特許第6817189号(P6817189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817189
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】希土類磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20210107BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20210107BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20210107BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   B22F3/00 F
   C22C33/02 H
   C22C38/00 303D
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-507642(P2017-507642)
(86)(22)【出願日】2016年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2016059734
(87)【国際公開番号】WO2016153057
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2018年10月23日
【審判番号】不服2020-4759(P2020-4759/J1)
【審判請求日】2020年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-61888(P2015-61888)
(32)【優先日】2015年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-61889(P2015-61889)
(32)【優先日】2015年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-61890(P2015-61890)
(32)【優先日】2015年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大川 和香子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 将太
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
【合議体】
【審判長】 山田 正文
【審判官】 畑中 博幸
【審判官】 山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−209546(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/00-1/117,1/40-1/42
H01F41/00-41/04@Z,41/08-41/08@Z,41/10-41-10@Z
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
14B型結晶構造を有する結晶粒子を主相とする希土類磁石であって、主相粒子内にGaが存在し、主相粒子の一粒子内におけるGaの最高濃度をαGa、最低濃度をβGaとした場合、αGaとβGaの濃度比率A(A=αGa/βGa)が1.50以上となる主相粒子を含むことを特徴とする希土類磁石。
【請求項2】
RとしてNd及びPrの両方を含み、R中のNdの割合及びR中のPrの割合がそれぞれ10質量%以上である請求項1に記載の希土類磁石。
【請求項3】
前記βGaを示す位置が前記主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在している請求項1〜2のいずれかに記載の希土類磁石。
【請求項4】
前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するGaの濃度勾配を有し、かつ、前記Gaの濃度勾配を有する領域の長さが100nm以上である請求項1〜3のいずれかに記載の希土類磁石。
【請求項5】
前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するGaの濃度勾配を有し、かつ、前記Gaの濃度勾配の絶対値が0.05原子%/μm以上である領域の長さが100nm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系焼結磁石は、高い飽和磁束密度を有することから、使用機器の小型化・高効率化に有利であり、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ、各種産業用モータやハイブリッド自動車の駆動モータ等に使用されている。特に、ハイブリッド自動車等へのR−T−B系焼結磁石の適用においては、磁石は比較的高温に晒されることになるため、熱による高温減磁を抑制することが重要となる。この高温減磁を抑制するには、R−T−B系焼結磁石の室温における保磁力を充分高めておく手法が有効であることは良く知られている。
【0003】
例えば、Nd−Fe−B系焼結磁石の室温における保磁力を高める手法として、主相であるNdFe14B化合物のNdの一部を、Dy、Tbといった重希土類元素で置換する手法が知られている。例えば特許文献1には、Ndの一部を重希土類元素で置換することにより、室温における保磁力を充分に高める技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、主相シェル部分のみにおいて重希土類元素の濃度を高めることで、より少ない重希土類元素量で高保磁力を果たし、残留磁束密度の低下をある程度抑制できる技術が開示されている。
【0005】
また、希土類磁石の保磁力の向上には、発生した逆磁区の磁壁の移動を抑制することも重要であることが指摘されている。例えば特許文献3には、主相R14Bの粒内に非磁性相の微細な磁気硬化性生成物を形成し、これにより磁壁のピンニングを行い、保磁力を向上させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献4には、主相粒子内に磁気的性質が主相の磁気的性質に対し変調された部位を形成することにより磁壁の移動を妨げ、保磁力を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−32306号公報
【特許文献2】国際公開第2002/061769号パンフレット
【特許文献3】特開平2−149650号公報
【特許文献4】特開2009−242936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、希土類磁石の微細構造、さらに詳しくは主相粒子内で主相を構成する元素に濃度分布、若しくは濃度勾配が存在するように微細構造を制御することにより、高温減磁率抑制を向上させることと、室温での高い保磁力とを兼備させた希土類磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
R−T−B系焼結磁石を100℃〜200℃といった高温環境下で使用する場合、実際に高温環境下に晒されても減磁しない、若しくは減磁率が小さい、ということが重要である。特許文献1及び2のように重希土類元素を用いる場合には、希土類元素同士、例えばNdとDyとの反強磁性的な結合による残留磁束密度の減少が避けられない。また、重希土類元素を用いることによる保磁力の向上の要因となっているのは、重希土類元素を用いることによる結晶磁気異方性エネルギーの向上である。ここで、結晶磁気異方性エネルギーの温度変化は、重希土類元素を用いることで大きくなる。このことにより、重希土類元素を用いる希土類磁石は、室温において保磁力が高い場合であっても、使用環境の高温化に伴って、保磁力が急激に減少してしまうと考えられる。また、Dy、Tbといった重希土類元素は産出地、産出量が限られている。
【0010】
焼結磁石の微細構造を制御することにより保磁力を向上させる技術が開示されている特許文献3及び4によると、非磁性体や軟磁性体を主相粒子内に少なからず内包させる必要があり、残留磁束密度の減少が避けられない。
【0011】
本願発明者等は、R−T−B系焼結磁石の微細構造と磁気特性との関係を鋭意検討した結果、R14B型結晶構造を有する主相粒子内のGa濃度分布を制御することにより、室温での保磁力を高めることができ、高温減磁率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0012】
