(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークが加工される閉じられた空間をなす加工室と、前記加工室内のオイルミストを除去するミストコレクタと、前記加工室内で発生した切りくずを受け入れる切りくずコンテナとを備えた工作機械における切りくず排出装置であって、
前記ミストコレクタの排出口から排出される清浄空気を、前記加工室内に供給する排気供給ダクトと、
前記加工室内の空気を吸引する吸引ダクトと、を備え、
前記切りくずコンテナは、
前記ワークの加工時に発生する切りくずが落下する第1の開口と、
前記ワークの加工箇所よりも低い位置で、当該コンテナの上面に設けられた第2の開口と、
前記切りくずを排出するための切りくず排出口と、を有し、
前記吸引ダクトは、一端が前記切りくずコンテナの前記第2の開口に接続され、他端が前記ミストコレクタの吸込口に接続されており、
前記第2の開口に対して前記ミストコレクタ側である下流側に、上流側と下流側を分断する封水板が設けられ、
前記第1の開口は、前記封水板に対して上流側に設けられ、
前記切りくず排出口は、前記封水板に対して下流側に設けられ、
前記封水板の下端は、前記切りくずコンテナ内に貯留されている液体の液面より低い位置にあって、当該封水板の一部が前記液体に浸かっていることを特徴とする、工作機械の切りくず排出装置。
ワークが加工される閉じられた空間をなす加工室と、前記加工室内のオイルミストを除去するミストコレクタと、前記加工室内で発生した切りくずを受け入れる切りくずコンテナとを備えた工作機械における切りくず排出装置であって、
前記ミストコレクタの排出口から排出される清浄空気を、前記加工室内に供給する排気供給ダクトと、
前記加工室内の空気を吸引する吸引ダクトと、を備え、
前記切りくずコンテナは、
前記ワークの加工時に発生する切りくずが落下する第1の開口と、
前記ワークの加工箇所よりも低い位置で、当該コンテナの上面に設けられた第2の開口と、
前記切りくずを排出するための切りくず排出口と、を有し、
前記吸引ダクトは、一端が前記切りくずコンテナの前記第2の開口に接続され、他端が前記ミストコレクタの吸込口に接続されており、
前記切りくずコンテナの底部は、前記第2の開口に対して前記ミストコレクタと反対側である上流側から下流側に向かって下るように傾斜しており、
前記底部の下流側の端部と連続して、前記切りくずをチップバケットに排出するための勾配部が設けられ、
前記勾配部の始端をなす屈折部の天井部に、前記切りくずコンテナ内に貯留された液体の液面が接することにより、前記切りくずコンテナが水封されており、
前記第1の開口および前記第2の開口は、前記天井部よりも上流側における、前記切りくずコンテナの上面の天井壁と前記液面とが接していない位置に設けられ、
前記切りくず排出口は、前記勾配部の下流側の終端に設けられていることを特徴とする、工作機械の切りくず排出装置。
前記ワークを把持するテーブルと、前記テーブルの下方に設けられ、前記切りくずコンテナに切りくずを落下させるホッパーと、前記テーブルの側方に設けられた機械本体カバーと、をさらに備え、
前記加工室内で発生した気流が、前記テーブルと前記機械本体カバーとの間に形成された間隙に沿って下降し、前記ホッパーに向かうように構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の工作機械の切りくず排出装置。
【背景技術】
【0002】
従来、切削加工を行う工作機械においては、加工部位に大量の液体クーラントを供給することによって、ワークおよび工具の放熱を行うとともに、切りくずの飛散を液体クーラントによって抑制し、飛散した切りくずを液体クーラントによって洗い流すことで、ワークを把持する冶具や加工領域を覆うカバー等に切りくずが堆積することを防いでいた。
【0003】
