(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料樹脂を吐出する吐出ノズルと、該吐出ノズルと離間して配置された帯電電極との間に電場を形成し、該電場中に加熱溶融した原料樹脂を前記原料吐出ノズルより供給して紡糸する工程を有し、
前記原料樹脂は、融点を有する樹脂と添加剤とを含む樹脂混合物であり、且つ次式(I)を満たすものである、極細繊維の製造方法。
A/B≧1.0×102 (I)
式中、Aは50℃における前記原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値(Ω)を示し、
Bは該原料樹脂の融点よりも50℃高い温度における該原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値(Ω)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
図1には、本発明の製造方法に好適に用いられる装置10の一例が模式的に示されている。
図1に示す溶融電界紡糸装置10は、原料樹脂を吐出する吐出ノズル12及び原料樹脂が供給されるホッパー19とを筐体11に備えた溶融樹脂供給部と、吐出ノズル12と離間して対向する位置に配置された帯電電極21とこれに接続された高電圧発生装置22を備えた電極部とを有する。吐出ノズル12は、ノズルベース13と吐出ノズル先端部14とからなる。離間とは、吐出ノズル先端部14と帯電電極21が離間しているという意味である。吐出ノズル先端部14にはアースを施してあり、接地されている。本実施形態の装置10は、前記溶融樹脂供給部と前記電極部とを結ぶ仮想直線上から図面上の下側に流体噴射部23を備えており、且つ仮想直線より上側の位置であって、且つ該流体噴射部23と対向する位置に原料樹脂の繊維を捕集する捕集部を備えており、全体として極細繊維製造装置をなしている。前記捕集部は、搬送コンベア25上に捕集シート24が配置され、捕集シート24が巻状の捕集シート原反24aから搬送コンベア25上に供給されることによって構成されている。また前記捕集部は、高電圧発生装置22に接続されるか、又はアースに接地され、電気的に接続されている。
【0012】
溶融電界紡糸装置10では、上述したように、帯電電極21は吐出ノズル先端部14から所定距離を隔てた位置に、吐出ノズル先端部14と向かい合わせに離間して設置されている。この構成によって、吐出ノズル先端部14は、高電圧を印加した帯電電極21からの静電誘導によって帯電するようになっている。静電誘導を利用して吐出ノズル先端部14を帯電させることによって、配線の接触によるトラブル因子がなくなる。そのことに起因して吐出ノズル先端部14及び筐体11へのスパーク発生を低減することができる。特に、吐出ノズル先端部14にアースを施すことで、吐出ノズル先端部14及び筐体11へのスパーク発生を更に低減することができる。帯電電極21は誘電体で覆われていることが好ましい。
【0013】
溶融電界紡糸装置10の筐体11に付設されたホッパー19内には、原料樹脂が充填される。具体的には、ホッパー19にはペレット状の原料樹脂が充填され、筐体11内に設置されたスクリュー(図示せず)を回転させることで原料樹脂がシリンダ(図示せず)内に供給される。シリンダ内に供給された原料樹脂のペレットは、シリンダの内壁とスクリューとの間で熱及び剪断力を受けて次第に溶融しながら、スクリューの回転軸方向に向けて前進する。そして、吐出ノズル先端部14の吐出口から、溶融した原料樹脂が吐出される。吐出ノズル先端部14及び吐出された原料樹脂は、高電圧発生装置22によって帯電電極21に印加された負の電位による静電誘導によって帯電している。帯電した原料樹脂は、溶融状態のまま帯電電極21に向けて引き寄せられる。そのときに原料樹脂が引き延ばされて極細化する。原料樹脂の引き延ばしを効果的に行う観点から、吐出される原料樹脂の流動性指数(MFR)を、吐出ノズル先端部14の出口において、10g/min以上、特に100g/min以上に設定することが好ましい。流動性指数(MFR)は、JIS K7210−1999に従い、例えばポリプロピレンの場合230℃、2.16kgの荷重下に、孔径2.095mm、長さ8mmのダイを用いて測定される。
【0014】
吐出ノズル先端部14は、例えばノズルベース13に設置したバンドヒーター(図示せず)からの伝熱と内部の溶融した原料樹脂からの伝熱によって加熱される。吐出ノズル先端部14における原料樹脂の加熱温度は、その種類にもよるが、100℃以上、特に200℃以上であることが好ましく、400℃以下、特に350℃以下であることが好ましい。
【0015】
本実施形態の極細繊維の製造方法では、吐出ノズル12と帯電電極21又は捕集電極27との間に電圧を印加する。溶融状態の原料樹脂を十分に帯電させる観点から印加電圧は、好ましくは5kV以上、更に好ましくは10kV以上であり、好ましくは100kV以下、更に好ましくは80kV以下であり、好ましくは5kV以上100kV以下、更に好ましくは10kV以上80kV以下である。印加電圧がこの範囲であると、吐出ノズル12と帯電電極21又は捕集電極27との間で電子の流れが良好になり、溶融状態の原料樹脂が帯電しやすくなる。また吐出ノズル12と帯電電極21又は捕集電極27との間でスパークやコロナ放電が起こりにくくなり、装置の動作不良が起こりにくくなる。更に、上述した範囲の高電圧を印加できることは、溶融状態の原料樹脂の帯電量を高めることに寄与する。溶融状態の原料樹脂の帯電量が高まることは、目的とする繊維を一層細くすることができ、また繊維の製造効率を高められることから極めて有利である。
【0016】
吐出ノズル12と帯電電極21との距離は、得られる極細繊維の繊維径(直径)、繊維径のばらつき、及び捕集電極27への極細繊維の集積性を考慮して、適宜選択してよい。例えば、吐出ノズル12と帯電電極21との距離は好ましくは10mm以上、更に好ましくは30mm以上であり、好ましくは150mm以下、更に好ましくは75mm以下であり、好ましくは10mm以上150mm以下、更に好ましくは30mm以上75mm以下である。吐出ノズル12と帯電電極21との距離がこの範囲であると、吐出ノズル12と帯電電極21との間での電子の流れが妨げられにくくなり、溶融状態の原料樹脂が帯電しやすくなる。また吐出ノズル12と帯電電極21又は捕集電極27との間でスパークやコロナ放電が起こりにくくなり、装置の動作不良が起こりにくくなる。
【0017】
本実施形態で用いられる溶融電界紡糸装置10では、帯電電極21の形状にかかわらず吐出ノズル先端部14が突出していることによって、吐出ノズル先端部14以外の金属部分へ電荷を分散させることなく、電荷を吐出ノズル先端部14に集中させることができる。例えば帯電電極21の形状が
図1に示す平板状の場合は、帯電電極21のうち、吐出ノズル先端部14と向かい合わせの面の中央部付近に吐出ノズル先端部14が位置するように該帯電電極21を配置することで、吐出ノズル先端部14以外の金属部分へ電荷を分散させることなく、吐出ノズル先端部14及び溶融状態の原料樹脂Rを安定的に帯電させることができる。
