【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物(論文) 刊行物名: 平成30年度空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集{2018.9.12〜14(名古屋)} 第10巻 第149頁〜第152頁 発行日: 平成30年8月29日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1本の前記紐状部材が、2つの吊り具に取り付けられた前記第1取付け部材及び前記第2取付け部材の全てに取り付けられる請求項1〜5のいずれか一項に記載の落下防止具。
【背景技術】
【0002】
構造体から下方に延びる吊り具に物品が支持される例として、いわゆる天吊りが挙げられる。より具体的には、例えば、固定部である天井スラブに埋め込まれたアンカー及びインサートの雌ねじに、雄ねじである吊り用の全ねじ(吊り具である吊りボルト)が4本取り付けられ、各全ねじのもう一方の端部側に機器類等の物品が接続、支持されることで、該物品が空中に設置される(吊設物品が吊り支持される)といった構造である。
【0003】
かかる支持構造においては、吊り具が破断する等のおそれがあることから、(1)吊り具を補強し、破断を回避する必要があるほか、(2)吊り具が仮に破断したとしても、吊設物品が落下しないようにするための対策を講じる必要がある。
【0004】
上記(1)の補強のための対策については、従来から多くの提案がなされている。典型的なものとしては、隣接する全ねじの一方の上端ともう一方の下端に、専用金具を用いて採寸された振れ止め及び補強用の全ねじをX状に配置し、固定して取り付ける、いわゆるX状据付け法が挙げられる。例えば4本の全ねじを吊り具に用いる一般的な天吊りの場合、この補強法によると、隣接する全ねじの4対すべてに、補強用の全ねじ2本がX状に固定して取付けられる。
【0005】
一方、上記(2)の落下防止については、一般に、特許文献1の
図9に示されるような、ワイヤを傾斜緊張状態に配置した振れ止めが用いられる(段落[0026]も参照)。これは、吊りボルトの吊元から一定の距離をおいた位置(例えば天井スラブ)にワイヤ支持用金具等を設置し、これと、吊りボルトの下方に設置したワイヤ連結金具とにワイヤを固定し、ワイヤを傾斜緊張状態にして連結するものである。
【0006】
かかる振れ止めは、地震等の際に、設置された物品(吊り物品)が振れるのを抑止し得るとともに、仮に吊りボルトが破断した場合において、吊り物品が落下するのを防止するのに一定の効果を有する。
【0007】
しかし、振れ止めは、ワイヤを傾斜緊張状態にして設置し、吊り物品が横に振れるのを抑止する。その結果、例えば地震等により吊設物品に対して横揺れ力が加わった場合、ワイヤが吊り物品の揺れを抑止する(吊り物品の動きを制限する力が働く)ものとして作用するが、吊り物品に対する加振力が強い場合、揺れを抑止しきれず、むしろ吊りボルトに対し、吊り物品の支持側から天井方向に向け圧縮力が加わることとなる。かかる圧縮力が強く作用すると、吊りボルトが座屈、破断する。このように、振れ止めは、加振力が強い場合はかえって吊りボルトを座屈、破断させるおそれがあるとの問題がある。
【0008】
これに対し、特許文献2の落下抑止に係る発明においては、連結ワイヤー5が所定の弛みを有する弛緩状態で設けられるため(明細書段落[0039]参照)、特許文献1の上記問題は回避可能である。
【0009】
しかしながら、連結ワイヤー5の他端に設けられる対象取付部53は、構造体71に固定する必要がある(
図1、明細書段落[0039]参照)。すなわち、特許文献2の発明においては、構造体71(例えば天井スラブ)に連結ワイヤー5を固定するための金具を、アングル材、鋼材、後(あと)施工アンカー、梁などに設置する必要があるため、落下抑止のための施工に手間、時間、費用がかかるのみならず、施工作業を一人で行うことも困難である。
