【実施例】
【0057】
実施例1:MSCの特徴づけ
hMSCは培養、増幅、及び冷凍保存することができる。細胞を融解した場合、それらはプラスチックへ接着し、分裂し、数が増加し、治療法に関連する生物学的機能(血管新生性サイトカインを分泌すること、及びインターフェロンガンマのような炎症分子により刺激された場合に免疫修飾酵素をアップレギュレートすること、ならびに多能性三系譜分化が含まれる)を有することができる。
【0058】
hBM−MSCは複数の源から冷凍保存されたフォーマットで商業的に入手可能である。この実験において、1000万のhBM−MSCのバイアル(ベンダー、RoosterBio、Frederick、MD、パート番号MSC001)を融解し、増幅培地(RoosterBio、パート番号KT−001)中でT225フラスコ(Corning)の中へプレーティングする。hMSCを3,000の細胞/cm
2で播種し、37℃の加湿CO
2インキュベーター中でインキュベーションした。2時間以内に、細胞の多くは培養用ディッシュへ接着し(
図1)、それは培養の間の細胞増幅のための前提条件である。MSCは採取の前に4〜5日間培養で増幅した。一旦細胞が80〜90%の視覚的な細胞密集度を達成したならば、それらをTrypLE採取試薬(Thermo Fisher)により採取し、細胞の計数及び生存率をNucleocounter NC100(Chemometec)と呼ばれる自動システムにより定量した。細胞を機能についてもアッセイした。hMSCは連続的に複数回継代することができ、各々の継代は使用される培地に依存して2〜5の集団倍加をもたらす。最終目標は、単一ドナーから何千または何万もの産物を産生することができるように、及び細胞の生物学的機能が維持されるように、十分に高い集団倍加レベルで細胞を達成することである。
【0059】
MSCを標準的なフローサイトメトリーマーカーについて特徴づけた(
図2)。MSCをDMEM+10%の血清中で7〜10日間培養し、フローサイトメトリーによってアッセイした。細胞は、CD73、CD90、CD105及びCD166について陽性で、CD14、CD34及びCD45について陰性であった。
【0060】
生物学的機能:hMSCが培養培地の中へ分泌する生物学的因子のパネルについてアッセイするために、hMSCを培養から採取し、基礎培地(RoosterBio)+2%のウシ血清(Atlas Biologics)中で40,000細胞/cm
2で24ウェルプレートの中へプレーティングした。細胞を37℃で24時間±1時間インキュベーションし、細胞培養培地をその時刻で採取し、−20℃で凍結した。次いで収集された培地を、Q−Plex(商標)Human Angiogenesis(九重、Quansys Biosystmes)の完全に定量的なELISAベースの化学発光アッセイを使用してアッセイし、9つの血管新生性バイオマーカーのANG−2、塩基性FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2、TNFα、VEGFを同時に測定することを可能にした。多重ELISAは培養上清においてpg/mLで検体を提供し、次いでそれを、ウェルの中へ播種した細胞の数及び培養中の時間に対して正規化して、pg/細胞/日で特異的なサイトカイン分泌測定を得た(
図3)。
【0061】
増幅されたhMSCは、バルク培養で脂肪形成(脂肪)及び骨形成(骨)に向かって分化した(
図4)。商業的に入手可能なキットは、提供されたプロトコルを使用して、MSCを脂肪細胞及び骨芽細胞へ分化させるために使用した(StemPro Adipogenesis and Osteogenesis Differentiation Kits、Life Technologies)。分化は、脂肪形成については脂質小胞のオイルレッドO染色(
図4A)、及び骨形成についてはカルシウムのアリザリンレッド染色(
図4B))によって検出した。
【0062】
MSCのIFN−γへの曝露によるインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現及び活性の誘導は、ヒトMSCの免疫抑制因子機能(T細胞抑制)の中心となる(
