特許第6817172号(P6817172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ車体株式会社の特許一覧 ▶ 倉敷紡績株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6817172-難燃性樹脂組成物及びその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817172
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20210107BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20210107BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20210107BHJP
   D01F 1/07 20060101ALI20210107BHJP
   D01F 2/24 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K9/04
   C08K5/49
   D01F1/07
   D01F2/24
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-180547(P2017-180547)
(22)【出願日】2017年9月20日
(65)【公開番号】特開2018-59065(P2018-59065A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2020年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-193772(P2016-193772)
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】水野 あすか
(72)【発明者】
【氏名】杉山 稔
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−303288(JP,A)
【文献】 特表2002−507646(JP,A)
【文献】 特開2012−012734(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096444(WO,A1)
【文献】 特開平03−193973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00〜101/16
C08K 9/04
C08K 5/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維と難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、
前記難燃性強化繊維は、セルロース系繊維表面にリン化合物がグラフト結合し、該リン化合物にポリアミン化合物が結合しており、
前記難燃剤はリン系難燃剤であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃性樹脂組成物はハロゲン系難燃剤を含まない請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃性樹脂組成物のリン含有率は、前記難燃性樹脂組成物を100質量%としたとき1.0〜5.0質量%である請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃性強化繊維のポリアミン化合物は、前記グラフト結合したリン化合物とイオン結合している請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン系難燃剤の含有率は、前記難燃性樹脂組成物を100質量%としたとき1〜20質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物
【請求項6】
前記難燃性強化繊維は、平均繊維長1〜25mmに粉砕されている請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維と難燃剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物の製造方法であって、
セルロース系繊維に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させる、及び/又は、セルロース系繊維にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をすることにより、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース系繊維にグラフト結合させる工程と、
ポリアミン化合物を、前記グラフト結合したビニルホスフェート化合物に結合させ、難燃性強化繊維とする工程と、
前記難燃性強化繊維を粉砕する工程と、
前記熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維とリン系難燃剤を含む成分を溶融混練し、ペレット化する工程を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ビニルホスフェート化合物が、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートである請求項7に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアミンがポリアリルアミンである請求項7又は8に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲンで高い難燃性を有する難燃性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から樹脂材料に植物繊維等の補強繊維を配合して成形材料とすることは広く知られている。このような繊維補強樹脂は、軽量かつ高剛性であるという利点がある。しかし、従来の繊維補強樹脂は、燃焼時に繊維が導線の役割を果たし、繊維周辺の樹脂の燃焼を誘引する「ろうそく効果」により、燃焼が促進されることが知られている。そこで、この「ろうそく効果」を防いで難燃性を向上するため、植物繊維にホウ酸又はホウ酸化合物を含ませて難燃化し、これとマトリックス樹脂と金属酸化物を混練して射出成形することが提案されている(特許文献1)。特許文献2には、ポリ乳酸等の樹脂と、難燃剤と、難燃剤を被覆し3〜10mmのペレット化した繊維を混合し、射出成形することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−130868号公報
