(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スイッチング素子と前記スイッチング素子のオンオフによって充放電するコンデンサとをそれぞれ含み直列に接続された複数の単位変換器と、前記複数の単位変換器に流れる電流の方向である電流方向にもとづいて前記コンデンサの電圧に対する指令値を生成するセル制御器と、を含む電力変換器と、
前記セル制御器から前記コンデンサの電圧を取得し、前記コンデンサの電圧にもとづいて、前記コンデンサの電圧の平均値を前記セル制御器に供給する制御装置と、
を備え、
前記複数の単位変換器に流れる電流は、前記複数の単位変換器のうちの1つに流れるセル電流であり、
前記セル制御器は、前記複数の単位変換器ごとに設けられ、前記制御装置との間で、前記コンデンサの電圧のデータを伝送通信する電力変換装置。
前記制御装置は、前記コンデンサの電圧のデータおよび前記コンデンサの電圧の平均値にもとづいて、前記コンデンサの電圧に関する制御量を演算し、演算結果を前記セル制御器に伝送通信する請求項1〜5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図1に示すように、電力変換装置20は、変圧器4を介して電力系統5に連系されている。電力系統5は、この例では、50Hzまたは60Hzの周波数の三相交流を供給する交流電源である。電力変換装置20は、電力系統5の各相の系統電圧vsr,vss,vstを検出し、電力系統5の各相に交流電流ir,is,itを供給する。この例では、電力変換装置20は、電力系統に無効電力を注入する無効電力補償装置である。
【0012】
電力変換装置20は、電力変換器1と、制御装置2と、を備える。電力変換器1は、相ごとにバッファリアクトル3を介して、電力系統5に接続される。バッファリアクトル3は、電力変換器1においてスイッチングに伴って瞬時に生じる線間短絡の際の電流増加を抑制する。制御装置2は、電力変換器1に接続されている。
【0013】
電力変換器1は、アーム14を含む。アーム14は、各相に対応して設けられている。三相交流の電力系統5では、電力変換器1は、3つのアーム14を含む。この例では、3つのアーム14は、バッファリアクトル3を介してデルタ結線されている。
【0014】
各アーム14は、複数の単位変換器11を含む。この例では、各相のアーム14は、m個の単位変換器11を含んでいる。複数の単位変換器11は、アーム14内で直列にm個接続されている。
【0015】
単位変換器11は、4つのスイッチング素子12と、コンデンサ13と、を含む。スイッチング素子12は、自己消弧型のスイッチング素子とダイオードとが逆並列に接続されている。2つのスイッチング素子12は、直列に接続されている。直列に接続されたスイッチング素子12の直列接続回路は、並列に2つ接続されている。つまり、4つのスイッチング素子12は、フルブリッジ接続されている。単位変換器11は、フルフリッジ回路の出力を介して互いに直列に接続されている。
【0016】
コンデンサ13は、4つのスイッチング素子12によって構成されたフルブリッジ回路に並列に接続されている。コンデンサ13は、直流電圧源として機能する。スイッチング素子12がスイッチングすることによって、コンデンサ13にエネルギを供給し、コンデンサ13からエネルギを外部に供給する。単位変換器11の出力は、フルブリッジ回路の出力である。
【0017】
図示しないが、単位変換器11は電圧検出器を含む。電圧検出器は、各コンデンサ13の両端の電圧であるコンデンサ電圧vcr1〜vcrm,vcs1〜vcsm,vct1〜vctmを検出する。なお、以下の説明では、特に断らない限り、各相(各アーム)のコンデンサ電圧vcr1〜vcrm,vcs1〜vcsm,vct1〜vctmを、vc1〜vcm、またはvcnと表すこととする。単位変換器11の出力電圧vr1〜vrm,vs1〜vsm,vt1〜vtmを、v1〜vm、またはvnと表すこととする。ここで、n=1〜mの整数である。
【0018】