しかしながら、環境重視の観点等から、大量の液体クーラントの使用は控えられる傾向にあり、代わって、微量の潤滑剤等と圧縮エアとを混合させたものをワークの加工箇所にピンポイントで供給するセミドライ加工や、潤滑剤を全く使用しないドライ加工が行われるようになっている。しかし、このようなセミドライ加工やドライ加工では、別途、液体クーラントを流すなどして切りくずを洗い流さないと、例えばアルミ合金のようなワークを加工した際に発生する、浮遊するほど微細な粉末状のものも含む切りくずを排出しきれず、冶具やカバーに切りくずが堆積してしまう問題を抱えていた。
【0004】
そこで、特許文献1に記載された切りくず処理装置では、略密閉状に構成された加工室の天井部に、加工室内に空気を流下させる空気ノズルを形成し、主軸および工具に軸方向に貫通するように吸引孔を形成して、加工室内に浮遊する粉末状の切りくずを流下させて、主軸等の吸引孔を介して切りくずを吸引する。また、切りくずから分離された潤滑剤をポンプで加圧して、今度は洗浄液として加工領域内に循環供給する。
【0005】
また、特許文献2に記載された切りくず処理装置では、切りくずを吸引分離する装置から吐出される圧縮排気を循環して加工領域に供給し、加工領域内に切りくずが堆積しないようにこれを除去する。また、切りくずから分離した水と潤滑剤の混合液を、別途設けた混合液タンクに一旦貯留し、その混合液を圧縮エアと一緒に噴出させて、ワーク等に付着した切りくずを洗い流す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された切りくず処理装置では、主軸等の軸方向に形成された吸引孔を介して、切りくずを吸引分離装置に吸引し、吸引孔で吸引されなかった切りくずは、加工室直下にあるトラフに排出するようになっている。しかるに、主軸等に設けられた吸引孔はトラフに比べ径が小さいので、循環供給される洗浄液によって湿り気を帯びた切りくずが吸引孔の内壁に付着し、吸引孔が詰まるおそれがある。また、加工領域内はウェットな状態になっているため、吸引分離装置の排気による、切りくずを吹き飛ばすためのブロー効果が低下する。
【0008】
特許文献2に記載された切りくず処理装置では、切りくずを吸引分離する装置からの排気を、切りくず吹き飛ばし用のエアとして、加工領域に供給するためのブロアが別途必要となる。また、切りくずから分離された混合液を別途設けた混合液タンクに貯留させるためのポンプと、その混合液タンクから混合液を噴出させるための吐出ポンプとを設けなければならず、さらに圧縮エアが必要となる。このため、排気や混合液を循環させ、吐出させるために、別途動力源を多数必要とし、電力消費量が大きくなることから、省エネルギー効果の薄いものとなっている。また、混合液の噴射によって切りくずは湿り気を帯びるので、吸引分離装置への経路途中で切りくずが詰まる恐れがある。さらに、加工室内がウェットな状態となって、吸引分離装置の排気による、切りくずを吹き飛ばすためのブロー効果が低下する。
【0009】
そこで、本発明は、切りくずを効率よく排出でき、かつ省エネルギー化を実現できる切りくず排出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る切りくず排出装置は、ワークが加工される閉じられた空間をなす加工室と、加工室内のオイルミストを除去するミストコレクタと、加工室内で発生した切りくずを受け入れる切りくずコンテナとを備えた工作機械における切りくず排出装置であって、ミストコレクタの排出口から排出される清浄空気を、加工室内に供給する排気供給ダクトと、加工室内の空気を吸引する吸引ダクトとを備えている。切りくずコンテナは、
ワークの加工時に発生する切りくずが落下する第1の開口と、ワークの加工箇所よりも低い位置で、
当該コンテナの上面に設けられた第2の開口と、切りくずを排出するための切りくず排出口とを有している。吸引ダクトは、一端が切りくずコンテナの
第2の開口に接続され、他端がミストコレクタの吸込口に接続されている。
【0011】
