(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817095
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】太陽放射強度算出装置および太陽放射強度算出方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/12 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
G01W1/12 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-19217(P2017-19217)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-128262(P2018-128262A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030237
【氏名又は名称】日本ユニシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】奥村 知之
【審査官】
後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−003308(JP,A)
【文献】
特開平11−183640(JP,A)
【文献】
特開2011−159199(JP,A)
【文献】
特開2013−253892(JP,A)
【文献】
特開2004−069372(JP,A)
【文献】
米国特許第04611929(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00−1/18
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射伝達方程式に基づいて太陽放射強度を算出する太陽放射強度算出装置であって、
地上から天頂方向に向かって、地球の表面形状に沿うように大気層を複数層に分割した同心状大気モデルに関する情報を記憶する大気モデル情報記憶部と、
太陽放射の直達成分に関する透過距離を、上記太陽放射の直達成分の軌跡が上記同心状大気モデルの一の大気層における下端と交わる下端点と、上記軌跡が上記一の大気層における上端と交わる上端点との距離として算出する透過距離算出部とし、
上記透過距離算出部により算出された上記透過距離を上記放射伝達方程式に適用して上記太陽放射強度を算出する放射強度算出部とを備えたことを特徴とする太陽放射強度算出装置。
【請求項2】
上記透過距離算出部は、最も下の大気層における上記下端点である地上観測点を原点、地球の半径方向をx軸、当該半径方向に垂直な方向をy軸、上記上端点の座標を(x,y)、上記太陽方向の天頂角をθ0として、
y=x*tanθ0
(x+地球半径)2+y2=(地球半径+大気層厚)2
から成る連立方程式により上記上端点の座標を求め、上記下端点と上記上端点との距離を上記透過距離として算出することを特徴とする請求項1に記載の太陽放射強度算出装置。
【請求項3】
放射伝達方程式に基づいて太陽放射強度を算出する太陽放射強度算出方法であって、
地上から天頂方向に向かって、地球の表面形状に沿うように大気層を複数層に分割した同心状大気モデルを設定し、上記放射伝達方程式における太陽放射の直達成分に関する透過距離を、上記太陽放射の直達成分の軌跡が上記同心状大気モデルの一の大気層における下端と交わる下端点と、上記軌跡が上記一の大気層における上端と交わる上端点との距離として算出するようにしたことを特徴とする太陽放射強度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽放射強度算出装置および太陽放射強度算出方法に関し、特に、放射伝達方程式に基づいて太陽放射強度を算出する装置に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、紫外線が増加すると、人体に有害な影響を及ぼすほか、生態系や農業生産、構造物などにも悪影響を及ぼす可能性があることが知られている。そのため、地上に届く紫外線の強度を予測し、あらかじめ報知することが望まれている。従来、紫外線強度を予測するための代表的な方法として、太陽放射の放射伝達方程式を用いて地上の紫外線強度を予測する方法が知られている。
【0003】
放射伝達方程式では、
図5に示すように、地上から天頂方向に向かって、大気層を複数層に分割した平行平板モデルを仮定し、紫外線強度を計算している。平行平板モデルは、大気密度の変化に応じて大気層を無限平面状に複数層に分割したものである。この平行平板モデルでは、各層の下端における紫外線強度は、当該層の下端から入射する放射輝度の減衰、太陽光の多重散乱、太陽光の直達成分の一次散乱の3つの要素の総合として、次の放射伝達方程式で表される。右辺の第1項が減衰、第2項が多重散乱、第3項が直達成分の一次散乱である。
【0004】
【数1】
【0005】
この放射伝達方程式を、大気上端(第1層の上端)での紫外線強度を初期値F
0として第4層の地上まで順に解くことで、地上での紫外線強度が求まる。すなわち、まず第1層の上端での紫外線強度を初期値F
0として放射伝達方程式を解くことにより、第1層の下端における紫外線強度が求まる。次に、第1層で求められた紫外線強度を第2層の上端での紫外線強度の初期値F
0として放射伝達方程式を解くことにより、第2層の下端における紫外線強度が求まる。この計算を第4層まで繰り返すことにより、第4層の下端である地上における紫外線強度が求まる。