制御装置2は、各相の系統電圧vsr,vss,vstおよび電力変換器1の相間に流れる電流irs,ist,itrにもとづいて、各相の電圧指令値vr*,vs*,vt*を演算する。制御装置2は、演算された電圧指令値vr*,vs*,vt*を電力変換器1に伝送する。制御装置2は、単位変換器11を制御するためのいくつかの操作量や制御信号等を生成する。後に詳述するように、単位変換器11のための制御機能は、たとえば階層的に分割されており、その機能のうちの一部は、電力変換器1に設けられ、残りの部分は、制御装置2に設けられる。
【0019】
図2に示すように、本実施形態の電力変換装置20では、単位変換器11の制御機能は、中央制御器30と、相制御器40と、セル制御器50と、に分割されている。中央制御器30は、電力変換器1が有するすべてのコンデンサ13の両端電圧の平均値であるコンデンサ電圧平均値vcを電圧指令値v*に一致させるように制御して、電力系統5と電力変換器1との間の有効電流指令値を生成する。
【0020】
中央制御器30では、生成された有効電流指令値および各相に流れるアーム電流iarmにもとづいて、各相の出力電圧のための指令値を生成する。中央制御器30は、各相のアーム14内のコンデンサ電圧の平均値のバランスも制御する。コンデンサ電圧の平均値のバランスを制御するとは、ある相のコンデンサ電圧の平均値を他の相のコンデンサ電圧の平均値と等しくなるように制御することをいう。
【0021】
相制御器40は、コンデンサ電圧平均値演算器41を含む。コンデンサ電圧平均値演算器41は、すべての単位変換器11からコンデンサ電圧vcnを取得し、それらの平均値であるコンデンサ電圧平均値vcを計算する。相制御器40は、コンデンサ電圧平均値vcを中央制御器30に送り、中央制御器30は、コンデンサ電圧の平均値のバランス制御結果を電圧指令値v*に反映させる。
【0022】
セル制御器50は、たとえば単位変換器11ごとに設けられている。直列にm個接続された単位変換器11のうちn番目の単位変換器11をn段目の単位変換器11のようにいうことがある。また、n段目の単位変換器11を制御するセル制御器50をn段目のセル制御器50ということもある。セル制御器50は、同一のアーム14内のコンデンサ電圧vcnのバランスを制御する。コンデンサ電圧のバランスを制御するとは、同一アーム内のコンデンサ電圧をコンデンサ電圧平均値vcに一致させることによって、各コンデンサ電圧が等しくなるように制御することをいう。
【0023】
セル制御器50は、電流検出器15と、PWM制御器51と、段間バランス制御器52と、を含む。電流検出器15によって検出された単位変換器11に流れるセル電流icellは、段間バランス制御器52に供給される。単位変換器11はアーム14内で直列に接続されているので、単位変換器11に流れるセル電流icellは、その単位変換器11が属するアームに流れるアーム電流iarmに等しい。段間バランス制御器52は、電圧指令値v*、コンデンサ電圧平均値vcおよびセル電流icellにもとづいて、セル電圧指令値vcn*を生成する。なお、ここでは、電圧指令値v*は、三相交流である電力系統5の三相のうちの1つの相の1セルあたりの電圧指令値である。
【0024】
セル制御器50は、このようにして直列に接続された単位変換器11のコンデンサ電圧vc1〜vcmをバランスさせるとともに、単位変換器11の出力電圧を制御する。
【0025】
本実施形態の電力変換装置20では、たとえば、中央制御器30および相制御器40は、制御装置2に実装され、セル制御器50は、電力変換器1に実装される。
【0026】
中央制御器30、相制御器40およびセル制御器50は、相互に金属導線や光ファイバ等のケーブルによって接続されている。中央制御器30、相制御器40およびセル制御器50は、ケーブルによって電圧指令値等のデータを伝送することができる。データの伝送を行う場合には、通信プロトコルに応じて、それぞれの制御器において信号変換を行い伝送通信する。データの伝送通信には、図示しないが、通信のためのプロトコル変換や、データの変換を行うCPU等のプログラマブルな演算器が用いられる。
【0027】
セル制御器50は、相制御器40を介して中央制御器30から電圧指令値v*のデータを受信する。セル制御器50は、コンデンサ電圧vcnを相制御器40に供給する。相制御器40では、各セル制御器50から取得したコンデンサ電圧vcnを用いてコンデンサ電圧平均値vcを計算して、中央制御器30およびセル制御器50に供給する。
【0028】
