特許第6817194号(P6817194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6817194即時プリント可能な細胞及び一体化されたデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817194
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】即時プリント可能な細胞及び一体化されたデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20210107BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20210107BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   C12N5/074
   C12N5/0775
   C12M1/00 A
【請求項の数】29
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-512651(P2017-512651)
(86)(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公表番号】特表2017-515510(P2017-515510A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】US2015030260
(87)【国際公開番号】WO2015175457
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2018年5月10日
(31)【優先権主張番号】61/992,184
(32)【優先日】2014年5月12日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】317005354
【氏名又は名称】ルースタービオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ローリー ジャナサン アレン
(72)【発明者】
【氏名】ロック ライ セング
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/077424(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/037984(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/143747(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/158899(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0250688(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0070304(US,A1)
【文献】 Biofabrication,2013年,vol.5, no.1,p.1-12
【文献】 Tissue Engineering. Part C. Methods,2012年,vol.18, no.6,p.453-463
【文献】 Doctoral thesis, University College London,2012年,Chapter 1, 2,p.1-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞が平均で1凝集体あたり少なくとも1,000細胞を含有する凝集体へと形成され、該細胞凝集体が−60℃で少なくとも7日間保存された後に少なくとも70%の細胞生存率を有する、冷凍保存剤中の凍結幹細胞を含む組成物。
【請求項2】
前記凝集体のうちの少なくとも70%が、−60℃で少なくとも6か月間保存された後に融合する能力を保持する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記凝集体が20%未満の平均直径変動を組成物内で有する、請求項1または2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
前記冷凍保存剤がジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記幹細胞が間充織幹細胞を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
幹細胞が平均で1凝集体あたり少なくとも1,000細胞を含有する凝集体へと形成され、該細胞凝集体が4℃で少なくとも7日間保存された後に少なくとも70%の細胞生存率を有し融合する能力を保持する、生体保存剤中の幹細胞を含む組成物。
【請求項7】
前記凝集体のうちの少なくとも70%が、4℃で少なくとも7日間保存された後に融合する能力を保持する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記凝集体が20%未満の平均直径変動を組成物内で有する、請求項6または7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記生体保存剤がHypoThermosol(登録商標)を含む、請求項6〜8のいずれか一項の組成物。
【請求項10】
前記幹細胞が間充織幹細胞を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
幹細胞が1ミリリットルあたり少なくとも100万の細胞の平均細胞密度であり、粘性のあるマトリックスが少なくとも10%未満の細胞密度変動を48時間維持するのに効果的な粘度を有し、前記幹細胞が4℃で少なくとも7日間保存された後に少なくとも70%の細胞生存率を有する、粘性のあるマトリックス中で懸濁された、幹細胞を含む組成物であって、
前記幹細胞が平均で1凝集体あたり少なくとも1,000細胞を含有する凝集体へと形成され、前記凝集体が4℃で少なくとも7日間保存された後に融合する能力を保持する、組成物。
【請求項12】
前記凝集体が10%未満の平均直径変動を組成物内で有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、生体保存剤、冷凍保存剤またはその組み合わせを含む、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
前記生体保存剤がHypoThermosol(登録商標)を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記冷凍保存剤がジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記粘性のあるマトリックスが生体適合性ポリマーを含む、請求項11〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記生体適合性ポリマーがバイオポリマーを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記生体適合性ポリマーが多糖を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記生体適合性ポリマーがアルギン酸塩を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記幹細胞が10%未満の組成物中での密度変動を有する、請求項11〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記幹細胞が間充織幹細胞を含む、請求項11〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
内皮細胞を更に含む、請求項11〜21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
a)平均で1凝集体あたり少なくとも300細胞を含有する細胞凝集体を含む組成物と;
b)生体適合性ポリマーと;
c)架橋剤と
を含む、キットであって、
前記組成物が請求項1〜22のいずれか一項に記載の組成物である、キット。
【請求項24】
前記生体適合性ポリマーがバイオポリマーを含む、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記生体適合性ポリマーが多糖を含む、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記生体適合性ポリマーがアルギン酸塩を含む、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
閉鎖系デバイスが不連続単位として組成物を分配するように構成され、各々の不連続単位が制御された量の細胞を含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の組成物を含む閉鎖系デバイス。
【請求項28】
前記閉鎖系デバイスがカートリッジである、請求項27に記載の閉鎖系デバイス。
【請求項29】
前記閉鎖系デバイスが三次元(3D)プリンターデバイス中で使用のために構成される、請求項27または28に記載の閉鎖系デバイス。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
関連出願の相互参照
本出願は、2014年5月12日に出願された米国仮特許出願第61/992,184号の利益を主張し、その全体は参照により本明細書に援用される。
[背景技術]
再生医学は臨床において有望であることが示されているが、研究者が実験及び臨床試験を遂行することができる細胞材料の費用及び利用可能性は、当分野を後退させている。高品質及び低費用で製造され、製品開発及び製造の取り組みを加速するような量及びフォーマットで基礎から応用におよぶ研究者及び装置製造者へ配達される、標準化された初代細胞についての高い必要性がある。組織操作への適用(バイオプリンティング等)のための十分な保管期間を有する細胞のフォーマットについての必要性もある。特に、即時使用可能で安定したフォーマットにおける間充織幹細胞(MSC)が、組織操作及び細胞療法への適用のために必要とされる。
【発明の概要】
【0002】
実験プロトコル、治療法プロトコル及び組織操作プロトコルのための「即時使用可能な」フォーマットにおける細胞材料を提供する、組成物、装置及び方法が、本明細書において開示される。例えば、凝集体として存在する凍結細胞または非凍結細胞を含有する組成物を開示し、それらには間充織幹細胞を含む凝集体が含まれる。凝集体は、平均で1凝集体あたり約100〜200,000細胞(1凝集体あたり約1,000〜約100,000細胞を含む)を含有することができる。いくつかの事例において、凝集体は、平均で1凝集体あたり約1,000、5,000、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000または200,000細胞を含有する。一例として、細胞凝集体は、ビルディングブロックとして、組織操作のため(例えば3Dプリントによる)に加えて、細胞療法適用についての機能的埋込み可能な物体のために、使用され得る。したがって、細胞凝集体の顕著な特徴は、生存率及び機能を維持する凝集体内の個別の細胞の能力であり、凝集体が培養において互いに融合する場合、それらは機能性組織を形成することができる。したがって、凝集体が融合する能力は良好な細胞生存率及び機能を実証することができる。凝集体は、好ましくは類似のサイズ及び体積でもある。例えば、いくつかの実施形態において、組成物内の細胞凝集体の各々は、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%未満の平均直径の変動を有する。
【0003】