本発明の第1の態様では、第2の開口に対してミストコレクタ側である下流側に、上流側と下流側を分断する封水板が設けられる。第1の開口は、封水板に対して上流側に設けられ、切りくず排出口は、封水板に対して下流側に設けられる。封水板の下端は、切りくずコンテナ内に貯留されている液体の液面より低い位置にあって、当該封水板の一部が液体に浸かっている。
【0012】
本発明の第2の態様では、切りくずコンテナの底部は、第2の開口に対してミストコレクタと反対側である上流側から下流側に向かって下るように傾斜しており、この底部の下流側の端部と連続して、切りくずをチップバケットに排出するための勾配部が設けられている。そして、勾配部の始端をなす屈折部の天井部に、切りくずコンテナ内に貯留された液体の液面が接することにより、切りくずコンテナが水封されている。第1の開口および第2の開口は、屈折部の天井部よりも上流側における、切りくずコンテナの上面の天井壁と液面とが接していない位置に設けられ、切りくず排出口は、勾配部の下流側の終端に設けられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既設のミストコレクタの排気を加工室内に循環させてカバーや冶具に吹き付け、かつ加工室内の切りくずやオイルミストを含む空気を吸引することによって、加工室内に案内気流が発生するので、ワークの加工によって生じた切りくずを効率よく除去して、加工室内での切りくずの付着や堆積を防ぐことができる。
【0014】
また、既設のミストコレクタの排気を利用するため、切りくずを吹き飛ばすためのブロー用圧縮エア源を別途設けることが不要となり、圧縮空気の使用量を削減できる。また、ワークの加工箇所よりも低い位置で加工室内の空気を吸引する場合は、加工室内の空気の流れはダウンフローとなって、切りくずは効率よく切りくずコンテナへ排出されるので、切りくず吸引装置などを別途設ける必要がない。そして、クーラント洗浄に頼る必要がなくなるので、ワークの加工領域をドライな状態に保つことができ、洗浄液吐出に必要なポンプも不要となる。その結果、工場の消費電力を抑えることができ、省エネルギー化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を
図1から
図6に基づいて説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。
【0017】
本実施形態に係る工作機械1は、縦型マシニングセンタであり、セミドライ加工、ドライ加工、通常の加工の何れも行うことができる。この工作機械1は、
図1に示すように、本体2と、この本体2の周囲を囲むカバー3を備えている。本体2は、ベース4と、このベース4の上で前後方向に案内される第一サドル5と、この第一サドル5の前面で左右方向に案内される第二サドル6と、この第二サドル6の前面で上下方向に案内される主軸ヘッド7と、この主軸ヘッド7により回転自在に支持された主軸8と、この主軸8の先端部に脱着可能に装着された工具9とを有している。ベース4の前面には、テーブル10が装着されており、このテーブル10によりワークWを把持する。
【0018】
テーブル10の周囲には、切りくずが侵入しないようにカバー11(
図2に図示)が設けられ、さらに、加工室Sの上方を覆う蛇腹状の天井カバー12(
図1に図示)が設けられている。加工室Sは、加工によって生じる切りくずや、後述するオイルミスト等が機外に飛散したり漏れたりしない程度に、閉じられた空間となっている。
【0019】
テーブル10の下にはホッパー13が設けられており、このホッパー13を通して、ベース4の下に設置された切りくずコンテナ14の開口14a
(第1の開口)に、ワークWの加工時に発生する切りくずを落下させるようになっている。本実施形態では、
図1に示すように、切りくずコンテナ14内に、周知の装置であるチップコンベア15を設置している。切りくずコンテナ14に沈殿した切りくずは、チップコンベア15の図示しないスクレーパで掻き上げられ、切りくず排出口14bからチップバケット16に排出される。
【0020】