すなわち、本発明は、R14B型結晶粒子を主相とする希土類磁石であって、主相粒子内にGaが存在し、主相粒子の一粒子内におけるGaの最高濃度をαGa、最低濃度をβGaとした場合、αGaとβGaの濃度比率A(A=αGa/βGa)が1.20以上となるGaの濃度差を有する主相粒子を含むことを特徴とする。これにより、希土類磁石の保磁力が向上するとともに、熱による減磁が抑制され、高温減磁率を抑制できる。
【0013】
さらに好ましくは、上記濃度比率Aが1.50以上であるとよい。上記主相粒子内の濃度比率Aが1.50以上となるように構成することで、高温減磁率をさらに抑制できる。
【0014】
また、上記主相粒子内にGaの濃度差を有する主相粒子におけるGaの最低濃度(βGa)を示す位置が主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在していることが好ましい。このようにすることで、高温減磁率をさらに抑制できるとともに、高い残留磁束密度を維持することが出来る。
【0015】
また、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するGaの濃度勾配を有し、かつ、前記Gaの濃度勾配を有する領域の長さが100nm以上であることが好ましい。このようにすることで、高温減磁率をさらに抑制できる。
【0016】
また、上記主相粒子のGaの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加する勾配を有し、前記Gaの濃度勾配の絶対値が0.05原子%/μm以上である領域の長さが100nm以上であることが好ましい。このような構成とすることにより、高温減磁率をさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温減磁率の小さい希土類磁石を提供でき、高温環境下で使用されるモータ等に適用できる希土類磁石を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試料切り出し箇所の例を模式的に示している図である。
図2】本発明の実施例におけるGaの濃度分布を示す図である。
図3】本発明の比較例におけるGaの濃度分布を示す図である。
図4A】本発明における主相粒子端部の定義を示す図である。
図4B図4Aについて縦軸のスケールを変更した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。尚、本実施形態でいう希土類磁石とは、R14B型結晶構造を有する主相粒子と粒界相とを含む焼結磁石であり、Rは一種以上の希土類元素を含み、TはFeを必須元素とした一種以上の鉄族元素を含み、Bはホウ素であり、さらには各種公知の添加元素が添加されたもの、および不可避の不純物をも含むものである。また、主相粒子内にGaを含む。
【0020】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、図1に示すように、R14B型結晶構造を有する主相粒子1と、隣接するR14B型結晶構造を有する主相粒子間に形成される粒界相2とを含む。また、R14B型結晶構造を有する主相粒子1は、結晶粒子内にGaの濃度差を有する。前記Gaの濃度差を有する主相粒子1において、相対的にGa濃度の高い部分と相対的にGa濃度の低い部分は主相粒子1のどの位置にあってもよいが、相対的にGa濃度の高い部分が結晶粒子の内部にあり、相対的にGa濃度の低い部分が結晶粒子の外縁部にあることが好ましい。なお、本実施形態に係る結晶粒子において、外縁部とは結晶粒子のうち粒界相2に比較的近い部分を指し、内部とは結晶粒子のうち外縁部より内側の部分を指す
【0021】
また、R14B型結晶構造を有する主相粒子1は、Cを含んでもよく、結晶粒子内にCの濃度差を有することが好ましい。前記Cの濃度差を有する主相粒子1において、相対的にC濃度の高い部分と相対的にC濃度の低い部分は主相粒子1のどの位置にあってもよいが、相対的にC濃度の高い部分が結晶粒子の内部にあり、相対的にC濃度の低い部分が結晶粒子の外縁部にあることが好ましい。
【0022】
また、R14B型結晶構造を有する主相粒子1は、結晶粒子内にBの濃度差を有することが好ましい。前記Bの濃度差を有する主相粒子1において、相対的にB濃度の高い部分と相対的にB濃度の低い部分は主相粒子1のどの位置にあってもよいが、相対的にB濃度の高い部分が結晶粒子の外縁部にあり、相対的にB濃度の低い部分が結晶粒子の内部にあることが好ましい。
【0023】
本実施形態に係る希土類磁石を構成するR14B型結晶構造を有する主相粒子1においては、希土類Rとしては軽希土類元素(原子番号63以下の希土類元素)、重希土類元素(原子番号64以上の希土類元素)、あるいは両者の組み合わせのいずれであっても良いが、材料コストの観点からNd、Prあるいはこれら両者の組み合わせが好ましい。その他の元素は上記した通りである。Nd、Prの好ましい組み合わせ範囲については後述する。
【0024】
本実施形態に係る希土類磁石は、微量の添加元素を含んでもよい。添加元素としては周知のものを含むことができる。添加元素は、R14B型結晶構造を有する主相粒子の構成元素であるR元素と共晶組成を有する添加元素を含むことが好ましい。この点から、添加元素としてはCuを含むことが好ましいが、他の元素を含んでも良い。添加元素としてCuを含む場合におけるCuの好適な添加量範囲については後述する。
【0025】
本実施形態に係る希土類磁石は、さらに主相粒子1の粉末冶金工程中での反応を促進するM元素として、Al、Ga、Si、Ge、Sn等を含む。M元素の好適な添加量範囲については後述する。希土類磁石に前述したCuに加えてこれらのM元素を添加することで、主相粒子1の外縁部と粒界相2との反応が促進され、主相粒子1の外縁部のR、T元素及びGaのうち粒界相2に移動するものがあらわれ、よって主相粒子1の外縁部でGa濃度を主相粒子1の内部に比べて相対的に低くすることができ、主相粒子1内に、磁気的性質が変調された部位が形成される。また、前記M元素及びCuは主相粒子1内に含むこともできる。
【0026】
本実施形態に係る希土類磁石においては、全質量に対する上記各元素の含有量は、それぞれ以下の通りであることが好ましいが、上記各元素の含有量は以下の数値範囲に限定されない。
R:29.5〜35.0質量%、
B:0.7〜0.98質量%、
M:0.03〜1.7質量%、
Cu:0.01〜1.5質量%、及び、
Fe:実質的に残部、及び、
残部を占める元素のうちのFe以外の元素の合計含有量:5.0質量%以下。
MのうちGaの含有量は0.03〜1.5質量%が好ましい。また、MのうちGaの含有量を0.08〜1.2質量%とすることで、成形体の強度が高くなる。MのうちAlの含有量を0.1〜0.5質量%とすることで、成形体の強度が高くなる。
【0027】
本実施形態に係る希土類磁石に含まれるRについて、さらに詳細に説明する。Rの含有量は31.5〜35.0質量%が、より好ましい。Rとしては、Nd及びPrのいずれか一方を含むことが好ましく、Nd及びPrの両方を含むことがさらに好ましい。R中のNd及びPrの割合は、Nd及びPrの合計で80〜100原子%であることが好ましい。R中のNd及びPrの割合が80〜100原子%であると、さらに良好な残留磁束密度及び保磁力が得られる。また、Nd及びPrの両方を含む場合には、R中のNdの割合及びR中のPrの割合がそれぞれ10質量%以上であることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態に係る希土類磁石においては、RとしてDy、Tb等の重希土類元素を含んでいてもよいが、その場合、希土類磁石の全質量中の重希土類元素の含有量は、重希土類元素の合計で10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であるとより好ましく、2質量%以下であるとさらに好ましい。本実施形態に係る希土類磁石では、このように重希土類元素の含有量を少なくしても、主相粒子1内にGa濃度差を形成させることによって、良好な高い保磁力を得ることができ、高温減磁率を抑制することができる。
【0029】
ここで、本実施形態に係る希土類磁石の高温減磁率の評価について説明する。評価用試料形状としては特に限定されないが、一般に多用されているように、パーミアンス係数が2となる形状とする。先ず室温(25℃)における試料の磁束量を測定し、これをB0とする。磁束量は、例えばフラックスメーター等により測定できる。次に試料を140℃で2時間高温暴露し、室温に戻す。試料温度が室温に戻ったら、再度磁束量を測定し、これをB1とする。すると、高温減磁率Dは、
D =100*(B1−B0)/B0(%)
と、評価される。
【0030】