【特許文献2】特開2011−093185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術の難燃加工では、難燃性が未だ不十分であるという問題があった。とくにノンハロゲン系で十分な難燃性を有する難燃化処理の開発が強く求められていた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、ノンハロゲン系で十分な難燃性を有する難燃性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維と難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、前記難燃性強化繊維は、セルロース系繊維表面にリン化合物がグラフト結合し、該リン化合物にポリアミン化合物が結合しており、前記難燃剤はリン系難燃剤であることを特徴とする。
【0007】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維と難燃剤を含む前記難燃性樹脂組成物の製造方法であって、セルロース系繊維に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させる、及び/又は、セルロース系繊維にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をすることにより、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース系繊維にグラフト結合させる工程と、ポリアミン化合物を、前記グラフト結合したビニルホスフェート化合物に結合させ、難燃性強化繊維とする工程と、
前記難燃性強化繊維を粉砕する工程と、前記熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維とリン系難燃剤を含む成分を溶融混練し、ペレット化する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性強化繊維はセルロース系繊維表面にリンとポリアミンが結合しており、前記難燃剤はリン系難燃剤であることにより、ノンハロゲン系で十分な難燃性を有する難燃性樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。また、セルロース系繊維自体を難燃化しているので、リン系難燃剤の添加量を低減でき、低コスト化できる。さらに、セルロース系繊維にリンを共有結合しただけでは耐熱性が落ちてしまうが、ポリアミンを結合させることにより耐熱性を高く保つことができ、混練する熱可塑性樹脂の選択幅を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施例と比較例の熱重量測定(TGA)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維と難燃剤を含む難燃性樹脂組成物である。熱可塑性樹脂はどのようなものであっても良い。一例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート等のアクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、各種熱可塑性エラストマー等を含む。この中でも好ましくはポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂である。
【0011】
本発明で使用する難燃性強化繊維は、セルロース系繊維表面にリンとポリアミンが結合している。セルロース系繊維は木綿、麻(亜麻、ラミー、ジュート、ケナフ、大麻、マニラ麻、サイザル麻、ニージーランド麻を含む)、カポック、バナナ、ヤシなどの天然繊維のほか、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどの再生繊維も含む。これらのセルロース系繊維表面にリンとポリアミンを結合させて難燃性強化繊維にしている。
【0012】
本発明で使用する難燃剤はリン系難燃剤であり、ノンハロゲン系である。ノンハロゲン系であることにより、有毒ガスは発生しにくく、環境安全性が保てる。本発明の難燃性樹脂組成物は、十分な難燃性を有する。
【0013】
前記難燃性樹脂組成物のリン含有率は、前記難燃性樹脂組成物を100質量%としたとき1.0〜5.0質量%が好ましい。リン含有率は低いにもかかわらず難燃効果は高くなる。
【0014】
前記難燃性樹脂組成物のポリアミン化合物含有率は、前記難燃性樹脂組成物を100質量%としたとき1〜5質量%が好ましい。ポリアミンは、セルロース系繊維表面にグラフト重合したリン化合物とイオン結合している。セルロース系繊維にリン化合物をグラフト重合(共有結合)しただけでは耐熱性が150℃程度に落ちてしまうが、ポリアミン化合物をイオン結合させることにより耐熱性は220℃以上に高く保つことができ、混練する熱可塑性樹脂の選択幅を広くすることができる。
【0015】
前記リン系難燃剤の含有率は、前記難燃性樹脂組成物を100質量%としたとき1〜20質量%が好ましい。これにより難燃性を高くしている。