セル制御器50は、相制御器40からコンデンサ電圧平均値vcのデータを受信する。セル制御器50は、受信した電圧指令値v*、コンデンサ電圧平均値vc、および、自己が検出したコンデンサ電圧vcn、流れているセル電流icellにもとづいて、コンデンサ電圧vcnのための指令値であるセル電圧指令値vcn*を生成する。
【0029】
PWM制御器51は、セル電圧指令値vcn*にもとづいて、コンデンサの充放電のデューティを設定し、各スイッチング素子を駆動するためのゲート信号を出力する。
【0030】
図3に示すように、n段目の段間バランス制御器52は、加減算器53と、比例制御器54と、乗算器55と、符号器56と、を含む。加減算器53は、コンデンサ電圧平均値vcおよびコンデンサ電圧vcnを入力して、これらの偏差を出力する。
【0031】
比例制御器54は、加減算器53から出力されたコンデンサ13の両端電圧vcnのコンデンサ電圧平均値vcからの偏差を比例制御演算して制御量を出力する。比例係数Kpはあらかじめ設定されている。
【0032】
単位変換器11に流れるセル電流icellは、単位変換器11に設けられた電流検出器15によって検出され、段間バランス制御器52に入力される。各段のセル電流icellの流れる方向は、同じ符号になるように設定されている。たとえば、各単位変換器11から流れ出る方向(アーム14から流れ出る方向)を正とし、単位変換器11に流れ込む方向を負とする。セル電流icellのデータは、符号器56に入力される。符号器56は、セル電流icellの向きに応じた係数を出力する。セル電流icellが正の場合には、符号器56は“+1”を出力し、セル電流icellが負の場合には、符号器56は“−1”を出力する。
【0033】
比例制御器54から出力された操作量は、符号器56から出力された正または負の符号を有する係数と乗算器55によって乗算される。乗算器55は、n番目のコンデンサ13のコンデンサ電圧vcnのための段間バランス操作量vinを出力する。
【0034】
電圧指令値v*は、加算器57によって段間バランス操作量vinに加算され、単位変換器11のためのセル電圧指令値vcn*が生成される。つまり、段間バランス制御器52は、コンデンサ電圧平均値vcを指令値として、各段の単位変換器11のコンデンサ電圧vcnをコンデンサ電圧平均値vcに一致するように制御する。この制御を行う際に、単位変換器11のコンデンサ13にエネルギを投入するか、エネルギを引き出すかを判定して制御する。
【0035】
中央制御器30、相制御器40およびセル制御器50は、たとえばCPU等のプログラム可能なデバイスによって構成される。プログラムは、たとえば図示しない記憶部あるいは記憶装置に格納されており、必要に応じて読み出され、あるいはCPU等の内部メモリ上に展開されて、そのプログラムの各ステップが実行される。中央制御器30、相制御器40、およびセル制御器50について、上述した各ブロックの機能の一部または全部は、CPU上で動作するプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0036】
このようなCPUは、たとえば、中央制御器30、相制御器40、およびセル制御器50ごとにそれぞれ設けられており、それぞれに必要な機能を実行する。必要な機能には、相互にプロトコル変換等のデータの伝送通信等のための処理も含まれる。
【0037】
図4(a)〜
図4(c)は、電力変換装置の動作原理を説明するための動作波形の例である。
図4(a)〜
図4(c)のそれぞれにおいて、最上段の図は、アーム電流iarmの位相θに対する変化を表す動作波形である。2段目の図は、n段目の単位変換器11の段間バランス操作量vinの位相θに対する変化を表す動作波形である。最下段の図は、n段目の単位変換器11のコンデンサ13に流入する電力pnの位相θに対する変化を表す動作波形である。
【0038】
図4(a)には、アーム電流iarmの位相が段間バランス操作量vinの位相と一致する場合の動作波形例が示されている。コンデンサ電圧vcnがコンデンサ電圧平均値vcよりも低い場合には、コンデンサ電圧vcnとコンデンサ電圧平均値vcとの差分は、正となる。段間バランス操作量vinは、この差分にアーム電流iarmの正負符号を乗じて求められる。
【0039】
