(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料ガスを改質するための改質器と、前記改質器にて改質された改質燃料ガス及び酸化材の酸化及び還元により発電を行うための複数の燃料電池セルを備えたセルスタックと、前記改質器に燃料ガスを供給するための燃料ガスポンプと、前記セルスタックに酸化材を供給するための酸化材ブロアと、前記改質器に改質水を供給するための水ポンプと、前記燃料ガスポンプ、前記酸化材ブロア及び前記水ポンプを制御するためのコントローラと、を備えた燃料電池システムであって、
前記コントローラは、前記セルスタックの劣化診断を行うためのスタック劣化診断手段を含み、前記スタック劣化診断手段は、劣化診断期間の間隔毎に前記セルスタックの劣化進行状態を演算するためのスタック劣化勾配値演算手段と、前記スタック劣化勾配値演算手段によるスタック劣化勾配値に基づいて基準寿命期間におけるスタック予測劣化値を演算するためのスタック予測劣化値演算手段と、前記スタック予測劣化値演算手段による前記スタック予測劣化値に基づいて劣化が進行しているか否かを判定するスタック劣化判定手段と、を含んでいることを特徴とする燃料電池システム。
前記スタック劣化判定手段は、前記基準寿命期間におけるスタック劣化判定基準値と前記スタック予測劣化値演算手段による前記スタック予測劣化値とを比較し、前記スタック予測劣化値が前記スタック劣化判定基準値を超えて劣化すると劣化進行と判定することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
前記スタック劣化診断手段は、更に、前記セルスタックの温度を検知するための温度検知手段及び/又は前記セルスタックの発電出力を検知するための出力検知手段と、前記温度検知手段の検知温度及び/又は前記出力検知手段の検知出力の計測時間毎の移動平均値を演算するための移動平均値演算手段とを含み、前記移動平均値演算手段による前記検知温度及び/又は前記検知出力の前記移動平均値が前記劣化診断期間の間にわたって更新され、前記スタック劣化勾配値演算手段は、前記劣化診断期間の経過時の前記検知温度及び/又は前記検知出力の現移動平均値と一つ前の前記劣化診断期間の前記検知温度及び/又は前記検知出力の前移動平均値に基づいて前記スタック劣化勾配値を演算することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
前記移動平均値演算手段は、前記温度検知手段の検知温度の計測時間毎の移動平均値を演算し、前記移動平均値演算手段による前記検知温度の前記移動平均値が前記劣化診断期間の間にわたって更新され、前記スタック劣化勾配値演算手段は、前記検知温度の前記現移動平均値と前記前移動平均値に基づいて前記スタック劣化勾配値を演算し、前記スタック劣化判定手段は、前記スタック予測劣化値が前記基準寿命期間におけるスタック劣化判定基準値を超えて劣化すると劣化進行と判定し、この劣化判定に基づいて、前記燃料ガスポンプの回転数が増大補正されることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
前記移動平均値演算手段は、前記出力検知手段の検知出力の計測時間毎の移動平均値を演算し、前記移動平均値演算手段による前記検知出力の前記移動平均値が前記劣化診断期間の間にわたって更新され、前記スタック劣化勾配値演算手段は、前記検知出力の前記現移動平均値と前記前移動平均値に基づいて前記スタック劣化勾配値を演算し、前記スタック劣化判定手段は、前記基準寿命期間におけるスタック予測劣化値が前記スタック劣化判定基準値を超えて劣化すると劣化進行と判定し、この劣化判定に基づいて、前記セルスタックの電流掃引の上限値が低下補正されることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
前記温度検知手段及び/又は前記出力検知手段により検知される前記セルスタックの温度及び/又は前記セルスタックの発電出力は、外気の温度に基づいて補正されることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来の劣化診断方法では、次の通りの解決すべき問題がある。第1に、劣化診断を行うためには推定I−V特性を得る必要があり、この推定I−V特性を得るためには、セルスタックの発電出力を低下側に数段階に絞る必要がある。それ故に、電力負荷が大きいときにこのようにセルスタックの発電出力を絞ることは、燃料電池システムから電力負荷に送給される発電電力が一時的に低下し、燃料電池システムのエコ運転(電力負荷において必要とされる負荷電力に対応する電力を発電して電力負荷に送給する運転)に寄与しない運転状態となる。
