(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外壁材として、押出成形セメント板などが用いられている。押出成形セメント板は、中空形状で軽量・高強度であることから、近年、外壁材として多く用いられている。以下、外壁材として押出成形セメント板を例に説明する。
【0003】
図12は、従来の外壁材の防水構造を示す断面図である。外壁材に押出成形セメント板100,101が用いられる場合、押出成形セメント板100,101は躯体120の下地材121にZクリップ130で取り付けられる。Zクリップ130は、押出成形セメント板100,101の中空部102に挿入される角ナット131に固定ボルト132で取り付けられている。そして、押出成形セメント板100,101の間の横目地部110の防水を行うために、目地部110の横方向に延びる水切りプレート111が設けられる(水切りプレートの詳細は、後述する
図4参照)。水切りプレート111は、下地材121の上面に配置される。水切りプレート111と押出成形セメント板100との間には、下地材121と押出成形セメント板100との空間を調整するための硬質パッキン115が設けられる。水切りプレート111の押出成形セメント板100の外側に位置する垂下部112には、上下方向に貫通する通水部が形成されたバックアップ材113が設けられている。そして、バックアップ材113の表側に、目地部110を塞ぐシーリング材114が充填される。
【0004】
外壁材が押出成形セメント板100,101の場合、中空部102があるためシーリング材114の充填厚みに限りがある。そして、
図13に示すように、万が一、目地部110から内部に水Wが浸入した場合でも、中空部102を利用して水Wを下方に排出し、室内側への水Wの浸入を防止するため、上記水切りプレート111を設けた二次防水構造として水密性能の向上が図られている。この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、押出成形セメント板100,101の外側面を「表面」、表面側の外部空間を「室外側」、内側面を「裏面」、裏面側の内部空間を「室内側」という。
【0005】
なお、水切りプレート111を用いた目地部の防水構造として、例えば、特許文献1に記載のものがある。また、押出成形セメント板をZクリップ130で取り付ける先行技術として、例えば、特許文献2に記載のものがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の押出成形セメント板の防水構造は、押出成形セメント板100,101の表面側における漏水を主に防止する構造であり、
図13に示すように、固定ボルト132のボルト貫通穴133などの気密性の弱い部分から押出成形セメント板100,101の室内側への多少の空気Aの漏洩は許容されていた。しかし、押出成形セメント板100,101の表面側のシーリング材114の劣化が激しい場合は、室外側の風圧力が高くなると押出成形セメント板100,101の室内側への漏気量が増大してしまう。そして、例えば、中空部102内を逆流して固定ボルト132のボルト貫通穴133や下地材121の下部に設けられているロックウール116などのパッキン材と押出成形セメント板101の接触面から雨水等W(以下、単に「水W」という)が押出成形セメント板100,101の裏面側に漏水するおそれがある。このように外側のシーリング材114の劣化が著しい場合には、外壁の防水性能を低下させてしまうため、表面側のシーリング材114の不具合を都度補修する必要がある。しかし、中低層建築物では外側シーリング材114の補修は比較的容易であるが、高層建築物では不具合箇所の発見や補修が困難であるという問題もある。
【0008】
一方、上記したような押出成形セメント板100,101の縦張り(押出成形セメント板の押し出し方向(長手方向)を縦向きにして外壁を形成する張り方)では、層間変位時に押出成形セメント板100,101がスムーズにロッキングを行うように、押出成形セメント板100,101の幅方向中央部の下部にロッキングブロックを設置することも行われている。この場合、ロッキングブロックの厚み分で目地部110の幅(上下方向の間隔)が広くなる。このため、シーリング材114の充填面積も増加することから、シーリング材114の劣化を考えると二次防水構造による水密性能の向上がさらに必要になる。
【0009】
なお、上記特許文献1では、上側の押出成形セメント板の中空部内に侵入した水を効果的に下方の押出成形セメント板の中空部に排出できるものの、風圧力が高くなった場合には、吹き込んだ空気により押出成形セメント板の上端から浸入した水が水切りプレートを逆流して室内側に浸入するおそれがある。さらに、中空部内を逆流して下地材の下部に設けられているロックウールなどのパッキン材と押出成形セメント板の接触面から雨水等が押出成形セメント板の裏面側に浸入するおそれがある。上記特許文献2には、目地部における防水構造については何ら記載されていない。