【0006】
なお、任意の地点の紫外線強度を高精度かつ細密に予測することを目的とした装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の予測装置では、雲量の影響を考慮した全天日射量の予測値を気象予測モデルから取得するとともに、予め取得された紫外線強度観測値と全天日射量観測値との相関関係から、全天日射量を紫外線強度に変換する波長毎の変換式を作成する。そして、作成した波長毎の変換式に基づいて、任意の地点の緯度およびオゾン全量と、全天日射量の予測値とをもとに、波長別の紫外線強度の予測値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−89425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
平行平板モデルを用いた放射伝達方程式により紫外線強度を求める場合、太陽高度が地平線の近傍にあるとき、太陽光の直達成分に関して大気層の下端点と上端点とを結ぶ紫外線透過距離が無限大に近づくため、正しい紫外線強度を算出することができないという問題があった。
【0009】
図6は、この従来の問題を説明するための図である。
図6は、紫外線強度の地上観測点Pを下端点とする第4層における紫外線透過距離を示している。紫外線透過距離は、第4層の下端点である紫外線強度の地上観測点Pと、太陽光の直達成分の軌跡が第4層の上端と交わる上端点Qとの距離である。この紫外線透過距離は、
図6のように太陽高度が地平線近傍にある場合には、極めて大きな値となる。
【0010】
すなわち、紫外線透過距離は、放射伝達方程式において太陽光の直達成分を表す右辺第3項に含まれるτ/μ
0により表される。ここで、μ
0=cosθ
0であるので、太陽光入射角(太陽方向天頂角)θ
0が地平線方向にあるとき、μ
0=0となり、紫外線透過距離τ/μ
0は無限大となる。そのため、exp(−τ/μ
0)=0となり、紫外線強度の計算に直達成分が加算されない結果となってしまう。太陽方向天頂角θ
0が約80[deg]を超える地平線近傍においても、紫外線透過距離τ/μ
0が極めて大きな値となるため、太陽光の直達成分は殆ど無視されてしまう。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、太陽高度が地平線近傍にあるときでも、放射伝達方程式に基づいて正しい太陽放射強度を算出することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明では、地上から天頂方向に向かって、地球の表面形状に沿うように大気層を複数層に分割した同心状大気モデルを設定する。そして、放射伝達方程式における太陽放射の直達成分に関する透過距離を、太陽放射の直達成分の軌跡が同心状大気モデルの一の大気層における下端と交わる下端点と、軌跡が一の大気層における上端と交わる上端点との距離として算出するようにしている。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した本発明によれば、太陽放射の直達成分の軌跡が直線であるのに対し、同心状大気モデルにおける大気層の上端が円弧状となるため、太陽高度が地平線近傍にあるときでも、放射伝達方程式に含まれている大気層の透過距離が極めて大きな値となることがなくなる。これにより、放射伝達方程式において太陽放射の直達成分が殆ど無視されてしまうことがなく、放射伝達方程式に基づいて正しい太陽放射強度を算出することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態による同心状大気モデルの一例を示す図である。
【
図2】本実施形態による太陽放射強度算出装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態による透過距離の算出方法を示す図である。
【
図4】本実施形態による太陽放射強度算出装置の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の太陽放射強度算出装置は、太陽放射の放射伝達方程式に基づいて、地上観測点の太陽放射強度を算出するものである。本実施形態では、放射伝達方程式に用いる大気モデルとして、地上から天頂方向に向かって、地球の表面形状に沿うように大気層を複数層に分割した同心状大気モデルを使用する。
【0016】
図1は、本実施形態による同心状大気モデルの一例を示す図である。本実施形態の同心状大気モデルは、地上から天頂方向に向かって大気層を複数層に分割している点では、従来の平行平板モデルと同じである。
図1の例では、天頂から地上に向かって大気層を4層に分割している。ただし、分割した各大気層は、地球の表面形状に沿うように円弧状に形成されている。
【0017】
本実施形態では、この
図1に示す同心状大気モデルに基づいて、次に示す放射伝達方程式により地上観測点の紫外線強度を計算する。
【0019】
上記放射伝達方程式に含まれる太陽放射の直達成分に関する透過距離rは、太陽放射の直達成分の軌跡が同心状大気モデルの一の大気層における下端と交わる下端点と、当該軌跡が一の大気層における上端と交わる上端点との距離として算出する。透過距離rは、一の大気層が第1層の場合はr
1、第2層の場合はr
2、第3層の場合はr
3、第4層の場合はr
4である。
【0020】
従来と同様に、この放射伝達方程式を、大気上端(第1層の上端)での紫外線強度を初期値F