【0006】
第2に、セルスタックの二つの部位(即ち、第1及び第2の部位)の間の出力電圧を検出し、これらの出力電圧を利用して仮想開回路電圧に基づいてセルスタックの局部的な劣化を診断しており、それ故に、セルスタックの出力電圧を検知するための電圧検知手段を2カ所以上に設置する必要があり、この劣化診断方法を実現するための構造が複雑になる。
【0007】
本発明の目的は、燃料電池システムを稼働しながらセルスタックの劣化状態を診断することができる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の燃料電池システムは、燃料ガスを改質するための改質器と、前記改質器にて改質された改質燃料ガス及び酸化材の酸化及び還元により発電を行うための複数の燃料電池セルを備えたセルスタックと、前記改質器に燃料ガスを供給するための燃料ガスポンプと、前記セルスタックに酸化材を供給するための酸化材ブロアと、前記改質器に改質水を供給するための水ポンプと、前記燃料ガスポンプ、前記酸化材ブロア及び前記水ポンプを制御するためのコントローラと、を備えた燃料電池システムであって、
前記コントローラは、前記セルスタックの劣化診断を行うためのスタック劣化診断手段を含み、前記スタック劣化診断手段は、劣化診断期間の間隔毎に前記セルスタックの劣化進行状態を演算するためのスタック劣化勾配値演算手段と、前記スタック劣化勾配値演算手段によるスタック劣化勾配値に基づいて
基準寿命期間におけるスタック予測劣化値を演算するためのスタック予測劣化値演算手段と、前記
スタック予測劣化値演算手段による前記
スタック予測劣化値に基づいて劣化が進行しているか否かを判定するスタック劣化判定手段と、を含んでいることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載の燃料電池システムでは、前記スタック劣化判定手段は、前記基準寿命期間におけるスタック劣化判定基準値と前記スタック予測劣化値演算手段による前記スタック予測劣化値とを比較し、前記スタック予測劣化値が前記スタック劣化判定基準値を超えて劣化すると劣化進行と判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載の燃料電池システムでは、前記スタック劣化診断手段は、更に、前記セルスタックの温度を検知するための温度検知手段及び/又は前記セルスタックの発電出力を検知するための出力検知手段と、前記温度検知手段の検知温度及び/又は前記出力検知手段の検知出力の計測時間毎の移動平均値を演算するための移動平均値演算手段とを含み、前記移動平均値演算手段による前記検知温度及び/又は前記検知出力の前記移動平均値が前記劣化診断期間の間にわたって更新され、前記スタック劣化勾配値演算手段は、前記劣化診断期間の経過時の前記検知温度及び/又は前記検知出力の現移動平均値と一つ前の前記劣化診断期間の前記検知温度及び/又は前記検知出力の前移動平均値に基づいて前記スタック劣化勾配値を演算することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に記載の燃料電池システムでは、前記移動平均値演算手段は、前記温度検知手段の検知温度の計測時間毎の移動平均値を演算し、前記移動平均値演算手段による前記検知温度の前記移動平均値が前記劣化診断期間の間にわたって更新され、前記スタック劣化勾配値演算手段は、前記検知温度の前記現移動平均値と前記前移動平均値に基づいて前記スタック劣化勾配値を演算し、前記スタック劣化判定手段は、前記スタック予測劣化値が
前記基準寿命期間におけるスタック劣化判定基準値を超えて劣化すると劣化進行と判定し、この劣化判定に基づいて、前記燃料ガスポンプの回転数が増大補正されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に記載の燃料電池システムでは、前記移動平均値演算手段は、前記出力検知手段の検知出力の計測時間毎の移動平均値を演算し、前記移動平均値演算手段による前記検知出力の前記移動平均値が前記劣化診断期間の間にわたって更新され、前記スタック劣化勾配値演算手段は、前記検知出力の前記現移動平均値と前記前移動平均値に基づいて前記スタック劣化勾配値を演算し、前記スタック劣化判定手段は、