【0018】
筐体11に接続するノズルベース13と吐出ノズル先端部14は、熱及び圧力に耐え得る材料から構成されており、一般に金属製である。つまり導電性の材料から構成されている。ノズルベース13と吐出ノズル先端部14は、絶縁性部材(図示せず)で電気的に絶縁されている。したがって、溶融電界紡糸装置10を運転するときに、ノズル先端部14に、帯電電極21を用いて高電圧を加えても、絶縁性部材の絶縁作用によって、筐体11に直接電圧が加わることが阻止される。
【0019】
吐出ノズル先端部14の表面積に対する帯電電極21の表面積の比は、吐出ノズル先端部14に電荷を集中させる点から大きい方が好ましい。
【0020】
吐出ノズル先端部14の先端と帯電電極21との間には、両者を結ぶ方向と交差する方向に向けて、特に好ましくは直交する方向に向けて空気流Aが流れている。この空気流Aは噴射部23から噴出している。吐出ノズル先端部14から吐出された溶融状態の原料樹脂Rは、帯電電極21に到達する前に空気流Aに搬送され、その飛翔方向が変化する。空気流Aに搬送されることで、原料樹脂Rは一層引き延ばされて一層極細化する。この目的のために空気流Aとして、加熱流体である空気を用いることが好ましい。加熱された空気の温度は、原料樹脂Rの種類にもよるが、100℃以上、特に200℃以上であることが好ましく、500℃以下、特に400℃以下であることが好ましい。例えば加熱された空気の温度は、100℃以上500℃以下であることが好ましく、200℃以上400℃以下であることが更に好ましい。同様の目的のために、空気流Aを噴出させるときの噴射部23の吐出口における空気流Aの流量は、50L/min以上、特に150L/min以上であることが好ましく、350L/min以下、特に250L/min以下であることが好ましい。例えば50L/min以上350L/min以下であることが好ましく、特に150L/min以上250L/min以下であることが更に好ましい。
【0021】
空気流Aに搬送され引き延ばされて形成された繊維Fは、捕集シート24上に捕集される。捕集シート24は、例えば長尺帯状のものとすることができる。長尺帯状の捕集シート24は、原反ロール24aから繰り出されて搬送コンベア25に搬送される。搬送コンベアの内部には捕集電極27が配置されている。捕集電極27には高電圧発生装置26が接続されており、該高電圧発生装置26によって捕集電極27に高電圧が印加される。捕集電極27に高電圧が印加されることで、搬送コンベア25及び搬送コンベア25上の捕集シート24は負の電荷に帯電される。それによって、繊維Fは搬送コンベア25に引き寄せられて捕集シート24の表面に堆積する。また捕集電極27は、高電圧発生装置26ではなく、アースに接地されていても構わない。
【0022】
前記の各種樹脂を原料として製造される繊維Fは、溶融電界紡糸法を実施する条件に応じて様々な太さのものとすることができる。特に、ナノファイバと呼ばれる極細繊維を製造することができる。極細繊維とは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10nm以上3000nm以下、特に10nm以上1000nm以下のものである。極細繊維の太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から極細繊維の塊、極細繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0023】
本発明における溶融電界紡糸法の原理は次のように推測される。本発明における溶融電界紡糸法は、溶融状態にある原料樹脂が延伸される工程と、固体状態で繊維として捕集される工程とに大別される。詳細には、加熱溶融された原料樹脂が、溶融状態では電気インピーダンスの絶対値が低くなり、吐出ノズルにおいて十分に帯電し、吐出ノズルから吐出された原料樹脂は、帯電電極からの電気的引力により引き延ばされる。引き延ばされた原料樹脂は、前記引力と自己反発力とから延伸を繰り返して極細繊維化する。極細繊維化した原料樹脂は、極細繊維化の過程で急激に冷却されて温度が低下し、固体状態となる。固体状態となるときに、電気インピーダンスの絶対値が高くなることで電荷の漏れを抑制し、帯電を維持することができる。
【0024】
溶融電界紡糸法によって生じた極細繊維は、吐出ノズル12から捕集シート24までの間で、連続した1本の繊維と考えられる。仮に、製造の条件や周囲の環境等によって、一時的に繊維が切断したとしても、すぐに切断した繊維どうしが接触するようになり、結果として極細繊維は、吐出ノズル12から捕集シート24までの間で、あたかも連続した1本の繊維になっていると考えられる。
【0025】
本発明者らは、溶融電界紡糸法において、溶融状態の原料樹脂を効率よく帯電させて、従来得ることが困難であった極細繊維を紡糸する方法を検討した。
【0026】
一般に溶融電界紡糸法では、原料樹脂が吐出ノズル12を通過する際に帯電され、帯電した原料樹脂が捕集電極に向かって電気引力によって高速で伸長する。また原料樹脂は、それそのものが有する電荷による自己反発力によって延伸される。しかし、メルトブローン法等の溶融紡糸法でこれまで使用されてきたポリプロピレン(PP)のように、電気抵抗値(体積固有抵抗値)の高い非導電性の原料樹脂は、これに電界をかけても帯電されにくく、極細繊維化することは困難であった。
【0027】
電界紡糸法は原料樹脂を帯電させ、その静電力を駆動力としてナノファイバ化するというメカニズムであるため、非導電性の原料樹脂においても、原料の帯電性が重要なことは容易に想像される。インピーダンス解析を行い、Cole−Coleプロット線図を描いた結果、0.1Hzのインピーダンスの値が溶融樹脂(試料)の静電誘導によるイオンの動きの特性を表していることがわかったので、周波数0.1Hzを印加した際の電気インピーダンスの絶対値を帯電性の指標として用いることとした。なお、ここでいう非導電性とは、電気インピーダンス|Z|が1.0×10
11Ω以上のことである。
【0028】
本発明者は、溶融電界紡糸法において、電気抵抗(体積固有抵抗)の高い非導電性の原料樹脂を使用して極細繊維を製造するときには、原料樹脂の帯電性をコントロールすることが非常に重要になることを知見した。本発明者は、溶融状態で原料樹脂の電気特性に着目し、様々な検討をした結果、固体状態での電気インピーダンスの絶対値に対して、溶融状態での電気インピーダンスの絶対値が一定以上低くなる場合には、安定して原料樹脂の帯電量を高めることが可能となり、連続での紡糸性が向上することを知見した。具体的には、次式(I)を満たす原料樹脂を使用することによって、安定して極細繊維を得られることを知見した。
【0029】
A/B≧1.0×10
2 (I)
式中、Aは50℃における前記原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値(Ω)を示し、Bは融点よりも50℃高い温度における前記原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値(Ω)を示す。
【0030】