0として第4層の地上まで順に解くことで、地上観測点での紫外線強度を求める。すなわち、まず第1層の上端での紫外線強度を初期値F
0として、第1層の透過距離r
1を適用して放射伝達方程式を解くことにより、第1層の下端における紫外線強度を求める。次に、第1層で求められた紫外線強度を第2層の上端での紫外線強度の初期値F
0として、第2層の透過距離r
2を適用して放射伝達方程式を解くことにより、第2層の下端における紫外線強度を求める。以下同様に、この計算を第4層まで繰り返すことにより、第4層の下端である地上観測点における紫外線強度を求める。
【0021】
図2は、本実施形態による太陽放射強度算出装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態の太陽放射強度算出装置は、記憶媒体として、大気モデル情報記憶部20を備えている。また、本実施形態の太陽放射強度算出装置は、その機能構成として、透過距離算出部21および放射強度算出部22を備えている。
【0022】
上記各機能ブロック21,22は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック21,22は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
【0023】
大気モデル情報記憶部20は、
図1に示した同心状大気モデルに関する情報を記憶する。同心状大気モデルに関する情報には、地球半径、各層の光学的厚さ、各層の単一散乱アルベド、各層の散乱位相関数、第1層の上端における紫外線強度など、放射伝達方程式の計算に必要な各種情報が含まれている。
【0024】
透過距離算出部21は、上述したように、太陽放射の直達成分に関する透過距離を、太陽放射の直達成分の軌跡が同心状大気モデルの一の大気層における下端と交わる下端点と、軌跡が一の大気層における上端と交わる上端点との距離として算出する。すなわち、透過距離算出部21は、
図1に示す各大気層の透過距離r
1,r
2,r
3,r
4を算出する。
【0025】
図3は、第4層における透過距離r
4の算出方法を示す図である。
図3に示すように、透過距離算出部21は、太陽放射の直達成分の軌跡が交わる第4層の下端点である地上観測点Pを原点(0,0)、地球の半径方向をx軸、当該半径方向に垂直な方向をy軸、直達成分の軌跡が交わる第4層の上端点Qの座標を(x,y)、太陽方向の天頂角をθ
0、R
1=地球半径、R
2=(地球半径+第4層の大気層厚)として、次の連立方程式により上端点Qの座標(x,y)を求め、下端点Pと上端点Qとの距離を第4層の透過距離r
4として算出する。
y=x*tanθ
0 ・・・(1)
(x+R
1)
2+y
2=(R
2)
2 ・・・(2)
ここで、式(1)は、直線PQの式である。式(2)は、第4層の上端を円周とする円の方程式である。
【0026】
透過距離算出部21は、以上の同様の連立方程式により、他の各大気層の透過距離r
1,r
2,r
3もそれぞれ算出する。例えば、第3層の透過距離r
3は、直達成分の軌跡が交わる第3層の上端点Q’の座標を(x’,y’)、R
2’=(地球半径+第4層の大気層厚+第3層の大気層厚)として、次の連立方程式により上端点Q’の座標(x’,y’)を求める。そして、第4層の下端点Pと第3層の上端点Q’との距離を求めた後、その距離から第4層の透過距離r
4を減算することで、第3層の透過距離r
3を算出することが可能である。
y’=x’*tanθ
0
(x’+R
1)
2+y’
2=(R
2’)
2
【0027】
放射強度算出部22は、透過距離算出部21により算出された各大気層の透過距離r
1,r
2,r
3,r
4を放射伝達方程式に順次適用して、地上観測点Pの紫外線強度を算出する。すなわち、大気上端(第1層の上端)での紫外線強度を初期値F
0として、各大気層の透過距離r
1,r
2,r
3,r
4を放射伝達方程式に順次適用し、第1層から第4層の地上観測点Pまで順に放射伝達方程式を解くことで、地上観測点Pでの紫外線強度を算出する。
【0028】
以上詳しく説明したように、本実施形態によれば、太陽放射の直達成分の軌跡が直線であるのに対し、同心状大気モデルにおける大気層の上端が円弧状となるため、
図4のように太陽高度が地平線近傍にあるときでも、大気層の透過距離が極めて大きな値となることがなくなる。これにより、放射伝達方程式において太陽放射の直達成分が殆ど無視されてしまうことがなく、放射伝達方程式に基づいて正しい太陽放射強度を算出することができるようになる。
【0029】
なお、上記実施形態では、紫外線強度を算出する例について説明したが、赤外線や可視光線など、紫外線以外の太陽放射の強度についても同様に算出することが可能である。
【0030】
また、上記実施形態では、太陽方向天頂角θ
0の大きさによらず同心状大気モデルを用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、太陽方向天頂角θ
0が所定値(例えば、80[deg])未満の場合に平行平板モデルを用い、太陽方向天頂角θ
0が所定値以上の場合に同心状大気モデルを用いるようにしてもよい。なお、所定値は、従来のτ/μ
0で算出される透過距離が急速に大きくなる太陽方向天頂角θ
0の値に設定するのが好ましい。
【0031】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
20 大気モデル情報記憶部
21 透過距離算出部
22 放射強度算出部