラーワイヤの電流や極性を変化させることによって、電極からの磁場をアークへ干渉させることができる。このため、磁気コイルによる外部磁場の形成に併用することで、アークの方向制御を補助できる。
【0091】
(10) 非消耗電極又は消耗電極の一方又は両方からなる2本以上の複数電極が溶接方向に沿って配置され、前記複数電極とワークとの間に溶接電流を印加してアークを発生させるアーク溶接方法であって、前記複数電極の少なくとも前記ワークの接地接続部に最も近くに配置された電極の、当該電極を挟んだ両脇側に設けられた一対の磁気コイルを励磁して磁束を発生させ、前記電極と一対の前記磁気コイルとの相対位置、及び前記磁気コイルからの磁束に応じて、前記アーク周囲の外部磁場を変化させるアーク溶接方法。
このアーク溶接方法によれば、ワークの接地接続部に最も近い電極の両脇側に、磁気コイルを配置する。電極を挟むこの磁気コイルは、鉄心の軸線がワークに沿う姿勢で配置される。電極は、電極プラス又は電極マイナスとなって、電極自体に磁場を生じる。一方、この電極を挟む磁気コイルにも電流が流れることにより磁場が生じる。アークは、これら電極自体の磁場、及びそれぞれの磁気コイルの磁場により偏向する。このアークを偏向する電磁力は、磁力線が揃ったところで強くなる。つまり、電磁力の方向は、電極、磁気コイルの電流の向きと、電極と磁気コイルの相対位置と、によって変わる。したがって、本アーク溶接方法においては、電極、磁気コイルの電流の向きと、電極と磁気コイルの相対位置と、を制御することによって、アークを方向制御することが可能となる。これにより、アーク干渉や磁気吹きを抑制できる。
【0092】
(11) 非消耗電極又は消耗電極からなる電極に発生するアークの指向性を制御するアーク溶接用磁気制御装置であって、U字型鉄心の各先端部に、それぞれ導線を巻回した一対の巻線部を有する磁気コイルと、前記磁気コイルを、一対の前記巻線部の間に前記電極を挟んで配置するとともに、溶接方向に沿って移動可能に支持するコイル移動機構と、前記磁気コイルを励磁して磁束を発生させるコイル励磁部と前記電極と一対の前記巻線部との相対位置、及び前記電極と一対の前記磁気コイルからの磁束に応じて、前記アーク周囲の外部磁場を変化させる制御部と、を備えるアーク溶接用磁気制御装置。
このアーク溶接用磁気制御装置によれば、非消耗電極又は消耗電極を挟むように、一対の磁気コイルが設けられる。それぞれの磁気コイルは、鉄心に導線がコイル状に巻回される。鉄心は、2本の独立した棒形、或いは馬蹄型(U字型)であってもよい。磁気コイルは、鉄心の軸線がワークに沿う姿勢で配置される。磁気コイルは、電流が流れることにより磁場が生じる。一方、この磁気コイルに挟まれる電極も、電極プラス又は電極マイナスとなって、電極自体に磁場を生じる。アークは、これら電極自体の磁場、及びそれぞれの磁気コイルの磁場により偏向する。このアークを偏向する電磁力は、磁力線が揃ったところで強くなる。電磁力の方向は、電極、磁気コイルの電流の向きと、電極と磁気コイルの相対位置と、によって変わる。したがって、アーク溶接用磁気制御装置では、電極、磁気コイルの電流の向きと、電極と磁気コイルの相対位置と、を制御することによって、アークを前後左右に方向制御することが可能となる。
【0093】
(12) 前記巻線部の前記導線の巻数が800〜1600回であり、一対の前記巻線部同士の間の距離が80〜200mmである(11)のアーク溶接用磁気制御装置。
このアーク溶接用磁気制御装置によれば、同一鉄心、同一導線径、及び同一電圧において、導線の巻き数が800回以上であることで磁界の不足が生じず、1600回以下であることで磁気コイル外径の肥大化が生じない。また一対の巻線部同士の間の距離が80mm以上であることで磁気コイルと電極の干渉を抑制でき、200mm以下であることで磁界の不足が生じにくくなる。これにより、アークを効率よく方向制御することが可能となる。