【0016】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、セルロース系繊維に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させる、及び/又は、セルロース系繊維にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をすることにより、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース系繊維に共有結合させる工程と、ポリアミンをビニルホスフェート化合物と結合させ、難燃性強化繊維とする工程と、前記難燃性強化繊維を粉砕する工程と、前記熱可塑性樹脂と難燃性強化繊維とリン系難燃剤を含む成分を溶融混練し、ペレット化する工程を含む。
【0017】
前記ビニルホスフェート化合物が、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートであるのが好ましい。この化合物はセルロース系繊維表面にグラフト結合し易い。
【0018】
アミン化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミンがあり、これらを重合したポリアミン化合物はいずれも使用できる。1級アミンを重合したポリアミン化合物としては、例えばポリアリルアミンがある。2級アミンを重合したポリアミン化合物としては、例えばポリエチレンイミンがある。2級アミンの縮合物で、構造としては2級アミンと3級アミンのポリアミン化合物である例えばジシアンジアミドも使用できる。その他、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ジシアンジアミド−アルキレン(ポリアミン)縮合物等が挙げられる。耐熱性の観点から好ましくは、分子量500〜5000程度のポリアリルアミンである。また、本発明の難燃性セルロース系繊維に対するポリアミンの固着量は、固着後のセルロース系繊維を100質量%としたとき、5〜20質量%であることが好ましい。なお、ポリアミンをイオン結合させた後、より耐久性を上げるために架橋剤を添加しても良い。
【0019】
以下、本発明の難燃性セルロース系繊維の製造方法について説明する。なお、本発明の難燃性セルロース系繊維の製造方法は、主としてリン化合物をグラフト結合する工程をリン処理工程とし、ポリアミン化合物を反応させる工程をポリアミン処理工程とからなる。
【0020】
(1)リン処理工程について
リン処理工程においては、セルロース系繊維に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させるか、又はセルロース系繊維にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をするか、又はセルロース系繊維に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させ再度電子線照射をする。本発明において、リン処理工程は「EB」又は「EB加工」ともいう。EB加工はリン酸エステル系モノマーをグラフトさせることを目的に行う。言い換えると、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース系繊維に共有結合させる。ビニルホスフェート化合物は、電子線照射によりセルロース系繊維にラジカル重合する。ビニルホスフェート化合物としては、リン原子を含有し、かつラジカル重合性基を含有する構造を有するものであればよく、不飽和有機リン酸エステル、メタクリル酸エステルなどが挙げられ、例えば、下記一般式(1)で表されるビニルホスフェート化合物(以下、ビニルホスフェート化合物(1)と記す。)が好ましく使用される。
【0021】
【化1】
【0022】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、好ましくはR1はメチル基であり、R2は水素原子である。R3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を表し、好ましくは水素原子である。nは1又は2である。mは1〜6の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは1である。前記においてアリール基は、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0023】
一般式(1)のビニルホスフェート化合物の好ましい具体例として、例えば、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートなどが挙げられる。これらのビニルホスフェート化合物は市販品として入手可能である。例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートはシグマアルドリッチジャパン(株)、共栄社化学(株)より入手可能である。また例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートとの混合物は「ALBRITECTTM6835」(ローディア日華(株)製)として入手可能である。また例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「ホスマーM」(ユニケミカル(株)製)として入手可能である。また例えば、ポリアルキレングリコール(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「SIPOMER PAM−100」(ローディア日華(株)製)として入手可能である。また例えば、ポリエチレングリコール(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「ホスマーPE」(ユニケミカル(株)社製)として入手可能である。
【0024】