開示される組成物は、少なくとも70%の細胞生存率を維持するのに十分な量で冷凍保存剤及び/または生体保存剤を更に含むことができる。例えば、細胞は、−10〜−80℃(−20℃等)での少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59または60か月間の保存の後に、細胞凝集体が融合する能力を保持するのに十分な冷凍保存剤(ジメチルスルホキシド(DMSO)等)の量により凍結された細胞であり得る。別の例として、細胞は、0〜25℃(4℃等)での少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30日間の保存の後に、細胞凝集体が融合する能力を保持するのに十分な生体保存剤(HypoThermosol(登録商標)等)の量による非凍結細胞であり得る。
【0004】
開示される組成物の細胞は細胞凝集体を形成し、一緒に培養された時に融合することができる任意の細胞であり得る。いくつかの事例において、細胞は、操作されている所望される組織に対応する細胞系譜能を備えた、未分化幹細胞または前駆細胞である。細胞は、単能性、少能性、多能性、または万能性であり得る。いくつかの実施形態において、細胞は成体幹細胞である。細胞は好ましくは同種異系または自己由来である。特定の実施形態において、細胞には間充織幹細胞(MSC)が含まれる。組成物は単一細胞タイプ(MSC等)を含有することができる。しかしながら、いくつかの実施形態において、組成物は2つ以上の異なるタイプの細胞(すなわち2つ以上の異なる系譜の細胞)を含有する。細胞は動物細胞(ヒト細胞等)であり得る。
【0005】
保管後に分散物のために適切な(例えば3Dプリントによる)細胞材料を含有する組成物も開示される。開示される組成物は、粘性のあるマトリックス中で細胞が1ミリリットルあたり100万〜1億細胞(1ミリリットルあたり100万、200万、300万、400万、500万、600万、700万、800万、900万、1000万、1100万、1200万、1300万、1400万、1500万、1600万、1700万、1800万、1900万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、5000万、6000万、7000万、8000万、9000万または1億細胞を含む)の平均細胞密度であるように懸濁された細胞を含有する。加えて、粘性のあるマトリックスは、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%未満で組成物中での細胞密度変動を維持するのに効果的な粘度を、少なくとも24、36、48、72または120時間有することができる。いくつかの実施形態において、組成物中の細胞は、0〜25℃(4℃等)での少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30日間の保存後に少なくとも70%の細胞生存率を有する。「生存率」によって、細胞が生きていて機能的であることが意味される。細胞の機能は細胞のタイプに依存して変動し得るが、それらには、複製する能力、サイトカインを分泌する能力、増殖因子を分泌する能力、組織培養用プラスチックに接着する能力、他の細胞に接着する能力、移動する能力、またはその任意の組み合わせが含まれる。いくつかの事例において、生存率の決定は、細胞によって産生された1つまたは複数の酵素の存在及び/または活性の検出を含む。上述のように、細胞は凝集体として存在することができる。凝集体中の細胞の生存率を評価する1つの重要な手法は、凝集体が融合する能力を調べることである。したがって、組成物は、生体保存剤、冷凍保存剤またはその組み合わせを更に含み得る。
【0006】
細胞を懸濁するために使用される粘性のあるマトリックスは、3Dプリンティング及び/または組織操作のために適切な任意の生体適合性ポリマーであり得る。いくつかの事例において、ポリマーはバイオポリマーである。例えば、適切なバイオポリマーには、多糖、ポリペプチド及び糖タンパク質が含まれる。これには、天然または合成由来の細胞外マトリックス(ECM)分子が含まれる。いくつかの実施形態において、生体適合性ポリマーはアルギン酸塩を含む。生体適合性ポリマーの粘度は、細胞の懸濁物を維持する一方で、好ましくはニードルまたはノズルを介する分散(例えば注射による)のために十分に流動性でもあるように調整することができる。特定の実施形態において、細胞は、5%、10%、15%または20%未満で、組成物中での密度変動を、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30日間維持する。
【0007】
バイオインク組成物の産生のためのキットも開示される。いくつかの事例において、キットは、平均で1凝集体あたり約1,000〜約100,000細胞を含有する細胞凝集体を含む組成物を含有する。キットは生体適合性ポリマーも含有することができる。生体適合性ポリマーは細胞凝集体と同じまたは異なる容器中に存在し得る。キットは架橋剤も含むことができる。生体適合性ポリマー及び架橋剤が異なる容器中に存在する限り、この薬剤も細胞凝集体と同じまたは異なる容器中に存在し得る。
【0008】
本明細書において記載される細胞材料組成物を含む閉鎖系デバイスも開示される。閉鎖系デバイスは、不連続単位として組成物を表面上に分配するように構成することができる。例えば、各々の不連続単位は、いくつかの実施形態において、制御された量の細胞を含有することができる。閉鎖系デバイスの例は、カートリッジ(三次元(3D)プリンターデバイスで使用されるカートリッジ等)である。
【0009】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の記載中で説明される。本発明の他の特色、目的及び利点は、記載及び図面ならびに請求項から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】レーティング2時間後に接着する間充織幹細胞(MSC)の画像を示す。
図1B】プレーティング及び2回の継代での増幅後のMSCの2つのロットについての成長曲線である。
図2】冷凍保存されたMSCの融解及び増幅後に、MSCの3つのロットはCD73、CD90、CD105及びCD166を発現し、CD45、CD34及びCD14については陰性であることを示す棒グラフである。
図3】冷凍保存されたMSCの融解及び増幅後の、MSCの3つのロットにおける血管新生性サイトカインの分泌レベルを示す棒グラフである。
図4】冷凍保存されたMSCの融解及び増幅後に、MSCが、脂肪形成系譜(A)及び骨形成系譜(B)に向かって分化することを示す。
図5】冷凍保存されたMSCの融解及び増幅後に、MSCが免疫調節機能を維持したことを示す棒グラフである。
図6図6A及び6BはhMSC凝集体形成を示す画像である。
図7図7Aは、MSC凝集体の自発的融合を示し、細胞が生きており代謝的に活性のあることを指摘する画像である。図7Bは、MSC凝集体の付着を示し、細胞が生きており代謝的に活性のあることを指摘する画像である。
図8】37℃培養においてプレーティング及びインキュベーションされた場合に、MSC凝集体が血管新生性サイトカインを分泌し続けることを示す棒グラフである。
図9】MSC凝集体のインドールアミン−ピロール2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)活性を示す棒グラフである。
図10A】単一細胞、及びアルギン酸塩中でカプセル化されCaCl2の中への押出された凝集体MSCを示す画像である。
図10B】カプセル化後のカルセイン−AM(緑色)により染色された高度に生存能力のあるMSC凝集体を示す画像である。
図10C】押出されたアルギン酸塩中でのMSC凝集体の融合を示す画像である。
図11】TCプレート中での1日の培養後に、hypothermosol、培地、または4%のHSAを備えた生理食塩水中で、4℃で3及び7日間保管したhMSC凝集体を示す1シリーズの画像である。
図12】TCプレート中での6日の培養後に、hypothermosol、培地、または4%のHSAを備えた生理食塩水中で、4℃で3及び7日間保管したhMSC凝集体を示す1シリーズの画像である。
図13】非接着性プレート中での1日の培養後に、hypothermosol、培地、または4%のHSAを備えた生理食塩水中で、4℃で3及び7日間保管したhMSC凝集体を示す1シリーズの画像である。
図14】HTS、生理食塩水、培地中で、4℃で3または7日間保管後のMSC凝集体によるIDO活性を示す棒グラフである。
図15】HTS、生理食塩水、培地中で、4℃で3または7日間保管後のMSC凝集体によるAng−2、FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2及びVEGFの分泌を示す棒グラフである。
図16】冷凍保存されたhMSC凝集体は、凝集体が融合する能力、及び個別の細胞が組織培養用(TC)プラスチックに付着し、凝集体の外に増殖する能力を維持することを示す1シリーズの画像である。
図17】冷凍保存された凝集体が誘導性免疫修飾表現型を維持することを示す棒グラフである。
図18】冷凍保存MSC凝集体及び非凍結MSC凝集体のAng−2、FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2及びVEGFの分泌を示す棒グラフである。
図19図19A図19Cは、冷凍保存されたMSC凝集体を環形へと組立てることができることを示す画像であり(図19A〜19B)、H&E染色により、環構造の全体にわたって凝集体の一貫した健全な融合が実証される(図19C)。
図20A図20Aは、1凝集体あたり1000細胞により作製された100,000凝集体の生成を図示するプロセスのフローチャートである。
図20B図20Bは、細胞増幅についての時間の節約を示す棒グラフ(日)である。
図21図21Aは、異なるアルギン酸塩製剤のプリント適性試験を示す画像である。図21Bは、異なるアルギン酸塩製剤の稠度及び粘着性を示すチャートである。
図22】異なるアルギン酸塩製剤の沈降及びかたまりを示すチャートである。
図23】4℃における7日の保管後のハイドロゲル中のMSC凝集体の生存及びTCプレートの上への播種に際しての凝集体の外への増幅を示す1シリーズの画像である。
図24図24A及び図24Bは、MSC凝集体製品の立体配置のためのバイオインクキットを示す図である。
図25】4℃における製品輸送及び保管のために適切な最終的なMSC凝集体バイオインク製品の立体配置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示される組成物、デバイス及び方法は、再生医学、幹細胞に基づく技術及び医療デバイス、組織操作、生物医学的な研究開発、細胞性原材料、ならびに生きている細胞に由来する生体機能性材料の分野に関する。特に、生物学的及び生物医学的な製品の中へのこれらの細胞または細胞由来材料の取り込みを可能にするフォーマットで配達される、機能的な生きている細胞の安定的な組成物及び製剤が開示される。
【0012】
操作された組織の中への細胞の取り込みを可能にする高度に機能的な生きている細胞の安定的な製剤、医療デバイス、または機能的な生きている細胞を要求する他の製品が、本明細書において提供される。例えば、再生医学、組織操作及びバイオプリンティングへの適用で使用される細胞組成物が開示される。本明細書において提供される安定的な製剤は、高い生存率及び機能性の状態において懸濁物中で細胞または細胞凝集体を維持する。
【0013】
組成物は、数日、数週間または数か月間の保管後に、即時使用可能な単一細胞懸濁液としてまたは均一若しくは不均一な細胞の凝集細胞として細胞の製剤を含有することができる。細胞製剤は細胞の生存率及び機能性の維持を可能にする。いくつかの製剤における細胞は、好ましくは保管の間に沈降せずに懸濁物でとどまり、生存率及び機能を維持しながら特定の場所に配達される能力を有する。安定的な製剤は、凍結(すなわち冷凍保存された)状態または非凍結(生体保存されていた)状態のいずれかで、数週間〜数か月または数年間安定的であり得る。凍結状態によって、安定的な製剤が、凍結温度以下(例えば摂氏0度以下、及び典型的には少なくとも摂氏−20度)であることが意味される。いくつかの実施形態において、凍結状態において保存された製剤は冷凍保存剤を更に含む。非凍結状態によって、安定的な製剤が、凍結温度を超える(例えば摂氏0度以上)、典型的には少なくとも摂氏2度であることが意味される。いくつかの実施形態において、非凍結状態には、摂氏0〜37度(摂氏4〜24度等)が含まれる。