加工室S内ではワークWの加工時に、工具9の先端や図示しないノズルより供給された切削剤や油剤が、ワークWや工具9などに当って微粒子となって飛び散ったり、加工熱によって蒸発あるいは分解して油煙化したりする。このような微粒子化した切削剤や油剤、あるいは油煙化した切削剤や油剤を総称して「オイルミスト」という。ミストコレクタ17は、このオイルミストを除去する装置である。クーラント加工においては、加工室内に大量に発生する油煙を除去するためにミストコレクタが用いられるが、微量の切削液が圧縮空気と混合されて加工箇所にピンポイントで供給されるセミドライ加工においても、微量の切削剤は摩擦によって高温となり、気化して空気中に漂うため、ミストコレクタが用いられる。また、加工箇所に潤滑剤を供給しないドライ加工においても、ワークに付着している油分などが加工熱によって蒸発し、油煙となって加工室内に漂うため、同様にミストコレクタが必要となる。
【0021】
上述したオイルミストは、加工室S内に漂い、カバー11や冶具21等に付着したり、加工室SからワークWを取り出す際、工場内に拡散する。拡散したオイルミストは、工場を汚し、ひいては作業者の健康を害する原因となりかねない。そこで工作機械においては、湿式・乾式の如何を問わず、ミストコレクタ17が必ず必要となる。
【0022】
図6に示すように、ミストコレクタ17は、加工室S内に漂うオイルミストを含む空気を吸い込むための吸込口17aと、吸い込んだ空気からオイルミストを除去するための集塵本体17eと、オイルミストが除去された清浄空気を排出する排出口17bとを有している。ミストコレクタ17の詳細については後述する。
【0023】
吸込口17aに接続される吸引ダクト18(
図1に図示)は、チップコンベア15が内蔵されている切りくずコンテナ14の上面に設けられた開口14c
(第2の開口)に接続されている。この吸引ダクト18は、ワークWの加工箇所よりも低い位置(ここでは開口14c)において、加工室S内の空気を吸引する。また、排出口17bには、排気供給ダクト19(
図1に図示)の一端が接続されており、排気供給ダクト19の他端は、加工室S内の上方に固定され、下側に開口している。この排気供給ダクト19は、ミストコレクタ17の排出口17bから排出される清浄空気を、加工室Sの天井側から加工室S内に供給する。
【0024】
ミストコレクタ17でオイルミストが除去された清浄空気は、排出口17bから排気供給ダクト19を通って、加工室S内に供給される。本実施形態では、
図2に示すように、排気供給ダクト19は二股に分岐しており、その分岐ダクト19aの先端開口に、排気供給ダクト19より細い図示しない吹き付け用ダクトが接続されている。この吹き付け用ダクトにより風向きを調整することで、清浄空気を加工室S内のカバー11や冶具21に向けて上方から吹き付ける。
【0025】
上記は一例であり、排気供給ダクト19は、二股に分岐していなくてもよいし、3つ以上に分岐していてもよい。また、吹き付け用ダクトについては、加工室S内のカバー11や冶具21の形状にあわせて、任意の状態で清浄空気を噴出できるよう、その位置や数をレイアウトすることができる。
【0026】
加工室S内には、ワークWの加工によって生じた切りくずが飛散し、その大部分は重力によって、ホッパー13を介して切りくずコンテナ14に落下する。しかし、軽い切りくずや粉末状になった微細な切りくずは、すぐにはホッパー13へ落下できず、冶具21やカバー11上に留まったり、加工室S内を漂った後、カバー11やテーブル10、冶具21などの上に堆積する。しかるに、ミストコレクタ17から排出される清浄化された排気を、排気供給ダクト19(分岐ダクト19a)を介して加工室Sへ供給して天井側から吹き付け、かつ、加工室S内の雰囲気を、ワークWの加工箇所よりも低い位置において、吸引ダクト18を介して吸込口17aから吸引することにより、加工室S内には下向きの空気流、すなわち下降気流(ダウンフロー)が発生する。この下降気流は、本発明における「案内気流」の一例である。
【0027】
