特許第6817228号(P6817228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6817228高硬度の表面層を有する釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備える釣竿
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817228
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】高硬度の表面層を有する釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備える釣竿
(51)【国際特許分類】
   A01K 87/04 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   A01K87/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-563678(P2017-563678)
(86)(22)【出願日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】JP2016079809
(87)【国際公開番号】WO2017130470
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2019年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-13763(P2016-13763)
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 勝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康弘
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−075375(JP,A)
【文献】 特開平02−190471(JP,A)
【文献】 特開2009−074104(JP,A)
【文献】 特開平08−311587(JP,A)
【文献】 特開2010−117697(JP,A)
【文献】 特開平11−227231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成されたガイド本体と、前記ガイド本体の前記貫通孔に嵌め込まれるガイドリングと、を備えた釣糸ガイドであって、
前記ガイドリングは、母材層と、前記母材層の表面に形成される表面層と、を備え、
前記母材層は、Ni、Co、Cr、Mo、及びFeを含む合金であって、Feの含有量が3wt%以下の合金から成り、
前記表面層は、クロムカーバイト、チタンカーバイト、又はバナジウムカーバイトから成る、釣糸ガイド。
【請求項2】
前記母材層は、Feの含有量が2wt%以下である、請求項1に記載の釣糸ガイド。
【請求項3】
前記ガイドリングは、その軸方向を含む切断面で切断したときの断面視において内周側に向かって凸となるように湾曲している、請求項1または請求項2に記載の釣糸ガイド。
【請求項4】
前記ガイドリングは、その後端部の前面が前記ガイド本体の後面と当接するように湾曲している、請求項3に記載の釣糸ガイド。
【請求項5】
前記ガイドリングは、その外周面と前記ガイド本体の内周面との間に隙間ができるように湾曲しており、
当該隙間に配された接着剤をさらに備える、請求項3または請求項4に記載の釣糸ガイド。
【請求項6】
前記ガイドリングは、その前側の端面で前記ガイド本体の前記貫通孔の内周面に当接するように湾曲している、請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項7】
前記表面層は、クロムカーバイトから成り、厚さが10〜30μmである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項8】
前記表面層は、前記母材層の外周側の表面に形成されている、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項9】
前記ガイドリングは、その軸方向において、その前端部が前記ガイド本体の前面よりも後側に配されている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の釣糸ガイドを少なくとも1つ備えた釣竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、日本国特許出願2016−013763(2016年1月27日出願)に基づく優先権を主張し、その内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる。