前記基準寿命期間におけるスタック予測劣化値が前記スタック劣化判定基準値を超えて劣化すると劣化進行と判定し、この劣化判定に基づいて、前記セルスタックの電流掃引の上限値が低下補正されることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の請求項6に記載の燃料電池システムでは、前記温度検知手段及び/又は前記出力検知手段により検知される前記セルスタックの温度及び/又は前記セルスタックの発電出力は、外気の温度に基づいて補正されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に記載の燃料電池システムによれば、システムを制御するためのコントローラは、セルスタックの劣化診断を行うためのスタック劣化診断手段を備え、このスタック劣化診断手段は、スタック劣化勾配値演算手段、スタック予測劣化値演算手段及びスタック劣化判定手段を含み、スタック劣化勾配値演算手段は、劣化診断期間の間隔毎にセルスタックの劣化進行状態(即ち、スタック劣化勾配値)を演算し、スタック予測劣化値演算手段は、スタック劣化勾配値演算手段によるスタック劣化勾配値に基づいて
基準寿命期間におけるスタック予測劣化値を演算し、スタック劣化判定手段は、スタック予測劣化値演算手段によるスタック予測劣化値に基づいて劣化が進行しているか否かを判定するので、基準寿命期間の経過前においてセルスタックの劣化進行状態を知ることができ、またこのセルスタックの劣化診断を燃料電池システムの稼働運転中において行うことができる。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の燃料電池システムによれば、スタック劣化判定手段は、基準寿命期間におけるスタック劣化判定基準値とスタック予測劣化値演算手段によるスタック予測劣化値とを比較して劣化進行を判定するので、基準寿命期間の経過前においてセルスタックの劣化状態を予測して知ることができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の燃料電池システムによれば、スタック劣化診断手段は、更に、セルスタックの温度を検知するための温度検知手段及び/又はセルスタックの発電出力を検知するための出力検知手段と、温度検知手段の検知温度及び/又は出力検知手段の検知出力の計測時間毎の移動平均値を演算するための移動平均値演算手段とを含み、移動平均値演算手段による移動平均値が劣化診断期間の間にわたって更新されるので、この劣化診断期間におけるセルスタックの温度変化及び/又は発電出力の変化を検知することができる。セルスタックでは、劣化が進行するに従いその温度が低下し、またその発電出力が低下し、それ故に、この劣化診断期間におけるセルスタックの温度及び/又は発電出力の変動からセルスタックの劣化状態を予測して診断することができる。
【0017】
また、本発明の請求項4に記載の燃料電池システムによれば、移動平均値演算手段は、温度検知手段の検知温度の計測時間毎の移動平均値を演算し、移動平均値演算手段による検知温度の移動平均値が劣化診断期間の間にわたって更新される。そして、スタック劣化判定手段がこの検知温度の移動平均値に基づいて劣化進行と判定すると、燃料ガスポンプの回転数が増大補正され、このように増大補正することにより、セルスタックの燃料利用率が下がり、余剰燃料ガスの燃焼によりセルスタックの温度上昇が図られ、その結果、改質器での水蒸気改質を促進させてセルスタックの劣化進行を緩和させることができる。
【0018】
また、本発明の請求項5に記載の燃料電池システムによれば、移動平均値演算手段は、出力検知手段の検知出力の計測時間毎の移動平均値を演算し、移動平均値演算手段による検知出力の移動平均値が劣化診断期間の間にわたって更新される。そして、スタック劣化判定手段は、この検知出力の移動平均値に基づいて劣化進行と判定すると、セルスタックの電流掃引の上限値が低下補正され、このように電流掃引の上限値を下げることにより、セルスタックの発電出力を抑えてその劣化進行を緩和させることができる。
【0019】