式(I)において、Aとして50℃の温度を用いる理由は、固体状態での原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値を得るためである。Bとしても融点より50℃高い温度を用いている理由は、原料樹脂の流動性を向上させるためである。「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)で融解ピークが観察される温度のことであり、複数のピークが観察される場合は吸熱ピークが最も大きい温度のことである。以下、本明細書では前者(A)を「固体時の電気インピーダンスの絶対値」とも言い、後者(B)を「溶融時の電気インピーダンスの絶対値」とも言う。
【0031】
原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値は、恒温槽中で固体状態及び溶融状態の原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値を測定することで求める。特に断らない限り、「電気インピーダンス」は「周波数0.1Hzにおける電気インピーダンスの絶対値」を意味する。電気インピーダンスの具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0032】
〔原料樹脂の電気インピーダンスの測定方法〕
電気インピーダンスは
図2に示すとおりの方法で測定する。
図2(a)に示すように、測定システム30は、恒温槽31と、測定器32と、解析用コンピュータ33とを含んで構成される。恒温槽31としては、強制循環式や自然対流式の一般的な電気炉や恒温器が使用できる。測定器32としては、一般的な周波数応答アナライザを使用できる。例えばインピーダンスアナライザー(solartron社製1260)と誘電率測定用インターフェース1296型(solartron社製)を使用できる。恒温槽31で、固体状態及び溶融状態の原料樹脂の電気インピーダンスを測定するための治具として、例えば
図2(b)ないし(d)に示す治具34を使用することができる。治具34は、試料の加熱のために、内部に電極35,35を配置した一対のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製セル(PEEK450G)36,36及び台座38を備えており、このセル36を用いることで、恒温槽31内での加熱測定が可能となる。各電極35からは端子37が引き出されている。端子37は測定器32に接続されている。一対のセル36,36は、
図2(c)に示すとおり、それらの電極35,35が対向するように向かい合わせで配置し、台座38内に配置し固定する。この状態においては、対向配置された電極35,35の間に一定の距離の隙間が生じるようにしておく。セル36における電極35は、例えばステンレス製とすることができ、その寸法は横20mm縦30mm厚み8mmとする。一対の電極35,35間の距離は2mmとする。向かい合う電極表面と試料の投入面である上面以外はPEEK製セルで隙間なく覆われている。印加電圧は溶融状態である210℃の測定ではAC0.1V、固体状態である50℃の測定ではAC1Vで測定するとし、印加周波数は0.1Hzとする。測定温度は、固体状態である50℃と、溶融状態である210℃とする(融点が160℃である場合)。測定環境は、23℃、40%RHとする。
【0033】
電気インピーダンスの測定手順は以下のとおりである。
(1)ポリプロピレン(PP)樹脂と添加剤とをそれぞれ所定の比率で合計が5gとなるよう計量し混合する。例えば添加剤を5質量%混合する場合には、樹脂4.75gと添加剤0.25gとを混合する。
(2)治具34を恒温槽31内に配置し、恒温槽31を210℃まで昇温し治具34も同時に温める。
(3)原料樹脂5gを溶融する(恒温槽31で透明になるまで10分程度加熱する。)。
(4)
図2(d)に示すとおり、治具34に溶融した原料樹脂を流し込み、再び210℃に安定するまで静置する。
(5)恒温槽31内の温度を、210℃→50℃の順で順次低下させていき、各温度で電気インピーダンスを測定する。同じ試料を5個作って、最大、最小の各一つの値を切り捨てて3個の平均値をとる。
【0034】
溶融状態での原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値が、該原料樹脂を帯電させられる程度に低く、且つ固体状態と溶融状態とで電気インピーダンスの絶対値に一定以上の差がある場合には、原料樹脂を首尾よく帯電させることができる。そして、その帯電した電荷が繊維を通って流れ出しにくくなり、吐出ノズル12における原料樹脂の帯電量を高いまま維持でき、その結果として吐出ノズル12から極細繊維を安定して連続紡糸できると推測される。
【0035】
原料樹脂の固体時の電気インピーダンスの絶対値は、帯電した電荷を流れ出しにくくする観点から、5.0×10
9Ω以上が好ましく、1.0×10
10Ω以上がより好ましい。一方、原料樹脂の溶融時の電気インピーダンスの絶対値は、原料樹脂が帯電可能な程度に低い電気インピーダンスの絶対値を有することが好ましい観点から、0Ωを超え1.0×10
10Ω以下が好ましく、0Ωを超え9.0×10
9Ω以下がより好ましい。
【0036】
原料樹脂の溶融時の電気インピーダンスの絶対値が前述の範囲内であることで、導電性が比較的高い状態の溶融樹脂を溶融電界紡糸装置10における吐出ノズル先端部14を介して溶融樹脂を静電誘導によって帯電させることができ、且つ溶融樹脂を介した筐体11へのスパークや電流の漏れを低減することができる。
【0037】
また、原料樹脂の固体時の電気インピーダンスの絶対値Aと原料樹脂の溶融時の電気インピーダンスの絶対値Bとの比A/Bは、固体状態と溶融状態における電気インピーダンスの絶対値の変化が必要であるという観点から、1.0×10
2以上であることが好ましく、1
.1×10
2以上が更に好ましい。また、溶融状態の樹脂が帯電しやすく、電界紡糸によって極細繊維を得やすい観点から、1.0×10
10以下が好ましく、1.0×10
9以下が更に好ましい。これらの観点からA/Bの値は、1.0×10
2以上1.0×10
10以下が好ましく、1.1×10
2以上1.0×10
9以下が更に好ましい。原料樹脂の固体時と溶融時の電気インピーダンスの絶対値の比A/Bが重要であるため、原料樹脂の種類によっては、例えば固体時の電気インピーダンスAが1.0×10
12Ω、溶融時の電気インピーダンスBが1.0×10
10Ωでもよく、また例えば固体時の電気インピーダンスAが1.0×10
10Ω、溶融時の電気インピーダンスBが1.0×10
8Ωであってもよい。
【0038】