【0010】
しかも、例えば吊りボルトや吊設物品が既に設置されている場合、上記のような施工(落下抑止具の後付け)ができないことも少なくなく、仮に施工できる場合も、該施工は容易ではない。
【0011】
なお、特許文献2におけるこれらの問題は、前述のワイヤを用いた振れ止めにおいても生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、地震等により大きな揺れが生じても、吊りボルト等の吊り具に対する圧縮力がかかり難く、且つ、吊りボルト自体に取り付けることが可能であり天井等への取付けが不要な、吊り物品の落下防止具、落下防止構造及び落下防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述の問題点につき、落下防止用のワイヤ等を吊り具自体に取り付ける構成とすることにより回避する。一方、そのような構成とした場合、吊り具が破断して吊り具や落下防止具そのものが落下すれば、落下防止効果は得られず、全く無意味となる。そこで、本発明においては、吊り具が座屈したり破断したりする場合の、座屈・破断箇所を制御することによって、この点にも対処する。
【0015】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は、落下防止用の金属製ワイヤ等の紐状部材を、吊りボルト等の吊り具自体に取り付けるとともに、吊り具に座屈、破断が生じる場合の座屈・破断箇所が所定の位置となるように構成することにより、仮に吊り具が座屈、破断したとしても落下防止用具(及び吊り具、吊り物品)を落下させないようにするとの技術思想に基づくものである。
【0016】
本発明は、第1の側面として、
構造体から下方に延びる吊り具に吊り支持される吊り物品の落下を防止する落下防止具であって、
紐状部材と、
前記紐状部材を取り付けるための第1取付け部材であって、吊り具の上方側の吊元付近に配置され、前記紐状部材がこの第1取付け部材に取り付けられた状態で吊り具の吊元付近の構造体もしくは吊り具取付け用部材に直接または介在具を介して固定される第1取付け部材と、
前記第1取付け部材が構造体もしくは吊り具取付け用部材または介在具に固定された状態を保持するように該第1取付け部材を固定する固定用部材と、
吊り具の下方側に配置され、紐状部材を取り付けるための第2取付け部材であって、吊り具において吊り物品が支持される箇所よりも下側に取り付けられる第2取付け部材と、
前記第1取付け部材及び前記第2取付け部材に取り付けられた紐状部材を留める留め部材と、
を有することを特徴とする落下防止具を提供する。
第2の側面として、
前記第1取付け部材に少なくとも1つの孔が設けられ、この孔に前記紐状部材が取り付けられるように構成した請求項1に記載の落下防止具を提供する。
第3の側面として、
前記第1取付け部材が、吊り具を挿入する挿入手段を側面側に有する請求項1または2に記載の落下防止具を提供する。
第4の側面として、
前記第1取付け部材が、前記固定用部材と係合可能な係止部を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の落下防止具を提供する。
第5の側面として、
前記固定用部材が、吊り具を挿入する挿入手段を側面側に有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の落下防止具を提供する。
第6の側面として、
1本の前記紐状部材が、2つの吊り具に取り付けられた前記第1取付け部材及び前記第2取付け部材の全てに取り付けられる請求項1〜5のいずれか一項に記載の落下防止具を提供する。
第7の側面として、
構造体から下方に延びる吊り具に吊り支持される吊り物品の落下を防止する落下防止構造であって、
紐状部材と、