図5)。簡潔には、MSCを、IFN−γありまたはなしで40,000細胞/cm
2で培地中にプレーティングした。24時間のインキュベーション後に、培地上清を収集及び凍結した。IDO活性は、標準的な比色試験を使用して、キヌレニン(IDO酵素活性の産物)を定量化することによって測定した。
【0063】
MSCは複数のベンダーから商業的に入手可能であり、生体保存されたフォーマット(典型的には冷凍保存された)で流通され得る。生体保存後の細胞を培養の中へプレーティングすることができ、そこでそれらは最初に接着し、次いで増殖する。これらの細胞は、様々な治療法的に関連する機能(複数系譜分化、生体機能的なサイトカイン及び因子の分泌等)を示すことができ、免疫系を修飾するように誘導することができる。
【0064】
実施例2:MSC凝集体の形成及び特徴づけ
hBM−MSC(RoosterBio、Frederick、MD、パート番号MSC001)を融解し、RoosterBio増殖培地中でT225フラスコの中へプレーティングし、80〜90%の密集度まで4〜5日間培養するか、または、融解後に増殖培地(RoosterBio)中でAggrewell 400Exプレート(Stem Cell Technologies)の中へ直接播種した。凝集体形成の前の細胞増幅のために、細胞を3000細胞/cm2で播種し、採取のための準備ができるまで37℃のインキュベーター中でインキュベーションする。細胞をTrypLE(Thermo Fisher)により採取し、1凝集体あたり1000細胞の密度でRoosterBio増殖培地中でAggrewell 400Exの中へプレーティングした。Aggrewellは、製造者の説明書に従って使用前にリンス溶液により一旦リンスした。リンス溶液を吸引し、単一細胞を各々のミクロウェルの中へ一滴ずつ播種して均一な細胞分布を保証した。一晩で、hMSCは融合し、37℃のインキュベーションで各々のミクロウェル中で多細胞凝集体(agg)を形成した(
図6A)。凝集体を増殖培地によるリンスによってウェルから収集し、50mlのコニカルチューブの中へ移した。濃縮された凝集体(
図6B)は、凝集体を重力によってチューブの底部に沈降させた後に、チューブ中の増殖培地を吸引することによって得た。実験の実行または臨床サイズ片の組織の生成に、1凝集体あたり1000〜100,000細胞で100,000〜1,000,000の凝集体が要求されることが一般的である。
【0065】
新たに収集されたhMSC凝集体を非接着性ペトリディッシュまたはプレートの中へプレーティングして、多細胞凝集体を培養した。非接着性培養プレート中で播種されたならば、凝集体は迅速にともに融合し(
図7A)、組織培養用(TC)プラスチックの中へ播種されたならば、凝集体はプレートへ付着し、個々の細胞はディッシュの上で外にむかって増殖するだろう(
図7B)。画像を撮る前に、培養を37℃のインキュベーター中で一晩インキュベーションした。
【0066】
MSC凝集体をサイトカイン分析のためにプレートの中へ播種し、37℃で24時間±1時間インキュベーションし、細胞培養培地をその時刻で採取し、−20℃で凍結した。次いで収集された培地を、Q−Plex(商標)Human Angiogenesis(九重、Quansys Biosystmes)の完全に定量的なELISAベースの化学発光アッセイを使用してアッセイし、9つの血管新生性バイオマーカーのANG−2、塩基性FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2、TNFα、VEGFを同時に測定することを可能にした。多重ELISAは培養上清においてpg/mLで検体を提供し、次いでそれを、ウェルの中へ播種した細胞の数及び培養中の時間に対して正規化して、pg/細胞/日で特異的なサイトカイン分泌測定を得た(
図8)。MSC凝集体は、インターフェロンγの存在下においてIDO活性をアップレギュレートする能力も維持することができた。
【0067】
この実施例は、細胞増幅後にまたは直接融解から、hMSCを凝集体へと形成できることを実証する。細胞は培養用プラスチックへ接着し融合する能力を維持し、それはMSC凝集体への鍵となる属性である。凝集体内の細胞は、機能(複数系譜分化、サイトカイン分泌及び免疫修飾等)も維持する。