【0010】
そこで、本発明は、外壁材の目地部における水密性と気密性を向上させて、外壁材から室内側への水や空気の漏洩を防止することができる外壁材の目地部用ガスケッ
トを備えた防水構造を提供することを目的とする。さらに、外側シーリング材に不具合が生じても水密性能を維持し、外壁材としての機能を低下させない防水構造を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る
外壁材の防水構造は、外壁材が押出成形セメント板であり、前記押出成形セメント板
の目地部に、該目地部において上方の前記押出成形セメント板の中空部から垂れる水を下方の前記押出成形セメント板の中空部へと導く水切りプレート
を備え、前記水切りプレートを前記押出成形セメント板を下方から支持する下地材上に配置し、前記水切りプレートと前記押出成形セメント板との間に
、該押出成形セメント板の前記目地部に沿って延びる所定長さを有し、断面形状が、矩形状の基部と三角形状の頂部とを有し、三角形状の前記頂部は、中央部分に凹部を有し、前記外壁材に押圧することで該頂部が変形するように構成されている目地部用ガスケットを備え、前記目地部用ガスケットの前記基部を前記水切りプレート又は前記押出成形セメント板に貼着し、前記目地部用ガスケットの前記頂部を前記押出成形セメント板又は前記水切りプレートに押圧するように構成した。
【0012】
この
構成により、押出成形セメント板の目地部に水切りプレートを備えさせ、その水切りプレートと押出成形セメント板との間に基部と頂部を有する目地部用ガスケットを配置し、目地部用ガスケットの頂部を押出成形セメント板又は水切りプレートに向けて押圧することで、水切りプレートによる水切りと押出成形セメント板の目地部における水密性能と気密性能の向上を図ることができる。
【0013】
また、前記押出成形セメント板を下方から支持する下地材と、前記押出成形セメント板との間に、
前記押出成形セメント板の前記目地部に沿って延びる所定長さを有し、断面形状が、略V字形状の屈曲部を有するように形成され、前記屈曲部は、前記目地部への挿入時に該屈曲部から離れた端部が近接して変形するように構成された目地部用ガスケットをさらに備えてい
てもよい。
【0014】
このように構成すれば、
目地部における下側の押出成形セメント板の上部のシールを、V字形状の屈曲部を有する目地部用ガスケットをU字形状に変形させて下地材と押出成形セメント板との間に挿入することで適切にできる。
【0015】
また、
断面形状が矩形状の基部と三角形状の頂部とを有する前記目地部用ガスケット及び
断面形状が略V字形状の屈曲部を有する前記目地部用ガスケットの少なくとも一方を外壁材の目地部に備えていてもよい。
【0016】
このように構成すれば、
外壁材の目地部における防水構造を、目地部用ガスケットのいずれか一方又は両方を備えた防水・気密構造として、壁面を形成した後の外壁材の目地部における水密性能と気密性能の向上を図ることができる。しかも、外壁材が押出成形セメント板のようにシール部の確保が難しい外壁材の場合でも、目地部における水密性能と気密性能の向上を図ることができる。
【0017】
また、前記押出成形セメント板の中空部内と該押出成形セメント板を躯体に固定する固定部材との間に、気密ガスケットをさらに備えていてもよい。
【0018】
このように構成すれば、押出成形セメント板の防水構造において、押出成形セメント板の中空部内と固定部材との間に備えられた気密ガスケットにより、押出成形セメント板を躯体に固定する部分でも、水密性能と気密性能の向上を図ることができる。すなわち、目地部の部分における内側の隙間を全て塞ぐと、風圧を受けて目地部に吹き込んだ空気により、目地部の内側空間だけでなく、押出成形セメント板の中空部内の空気圧が上昇して、固定ボルトのボルト貫通穴などの気密性の弱い部分から押出成形セメント板の室内側への漏水や漏気を生じるおそれがあるが、この漏水や漏気を防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、外壁材の目地部における水密性能と気密性能の向上を図ることが可能となる。さらに、表面側のシーリング材に不具合が生じても水密性能を維持し、外壁材としての機能を維持することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、外壁材として押出成形セメント板100,101を例に説明する。また、押出成形セメント板100,101の押出成形方向に延在する中空部102を上下方向として取り付ける縦張りにおける横方向に延びる横目地部110の防水構造を例に説明する。なお、縦張りされた押出成形セメント板100,101は、中空部102が延在する上下方向を縦方向、左右方向を横方向という。