前記紐状部材を取り付けるための第1取付け部材であって、吊り具の上方側の吊元付近に配置され、前記紐状部材がこの第1取付け部材に取り付けられた状態で吊り具の吊元付近の構造体もしくは吊り具取付け用部材に直接または介在具を介して固定される第1取付け部材と、
前記第1取付け部材が構造体もしくは吊り具取付け部材または介在具に固定された状態を保持するように該第1取付け部材を固定する固定用部材と、
を備え、
複数の吊り具において、それぞれ、前記第1取付け部材が前記固定用部材によって構造体に直接または介在具を介して固定されるとともに、吊り物品が支持される箇所よりも下側に第2取付け部材が取り付けられる
ことを特徴とする落下防止構造を提供する。
第8の側面として、
1本の前記紐状部材が、2つの吊り具に取り付けられた前記第1取付け部材及び前記第2取付け部材の全てに取り付けられる請求項7に記載の落下防止構造を提供する。
第9の側面として、
構造体から下方に延びる吊り具に吊り支持される吊り物品の落下を防止する紐状部材を用いた落下防止方法であって、
前記紐状部材が吊り具の上方側の吊元付近に配置される第1取付け部材に取り付けられた状態で、該第1取付け部材が前記吊元付近の構造体もしくは吊り具取付け用部材に直接または介在具を介して固定され、
吊り具において吊り物品が支持される箇所よりも下側に取り付けられた第2取付け部材に前記紐状部材が取り付けられる
ことを特徴とする落下防止方法を提供する。
第10の側面として、
1本の前記紐状部材が、2つの吊り具に取り付けられた前記第1取付け部材及び前記第2取付け部材の全てに取り付けられる請求項9に記載の落下防止方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、落下防止のための手段を吊りボルト等の吊り具自体に取り付けることが可能となる。そのため、天井などの構造体に施工することなく、吊り具が破断した場合の吊り物品や吊り具の落下防止効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、一般的に行われる4本の全ねじ(吊り具)を用いて構造体(本実施形態では天井)から機器等の物品(吊り物)を吊り下げる場合において、本発明の落下防止具を用いた状態の一例を示すものである。4本の全ねじの上端は天井1に取り付けられるが、
図1では、取り付け状態が正面から示されており、全ねじは2本(2、3)のみ示されている。
【0021】
本実施形態においては、紐状部材として、1本の金属製ワイヤ4を、(対角線上に位置するのではなく)隣り合った2本の全ねじ(2、3)に取り付けるものとしている。なお、
図1において図示されていない2本の全ねじにおいても、
図1に図示される2本の全ねじに取り付けたのと同様に本発明の落下防止具を取り付けることができる。その場合、4本の全ねじに取り付けられる紐状部材は合計2本となり、これらの紐状部材は並列して配置されるものとなる。
【0022】
本発明による吊り物品の落下防止には、基本的に、紐状部材、第1取付け部材、固定用部材、第2取付け部材、および留め部材が用いられる。
【0023】
本発明の紐状部材には、強度の高いワイヤ、金属製ワイヤ、ファイバーロープなどを用いることができる。紐状部材の材質や直径は適宜選択することが可能である。紐状部材の直径は、吊り物の重量や材質に基づく強度などを考慮して決める。
【0024】
紐状部材は変形可能であるため、吊設の様々な環境、条件に応じて施工することが可能となる。
【0025】
また、作業面では、紐状部材によれば、例えば高所や狭所などの作業性の悪い状況下でも、後述の本発明における他の部材と相俟って、後付けによる落下防止策を容易に行うことが可能となる。紐状部材はボビン巻きなどにすることが可能であるため、持ち運びが容易となり、高所等において一人で採寸して紐状部材を切断することも可能となる。
【0026】