【0068】
実施例3:カスタム構築物のハイドロゲル及び押出し物における凝集体カプセル化
細胞カプセル化のために、単一細胞のhMSCまたは新たに収集したhMSC凝集体を、Ca
2+またはMg
2+不含有DPBS中で溶解した2%のアルギン酸塩(FMC BioPolymer)中で懸濁した。細胞を、6.6mg/mlのCalCl
2溶液の中へニードルにより一滴ずつ押出して、球状のビーズを形成するか、またはペトリディッシュ上のカスタムの形へと押出し、その後に、CaCl
2溶液中に沈めて構築物の架橋を可能にした。CaCl
2溶液を吸引し、増殖培地により置き換え、その後に、細胞のための37℃のインキュベーター中で構築物をインキュベーションして成熟させる。アルギン酸ゲル内で高度に生存能力のある凝集体を示すカプセル化MSCを、2μMのカルセイン−AM/DPBSにより染色し、蛍光顕微鏡により画像化した(
図10B)。これらの凝集体は培養で5日後にゲル中で融合する能力も維持した(
図10C)。
【0069】
結果及び考察:
MSC凝集体は、プリントの容易性に加えて、凝集させた場合により高い機会の細胞生存に起因して、バイオプリンティングのために魅力的な立体配置である。高度に生存能力のあるhMSC凝集体は、Aggrewell(商標)プレートを使用して一貫して生成できることが示される。これらの凝集体は、ともに融合する能力及び増殖させる表面の上に付着する能力を有し、両者は代謝的に活性のある細胞の鍵となる機能的なパラメーターである。凝集体融合は、新たに収集された凝集体については、早ければ37℃の培地中で数時間のインキュベーション後に観察された。
【0070】
バイオプリンティングへの適用は、細胞が細胞適合性のある生体材料中で包埋されることを要求するので、2%のアルギン酸塩中でカプセル化され、カスタムの形へと押出された単一細胞及び凝集体MSCが、高度に生存能力があること(
図10B)及び培養中で融合する能力を維持すること(
図10C)を実証し、したがって生体的な組立て(biofabrication)及びバイオプリンティングへの適用のために使用される凝集体細胞の実現可能性を確認した。
【0071】
この新製品フォーマットが研究において使用されているが、凝集フォーマットでこれらの細胞を送達する多くの実践的態様は遂行されていない。当業者は、細胞を採取し、凝集体へと作製し、次いで直ちに使用するだろうと推測する。しかしながら、広く普及した採用のためには、MSC凝集体が使用のために直ちに利用可能にできるような技術が開発されなければならない。本質的に、生体保存の技術はMSC凝集体へ適合され、それらの重要な機能が維持されなければならない。
【0072】
hMSC凝集体の生体保存のための至適プロセス、「即時使用可能な」製剤を有することの経済的及び実践的な利益の概要、ならびにその有用性の実証が、本明細書において開示される。凝集フォーマットで使用されるMSC及び他の細胞は数億〜数十億の細胞を要求するので、標準的な技術で単に細胞を増やすには、広く普及していない細胞増幅技術を使用して数週間を要するだろう。凝集体として配達される高い細胞数の製剤は、著しい時間枠(数週間〜数か月)を即時使用まで減少させる手法として開示される。これらの「即時使用可能な」製剤は、作業を遂行する研究室で有意な経済的影響を有し、より迅速な探索及び製品開発の取り組みをもたらすことができる。
【0073】
実施例4:生体保存されたMSC凝集体
凝集体を生体保存でき、それでもなお重要な機能を保持することを実証することがこの実施例の目標である。本明細書において、凝集体は、細胞培養培地(RoosterBioパート番号KT−001)、細胞療法のために臨床的に最も基準となる保管溶液、正常な生理食塩+4%のHSA(BioMed Supply)、及びHypothermosol(Biolife Solutions)中で非凍結フォーマットで保存された後に、試験された。非凍結保管で数日または冷凍保存フォーマットで数週間〜数年にわたってMSC凝集体機能を保存する能力は、将来、この技術の商業化及び使用容易性の中心となり、即時使用可能なフォーマットでMSC凝集体を購入することができれば、研究者及び製品開発者は数週間もの時間を短縮するだろう。