コンデンサ電圧vcnがコンデンサ電圧平均値vcよりも高い場合には、コンデンサ電圧vcnとコンデンサ電圧平均値vcとの差分は、負となる。アーム電流iarmは負のため、段間バランス操作量vinは、正の値となる。このように、段間バランス操作量vinの正負符号は、アーム電流iarmの正負符号と一致する。
【0040】
図4(a)に示すように、アーム電流iarmおよび段間バランス操作量vinのそれぞれの位相が一致する場合には、コンデンサ13へ流入する電力pnは、半端整流波形のようになる。つまり、流入電力pnは、0または正の値を有する。したがって、流入電力pnの1周期の時間平均は、正の値となり、コンデンサ13への流入電力によって、コンデンサ電圧は上昇する。なお、図示しないが、流入電力pnが0または負の値を有する場合には、コンデンサ13への負の流入電力、つまり流出電力によってコンデンサ電圧が下降する。
【0041】
このように、段間バランス制御器52は、単位変換器11の出力電圧を操作することによって、単位変換器11に流入する電力を調整し、コンデンサ電圧をフィードバック制御する。
【0042】
図4(b)に示すように、アーム電流iarmの位相が、段間バランス操作量vinの位相とずれている場合には、これらを乗じて計算されるコンデンサ13への流入電力pnに負の値を有する区間が生じるので、バランス制御の制御量が実質的に低下する。
【0043】
アーム電流iarmが段間バランス操作量vinに対して、位相差φ1だけずれるのは、実際のアーム電流iarmに対して、伝送通信等によって遅延したアーム電流iarm’(破線)に応じて、段間バランス操作量vinが計算されることによるものである。つまり、実際のアーム電流iarmに対して、位相差φ1だけ遅延したアーム電流iarm’に応じて、段間バランス操作量vinの正負が反転するので、実際のアーム電流iarmと段間バランス操作量vinとでは、位相差φ1が生じる。
【0044】
図4(c)では、実際のアーム電流iarmと段間バランス操作量vinとの間で、
図4(b)の場合よりも大きい位相差φ2(たとえばπ/2)が生じている。このように大きな位相差を生じた場合には、コンデンサ13への流入電力pnは正負の値をとり得、この例では、1周期平均をとると、流入電力pnはほぼ0になる。この例のように、本来、コンデンサ電圧を上昇させるようにフィードバック制御をすべきところ、流入電力pnが0であることから、制御量がゼロとなる。このため、コンデンサ13ごとに正常なフィードバック制御が行われないので、コンデンサ電圧を所望の値に制御することができず、出力の波形に歪みが生じることとなる。
【0045】
なお、図示はしないが、実際のアーム電流iarmと段間バランス操作量vinとの間の位相差がさらに大きく、π/2を超える場合には、コンデンサ13への流入電力pnが負の値となる期間が長くなり、1周期平均は負となる。このような場合には、フィードバック制御は、発散してしまい、制御不能となってしまうおそれがある。
【0046】
本実施形態の電力変換装置10では、アーム電流iarmに等しいセル電流icellを用いて、段間バランス制御を行う。セル電流icellは、単位変換器11ごとに、コンデンサ13に流入する電流を検出する電流検出器15によって検出される。セル電流icellは、制御対象の単位変換器11で検出されるので、遅延を生ずることがないので、正しい制御量が生成される。
【0047】
図5は、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのブロック図の例である。
図5に示すように、セル制御器50の段間バランス制御器52には、アーム電流iarmに等しいセル電流icellが入力される。セル電流icellは、電流検出器15によって検出され、電流検出器15は、セル制御器50によって制御される単位変換器11に設けられている。そのため、段間バランス制御器52は、遅延のない実際のアーム電流iにもとづいて、コンデンサ13への流入電力pnを計算することができる。なお、電圧指令値v*やコンデンサ電圧vcnについては、遅延要素Dによって遅延を生じ得るが、この遅延は、上述のフィードバック制御には、ほとんど影響しない。
【0048】
本実施形態の電力変換装置20の作用および効果について説明する。
まず、比較例の電力変換装置について説明する。
【0049】
図6は、比較例の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