加工室S内の切りくずは、この下降気流に乗ってホッパー13から切りくずコンテナ14へと導かれ、チップコンベア15によって掻き出され、排出口14bからチップバケット16に排出される。このとき、切りくずコンテナ14内には、クーラントなどの液体が貯留されており、この液体によって切りくずコンテナ14の内部を水封することで、空気流に含まれるオイルミストが排出口14bから大気中に拡散しないようにしている。
【0028】
具体的には、
図1に示すように、切りくずコンテナ14の上面に設けられた開口14cに対して下流側(ミストコレクタ17側)に、封水板20を設ける。この封水板20は、切りくずコンテナ14の上面の天井壁14dに固定されている。
切りくずコンテナ14の開口14aは、封水板20に対して上流側(ミストコレクタ17と反対側)に位置し、切りくずコンテナ14の切りくず排出口14bは、封水板20に対して下流側に位置している。封水板20の幅(
図1で紙面に垂直な方向の幅)は、切りくずコンテナ14の幅(同前)と略同じであり、封水板20の高さ(
図1で上下方向の高さ)は、天井壁14dから切りくずコンテナ14内の液体の液面W.Lまでの距離よりも長くなっている。すなわち、封水板20の下端は、液面W.Lより低い位置にあって、封水板20の一部がコンテナ14内の液体に浸かっている。したがって、封水板20を挟んで上流側
と下流側が当該封水板20によって分断されるため、オイルミストを含む空気が切りくず排出口14bから大気中に拡散することを防ぐことができる。
【0029】
上記のような封水板20を設けることに代えて、
図3のような構造を採用してもよい。
図3では、切りくずコンテナ14の底部14eを、開口14cに対して上流側(ミストコレクタ17と反対側)から下流側(ミストコレクタ17側)に向かって下るように傾斜させている。そして、
底部14eの下流側の端部と連続して、切りくずをリフトアップし水切りしてチップバケット16に排出するための勾配部14f
が設けられ、この勾配部14fの始端をなす屈折部14gの天井部14hに、切りくずコンテナ14内の液体の液面W.Lが接するようにして、切りくずコンテナ14を水封している。
切りくずコンテナ14の開口14aおよび開口14cは、屈折部14gの天井部14hよりも上流側における、天井壁14dと液面W.Lとが接していない位置に設けられ、切りくず排出口14bは、勾配部14fの下流側の終端に設けられる。
【0030】
前記の各実施形態では、吸引ダクト18を切りくずコンテナ14の上面開口14cに接続しているが、これに代わる構造を採用してもよい。例えば、ワークWの加工箇所よりも低い位置にあるホッパー13、あるいはホッパー13と切りくずコンテナ14の継ぎ目等にダクト口を設置して、そこに吸引ダクト18を接続してもよい。
【0031】
あるいは、切りくずコンテナ14の排出口14bを、密閉したチップバケット16に密着状態で固定し、チップバケット16にダクト口を設けて、そこに吸引ダクト18を接続することもできる。チップバケット16に吸引ダクト18を接続する場合は、切りくずコンテナ14を水封する必要がなくなる。
【0032】
また、前記の各実施形態では、工作機械1の前後方向に切りくずを搬送するチップコンベア15を開示したが、工作機械1を複数台並べた場合には、並び方向に沿って設置されるスクリュー式のチップコンベアであってもよい。また、工場設備の床に設置してあるピットを切りくずコンテナとして、これに切りくずを落下させることもできる。
【0033】
また、前記の各実施形態では、加工室S内に発生する案内気流として下降気流を例に挙げたが、案内気流は下降気流に限らず、水平気流であってもよい。この場合の実施形態を
図4および
図5に示す。
【0034】
図4に示した実施形態においては、排気供給ダクト19の分岐ダクト19aが冶具21の付近まで延びている。分岐ダクト19aの先端部は、略直角に折れ曲がっていて、加工室Sと連通している。このため、ミストコレクタ17でオイルミストが除去された清浄空気は、排気供給ダクト19(分岐ダクト19a)を通って、加工室Sの側方から加工室S内に供給される。そして、加工室S内の雰囲気を、吸引ダクト18を介して吸込口17a(