本実施形態に係る希土類磁石において、Bの含有量は0.7〜0.98質量%であることが好ましく、0.80〜0.93質量%が、より好ましい。このようにBの含有量をR14Bで表される化学量論比よりも少ない特定の範囲とすることにより、添加元素と相俟って、粉末冶金工程中における主相粒子表面の反応をし易くすることが出来る。また、Bの含有量を化学量論比よりも少なくすることにより、主相粒子1にBの欠陥が生じると考えられる。当該Bの欠陥には、後述するC等の元素が入るが、全てのBの欠陥にC等の元素が入るわけではなく欠陥がそのまま残る場合もあると考えられる。
【0031】
本実施形態に係る希土類磁石は、さらに微量の添加元素を含む。添加元素としては周知のものを用いることができる。添加元素は、R14B型結晶構造を有する主相粒子1の構成元素であるR元素と状態図上に共晶点を有するものが好ましい。この点から、添加元素としてはCuが好ましいが、他の元素であってもよい。添加元素としてCuを添加する場合において、Cu元素の添加量としては、全体の0.01〜1.5質量%であることが好ましく、0.05〜0.5質量%であることが、より好ましい。添加量をこの範囲とすることで、Cuを粒界相2に偏在させることができる。
【0032】
さらに、添加元素としてZrおよび/またはNbを添加してもよい。Zrの含有量とNbの含有量との合計は0.05〜0.6質量%であることが好ましく、0.1〜0.2質量%であることが、より好ましい。Zrおよび/またはNbを添加することで粒成長を抑制する効果がある。
【0033】
一方、主相粒子1の構成元素であるT元素とCuについては、例えばFeとCuとは状態図が偏晶型のようになると考えられ、この組み合わせは共晶点を形成し難いものと思われる。そこで、R−T−M三元系が共晶点を形成するようなM元素を添加することが好ましい。このようなM元素としては、例えばAl、Ga、Si、Ge、Sn等が挙げられる。M元素の含有量としては、0.03〜1.7質量%であることが好ましく、0.1〜1.7質量%であることがより好ましく、0.7〜1.0質量%であることがさらに好ましい。M元素の添加量をこの範囲とすることで、粉末冶金工程中において主相粒子表面の反応を促進し、主相粒子1の外縁部のR、T元素及びGaのうち粒界相2に移動するものがあらわれ、主相粒子1の外縁部でGa濃度を低下させることができる。また、前記M元素は主相粒子1内に含むこともできる。
【0034】
本実施形態に係る希土類磁石には、R14BにおけるTで表される元素として、Feを必須としてFeに加えてさらに他の鉄族元素を含むことができる。この鉄族元素としてはCoであることが好ましい。この場合、Coの含有量は0質量%を超え3.0質量%以下であることが好ましい。希土類磁石にCoを含有させることにより、キュリー温度が向上する(高くなる)ほか、耐食性も向上する。Coの含有量は0.3〜2.5質量%であってもよい。
【0035】
本実施形態に係る希土類磁石は、焼結体中の粒界相2がR−T−M元素を含む。主相粒子1の構成元素である希土類元素R、鉄族元素Tと、さらに前記R、Tとともに三元系共晶点を形成するM元素とを付加することにより、主相粒子1内にGaの濃度差を生じさせることができる。Gaの濃度差が生じる理由は、M元素の添加により主相粒子1の外縁部と粒界相2との反応が促進され、主相粒子1の外縁部のR、T元素及びGaのうち粒界相2に移動するものがあらわれ、主相粒子1の外縁部でGa濃度が低くなるためであると考える。また、この反応では主相粒子1内に非磁性体や軟磁性体を新たに形成させることがなく、非磁性体や軟磁性体による残留磁束密度の低下を伴わない。
【0036】
上記主相粒子1を構成するR元素、T元素と共に反応を促進するM元素として、Al、Ga、Si、Ge、Sn等を用いることができる。
【0037】
本実施形態に係る希土類磁石の微細構造は、例えば三次元アトムプローブ顕微鏡により三次元アトムプローブ測定を行うことで評価できる。なお、本実施形態に係る希土類磁石の微細構造の測定手法は三次元アトムプローブ測定に限定されない。三次元アトムプローブ測定は、三次元の元素分布を原子オーダーで評価解析できる測定手法である。三次元アトムプローブ測定では、一般には電圧パルスを印加して電界蒸発を生じさせるが、電圧パルスの代わりにレーザーパルスを用いても良い。上記した高温減磁率を評価した試料を一部切り出して針状形状として、三次元アトムプローブ測定を行う。針状試料サンプリングの前に、主相粒子の研磨断面の電子顕微鏡像を取得しておく。倍率は観察対象の研磨断面において100個程度の主相粒子が観察できるように、適宜適切に決定すればよい。取得した電子顕微鏡像中における主相粒子の平均粒子径よりも大きい粒子を選択し、図1に示すように主相粒子1の中央付近を含むように針状試料をサンプリングする。針状試料の長手方向は配向軸に平行であっても、配向軸に直交していても、あるいは配向軸と任意の角度であってもよい。三次元アトムプローブ測定は主相粒子端部近傍から主相粒子内部に向かって少なくとも500nm連続して行う。測定から得られる三次元構築像を粒子端部から粒子内部に向かう直線上で単位体積(例えば50nm×50nm×50nmの立方体)に分割し、それぞれの分割領域で平均Ga原子濃度、平均C原子濃度及び平均B原子濃度を算出する。分割領域の中心点と主相粒子端部との距離に対し、分割領域の平均Ga原子濃度、平均C原子濃度及び平均B原子濃度をグラフ化することでGa原子濃度の分布、C原子濃度の分布及びB原子濃度の分布を評価できる。なお本明細書では、主相粒子1のR14B型化合物相のみのデータを採用し、主相粒子1に含まれる異相部分では評価をしない。
【0038】
また、本実施形態では主相粒子端部(主相粒子1と粒界相2との境界部)は、Cu原子濃度が、当該主相粒子1の外縁部の長さ50nmの部分におけるCu原子濃度の平均値の2倍となる部分であると定義する。
【0039】
外縁部の長さ50nmの部分及び主相粒子端部について図4A及び図4Bを用いてさらに説明する。図4A及び図4Bは、主相粒子1と粒界相2との境界部近傍におけるCu原子濃度の変化を表わしたグラフである。当該グラフの作成におけるCu原子濃度の測定方法には特に制限はない。例えば上記したGa原子濃度の分布と同様に、三次元アトムプローブ測定で測定できる。Cu原子濃度の測定に三次元アトムプローブを用いる場合には、前記単位体積の主相粒子端部から内部に向かう方向と同じ方向の一辺の長さを1〜5nmとすることが好ましい。また、前記単位体積は1000nm以上とすることが好ましい(例えば50nm×50nm×2nmの直方体)。その他の測定方法を用いる場合には、Cu原子濃度の測定間隔を1〜5nmとすることが好ましい。
【0040】
本実施形態では、前記外縁部の長さ50nmの部分11とは、図4A及び図4Bに示す主相粒子の外縁部でCu原子濃度が概ね一定となる部分であり、主相粒子端部12a,12bとは、図4A及び図4Bに示すCu原子濃度が前記外縁部の長さ50nmの部分11におけるCu原子濃度の平均値の2倍となる部分であると定義する。なお、前記外縁部の長さ50nmの部分11は、粒界相2から過度に遠くならない位置、より具体的には、外縁部の長さ50nmの部分11の端部11aと主相粒子端部12bとの距離が50nm以内となるように外縁部の長さ50nmの部分を設定することが好ましい。図4Aに示すように、本実施形態では、Cu原子濃度は粒界相2で高く、主相粒子1内で低くなる。図4Bに示すように、Cu原子濃度が概ね一定となる主相粒子1の外縁部の長さ50nmの部分11についてCu原子濃度の平均(図4BのC1)を算出し、当該平均濃度の2倍(図4BのC2)となる部分を主相粒子端部12a,12bとする。すなわち、C2=C1×2である。
【0041】
主相粒子1の外縁部の長さ50nmの部分11の位置は一定ではないが、主相粒子1の外縁部の長さ50nmの部分11の位置の変化によるCu原子濃度の平均値C1の変化は誤差の範囲内である。そして、主相粒子1の外縁部の長さ50nmの部分11の位置の変化による主相粒子端部12a,12bの位置の変化も誤差の範囲内である。
【0042】