第1取付け部材5は、吊り具2、3それぞれの上方側の吊元付近に配置され取り付けられる。第1取付け部材5には、金属製ワイヤ(紐状部材)4が取り付けられる。第1取付け部材5は、仮に全ねじ(吊り具)2、3が座屈、破断した際に、全ねじ2、3及び吊り物品7が落下しないように支えることができるものであることを要し、例えば
図2(A)に示されるような丸ワッシャ型金具8などとすることができる。丸ワッシャ型金具の場合、
図2(A)に示されるように、中央に吊り具(全ねじ)を挿入する吊り具挿入孔9が設けられ、その周囲に紐状部材を挿入する紐状部材挿入孔(10、11など)が設けられる。紐状部材挿入孔は1つのみでもよいが、複数設けておくと、落下防止具の設置の際に、より適した位置の孔に紐状部材を挿入することが可能となり、作業性が高まる。
図2(A)の例では、6個の紐状部材挿入孔が設けられている。
【0027】
更に、第1取付け部材には、吊り具挿入孔に通じて吊り具が既設の場合でもその状態で横から挿入できる挿入手段を、側面側に設けると好適である。かかる挿入手段の一例として、
図2(B)〜(D)に示されるような、吊り具挿入孔15に通じる切欠溝12が挙げられ、切欠溝12を有する部材として
図2(B)〜(D)に示されるような金具13が挙げられる。なお、
図2(B)〜(D)は、同一の第1取付け部材を異なる角度から示したものである。このように挿入手段を設けるように構成すれば、吊り具や吊り物品が既設の場合において、第1取付け部材を、(吊り具の下部または上部から挿入することなく)吊り具の横から装着することができるため、吊り具に取り付ける(後付けする)ことが極めて容易となる。
【0028】
第1取付け部材に挿入手段12を設けた場合、後述の固定用部材と係合可能な係止部を更に設けると、第1取付け部材が吊り具から外れるのを防ぐことが可能となる。この一例として、対向する2か所からなる係止部14が
図2(D)等に示されている。吊り具に取り付けられた第1取付け部材が(横に)ずれたとしても、係止部14が固定用部材(
図3参照)に当接し、動き(ずれ)を制限するため、第1取付け部材が吊り具から外れることがない。
【0029】
図2(B)〜(D)に示される第1取付け部材の例では、紐状部材を挿入する紐状部材挿入孔は3つ(16、17、18)が設けられているが、この個数、形状、位置等は任意であり、例えば個数につき、これをいずれか1つとしたり、2つとしたりすることなどもできる。
【0030】
なお、
図1における第1取付け部材(符号5で示されている)は、
図2(B)〜(D)に示される第1取付け部材13を用いるものとしている。
【0031】
固定用部材は、第1取付け部材に当接し、この第1取付け部材が天井(構造体)に、後述のように直接または介在具を介して固定された状態を保持するための部材である。固定用部材は、仮に吊り具が座屈、破断し、第1取付け具に吊り物品の重さによる負荷等がかかった場合にも、第1取付け部材に固定されこれを支えることができるものであることを要し、例えば
図3(A)に示されるようなナット19(吊りボルトに螺合する)とすることができる。
【0032】
更に、固定用部材は、前述の第1取付け部材13と同様、吊り具を側面側から挿入するための挿入手段が設けられると好適である。かかる挿入手段20を設けた固定用部材の一例として、
図3(B)に示されるような割りナット21が挙げられる。このように構成すれば、吊り具や吊り物品が既設の場合において、固定用部材を取り付ける(後付けする)ことが極めて容易となる。
【0033】
第2取付け部材6は、吊り具の下方側に配置され取り付けられる。第2取付け部材には、ワイヤ(紐状部材)が取り付けられる。第2取付け部材は紐状部材を支持できることを要するが、形状、構造としては、例えば
図4(A)〜(C)に示されるような金具22とすることができる。
【0034】
図4(A)〜(C)は、同一の第2取付け部材を異なる角度から示したものである。