【0014】
「細胞」という用語は、本明細書において使用される時、具体的に示されない限り、個々の細胞、細胞株、初代培養またはかかる細胞に由来する培養も指す。「培養」は、同じタイプまたは異なるタイプの単離細胞を含む組成物を指す。
【0015】
いくつかの実施形態において、開示される組成物は幹細胞または前駆細胞を含有する。万能性幹細胞、成体幹細胞、胚盤胞由来幹細胞、生殖隆起由来幹細胞、奇形腫由来幹細胞、全能性幹細胞、多能性幹細胞、オンコスタチン非依存性幹細胞(OISC)、胚性幹細胞(ES)、胚性生殖細胞(EG)及び胚性癌腫細胞(EC)は、すべて幹細胞の例である。幹細胞は、多様な異なる特性及びこれらの特性のカテゴリーを有することができる。例えば、いくつかの形状において、幹細胞は、未分化状態において少なくとも10、15、20、30またはそれ以上の継代で増殖させることができる。いくつかの形状において、幹細胞は分化なしに1年を超える間増殖させることができる。幹細胞は、増殖及び/または分化させながら正常な核型を維持することもできる。幹細胞は、中胚葉、内胚葉及び外胚葉組織(生殖細胞、卵及び精子が含まれる)へと分化する能力を保持することもできる。いくつかの幹細胞は、未分化状態でインビトロでの無限の増殖が可能な細胞でもあり得る。いくつかの幹細胞は、長期間の培養を介して正常な核型を維持することもできる。いくつかの幹細胞は、長期間の培養後でさえ、胚の三胚葉すべて(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)の誘導体へ分化する能力を維持することができる。いくつかの幹細胞は、生物体における任意の細胞タイプを形成することができる。いくつかの幹細胞は、ある特定の条件(未分化増殖を維持しない培地での増殖等)下で胚様体を形成することができる。例えば、いくつかの幹細胞は胚盤胞との融合を介してキメラを形成することができる。
【0016】
いくつかの幹細胞は多様なマーカーによって定義することができる。例えば、いくつかの幹細胞はアルカリホスファターゼを発現する。いくつかの幹細胞はSSEA−1、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60及び/またはTRA−1−81を発現する。いくつかの幹細胞はSSEA−1、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60及び/またはTRA−1−81を発現しない。いくつかの幹細胞はOct 4、Sox2及びNanogを発現する。いくつかの幹細胞がmRNAレベルでこれらを発現し、さらに他のものはタンパク質レベルでも例えば細胞表面上でまたは細胞中でそれらを発現するだろうことは理解される。
【0017】
いくつかの実施形態において、開示される組成物は幹細胞以外の細胞を含む。成体ヒト身体は異なる細胞タイプを産生する。これらの異なる細胞タイプには、角化上皮細胞、湿潤性多層化バリア上皮細胞、外分泌上皮細胞、ホルモン分泌細胞、上皮吸収細胞(腸、外分泌腺及び尿生殖路)、代謝及び貯蔵の細胞、バリア機能細胞(肺、腸、外分泌腺及び尿生殖路)、閉鎖された内部体腔を裏打ちする上皮細胞、推進機能を備えた繊毛細胞、細胞外マトリックス分泌細胞、収縮性細胞、血液及び免疫系の細胞、感覚変換器細胞、自律神経細胞、感覚器官及び末梢ニューロンの支持細胞、中枢神経系神経細胞及びグリア細胞、水晶体細胞、色素細胞、生殖細胞、及びナース細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
ヒト身体の細胞には、角化上皮細胞、表皮角化細胞(分化表皮細胞)、表皮基底細胞(幹細胞)、手指の爪及び足指の爪の角化細胞、爪床基底細胞(幹細胞)、毛幹髄質細胞、毛幹皮質細胞、毛幹小皮細胞、毛根鞘小皮細胞、ハックスレー層の毛根鞘細胞、ヘンレ層の毛根鞘細胞、外部毛根鞘細胞、毛母細胞(幹細胞)、湿潤性多層化バリア上皮細胞、角膜、舌、口腔、食道、肛門管、遠位尿道及び膣の多層化扁平上皮の表面上皮細胞、角膜、舌、口腔、食道、肛門管、遠位尿道及び膣の多層化扁平上皮の基底細胞(幹細胞)、泌尿器上皮細胞(膀胱及び尿管を裏打ちする)、外分泌上皮細胞、唾液腺粘液細胞(多糖に富む分泌物)、唾液腺漿液細胞(糖タンパク質酵素に富む分泌物)舌中のフォン・エブネル腺細胞(味蕾を洗浄する)、乳腺細胞(乳汁分泌)、涙腺細胞(涙分泌)、耳中の耳道腺細胞(耳あか分泌)、エクリン汗腺暗細胞(糖タンパク質分泌)、エクリン汗腺明細胞(小分子分泌)、アポクリン汗腺細胞(臭分泌物、性ホルモン感受性)、眼瞼におけるモル腺細胞(特殊化された汗腺)、皮脂腺細胞(脂質に富む皮脂分泌物)、鼻中のボーマン腺細胞(嗅上皮を洗浄する)、十二指腸におけるブルンネル腺細胞(酵素及びアルカリ粘液)、精嚢細胞(精子を泳がせるためのフルクトースを含む精液構成要素を分泌する)、前立腺細胞(精液構成要素を分泌する)、尿道球腺細胞(粘液分泌)、バルトリン腺細胞(膣液分泌)、リトレ腺細胞(粘液分泌)、子宮内膜細胞(炭水化物分泌)、呼吸器系及び消化管の単離された杯細胞(粘液分泌)、胃を裏打ちする粘液細胞(粘液分泌)、胃腺酵素原細胞(ペプシノゲン分泌)、胃腺酸分泌細胞(HCl分泌)、膵腺房細胞(重炭酸塩及び消化酵素分泌)、小腸のパネート細胞(リゾチーム分泌)、肺のII型肺細胞(界面活性剤分泌)、肺のクララ細胞、ホルモン分泌細胞、成長ホルモンを分泌する下垂体前葉細胞、卵胞刺激ホルモンを分泌する下垂体前葉細胞、黄体形成ホルモンを分泌する下垂体前葉製剤細胞、プロラクチンを分泌する下垂体前葉細胞、副腎皮質刺激ホルモンを分泌する下垂体前葉細胞、甲状腺刺激ホルモンを分泌する下垂体前葉細胞、メラニン細胞刺激ホルモンを分泌する下垂体中葉細胞、オキシトシンを分泌する下垂体後葉細胞、バソプレッシンを分泌する下垂体後葉細胞、セロトニンを分泌する腸及び気道の細胞、エンドルフィンを分泌する腸及び気道の細胞、ソマトスタチンを分泌する腸及び気道の細胞、ガストリンを分泌する腸及び気道の細胞、セクレチンを分泌する腸及び気道の細胞、コレシストキニンを分泌する腸及び気道の細胞、インスリンを分泌する腸及び気道の細胞、グルカゴンを分泌する腸及び気道の細胞、ボンベシンを分泌する腸及び気道の細胞、甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺細胞、カルシトニンを分泌する甲状腺細胞、副甲状腺ホルモンを分泌する副甲状腺細胞、副甲状腺の好酸性細胞、エピネフリンを分泌する副腎細胞、ノルエピネフリンを分泌する副腎細胞、ステロイドホルモン(鉱質コルチコイド及び糖質コルチコイド)を分泌する副腎細胞、テストステロンを分泌する精巣のライディッヒ細胞、エストロゲンを分泌する卵胞の内莢膜細胞、プロゲステロンを分泌する破裂卵胞の黄体細胞、腎臓傍糸球体装置細胞(レニン分泌)、腎臓の緻密斑細胞、腎臓の周極細胞、腎臓のメサンギウム細胞、上皮吸収細胞(腸、外分泌腺及び尿生殖路)、腸の刷子縁細胞(微絨毛を備えた)、外分泌腺線条導管細胞、胆嚢上皮細胞、腎臓の近位尿細管刷子縁細胞、腎臓の遠位尿細管細胞、精巣輸出管非線毛性細胞、精巣上体主細胞、精巣上体基底細胞、代謝及び貯蔵の細胞、肝細胞(肝臓細胞)、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、肝臓脂肪細胞、バリア機能細胞(肺、腸、外分泌腺及び尿生殖路)、I型肺細胞(肺の空隙を裏打ちする)、膵管細胞(腺房中心細胞)、平滑筋導管細胞(汗腺、唾液腺、乳腺などの)、腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体足細胞、ヘンレ係蹄の細い部分の細胞(腎臓中の)、腎臓集合管細胞、導管細胞(精嚢、前立腺などの)、閉鎖された内部体腔を裏打ちする上皮細胞、血管及びリンパの血管内皮の有窓細胞、血管及びリンパの血管内皮の連続細胞、血管及びリンパの血管内皮の脾細胞、滑膜細胞(関節腔を裏打ちする、ヒアルロン酸分泌)、漿膜細胞(腹膜腔、胸膜腔及び心膜腔を裏打ちする)、扁平上皮細胞(耳の外リンパ腔を裏打ちする)、扁平上皮細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、微絨毛を備えた内リンパ嚢の円柱細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、微絨毛のない内リンパ嚢の円柱細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、暗細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、前庭膜細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、血管条基底細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、血管条周辺細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、クラウディウス細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、ベッチェル細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)、脈絡叢細胞(脳脊髄液分泌)、軟膜クモ膜扁平上皮細胞、眼の色素性毛様体上皮細胞、眼の非色素性毛様体上皮細胞、角膜内皮細胞、推進機能を備えた繊毛細胞、気道の繊毛細胞、卵管の繊毛細胞(女性における)、子宮内膜の繊毛細胞(女性における)、精巣網の繊毛細胞(男性における)、精巣輸出管の繊毛細胞(男性における)、中枢神経系の繊毛上衣細胞(脳腔を裏打ちする)、細胞外マトリックス分泌細胞、エナメル芽上皮細胞(歯エナメル質分泌)、耳の前庭器の半月面上皮細胞(プロテオグリカン分泌)、コルチ器の歯間上皮細胞(有毛細胞を被覆する蓋膜を分泌する)、疎性結合組織の線維芽細胞、角膜の線維芽細胞、腱の線維芽細胞、骨髄細網組織の線維芽細胞、他の(非上皮)線維芽細胞、毛細血管の周皮細胞、椎間板の髄核細胞、セメント芽細胞/セメント細胞(歯根骨様のセメント質分泌)、象牙芽細胞/象牙細胞(odontocyte)(歯象牙質分泌)、硝子軟骨の軟骨細胞、線維軟骨の軟骨細胞、弾性軟骨の軟骨細胞、骨芽細胞/骨細胞、骨前駆細胞(骨芽細胞の幹細胞)、眼の硝子体の硝子体細胞、耳の外リンパ腔の星細胞、収縮性細胞、赤筋の骨格筋細胞(遅筋)、白筋の骨格筋細胞(速筋)、中間筋の骨格筋細胞、筋紡錘−核袋細胞、筋紡錘−核鎖細胞、衛星細胞(幹細胞)、通常の心筋細胞、結節心筋細胞、プルキンエ線維細胞、平滑筋細胞(様々なタイプ)、虹彩の筋上皮細胞、外分泌腺の筋上皮細胞、血液及び免疫系の細胞、赤血球(赤色の血球)、巨大核細胞、単球、結合組織のマクロファージ(様々なタイプ)、表皮のランゲルハンス細胞、破骨細胞(骨中の)、樹状細胞(リンパ組織中の)、ミクログリア細胞(中枢神経系中の)、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、ヘルパーTリンパ球細胞、サプレッサーTリンパ球細胞、キラーTリンパ球細胞、IgM B細胞、IgG B細胞、IgA B細胞、IgE B細胞、キラー細胞、血液及び免疫系についての幹細胞及びコミットされた祖先細胞(様々なタイプ)、感覚変換器細胞、眼の光受容体桿体細胞、眼の光受容体青感受性錐体細胞、眼の光受容体緑感受性錐体細胞、眼の光受容体赤感受性錐体細胞、コルチ器の聴覚内有毛細胞、コルチ器の聴覚外有毛細胞、耳の前庭器のI型有毛細胞(加速度及び重力)、耳の前庭器のII型有毛細胞(加速度及び重力)、I型味蕾細胞、嗅覚ニューロン、嗅上皮の基底細胞(嗅覚ニューロンの幹細胞)、I型頚動脈小体細胞(血液pH感覚器)、II型頚動脈小体細胞(血液pH感覚器)、表皮のメルケル細胞(触覚感覚器)、触覚感受性一次感覚ニューロン(様々なタイプ)、低温感受性一次感覚ニューロン、高温感受性一次感覚ニューロン、痛み感受性一次感覚ニューロン(様々なタイプ)、固有受容性一次感覚ニューロン(様々なタイプ)、自律神経細胞、コリン作動性神経細胞(様々なタイプ)、アドレナリン作動性神経細胞(様々なタイプ)、ペプチド作動性神経細胞(様々なタイプ)、感覚器官及び末梢ニューロンの支持細胞、コルチ器の内柱細胞、コルチ器の外柱細胞、コルチ器の内指節細胞、コルチ器の外指節細胞、コルチ器の境界細胞、コルチ器のヘンゼン細胞、前庭器支持細胞、I型味蕾支持細胞、嗅上皮支持細胞、シュワン細胞、衛星細胞(末梢神経細胞体をカプセル化する)、腸グリア細胞、中枢神経系神経細胞及びグリア細胞、ニューロン細胞(大きな多様性のタイプ、今もなお不十分な分類)アストロサイトのグリア細胞(様々なタイプ)、オリゴデンドロサイトのグリア細胞、水晶体細胞、前水晶体上皮細胞、クリスタリン含有水晶体線維細胞、色素細胞、メラノサイト、網膜色素上皮細胞、生殖細胞、卵原細胞/卵母細胞、精母細胞、精原細胞(精母細胞の幹細胞)、ナース細胞、卵胞細胞、セルトリ細胞(精巣中の)、及び胸腺上皮細胞が含まれる。