【0022】
(第1
例に係る目地部用ガスケットの構成)
図1は、第1
例に係る第1目地部用ガスケット10を示す図面であり、(A)は断面図、(B)は一部の斜視図である。第1
例に係る第1目地部用ガスケット10は、押出成形セメント板100,101の目地部110に沿って延びる所定長さを有し、断面形状において、矩形状の基部11と三角形状の頂部12を有する中空状となっている。そして、三角形状の頂部12は、中央部分に凹部13を有し、頂部12が変形するようになっている。第1目地部用ガスケット10の断面形状をこのような形状にすることで、基部11の設置状態が安定するようにしている。
【0023】
第1目地部用ガスケット10の材質としては、PVC(ポリ塩化ビニル)、EP(エチレン・プロピレンゴム)、Si(シリコンゴム)、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)などを用いることができる。特に、後述するように水切りプレート40に設置する第1目地部用ガスケット10としては、圧縮反発力の大きいEPDMのソリッドの材質が好ましい。
【0024】
この第1目地部用ガスケット10によれば、押出成形セメント板100,101との密着時には、三角形状の頂部12のみが変形する。しかも、頂部12に形成した凹部13により、押出成形セメント板100,101と安定して密着させることができ、密着させた状態でも矩形状の基部11は形状を維持して安定した状態を保つことができる。また、頂部12の変形された部分が元に戻ろうとする力により、押出成形セメント板100,101との密着性を高めることができる。よって、押出成形セメント板100,101の目地部110における水密性能と気密性能の向上を図ることができる。
【0025】
(第2
例に係る目地部用ガスケットの構成)
図2は、第2
例に係る第2目地部用ガスケット20を示す図面であり、(A)は断面図、(B)は一部の斜視図である。第2
例に係る第2目地部用ガスケット20は、押出成形セメント板100,101の目地部110に沿って延びる所定長さを有し、断面形状が、略V字形状の屈曲部21を有するように形成されている。この
例では、90°のV字形状となっているが、60°、120°など、V字形状の角度は限定されない。そして、屈曲部21から端部22にかけて、目地部110への挿入時に端部22が近接するように変形させることができる。この第2目地部用ガスケット20の材質としても、PVC、EP、Si、EPDMなどを用いることができる。
【0026】
この第2目地部用ガスケット20によれば、目地部110への挿入時に略V字形状の屈曲部21から端部22にかけて、端部22が近接すように変形させることで、目地部110への挿入がし易く、挿入後は端部22が元に戻ろうとする力で密着性を高めることができる。さらに、目地部110への挿入後は、目地部110の内方に向けて断面略U字形状となるので、中空部102からの空気の流れを逆方向に戻すことができる。よって、押出成形セメント板100,101の目地部110における水密性能と気密性能の向上を図ることができる。
【0027】
(第3
例に係る目地部用ガスケットの構成)
図3は、第3
例に係る第3目地部用ガスケット30を示す図面であり、(A)は断面図、(B)は一部の斜視図である。第3
例に係る第3目地部用ガスケット30は、上記第2目地部用ガスケット20の変形例である。この第3目地部用ガスケット30も、押出成形セメント板100,101の目地部110に沿って延びる所定長さを有し、断面形状が、略V字形状の屈曲部31を有するように形成されている。そして、屈曲部31から端部32にかけて、目地部110への挿入時に端部32が近接するように変形させることができる。この第3目地部用ガスケット30の材質としても、PVC、EP、Si、EPDMなどを用いることができる。
【0028】
この第3目地部用ガスケット30によっても、目地部110への挿入時に略V字形状の屈曲部31から端部32にかけて、端部32が近接すように変形させることで、目地部110への挿入がし易く、挿入後は端部32が元に戻ろうとする力で密着性を高めることができる。さらに、目地部110への挿入後は、目地部110の内方に向けて断面略U字形状となるので、中空部102からの空気の流れを逆流させる方向に戻すことができる。よって、押出成形セメント板100,101の目地部110における水密性能と気密性能の向上を図ることができる。
【0029】