本発明は、高硬度の表面層を有する釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備える釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の釣竿は、リールから繰り出され又はリールに巻き取られる釣糸を竿体に沿って案内するために、竿体の外周面に複数の釣糸ガイドを備えている。従来の釣糸ガイドは、一般に、平板状のフレームと、当該フレームの取付孔に嵌合されたガイドリングと、を備えている。
【0003】
釣糸は、ガイドリングに挿通される。よって、キャスティング時や巻き取り時には、ガイドリングの内周面が釣糸と接触する。ガイドリングは、釣糸との接触によって容易に摩耗しないように硬質の部材、例えばセラミックスから作製される。セラミックス製のガイドリングは、例えば、特開平10−136839号公報(特許文献1)、特開平11−155429号公報(特許文献2)、及び国際公開第2014/119522号(特許文献3)に開示されている。
【0004】
しかしながら、セラミックス製のガイドリングは、衝撃に弱いという欠点がある。特に、セラミックス製のガイドリングは、大きな衝撃が加えられると割れてしまうという問題がある。そこで、金属製のガイドリングが提案されている。金属製のガイドリングは、例えば、特開2012−110287号公報(特許文献4)及び特開2015−65911号公報(特許文献5)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−136839号公報
【特許文献2】特開平11−155429号公報
【特許文献3】国際公開第2014/119522号
【特許文献4】特開2012−110287号公報
【特許文献5】特開2015−65911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の金属製のガイドリングは硬度が低く、釣糸との摩擦により摩耗しやすいという問題がある。具体的には、従来の金属製のガイドリングとして、チタン、表面にアルマイト処理を施したアルミニウム、又は表面にハードCrめっき処理を施したステンレスから形成したものが知られている。チタンのビッカース硬度は、150Hv〜250Hv程度、アルマイトのビッカース硬度は、350Hv〜450Hv程度であり、ハードCrめっき処理を施したステンレスの表面のビッカース硬度は1000Hv〜1100Hv程度である。また、ステンレス製のガイドリングには錆が発生することが分かっている。
【0007】
本発明の目的の一つは、高硬度のガイドリングを備えた釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備えた釣竿を提供することである。また、本発明の他の目的は、従来のステンレス製のガイドリングよりも錆が発生しにくいガイドリングを備えた釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備えた釣竿を提供することである。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドは、貫通孔が形成されたガイド本体と、前記ガイド本体の前記貫通孔に嵌め込まれるガイドリングと、を備えている。一態様において、前記ガイドリングは、母材層と、前記母材層の表面に形成される表面層と、を備える。本発明の一態様において、前記母材層は、Feの含有量が3wt%以下の合金から成る。本発明の他の態様において、前記母材層は、Feの含有量が2wt%以下の合金から成る。本発明の一態様において、前記表面層は、クロムカーバイト、チタンカーバイト、又はバナジウムカーバイトから成る。クロムカーバイトから成る表面層は、例えば、前記母材層に、まず浸炭処理をして浸炭層を形成し、その後その浸炭層にクロムを拡散浸透させる処理(クロマイジング処理)をすることにより、当該母材層の表面に形成される。チタンカーバイトから成る表面層は、例えば、前記母材層に、まず浸炭処理をして浸炭層を形成し、その後その浸炭層にチタンを拡散浸透させる処理(チタナイジング処理)をすることにより、当該母材層の表面に形成される。バナジウムカーバイトから成る表面層は、例えば、前記母材層に、まず浸炭処理をして浸炭層を形成し、その後その浸炭層にバナジウムを拡散浸透させる処理(VC処理)をすることにより、当該母材層の表面に形成される。
【0009】