【0019】
いくつかの事例において、細胞は間充織幹細胞(MSC)または骨髄間質細胞(BMSC)である。これらの用語は本明細書の全体にわたって同義的に使用される。MSCが骨髄または他の間充織幹細胞源の少量の吸引物から容易に単離され、単一細胞由来のコロニーを容易に生成するので、MSCは興味深いものである。骨髄細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊柱、肋骨、膝または他の間充織組織から得ることができる。MSCの他の源には、胚性卵黄嚢、胎盤、臍帯、皮膚、脂肪、関節からの滑膜組織、及び血液が含まれる。培養コロニー中のMSCの存在は、モノクローナル抗体により同定される特異的な細胞表面マーカーによって検証することができる。米国特許第5,486,359号及び第7,153,500号を参照されたい。単一細胞由来のコロニーは約10週間で50集団倍加ほどを経て増幅することができ、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞(Friedensteinら, 1970 Cell Tissue Kinet. 3:393−403; Castro−Malaspinaら, 1980 Blood 56:289−301; Beresfordら, 1992 J. Cell Sci. 102:341−351; Prockop, 1997 Science 276:71−74)、筋細胞(Wakitaniら, 1995 Muscle Nerve 18:1417−1426)、アストロサイト、オリゴデンドロサイト及びニューロン(Aziziら, 1998 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:3908−3913; Kopenら 1999 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:10711−10716; Choppら, 2000 Neuroreport II 300 1−3005; Woodburyら., 2000 Neuroscience Res. 61:364−370)へと分化することができる。稀な事例において、細胞はすべての3つの生殖細胞系列の細胞へと分化することができる。したがって、MSCは、骨、軟骨、靭帯、腱、脂肪、筋肉、心臓組織、間質、真皮及び他の結合組織が含まれる複数の間葉細胞系譜についての祖先細胞として供される。米国特許第6,387,369号及び第7,101,704号を参照されたい。これらの理由のために、MSCは、多数のヒト疾患の細胞療法及び遺伝子療法における使用の可能性に関して現在調べられている(Horwitzら, 1999 Nat. Med. 5:309−313; Caplan,ら 2000 Clin. Orthoped. 379:567−570)。
【0020】
MSC凝集体を生成する方法は、ProckopらによるUS2012/0219572及びBartosh,ら. PNAS 2010 107(31):13724−13729中に記載され、それらはこの教示についてその全体を参照することにより援用される。例えば、MSCは、スフェロイドの凝集及び形成を促進する様式で培養することができる。例えば、MSCはヒト骨髄から単離され、ハンギングドロップにおいてまたは非接着性ディッシュ上で、完全培地(4mMのL−グルタミン、10%のPBS及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを含有する低グルコースDMEM)中で培養され得る。MSCをインビトロで支援できる任意の培地を使用して、MSCを培養することができる。MSCの増殖を支援できる培地配合物には、Dulbecco改変Eagle培地(DMEM)、アルファ改変最小必須培地(αMEM)、及びRoswell Park Memorial Institute培地1640、ならびに同種のもの(RPMI培地1640)が含まれるが、これらに限定されない。典型的には、20%までのウシ胎仔血清(FBS)または1〜20%のウマ血清は、MSCの増殖を支援するために上記の培地へ添加される。しかしながら、MSCを培養するために必要な増殖因子、サイトカイン及びホルモンが、適切な濃度で培地中に提供されるならば、合成培地も使用することができる。開示される方法において有用な培地は、抗生物質、MSCの培養のために有用な細胞分裂促進性化合物または分化化合物が含まれるがこれらに限定されない、1つまたは複数の対象となる化合物を含有することができる。細胞は、例えば27℃〜40℃(31℃〜37℃が含まれる)の温度で増殖させることができる。二酸化炭素含量は2%〜10%の間で維持することができ、酸素含有量は1%〜22%の間で維持することができる。
【0021】
いくつかの実施形態において、MSCは、更なる培養のために十分な数の細胞を提供するのに十分な条件下及び一定の期間で培養される。次いで、細胞は、細胞のスフェロイド凝集体の形成を促進する条件下で培養される。いくつかの実施形態において、細胞はAggrewellプレート中で培養される。いくつかの実施形態において、細胞はハンギングドロップとして培養される。いくつかの実施形態において、培養されるMSCの各々のハンギングドロップは、約1,000〜約500,000の細胞/ドロップを含有する。次いで、MSCのハンギングドロップは、間充織幹細胞のスフェロイド凝集体を形成するのに十分な一定の期間で培養され得る。一般に、細胞のドロップは4日までの一定の期間培養される。
【0022】
細胞はヒトまたは他の動物に由来し得る。例えば、細胞は、マウス、モルモット、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジまたはヤギを起源とすることができる。いくつかの実施形態において、細胞は非ヒトの霊長類を起源とする。いくつかの事例において、細胞は自己由来かまたは同種異型である。
【0023】
いくつかの事例において、細胞は細胞培養から得られ、それは集団倍加(細胞継代)を伴う。これらの事例において、細胞は、好ましくは50以下の集団倍加(4〜50の間、10〜30の間の集団倍加が含まれる)である。したがって、細胞は、継代数1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50であり得る。
【0024】
「ハイドロゲル」または水含有ゲルと考えられている大部分のこれらの材料と共に、組織操作及び細胞送達において使用できる複数の生体材料がある。これらの材料についての要求性は、1)生体適合性であり、細胞は、多くの場合材料の全体にわたって、材料と組み合わせることができ、生存能力及び機能性を維持できるべきであり、及び2)大部分の事例において、ハイドロゲルは、包埋された細胞及び内在性の細胞の移動、増殖及び分化も促進するべきである。生体適合性及び移動/機能の最初の要求性を保ちながら、ハイドロゲルの「プリント適性」の維持のための追加の制約がある。これらは、Malda, J,ら, Adv. Mater. 2013, 25, 5011−5028による総説中で略述される。加えて、バイオ−プリンティングのために使用することができるハイドロゲルの多くの商業的供給源が、Murphy SV, Skardal A, Atala A. 2013. Evaluation of hydrogels for bioprinting applications. J Biomed Mater Res Part A 2013:101A:272−284によって記載され、それらには、I型コラーゲン、コラーゲン/フィブリン、フィブリン、Extracel(商標)ハイドロゲル、Extracel(商標)UV、チラミン置換ヒアルロン酸(TS−NaHy)、Corgel(商標)、メチルセルロースヒアルロナン(MC−HA)、キトサン、キトサン/コラーゲン、アルギン酸塩、アルギン酸塩/ゼラチン、及びポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)が含まれる。
【0025】
組織操作及びバイオプリンティングにおいて使用される通常の材料は、アルギン酸塩、コラーゲン、フィブリン、フィブリノーゲン、ポリエチレングリコール(PEG)、アガー、アガロース、キトサン、ヒアルロナン、メタクリルアミド、ゼラチン、プルロニック、マトリゲル、メチルセルロース、及びPEG−DA(ジアクリレート)である。これらの材料は多くの場合単純に単独で使用されないが、多くの場合一緒に混合し、特性を組み合わせて(例えばコラーゲン/フィブリンの細胞接着能力と、アルギン酸塩またはPEG−DAのゲル化特性)、新しい組成物を作製する。更に、新しいハイドロゲルはこれらの特性を構成するように完全にデザインすることができる(Guvendiren and Burdick, Current Opinion in Biotechnology 2013, 24:841−846)。
【0026】
開示される組成物及び方法における使用のためのハイドロゲルは、細胞の分配/プリントと適合性がある一方で、細胞が生体保存のプロセスの間に数日/数週間/数か月の間に生存能力があり機能的なままにさせる能力も有する。
【0027】
本明細書において提供される組成物は、延長された保管後に高い生存率及び機能性を維持する細胞を含む。生存率によって、保存または保管後に、細胞が生きていて、保管の前に存在していた同じ細胞機能が可能であることが意味される。いくつかの事例において、高い生存率は、初期の細胞集団のうちの少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%が、保存または保管後の生存、増殖及び機能が可能であることを意味する。
【0028】
細胞生存率は当技術分野において公知の方法を使用して決定することができる。生存率アッセイとは、生存率を維持または回復する、器官、細胞または組織の能力を決定するアッセイである。生存率は、0〜1(または0〜100%)の間の定量化可能な指標の使用によって、生及び死の全か無の状態とは区別することができる(Pegg DE (1989). “Viability assays for preserved cells, tissues, and organs”. Cryobiology 26(3): 212−231)。例えば、細胞中のカリウム対ナトリウムの比を検査することは生存率の指標として供することができる。細胞が高い細胞内カリウム及び低い細胞内ナトリウムを有していないならば、細胞膜はインタクトではない、及び/または(2)ナトリウム−カリウムポンプが良好に作動していないだろう。したがって、細胞膜の全体性を測定する多くのアッセイは、生存率の定量的測定として使用される。これらはトリパンブルー、ヨウ化プロピディウム(PI)であり得、それらは漏洩する細胞膜を透過することができ、商業的に入手可能な細胞計数装置において自動化される色素である。他のタイプのアッセイは細胞集団の全体的な代謝速度を測定し、それらは、全ATPの測定、ホルマザンベースのアッセイ(MTT/XTT)及びAlomar blueベースのアッセイまたはレザズリンベースのアッセイ等である。しかしながら、生理作用の定量的測定は、損傷の修復及び回復が可能かどうかを示さない。細胞が表面へ接着し伸展し、最終的には移動及び分裂する能力のアッセイは、生細胞であることをより示すことができるが、かなりより多くの時間がかかり、あまり定量的ではなくなるかもしれない。そのような訳で、これらの試験のすべてを生存率アッセイとして使用して、冷凍保存技法の成功、物質の毒性、または毒性物質の軽減効果における物質の有効性を査定することができる。