(水切りプレートの構成)
図4は、押出成形セメント板100,101(外壁材)の防水構造に用いる水切りプレート40を示す図面であり、(A)は側面図、(B)は一部の斜視図である。水切りプレート40は、側面視において、押出成形セメント板100,101の内方で垂直方向に立上がる立上がり部41と、この立上がり部41の下端から外方へ水平方向に延びる水平部42と、この水平部42の先端から下方に延びる垂下部43とを有している。水切りプレート40は、例えば、ステンレス製のプレートを折り曲げ加工して形成することができる。上記垂下部43の外方には、水切りプレート40の上方から垂れてくる水を下方へ排水するための通水部45を有する透水部材44が設けられる。
【0030】
(第1
例に係る気密ガスケットの構成)
図5は、押出成形セメント板100,101(外壁材)の防水構造に用いる第1
例に係る第1気密ガスケット50を有する角ナット131の図面であり、(A)は斜視図、(B)は中央断面図である。第1気密ガスケット50は、角ナット131の押出成形セメント板100,101と接する面に貼着されている。角ナット131の中央部分には、固定ボルト(固定部材)132(
図8)が螺合される雌ねじ134が設けられており、その部分の第1気密ガスケット50は貫通穴51となっている。貫通穴51は、雌ねじ134に固定ボルト132が挿入できる大きさとなっている。
【0031】
第1気密ガスケット50は、発泡ゴム又はウレタン発泡体など、角ナット131や押出成形セメント板100,101の中空部102の内面形状への追従性に優れた材質のものを用いる。第1気密ガスケット50は、押出成形セメント板100,101の中空部102おける内面形状の状態に合わせ、形状追従性のよいものであればよい。
【0032】
(第2
例に係る気密ガスケットの構成)
図6は、押出成形セメント板100,101(外壁材)の防水構造に用いる第2
例に係る第2気密ガスケット55を有する角ナット135の図面であり、(A)は斜視図、(B)は中央断面図である。第2気密ガスケット55は、角ナット135の押出成形セメント板100,101と接する面に貼着されている。この実施形態の角ナット135は、幅方向の中央部分に固定ボルト(固定部材)132(
図8)が螺合される雌ねじ136が設けられ、その両側部が、第2気密ガスケット55が貼着された方向に向けて僅かに屈曲するように形成されている。第2気密ガスケット55は、角ナット135の雌ねじ136の部分を含む大きさで形成され、雌ねじ136の部分に貫通穴56が設けられている。貫通穴56は、固定ボルト132が挿入できる大きさとなっている。
【0033】
第2気密ガスケット55も、発泡ゴム又はウレタン発泡体など、角ナット135や押出成形セメント板100,101の中空部102の内面形状への追従性に優れた材質のものを用いる。第2気密ガスケット55は、押出成形セメント板100,101の中空部102おける内面形状の状態に合わせ、形状追従性のよいものであればよい。
【0034】
(第1実施形態に係る外壁材の防水構造)
図7は、第1実施形態に係る外壁材の防水構造70を示す部分断面斜視図であり、
図8は、
図7に示す外壁材の防水構造70の断面図である。この防水構造70は、外壁材として押出成形セメント板100,101が用いられ、その目地部110に上述した第1目地部用ガスケット10が用いられている。また、押出成形セメント板100,101にZクリップ130を固定する固定ボルト132の部分に、上記第1気密ガスケット50を有する角ナット131が用いられている。
【0035】
この実施形態における上下の押出成形セメント板100,101は、躯体120に取り付けられたT形の下地材(CT形鋼)121にZクリップ130で取り付けられている。上下の押出成形セメント板100,101の間の目地部110には、上記
図4に示す水切りプレート40が設けられている。水切りプレート40は、上側の押出成形セメント板100の下地材121上に立上がり部41と水平部42が配置されている。水平部42から垂下する垂下部43は、下側の押出成形セメント板101に形成された切込み部103に入り込むように配置されている。これにより、上側の押出成形セメント板100の中空部102に浸入した水Wが押出成形セメント板100,101の目地部110から室内側へ漏水することを防止し、水Wを水切りプレート40の水平部42から垂下部43へと導いて、下側の押出成形セメント板101の中空部102へと導いている。そして、押出成形セメント板100,101の室外側から水切りプレート40の垂下部43に設けられた透水部材44に接するように挿入されたバックアップ材113の外側にシーリング材114が充填される。
【0036】