上記態様においてガイドリングの表面にクロムカーバイトから成る表面層が形成される場合には、当該ガイドリングの表面はビッカース硬度1300Hv〜1800Hv程度の高硬度となる。また、ガイドリングの表面にチタンカーバイトから成る表面層が形成される場合には、当該ガイドリングの表面はビッカース硬度2000Hv〜3000Hv程度の高硬度となる。また、ガイドリングの表面にバナジウムカーバイトから成る表面層が形成される場合には、当該ガイドリングの表面はビッカース硬度2000Hv〜3000Hv程度の高硬度となる。よって、このガイドリングには、釣糸との接触による損耗が起こりにくい。また、これらの態様においては、ガイドリングの母材層が3wt%以下又は2wt%以下でFeを含む合金から成るため極めて錆びにくい。
【0010】
本発明の一態様におけるガイドリングは、その軸方向を含む切断面で切断したときの断面視において内周側に向かって凸となるように湾曲している。
【0011】
従来の釣糸ガイドにおいては、ガイドリングをガイド本体に安定的に保持するために、ガイドリングのうちガイド本体の貫通孔と対向する部分がガイド本体の貫通孔の軸線方向に対して平行な方向に延伸するように構成されている。例えば、特開2012−110287号公報では、ボス部6Cがガイド本体7の取付用穴7Fの内周面と平行に延伸している。しかしながら、ガイドリングの外周面とガイド本体の貫通孔の内周面との接触面積が大きくなると、ガイドリングをガイド本体に嵌め込む際に当該ガイドリングに対して大きな応力が作用する。この応力は、ガイドリングの破壊の原因ともなる。本発明の上記態様によれば、ガイドリングが内周側に向かって凸となるように湾曲しているので、ガイド本体の内周面とガイドリングとの接触面積を減少させることができる。これにより、ガイド本体に嵌め込まれる際にガイドリングに作用する応力を減少させることができる。
【0012】
本発明の一態様において、前記ガイドリングは、その前側の端面で前記ガイド本体の前記貫通孔の内周面に当接するように湾曲している。
【0013】
当該態様によれば、ガイドリングは、その前側の端面でガイド本体と当接するので、ガイドリングとガイド本体との接触面積を小さくすることができる。
【0014】
本発明の一態様において、前記ガイドリングは、その後側の縁部が前記ガイド本体の後面と当接するように湾曲している。
【0015】
当該態様によれば、ガイド本体の貫通孔の内周面だけでなく当該ガイド本体の後面によってもガイドリングを支持することができる。これにより、ガイドリングをより安定的に支持することができる。
【0016】
本発明の一態様において、前記ガイドリングは、当該ガイドリングの外周面と前記ガイド本体との間に隙間ができるように湾曲しており、当該隙間に接着剤が付与される。
【0017】
当該態様によれば、ガイドリングをガイド本体に嵌め込む際にはガイドリングに作用する応力を低減することができるとともに、嵌め込み後は接着剤によりガイドリングを安定的に保持することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る釣竿は、上述した態様の釣糸ガイドを少なくとも1つ備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によって、高硬度のガイドリングを備えた釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備えた釣竿が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る釣竿の構成を模式的に示す側面図。
図2】本発明の一実施形態に係る釣竿ガイドの斜視図。
図3】本発明の一実施形態に係る釣竿ガイドの縦断面図。
図4】本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドのガイドリングの断面を模式的に示す図。
図5図3の釣竿ガイドの一部を拡大して示す縦断面図。
図6】本発明の一実施形態に係る釣竿ガイドの縦断面図。
図7】本発明の一実施形態に係る釣竿ガイドの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、各図面において共通する構成要素に対しては同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10を備える本発明の一実施形態に係る釣竿1の外観図である。図示の実施形態において、釣竿1は、手元竿3と、複数(図1の例では3本)の中竿5と、穂先竿7と、を有する振り出し式の釣竿である。釣竿1の不使用時においては、中竿5及び穂先竿7が中空の手元竿3に収納される。
【0023】
手元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、例えば、炭素繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを用いて形成され得る。また、手元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、それぞれ穂先方向に先細りとなるテーパー形状を有する。中竿5及び穂先竿7の外周面には、リールRから繰り出される釣糸を釣竿1の穂先まで案内する複数の釣糸ガイド10が設けられている。