なお、
図6および後述する
図7は、各制御機能および単位変換器の階層関係を表すことに主眼があるため、信号の接続等について概略が示された模式図である。
【0050】
図6に示すように、比較例の電力変換装置では、すべての制御機能が、たとえば制御装置内に実装されている。つまり、制御装置は、各種制御機能を含んだ中央制御器130を含んでいる。各種制御機能は、全体のコンデンサ電圧を制御する一括コンデンサ電圧制御、有効電流等を制御する電流制御、相間バランス制御、および段間バランス制御である。一括コンデンサ電圧制御、電流制御、相間バランス制御、および段間バランス制御は、たとえば同一の基板上やモジュールとして構成されており、たとえば1つのCPUのプログラム動作として実行される。
【0051】
MMCで系統電圧のように高電圧を取り扱う場合には、1つのアーム14中に数十個から百個を超える数の単位変換器11を設ける必要がある。単位変換器11には、たとえば4つのスイッチング素子12が設けられているので、単位変換器11当たり4本のゲート信号線が必要となる。そして、そのようなアーム14は相数分用意される。単位変換器11は各段で絶縁してゲート信号を送信する必要があるため、光ファイバ等を用いる場合には、多数の光ファイバを用いることとなり、コストの上昇が著しい。光ファイバに代えて、金属導線を用いた場合には、絶縁確保や高重量の問題等を生じ得る。
【0052】
図7は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
本実施形態の場合には、段間バランス制御器52が電力変換器1に分散配置されている。つまり、ゲート信号線は電力変換器1内に収納される。中央制御器30、相制御器40およびセル制御器50は、伝送通信によって互いにデータを伝送し、交換する。ここで、アーム電流iarmをアーム14ごとに検出し、一旦制御装置2に送信してから、他のデータのように各段間バランス制御器に配信した場合には、アーム電流iarmのデータに遅延が生じることになる。
【0053】
そこで、本実施形態の電力変換装置20では、アーム14に流れる電流は、単位変換器11ごとに設けられた電流検出器15によって検出されたセル電流icellを用いる。セル電流icellは、アーム電流iarmに等しく、段間バランス制御器52が属する単位変換器11ごとに検出され、段間バランス制御器52に入力されるため、遅延を考慮することなく、段間バランス制御を行うことができる。したがって、段間バランス制御器52において、正確に制御量を与えてコンデンサ電圧をバランスさせることが可能になり、アーム電流iarmの遅延にもとづく波形歪みを防止することができる。
【0054】
本実施形態の電力変換装置10では、アーム電流iarmの遅延にもとづく出力電圧波形の歪みを防止することができるので、各制御器を必要に応じて、分散配置することが可能になる。相制御器40を電力変換器1の側に配置することによって、単位変換器11のための配線数や交換するデータ数を低減することができ、実装をより容易にすることが可能になる。
【0055】
(変形例)
上述では、段間バランス制御器52では、電流検出器15によって検出されたセル電流icellを入力し、符号器によってセル電流icellの向きを判定した。段間バランス制御器が必要とするのは、セル電流icellの方向であるため、電流検出器に代えて、電流方向を検出することができる電流方向検出器を用いてもよい。
【0056】
このような変形例の電力変換装置によれば、電流検出器を小型化することが可能になり、装置の小型化、低コスト化に寄与することができる。
【0057】
(第2の実施形態)
図8は、本実施形態に係る電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図8は、上述した
図5と同様に、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なブロック図である。上述の他の実施形態において説明したように、段間バランス制御は、単位変換器11ごとのセル電流icellを用いれば安定した制御を実現することができるので、段間バランス制御のためのすべての要素をセル制御器にもたせる必要はない。本実施形態では、段間バランス制御器の一部を相制御器にもたせている。