図4に示される金具22の場合、ボルト25とナット26を外すと、回転軸部27を中心として、側部28が両側に開く。吊り具挿入孔24が設けられており、ここに吊り具を挿入し、ボルト25にナット26を締め付けてこの金具を吊り具に固定する。
【0035】
第2取付け部材は、第1取付け部材に取り付けられた紐状部材4を、吊り具において吊り物品が支持される箇所(吊り物品支持部材)23(
図1参照)よりも下側で支持する。このように第2取付け部材を吊り具において吊り物品が支持される箇所よりも下側に取り付けてワイヤ(紐状部材)を支持することにより、仮に全ねじ(吊り具)が座屈、破断した場合において、全ねじおよび吊り物品が落下するのを防止することを確実にする。
【0036】
図1に示されるように、第2取付け部材6と、吊り物品支持部材23・ナット31との間にナット29を設け、第2取付け部材による固定をより安定させるように構成してもよい。
【0037】
図1における第2取付け部材(符号6で示されている)は、
図4(A)〜(C)に示される第2取付け部材22を用いるものとしている(第2取付け部材の図は簡略化している)。しかし、第2取付け部材として、
図2(A)や、
図2(B)〜(D)に示される金具等を用いることも可能である。
図2の金具を用いる場合は、例えば
図1のナット31(なお、ナット30、31は、吊り物品支持部材23を挟み込んで吊り物品を支持する従来技術。)のすぐ下に
図2(A)又は
図2(B)〜(D)に示される金具を装着し、その下からナットによりこれを固定する。従って、この場合の第2取付け部材は、かかる金具およびナットとなる。
【0038】
ワイヤ4(紐状部材)は、第1取付け部材及び第2取付け部材に、弛みが生じないように張って取り付けるのが好適である。紐状部材を弛みがない状態で取り付けて留め部材32により固定することにより、吊り具が破断などして吊り物品の落下が発生した場合、その落下距離はより短い距離に抑えることが可能となる。
【0039】
留め部材は、例えば
図5に示されるような、第2取付け部材において輪状に支持された紐状部材の端部を通して締結する従来のワイヤ締結金具などを用いることができる。
【0040】
以上が基本的な構成であるが、以下、第1取付け部材と固定用部材に関し、それらの作用を含めより詳細に説明する。
【0041】
第1取付け部材は、天井などの構造物に直接当接するように取り付けられることもできるが、例えば吊り具(吊りボルト)が天井スラブに設けられる場合、
図6、
図7に示されるように、吊元の部分には通常、吊り具取付け用部材として吊元アンカー33(通常金属。硬質部材。)が設置される。このような場合、第1取付け部材13は、
図6に示されるように、かかる硬質部材に当接するようにして吊り具の上部(吊元)に取り付けられ固定されることができる。いずれにしても、第1取付け部材が接する天井1の部分、吊元アンカー33などの部分は、金属等硬質であることを要する。すなわち、第1取付け部材、介在具、固定用部材は、それぞれ一体的に吊り具に取り付けられ固定されることで、固定された範囲の吊り具の剛性を高めて座屈を防止するための補強の役割を果たしている。例えば、介在具がゴムの様に軟質のものを使用すると、吊り具に曲がる力が加わった場合、介在具(ゴム)が潰れ、介在具(ゴム)の内部で吊り具が曲がり(座屈)、介在具(ゴム)の内部で吊り具が破断する恐れがある。また、この現象は、介在具以外(天井、吊元アンカー、第1取付け具、固定用部材)で軟質な部材を使用していると、軟質部材の箇所で発生する恐れがある。そのため、各部材の内部で吊り具が座屈・破断しないように、各部材は吊り具と同等以上の材料強度が必要となる。
【0042】
更に、天井または吊元アンカー等硬質部材と、第1取付け部材の間に、硬質の介在具が設けられると好適である。