本実施形態に係る希土類磁石は、主相粒子の一粒子内におけるGaの最高濃度をαGa、最低濃度をβGaとした場合に、αGaとβGaの濃度比率A(A=αGa/βGa)が1.20以上となる主相粒子を含む。このように構成することで、主相粒子内に結晶磁気異方性の分布が生じ、高温減磁率抑制を向上させることと、室温での高い保磁力を兼備させた希土類磁石を提供することとが可能となる。また、全主相粒子に対するAが所望の値を有する主相粒子の割合は10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。90%以上である場合には、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0043】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、主相粒子の一粒子内におけるGaの最高濃度をαGa、最低濃度をβGaとした場合に、αGaとβGaの濃度比率A(A=αGa/βGa)が1.50以上となる主相粒子を含むことが好ましい。Aが所望の値となる主相粒子を含むことで、高温減磁率抑制を向上させることと、室温での高い保磁力を兼備させた希土類磁石を提供することとが可能となる。また、全主相粒子に対するAが所望の値を有する主相粒子の割合は10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。70%以上とすることで、高温減磁率及び保磁力をさらに改善することができる。
【0044】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記βGaを示す位置が前記主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在している主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。これにより、主相粒子の外縁部に、主相粒子の内部の磁気的性質に対して変調された部位が形成され、主相粒子の外縁部と内部とで異方性磁界のギャップを生じさせることが出来る。これは、例えばNdとDyとの反強磁性的な結合を伴わないため、これによる残留磁束密度の低下を伴わない。したがって、当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。70%以上とすることで、高温減磁率及び保磁力をさらに改善することができる。
【0045】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するGaの濃度勾配を有し、かつ、前記Gaの濃度勾配を有する領域の長さが100nm以上である主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましい。当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。50%以上とすることで、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0046】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するGaの濃度勾配を有し、かつ、前記Gaの濃度勾配の絶対値が0.05原子%/μm以上である領域の長さが100nm以上である主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましい。このような構成とすることで、主相粒子内の外縁部において結晶磁気異方性の変化が急峻な領域を形成させることが出来る。したがって、当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。50%以上とすることで、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0047】
また、本実施形態に係る希土類磁石は、主相粒子の一粒子内におけるCの最高濃度をαC、最低濃度をβCとした場合に、αCとβCの濃度比率A1(A1=αC/βC)が1.50以上となる主相粒子を含むことが好ましい。このように構成することで、主相粒子内に結晶磁気異方性の分布が生じ、高温減磁率抑制を向上させやすくなり、室温での高い保磁力を兼備させた希土類磁石を提供しやすくなる。また、全主相粒子に対するA1が所望の値を有する主相粒子の割合は10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。90%以上である場合には、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、主相粒子の一粒子内におけるCの最高濃度をαC、最低濃度をβCとした場合に、αCとβCの濃度比率A1(A1=αC/βC)が2.00以上となる主相粒子を含むことが好ましい。A1が所望の値となる主相粒子を含むことで、高温減磁率抑制を向上させることと、室温での高い保磁力を兼備させた希土類磁石を提供することとが可能となる。また、全主相粒子に対するA1が所望の値を有する主相粒子の割合は10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。70%以上とすることで、高温減磁率及び保磁力をさらに改善することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記βCを示す位置が前記主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在している主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。これにより、主相粒子の外縁部に、主相粒子の内部の磁気的性質に対して変調された部位が形成され、主相粒子の外縁部と内部とで異方性磁界のギャップを生じさせることが出来る。これは、例えばNdとDyとの反強磁性的な結合を伴わないため、これによる残留磁束密度の低下を伴わない。したがって、当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。70%以上とすることで、高温減磁率及び保磁力をさらに改善することができる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するCの濃度勾配を有し、かつ、前記Cの濃度勾配を有する領域の長さが100nm以上である主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましい。当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。50%以上とすることで、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって増加するCの濃度勾配を有し、かつ、前記Cの濃度勾配の絶対値が0.00010原子%/nm以上である領域の長さが100nm以上である主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましい。このような構成とすることで、主相粒子内の外縁部において結晶磁気異方性の変化が急峻な領域を形成させることが出来る。したがって、当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。50%以上とすることで、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る希土類磁石は、主相粒子の一粒子内におけるBの最高濃度をαB、最低濃度をβBとした場合に、αBとβBの濃度比率A2(A2=αB/βB)が1.05以上となる主相粒子を含むことが好ましい。このように構成することで、主相粒子内に結晶磁気異方性の分布が生じ、高温減磁率抑制を向上させやすくなり、室温での高い保磁力を兼備させた希土類磁石を提供しやすくなる。また、全主相粒子に対するA2が所望の値を有する主相粒子の割合は10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。90%以上である場合には、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0053】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、主相粒子の一粒子内におけるBの最高濃度をαB、最低濃度をβBとした場合に、αBとβBの濃度比率A2(A2=αB/βB)が1.08以上となる主相粒子を含むことが好ましい。A2が所望の値となる主相粒子を含むことで、高温減磁率抑制を向上させることと、室温での高い保磁力を兼備させた希土類磁石を提供することとが可能となる。また、全主相粒子に対するA2が所望の値を有する主相粒子の割合は10%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。70%以上とすることで、高温減磁率及び保磁力をさらに改善することができる。