【0024】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドを図2ないし図5を参照して説明する。図2は、一実施形態における釣糸ガイド10の正面図であり、図3は、釣糸ガイド10の縦断面図であり、図4は、ガイドリング12の断面を模式的に示す図であり、図5は、図3の釣竿ガイドの下端付近の領域(図3の点線Aで囲まれた領域)を拡大して示す縦断面図である。
【0025】
図示のように、釣糸ガイド10は、ガイド本体11と、このガイド本体11に取り付けられる環状のガイドリング12と、を備える。このガイド本体11は、竿体3、竿体5、または竿体7のいずれかに取り付けられる足部13と、足部13に接続された板状のリング保持部14と、を備える。説明の便宜のために、以下の説明では、釣糸ガイド10が竿体5に取り付けられる場合を例に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態において、足部13は、竿体5の外周面に沿って伸びる細長い板状又は舌状の部材である。足部13は、例えばナイロン繊維から形成された巻糸によって竿体5に巻き付けられる。図2には、1つの足部によって竿体に取り付けられるシングルフットタイプの釣糸ガイドが例示されているが、本発明を適用可能なガイドリングはこのシングルフットタイプのものには限られない。例えば、本発明は、ダブルフットタイプのガイドリングにも適用可能である。ダブルフットタイプの釣糸ガイドは、リング保持部から前側及び後側にそれぞれ延びる一組の足部を有し、この一組の足部によって竿体に固定される。また、本発明は、固定式の釣糸ガイド及び可動式の釣糸ガイド(遊動ガイドと呼ばれることもある。)のいずれにも適用することができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、リング保持部14は、足部13の上端から延伸している。このリング保持部14は、竿体5の後方から前方に向かって上方に傾斜している。つまり、リング保持部14は、ガイドリング10が竿体5に取り付けられたときに、竿体5の前方に倒れた姿勢を取る。図示のように、リング保持部14には、リング保持部14を概ね竿体5の前後方向に貫く貫通孔が形成されている。この貫通孔は、リング保持部14の内周面14aによって画定される。ガイドリング12は、この貫通孔に嵌め込まれる。リング保持部14は、概ね平坦な板状の部材であるが、足部13との接続部分は、図3に示すように緩やかに湾曲している。つまり、リング保持部14は、ガイドリング10が嵌め込まれる貫通孔が形成された概ね平坦な平坦部と、足部13に接続される緩やかに湾曲した湾曲部と、を含む。
【0028】
足部13及びリング保持部14は、プリプレグシートから一体に作製することができる。足部13及びリング保持部14を作製する際には、まず複数のプリプレグシートをプレス加工により貼り合わせて焼成及び硬化し、プリプレグ成形品が作製される。次にこのプリプレグ成形品から、足部13及びリング保持部14に相当する形状のフレームが切り出される。このようにして、足部13及びリング保持部14が一体となったフレームが得られる。プリプレグシートから釣糸ガイドを作製する工程の詳細については、例えば本出願人の国際出願PCT/JP2012/079595に記載されている。釣糸ガイド10は、上記以外の任意の公知の手法を用いて作製できる。例えば、釣糸ガイド10は、金属や合成樹脂を用いた射出成形により形成され得る。
【0029】
リング保持部14の貫通孔には、環状のガイドリング12が嵌め込まれる。図3に最もよく示されているように、ガイドリング12は、ガイドリング12の周方向に環状に伸びるリング内周面12aと、このリング外周面12aと平行に伸びるリング外周面12bと、を有する。
【0030】
ガイドリング12について、図4を参照してさらに説明する。図示のとおり、ガイドリング12は、母材層21と、この母材層21の内周面12a側の表面に形成された表面層22aと、この母材層21の外周面12b側の表面に形成された表面層22bとを有する。本明細書においては、表面層22a及び表面層22bを総称して表面層22と称することがある。外周面12b側に配された表面層22bは省略することができる。
【0031】