溶融電界紡糸法においては原料樹脂を誘導帯電させるので、原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値をコントロールするために、絶縁体である原料樹脂の溶融時の電気インピーダンスの絶対値を低減する必要があると本発明者は考えた。そこで、このような観点から本発明者が種々の検討を行った結果、上述のA/Bが満たされるようになる特定の添加剤を原料樹脂に配合することが有効であることが判明した。そのような特定の添加剤としては、塩構造を有するものを用いることが効果的であることが判明した。これによって、原料樹脂を構成する樹脂が、例えばポリプロピレンのように電気インピーダンスの絶対値が高い場合であっても、溶融電界紡糸法によって極細繊維を容易に製造することできるようになる。つまり、より広範な種類の樹脂を原料樹脂の成分として使用することができるようになる。従来、一般には帯電しにくく溶融電界紡糸が困難であった原料樹脂や、固体状態での電気インピーダンスの絶対値が高い原料樹脂であっても、本発明の溶融電界紡糸法を採用すれば、該原料樹脂は、上述した電気インピーダンスの特性を持つようになり、溶融電界紡糸法において該原料樹脂を安定して帯電させることができ、その結果、繊維を極細化できるようになる。
【0039】
前記添加剤は、これを各種の樹脂と溶融混練することで、原料樹脂を得ることができる。あるいは、予め別工程で添加剤を各種の樹脂中に練り込み、マスターバッチとしたものを原料樹脂として用いることもできる。
【0040】
添加剤が配合される樹脂としては、繊維形成性を有するものを用いることが好ましい。また添加剤が配合される樹脂として、融点を有する樹脂を用いることが好ましい。融点を有する樹脂とは、樹脂を加熱していったときに、該樹脂が熱分解する前に、固体から液体へ相変化することに起因する吸熱ピークを示す樹脂のことである。本発明において用いることのできる融点を有する樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィンコポリマー等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン及びポリスチレン等のビニル系ポリマー;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー;ナイロン6及びナイロン66等のナイロン系ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル−エチレン共重合体;などが挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記添加剤としては、例えば溶融して電離する塩構造を有する各種化合物が用いられる。特に、併用される樹脂の融点以下の温度に融点を持つ塩構造をもつ化合物が添加剤として好ましい。この融点を調整するために、該化合物を2種以上組み合わせた混合物として用いることも好ましい。添加剤は原料樹脂中で電離状態を形成するものが該原料樹脂の帯電量を増加させる点で好ましい。そのような添加剤としては、電荷調整剤、滑材、帯電防止剤、親水化剤、界面活性剤、可塑剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。樹脂中への分散性の観点から、添加剤は有機塩であることが好ましく、とりわけ有機酸と無機塩基との塩であることが好ましい。例えば四級アンモニウム塩基構造を持つ化合物や、金属塩を形成している金属石鹸等が好ましい。また、構造中の末端にアルキル基を有し、且つ構造中の任意の位置にスルホン酸塩基を有する化合物(以下、この化合物のことを「アルキルスルホン酸塩」とも言う。)も好ましい。
【0042】
四級アンモニウム塩基構造を持つ化合物としては、例えば四級アンモニウム塩基構造を持つスチレンアクリル樹脂が挙げられる。金属石鹸としては、2価以上の脂肪酸塩、例えばステアリン酸Zn、ステアリン酸Mg、ステアリン酸Li、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Ba、ラウリン酸Zn、ラウリン酸Ca、ラウリン酸Ba、リシノール酸Ca、リシノール酸Ba、リシノール酸Zn等が挙げられる。樹脂に対して、それら1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることによって、原料樹脂の溶融時の電気インピーダンスの絶対値を容易に下げることができ、電界紡糸に適した原料樹脂となる。
【0043】
アルキルスルホン酸塩としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩(R−Ph−SO
3M)、高級アルコール硫酸エステル塩(R−O−SO
3M)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(R−O−(CH
2CH
2O)
n−SO
3M)、アルキルスルホこはく酸塩(R−O−CO−C−C(−SO
3M)−O−CO−M)、ジアルキルスルホこはく酸塩(R−O−CO−C−C(−SO
3M)−O−CO−R)、α−スルホ脂肪酸エステル(R−CH(−SO
3M)−COOCH
3)、α−オレフィンスルホン酸塩(R−CH=CH−(CH
2)
n−SO
3M、R−CH(−OH)(CH
2)
n−SO
3M)、アシルタウリン塩(R−CO−N
H−(CH
2)
2−SO
3M)、アシルアルキルタウリン塩(R−CO−
N(−R’)−(CH
2)
2−SO
3M)、アルカンスルホン酸塩(R−SO
3M)などが挙げられる。これらのアルキルスルホン酸塩においてRはアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは8以上22以下、更に好ましくは10以上20以下、一層好ましくは12以上18以下である。R’もまたアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは5以下である。Phは、置換されていてもよいフェニル基を表す。Mは一価の陽イオンを表し、好ましくは金属イオンであり、更に好ましくはナトリウムイオンである。nは、好ましくは6以上24以下、更に好ましくは8以上22以下、一層好ましくは10以上20以下の数を表す。これらのアルキルスルホン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた混合物として用いてもよい。これらのアルキルスルホン酸塩のうち、アルカンスルホン酸塩(R−SO
3M)を用いることが、一層安定的に原料樹脂を帯電させられる点から好ましく、この観点から、アルキル基の炭素数の異なる2種以上のアルカンスルホン酸塩(R−SO
3M)の混合物を用いることが、一層好ましい。アルカンスルホン酸塩(R−SO
3M)には、構造の末端にスルホン酸塩基が結合している第1級アルカンスルホン酸塩と、構造の途中にスルホン酸塩基が結合している第2級アルカンスルホン酸塩とが存在するところ、原料樹脂を更に一層安定的に帯電させられる点から第2級アルカンスルホン酸塩を用いることが好ましく、アルキル基の炭素数の異なる2種以上の第2級アルカンスルホン酸塩を組み合わせた混合物を用いることが一層好ましい。
【0044】