【0054】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記αBを示す位置が前記主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在している主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。これにより、主相粒子の外縁部に、主相粒子の内部の磁気的性質に対して変調された部位が形成され、主相粒子の外縁部と内部とで異方性磁界のギャップを生じさせることが出来る。これは、例えばNdとDyとの反強磁性的な結合を伴わないため、これによる残留磁束密度の低下を伴わない。したがって、当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。70%以上とすることで、高温減磁率及び保磁力をさらに改善することができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって減少するBの濃度勾配を有し、かつ、前記Bの濃度勾配を有する領域の長さが100nm以上である主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましい。当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。50%以上とすることで、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0056】
さらに、本実施形態に係る希土類磁石は、前記主相粒子の端部から前記主相粒子の内部に向かって減少するBの濃度勾配を有し、かつ、前記Bの濃度勾配の絶対値が0.0005原子%/nm以上である領域の長さが100nm以上である主相粒子を10%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがさらに好ましい。このような構成とすることで、主相粒子内の外縁部において結晶磁気異方性の変化が急峻な領域を形成させることが出来る。したがって、当該主相粒子を含むことにより、さらなる高温減磁率抑制及び室温でのさらなる保磁力向上を兼備させた希土類磁石を提供することが可能となる。50%以上とすることで、高温減磁率をさらに改善することができる。
【0057】
本実施形態に係る希土類磁石は、その他の元素としてCを含有してもよい。Cの含有量は0.05〜0.3質量%であることが好ましい。Cの含有量がこの範囲よりも小さいと、保磁力が不十分となる場合があり、この範囲よりも大きいと、保磁力(HcJ)に対する、磁化が残留磁束密度の90%であるときの磁界の値(Hk)の比率、いわゆる角型比(Hk/HcJ)が不十分となる場合がある。保磁力及び角型比をより良好とするために、Cの含有量は0.1〜0.25質量%が好ましい。また、R14B型結晶構造を有する主相粒子1のBの一部をCで置換するなどすることもでき、Cを主相粒子1内に含むこともできる。
【0058】
本実施形態に係る希土類磁石は、その他の元素としてOを含有してもよい。Oの含有量は0.03〜0.4質量%であることが好ましい。Oの含有量がこの範囲よりも小さいと、焼結磁石の耐食性が不十分となる場合があり、この範囲よりも大きいと焼結磁石中に液相が十分に形成されなくなり、保磁力が低下する場合がある。耐食性及び保磁力をより良好に得るために、Oの含有量は0.05〜0.3質量%であることがより好ましく、0.05〜0.25質量%であることがさらに好ましい。また、Oは主相粒子内に含むこともできる。
【0059】
また、本実施形態に係る希土類磁石は、Nの含有量が0.15質量%以下であると好ましい。Nの含有量がこの範囲よりも大きいと、保磁力が不十分となりやすい傾向にある。また、Nは主相粒子1内に含むこともできる。
【0060】
また、本実施形態の焼結磁石は、各元素の含有量が上述した範囲であるとともに、C、O及びNの原子数を、それぞれ[C]、[O]、及び[N]としたとき、[O]/([C]+[N])<0.85となる関係を満たすことが好ましい。このように構成することで、高温減磁率の絶対値を小さく抑制できる。また、本実施形態の焼結磁石は、C及びM元素の原子数が、次の関係を満たしていることが好ましい。すなわち、C及びM元素の原子数を、それぞれ[C]及び[M]としたとき、1.20<[M]/[C]<2.00となる関係を満たしていることが好ましい。このように構成することで、高い残留磁束密度と高温減磁率の抑制を両立することができる。
【0061】
また、結晶粒子の粒径は1〜8μmが好ましく、2〜6μmがより好ましい。上限以上だと保磁力HcJが低下する傾向にある。下限以下だと残留磁束密度Brが低下する傾向にある。なお、結晶粒子の粒径は、断面における円相当径の平均とする。
【0062】
次に本実施形態に係る希土類磁石の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係る希土類磁石は通常の粉末冶金法により製造することができ、該粉末冶金法は、原料合金を調製する調製工程、前記原料合金を粉砕して原料微粉末を得る粉砕工程、前記原料微粉末を成形して成形体を作製する成形工程、前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、及び前記焼結体に時効処理を施す熱処理工程を有する。
【0063】
調製工程は、本実施形態に係る希土類磁石に含まれる各元素を有する原料合金を調製する工程である。まず、所定の元素を有する原料金属等を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法等を行う。これによって原料合金を調製することができる。原料金属等としては、例えば、希土類金属や希土類合金、純鉄、フェロボロン、カーボン、またはこれらの合金が挙げられる。これらの原料金属等を用い、所望の組成を有する希土類磁石が得られるような原料合金を調製する。
【0064】
調整方法の一例としてストリップキャスティング法を説明する。ストリップキャスティング法は、溶湯をタンディッシュに流し込み、タンディッシュからさらに内部が水冷された回転する銅ロール上に、前記原料金属等を溶解させた溶湯を流して冷却凝固させるものであるが、凝固時の冷却速度は、溶湯の温度、供給量、冷却ロールの回転速度を調節することによって所望の範囲に制御することができる。前記凝固時の冷却速度は、作製しようとする希土類磁石の組成等の条件に応じて適宜設定することが好ましいが、例えば、500〜11000℃/秒、好ましくは1000〜11000℃/秒で行えばよい。前記凝固時の冷却速度をこのように制御することにより、得ようとする原料合金中に含まれるBの含有量がR14Bで表される化学量論比よりも少ない場合でも、正方晶R14B型結晶構造を準安定的に維持させることができ、後述の熱処理工程等において、主相粒子内にGa、C及びBの濃度差を生じさせることができると考えている。前記凝固時の冷却速度は、具体的にはタンディッシュにおける溶湯温度を浸漬熱電対で測定された温度と、ロールが60度回転した位置における合金温度を放射温度計で測定して得られた値との差を、ロールが60度回転する時間で割り返して計算した。
【0065】
原料合金に含まれるカーボン量は100ppm以上が好ましい。この場合には、外縁部におけるGa量、C量及びB量を好ましい範囲内に調整することが容易となる。
【0066】
原料合金におけるカーボン量を調整する方法として、例えば、カーボンを含む原料金属等を使用することで調整する方法がある。特にFe原料の種類を変化させることでカーボン量を調整する方法が容易である。カーボン量を増やすためには炭素鋼や鋳鉄などを使用し、カーボン量を減らすためには電解鉄などを使用すればよい。
【0067】
粉砕工程は、調製工程で得られた原料合金を粉砕して原料微粉末を得る工程である。この工程は、粗粉砕工程及び微粉砕工程の2段階で行うことが好ましいが、微粉砕工程のみの1段階としても良い。
【0068】
粗粉砕工程は、例えばスタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。水素を吸蔵させた後、粉砕を行う水素吸蔵粉砕を行うこともできる。粗粉砕工程においては、原料合金を、粒径が数百μmから数mm程度の粗粉末となるまで粉砕を行う。
【0069】
微粉砕工程は、粗粉砕工程で得られた粗粉末(粗粉砕工程を省略する場合には原料合金)を微粉砕して、平均粒径が数μm程度の原料微粉末を調製する。原料微粉末の平均粒径は、焼結後の結晶粒の成長度合を勘案して設定すればよい。微粉砕は、例えば、ジェットミルを用いて行うことができる。
【0070】
微粉砕の前には粉砕助剤を加えることができる。粉砕助剤を加えることで粉砕性を改善し、成形工程での磁場配向を容易にする。加えて焼結時のカーボン量を変えることが可能となり、焼結磁石の主相粒子の外縁部においてガリウム組成、カーボン組成及びボロン組成を調整できる。
【0071】