更に、本発明の請求項6に記載の燃料電池システムによれば、温度検知手段及び/又は出力検知手段により検知されるセルスタックの温度及び/又はセルスタックの発電出力は、外気の温度に基づいて補正されるので、セルスタックの発電状態における温度及び/又は発電出力を外部温度の影響を受けることなく検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う燃料電池システムの一実施形態について説明する。尚、この実施形態では、本発明を燃料電池システムの一例としての固体酸化物形の燃料電池システムに適用して説明するが、その他の形態の燃料電池システム、例えば固体高分子形の燃料電池システムなどにも同様に適用することができる。
【0022】
図1において、図示の燃料電池システム2は、改質器4及びセルスタック6を備えている。改質器4は、改質触媒として例えばアルミナにルテニウムを担持させたものが用いられ、この改質触媒によって、燃料ガスが後述するようにして水蒸気改質される。燃料ガスとしては、天然ガス(例えば、都市ガス)などが用いられる。
【0023】
セルスタック6は、電気化学反応によって発電を行うための複数個の固体酸化物形の燃料電池セル(図示せず)を集電部材を介して積層することにより構成されている。この燃料電池セルは、酸素イオンを伝導する固体電解質と、固体電解質の片側に設けられた燃料極と、固体電解質の他側に設けられた酸素極とを備え、固体電解質として例えばイットリアをドープしたジルコニアが用いられる。
【0024】
セルスタック6の燃料極側は、改質燃料ガス送給ライン8を介して改質器4に接続され、またその酸素極側は、空気供給ライン10を介して空気ブロア12(酸化材ブロアとして機能する)に接続されている。空気ブロア12は、酸化材としての空気を空気供給ライン10を通してセルスタック6の空気極側に供給し、その回転数を制御することによって、セルスタック6に供給される空気の供給量が制御される。
【0025】
改質器4は、燃料ガス送給ライン14を介して脱硫装置16に接続され、この脱硫装置16は、燃料ガス供給ライン18を介して燃料ガス供給源(図示せず)(例えば、埋設管、燃料ガスタンクなど)に接続され、この燃料ガス供給ライン18には、燃料ガスポンプ20が配設されている。燃料ガスポンプ20は、燃料ガス供給ライン18を通して燃料ガスを脱硫装置16に供給し、脱硫器16は、燃料ガス中に含まれる硫黄成分を除去し、硫黄成分が除去された燃料ガスが燃料ガス送給ライン14を通して改質器4に送給される。この燃料ガスポンプ20は、その回転数を制御することによって、改質器4に供給される燃料ガスの供給量が制御される。
【0026】
この実施形態では、燃料ガス送給ライン14に水蒸気送給ライン22の一端側が接続され、その他端側が気化器24に接続され、この気化器24は、水供給ライン26を介して改質水供給源(図示せず)(例えば、水タンク、水道管など)に接続されている。水供給ライン26には、水ポンプ28が配設されている。水ポンプ28は、水供給ライン26を通して改質水を気化器24に供給する。この水ポンプ28は、その回転数を制御することによって、気化器24に供給される改質水の供給量が制御される。気化器24は、改質水を気化して水蒸気を生成し、生成された水蒸気が水蒸気送給ライン22を通して燃料ガス送給ライン14に送給され、この燃料ガス送給ライン14を通して燃料ガスとともに改質器4に送給される。
【0027】
改質器4は、燃料ガスを気化器24からの水蒸気により水蒸気改質し、水蒸気改質された改質燃料ガスが改質燃料ガス送給ライン8を通してセルスタック6の燃料極側に送給される。尚、水蒸気送給ライン22を改質器4に接続し、気化器24からの水蒸気を改質器4に直接的に送給するようにしてもよく、或いは気化器24と改質器4とを一体的に構成し、脱硫装置16からの燃料ガスを気化器24を通して改質器4に送給するようにしてもよい。
【0028】
改質器4からの改質燃料ガスは、改質燃料ガス送給ライン8を通してセルスタック6の燃料極側12に供給され、空気ブロア20からの空気(酸化材)は、空気供給ライン10を通してセルスタック6の空気極側に供給され、セルスタック6における改質燃料ガスの酸化及び酸化材の還元により発電が行われる。セルスタック6の発電出力は、発電出力ライン30を介してインバータ32に接続され、インバータ32にて直流の発電電力が交流電力に変換され、かく交流変換された交流電力が交流出力ライン34を介して電力負荷(図示せず)(例えば、家庭内の各種電化製品など)に供給されて消費される。