電子線を照射する場合、通常は1〜200kGy、好ましくは5〜100kGy、より好ましくは10〜50kGyの照射量が達成されればよい。雰囲気条件は、窒素雰囲気下で照射を行うことが好ましく、また透過力があるため、セルロース系繊維の片面に照射するだけでもよい。電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エリアビーム型電子線照射装置としてEC250/15/180L(岩崎電気(株)社製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用される。
【0025】
電子線を照射した後は通常、水洗により未反応成分を除去し、乾燥が行われる。乾燥は例えば、セルロース系繊維を20〜85℃で0.5〜24時間保持することによって達成される。
【0026】
本発明においては、予めセルロース系繊維に対して電子線を照射した後、上記のようにビニルホスフェート化合物を付与することが好ましく、さらにビニルホスフェート化合物を付与後に再度電子線を照射することが特に好ましい。これによって、ビニルホスフェート化合物のセルロース系繊維への化学的結合が促進され、難燃性がより有効に発現する。上記したビニルホスフェート化合物及び難燃加工方法を用いて処理されたセルロース系繊維は、付与されたビニルホスフェート化合物を効率よく繊維表面に有している。上記したビニルホスフェート化合物及び難燃加工方法を用いて処理されたセルロース系繊維がビニルホスフェート化合物を有することは、蛍光X線分析法を採用する装置、例えば走査型蛍光X線分析装置ZSX 100e((株)リガク製)によって、ビニルホスフェート化合物に含有される特定元素の存在を確認することによって検知できる。例えば、ビニルホスフェート化合物(1)及び添加型リン化合物などの特定元素はリンである。
【0027】
前記した処理により、例えばセルロース系繊維に対してラジカル重合性難燃剤としてのモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートが共有結合する場合の結合形態を下記一般式(A)及び(B)に例示する。一般式(A)及び(B)において、nは1以上の整数であり、「Cell」はセルロースを示す。
【0028】
【化2】
【0029】
【化3】
【0030】
リン処理工程において、ビニルホスフェート化合物の水溶液にセルロース系繊維を含浸又はパディングすることが好ましい。ビニルホスフェート化合物の水溶液におけるビニルホスフェート化合物の含有量は、難燃性という観点から5〜50質量%であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましい。また、ビニルホスフェート化合物の水溶液は、特に限定されないが、セルロース系繊維の強力の維持という観点から、pHが3.5〜7.0であることが好ましく、5.0〜6.0であることがより好ましい。なお、pHは、アンモニア水で調整することができる。
【0031】
(2)ポリアミン処理工程について
ポリアミン処理工程は、前記リン処理工程後のセルロース系繊維にポリアミンを反応させる。ポリアミン処理はポリアミンによるリン酸基の保護の目的で行う。ポリアミンとしては、例えば、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ジシアンジアミド−アルキレン(ポリアミン)縮合物などのアミノ基含有ポリマーなどが挙げられる。ポリアミン処理は、0.5〜20質量%のポリアミンの水溶液を用いて行うことが好ましい。ポリアリルアミンとしては、例えば、日東紡社製商品名「PAA−03」を用いることができる。ポリアミン処理は、セルロース系繊維をポリアミンの水溶液で接触処理した、例えばポリアミンの水溶液にセルロース系繊維を含浸又はパディングした後、洗浄、乾燥することにより行うのが好ましい。一例としてポリアリルアミンが結合した状態を下記(化4)に示す。(化4)において、nは1以上の整数である。
【0032】
【化4】
【0033】
(3)粉砕工程
前記のようにして得られた難燃性強化繊維(難燃性セルロース系繊維)を粉砕する。粉砕は繊維同士が凝集した状態のものを破壊したり、押し出し混練可能な繊維長に粉砕できればよく、軽微な粉砕でもよい。粉砕後の好ましい平均繊維長は1〜25mmであり、さらに好ましくは1〜15mmである。
【0034】
粉砕後の難燃性強化繊維(難燃性セルロース系繊維)を熱可塑性樹脂とリン系難燃剤を含む成分を混合し、溶融混練し、ペレット化して難燃性樹脂組成物とする。リン系難燃剤としては、一例として下記(化5)に示す樹脂用リン系難燃剤を使用できる。(化5)において、nは1以上の整数である。
【0035】
【化5】
【0036】
このようにして得られた樹脂ペレットは、常法に従い射出成形、押し出し成形、プレス成形等の成形に供給される。
【実施例】
【0037】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
<評価方法>
(1)リン処理工程における、ビニルホスフェート化合物の共有結合量(質量%)すなわちグラフト率(owf%)は、下記の計算式によって算出した。owfはon the weight of fiberの略である。
グラフト率(owf%)=[(EB加工後のセルロース系繊維質量−EB加工前のセルロース系繊維質量)/(EB加工前のセルロース系繊維質量)]×100
(2)ポリアミン処理工程における、ビニルホスフェート化合物に結合するポリアミンの固着量(owf%)を下記の計算式によって算出した。
ポリアミンの固着量(owf%)=[(ポリアミン処理後のセルロース系繊維質量−ポリアミン処理前のセルロース系繊維質量)/(ポリアミン処理前のセルロース系繊維質量)]×100
(3)難燃性
UL-94規格で測定される燃焼時間、ドリップの有無、自己消火性の項目を用いて表1の基準に基づき難燃性を評価した。