上記理由により粉砕助剤は潤滑性を有した有機物が好ましい。特に上述した[O]/([C]+[N])<0.85の関係を満たすために窒素を含んだ有機物が好ましい。具体的にはステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸などの長鎖炭化水素酸の金属塩、または前記長鎖炭化水素酸のアミドが好ましい。
【0072】
粉砕助剤の添加量は外縁部の組成制御の観点から原料合金100質量%に対して0.05〜0.15質量%が好ましい。また原料合金に含まれるカーボンに対する粉砕助剤の質量比率を5〜15にすることで、焼結磁石の主相粒子の外縁部及び内部におけるガリウム組成、カーボン組成及びボロン組成を調整することができる。
【0073】
成形工程は、原料微粉末を磁場中で成形して成形体を作製する工程である。具体的には、原料微粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後、電磁石により磁場を印加して原料微粉末の結晶軸を配向させながら、原料微粉末を加圧することにより成形を行うことで成形体を作製する。この磁場中の成形は、例えば、1000〜1600kA/mの磁場中、30〜300MPa程度の圧力で行えばよい。
【0074】
焼結工程は、成形体を焼結して焼結体を得る工程である。前記磁場中の成形後、成形体を真空もしくは不活性ガス雰囲気中で焼結し、焼結体を得ることができる。焼結条件は、成形体の組成、原料微粉末の粉砕方法、粒度等の条件に応じて適宜設定すればよい。例えば、950℃〜1250℃で1〜10時間程度行えばよいが、1000℃〜1100℃で1〜10時間程度とすることが好ましい。また昇温過程を調整することで、焼結時のカーボン量を調整することも可能である。室温から300℃までの昇温スピードを1℃/分以上にすることが、カーボンを焼結時まで残すためには望ましい。より好ましくは4℃/分以上である。また、主相粒子内にGaの濃度差、Cの濃度差及びBの濃度差を生じさせる処理は焼結工程において行っても良いし、後述する熱処理工程等において行っても良い。
【0075】
熱処理工程は、焼結体を時効処理する工程である。この工程を経ることで、主相粒子内にGaの濃度差、Cの濃度差及びBの濃度差を生じさせることができる。しかしながら、主相粒子内の微細構造はこの工程のみで制御されるのではなく、上記した焼結工程の諸条件及び原料微粉末の状況との兼ね合いで決まる。従って、熱処理条件と焼結体の微細構造との関係を勘案しながら、熱処理温度及び時間を設定すればよい。熱処理は500℃〜900℃の温度範囲で行えばよいが、800℃近傍での熱処理を行った後550℃近傍での熱処理を行うという様に2段階に分けて行ってもよい。熱処理の降温過程における冷却速度でも微細組織は変動するが、冷却速度は、50℃/分以上、特に100℃/分以上とすることが好ましく、250℃/分以下、特に200℃/分以下とすることが好ましい。原料合金組成、調整工程における凝固時の冷却速度、前記した焼結条件及び熱処理条件を種々設定することにより、主相粒子内におけるGa濃度分布、C濃度分布及びB濃度分布を種々に制御することができる。
【0076】
本実施形態においては、主相粒子内におけるGa濃度分布、C濃度分布及びB濃度分布を熱処理条件等により制御する方法を例示したが、本発明の希土類磁石はこの方法によって得られるものに限定されない。組成要因の制御、調整工程における凝固条件の制御、焼結条件の制御を付加することによって、本実施形態で例示する熱処理条件等とは異なる条件でも同様の効果を奏する希土類磁石を得ることができる。
【0077】
以上の方法により、本実施形態に係る希土類磁石が得られるが、本発明に係る希土類磁石の製造方法は上記の方法に限定されず、適宜変更してよい。また、本実施形態に係る希土類磁石の用途に制限はない。例えば、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ、産業機械用モータ、家電用モータに好適に用いられる。さらに、自動車用部品、特にEV用部品、HEV用部品及びFCV用部品にも好適に用いられる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を具体的な実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0079】
先ず、焼結磁石の原料金属を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法により、下記表1で表される本発明の実施例である試料No.1から試料No.22および比較例である試料No.23から試料No.28の焼結磁石の組成が得られるように、それぞれ原料合金を作製した。原料合金の作製はストリップキャスティング法で行い、溶湯の凝固時の冷却速度は試料No.1から試料No.14及び試料No.19から試料No.26までは2500℃/秒とした。試料No.15では凝固時の冷却速度を11000℃/秒とした。試料No.16では凝固時の冷却速度を6500℃/秒とした。試料No.17では凝固時の冷却速度を900℃/秒とした。試料No.18では凝固時の冷却速度を500℃/秒とした。試料No.27では凝固時の冷却速度を200℃/秒とした。試料No.28では凝固時の冷却速度を16000℃/秒とした。なお、表1に示した各元素の含有量は、T、R、Cu及びMについては蛍光X線分析により、BについてはICP発光分光分析により測定した。また、Oについては不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法により、Cについては酸素気流中燃焼−赤外線吸収法により、Nについては不活性ガス融解−熱伝導度法により測定した。また、焼結体における組成比[O]/([C]+[N])及び[M]/[C]については、これらの方法により得た含有量から各元素の原子数を求めることにより算出した。
【0080】
次に、得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Arガス雰囲気下で600℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行った。その後、得られた粉砕物をArガス雰囲気下で室温まで冷却した。
【0081】
得られた粉砕物に粉砕助剤を添加し混合した後、ジェットミルを用いて微粉砕を行い、平均粒径が3〜4μmである原料粉末を得た。
【0082】
得られた原料粉末を、低酸素雰囲気(酸素濃度100ppm以下の雰囲気)下において、配向磁場1200kA/m、成形圧力120MPaの条件で成形を行って、成形体を得た。
【0083】
その後、成形体を、真空中、焼結温度1010〜1050℃で4時間焼結した後、急冷して焼結体を得た。得られた焼結体に対し、900℃と500℃との2段階の熱処理をArガス雰囲気下で行った。一段目の900℃での熱処理(時効1)については、全ての試料で保持時間を1時間と一定とし、一段目の熱処理後の冷却速度を50℃/分として900℃から200℃まで冷却し、その後、室温まで徐冷した。二段目の500℃での熱処理(時効2)については保持時間及び熱処理の降温過程における500℃から200℃までの冷却速度を変えて冷却し、その後、室温まで徐冷することにより、主相粒子内のGa濃度分布、C濃度分布及びB濃度分布の異なる複数の試料を準備した。ただし、試料No.24の熱処理は時効1のみとし、時効2の熱処理を行わなかった。
【0084】
以上のようにして得られた各試料(試料No.1から試料No.28)につき、磁気特性を測定した。具体的には、B−Hトレーサーを用いて、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)をそれぞれ測定した。その後に高温減磁率を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。次に磁気特性を測定した試料No.1から試料No.28について、三次元アトムプローブ顕微鏡により主相粒子内におけるGa濃度分布、C濃度分布及びB濃度分布を評価した。評価は、それぞれの試料について10箇所以上、三次元アトムプローブ測定用の針状試料を切り出して実施した。三次元アトムプローブ測定用試料として針状試料を切り出す前に、それぞれの試料の研磨断面の電子顕微鏡像を取得した。この際に電子顕微鏡像中に主相粒子が約100個観察できる視野を設定した。なお、当該視野の大きさは、おおよそ40μm×50μmとなる。取得した電子顕微鏡像中における主相粒子の平均粒子径よりも粒子径が大きい主相粒子を選択した。そして、選択した主相粒子について、図1に示すように主相粒子の中央付近を含むように試料切り出し箇所5を設定して針状試料を切り出してサンプリングした。三次元アトムプローブ顕微鏡による測定は主相粒子端部近傍から粒子内部に向かって500nm以上連続して行った。すなわち、各針状試料の長さは500nm以上とした。