図7に介在具34が設けられた場合の一例を示す。かかる介在具は、例えば全ねじに係合が容易となる金属製ナット等とすることができる。介在具が設けられることにより、天井または上記のような硬質部材と、第1取付け部材13の間に一定の空間(隙間)が設けられるため、第1取付け部材に紐状部材を取り付ける(孔17にワイヤ4を通過させるなど)のが容易となり、作業性が向上する。
【0043】
なお、第1取付け部材と紐状部材の取り付けの順序は、第1取付け部材に紐状部材を取り付けた後に第1取付け部材を吊り具の吊元に取り付けてもよいし、第1取付け部材を吊り具の吊元に取り付けた後に紐状部材を第1取付け部材に取り付けてもよい。
【0044】
第1取付け部材の上側を吊元アンカー(ないし天井)又は介在具に接するようにして第1取付け部材を取り付けた後、固定用部材19を第1取付け部材13の下側から当接させ、第1取付け部材が上記吊元アンカー等に固定された状態を保持するように、固定用部材19を吊り具3に取り付ける。すなわち、第1取付け部材は、吊り具の吊元付近の天井(構造体)もしくは吊元アンカー(吊り具取付け用部材)に、直接または介在具を介して固定される。
図7に示されるように、固定用部材19が金属製ナットの場合、第1取付け部材13の下側からねじ込んで第1取付け部材13を確実に固定する。この場合、第1取付け部材の天井側に、硬質の介在具として金属製ナット34が設けられていると、これと、固定用部材としての金属製ナットが第1取付け部材13を挟み込むこととなり、ダブルナットの効果(螺子の緩み防止効果)が得られることとなる。
【0045】
このようにして本発明の落下防止具を取り付けた場合、例えば、地震により吊り物品が揺れると、吊元アンカー(ないし天井)と第1取付け部材と固定用部材が(介在具が設けられている場合は介在具も)固定されることにより固定された範囲の吊り具の剛性を上げて座屈の防止を行うことで、吊りボルトは、固定用部材よりも下側を支点に曲がる。そのため、吊りボルトが破断する場合は、固定用部材よりも下側で座屈、破断する。すなわち、本発明によれば、吊りボルトの座屈・破断箇所を、固定用部材よりも下側とすることが可能となる。紐状部材は、かかる破断部分よりも上部に固定されている第1取付け部材と、吊り物品が支持される箇所よりも下側に取り付けられる第2取付け部材とに連結されているため、吊りボルトの破断が発生しても、吊り物品の落下を確実に防止することが可能となる。
【0046】
以上に加え、本発明は、落下防止具が吊り具そのものに取り付けられるため、天井スラブへ落下防止金具を設置するための後(あと)施工アンカー等を施工する必要がなく、落下防止策の作業性が飛躍的に向上する。
【0047】
更に、本発明によれば、例えば吊り機器の上部に配管・ダクト等の障害物があって、吊り機器の振れ止め補強が行えないような場合であっても、落下防止のための施工が可能となる。
【0048】
なお、吊元アンカー(ないし天井)と第1取付け部材と固定用部材が(介在具が設けられている場合は介在具も)固定されることにより固定された範囲の吊り具の剛性を上げて座屈の防止を行うことで、吊りボルトを固定用部材よりも下側で破断させるものであるから、第1取付け部材、固定用部材、介在具は、かかる作用が得られるのに適した形状、材質とする。例えば、
図4に示されるような形状の取付け金具は、板厚が薄く、固定用部材・介在具(ナット)に対して接触する面積が少ないため、吊り具に曲がる力が加わると、該金具のナットとの接触面が折れ曲がってしまい、また、該金具が折れ曲がると、該金具とナットとの間に隙間ができるため、その隙間で吊り具が曲がる支点となってしまい、吊り具が破断してしまうおそれがある。このようなことから、第1取付け部材は、固定用部材や介在具(ないし吊元アンカー、天井)と広い面積で接触する形状であるのが好適である。例えば、固定用部材や介在具がナットの場合、第1取付け部材は、該ナットと接触するが、この第1取付け部材の接触側の面積の大きさは、該ナットの接触面の面積の大きさ以上とする。第1取付け部材を前述のような平板状の金具とすると、介在具としてのナットや固定用部材としてのナットと固定され易く、固定された範囲の吊り具の剛性を上げて座屈の防止を行うものとなりやすい。