【0058】
すなわち、本実施形態の電力変換装置は、相制御器240と、セル制御器250と、を含む。相制御器240は、コンデンサ電圧平均値演算器41と、加減算器53および比例制御器54を含む段間バランス制御器252aと、を含む。セル制御器250は、符号器56および乗算器55を含む段間バランス制御器252bを含む。たとえば、相制御器240は、制御装置に実装され、セル制御器250は、電力変換器に実装されている。相制御器240およびセル制御器250は、ケーブルによって接続されており、互いにデータを伝送通信する。伝送通信には、データ通信のためのプロトコル変換や、シリアルデータ・パラレルデータの相互の変換等が含まれる。伝送通信による遅延は、これらのデータ変換やケーブルによる信号遅延等を含んでいる。
図8では、これらの遅延を一括して遅延要素Dと表している。
【0059】
この例では、セル制御器250は、電力変換器内に設けられており、単位変換器11ごとに設けられた電流検出器によって検出されたセル電流icellが供給される。
【0060】
アーム電流iarmに等しいセル電流icellをセル制御器250に供給することによって、遅延のない電流信号を得ることができる。したがって、セル電流icellおよび段間バランス操作量vinの位相を一致させることができ、正確な制御雨量でコンデンサ電圧vcnを制御することが可能になる。
【0061】
本実施形態では、相制御器240およびセル制御器250のそれぞれにおいて、段間バランス制御に関して、実装する回路やプログラムの規模を調整することができる。たとえば、双方のデータ変換を含むデータ処理にCPU等のプログラムで動作するデバイスを用いる場合には、他の処理に要する規模との兼ね合いによって、段間バランス制御の一部を一方に実装するか、全部を一方に実装するか、等を選択することが可能になり、設計の自由度が向上する。
【0062】
(第3の実施形態)
図9は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
上述の他の実施形態や変形例では、単位変換器11ごとにアーム電流iarmに等しいセル電流icellを検出して、電流方向のデータとして用いたが、アーム電流iarmの方向は、直接測定しなくても、他のパラメータを用いて推定することができる。
【0063】
図9には、段間バランス制御器のブロック図の例が示されている。この例における段間バランス制御器352は、加減算器53と、比例制御器54と、乗算器55と、PLL353と、位相演算器354と、乗算器355と、を含む。本実施形態では、段間バランス制御器352は、PLL353、位相演算器354および乗算器355を含む点で、上述の他の実施形態の場合の段間バランス制御器52と相違する。同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0064】
PLL353には、電圧指令値v*が入力される。PLL353は、電圧指令値v*の位相θvを検出して出力する。
【0065】
位相演算器354は、PLL353の出力に接続されている。位相演算器354は、関数f(θ)にしたがって演算された結果を出力する。関数f(θ)は以下の式(1)によって表される。
【0067】
位相演算器354は、θ=θvを入力し、電圧指令値v*の位相θvに応じて、“1”または“−1”を出力する。そして、段間バランス制御器352は、位相演算器354の出力に、無効電流の正負符号を乗じることによって、電圧指令値v*のπ/2[rad]の位相差の正負符号sgniを推定する。無効電流には進みと遅れがあるため、乗算器355によって、無効電流の正負符号sgniqを乗じることによって、進みか遅れかが反映され、電流符号を推定することができる。
【0068】
本実施形態の電力変換装置では、セル制御器350において電圧指令値v*の電圧位相にもとづいて電流符号を推定して用いる。そのため、通信遅延の影響を受けず、単位変換器の最終的な電圧指令値の遅延もわずかであるため、分散制御を適用しても段間バランス制御の制御性が悪化しない。したがって、ゲート信号線を低減しつつ、コンデンサ電圧のバランスがとれ、電流の歪みが小さな電力変換装置を実現することができる。
【0069】