【0029】
開示される研究において、自動化PI膜全体性アッセイ(Chemometech IncによるNucleoCounter NC100)を蛍光性の生/死アッセイとして使用し、Alomar Blueを凝集体の細胞代謝の測定に使用した。凝集体内の細胞が細胞培養プラスチックへまだ接着することができ、凝集体から外に増殖することができること、及び、凝集体が非接着性表面上で維持される場合、凝集体縁部で細胞は他の凝集体と連結し、単一のより大きな構造へと凝集体の融合物を生成するだろうことを示す、機能テストも使用された。それは、細胞が培養プレート上でそれでもなお接着及び伸展することができるならば、または細胞性凝集体が融合(それは接着及び伸展の三次元等価物である)するならば、細胞機能(hMSCのサイトカイン分泌、分化及び免疫調節機能等)の多くが維持されるという一般的な仮定である。
【0030】
組成物中の細胞(例えばMSC)の高い生存率は、細胞が保存される水溶液の結果として維持することができる。水溶液は、例えば、細胞アポトーシス及び細胞死を低減する化学物質及び栄養素を含むことができる。
【0031】
したがって、いくつかの実施形態において、組成物は冷凍保存剤を含有している。冷凍保存剤の非限定例には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、ポリビニルピロリジン、ポリエチレングリコール、アルブミン、デキストラン、ショ糖、エチレングリコール、i−エリトリトール、D−リビトール、D−マンニトール、D−ソルビトール、i−イノシトール、D−ラクトーゼ、塩化コリン、アミノ酸、メタノール、アセトアミド、グリセリンモノアセテート、無機塩、またはその任意の組み合わせが含まれる。いくつかの事例において、冷凍保存剤は、CryoStor(登録商標)CS2、CS5またはCS10凍結培地(BioLife Solutions, Inc)及び5%のDMSOを含有する。いくつかの事例において、冷凍保存剤は、1%〜15%の間のDMSO(2%〜7.5%等、5%のDMSOが含まれる)等)を含有する。
【0032】
いくつかの実施形態において、開示される細胞組成物は、フリーラジカルを除去する生体保存剤、pHの緩衝を提供する生体保存剤、膠質性/浸透性の支持を提供する生体保存剤、エネルギー基質を含有する生体保存剤、低温で細胞内状態の平衡を保つイオン濃度を有する生体保存剤、またはその任意の組み合わせを含む。例えば、いくつかの実施形態において、生体保存製剤は、HypoThermosol(登録商標)FRS等のHypoThermosol(登録商標)(BioLife Solutions, Inc.)を含む。HypoThermosol(登録商標)FRSの構成要素は、pH7.6及び約360の浸透圧で、トロロックス(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸)、Na、K、Ca2+、Mg2+、Cl、HPO4、HCO3、HEPES、ラクトビオン酸塩、ショ糖、マンニトール、グルコース、デキストラン−40、アデノシン及びグルタチオンを含む。したがって、いくつかの実施形態において、開示される細胞組成物は、2〜10%のDMSO及びHypoThermosol(登録商標)またはHypoThermosol(登録商標)FRSを含む。
【0033】
本明細書において提供される組成物は、高体積及び高細胞濃度で細胞を含む。いくつかの実施形態において、開示される細胞組成物は、少なくとも100万細胞/mLの濃度で、少なくとも1000万の細胞を含有する。例えば、いくつかの実施形態において、組成物は、少なくとも100万、200万、300万、400万、500万、600万、700万、800万、900万、1000万、1100万、1200万、1300万、1400万、1500万、1600万、1700万、1800万、1900万、2000万、2100万、2200万、2300万、2400万、2500万、2600万、2700万、2800万、2900万、3000万、3100万、3200万、3300万、3400万、3500万、3600万、3700万、3800万、3900万、4000万、4100万、4200万、4300万、4400万、4500万、4600万、4700万、4800万、4900万、5000万、6000万、7000万、8000万、9000万または1億細胞/mLの濃度で、少なくとも1000万、1億、10億、100億、または500億細胞を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、開示される細胞は「マイクロ組織」として作用する多細胞凝集体として存在し、プリントされた場合により高い秩序性の三次元組織のためのビルディングブロック、または細胞療法への適用における移植細胞のための安定的なフォーマットに使用することができる。したがって、これらの凝集体は好ましくは一様なサイズ及び形を有するが、不均一なサイズ及び形の多細胞凝集体は、多くの適用において十分であり得る。凝集体は、好ましくは、分配、押出、またはプリントされた場合に、一貫した数の細胞を提供するように細胞組成物内でも均一に分散される。
【0035】
凝集体のサイズ及び密度は、意図される使用に基づいて選択され得る。いくつかの実施形態において、細胞は、1凝集体あたり少なくとも100、200、300、400、500、600、700、800、900、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、150,000または200,000細胞を含有する凝集体中に存在する。凝集体は、好ましくは5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%または20%未満の直径の変動を各々の組成物内で有する。
【0036】
いくつかの実施形態において、開示される細胞は、押出しのための(例えばバイオプリンティングのための)組成物の適切性も維持しながら、組成物内の一様な分布を促進するように懸濁物中で細胞を維持する、粘性のある溶液(すなわち押出し材料)中で懸濁される。「一様な分布」によって、細胞が、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%または20%未満の密度変動を各々の組成物内で有することが意味される。例えば、粘性のある溶液はハイドロゲル(上記のもの等)であり得る。粘度は、したがって好ましくは、バイオプリンターによる押出しのために適切なように十分に低いが一様な分布を維持するように十分に高い。
【0037】
いくつかの実施形態において、開示した組成物(バイオ−インク)は、約500〜1,000,000センチポアズの間、約750〜1,000,000センチポアズの間;約1000〜1,000,000センチポアズの間;約1000〜400,000センチポアズの間;約2000〜100,000センチポアズの間;約3000〜50,000センチポアズの間;約4000〜25,000センチポアズの間;約5000〜20,000センチポアズの間;または約6000〜15,000センチポアズの間の粘度を有することによって特徴づけられる。粘度は粘度計によるルーチンの方法によって測定することができる。
【0038】
いくつかの事例において、押出し材料は、組織操作のために適切な生体材料(コラーゲン、ヒアルロン酸塩、フィブリン、アルギン酸塩、アガロース、キトサン及びその組み合わせ等)でもある。他の実施形態において、適切なハイドロゲルは合成ポリマーである。更なる実施形態において、適切なハイドロゲルには、ポリ(アクリル酸)及びその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)及びそのコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼンならびにその組み合わせに由来するものが含まれる。
【0039】
いくつかの実施形態において、押出し化合物は、光開始剤(それは特異的な波長の光の吸収に際して重合反応または重縮合反応を触媒できる反応種を産生する分子である)を含む。これらの反応は光重合または放射線硬化とも呼ばれる。光開始剤は典型的には芳香族基及びカルボニル基の両方を含有するケトンである。
【0040】
いくつかの実施形態において、ハイドロゲルベースの押出し化合物は熱可逆性ゲル(熱応答性ゲルまたはサーモゲルとしても公知である)である。いくつかの実施形態において、適切な熱可逆性ハイドロゲルは室温で液体ではない。ポリオキシプロピレン及びポリオキシエチレンからなるポリマーは、水溶液の中へ取り込まれた場合に熱可逆性ゲルを形成する。これらのポリマーは、バイオプリンター装置中で維持することができる温度で液体状態からゲル状態へ変化する能力を有する。液体状態からゲル状態への相転移は溶液中でのポリマーの濃度及び成分に依存する。
【0041】
安定的な細胞製剤は、例えば従来のねじ蓋のボトル若しくは隔壁のある蓋ボトル中で、または凍結若しくは非凍結の保管から取り出され、分配デバイスと一体化され得る滅菌された閉鎖系デバイス内で、保存することができる。分配デバイスは、例えばバイオプリンターまたは自動式若しくは自動式若しくは手動式の注射デバイスであり得る。随意に、バイオプリンターは三次元(3D)バイオプリンターであり得る。分配デバイスは、細胞の無菌性及び質を維持しながら特定の場所へ生細胞を配達することができる。したがって、いくつかの実施形態において、開示される細胞組成物は、滅菌または無菌性のバイオインクカートリッジまたは生物医学的なシリンジ内に含有される。
【0042】
いくつかの実施形態において、開示される均一な細胞集団及び粘性のある溶液は、バイオプリンティングで使用されるバイオ−インクを含む。本明細書において使用される時、「バイオ−インク」は、複数の細胞を含む、液体、半固体または固体の組成物を意味する。いくつかの実施形態において、バイオ−インクは、細胞懸濁物、細胞凝集体、細胞を含むゲル、多細胞体または組織を含む。いくつかの実施形態において、バイオ−インクは追加で支持材料を含む。いくつかの実施形態において、バイオ−インクは、バイオプリンティングを可能にする特異的なバイオメカニカル特性を提供する非細胞材料を追加で含む。
【0043】
本明細書において使用される時、「バイオプリンティング」は、自動化デバイス、コンピューター支援デバイス、及び三次元プロトタイピングデバイス(例えばバイオプリンター)と適合性のある方法論によって、細胞(例えば細胞溶液、細胞含有ゲル、細胞懸濁物、細胞濃縮物、多細胞凝集体、多細胞体など)の三次元的な正確な堆積を利用することを意味する。
【0044】
本明細書において使用される時、「カートリッジ」は、バイオ−インクまたは支持材料を受け入れ(及び保持する)ことができる任意の物体を意味する。
いくつかの実施形態において、容器またはカートリッジは、細胞及び生体材料が、必要な場合には無菌条件を維持しながら容器またはカートリッジから出されることを可能にする滅菌されたポートまたはチューブを有する。
【0045】
いくつかの実施形態において、バイオプリンターは、特異的な細胞構築物、組織または器官を形成するために、コンピューター支援設計ソフトウェアによって指令されるような特異的なパターン及び特異的な位置でカートリッジからバイオ−インクを分配する。複雑な組織構築物を組立てるために、バイオプリンターは正確なスピード及び一様な量でバイオ−インクを堆積させる。いくつかの実施形態において、カートリッジは1つの分配オリフィスを含む。様々な他の実施形態において、カートリッジは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上の分配オリフィスを含む。更なる実施形態において、分配オリフィスの縁部は、平滑または実質的に平滑である。
【0046】