以上の各種の添加剤のうち、室温(すなわち25℃)で固体状態であり、融点が室温以上で、且つ原料樹脂の融点以下である塩構造を有する化合物又は該化合物の2種以上の組み合わせからなる混合物を添加剤として使用すると、原料樹脂の溶融時の電気インピーダンスの絶対値を容易に下げる効果が一層高くなるので好ましい。例えば、塩構造を持つ化合物をポリプロピレン(PP)樹脂に溶融混練することによって得られた原料樹脂は、ポリプロピレン(PP)樹脂の融点以上の溶融状態では電気インピーダンスの絶対値が大きく低下し、室温近辺の固体状態では溶融状態での電気インピーダンスの絶対値に対して最大で1.0×10
5倍以上電気インピーダンスの絶対値が大きくなることが確認された。このように、原料樹脂が、その固体状態と溶融状態とで電気インピーダンスの絶対値が変化する特性を有することで、予想どおりに実際の紡糸ができ極細繊維化できることが確認された。
【0045】
前記添加剤を各種の樹脂と溶融混練して用いた場合において、樹脂と混合する添加剤の割合は、電界紡糸に適した帯電量を溶融状態の原料樹脂に付与する観点から、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上、一層好ましくは3質量部以上、更に一層好ましくは5質量部以上である。また、電界紡糸によって繊維を極細化する観点から、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。また、樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上45質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以上45質量部以下、一層好ましくは3質量部以上40質量部以下、更に一層好ましくは5質量部以上40質量部以下である。添加剤の割合は、各添加剤が有する電離度に依存するから、電離度が低い添加剤の場合は、電気インピーダンスを下げるために添加量を増やすことが有利である。また、電離度が高い添加剤の場合には、少量の添加で十分な電気インピーダンスの低下を実現できる。添加剤の配合量が、樹脂と添加剤の合計質量に対して50質量部を超える場合には、原料樹脂に占める樹脂の割合が少なくなることから、添加剤の種類によっては極細繊維を安定して得にくくなることがある。
【0046】
前記添加剤が四級アンモニウム塩基構造を持つ化合物である場合には、樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、一層好ましくは5質量部以上である。また、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上45質量部以下、更に好ましくは3質量部以上40質量部以下、一層好ましくは5質量部以上40質量部以下である。
【0047】
前記添加剤が金属石鹸である場合には、樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、更に好ましくは7質量部以上、一層好ましくは10質量部以上である。また、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上45質量部以下、更に好ましくは7質量部以上40質量部以下、一層好ましくは10質量部以上40質量部以下である。
【0048】
前記添加剤がアルキルスルホン酸塩である場合には、樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上、一層好ましくは3質量部以上である。また、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。樹脂と混合する添加剤の割合は、樹脂と添加剤の合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上45質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以上40質量部以下、一層好ましくは3質量部以上40質量部以下である。
【0049】
前記添加剤が、四級アンモニウム塩基構造を持つスチレンアクリル樹脂である場合や、アルキルスルホン酸塩である場合には、添加剤の分解温度は、電界紡糸に適した帯電量を溶融樹脂に付与する観点から、原料樹脂の融点以上が好ましい。添加剤の分解温度とは、5%質量減少温度を意味する。添加剤の分解温度の測定は、次の方法で行う。
熱重量分析(TG)により、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下にて測定する。
【0050】
前記添加剤が、四級アンモニウム塩基構造を持つスチレンアクリル樹脂である場合、スチレンアクリル樹脂における主鎖を構成する一部であるアクリル部位は、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上であることが好ましい。アクリル部位がアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルである場合、エステル部位は炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが更に好ましい。
【0051】
スチレンアクリル樹脂においては、主鎖を構成するスチレン部位とアクリル部位とは規則的に配置されていてもよく、又はランダムに配置されていてもよい。あるいは、スチレン部位及びアクリル部位がそれぞれブロック状に配置されていてもよい。
【0052】
スチレンアクリル樹脂においては、主鎖がスチレン部位及びアクリル部位のみから構成されていてもよく、あるいはスチレン部位及びアクリル部位に加えて他の共重合単位を含んで構成されていてもよい。
【0053】
スチレンアクリル樹脂は四級アンモニウム塩基を有するものである。四級アンモニウム塩基は、以下の式(1)で表される構造を有していることが、樹脂組成物に高い帯電量を付与できる観点から好ましい。
【0055】
式(1)において、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。またR
1、R
2及びR
3のうちの2つが同種の基であり、残りの1つが異種の基であることも好ましい。X
−で表される一価のアニオンとしては、アルカリ金属イオン等の無機イオンや、ベンゼンスルホン酸イオン及びp−トルエンスルホン酸イオン等の有機イオンが好ましい。
【0056】
四級アンモニウム塩基は、スチレンアクリル樹脂の主鎖に対して側鎖として結合していることが好ましい。四級アンモニウム塩基は、スチレンアクリル樹脂の主鎖におけるスチレン部位に結合していてもよく、あるいはアクリル部位に結合していてもよい。四級アンモニウム塩基がスチレン部位に結合している場合、該四級アンモニウム塩基は、スチレン部位におけるエチレン基部位に結合していてもよく、フェニル基部位に結合していてもよい。一方、四級アンモニウム塩基がアクリル部位に結合している場合、該四級アンモニウム塩基は、アクリル部位におけるエチレン基部位に結合していてもよく、カルボキシル基部位に結合していてもよい。
【0057】
スチレンアクリル樹脂としては、市販品を用いることもできる。そのような市販品としては、例えば藤倉化成株式会社製のアクリベース(登録商標)FCA−201−PSや、アクリベース(登録商標)FCA−207Pなどが挙げられる。