【0029】
セルスタック6の燃料極側及び酸素極側の各排出側には燃焼域(図示せず)が設けられ、セルスタック6の燃料極側から排出された余剰の燃料ガス(即ち、セルスタック6での発電に使用されなかった燃料ガス)とその酸素極側から排出された空気(酸素を含む)とがこの燃焼域に排出されて燃焼される。燃焼域にはガス排出ライン36が接続され、燃焼室からの排気ガスがガス排出ライン36を通して大気に排出される。
【0030】
この燃料電池システム2においては、セルスタック6、改質器4及び気化器24が電池ハウジング38内に収容されている。電池ハウジング38は断熱部材(図示せず)を覆われた高温空間40を規定し、この高温空間40内にセルスタック6、改質器4及び気化器24が収容されて高温状態に保たれる。
【0031】
このような燃料電池システム2をコージェネレーションシステムに適用する場合、図示していないが、この燃料電池システム2に関連して貯湯装置が設けられるとともに、このガス排出ライン36に熱交換器が配設される。貯湯装置は、貯湯するための貯湯タンクと、貯湯タンク内の水を熱交換器を通して循環するための循環ラインとを備え、この循環ラインには循環ポンプが配設される。このようなコージェネレーションシステムでは、ガス排出ライン36を通して排出される排気ガスと循環ラインを通して循環される水との熱交換が熱交換器で行われ、熱交換にて加温された温水が貯湯タンクに貯えられ、このようにして排気ガス中の熱が温水として回収される。
【0032】
この燃料電池システム2においては、燃料電池システム2のセルスタック6の劣化診断を行うように、次のように構成されている。
図1とともに
図2を参照して、この実施形態では、セルスタック6にその温度を検知するための温度検知手段48が設けられ、インバータ32にセルスタック6の発電出力を検知するための出力検知手段として、例えば出力電圧を検知するための出力電圧検知手段50が設けられている。温度検知手段48は、例えば熱電対などの温度センサから構成され、出力電圧検知手段50は、例えば電圧検知センサから構成される。
【0033】
この燃料電池システム2は、システム全体を制御するためのコントローラ52を備え、出力電圧検知手段50及び温度検知手段48からの検知信号は、このコントローラ52に送給される。このコントローラ52は、例えば、マイクロプロセッサなどから構成され、制御手段54、スタック劣化診断手段58、タイマ手段60及びメモリ手段62を有している。制御手段54は、燃料ガスポンプ20、水ポンプ28、空気ブロア12及びインバータ32などを後述する如く制御し、スタック劣化診断手段58は、セルスタック6の劣化診断を後述する如く行う。
【0034】
また、タイマ手段60は計時を行い、この実施形態では、移動平均値を演算する計測時間(例えば、30〜120秒程度に設定される)、出力安定判定時間(例えば、20〜60分程度に設定される)、劣化診断期間(例えば、300〜1000時間程度に設定される)及び基準寿命期間(例えば、10年程度に設定される)などを計時し、更にメモリ手段62には、劣化診断期間の移動平均値、基準寿命期間における劣化判定基準値(セルスタック6の劣化判定基準値)などが記憶される。
【0035】
このスタック劣化診断手段58は、定格運転判定手段72、出力安定判定手段74、移動平均値演算手段76、温度補正演算手段77、補機劣化勾配値演算手段78、スタック予測劣化値演算手段80、スタック劣化判定手段82、電流掃引補正手段84及び燃料ガス供給補正手段86を含んでいる。
【0036】
定格運転判定手段72は、燃料電池システムの2(セルスタック6)が定格運転か否かの判定を行い、出力安定判定手段74は、燃料電池システム2(セルスタック6)の出力が安定状態である(例えば、出力が例えば10%以内の範囲で変動したときには出力変動なしと処理するようにすることができる)か否かを判定する。例えば、セルスタック6の定格出力が例えば700W(例えば10%の範囲内で変動する場合も含む)である場合に、その発電出力が700Wになると、定格運転判定手段74は定格運転と判定し、またこの定格運転状態が出力安定判定時間(例えば、30分間に設定される)の間にわたって継続すると、出力安定判定手段74は出力安定と判定する。
【0037】