【0049】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、吊り具として4本の全ねじが用いられる場合において、1本の紐状部材(金属製ワイヤ等)を、隣り合った2本の全ねじに取り付ける架設構成・ルートの例を挙げている。本実施形態においては、4本の全ねじ35、36、37、38が用いられる場合において、1本の紐状部材39を、対角線上に位置する2本の全ねじ35、37に取り付ける。更に、別の1本の紐状部材40を、もう一組の対角線上に位置する2本の全ねじ36、38に取り付けると、より確実な落下防止効果を得ることができる。
図8に紐状部材のこの架設例を示す。
図8では簡略化ないし図示を省略しているが、架設構成・ルート以外の点は、第1実施形態において述べた点と同じである。
【0050】
なお、1本の紐状部材(金属製ワイヤ等)を2本の全ねじに取り付けると、一方の全ねじの第1取付け部材から万一ワイヤが外れた場合、この全ねじの第2取付け部材からワイヤが外れていなければ、吊り物品の落下を抑止できる可能性がある。
【0051】
より強固な落下防止策が必要であれば、第1実施形態の架設構成・ルートと第2実施形態の架設構成・ルートを併用することも可能である。この場合、複数の孔が設けられた第1取付け部材および第2取付け部材(第2取付け部材は
図2(A)に図示されるようなもの)を用いると好適である。
【0052】
なお、吊り具が4本でない場合の紐状部材の架設構成・ルートは、適宜決することができる。
【0053】
(第3実施形態)
図9に示されるように、1本の紐状部材41を、1本の吊り具42のみに取り付けることも可能である。すなわち、本発明によれば、例えば、吊り具が設置されている環境により、1本の紐状部材を2つの吊り具に架設することが困難な場合に、各吊り具に個別に紐状部材を取り付けるようにしたり、落下防止策を施したい吊り具のみに紐状部材を取り付けるようにしたりすることができる。架設構成・ルート以外の点は、第1実施形態において述べた点と同じである。
【0054】
(比較実験)
4本の吊りボルトを設置して物品を吊り下げた場合について、後述の4つのパターン(試験条件)において吊りボルトが破断した際のそれぞれの落下防止効果を確認した。
【0055】
(1)実験方法
鉄骨架台に4本の吊りボルトを設置して物品を吊り下げ、後述(2)の4種類の試験条件にて、鉄骨架台に設置したアクチュエータを用いて水平1軸方向(X軸)へ加振した。アクチュエータ稼働部に鋼材を介してアルミ板(8mm厚)を設置し、アルミ板から吊り物品を吊りボルトによって支持した。全ての試験条件における吊り支持機器の吊長さ(鉄骨架台の吊元から吊り物品が支持される箇所までの長さ。例えば
図10(B)の符号48から符号51までの長さ。)は1000mmとした。加速度はアクチュエータ稼働部に取り付けた鋼材及び吊り物品で水平(X軸)方向を加速度計で測定し、変位は加速度計設置箇所にレーザー変位計を照射し、水平方向(X軸)の変位を計測した。吊り物品は天井カセット型エアコン室内機2方向吹出形(機器)を用いた。鉄骨架台などの機器・用具の仕様を表1に示す。
【0057】
(2)試験条件
試験条件(4パターン)は下記及び表2のとおりである。
【0058】
(A)対策無し
振れ止め補強及び落下防止対策無し。吊り物品の共振周波数を確認する試験である(図示せず)。
【0059】
(B)比較例1
落下防止策として、4本の吊りボルトの各機器支持部近辺(
図10(A)において機器支持部51に設置された丸ワッシャ型金具46)から外側に向け(いわば放射状に)、それぞれ1本のワイヤ(一例として符号43で示される)を、余長(弛み)が生じないように張るものとした(
図10(A))。