【0058】
本発明においては、上述の添加剤に加えて、電気インピーダンスの絶対値の特性を損なわない限り、他の各種の添加剤を樹脂に配合して使用することもできる。例えば他の各種の添加剤としては、例えば酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、金属不活性剤、親水化剤などが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤及びチオ系酸化防止剤などが例示できる。中和剤としては、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩類が例示できる。光安定剤及び紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン類、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。滑剤としては、ステアリン酸アマイドなどの高級脂肪酸アマイド類が例示できる。帯電防止剤としては、グリセリン脂肪酸モノエステルなどの脂肪酸部分エステル類が例示できる。金属不活性剤としては、フォスフォン類、エポキシ類、トリアゾール類、ヒドラジド類、オキサミド類などが例示できる。親水化剤としては多価アルコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加物、アミンアノマイド系などのノニオン性界面活性剤などが例示できる。
【0059】
本発明の製造方法おいて吐出ノズルから吐出された原料樹脂は、高い電荷を帯びている。原料樹脂への帯電量は、電界紡糸によって繊維を極細化する観点から、2000nC/g以上とすることが好ましく、3000nC/g以上とすることが更に好ましく、5000nC/g以上とすることが一層好ましく、10000nC/g以上とすることが更に一層好ましい。原料樹脂への帯電量は高ければ高いほど好ましい。原料樹脂への帯電量は、後述の方法で測定される。
【0060】
本発明の製造方法によって得られた繊維(ナノファイバ)は、長繊維や短繊維として、織布や不織布などの繊維製品に使用できる。長繊維の場合、その繊維長は好ましくは10mm以上、より好ましくは50mm以上、最も好ましくは100mm以上の連続繊維となる。上述の用途以外に、電池用セパレーター、電磁波シールド材、高性能フィルター、生体人工器材、細胞培養基材、ICチップ、有機EL、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子、光電変換素子などに用いることもできる。
【0061】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
【0062】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の極細繊維の製造方法を開示する。
<1>
原料樹脂を吐出する吐出ノズルと、該吐出ノズルと離間して配置された帯電電極との間に電場を形成し、該電場中に加熱溶融した原料樹脂を前記原料吐出ノズルより供給して紡糸する工程を有し、
前記原料樹脂は、融点を有する樹脂と添加剤とを含む樹脂混合物であり、且つ次式(I)を満たすものである、極細繊維の製造方法。
A/B≧1.0×10
2 (I)
式中、Aは50℃における前記原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値(Ω)を示し、Bは該原料樹脂の融点よりも50℃高い温度における前記原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値(Ω)を示す。
【0063】
<2>
前記吐出ノズルが接地され、前記帯電電極が高電圧発生装置に接続されていることを特徴とする前記<1>に記載の極細繊維の製造方法。
<3>
前記吐出ノズルと前記帯電電極とは別に、前記原料樹脂の繊維を捕集する捕集部が配置されており、前記捕集部が電気的に接続されている前記<1>又は<2>に記載の極細繊維の製造方法。
<4>
前記添加剤が塩構造を有する、前記<1>ないし<3>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<5>
融点が室温以上で、且つ前記原料樹脂の融点以下である塩構造を有する化合物を前記添加剤として使用する、前記<1>ないし<4>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<6>
前記添加剤の分解温度が、前記原料樹脂の融点以上である前記<1>ないし<5>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<7>
前記添加剤が、溶融して電離する塩構造を有する化合物である前記<1>ないし<6>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<8>
前記添加剤が、併用される樹脂の融点以下の温度に融点を持つ塩構造を持つ化合物である前記<1>ないし<7>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
【0064】
<9>
前記添加剤が、前記原料樹脂中で電離状態を形成するものである前記<1>ないし<8>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<10>
前記添加剤が、電荷調整剤、滑材、帯電防止剤、親水化剤、界面活性剤、可塑剤、から選ばれる1種又は2種以上である前記<1>ないし<9>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<11>
前記添加剤が、有機塩である前記<1>ないし<10>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<12>
前記添加剤が、四級アンモニウム塩基構造を持つ化合物であるか、金属塩を形成している金属石鹸であるか、又は構造中の末端にアルキル基を有し、且つ構造中の任意の位置にスルホン酸塩基を有する化合物である前記<1>ないし<11>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<13>
前記四級アンモニウム塩基構造を持つ化合物が、四級アンモニウム塩基構造を持つスチレンアクリル樹脂である前記<12>に記載の極細繊維の製造方法。
<14>
前記添加剤が、有機酸と無機塩基の塩である前記<1>ないし<13>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<15>
前記添加剤が、2価以上の脂肪酸塩である前記<14>に記載の極細繊維の製造方法。
<16>
前記金属石鹸が、ステアリン酸Zn、ステアリン酸Mg、ステアリン酸Li、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Ba、ラウリン酸Zn、ラウリン酸Ca、ラウリン酸Ba、リシノール酸Ca、リシノール酸Ba及びリシノール酸Znから選ばれる1種又は2種以上である前記<15>に記載の極細繊維の製造方法。