また、移動平均値演算手段76は、セルスタック6の移動平均値を演算する。この実施形態では、セルスタック6の故障診断を行うのに、燃料スタック6の温度変動及び出力電圧の変動を利用している。
【0038】
例えば、セルスタック6においては、一般的に、劣化が進行するに従いその温度が低下する傾向に、またその出力電圧が低下する傾向にあり、従って、このセルスタック6の温度の低下傾向及び/又は出力電圧の低下傾向を知ることにより劣化進行状態を診断することができる。
【0039】
このようなことから、この実施形態では、劣化診断期間(例えば、500時間)毎にセルスタック6の温度及びその出力電圧の劣化傾向、換言するとその劣化勾配値を演算して基準寿命期間(例えば、10年間)におけるセルスタックの6の温度及び出力電圧の予測劣化値を演算して劣化進行を判定している。
【0040】
この実施形態では、温度検知手段48はセルスタック6の温度を、また出力電圧検知手段50はセルスタック6の出力電圧を例えば1秒毎に検知し、移動平均値演算手段76は、例えば1秒毎に直前の測定期間(例えば、60秒)のセルスタック6の温度の平均値、即ち温度の移動平均値を演算するとともに、この測定期間の出力電圧の平均値、即ち出力電圧の移動平均値を演算し、これらの移動平均値の演算は、例えば1秒経過毎に行われる。
【0041】
この実施形態では、スタック6の温度及び出力電圧の移動平均値は、温度補正演算手段77により温度補正され、この温度補正を行うために、外気温度を検知するための外気温度検知手段75(
図2参照)が設けられ、この外気温度検知手段75の検知温度に基づいて温度及び出力電圧の移動平均値の温度補正が行われる。
【0042】
セルスタック6の温度と外気温度とは、例えば、
図5に示す通りの関係があり、外気温度が上昇すると、その外気温度の上昇に応じてセルスタック6の温度も上昇する。従って、セルスタック6の温度を
図5に示す関係に基づいて温度補正することにより、外気温度の影響を受けないセルスタック6の温度、この場合に温度の移動平均値を得ることができる。
【0043】
また、セルスタック6の出力電圧(即ち、発電電圧)と外気温度とは、例えば
図6に示す通りの関係があり、外気温度が上昇すると、その外気温度の上昇に応じてセルスタック6の出力電圧も上昇する。従って、セルスタック6の出力電圧を
図6に示す関係に基づいて温度補正することにより、外気温度の影響を受けないセルスタック6の出力電圧、この場合に出力電圧の移動平均値を得ることができる。
【0044】
このように温度補正されたセルスタック6の温度及び出力電圧は、メモリ手段62に登録される。尚、この実施形態では、移動平均値演算手段76により演算された移動平均値を温度補正しているが、移動平均値を演算する前の段階での温度検知手段48の検知温度及び出力電圧検知手段50の検知出力電圧を温度補正演算手段77により温度補正するようにしてもよい。また、外気温度の影響がそれほどない場合、温度補正演算手段77による温度補正を省略することもできる。
【0045】
また、スタック劣化勾配値演算手段78は、劣化診断期間(例えば、500時間)前後の燃料スタック6の温度及び出力電圧の移動平均値、即ち劣化診断期間の経過時における温度及び出力電圧の移動平均値(即ち、現移動平均値)と一つ前の劣化診断期間における温度及び出力電圧の移動平均値(即ち、前移動平均値)と基づいてセルスタック6の劣化進行状態、即ちこの温度及び出力電圧の劣化勾配値を演算し、この劣化勾配値は、劣化進行が進むに従い大きくなる。
【0046】
更に、スタック予測劣化値演算手段80は、スタック劣化勾配値演算手段78により演算された温度及び出力電圧の劣化勾配値に基づき、この劣化勾配の状態が基準寿命期間(例えば、10年間)まで継続したときの予測劣化状態、即ち予測劣化値を演算し、スタック劣化判定手段82は、基準寿命期間におけるセルスタック6の温度及び出力電圧の劣化判定基準値とスタック予測劣化値演算手段80により演算されたセルスタック6の温度及び出力電圧の予測劣化値に基づいて劣化判定を行う。
【0047】
次に、このスタック劣化判定手段82による劣化判定を
図3及び
図4を参照して説明する。スタック劣化勾配値演算手段78によるセルスタック6の温度の劣化勾配値が、例えば