UL94規格の測定は、垂直に保持した試料の下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させ、燃焼が30秒以内に止まったならば、さらに10秒間接炎させる。V−0評価は、いずれの接炎の後も、10秒以上燃焼を続ける試料がない。5個の試料に対する10回の接炎に対する総燃焼時間が50秒を越えない。固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない。試料の下方に置かれた脱脂綿を発火させる燃焼する粒子を落下させる試料がない。2回目の接炎の後、30秒以上赤熱を続ける試料が無い。以上の条件を満足することが必要である。
【0039】
【表1】
【0040】
(4)耐熱性
処理後のセルロース繊維を熱重量測定(TGA)した。TGA測定グラフから耐熱性を判断した。なお、耐熱温度は3%質量が減少する温度とした。
【0041】
(セルロース系繊維難燃繊維サンプルNo.1及びサンプルNo.2)
<セルロース系繊維>
セルロース系繊維として、平均繊維長38mmの木綿(コットン)を用いた。
<使用薬剤>
1 電子線照射処理(EB)に使用した薬剤(以下において、単にEB薬剤とも記す。)
モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート:共栄社化学社製商品名「ライトエステルP−1M」(「P1M」と略す)の15%水溶液を使用した。
2 ポリアミン処理に使用した薬剤
ポリアリルアミン(日東紡社製商品名「PAA−03」、分子量3000)を10質量%の水溶液に調整して使用した。
【0042】
<処理方法>
全体の工程は、(1)リン処理工程、(2)ポリアミン処理工程、の順番で処理した。
1.リン処理工程
(1)電子線照射
セルロース系繊維の一方の面に対して、エリアビーム型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を40kGy照射した。加速電圧は250kVであった。
(2)処理工程の内容
EB加工:セルロース系繊維に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させる「前照射」を用いた。電子線照射した後、P1M薬剤を含む水溶液に常温で木綿繊維を含浸し、水で洗浄し、150℃で90秒間乾燥した。
2.ポリアミン処理工程
100℃、1時間、浴比14:1の条件で接触処理し、水で洗浄し、150℃で180秒間乾燥した。
なお、上記リン処理工程(2)における、P1M薬剤を含む水溶液に常温でセルロース系繊維を含浸する際の含浸時間を120秒としたものをセルロース系繊維難燃繊維サンプルNo.1、含浸時間360秒としたものをサンプルNo.2とした。それぞれの繊維の重量変化率及び耐熱性は表2のとおりである。
【0043】
(セルロース系繊維難燃繊維サンプルNo.3)
グラフト結合ではなく、通常のリン酸エステル化によりセルロース難燃繊維を製造した。セルロース系繊維はサンプルNo.1と同様のものを用い、亜リン酸(シグマアルドリッチジャパン社製)10質量%と尿素(ナカライテスク社製)30質量%と60%水からなる処理液にセルロース系繊維を含浸させ、マングルで絞った。次いで当該セルロース系繊維を150℃、180秒間予備乾燥を行い、165℃、105秒間の熱処理を行った。熱処理後水洗いし、乾燥させたものをセルロース系繊維難燃繊維サンプルNo.3とした。当該繊維の重量変化率及び耐熱性は表2のとおりである。
【0044】
(セルロース系繊維難燃繊維サンプルNo.4)
リン化合物をセルロース系繊維に結合させるのではなく、いわゆるパディング加工のみを実施し、セルロース難燃繊維を製造した。セルロース系繊維はサンプルNo.1と同様のものを用い、リン酸(ナカライテスク社製:85質量%品)20質量%とアンモニア水(ナカライテスク社製:28質量%品)24質量%と56%水からなる処理液にセルロース系繊維を含浸させ、マングルで絞った。次いで原綿を150℃、180秒間の熱処理により乾燥させた。この乾燥の際、セルロース系繊維は耐熱性不足により炭化してしまった。このため、樹脂配合試験には使用できなかった。
【0045】
(セルロース系繊維難燃繊維サンプルNo.5)
セルロース系繊維はサンプルNo.1と同様のものを用い、未処理のセルロース系繊維とした。
【0046】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
以上のようにして得られたセルロース難燃繊維を粉砕し、平均繊維長10mmとした。このセルロース難燃繊維とポリプロピレン(PP)樹脂と前記(化5)に示す樹脂用リン系難燃剤を表3に示す割合で混合し、押し出し機で溶融混練してペレットを得た。溶融混練の温度は200℃とした。得られたペレットを使用して射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形体を作成した。以上の結果は表3にまとめて示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
図1は本発明の実施例(リン化合物グラフト結合及びポリアミン化合物結合品)と比較例(ポリアミン処理なしのパディング品)の熱重量測定(TGA)の結果を示すグラフである。図1から明らかなとおり、セルロース系繊維にリン化合物を共有結合し、ポリアミン化合物をイオン結合させることにより耐熱性を高く保つことができた。
【0050】
表2〜3から明らかなとおり本実施例品は、比較例品に比較して、燃焼時間は短く、燃焼性UL規格でV−0以上レベルの難燃性を達成できた。また、ノンハロゲン系で十分な難燃性を有し、セルロース系繊維自体を難燃化しているので、リン系難燃剤の添加量を低減でき、リン系難燃剤による力学性能の低下を抑制し、セルロース系繊維の補強効果が効果的に発現できることとなった。また、低コスト化も可能となった。また、滴下防止剤のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子等の添加も不要であった。さらに、従来はリン系難燃剤の添加量が多いために力学物性が低下する欠点があったが、本発明の実施例品は、添加剤の添加量を減らし物性の低下を抑制するだけでなく、セルロース系繊維が補強効果を発揮するため、物性を向上することができた。
図1