<17>
前記添加剤が、構造中の末端にアルキル基を有し、且つ構造中の任意の位置にスルホン酸塩基を有する化合物である前記<12>に記載の極細繊維の製造方法。
<18>
構造中の末端にアルキル基を有し、且つ構造中の任意の位置にスルホン酸塩基を有する前記化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホこはく酸塩、ジアルキルスルホこはく酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、アシルタウリン塩、アシルアルキルタウリン塩、又はアルカンスルホン酸塩である前記<12>に記載の極細繊維の製造方法。
<19>
前記添加剤が、アルカンスルホン酸塩である前記<18>に記載の極細繊維の製造方法。
<20>
前記添加剤が、アルカンスルホン酸ナトリウムである前記<19>に記載の極細繊維の製造方法。
<21>
予め別工程で前記添加剤を各種の樹脂中に練り込み、マスターバッチとしたものを前記原料樹脂として用いる前記<1>ないし<20>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
【0065】
<22>
50℃における前記原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値は、5.0×10
9Ω以上が好ましく、1.0×10
10Ω以上がより好ましい、前記<1>ないし<21>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<23>
前記原料樹脂の融点よりも50℃高い温度における該原料樹脂の電気インピーダンスの絶対値は、0Ωを超え1.0×10
10Ω以下が好ましく、0Ωを超え9.0×10
9Ω以下がより好ましい、前記<1>ないし<22>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<24>
A/Bは、1.0×10
2以上が好ましく、1.1×10
2以上が更に好ましく、1.0×10
10以下が好ましく、1.0×10
9以下が更に好ましく、また、1.0×10
2以上1.0×10
10以下が好ましく、1.1×10
2以上1.0×10
9以下が更に好ましい、前記<1>ないし<23>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
【0066】
<25>
前記樹脂と前記添加剤の合計100質量部に対する添加剤の割合が、好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上、一層好ましくは3質量部以上、更に一層好ましくは5質量部以上であり、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下であり、好ましくは1質量部以上45質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以上45質量部以下、一層好ましくは3質量部以上40質量部以下、更に一層好ましくは5質量部以上40質量部以下である前記<1>ないし<24>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<26>
前記原料樹脂を、前記樹脂と前記添加剤とを加熱溶融して混合することによって調製し、
前記吐出ノズルから吐出された前記原料樹脂に向けて加熱流体を吹き付けて、該原料樹脂から生成した極細繊維を搬送する工程を有する、前記<1>ないし<25>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<27>
前記吐出ノズルが、ノズルベースと吐出ノズル先端部とからなり、
前記吐出ノズル先端部は、高電圧を印加した前記帯電電極からの静電誘導によって帯電するようになっている<1>ないし<26>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<28>
前記吐出ノズルが、ノズルベースと吐出ノズル先端部とからなり、
前記ノズルベースと前記吐出ノズル先端部は、絶縁性部材で電気的に絶縁されている前記<1>ないし<27>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<29>
前記吐出ノズルが、ノズルベースと吐出ノズル先端部とからなり、
前記吐出ノズル先端部にアースを施し、かつ該吐出ノズル先端部に対向する位置に設置された前記帯電電極に電圧を印加する前記<1>ないし<28>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
<30>
前記原料樹脂への帯電量を2000nC/g以上とすることが好ましく、3000nC/g以上とすることが更に好ましく、5000nC/g以上とすることが一層好ましく、10000nC/g以上とすることが更に一層好ましい<1>ないし<29>のいずれか1に記載の極細繊維の製造方法。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0068】
〔実施例1〕
図1に示す溶融電界紡糸装置10を用いてポリプロピレン(PP)と添加剤を混合した原料樹脂(樹脂組成物)からなる極細繊維を製造した。ポリプロピレンとして、PolyMiraeのMF650Y(融点は160℃)を用いた。添加剤として、四級アンモニウム塩基を有するスチレンアクリル樹脂である藤倉化成株式会社のアクリベース(登録商標)FCA−201−PS型を用いた。この添加剤の分解温度は276℃であった。添加剤は、ポリプロピレン樹脂と該添加剤の合計質量に対して5%配合した。原料樹脂の電気インピーダンスは表1に示すとおりであった。溶融電界紡糸装置10における吐出ノズルベース13、吐出ノズル先端部14はステンレス製(SUS303)のものであった。溶融電界紡糸装置10の筐体11におけるシリンダの加熱温度は220℃とした。原料樹脂を筐体11内で溶融混練した。溶融した原料樹脂を、1g/minの吐出量で吐出ノズル先端部14から吐出した。吐出ノズル先端部14にはアースを施しておいた。吐出ノズル先端部14に対向する平板状帯電電極21には、高電圧発生装置22によって、20kVの高電圧を印加した。吐出ノズル先端部14は、平板状帯電電極21の中央部に対向するように配置した。平板状帯電電極21は80mm×80mmの寸法を有する矩形状であり、厚み10mmでステンレス製(SUS303)のものであった。吐出ノズル先端部14と帯電電極21との間の距離は35mmに設定した。吐出ノズル先端部14と帯電電極21との間に噴射部23を配置し、該噴射部23から、340℃に加熱された空気流を流量200L/minで噴出させた。空気流に搬送された繊維は、ポリプロピレンフィルムからなる捕集シート24の表面に堆積した。捕集シート24は、0.5m/minで周回する搬送コンベア25によって搬送させた。捕集電極27には、高電圧発生装置26によって高電圧を印加した。このようにして、極細繊維を製造した。極細繊維の平均繊維径は1070nmであった。