図3に実線P1で示す通りであると、この劣化勾配状態が基準寿命期間(例えば、10年間)まで継続してもセルスタック6の温度の予測劣化値はその劣化判定基準値よりも大きく、このようなときには、基準寿命期間の間にわたって稼働運転してもセルスタック6の温度が劣化判定基準値を超えて低下することがほとんどなく、この場合、スタック劣化判定手段82は、劣化進行なしとの判定を行う。
【0048】
また、セルスタック6の温度の劣化勾配値が、例えば
図3に破線Q1で示す通りであると、この劣化勾配状態が基準寿命期間(例えば、10年間)まで継続するとセルスタック6の温度の予測劣化値はその劣化判定基準値を超えて低下するようになる。このときには、基準寿命期間の間にわたって稼働運転すると、セルスタック6が基準寿命期間に達する前に大きく温度が下がって劣化するおそれが高く、スタック劣化判定手段82は、セルスタック6がこのように大きく温度低下するおそれがあるとして劣化進行との判定を行う。
【0049】
更に、スタック劣化勾配値演算手段78によるセルスタック6の出力電圧の劣化勾配値が、例えば
図4に実線P2で示す通りであると、この劣化勾配状態が基準寿命期間(例えば、10年間)まで継続してもセルスタック6の出力電圧の予測劣化値はその劣化判定基準値よりも大きく、このようなときには、基準寿命期間の間にわたって稼働運転してもセルスタック6の出力電圧が劣化判定基準値を超えて低下することがほとんどなく、この場合、スタック劣化判定手段82は、劣化進行なしとの判定を行う。
【0050】
また、セルスタック6の出力電圧の劣化勾配値が、例えば
図4に破線Q2で示す通りであると、この劣化勾配状態が基準寿命期間(例えば、10年間)まで継続するとセルスタック6の出力電圧の予測劣化値はその劣化判定基準値を超えて低下するようになる。このときには、基準寿命期間の間にわたって稼働運転すると、セルスタック6が基準寿命期間に達する前に大きく劣化するおそれが高く、スタック劣化判定手段82は、セルスタック6の出力電圧がこのように大きく低下するおそれがあるとして劣化進行との判定を行う。
【0051】
この燃料電池システム2におけるセルスタック6の劣化診断は、
図7に示すフローチャートに従って行われる。主として
図2及び
図7を参照して、この実施形態では、セルスタック6の劣化診断は、セルスタック6の発電出力が定格出力(例えば、700W)で、この定格出力状態が出力安定判定時間(例えば、30分間)の間にわたって継続すると、ステップS1からステップS2を経てステップS3に進み、セルスタック6の温度及び出力電圧の検知が行われる。即ち、温度検知手段48は、セルスタック6の温度を1秒毎に検知し、出力電圧検知手段50は、セルスタック6の出力電圧を1秒毎に検知し、これら検知温度及び検知出力電圧がメモリ手段62に記憶される(ステップS4)。
【0052】
このセルスタック6の定格出力状態が更に計測時間(例えば、60秒)継続すると、ステップS5からステップS6を経てステップS7に進み、セルスタック6の温度及び出力電圧の移動平均値の演算が行われる。移動平均値演算手段76は、直前の計測時間における温度検知手段48の検知温度及び出力電圧検知手段50の検知出力電圧の平均値、即ち温度及び出力電圧の移動平均値を演算し、温度補正演算手段77は、移動平均値演算手段76により演算された温度及び出力電圧の移動平均値を上述したように温度補正演算し(ステップS8)、この温度補正されたセルスタック6の移動平均値がメモリ手段62に上書きして記憶される(ステップS9)。セルスタック6の温度及び出力電圧の移動平均値(温度補正された移動平均値)の上書き登録は、劣化診断期間(例えば、500時間)にわたって行われ、この劣化診断期間経過すると、ステップS10を経てステップS11に移る。
【0053】
ステップS11においては、セルスタック6の劣化進行の状態、この実施形態ではその温度及び出力電圧の劣化勾配値の演算が行われ、更にこの劣化勾配値に基づいてセルスタック6の温度及び出力電圧の予測劣化値の演算が行われ(ステップS12)、そして、演算した予測劣化値に基づいてセルスタック6の劣化状態の判定が行われる。
【0054】
スタック劣化勾配値演算手段78は、劣化診断期間の前後のセルスタック6の温度及び出力電圧の移動平均値、即ち劣化診断期間経過時点においてメモリ手段62に上書き登録されている温度及び出力電圧の移動平均値(現移動平均値)と一つ前の劣化診断期間においてメモリ手段62に最終上書き登録された温度及び出力電圧の移動平均値(前移動平均値)に基づいて温度及び出力電圧の劣化勾配値を演算し、スタック予測劣化値演算手段80は、この温度及び出力電圧の劣化勾配値を用いて基準寿命期間(例えば、稼働開始から10年間)まで稼働したときのセルスタック6の予測劣化状態、即ちその温度及び出力電圧の予測劣化値を演算する。