図6)から吸引することにより、加工室S内には前側から後側へ向かう空気流、すなわち水平気流が発生する。この水平気流は、矢印で示すように、冶具21やテーブル10などを通過した後、テーブル10と機械本体カバー22との間に形成された間隙23に沿って下降し、ホッパー13に向かう。
【0035】
図4の実施形態によれば、排気供給ダクト19を通った清浄空気が、冶具21の付近で加工室S内へ供給されるため、この清浄空気(水平気流)を冶具21やテーブル10などに吹き付けることにより、それらに付着した切りくずを効果的に除去することができる。また、間隙23を下降する気流によって、加工室S内の切りくずを、容易にホッパー13から切りくずコンテナ14へと導くことができる。
【0036】
図5に示した実施形態においては、加工室Sの右側に排気供給ダクト19が設けられ、加工室Sの左側に吸気ダクト24が設けられている。排気供給ダクト19と吸気ダクト24のそれぞれの先端部は、冶具21の付近で加工室Sと連通している。吸気ダクト24は、たとえば切りくずコンテナ14に接続され、その内部空間と連通している。あるいは、吸気ダクト24を、図示しないフィルター装置などを介して、吸引ダクト18(
図1)に接続してもよい。ミストコレクタ17でオイルミストが除去された清浄空気は、排気供給ダクト19を通って、加工室Sの側方から加工室S内に供給される。また、加工室S内の雰囲気を、吸気ダクト24および吸引ダクト18を介して吸込口17a(
図6)から吸引することにより、加工室S内には、矢印で示すような右側から左側へ向かう空気流、すなわち水平気流が発生する。本実施形態の場合は、加工室S内の雰囲気を、ワークWの加工箇所と同じ位置(もしくは近傍位置)で吸引することになる。
【0037】
図5の実施形態によれば、排気供給ダクト19を通った清浄空気が、冶具21の付近で加工室S内へ供給されるため、この清浄空気(水平気流)を冶具21やテーブル10などに吹き付けることにより、それらに付着した切りくずを効果的に除去することができる。また、吸気ダクト24が、冶具21の付近で加工室S内の雰囲気を吸引するため、加工室S内には
図4の場合よりも強い水平気流が発生し、これによって、冶具21やテーブル10などに付着した切りくずを一層効果的に除去することができる。
【0038】
以上の各実施形態においては、加工室S内に発生する案内気流が、下降気流または水平気流であったが、本発明の案内気流は、斜め方向の気流であってもよい。
【0039】
次に、ミストコレクタ17について、
図6を参照しながら詳述する。ミストコレクタ17は、複数のサイクロン17cを並列に配置したマルチサイクロン式コレクタからなる。工作機械1において加工中に発生したオイルミストを含む気流は、吸込口17aから吸い込まれ、周知の形状をした複数のサイクロン17cの内部に導入される。そして、各サイクロン17cの内部に発生する下降旋回流の遠心力によって、気流中のオイルミストを分離するとともに、旋回流を上向きに反転させて清浄気流として排出口17bから排出する。
【0040】
本実施形態のサイクロン17cでは、旋回流の旋回半径を小さくして遠心力を大きくしているため、分離できる粒子径が小さくなり、高精度な分離を行うことができる。また、分離精度の高いサイクロン17cを複数並べ、かつ、1つのサイクロン17cに対し、2つの取込口17dを設けることにより、大きな処理風量を確保することができる。さらに、隣り合ったサイクロン同志で発生する汚染粒子の再飛散の問題も、本出願人の提案による国際公開WO2014/061201に開示されている水封構造により解決しているため、高い分離精度と捕集効率を維持しつつ、十分な処理風量を確保できる。
【0041】
さらに、ミストコレクタ17は、不織布などのフィルタを用いないフィルタレスタイプであるため、フィルタの目詰まりがなく、時間の経過とともに処理風量が低下するという問題もない。また、フィルタレスタイプのミストコレクタ17は、圧力損失が小さいため、例えば、ファンを回転させるモータの容量が、圧力損失の大きいフィルタタイプのミストコレクタのモータの容量より小さくても、同じ処理風量を確保できるなどの省エネルギー効果を有している。