本発明の一実施形態における母材層21は、例えば、Co−Ni基合金である。母材層21は、例えば、Co、Ni、Cr、Mo、Fe及び不可避不純物を含む合金から成る。この母材層21は、Mn、Ti、及び/又はNbを含んでいてもよい。本発明の一実施形態における母材層は、例えば、Co:30t%〜40wt%、Ni:27wt%〜37wt%、Cr:12wt%〜25wt%、Mo:5wt%〜10wt%、Fe:3wt%以下、及び残部不可避不純物から成る。また、本発明の一実施形態において、この母材層の材料としては、例えば、セイコーインスツル株式会社のSPRON510(SPRONは、登録商標である。)を用いることができる。本発明の一実施形態において、母材層21のFeの含有量は3wt%以下である。本発明の他の実施形態において、母材層21のFeの含有量は2wt%以下である。
【0032】
表面層22は、例えば、クロムカーバイト(CrC)、チタンカーバイト(TiC)、またはバナジウムカーバイト(VC)から成る。クロムカーバイトから成る表面層22は、例えば、母材層21に常法に従って浸炭処理を行って浸炭層を形成し、次に、この浸炭層が形成された母材層に常法に従ってクロム浸透拡散処理(クロマイジング処理)を施すことにより、母材層21の表面に形成される。チタンカーバイトから成る表面層22は、例えば、母材層21に常法に従って浸炭処理を行って浸炭層を形成し、次に、この浸炭層が形成された母材層に常法に従ってチタン浸透拡散処理(チタナイジング処理)を施すことにより、母材層21の表面に形成される。バナジウムカーバイトから成る表面層22は、例えば、母材層21に常法に従って浸炭処理を行って浸炭層を形成し、次に、この浸炭層が形成された母材層に常法に従ってバナジウム浸透拡散処理(VC処理)を施すことにより、母材層21の表面に形成される。浸炭処理及びクロマイジング処理の例は、例えば、特開2014−238143号公報に開示されている。表面層22がクロムカーバイトから成る場合には、ガイドリング12の表面はビッカース硬度1300Hv〜1800Hv程度(好ましくは、ビッカース硬度で1600Hv〜1800Hv程度)の高硬度となる。表面層22がチタンカーバイトから成る場合には、ガイドリング12の表面はビッカース硬度2000Hv〜3000Hv程度の高硬度となる。表面層22がバナジウムカーバイトから成る場合には、ガイドリング12の表面はビッカース硬度2000Hv〜3000Hv程度の高硬度となる。よって、このガイドリング12には、釣糸Lとの接触による損耗が起こりにくい。また、母材層21はFeの含有量が3wt%以下の合金から成るため、このガイドリング12は極めて錆びにくい。
【0033】
ガイドリング12の形状及びガイドリング12とリング保持部14との接合について、図5を参照してさらに説明する。図示のとおり、ガイドリング12は、その軸方向Bを含む切断面で切断したときの断面視において内周側(内周面12a側)に向かって凸に湾曲するように形成されている。本発明の一実施形態において、ガイドリング12は、その後端部12eがガイド本体14の後面14cに沿って延伸するように形成及び配置されている。一実施形態において、ガイドリング12は、その後端部12eの前面12fがガイド本体14の後面14cと当接するように形成及び配置されている。これにより、ガイドリング12はより安定的にガイド本体14に保持される。
【0034】
一実施形態において、ガイドリング12は、その後側の端面12cがガイド本体14の内周面14aよりも後側に配される一方、その前側の端面12dがガイド本体14の内周面14aに当接するように形成及び配置されている。これにより、ガイドリング12をガイド本体14の貫通孔に嵌め込む際に、ガイドリング12はその端面12dでガイド本体14の内周面14aと接触するので、ガイドリング12とガイド本体14の貫通孔の外周面14との接触面積が小さくなっている。よって、ガイドリング12をガイド本体14の貫通孔に嵌め込む際に、ガイドリング12に大きな応力が作用しない。
【0035】
一実施形態において、ガイドリング12は、その前端部12gがガイド本体14の前面14dと面一となるように形成及び配置される。他の実施形態においては、ガイドリング12は、その前端部12gが当該前面14dよりも軸方向Bにおいて後側に若干後退した位置に配されるように形成及び配置される。これにより、釣糸ガイド10の前方において釣糸Lがガイドリング12に引っ掛かりにくい。
【0036】
本発明の一実施形態において、ガイドリング12は、図示のとおり、その外周面12bとガイド本体14の内周面14aとの間に隙間ができるように形成及び配置される。この隙間には任意の接着材15が付与されてもよい。これにより、ガイドリング12はより安定的にガイド本体14に保持される。
【0037】
本発明の一実施形態において、ガイドリング12は、釣糸Lにテンションが作用しているとき(例えば巻き取り時)には、その内周面12aの最も上側にあるトップ部12hにおいて釣糸Lと接する。ガイドリング12は、トップ部12の接線方向が釣糸Lの延伸方向(竿体5の長軸方向とほぼ同じ)とほぼ同じ方向となるように形成及び配置される。これにより、釣糸Lの巻き取り時に、釣糸Lに作用する摩擦力を小さくすることができる。