【0074】
材料及び方法
hBM−MSC(RoosterBio、Frederick、MD、パート番号MSC001)を融解し、RoosterBio(商標)増殖培地(RoosterBio Inc.)中でT225フラスコの中へプレーティングし、80〜90%の密集度まで4〜5日間培養するか、または、融解後にRoosterBio(商標)増殖培地(RoosterBio Inc.)中でAggrewell(商標)400Exプレート(Stem Cell Technologies)の中へ直接播種した。凝集体形成の前の細胞増幅のために、細胞を3,000細胞/cm
2で播種し、採取のための準備ができるまで37℃のインキュベーター中でインキュベーションした。細胞をTrypLEにより採取し、1凝集体あたり1,000細胞の密度でRoosterBio(商標)増殖培地中でAggrewell(商標)400Exの中へプレーティングした。Aggrewell(商標)は、製造者の説明書に従って使用前にリンス溶液により一旦リンスした。リンス溶液を吸引し、単一細胞を各々のミクロウェルの中へ一滴ずつ播種して均一な細胞分布を保証した。一晩で、hMSCは融合し、37℃のインキュベーションで各々のミクロウェル中で多細胞凝集体を形成した(
図6A)。凝集体を増殖培地によるリンスによってウェルから収集し、50mlのコニカルチューブの中へ移した。濃縮された凝集体(
図6B)は、凝集体を重力によってチューブの底部に沈降させた後に、チューブ中の増殖培地を吸引することによって得た。
【0075】
新たに収集された凝集体を、1500凝集体/mlで保管溶液(すなわちhypothermosol、10%のFBS/DMEM、または4%のHSA/生理食塩水)で再懸濁した。それぞれの溶液中の凝集体を2mlのクリオバイアルの中へ小分けし、暗所で4℃の冷蔵庫中で保存した。
【0076】
凝集体の機能性(融合、細胞のディッシュへの接着、IDO及びサイトカイン分泌)
研究の3または7日目に、異なる条件からの凝集体を収集し、PBSにより1回リンスし、250の凝集体(または250,000細胞)を再懸濁し、10ng/mlのIFN−γありまたはなしで2%のFBS/基礎培地中で12ウェルプレートの各々のウェルの中へ播種した。追加の凝集体を収集し、非接着性48ウェルプレートの上にプレーティングして自発的融合を可能にした。24時間(
図11)及び6日(
図12)のインキュベーション後に、組織培養用プレート上に接着した細胞、または非接着性表面上で浮遊しながら融合した細胞の両者の画像を撮った。接着培養上の培地を、IDO及びサイトカイン分泌アッセイのために15mlの遠心分離チューブの中へ収集した。組織培養用プレート上にプレーティングされた凝集体を、250μlのトリプシン/EDTAにより処理し、10〜15分間ごとにピペッティングによって45分間混合して凝集体から細胞を放出した。解離細胞を全生存細胞カウントのためにNucleoCounter(登録商標)により数えた。
【0077】
サイトカイン分泌の測定のために、収集された上清を、Q−Plex(商標)Human Angiogenesis(九重、Quansys Biosystems)の完全に定量的なELISAベースの化学発光アッセイを使用してアッセイし、9つの血管新生性バイオマーカーのANG−2、塩基性FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2、TNFα、VEGFを同時に測定することを可能にした。多重ELISAは培養上清においてpg/mLで検体を提供し、次いでそれを、ウェルの中へ播種した細胞の数及び培養中の時間に対して正規化して、pg/細胞/日で特異的なサイトカイン分泌測定を得た。
【0078】
IDO活性の測定のために、キヌレニンの量は、上の実施例1中で記載されるような標準的な比色試験を使用して測定した。
結果及び考察:
バイオプリンティングへの適用は、細胞がプリントの前に高度に生存能力のあるままであることを要求するので、細胞の生存率及び機能性に影響せずに、ある期間(1〜7日)の間低温条件において凝集体を保存できることが好ましい。