また、水切りプレート40の上面には、上側の押出成形セメント板100の幅方向中央部にブロック状のロッキングブロック60が設置されている。ロッキングブロック60は公知の構成であり、このロッキングブロック60により、押出成形セメント板100に層間変位を生じてもスムーズに変位することができる。
【0037】
そして、この実施形態の防水構造70では、上記水切りプレート40の立上がり部41と上側の押出成形セメント板100との間に第1目地部用ガスケット10が取り付けられている。第1目地部用ガスケット10は、下地材121との空間を調整するために取り付けられた硬質パッキン115の上方に取り付けられている。この第1目地部用ガスケット10は、基部11が、予め両面テープや接着剤などで水切りプレート40の立上がり部41に取り付けられ、頂部12が押出成形セメント板100の裏面に接した状態となる。
【0038】
また、下側の押出成形セメント板101と下地材121との間には、硬質パッキン115の下方に第1目地部用ガスケット10が取り付けられている。この第1目地部用ガスケット10は、基部11が、予め両面テープや接着剤などで下地材121の所定位置に取り付けられ、頂部12が押出成形セメント板101の裏面に接した状態となる。
【0039】
第1目地部用ガスケット10は、図示するように、基部11が水切りプレート40か下地材121に取り付けられるか、又は押出成形セメント板100,101のいずれか一方のみに取り付けられる。これにより、押出成形セメント板100,101の層間変位時に第1目地部用ガスケット10の頂部12が変形したり破損することを防止する。なお、下側の押出成形セメント板101の上部と下地材121との間には、ロックウール116が充填されている。
【0040】
上記したように取り付けられた第1目地部用ガスケット10は、頂部12が押出成形セメント板100,101の裏面に押圧された状態となる。これにより、凹部13の両側の頂部12が変形し、押出成形セメント板100,101と密着した状態が保たれる。
【0041】
さらに、この実施形態では、押出成形セメント板100,101を下地材121(躯体120)に取り付けるZクリップ130を固定する固定ボルト132を螺合する角ナット131に第1気密ガスケット50が貼着されている。これにより、角ナット131の部分でも水密性と気密性を向上させている。
【0042】
この第1気密ガスケット50を有する角ナット131を用いることにより、以下のような場合にも水密性と気密性を向上させることができる。シーリング材114に欠損が生じた場合、上記第1目地部用ガスケット10によって、押出成形セメント板100,101の間から室内側への漏気を止めることで、漏気の逃げ場がなくなり、特に、室外側の風圧が高い状態の場合には押出成形セメント板100,101の中空部102の内部は空気圧力が上昇する。そのため、中空部102に角ナット131を設置して固定ボルト132でZクリップ130を固定する押出成形セメント板100,101の取付方法では、ボルト貫通穴133(
図13)の部分から室内側への漏気が発生し、場合によってはその漏気とともに水が押出成形セメント板100,101の室内側へ浸入するおそれが生じる。しかし、この実施形態では、上記したように押出成形セメント板100,101の中空部102に配置する角ナット131に第1気密ガスケット50が貼着されているので、この第1気密ガスケット50が、角ナット131と押出成形セメント板100,101の中空部102の内面との両方に密着し、ボルト貫通穴133(
図13)の部分から室内側への漏水と漏気を防止する。したがって、押出成形セメント板100,101を下地材121(躯体120)に取り付けるZクリップ130の部分における水密性と気密性も向上させることが可能となる。
【0043】
この第1実施形態の防水構造70によれば、押出成形セメント板100,101の目地部110に第1目地部用ガスケット10が配置され、押出成形セメント板100,101が第1気密ガスケット50を有する角ナット131で取り付けられた後、上下の押出成形セメント板100,101の目地部110には、押出成形セメント板100,101の室外側から水切りプレート40の垂下部43に設けられたバックアップ材44の外側にシーリング材114が充填される。これにより、押出成形セメント板100,101の目地部110に、水密性・気密性を適切に保つことができる目地部用ガスケット10を備えた防水構造70を構成することができる。
【0044】
なお、押出成形セメント板100,101の表面側の縦目地間には、バックアップ材113を挿入後、シーリング材114が打設され、裏面側の縦目地間には、縦ガスケット140が挿入される。縦ガスケット140は、PVC、EP、Si、EPDM等、従来の材質のものを用いることができる。