多くのタイプのカートリッジは、バイオプリンターによる使用に適切である。いくつかの実施形態において、カートリッジは、1つまたは複数の分配オリフィスを通して半固体または固体のバイオ−インクまたは支持材料の押出しに関与するバイオプリンティングと適合性がある。いくつかの実施形態において、カートリッジは、1つまたは複数の分配するオリフィスを通して液体または半固体の細胞溶液、細胞懸濁物または細胞濃縮物の分配に関与するバイオプリンティングと適合性がある。いくつかの実施形態において、カートリッジは非連続的バイオプリンティングと適合性がある。いくつかの実施形態において、カートリッジは、連続的及び/または実質的に連続的なバイオプリンティングと適合性がある。
【0047】
いくつかの実施形態において、カートリッジはキャピラリーチューブまたはマイクロピペットである。いくつかの実施形態において、カートリッジはシリンジまたはニードルである。多くの内径が、実質的に円形または円柱形のカートリッジに適切である。様々な実施形態において、適切な内径には、非限定的例として、1、10、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000μm、またはそれ以上が含まれ、その中の増分が含まれる。他の様々な実施形態において、適切な内径には、非限定的例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100mm、またはそれ以上が含まれ、その中の増分が含まれる。いくつかの実施形態において、カートリッジは約1μm〜約1000μmの内径を有する。特定の実施形態において、カートリッジは約500μmの内径を有する。別の特定の実施形態において、カートリッジは約250μmの内径を有する。多くの内部体積は本明細書において開示されるカートリッジに適切である。様々な実施形態において、適切な内部体積には、非限定的例として、0.1、1、10、20、30、40、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000ml、またはそれ以上が含まれ、その中の増分が含まれる。他の様々な実施形態において、適切な内部体積には、非限定的例として、1、2、3、4、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、199、300、400、500ml、またはそれ以上が含まれ、その中の増分が含まれる。
【0048】
いくつかの実施形態において、カートリッジは、バイオ−インクおよび/または支持材料を、受け入れる2Dまたは3Dの表面(米国特許第7,051,654号中に記載されていたもの等)の上にインクジェットプリントすることと適合性がある。更なる実施形態において、カートリッジは、本明細書において記載されるコンピューターコードの制御下で電圧ゲート型のノズルまたはニードルの形状における分配オリフィスを含む。
【0049】
いくつかの実施形態において、カートリッジはその内容の組成物を示すようにマークされる。更なる実施形態において、カートリッジは、その中に含有されるバイオ−インクの組成物を示すようにマークされる。いくつかの実施形態において、カートリッジの表面は着色される。いくつかの実施形態において、カートリッジの外面には、染色、塗布、ペンによるマーク、ステッカーによるマーク、またはその組み合わせが行われる。
【0050】
いくつかの事例において、カートリッジは、一回のみ使用のマニホールドシステム(米国特許第6,712,963号中で記載されるもの等、それは一回のみ使用のマニホールドユニットの教示のために本明細書において開示される)である。簡潔には、使い捨てのチューブ及び柔軟な壁の容器は無菌性のコネクターによって組み立てることができる。これらのマニホールドは、マニホールドチューブの外側表面のみを係合する少なくとも1つの遠隔制御されたピンチバルブと相互作用することができる。かかるマニホールド及びピンチバルブシステムは蠕動タイプのポンプと併用して使用することができ、そのポンプは、遠隔操作されるピンチバルブと一緒に、コントローラーによって操作することができ、そのコントローラーは洗浄及び品質保証の手順を回避または低減しながら無菌環境においてバイオテクノロジー用の液体の自動化された正確な送達を提供する。
【0051】
開示されるカートリッジは、好ましくは、バイオインクにより無菌的に充填し、次いで環境への曝露からバイオインクを保護して混入を防止するように構成される。したがって、カートリッジは、好ましくは充填後に閉鎖系を維持するシールを有する。カートリッジは、好ましくはバイオインク中で細胞を特異的な温度でも維持できなくてはならない。例えば、カートリッジは隔離することができる。
【0052】
開示されるカートリッジは、好ましくはバイオインクを内で射出するようにも構成される。例えば、バイオインクは、気圧、水圧、スクリュー駆動性ピストン、または同種のものによって射出することができる。射出が著しい圧力を生成し得るので、カートリッジは好ましくは剛性材料から形成される。
【0053】
カートリッジはバイオインクの射出/分散のための少なくとも1つのオリフィスを有する。しかしながら、複数のオリフィスはプリントのスピードを上げることができる。いくつかの事例において、2つ以上のタイプの細胞を分配するために、3Dプリンターは2つ以上のカートリッジにより構成される。しかしながら、いくつかの事例において、単一カートリッジは、2つのタイプの細胞を同時に分配するように2つ以上のコンパートメント及び2つ以上のオリフィスを含有する。あるいは、2つ以上の細胞タイプをバイオポリマー中で懸濁された細胞凝集体で組み合わせることができるか、または、2つの細胞タイプを同じハイドロゲルマトリックス内で至適化された比で一緒に混合し、同時に押出すことができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、カートリッジは、一旦細胞が保管(例えば凍結または非凍結)から取り出されたならば、生存能力があり、プリントのための準備ができているように、粘性のあるマトリックス中で懸濁された細胞を含有する本明細書において開示されるような組成物を含有する。いくつかの事例において、これは、粘性のあるマトリックスが、組成物中で均一に分散した細胞を維持する(すなわち、カートリッジの底部へ沈降しない)のに十分な粘性があることを意味する。
【0055】
バイオインク組成物の産生のためのキットも開示される。いくつかの事例において、キットは、平均で1凝集体あたり少なくとも100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290または300、200,000細胞までを含有する細胞凝集体を含む組成物を含有する。キットはまた非架橋性生体適合性ポリマー(アルギン酸塩等)を含有することができる。生体適合性ポリマーは細胞凝集体と同じまたは異なる容器中に存在し得る。キットは架橋剤(硫酸カルシウム等)も含有することができる。生体適合性ポリマー及び架橋剤が異なる容器中に存在する限り、この薬剤も細胞凝集体と同じまたは異なる容器中に存在し得る。キットは、キットの成分の混合のための手段(シリンジ等)を更に含有することができる。
【0056】
本発明の多数の実施形態が記載されてきた。それにもかかわらず、様々な修飾が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに行われ得ることが理解されるだろう。したがって、他の実施形態は以下の請求項の範囲内である。
【実施例】
【0057】
実施例1:MSCの特徴づけ
hMSCは培養、増幅、及び冷凍保存することができる。細胞を融解した場合、それらはプラスチックへ接着し、分裂し、数が増加し、治療法に関連する生物学的機能(血管新生性サイトカインを分泌すること、及びインターフェロンガンマのような炎症分子により刺激された場合に免疫修飾酵素をアップレギュレートすること、ならびに多能性三系譜分化が含まれる)を有することができる。
【0058】
hBM−MSCは複数の源から冷凍保存されたフォーマットで商業的に入手可能である。この実験において、1000万のhBM−MSCのバイアル(ベンダー、RoosterBio、Frederick、MD、パート番号MSC001)を融解し、増幅培地(RoosterBio、パート番号KT−001)中でT225フラスコ(Corning)の中へプレーティングする。hMSCを3,000の細胞/cmで播種し、37℃の加湿COインキュベーター中でインキュベーションした。2時間以内に、細胞の多くは培養用ディッシュへ接着し(図1)、それは培養の間の細胞増幅のための前提条件である。MSCは採取の前に4〜5日間培養で増幅した。一旦細胞が80〜90%の視覚的な細胞密集度を達成したならば、それらをTrypLE採取試薬(Thermo Fisher)により採取し、細胞の計数及び生存率をNucleocounter NC100(Chemometec)と呼ばれる自動システムにより定量した。細胞を機能についてもアッセイした。hMSCは連続的に複数回継代することができ、各々の継代は使用される培地に依存して2〜5の集団倍加をもたらす。最終目標は、単一ドナーから何千または何万もの産物を産生することができるように、及び細胞の生物学的機能が維持されるように、十分に高い集団倍加レベルで細胞を達成することである。
【0059】
MSCを標準的なフローサイトメトリーマーカーについて特徴づけた(図2)。MSCをDMEM+10%の血清中で7〜10日間培養し、フローサイトメトリーによってアッセイした。細胞は、CD73、CD90、CD105及びCD166について陽性で、CD14、CD34及びCD45について陰性であった。
【0060】
生物学的機能:hMSCが培養培地の中へ分泌する生物学的因子のパネルについてアッセイするために、hMSCを培養から採取し、基礎培地(RoosterBio)+2%のウシ血清(Atlas Biologics)中で40,000細胞/cmで24ウェルプレートの中へプレーティングした。細胞を37℃で24時間±1時間インキュベーションし、細胞培養培地をその時刻で採取し、−20℃で凍結した。次いで収集された培地を、Q−Plex(商標)Human Angiogenesis(九重、Quansys Biosystmes)の完全に定量的なELISAベースの化学発光アッセイを使用してアッセイし、9つの血管新生性バイオマーカーのANG−2、塩基性FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2、TNFα、VEGFを同時に測定することを可能にした。多重ELISAは培養上清においてpg/mLで検体を提供し、次いでそれを、ウェルの中へ播種した細胞の数及び培養中の時間に対して正規化して、pg/細胞/日で特異的なサイトカイン分泌測定を得た(図3)。
【0061】
増幅されたhMSCは、バルク培養で脂肪形成(脂肪)及び骨形成(骨)に向かって分化した(図4)。商業的に入手可能なキットは、提供されたプロトコルを使用して、MSCを脂肪細胞及び骨芽細胞へ分化させるために使用した(StemPro Adipogenesis and Osteogenesis Differentiation Kits、Life Technologies)。分化は、脂肪形成については脂質小胞のオイルレッドO染色(図4A)、及び骨形成についてはカルシウムのアリザリンレッド染色(図4B))によって検出した。
【0062】
MSCのIFN−γへの曝露によるインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現及び活性の誘導は、ヒトMSCの免疫抑制因子機能(T細胞抑制)の中心となる(図5)。簡潔には、MSCを、IFN−γありまたはなしで40,000細胞/cmで培地中にプレーティングした。24時間のインキュベーション後に、培地上清を収集及び凍結した。IDO活性は、標準的な比色試験を使用して、キヌレニン(IDO酵素活性の産物)を定量化することによって測定した。
【0063】
MSCは複数のベンダーから商業的に入手可能であり、生体保存されたフォーマット(典型的には冷凍保存された)で流通され得る。生体保存後の細胞を培養の中へプレーティングすることができ、そこでそれらは最初に接着し、次いで増殖する。これらの細胞は、様々な治療法的に関連する機能(複数系譜分化、生体機能的なサイトカイン及び因子の分泌等)を示すことができ、免疫系を修飾するように誘導することができる。