図11〜13は、hypothermosol溶液、増殖培地、または4%のHSAを備えた生理食塩水中での3または7日の保管後に、凝集体が(A)融合または(B)付着する能力を示す。類似した程度の融合及び接着が、hypothermosol及び増殖培地の両方中で保存された凝集体において観察されたが、4%のHSA/生理食塩水中で調合された凝集体は、浮遊した緩い凝集体構造によって示されるように生存していなかった。培養において6日後に(
図12)、TCプレート上に接着した凝集体は密集するまでプレート中で増殖し続け、細胞が代謝的に活性のあるままであったことを実証した。
【0079】
様々な製剤及び保管継続期間で生体保存された凝集体のIDO活性(
図14)及びサイトカイン分泌(
図15)は、それらが機能性を維持していたことを示すが、この研究は、hypothermosol溶液中で生体保存された凝集体は、増殖培地及び4%のHSA/生理食塩水保管溶液よりも優れていたことを示唆する。
【0080】
実施例5:MSC凝集体の冷凍保存及び融解後の機能
hMSC凝集体(1000細胞/凝集体)を、Aggrewell(商標)400EXにより上記のように調製した。新たに収集された凝集体を、1〜5M細胞/mlでCryoStor(登録商標)5(Biolife Solutions)中で再構成した。凝集体をCoolCell(登録商標)速度制御凍結デバイス(Biocision)中で一晩凍結し、保管のために気相液体窒素の中へ移した。少なくとも7日間の冷凍保存後に、MSC凝集体の2つのバイアルを2%のFBS/基礎培地の中へ融解し、凝集体融合、細胞接着、ならびにIDO及びサイトカイン機能アッセイ(上記のような)についての試験のために組織培養用プレートまたは非接着性プレートの上に播種した。
【0081】
凝集体生存率を実証するために、およそ250,000凝集体を使用して、20μlのピペットチップの周囲に凝集体を播種することによって、15mlのチューブ中で「環」形を組立てた。融合したMSC凝集体を1〜4日後に収集し、4%のパラホルムアルデヒドにより固定し、その後に、サンプルを脱水し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)(Alizee Pathology)で染色して、凝集体融合の緊密さを可視化した。
【0082】
結果
融解に際して、hMSC凝集体はともに融合する能力を維持することができ(
図16A)、個々の細胞は組織培養用プラスチックへ付着することができ、凝集体の外に増殖する(
図16B及び16C)。更に、hMSC凝集体は、誘導可能なIDO発現する能力(
図17)に加えて、血管新生性サイトカインを分泌する能力(
図18)を維持した。凍結凝集体を組立てて環等の肉眼で見える形を形成することができ(
図19A及び19B)、H&E染色(
図19C)から、冷凍保存された融合凝集体から形成された健康な肉眼で見える組織が実証される。
【0083】
考察:
これはhMSC凝集体を冷凍保存できることを実証する最初の例である。更に、hMSC凝集体の重要な機能は冷凍保存後に維持され、それらには、個々の細胞がTCプラスチックの上で凝集体の外に増殖する能力、凝集体がより大きな肉眼で見える組織へと融合する能力、及びサイトカインを分泌し、誘導可能なIDO活性を維持する細胞の能力が含まれる。この新しい冷凍保存された組成物の利益は実践性であり、その場合、冷凍保存された産物フォーマットは、新鮮な凝集体の作製に要求される複雑で長い調製工程に比較して、凝集体細胞の在庫があるオン・デマンドの供給をもたらす。凝集体を必要に応じて融解及び使用することへの柔軟性は、
図20Aのプロセスフロー図解中で示されるように、研究者または臨床医の数か月間〜数週間の細胞培養時間を節約する。現行GMP製造設備へ移された場合、節約した時間の量は何万ドルへと換算される(
図20B)。
【0084】
実施例6:アルギン酸塩BioInk開発