このように、本実施形態の電力変換装置は、各単位変換器ごとに電流検出器をもつ必要がないので、装置の小型化や低コスト化を実現することができる利点がある。
【0070】
なお、本実施形態の電力変換装置では、無効電力補償装置を想定し、電圧と電流の位相差をπ/2[rad]としているが、有効電力を主に融通する変換器としてもよい。その場合には、関数によって検出する位相差は0とし、有効電流の正負符号を想定用いて電流符号を推定できる。また、無効電流iqの正負符号sgniqは、無効電流指令値の正負符号を用いてもかまわない。
【0071】
(第4の実施形態)
本実施形態の電力変換装置では、セル制御器において、コンデンサ電圧vcnの変動および単位変換器の出力電圧の正負符号からアーム電流(セル電流)の正負符号を推定する。
図10は、本実施形態に係る電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図11は、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するための表である。
図12は、本実施形態の電力変換装置の動作原理を説明する動作波形の例である。
図10に示すように、本実施形態では、各段間バランス制御器452は、セル電流方向判定部453を含む。n段目の段間バランス制御器452では、セル電流方向判定部453は、コンデンサ電圧vcnおよび単位変換器11の出力電圧vnを入力し、これらにもとづいて、セル電流icellの流れる方向を推定する。
【0072】
セル電流方向判定部453は、コンデンサ電圧vcnを入力して、コンデンサ電圧vcnの時間に対する増減(傾き)を検出する。セル電流方向判定部453は、単位変換器11の出力電圧vnを入力して、出力電圧vnの正負符号を検出する。この例では、セル電流方向判定部453は、テーブル454を含む。
【0073】
図11には、このテーブル454の例が示されている。テーブル454には、コンデンサ電圧vcn、単位変換器11が出力する電圧vnの正負符号、およびセル電流icellの正負符号の関係があらかじめ設定されている。
【0074】
図12と合わせて説明する。単位変換器11の出力電圧vnの符号が正であり、コンデンサ電圧vcnが時間の経過とともに増加する期間T1には、単位変換器11に電流が流入するので、セル電流icellの流れる方向は正となる。
【0075】
単位変換器11の出力電圧vnの符号が正であり、コンデンサ電圧vcnが時間の経過とともに減少する期間T2では、単位変換器11から電流が流出するので、セル電流icellの符号は負となる。
【0076】
単位変換器11の出力電圧vnの符号が負であり、コンデンサ電圧vcnが時間の経過とともに増加する期間T3では、単位変換器11に電流が流入するので、セル電流icellの流れる方向は負となる。
【0077】
単位変換器の出力電圧vnの正負符号が負であり、コンデンサ電圧vcnが時間の経過とともに減少する期間T4では、単位変換器11から電流が流出するので、セル電流icellの流れる方向は正となる。
【0078】
コンデンサ電圧が増加方向か減少方向かは、前回検出値との差分をとればよい。しかし出力電圧がゼロの時はコンデンサ電圧は変化しないため、電圧出力をしている時のみ変動を判定すればよい。出力電圧の指令は段間バランス制御器452が与えるため、電圧出力のタイミングも既知である。
【0079】
本実施形態の電力変換装置では、セル制御器においてコンデンサ電圧の変化から電流符号を推定して用いる。そのため、電流符号のための電流データを伝送通信することによる通信遅延の影響を受けることがない。また、単位変換器11の最終的な電圧指令値の遅延についてはわずかであるため、分散制御(
図7)を適用した場合であっても、段間バランス制御の制御性は悪化しない。したがって、ゲート信号線を低減しつつ、コンデンサ電圧のバランスがとれ、電流の歪みが小さな電力変換装置を実現することができる。なお、出力電圧vnの代わりに、段間バランス制御器452内の電圧指令値v*を用いてもよい。
【0080】
以上説明した実施形態によれば、各単位変換器ごとに電流検出器をもつ必要がないので、装置の小型化や低コスト化を実現することができる利点がある。
【0081】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。