【0045】
(第2実施形態に係る外壁材の防水構造)
図9は、第2実施形態に係る外壁材の防水構造を示す部分断面斜視図であり、
図10は、
図9に示す外壁材の防水構造の断面図である。この実施形態は、下側の押出成形セメント板101の上部における目地部用ガスケットを、押出成形セメント板101の取り付け前に取り付けておくことができない場合の例である。なお、上記第1実施形態の防水構造70と同一の構成については、簡単な説明とする。
【0046】
第2実施形態に係る防水構造71は、外壁材として押出成形セメント板100,101が用いられ、その目地部110に上述した第1目地部用ガスケット10と上述した第2目地部用ガスケット20とが用いられている。また、押出成形セメント板100,101にZクリップ130を固定する固定ボルト132の部分に、上記第1気密ガスケット50を有する角ナット131が用いられている。
【0047】
この実施形態における上下の押出成形セメント板100,101は、躯体120に取り付けられたL形の下地材121(L形鋼)にZクリップ130で取り付けられている。上下の押出成形セメント板100,101の間の目地部110には、上記
図4に示す水切りプレート40が設けられている。この水切りプレート40、及びロッキングブロック60、硬質パッキン115、ロックウール116は、上記第1実施形態と同様に取り付けられている。
【0048】
この実施形態の防水構造71でも、上記水切りプレート40の立上がり部41と上側の押出成形セメント板100との間に第1目地部用ガスケット10が取り付けられている。第1目地部用ガスケット10は、下地材121との空間を調整するために取り付けられた硬質パッキン115の上方に取り付けられている。この第1目地部用ガスケット10は、基部11が、予め両面テープや接着剤などで水切りプレート40の立上がり部41に取り付けられ、頂部12が押出成形セメント板100の裏面に接した状態となる。
【0049】
そして、この実施形態の防水構造71では、下側の押出成形セメント板101と上側の押出成形セメント板100を支持する下地材121との間に第2目地部用ガスケット20が挿入されている。この第2目地部用ガスケット20は、目地部110の室内側から挿入する時に、断面が略V字形状の状態からU字形状に変形させながら挿入される。目地部110に挿入される第2目地部用ガスケット20は、屈曲部21が押出成形セメント板101の裏面と略同―面となる位置まで挿入される。
【0050】
このように変形させて挿入された第2目地部用ガスケット20は、目地部110への挿人後は、目地部110の内方に屈曲部21が位置する断面略U字形状になることにより、空気Aの流れ(
図13)を押出成形セメント板101の表面側に向けて戻すことができるので、気密性、水密性を保つことができる。なお、この実施形態の第2目地部用ガスケット20に代えて、上述した第3目地部用ガスケット30を用いても同様である。
【0051】
さらに、この実施形態の防水構造71でも、上記実施形態と同様に、押出成形セメント板100,101を下地材121(躯体120)に取り付けるZクリップ130を固定する固定ボルト132を螺合する角ナット131に第1気密ガスケット50が貼着されている。これにより、角ナット131の部分でも水密性と気密性を向上させている。
【0052】
したがって、第1目地部用ガスケット10及び第2目地部用ガスケット20によって隙間を全て塞ぐことにより、シーリング材114に欠損が生じ、風圧を受けて目地部110の内部圧力が上昇したとしても、押出成形セメント板100,101と第2気密ガスケット55との界面における密着性が保たれる。しかも、外部の風圧が高い状態でも、角ナット131の第1気密ガスケット50によってボルト貫通穴133(
図13)の部分から押出成形セメント板100,101の室内側への漏気を防止し、漏気とともに水が押出成形セメント板100,101の室内側へ浸入することを防止できる。
【0053】
この第2実施形態の防水構造71によれば、上記第2目地部用ガスケット20の目地部外側にはロックウール116が充填され、押出成形セメント板100,101の外側の目地部110には、押出成形セメント板100,101の室外側から水切りプレート40の垂下部43設けられた透水部材44に接するように挿入されたバックアップ材113の外側にシーリング材114が充填される。これにより、押出成形セメント板100,101の目地部110に、水密性・気密性を適切に保つことができる目地部用ガスケット10,20を備えた防水構造71を構成することができる。
【0054】