【0064】
実施例2:MSC凝集体の形成及び特徴づけ
hBM−MSC(RoosterBio、Frederick、MD、パート番号MSC001)を融解し、RoosterBio増殖培地中でT225フラスコの中へプレーティングし、80〜90%の密集度まで4〜5日間培養するか、または、融解後に増殖培地(RoosterBio)中でAggrewell 400Exプレート(Stem Cell Technologies)の中へ直接播種した。凝集体形成の前の細胞増幅のために、細胞を3000細胞/cm2で播種し、採取のための準備ができるまで37℃のインキュベーター中でインキュベーションする。細胞をTrypLE(Thermo Fisher)により採取し、1凝集体あたり1000細胞の密度でRoosterBio増殖培地中でAggrewell 400Exの中へプレーティングした。Aggrewellは、製造者の説明書に従って使用前にリンス溶液により一旦リンスした。リンス溶液を吸引し、単一細胞を各々のミクロウェルの中へ一滴ずつ播種して均一な細胞分布を保証した。一晩で、hMSCは融合し、37℃のインキュベーションで各々のミクロウェル中で多細胞凝集体(agg)を形成した(図6A)。凝集体を増殖培地によるリンスによってウェルから収集し、50mlのコニカルチューブの中へ移した。濃縮された凝集体(図6B)は、凝集体を重力によってチューブの底部に沈降させた後に、チューブ中の増殖培地を吸引することによって得た。実験の実行または臨床サイズ片の組織の生成に、1凝集体あたり1000〜100,000細胞で100,000〜1,000,000の凝集体が要求されることが一般的である。
【0065】
新たに収集されたhMSC凝集体を非接着性ペトリディッシュまたはプレートの中へプレーティングして、多細胞凝集体を培養した。非接着性培養プレート中で播種されたならば、凝集体は迅速にともに融合し(図7A)、組織培養用(TC)プラスチックの中へ播種されたならば、凝集体はプレートへ付着し、個々の細胞はディッシュの上で外にむかって増殖するだろう(図7B)。画像を撮る前に、培養を37℃のインキュベーター中で一晩インキュベーションした。
【0066】
MSC凝集体をサイトカイン分析のためにプレートの中へ播種し、37℃で24時間±1時間インキュベーションし、細胞培養培地をその時刻で採取し、−20℃で凍結した。次いで収集された培地を、Q−Plex(商標)Human Angiogenesis(九重、Quansys Biosystmes)の完全に定量的なELISAベースの化学発光アッセイを使用してアッセイし、9つの血管新生性バイオマーカーのANG−2、塩基性FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2、TNFα、VEGFを同時に測定することを可能にした。多重ELISAは培養上清においてpg/mLで検体を提供し、次いでそれを、ウェルの中へ播種した細胞の数及び培養中の時間に対して正規化して、pg/細胞/日で特異的なサイトカイン分泌測定を得た(図8)。MSC凝集体は、インターフェロンγの存在下においてIDO活性をアップレギュレートする能力も維持することができた。
【0067】
この実施例は、細胞増幅後にまたは直接融解から、hMSCを凝集体へと形成できることを実証する。細胞は培養用プラスチックへ接着し融合する能力を維持し、それはMSC凝集体への鍵となる属性である。凝集体内の細胞は、機能(複数系譜分化、サイトカイン分泌及び免疫修飾等)も維持する。
【0068】
実施例3:カスタム構築物のハイドロゲル及び押出し物における凝集体カプセル化
細胞カプセル化のために、単一細胞のhMSCまたは新たに収集したhMSC凝集体を、Ca2+またはMg2+不含有DPBS中で溶解した2%のアルギン酸塩(FMC BioPolymer)中で懸濁した。細胞を、6.6mg/mlのCalCl溶液の中へニードルにより一滴ずつ押出して、球状のビーズを形成するか、またはペトリディッシュ上のカスタムの形へと押出し、その後に、CaCl溶液中に沈めて構築物の架橋を可能にした。CaCl溶液を吸引し、増殖培地により置き換え、その後に、細胞のための37℃のインキュベーター中で構築物をインキュベーションして成熟させる。アルギン酸ゲル内で高度に生存能力のある凝集体を示すカプセル化MSCを、2μMのカルセイン−AM/DPBSにより染色し、蛍光顕微鏡により画像化した(図10B)。これらの凝集体は培養で5日後にゲル中で融合する能力も維持した(図10C)。
【0069】
結果及び考察:
MSC凝集体は、プリントの容易性に加えて、凝集させた場合により高い機会の細胞生存に起因して、バイオプリンティングのために魅力的な立体配置である。高度に生存能力のあるhMSC凝集体は、Aggrewell(商標)プレートを使用して一貫して生成できることが示される。これらの凝集体は、ともに融合する能力及び増殖させる表面の上に付着する能力を有し、両者は代謝的に活性のある細胞の鍵となる機能的なパラメーターである。凝集体融合は、新たに収集された凝集体については、早ければ37℃の培地中で数時間のインキュベーション後に観察された。
【0070】
バイオプリンティングへの適用は、細胞が細胞適合性のある生体材料中で包埋されることを要求するので、2%のアルギン酸塩中でカプセル化され、カスタムの形へと押出された単一細胞及び凝集体MSCが、高度に生存能力があること(図10B)及び培養中で融合する能力を維持すること(図10C)を実証し、したがって生体的な組立て(biofabrication)及びバイオプリンティングへの適用のために使用される凝集体細胞の実現可能性を確認した。
【0071】
この新製品フォーマットが研究において使用されているが、凝集フォーマットでこれらの細胞を送達する多くの実践的態様は遂行されていない。当業者は、細胞を採取し、凝集体へと作製し、次いで直ちに使用するだろうと推測する。しかしながら、広く普及した採用のためには、MSC凝集体が使用のために直ちに利用可能にできるような技術が開発されなければならない。本質的に、生体保存の技術はMSC凝集体へ適合され、それらの重要な機能が維持されなければならない。
【0072】
hMSC凝集体の生体保存のための至適プロセス、「即時使用可能な」製剤を有することの経済的及び実践的な利益の概要、ならびにその有用性の実証が、本明細書において開示される。凝集フォーマットで使用されるMSC及び他の細胞は数億〜数十億の細胞を要求するので、標準的な技術で単に細胞を増やすには、広く普及していない細胞増幅技術を使用して数週間を要するだろう。凝集体として配達される高い細胞数の製剤は、著しい時間枠(数週間〜数か月)を即時使用まで減少させる手法として開示される。これらの「即時使用可能な」製剤は、作業を遂行する研究室で有意な経済的影響を有し、より迅速な探索及び製品開発の取り組みをもたらすことができる。
【0073】
実施例4:生体保存されたMSC凝集体
凝集体を生体保存でき、それでもなお重要な機能を保持することを実証することがこの実施例の目標である。本明細書において、凝集体は、細胞培養培地(RoosterBioパート番号KT−001)、細胞療法のために臨床的に最も基準となる保管溶液、正常な生理食塩+4%のHSA(BioMed Supply)、及びHypothermosol(Biolife Solutions)中で非凍結フォーマットで保存された後に、試験された。非凍結保管で数日または冷凍保存フォーマットで数週間〜数年にわたってMSC凝集体機能を保存する能力は、将来、この技術の商業化及び使用容易性の中心となり、即時使用可能なフォーマットでMSC凝集体を購入することができれば、研究者及び製品開発者は数週間もの時間を短縮するだろう。
【0074】
材料及び方法
hBM−MSC(RoosterBio、Frederick、MD、パート番号MSC001)を融解し、RoosterBio(商標)増殖培地(RoosterBio Inc.)中でT225フラスコの中へプレーティングし、80〜90%の密集度まで4〜5日間培養するか、または、融解後にRoosterBio(商標)増殖培地(RoosterBio Inc.)中でAggrewell(商標)400Exプレート(Stem Cell Technologies)の中へ直接播種した。凝集体形成の前の細胞増幅のために、細胞を3,000細胞/cmで播種し、採取のための準備ができるまで37℃のインキュベーター中でインキュベーションした。細胞をTrypLEにより採取し、1凝集体あたり1,000細胞の密度でRoosterBio(商標)増殖培地中でAggrewell(商標)400Exの中へプレーティングした。Aggrewell(商標)は、製造者の説明書に従って使用前にリンス溶液により一旦リンスした。リンス溶液を吸引し、単一細胞を各々のミクロウェルの中へ一滴ずつ播種して均一な細胞分布を保証した。一晩で、hMSCは融合し、37℃のインキュベーションで各々のミクロウェル中で多細胞凝集体を形成した(図6A)。凝集体を増殖培地によるリンスによってウェルから収集し、50mlのコニカルチューブの中へ移した。濃縮された凝集体(図6B)は、凝集体を重力によってチューブの底部に沈降させた後に、チューブ中の増殖培地を吸引することによって得た。
【0075】
新たに収集された凝集体を、1500凝集体/mlで保管溶液(すなわちhypothermosol、10%のFBS/DMEM、または4%のHSA/生理食塩水)で再懸濁した。それぞれの溶液中の凝集体を2mlのクリオバイアルの中へ小分けし、暗所で4℃の冷蔵庫中で保存した。
【0076】
凝集体の機能性(融合、細胞のディッシュへの接着、IDO及びサイトカイン分泌)
研究の3または7日目に、異なる条件からの凝集体を収集し、PBSにより1回リンスし、250の凝集体(または250,000細胞)を再懸濁し、10ng/mlのIFN−γありまたはなしで2%のFBS/基礎培地中で12ウェルプレートの各々のウェルの中へ播種した。追加の凝集体を収集し、非接着性48ウェルプレートの上にプレーティングして自発的融合を可能にした。24時間(図11)及び6日(図12)のインキュベーション後に、組織培養用プレート上に接着した細胞、または非接着性表面上で浮遊しながら融合した細胞の両者の画像を撮った。接着培養上の培地を、IDO及びサイトカイン分泌アッセイのために15mlの遠心分離チューブの中へ収集した。組織培養用プレート上にプレーティングされた凝集体を、250μlのトリプシン/EDTAにより処理し、10〜15分間ごとにピペッティングによって45分間混合して凝集体から細胞を放出した。解離細胞を全生存細胞カウントのためにNucleoCounter(登録商標)により数えた。
【0077】
サイトカイン分泌の測定のために、収集された上清を、Q−Plex(商標)Human Angiogenesis(九重、Quansys Biosystems)の完全に定量的なELISAベースの化学発光アッセイを使用してアッセイし、9つの血管新生性バイオマーカーのANG−2、塩基性FGF、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2、TNFα、VEGFを同時に測定することを可能にした。多重ELISAは培養上清においてpg/mLで検体を提供し、次いでそれを、ウェルの中へ播種した細胞の数及び培養中の時間に対して正規化して、pg/細胞/日で特異的なサイトカイン分泌測定を得た。
【0078】
IDO活性の測定のために、キヌレニンの量は、上の実施例1中で記載されるような標準的な比色試験を使用して測定した。
結果及び考察:
バイオプリンティングへの適用は、細胞がプリントの前に高度に生存能力のあるままであることを要求するので、細胞の生存率及び機能性に影響せずに、ある期間(1〜7日)の間低温条件において凝集体を保存できることが好ましい。図11〜13は、hypothermosol溶液、増殖培地、または4%のHSAを備えた生理食塩水中での3または7日の保管後に、凝集体が(A)融合または(B)付着する能力を示す。類似した程度の融合及び接着が、hypothermosol及び増殖培地の両方中で保存された凝集体において観察されたが、4%のHSA/生理食塩水中で調合された凝集体は、浮遊した緩い凝集体構造によって示されるように生存していなかった。培養において6日後に(図12)、TCプレート上に接着した凝集体は密集するまでプレート中で増殖し続け、細胞が代謝的に活性のあるままであったことを実証した。