【0085】
まず、主相粒子端部を決定した。三次元アトムプローブ顕微鏡による測定で得られた三次元構築像を用い、主相粒子1と粒界相2との境界部近傍のCu原子濃度の変化を2nm間隔で測定(50nm×50nm×2nmの直方体を単位体積として分割して測定)することで作成したグラフから主相粒子端部を決定した。
【0086】
そして、主相粒子端部から粒子内部に向かう直線上で50nm×50nm×50nmの立方体を単位体積として分割し、それぞれの分割領域で平均Ga原子濃度、平均C原子濃度および平均B原子濃度を算出した。分割領域の中心点と主相粒子端部との距離に対し、分割領域の平均Ga原子濃度、平均C原子濃度および平均B原子濃度をグラフ化することでGa原子濃度、C原子濃度およびB原子濃度の分布を評価した。
【0087】
なお、三次元アトムプローブ顕微鏡測定のための針状試料を切り出す際には、主相粒子内の異相部分が含まれないよう留意すると共に、三次元構築像から単位体積に分割する際には、主相粒子のR14B型化合物相のみのデータを採用した。
【0088】
主相粒子内のGa濃度を評価した。主相粒子内に0.01原子%以上のGaが100nm以上にわたって三次元アトムプローブ顕微鏡測定にて検出された場合を本明細書ではGaを主相粒子内に含むとした。
【0089】
主相粒子内のC濃度を評価した。主相粒子内に0.05原子%以上のCが100nm以上にわたって三次元アトムプローブ顕微鏡測定にて検出された場合を本明細書ではCを主相粒子内に含むとした。
【0090】
Ga濃度分布は次に述べる項目について評価を行った。まず、Gaの最高濃度(αGa)と最低濃度(βGa)の濃度比率A(A=αGa/βGa)を算出し、A≧1.20であるかどうか、さらにA≧1.50であるかどうかを評価した。次に、Gaの最低濃度(βGa)を示す位置が主相粒子端部から粒子内部に向かって100nm以内の位置に存在するかどうかを評価した。続いて、Ga濃度が主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加勾配を有し、かつ、増加勾配を有する領域の長さが100nm以上であるかどうかを評価した。最後にGa濃度が主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加勾配を有し、かつ、増加勾配の絶対値が0.05原子%/μm以上である領域の長さが100nm以上であるかどうかを評価した。
【0091】
C濃度分布は次に述べる項目について評価を行った。まず、Cの最高濃度(αC)と最低濃度(βC)の濃度比率A1(A1=αC/βC)を算出し、A1≧1.50であるかどうか、さらにA1≧2.00であるかどうかを評価した。次に、Cの最低濃度(βC)を示す位置が主相粒子端部から粒子内部に向かって100nm以内の位置に存在するかどうかを評価した。続いて、C濃度が主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加勾配を有し、かつ、増加勾配を有する領域の長さが100nm以上であるかどうかを評価した。最後にC濃度が主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加勾配を有し、かつ、増加勾配の絶対値が0.00010原子%/nm以上である領域の長さが100nm以上であるかどうかを評価した。
【0092】
B濃度分布は次に述べる項目について評価を行った。まず、Bの最高濃度(αB)と最低濃度(βB)の濃度比率A2(A2=αB/βB)を算出し、A2≧1.05であるかどうか、さらにA2≧1.08であるかどうかを評価した。次に、Bの最高濃度(αB)を示す位置が主相粒子端部から粒子内部に向かって100nm以内の位置に存在するかどうかを評価した。続いて、B濃度が主相粒子の端部から粒子内部に向かって減少勾配を有し、かつ、減少勾配を有する領域の長さが100nm以上であるかどうかを評価した。最後にB濃度が主相粒子の端部から粒子内部に向かって減少勾配を有し、かつ、減少勾配の絶対値が0.0005原子%/nm以上である領域の長さが100nm以上であるかどうかを評価した。
【0093】
本発明の実施例である試料No.1から試料No.22及び比較例である試料No.23から試料No.28の元素濃度評価結果もまとめて表1及び表2に示した。表1及び表2のGa濃度分布評価結果、C濃度分布評価結果、B濃度分布評価結果、Ga濃度評価結果及びC濃度評価結果については、それぞれの試料について10箇所の測定評価を行い、それぞれの評価項目に対して、測定箇所が該当した頻度を該当箇所数/測定箇所数で表記した。
【0094】
また、二段目の熱処理(時効2)の冷却速度を表1に示した。さらに、焼結体に含まれるC、O、N及びM元素の原子数を、それぞれ[C]、[O]、[N]及び[M]としたとき、各試料の[O]/([C]+[N])及び[M]/[C]の値を算出し、表3に示した。希土類磁石に含まれる酸素の量及び窒素の量は、粉砕工程から熱処理工程に至るまでの雰囲気を制御し、特に粉砕工程での雰囲気に含まれる酸素の量及び窒素の量の増減調整により、表1の範囲に調整した。また、希土類磁石に含まれる炭素の量は、粉砕工程で添加する粉砕助剤の量の増減調整により、表1の範囲に調整した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表1及び表2より、R14B型結晶構造を有する主相粒子の一粒子内におけるGaの最高濃度をαGa、最低濃度をβGaとした場合に、本発明の実施例である試料No.1から試料No.22ではαGaとβGaの濃度比率A(A=αGa/βGa)が1.20以上となるGaの濃度差を有する主相粒子を含んでいるが、比較例である試料No.23から試料No.28では濃度比率Aが1.20以上となるGaの濃度差を有する主相粒子は観察されなかった。試料No.1から試料No.22の試料群においては、高温減磁率の絶対値を3.5%以下に制御することができ、高温環境下での使用にも適した希土類磁石となっていることがわかる。さらに、試料No.1から試料No.19の結果より、αGaとβGaの濃度比率A(A=αGa/βGa)が1.50以上となるGaの濃度差を有する主相粒子を含むことにより高温減磁率の絶対値を2.5%以下に制御することができることがわかる。
【0099】
さらに表1及び表2より、濃度比率Aが1.20以上となるGaの濃度差を有し、かつ、Gaの最低濃度(βGa)を示す位置が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在する主相粒子を含む試料No.1から試料No.18では、高温減磁率の絶対値が1.5%以下に制御されていることがわかる。これは、主相粒子の外縁部(Ga濃度の低い部分)に、主相粒子の内部(Ga濃度の高い部分)とは磁気的性質が変調された部位が前記主相粒子の内部(Ga濃度の高い部分)から連続的に形成され、その結果、異方性磁界のギャップが粒子を包むように形成され、高温減磁率の大幅な抑制が可能になったためであると考える。
【0100】
また、主相粒子のGaの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加する勾配を有し、かつ、前記増加する勾配を有する領域の長さが100nm以上である主相粒子を含む試料No.1から試料No.17では、高温減磁率の絶対値を1.3%以下に制御することが出来ている。さらに、主相粒子のGaの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加する勾配を有し、Gaの濃度勾配の絶対値が0.05原子%/μm以上である領域の長さが100nm以上である主相粒子を含む試料No.1から試料No.16では、高温減磁率の絶対値が1.0%以下に制御されている。このような急峻かつ幅をもった磁気的性質が変調された部位を主相粒子表面付近に形成することにより、主相粒子表面付近の磁壁の生成と運動を抑制することが出来、高温減磁率の制御が可能となったと考えている。
【0101】
また、表1及び表2より、R14B型結晶構造を有する主相粒子の一粒子内におけるCの最高濃度をαC、最低濃度をβCとした場合に、本発明の実施例である試料No.1から試料No.22ではαCとβCの濃度比率A1(A1=αC/βC)が1.50以上となるCの濃度差を有する主相粒子を含んでいる。試料No.1から試料No.22の試料群においては、高温減磁率の絶対値を3.5%以下に制御することができ、高温環境下での使用にも適した希土類磁石となっていることがわかる。さらに、試料No.1から試料No.19の結果より、αCとβCの濃度比率A1(A1=αC/βC)が2.00以上となるCの濃度差を有する主相粒子を含む場合には、高温減磁率の絶対値が2.5%以下に制御されていることがわかる。