【0042】
とはいえ、オイルミストの捕集手段は、本実施形態のようなサイクロンを利用した遠心分離方式に限定されない。加工室S内のオイルミストを含む空気からオイルミストを除去して、清浄な空気を再び加工室S内に循環供給できるだけの風量を確保できるものであれば、電気集塵やフィルタを利用したろ過方法など、他の方式を用いてもよい。
【0043】
次に、セミドライ加工について簡単に説明する。本実施形態の工作機械1においてセミドライ加工を行う場合は、主軸8内に潤滑剤と圧縮空気を別々に供給し、主軸8の先端部において潤滑剤と圧縮空気を混合させ、その混合物を工具9の先端から噴出させて、ワークWの加工箇所をピンポイントで潤滑する。
【0044】
潤滑剤と混合するキャリアガスについては、圧縮空気に限らず、窒素ガスなどの不活性ガスや二酸化炭素ガスなどでもかまわない。また、主軸8の先端部で潤滑剤とキャリアガスを混合させる代わりに、別の装置内で両者を混合させたものを主軸8に供給してもよいし、主軸8以外のノズルからワークWの加工箇所へ、両者の混合物を供給してもよい。
【0045】
さらに、混合物については、潤滑剤とキャリアガスだけでなく、冷却効果を兼ね備えた水を混合させたものでもよい。
【0046】
次に、セミドライ加工に使用する潤滑剤について詳述する。ミストコレクタ17の排気を循環させて切りくずを排出する方法においては、少量とはいえ、潤滑剤が塗布された切りくずが、潤滑剤の性質によっては粘着性をおびる場合がある。しかしながら、切りくずを効率よく排出するためには、切りくずはできるだけドライな状態であることが望ましい。なぜならば、切りくずがドライな状態であれば、従来のように切りくずを吹き飛ばすために新たな圧縮空気源を用いる必要がなく、また、切りくずを洗い流すための洗浄剤の供給も不要であり、既設のミストコレクタ17の排気を加工室S内に供給し、加工室S内の空気を吸引するという、循環気流を利用するだけでよいからである。
【0047】
従来のようなクーラントを大量に流して切りくずを排出する方法と違い、セミドライ加工では最少量の潤滑剤のみを使用するため、切りくずは水分をあまり含まず、比較的ドライな状態である場合が多い。しかし、オイルミストは、わずかずつ加工室S内の壁面に付着し、残留して、薄い油膜を形成する。このような薄い油膜は、酸素の影響によって劣化しやすく、しばしば粘着性の物質に変化するため、カバー11や冶具21等がべたつき、切りくずが堆積しやすくなるなど、作業環境を悪化させる。そこで、セミドライ加工の場合、こうした問題を回避するため、高い酸化安定性を有するセミドライ加工専用の潤滑剤を使用するのが望ましい。このような潤滑剤としては、例えば、セミドライ加工用に開発された合成エステル油剤などの油性潤滑剤や水溶性潤滑剤がある。
【0048】
このようなセミドライ加工に最適な潤滑剤は、加工性能が高い油剤や添加剤が使われており、生分解性も高く、環境や人体への負荷が少ない。また、特に水溶性潤滑剤は、希釈して使用が可能なため、潤滑剤自体のコスト面においても優位である。さらに、水溶性潤滑剤は、時間が経過しても、べたつきが少ないので、加工室S内のカバー11や冶具21のみならず、潤滑剤が添付された切りくずであっても、ドライ加工と差がないほどサラサラな状態を維持できる。このため、ミストコレクタ17の排気を循環させて作る空気流であっても、切りくずは容易に下方のホッパー13へ案内され、切りくずコンテナ14の開口14aに導かれるので、切りくずを確実に排出できる。
【0049】
以上のように、既設のミストコレクタ17の排気を循環させ、加工室S内に切りくずを排出するための案内気流を形成することによって、切りくずを既設の切りくずコンテナ14から排出できる。また、ミストコレクタ17によってオイルミストが除去された空気を循環させるため、オイルミストを含む空気が大気中に漏れることを確実に防ぐこともできる。