バイオインクは、保管の間に均一の懸濁物中で単一細胞または凝集体のいずれかを懸濁して、細胞がかたまることを防止し、細胞濃度の均一性を維持するように、生体適合性ハイドロゲルマトリックスと細胞からなる必要がある。高粘度の高M及び高Gアルギン酸塩を、低粘度のアルギン酸塩を含めて、2つの異なるカルシウム源(CaCl
2及びCaSO
4)に対して試験した。ハイドロゲルマトリックス中のカルシウムの量は、ハイドロゲルの架橋度、したがって、プリントされた構築物の構造及び全体性を規定することができた。この研究において、十分にゲル化して細胞を製剤化することを可能にする量のCaSO
4を、使用者がゲル化前に溶液を操作及び混合するのに合理的な「時間ウィンドウ」を可能にする、緩慢な放出作用に基づいて、最も良好なプリント適性のためにタイトレーションした。本明細書において、中〜高粘度の高Gアルギン酸塩を使用して、良好な「プリント適性」、すなわち「半固体」構造を維持する能力(ノズルから外への押出しの容易性、その場で形を保持するのに十分なゲルの濃密さであるが、固すぎずに砕けることによって特徴づけられる)及び粘着性(それは多層の形の構築のために、それ自体の上にゲルが粘着し一体化する能力である)を備えたバイオインクを、作製できることを示す。適切な製剤は、凝集体が保管の間に均一な溶液中でとどまって、プリントヘッドを塞ぎ得る沈降及びかたまりを回避すること(
図22)も可能にするだろう。最終的に、プリント後のCaCl
2洗浄処理は形を強化し、細胞を成熟させるながら、構造の保存を可能にする。
【0085】
方法:
高G(protanal)または高M(Sigmaからのmanugel及びアルギン酸ナトリウム)との、2〜8%の中粘度(Sigma Aldrich)または高粘度(FMC Biopolymer)アルギン酸塩を、Ca
2+またはMg
2+不含有DPBS中で調製した。25mg/mlのCaSO
4をDPBS中で調製し、適切な稠度へアルギン酸塩をゲル化するために使用した。アルギン酸塩の異なる体積を使用し、すなわち10%v/v/、5%v/vまたは2.5%v/vの異なるアルギン酸塩タイプを試験し、ゲルを一晩インキュベーションして「ゲル化」及び「プリント適性」の程度を決定した。
【0086】
結果:
低粘度アルギン酸塩は、8%までのアルギン酸塩濃度で均一な構造を部分的にゲル化するほどはよく架橋しなかった。中/高粘度アルギン酸塩(Manugel、高Mアルギン酸塩、及びProtanal、高Gアルギン酸塩が本明細書において使用される)はより適切であり、良好なプリント可能な製剤を作製することが示される。塩化カルシウムは二価陽イオン源として最適ではなく、したがって、硫酸カルシウムを使用してより緩慢に混合物の中へカルシウムを放出し、より均一なハイドロゲルを生成した。高Gアルギン酸塩中のより高いレベルの硫酸カルシウムは、シリンジニードルアセンブリーから押出された場合に砕けるような非常に剛性のゲルをもたらした。中間レベルの硫酸カルシウム(2%のprotanal中で混合して1.25mg/mL)は理想的であり、アルギン酸塩に、滑らかな射出稠度、新しく射出されたアルギン酸塩が以前に押出された材料へ接着して(粘着性)3D構造を形成する場合に多層を構築する能力を与えた。低レベルの硫酸カルシウムはアルギン酸塩をゲル化するのには十分ではなく、それはまだ流動性で、プリントのために理想ではなかった(
図21)。
【0087】
3D構造をプリントした後に、プリントされた構造は直ちに機械的に安定的でなかった。小体積の溶解された塩化カルシウムによるプリントされた構造の「硬化」は、機械的に安定的な構造を生成した。バイオインクのための以下のプロセス及び製剤を同定した。細胞または細胞凝集体を、シリンジ混合(コネクターと一緒に2つのシリンジを接続し2〜10回混合する)によって2%高G、中〜高粘度のアルギン酸塩の中へ混合し;すべての溶液を1つのシリンジへ移し、硫酸カルシウムを1.25mg/mLの最終濃度まで添加し、シリンジ混合によって混合し;アルギン酸ゲルを5分間または数週間もの間放置し;シリンジまたは他のカートリッジシステムを3Dプリンター上に設置し、3D組織をプリントし;プリントされた組織を、適用に依存して培養またはバイオリアクター中に設置する。
【0088】