【0102】
さらに表1及び表2より、濃度比率A1が1.50以上となるCの濃度差を有し、かつ、Cの最低濃度(βC)を示す位置が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在する主相粒子を含む試料No.1から試料No.18では、高温減磁率の絶対値が1.5%以下に制御されていることがわかる。
【0103】
また、主相粒子のCの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加する勾配を有し、かつ、前記増加する勾配を有する領域の長さが100nm以上である主相粒子を含む試料No.1から試料No.17では、高温減磁率の絶対値を1.3%以下に制御することが出来ている。さらに、主相粒子のCの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加する勾配を有し、Cの濃度勾配の絶対値が0.00010原子%/nm以上である領域の長さが100nm以上である主相粒子を含む試料No.1から試料No.16では、高温減磁率の絶対値が1.0%以下に制御されている。
【0104】
また、表1及び表2より、R14B型結晶構造を有する主相粒子の一粒子内におけるBの最高濃度をαB、最低濃度をβBとした場合に、本発明の実施例である試料No.1から試料No.22ではαBとβBの濃度比率A2(A2=αB/βB)が1.05以上となるBの濃度差を有する主相粒子を含んでいる。試料No.1から試料No.22の試料群においては、高温減磁率の絶対値を3.5%以下に制御することができ、高温環境下での使用にも適した希土類磁石となっていることがわかる。さらに、試料No.1から試料No.19の結果より、αBとβBの濃度比率A2(A2=αB/βB)が1.08以上となるBの濃度差を有する主相粒子を含む場合には、高温減磁率の絶対値が2.5%以下に制御されていることがわかる。
【0105】
さらに表1及び表2より、濃度比率A2が1.05以上となるBの濃度差を有し、かつ、Bの最高濃度(αB)を示す位置が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在する主相粒子を含む試料No.1から試料No.18では、高温減磁率の絶対値が1.5%以下に制御されていることがわかる。
【0106】
また、主相粒子のBの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって減少する勾配を有し、かつ、前記減少する勾配を有する領域の長さが100nm以上である主相粒子を含む試料No.1から試料No.17では、高温減磁率の絶対値を1.3%以下に制御することが出来ている。さらに、主相粒子のBの濃度分布が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって減少する勾配を有し、Bの濃度勾配の絶対値が0.0005原子%/nm以上である領域の長さが100nm以上である主相粒子を含む試料No.1から試料No.16では、高温減磁率の絶対値が1.0%以下に制御されている。
【0107】
次に、本実施例に係る希土類磁石における主相粒子内のGa濃度分布をさらに詳しく説明する。図2には、試料No.2に形成された主相粒子の粒子端部から粒子内部に向かってライン状に三次元アトムプローブ顕微鏡にて測定したGaの濃度分布の測定例を示す。図2および図3では、分割領域の中心点と主相粒子端部との距離に対し、分割領域の平均Ga原子濃度をグラフ化している。これらの三次元アトムプローブ顕微鏡による元素分析の結果から、試料No.2では、濃度比率Aが1.69で1.50よりも大きな値となる主相粒子を含んでいることが分かる。また、測定範囲内でGaの最低濃度(βGa)を示す位置が、主相粒子の端部から粒子内部に向かって100nm以内に存在しており、主相粒子の端部から粒子内部に向かって増加する濃度勾配を有し、かつ、Gaの濃度勾配の絶対値が0.05原子%/μm以上である領域を100nm以上有していることが分かる。
【0108】
図3は、従来技術による比較例である試料No.23に形成された主相粒子の粒子端部から粒子内部に向かってライン状に三次元アトムプローブ顕微鏡にて測定したGaの濃度分布の測定例を示す。これらの三次元アトムプローブ顕微鏡による元素分析の結果から、試料No.23では、濃度比率Aが1.06で1.20よりも小さい値であり、本発明の微細構造が形成されていないことがわかる。比較例である試料No.24から試料No.28も同様なGaの濃度分布であったが、このことにより高温減磁率の抑制ができていないものと考える。
【0109】
また、表3に示すように、本発明の実施例である試料No.1から試料No.22の試料では、主相粒子内にGaの濃度差を有するものを含むとともに、焼結磁石に含まれるO、C及びNの原子数が、次のような特定の関係を満たしている。すなわち、O、C及びNの原子数を、それぞれ[O]及び[C]、[N]としたとき、[O]/([C]+[N])<0.85となる関係を満たしている。このように、[O]/([C]+[N])<0.85であることにより、保磁力(HcJ)を効果的に向上させることが可能であるとともに、高温減磁率を効果的に抑制させることが可能であった。
【0110】
さらに表3より、試料No.2から試料No.3、試料No.5から試料No.21の試料では、焼結磁石に含まれるC及びMの原子数が、次のような特定の関係を満たしている。すなわち、C及びMの原子数を、それぞれ[C]及び[M]としたとき、1.20<[M]/[C]<2.00となる関係を満たしている。このように、1.20<[M]/[C]<2.00であることにより、高い残留磁束密度(Br)と高温減磁率の抑制を両立することが可能であった。
【0111】
次に、主成分の組成を25wt%Nd−7Pr−1.5Dy−0.93B−0.20Al−2Co−0.2Cu−0.17Ga−0.08O−0.08C−0.005Nとし、原料合金に含まれるカーボン量を100ppmとして試料No.32を作製した。さらに、原料合金に含まれるカーボン量を変化させて試料No.30,31,33,34を作製した。結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4より、原料合金に含まれるカーボン量が100ppm以上の場合にはGaの濃度比率A及びGaの濃度勾配が好ましい範囲内となりやすくなることがわかる。
【0114】
次に、焼結工程における室温から300℃までの昇温スピードを変化させた点以外は試料No.32と同様にして試料No.41〜44を作製した。結果を表5に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
表5より、室温から300℃までの昇温スピードが1℃/分以上である場合には、Gaの濃度比率Aが好ましい範囲内となり、室温から300℃までの昇温スピードが2℃/分以上である場合には、Gaの濃度比率A及びGaの濃度勾配が好ましい範囲内となりやすくなることがわかる。さらに、室温から300℃までの昇温スピードが4℃/分以上である場合がさらに好ましいことがわかる。
【0117】
次に、粉砕助剤として添加するオレイン酸アミドの量を変化させた点以外は試料No.32と同様にして試料No.51〜54を作製した。結果を表6に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
表6より、オレイン酸アミドの量が0.05〜0.15質量%である場合には、外縁部の組成が好適に制御され、Gaの濃度比率が好ましい範囲内となりやすくなることがわかる。
【0120】
次に、時効2終了後の冷却速度を変化させた点以外は試料No.11と同様にして試料No.61〜63を作製した。結果を表7に示す。
【0121】
【表7】
【0122】
表7より、時効2終了後の冷却速度を50℃/分以上、250℃/分以下とすることでGaの濃度比率が好ましい範囲内となりやすくなる。
【0123】
さらに、試料No.2の焼結磁石組成を変化させた点以外は試料No.2と同様にして試料No.71〜80を作製した。結果を表8及び表9に示す。
【0124】
【表8】
【0125】
【表9】
【0126】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、高温環境下においても使用可能な希土類磁石を提供できる。
【符号の説明】
【0128】
1 主相粒子
2 粒界相
5 試料切り出し箇所
11 外縁部の長さ50nmの部分
12a,12b 主相粒子端部
図1
図2
図3
図4A
図4B