【0069】
〔実施例2ないし4〕
添加剤を表1に記載のものに代えた以外は実施例1と同様にして極細繊維を製造した。極細繊維の平均繊維径は2040nmであった。実施例2の添加剤の分解温度は349℃、実施例3の添加剤の分解温度は315℃、実施例4の添加剤の分解温度は329℃であった。
【0070】
〔実施例5〕
実施例2において、添加剤の配合量を表1に記載の配合量に代えた以外は実施例2と同様にして極細繊維を製造した。極細繊維の平均繊維径は1270nmであった。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1において、添加剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして極細繊維を製造した。
【0072】
〔比較例2及び比較例3〕
実施例1において、添加剤を表2に記載の添加剤に代えた以外は実施例1と同様にして極細繊維を製造した。
【0073】
〔比較例4〕
実施例2において、添加剤の配合量を表2に記載の配合量に代えた以外は実施例2と同様にして極細繊維を製造した。
【0074】
〔比較例5〕
実施例3において、添加剤の配合量を表2に記載の配合量に代えた以外は実施例3と同様にして極細繊維を製造した。
【0075】
〔評価1〕
実施例及び比較例において、
図2に示すとおりの方法で電気インピーダンスを測定した。
図2(a)に示すように、測定システム30は、恒温槽31と、測定器32と、解析用コンピュータ33とを含んで構成した。恒温槽31としては、自然対流式の一般的な恒温器を使用した。測定器32としては、インピーダンスアナライザー(solartron社製1260)と誘電率測定用インターフェース1296型(solartron社製)を使用した。恒温槽31で、固体状態及び溶融状態の原料樹脂の電気インピーダンスを測定するための治具として、
図2(b)ないし(d)に示す治具34を使用した。治具34の試料を充填していないから状態での静電容量を測定すると6.7pFであった。印加電圧は、210℃の測定ではAC0.1V、50℃の測定ではAC1Vで測定するとし、印加周波数は0.1Hzとした。測定温度は、固体状態である50℃と、PPの融点が160℃であるため溶融状態である210℃とした。測定環境は、23℃、40%RHであった。
【0076】
電気インピーダンスの測定手順は以下のとおり実施した。
(1)ポリプロピレン(PP)樹脂と添加剤とをそれぞれ所定の比率で合計が5gとなるよう計量し混合した。例えば添加剤を5%混合する場合には、樹脂4.75gと添加剤0.25gとを混合した。
(2)治具34を恒温槽31内に配置し、恒温槽31を210℃まで昇温し治具34も同時に温めた。
(3)原料樹脂5gを溶融した(恒温槽31で透明になるまで10分程度加熱した。)。
(4)
図2(d)に示すとおり、治具34に溶融した原料樹脂を流し込み、再び210℃に安定するまで静置した。
(5)恒温槽31内の温度を、210℃→50℃の順で低下させ、各温度で電気インピーダンスの絶対値を測定した。同じ試料を5個作って、最大、最小を切り捨てて3個の平均値をとった。その結果を表1及び表2に示す。
【0077】
〔評価2〕
実施例及び比較例において、原料樹脂を帯電させたときの帯電量を測定した。帯電量の測定は、
図3に示した帯電量評価装置100を用いて行った。帯電量は、ファラデーケージ610(春日電機株式会社製、KQ1400)内に配置した金属容器に帯電した溶融状態の原料樹脂を1分間捕集し、該ファラデーケージに接続したクーロンメータ600(春日電機株式会社製、NK−1002A)により測定した。下記の測定条件で行った。その結果を表1及び表2に示す。
印加電圧:20kV
樹脂吐出量:1g/min
樹脂加熱温度:190℃(吐出ノズル先端部)
加熱空気温度:340℃
測定環境:27℃、50%RH
【0078】
〔評価3〕
実施例及び比較例において、溶融電界紡糸装置による連続帯電運転の良否、すなわち紡糸性について評価した。連続帯電運転は、実施例1と同様の条件で、表1及び表2にそれぞれ示す添加剤を含む原料樹脂毎に極細繊維を連続で5分間製造した。評価は以下の基準で行った。その結果を表1及び表2に示す。
A:溶融した原料樹脂の電界紡糸が連続してできた。
B:溶融した原料樹脂の電界紡糸ができなかった。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例によれば、原料樹脂を高い帯電量で帯電させられることが判る。また、溶融した原料樹脂の吐出及び紡糸を連続してできることが判る。特に、添加剤が四級アンモニウム塩を官能基に持つスチレンアクリル樹脂である実施例1では、溶融状態での原料樹脂の帯電量が高く、且つ得られた繊維の繊維径が1070nmと細く、極細繊維が得られていることが判る。添加剤が金属石鹸である実施例2及び実施例5並びに比較例4の対比から、添加剤の配合量を5質量%以上とすることで原料樹脂の帯電量が高くなり、且つ得られた繊維の繊維径が2040nm以下と細く、極細繊維が得られていることが判る。これに対して、比較例1ないし3では、原料樹脂が添加剤として溶融して電離する塩構造を有している化合物を含んでいないことから、溶融状態での原料樹脂の帯電量が低く、A/Bが1.0×10
2以下であることに起因して連続して紡糸ができないことが判る。
【0082】
〔実施例6〕
添加剤としてランクセス社のメルソラートH95(登録商標)を用いた。メルソラートH95は、第2級アルカンスルホン酸ナトリウムの混合物であり、アルキル基の平均炭素数は14.5であった。この添加剤の分解温度は402℃であった。これ以外は実施例1と同様にして極細繊維を製造した。極細繊維の平均繊維径は550nmであった。
【0083】
〔実施例7ないし9及び比較例6〕
実施例6において、添加剤の配合量を表3に記載の配合量に代えた以外は実施例6と同様にして極細繊維を製造した。極細繊維の繊維径は、680nm(実施例7)、870nm(実施例8)、1280nm(実施例9)であった。比較例6では紡糸ができなかった。
【0084】
〔実施例10〕
セバシン酸と1,2−ドデカンジオールとからなるポリエステル(分子量約20000、融点84℃)を合成して原料樹脂として用い、添加剤としてランクセス社のメルソラートH95(登録商標)を用いた以外は実施例6と同様にして極細繊維を製造した。極細繊維の平均繊維径は640nmであった。
【0085】
得られた極細繊維について、前記の〔評価1〕ないし〔評価3〕を行った。その結果を以下の表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示す結果から明らかなとおり、各実施例によれば、原料樹脂を高い帯電量で帯電させられることが判る。また、溶融した原料樹脂の吐出及び紡糸を連続してできることが判る。更に、実施例10に示す結果から明らかなとおり、原料樹脂としてポリエステルを用いた場合においても、原料樹脂を高い帯電量で帯電させることができることが判る。また、溶融した原料樹脂の吐出及び紡糸を連続してできることが判る。