上記第1実施形態の防水構造70と第2実施形態の防水構造71とは、押出成形セメント板100,101を施工する下地材121の種類(形状)によって異なり、押出成形セメント板100,101の取り付け前に下地材121に第1目地部用ガスケット10を張付けておく防水構造70と、押出成形セメント板100,101の取り付け後に押出成形セメント板100,101の室内側から第2目地部用ガスケット20又は第3目地部用ガスケット30を挿入する防水構造71との違いがある。
【0055】
なお、第1実施形態と同様に、押出成形セメント板100,101の表面側の縦目地間には、バックアップ材113を挿入後、シーリング材114が打設され、裏面側の縦目地間には、縦ガスケット140が挿入される。
【0056】
(外壁材の防水構造おける性能試験)
図11は、上記
図7,8に示す外壁材の防水構造70における性能試験装置の構成図である。性能試験では、目地部110の外側にあるシーリング材(1次シール)の劣化を想定し、欠損を与えた状態で気密箱方式による水密性能試験を行った。
【0057】
気密箱方式の試験装置としては、試験体の外壁材80として、上記
図7,8の防水構造70となった押出成形セメント板100,101が圧力箱81の一面に固定される。この試験装置の場合、圧力箱81の内側に外壁材80の外面が向くように固定される。外壁材80には、圧力箱81の内部に設置された水噴射ノズル82から散水装置83で水Wが噴射される。圧力箱81の内部圧力変化は、圧力変換器84を介して接続された記録計85によって記録される。圧力箱81の内部は、加圧用の送風機86で連動ダンパー87を介して圧力箱81の内部に空気を供給することで加圧可能となっている。また、減圧用の送風機88で連動ダンパー87を介して圧力箱81の内部の空気を排出することで減圧可能となっている。圧力箱81の内部圧力は、圧力自動制御装置89にフィードバックされ、圧力自動制御装置89で上記連動ダンパー87を開閉制御することで調節される。このような試験装置により、圧力箱81の内側を外壁材80の外面側、圧力箱81の外側を外壁材80の裏面側として試験を行った。
【0058】
<試験結果>
上述した
図12に示す従来の防水構造では、圧力箱81の内部圧力が3000Paを超えると外壁材80の裏面側(図の外側)へ漏水する事象が発生した。
【0059】
一方、上述した
図7に示す防水構造70において、第1目地部用ガスケット10としてEPDMのものを用い、角ナット131の第1気密ガスケット50としてウレタン発泡のものを用いた場合、圧力箱81の内部圧力が3500Paまで外壁材80の裏面側(図の外側)への漏水が一切発生しなかった。さらに、内部圧力を5000Paまで上げても、外壁材80の裏面側(図の外側)へ水がわずかににじみ出す程度であり、水が極端に流れ出したり、しぶき上げるような事象の発生はなかった。なお、第1気密ガスケット50をウレタン発泡から硬質ゴムに代えた場合でも、外壁材80の裏面側への水のにじみ出しは明らかに少なかった。
【0060】
(総括)
以上のように、上記押出成形セメント板(外壁材)100,101の目地部用ガスケット10,20,30によれば、押出成形セメント板(外壁材)100,101に密着させた状態を安定して保ち、目地部110の内側における気密性、水密性を向上させることができ、押出成形セメント板100,101の裏面側への漏水、漏気を適切に防止することが可能となる。
【0061】
そして、この目地部用ガスケット10,20,30を備えた押出成形セメント板(外壁材)100,101の防水構造70,71によれば、押出成形セメント板(外壁材)100,101の目地部110において高い水密性と気密性を保つことができるので、外壁としての水密性能と気密性能を向上させることが可能となる。
【0062】
さらに、防水構造70,71の一部として、押出成形セメント板100,101を躯体120に取り付ける角ナット131に気密ガスケット50,55を備えさせれば、ボルト貫通穴133の部分からの漏水、漏気を適切に防止することができ、外壁材全体における水密性と気密性を向上させることが可能となる。
【0063】
また、上記した防水構造70,71によれば、押出成形セメント板100,101にロッキングブロックが設置されて目地部110の幅が広くなった場合でも、水密性能・気密性能を向上させることが可能となる。
【0064】
なお、上記した実施形態では、押出成形セメント板100,101をZクリップ130で下地材121(躯体120)に固定する例を説明したが、Zクリップ130以外で固定する場合でも適用でき、押出成形セメント板100,101の固定方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0065】
さらに、上記した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。