したがって、ゲル化されていないハイドロゲルポリマー(アルギン酸塩等)のシリンジまたは他の容器;2つのシリンジが滅菌状態で接続されることを可能にする滅菌された接続デバイス;架橋剤(例えば硫酸カルシウム)を含有するもう一つのシリンジ、及び細胞または細胞凝集体を含有する第3のシリンジを含有する、バイオインクキットが企図される(
図24A及び24B)。
【0089】
このキットにより、エンドユーザーが、様々な適用のための細胞含有バイオインクを迅速で容易に再現性良く生成することが可能である。
いくつかの事例において、バイオインクは輸送前に細胞と共にゲル化され(
図25)、その結果、顧客は上記のプロセスをすべてスキップし3Dプリンターの中へバイオインク含有カートリッジを挿入し、直接プリントし(即時使用可能)、かなりの時間を節約できる。
【0090】
実施例7:アルギン酸塩BioInkの生体保存
材料及び方法
BioInk Aの調製
20mlのhypothermosol中で0.4gのprotanal(高Gアルギン酸塩)を持続的に撹拌しながら希釈することによって、hypothermosol(BioLife Solutions)中の2%のアルギン酸塩を調製した。MSC凝集体を2mlのアルギン酸塩溶液の中に混合し、10%の25mg/mlのCaSO
4をシリンジを使用して添加及び混合して、部分的なゲル化を可能にした。シリンジをパラフィルムにより密封し、試験のための準備ができるまで暗所中の4℃で保存する。
【0091】
BioInk Bの調製
hypothermosol及びコラーゲンとのアルギン酸塩バイオインクのために、3mg/mlのコラーゲン(Collagen Solutions Inc.)を製造者の説明書に従って調製し、1容のバッファー溶液を氷上の9容のコラーゲン溶液の中へ添加し、よく混合した。コラーゲン及びアルギン酸塩による凝集体の取り込みのために、MSC凝集体を1mlの3mg/mlのコラーゲン溶液へ添加し、その後に、2%のアルギン酸塩の等体積と混合した。一旦溶液がよく混合されたならば、10%v/vの25mg/mlのCaSO
4をシリンジにより添加しよく混合して、バイオインク溶液を部分的にゲル化した。同様に、シリンジをパラフィルムにより密封し、試験のための準備ができるまで暗所中の4℃で保存した。
【0092】
保管の2週間後に、50〜100μlのBioink A及びBの両方を15ml遠心分離チューブの中へ押出した。4mlの50mMのクエン酸ナトリウムをゲルへ添加し、37℃中でインキュベーションしてゲルを溶解した。ゲルが溶解されるまで、チューブを10分間ごとに30分間転倒した。200×gで5分間遠心分離することによって細胞を収集した。上清を吸引し、細胞を2%のFBS/基礎培地の中へ再懸濁し、TCプレートの中へをプレーティングして付着させた。
【0093】
対照細胞の調製のために、新たに融解されたMSCを、アルギン酸塩からMSCを放出するプロセスに類似して、50mMのクエン酸ナトリウムにより30分間インキュベーションし、その後に、それらを遠心分離し、TCプレートの上にプレーティングした。
【0094】
TC培養プレート上のMSC付着をモニターし、播種後1及び6日目に画像を撮り(
図23)、そこでは、BioInk B中のMSC凝集体がTCプレートの上に接着して増殖することが観察され、MSC凝集体の保存のために高度に実現可能なバイオインク製剤であることが実証される。BioInk A及びBのプリント適性は粘着性及び強靭の両方であり、3D構造は部分的に固体のゲルにより造形され得る。
【0095】
特別に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、開示される発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において引用される公報、及び引用される材料は、参照によって具体的に援用される。
【0096】
当業者は、単なるルーチンの実験作業を使用するだけで、本明細書において記載される本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を、認識するか、または確認できるだろう。かかる等価物は、以下の請求項によって包含されることが意図される。