【0038】
次に、ガイドリング12の加工方法について、表面層22がクロムカーバイトから成る場合を例に説明する。まず、ガイドリング母材を準備する。このガイドリング母材としては、上述したセイコーインスツル株式会社のSPRON510を使用することができる。このガイドリング母材は、厚さ0.1cm〜0.3cmの薄板形状に加工される。次に、この薄板形状のガイドリング母材を900℃〜1000℃まで加熱して軟化する。この加熱によってガイドリング母材が軟化している間に、プレス加工により、当該ガイドリング母材を薄板形状から図3等に示すリング形状に加工する。
【0039】
次に、リング形状に加工されたガイドリング母材に常法に従って浸炭処理を施す。例えば、固体浸炭法により浸炭処理を行う場合には、概ね以下のような手順で浸炭処理が施される。まず、木炭を主成分とする浸炭材が詰められた浸炭箱を準備する。次に、この浸炭箱にガイドリング母材を埋没させ、この浸炭箱を密閉する。次に、この浸炭箱とともにガイドリング母材を例えば約900〜1200℃で所定時間加熱する。加熱後のガイドリング母材は冷却後に取り出される。これにより、ガイドリング母材の表面に浸炭層が形成される。本発明においては、固体浸炭法に代えて、液体浸炭法、ガス浸炭法、または真空浸炭法を用いてもよい。
【0040】
次に、表面に浸炭層が形成されたガイドリング母材に常法に従ってクロマイジング処理を施す。クロマイジング処理は、概ね以下のような手順に従って行われる。まず、クロム粉、酸化アルミニウム粉及び塩化アンモニウム粉よりなる調合剤が詰められた処理箱を準備する。次に、浸炭層が形成されたガイドリング母材をこの処理箱に埋没させ、この処理箱を密閉する。次に、この処理箱とともにガイドリング母材を例えば約900〜1200℃で所定時間加熱し、その後冷却する。これにより、ガイドリング母材の表面に、厚さ約10〜30μmのクロムカーバイト(CrC)層が形成される。このようにして、表面にクロムカーバイト層が形成されたガイドリングが得られる。このガイドリングに対しては所定の洗浄処理が施される。また、当該ガイドリングは、所定の寸法及び表面粗さを有するように、バレルを用いて研磨される。
【0041】
図6を参照して、本発明の他の実施形態に係る釣糸ガイドを説明する。図6に示す本発明の他の実施形態に係る釣糸ガイド110は、リング保持部の内周面の形状及びガイドリングの形状において、釣糸ガイド10と異なっている。図6に示すように、釣糸ガイド110の内周面114aは、軸線Bに対して傾斜するように形成されている。したがって、この内周面114aによって画定されるリング保持部14の貫通孔は、軸線Bの後側から前側に向かって縮径する。つまり、釣糸ガイド110のリング保持部14の貫通孔は、後側で径が大きく、前側で径が小さくなっている。ガイドリング112は、その前側の端面112dが内周面114aとその前端付近で当接するように形成及び配置される。よって、図6の実施態様によれば、ガイドリング112をリング保持部14の貫通孔に後側から前側に向かって嵌め込むことにより、ガイドリング112をガイド保持部14の貫通孔にスムースに嵌め込むことができる。
【0042】
図7を参照して、本発明の他の実施形態に係る釣糸ガイドを説明する。図7に示す本発明の他の実施形態に係る釣糸ガイド210は、リング保持部の内周面の形状及びガイドリングの形状において、釣糸ガイド10と異なっている。図7に示すように、釣糸ガイド210の内周面214aは、軸線Bに対して傾斜して延伸する傾斜部214a1と、当該傾斜部214a1の前端から軸線Bに対して平行に延伸する小径部214a2と、を有する。小径部214a2は、傾斜部214a1よりも小さい径を有する。ガイドリング212は、その前側の端面212dが小径部214a2と当接するように形成及び配置される。よって、図7の実施態様によれば、ガイドリング212をリング保持部14の貫通孔に後側から前側に向かって嵌め込むことにより、ガイドリング212をガイド保持部14の貫通孔にスムースに嵌め込むことができる。また、図7の実施態様によれば、小径部214a2によってガイドリング212を安定的に保持することができる。
【0043】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0044】
1 釣竿
3、5、7 竿体
10 釣糸ガイド
11 ガイド本体
12 ガイドリング
13 足部
14 リング保持部
21 母材層
22a、22b 表面層
L 釣糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7