【0055】
スタック劣化判定手段82は、セルスタック6の出力電圧変動に関連して、この演算された出力電圧の予測劣化値と基準寿命期間におけるセルスタック6の出力電圧の劣化判定基準値とを比較する。そして、この演算した出力電圧の予測劣化値が出力電圧の劣化判定基準値を超えて低下していると、ステップS13からステップS14に進み、基準寿命期間まで稼働運転する前の段階でセルスタック6が大きく劣化する可能性が高いとして、スタック劣化判定手段82は劣化進行との判定をする。
【0056】
このように劣化が進行すると、基準寿命期間まで稼働運転するとセルスタック6が大きく劣化するおそれがあるために、燃料電池システム2の劣化緩和モードの運転が行われる(ステップS15)。即ち、制御手段54の電流掃引補正手段84は、セルスタック6の電流掃引の上限値を1段階下げ、設定上限値を例えば2A下げた補正掃引電流値が設定され(ステップS16)、セルスタック6から発電電力を取り出すときに、この補正掃引電流上限値を超えないように電流掃引されて発電電力が取り出される。
【0057】
また、演算した出力電圧の予測劣化値が出力電圧の劣化判定基準値より大きいときには、セルスタック6の劣化が進んでおらず、このときには、スタック劣化判定手段82は劣化進行なしとの判定を行い(ステップS17)、その後、ステップS18に進む。
【0058】
ステップS13からステップS17を経てステップS18に進む、又はステップS13からステップS14、ステップS15及びステップS16を経てステップS18に進むと、スタック劣化判定手段82は、次に、セルスタック6の温度に関連して、この演算された温度の予測劣化値と基準寿命期間におけるセルスタック6の温度の劣化判定基準値とを比較する。そして、この演算した温度の予測劣化値が温度の劣化判定基準値を超えて低下していると、ステップS18からステップS19に進み、基準寿命期間まで稼働運転する前の段階でセルスタック6の温度が大きく低下して劣化する可能性が高いとして、スタック劣化判定手段82は劣化進行と判定する。
【0059】
このように温度が低下してセルスタック6の劣化が進行すると、基準寿命期間まで稼働運転するとセルスタック6の温度が大きく低下して劣化するおそれがあるために、燃料電池システム2の劣化緩和モードの運転が行われる(ステップS20)。このとき、制御手段54の燃料ガス供給補正手段86は、燃料ガスポンプ20のガス供給量を1段階増量、例えば10%増量するようにその駆動電圧を1段階アップし、(ステップS21)、これにより、セルスタック6に供給される燃料ガスの供給が増量してセルスタック6の温度上昇が図られ、その後、ステップS1に戻る。
【0060】
また、演算した温度の予測劣化値が温度の劣化判定基準値より大きいときには、セルスタック6の劣化が進んでおらず、このときには、スタック劣化判定手段82は劣化進行なしとの判定を行い(ステップS22)、その後、ステップS1に戻る。
【0061】
このように、この燃料電池システム2においては、上述したように、システムの運転状態を停止させることなく、セルスタック6の劣化進行状態を診断することができる。
【0062】
この実施形態では、セルスタック6の劣化診断を行うのに、その温度及び出力電圧の双方の変動を利用しているが、これら温度及び出力電圧の変動のいずれか一つを利用してセルスタック6の劣化診断を行うようにしてもよい。
【0063】
以上、本発明に従う燃料電池システムの一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の修正が可能である。
【0064】
上述した実施形態では、セルスタック6の定格出力運転状態における出力安定状態のときにセルスタック6の劣化診断を行っているが、セルスタック6の部分負荷運転状態における出力安定状態のときにこの劣化診断を行うようにしてもよく、かかる場合、セルスタック6の部分負荷運転状態における部分負荷の大きさに応じて各種移動平均値(換言すると、出力電圧検知手段50の検知電圧、温度検知手段48の検知温度)を例えば定格出力運転状態に相当する値に補正して演算処理するのが望ましい。