【0079】
様々な製剤及び保管継続期間で生体保存された凝集体のIDO活性(図14)及びサイトカイン分泌(図15)は、それらが機能性を維持していたことを示すが、この研究は、hypothermosol溶液中で生体保存された凝集体は、増殖培地及び4%のHSA/生理食塩水保管溶液よりも優れていたことを示唆する。
【0080】
実施例5:MSC凝集体の冷凍保存及び融解後の機能
hMSC凝集体(1000細胞/凝集体)を、Aggrewell(商標)400EXにより上記のように調製した。新たに収集された凝集体を、1〜5M細胞/mlでCryoStor(登録商標)5(Biolife Solutions)中で再構成した。凝集体をCoolCell(登録商標)速度制御凍結デバイス(Biocision)中で一晩凍結し、保管のために気相液体窒素の中へ移した。少なくとも7日間の冷凍保存後に、MSC凝集体の2つのバイアルを2%のFBS/基礎培地の中へ融解し、凝集体融合、細胞接着、ならびにIDO及びサイトカイン機能アッセイ(上記のような)についての試験のために組織培養用プレートまたは非接着性プレートの上に播種した。
【0081】
凝集体生存率を実証するために、およそ250,000凝集体を使用して、20μlのピペットチップの周囲に凝集体を播種することによって、15mlのチューブ中で「環」形を組立てた。融合したMSC凝集体を1〜4日後に収集し、4%のパラホルムアルデヒドにより固定し、その後に、サンプルを脱水し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)(Alizee Pathology)で染色して、凝集体融合の緊密さを可視化した。
【0082】
結果
融解に際して、hMSC凝集体はともに融合する能力を維持することができ(図16A)、個々の細胞は組織培養用プラスチックへ付着することができ、凝集体の外に増殖する(図16B及び16C)。更に、hMSC凝集体は、誘導可能なIDO発現する能力(図17)に加えて、血管新生性サイトカインを分泌する能力(図18)を維持した。凍結凝集体を組立てて環等の肉眼で見える形を形成することができ(図19A及び19B)、H&E染色(図19C)から、冷凍保存された融合凝集体から形成された健康な肉眼で見える組織が実証される。
【0083】
考察:
これはhMSC凝集体を冷凍保存できることを実証する最初の例である。更に、hMSC凝集体の重要な機能は冷凍保存後に維持され、それらには、個々の細胞がTCプラスチックの上で凝集体の外に増殖する能力、凝集体がより大きな肉眼で見える組織へと融合する能力、及びサイトカインを分泌し、誘導可能なIDO活性を維持する細胞の能力が含まれる。この新しい冷凍保存された組成物の利益は実践性であり、その場合、冷凍保存された産物フォーマットは、新鮮な凝集体の作製に要求される複雑で長い調製工程に比較して、凝集体細胞の在庫があるオン・デマンドの供給をもたらす。凝集体を必要に応じて融解及び使用することへの柔軟性は、図20Aのプロセスフロー図解中で示されるように、研究者または臨床医の数か月間〜数週間の細胞培養時間を節約する。現行GMP製造設備へ移された場合、節約した時間の量は何万ドルへと換算される(図20B)。
【0084】
実施例6:アルギン酸塩BioInk開発
バイオインクは、保管の間に均一の懸濁物中で単一細胞または凝集体のいずれかを懸濁して、細胞がかたまることを防止し、細胞濃度の均一性を維持するように、生体適合性ハイドロゲルマトリックスと細胞からなる必要がある。高粘度の高M及び高Gアルギン酸塩を、低粘度のアルギン酸塩を含めて、2つの異なるカルシウム源(CaCl及びCaSO)に対して試験した。ハイドロゲルマトリックス中のカルシウムの量は、ハイドロゲルの架橋度、したがって、プリントされた構築物の構造及び全体性を規定することができた。この研究において、十分にゲル化して細胞を製剤化することを可能にする量のCaSOを、使用者がゲル化前に溶液を操作及び混合するのに合理的な「時間ウィンドウ」を可能にする、緩慢な放出作用に基づいて、最も良好なプリント適性のためにタイトレーションした。本明細書において、中〜高粘度の高Gアルギン酸塩を使用して、良好な「プリント適性」、すなわち「半固体」構造を維持する能力(ノズルから外への押出しの容易性、その場で形を保持するのに十分なゲルの濃密さであるが、固すぎずに砕けることによって特徴づけられる)及び粘着性(それは多層の形の構築のために、それ自体の上にゲルが粘着し一体化する能力である)を備えたバイオインクを、作製できることを示す。適切な製剤は、凝集体が保管の間に均一な溶液中でとどまって、プリントヘッドを塞ぎ得る沈降及びかたまりを回避すること(図22)も可能にするだろう。最終的に、プリント後のCaCl洗浄処理は形を強化し、細胞を成熟させるながら、構造の保存を可能にする。
【0085】
方法:
高G(protanal)または高M(Sigmaからのmanugel及びアルギン酸ナトリウム)との、2〜8%の中粘度(Sigma Aldrich)または高粘度(FMC Biopolymer)アルギン酸塩を、Ca2+またはMg2+不含有DPBS中で調製した。25mg/mlのCaSOをDPBS中で調製し、適切な稠度へアルギン酸塩をゲル化するために使用した。アルギン酸塩の異なる体積を使用し、すなわち10%v/v/、5%v/vまたは2.5%v/vの異なるアルギン酸塩タイプを試験し、ゲルを一晩インキュベーションして「ゲル化」及び「プリント適性」の程度を決定した。
【0086】
結果:
低粘度アルギン酸塩は、8%までのアルギン酸塩濃度で均一な構造を部分的にゲル化するほどはよく架橋しなかった。中/高粘度アルギン酸塩(Manugel、高Mアルギン酸塩、及びProtanal、高Gアルギン酸塩が本明細書において使用される)はより適切であり、良好なプリント可能な製剤を作製することが示される。塩化カルシウムは二価陽イオン源として最適ではなく、したがって、硫酸カルシウムを使用してより緩慢に混合物の中へカルシウムを放出し、より均一なハイドロゲルを生成した。高Gアルギン酸塩中のより高いレベルの硫酸カルシウムは、シリンジニードルアセンブリーから押出された場合に砕けるような非常に剛性のゲルをもたらした。中間レベルの硫酸カルシウム(2%のprotanal中で混合して1.25mg/mL)は理想的であり、アルギン酸塩に、滑らかな射出稠度、新しく射出されたアルギン酸塩が以前に押出された材料へ接着して(粘着性)3D構造を形成する場合に多層を構築する能力を与えた。低レベルの硫酸カルシウムはアルギン酸塩をゲル化するのには十分ではなく、それはまだ流動性で、プリントのために理想ではなかった(図21)。
【0087】
3D構造をプリントした後に、プリントされた構造は直ちに機械的に安定的でなかった。小体積の溶解された塩化カルシウムによるプリントされた構造の「硬化」は、機械的に安定的な構造を生成した。バイオインクのための以下のプロセス及び製剤を同定した。細胞または細胞凝集体を、シリンジ混合(コネクターと一緒に2つのシリンジを接続し2〜10回混合する)によって2%高G、中〜高粘度のアルギン酸塩の中へ混合し;すべての溶液を1つのシリンジへ移し、硫酸カルシウムを1.25mg/mLの最終濃度まで添加し、シリンジ混合によって混合し;アルギン酸ゲルを5分間または数週間もの間放置し;シリンジまたは他のカートリッジシステムを3Dプリンター上に設置し、3D組織をプリントし;プリントされた組織を、適用に依存して培養またはバイオリアクター中に設置する。
【0088】
したがって、ゲル化されていないハイドロゲルポリマー(アルギン酸塩等)のシリンジまたは他の容器;2つのシリンジが滅菌状態で接続されることを可能にする滅菌された接続デバイス;架橋剤(例えば硫酸カルシウム)を含有するもう一つのシリンジ、及び細胞または細胞凝集体を含有する第3のシリンジを含有する、バイオインクキットが企図される(図24A及び24B)。
【0089】
このキットにより、エンドユーザーが、様々な適用のための細胞含有バイオインクを迅速で容易に再現性良く生成することが可能である。
いくつかの事例において、バイオインクは輸送前に細胞と共にゲル化され(図25)、その結果、顧客は上記のプロセスをすべてスキップし3Dプリンターの中へバイオインク含有カートリッジを挿入し、直接プリントし(即時使用可能)、かなりの時間を節約できる。
【0090】
実施例7:アルギン酸塩BioInkの生体保存
材料及び方法
BioInk Aの調製
20mlのhypothermosol中で0.4gのprotanal(高Gアルギン酸塩)を持続的に撹拌しながら希釈することによって、hypothermosol(BioLife Solutions)中の2%のアルギン酸塩を調製した。MSC凝集体を2mlのアルギン酸塩溶液の中に混合し、10%の25mg/mlのCaSOをシリンジを使用して添加及び混合して、部分的なゲル化を可能にした。シリンジをパラフィルムにより密封し、試験のための準備ができるまで暗所中の4℃で保存する。
【0091】
BioInk Bの調製
hypothermosol及びコラーゲンとのアルギン酸塩バイオインクのために、3mg/mlのコラーゲン(Collagen Solutions Inc.)を製造者の説明書に従って調製し、1容のバッファー溶液を氷上の9容のコラーゲン溶液の中へ添加し、よく混合した。コラーゲン及びアルギン酸塩による凝集体の取り込みのために、MSC凝集体を1mlの3mg/mlのコラーゲン溶液へ添加し、その後に、2%のアルギン酸塩の等体積と混合した。一旦溶液がよく混合されたならば、10%v/vの25mg/mlのCaSOをシリンジにより添加しよく混合して、バイオインク溶液を部分的にゲル化した。同様に、シリンジをパラフィルムにより密封し、試験のための準備ができるまで暗所中の4℃で保存した。
【0092】
保管の2週間後に、50〜100μlのBioink A及びBの両方を15ml遠心分離チューブの中へ押出した。4mlの50mMのクエン酸ナトリウムをゲルへ添加し、37℃中でインキュベーションしてゲルを溶解した。ゲルが溶解されるまで、チューブを10分間ごとに30分間転倒した。200×gで5分間遠心分離することによって細胞を収集した。上清を吸引し、細胞を2%のFBS/基礎培地の中へ再懸濁し、TCプレートの中へをプレーティングして付着させた。
【0093】
対照細胞の調製のために、新たに融解されたMSCを、アルギン酸塩からMSCを放出するプロセスに類似して、50mMのクエン酸ナトリウムにより30分間インキュベーションし、その後に、それらを遠心分離し、TCプレートの上にプレーティングした。
【0094】
TC培養プレート上のMSC付着をモニターし、播種後1及び6日目に画像を撮り(図23)、そこでは、BioInk B中のMSC凝集体がTCプレートの上に接着して増殖することが観察され、MSC凝集体の保存のために高度に実現可能なバイオインク製剤であることが実証される。BioInk A及びBのプリント適性は粘着性及び強靭の両方であり、3D構造は部分的に固体のゲルにより造形され得る。
【0095】
特別に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、開示される発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において引用される公報、及び引用される材料は、参照によって具体的に援用される。
【0096】
当業者は、単なるルーチンの実験作業を使用するだけで、本明細書において記載される本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を、認識するか、または確認できるだろう。かかる等価物は、以下の請求項によって包含されることが意図される。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
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図20A
図20B
図21
図22
図23
図24
図25