より詳細には、アルミ板から加振方向に対して平行に固定した穴あきアングルにアイボルト44を設置し、機器支持部51の下部の吊りボルト45に丸ワッシャ型金具46をナット47で固定し、アイボルト44と丸ワッシャ型金具46の間にワイヤ43を張った。ある機器吊元48からその外側のワイヤ吊元49までの距離は、加振による吊元変位により穴あきアングル端部が鉄骨架台へ衝突しない最大距離810mm〜850mmとした。
【0060】
(C)比較例2
落下防止策として、4本の吊りボルトの各機器支持部から、1本のワイヤ43を、機器吊元48からワイヤ吊元50までの距離を比較例1よりも短くし、かつワイヤ43の余長(弛み)が生じるように張るものとした(
図10(B))。
より詳細には、機器吊元48からワイヤ吊元50までの距離を100mmとし、ワイヤ43は機器吊長さ(機器吊元48から機器支持部51まで。1000mm。)に対し100mmの余長をもたせ、ワイヤ43を弛ませた状態とした。使用した用具(穴あきアングル、アイボルト、丸ワッシャ型金具、ワイヤその他)は、比較例1で用いたものと同様である。
【0061】
(D)本発明
落下防止策として、前記第2実施形態に記載のものを採用した(
図10(C))。
より詳細には、ワイヤ吊元を機器吊りボルト45と併用し、
図7に示されるように構成した。すなわち、4本の各吊りボルトに対し、介在具であるナット34を吊元に取り付け、
図2(B)〜(D)に示される第1取付け部材13を、これらの各ナット(介在具)と、固定用部材であるナット19(
図3(B))で挟み込んで固定させた。
図4で示される第2取付け部材を、機器支持部下部の吊りボルト45に取り付けた。また、2本のワイヤを
図8に示すように架設した(1本のワイヤを、対角線上に位置する2本の吊りボルトに取り付け、別の1本のワイヤを、もう一組の対角線上に位置する2本の吊りボルトに取り付けた)。なお、
図10(C)においては、ワイヤ43の、第1取付け部材13の上側を通り、他の第1取付け部材にわたる部分を省略している。ワイヤは、余長(弛み)が生じないように張った。
【0063】
(3)実験結果
試験条件(A)の共振周波数は0.7Hzとなった。
【0064】
試験条件(B)(比較例1)において、加振により吊りボルトは座屈し、破断した。吊りボルト破断後も、ワイヤにより吊り支持機器は落下せず、落下防止用具の破損も発生しなかった。試験条件(B)の共振周波数は1.3Hzとなり、試験条件(A)の共振周波数に対して約2倍となったため、ワイヤは、落下防止に加え、吊り支持機器の振れ止め効果を有している。
しかし、加振により吊りボルトが吊り支持機器に対し外側に曲がると、ワイヤは弛むため、吊りボルトの曲げ半径に沿った経路で機器支持部が移動する。吊りボルトが吊り支持機器に対し内側へ曲がると、ワイヤの可動範囲に沿って機器支持部が移動し、吊りボルトに圧縮力が加わり、圧縮力が吊りボルトの座屈荷重を超え、吊りボルトが座屈した。そのため、この比較例1は、ワイヤの可動範囲と吊りボルト曲げ半径のずれにより吊りボルトに圧縮力が加わりやすく、試験条件(A)では吊りボルトが座屈しない加振波(地震応答波)においても座屈の可能性がある。この点から、比較例1は落下防止策として適切でないことが判明した。
【0065】
試験条件(C)(比較例2)において、加振により吊りボルトは座屈し、破断した。吊りボルト破断後は、ワイヤの余長分(100mm)ほど吊り支持機器の落下が生じたが、それ以上は落下せず、落下防止用具の破損も発生しなかった。試験条件(C)の共振周波数は0.7Hzとなった。以上から、比較例2の落下防止効果は確認された。
ただし、試験条件(C)((B)も)は、落下防止具の施工において、手間・時間がかかった。例えばこれらを既存設備に適用する場合、アイボルトを固定するアングル材や鋼材、天井スラブへのあと施工アンカー等を準備する必要が生じるため、落下防止のための施工に手間、時間、費用がかかるのみならず、施工作業を一人で行うことも困難となることが確認された。なお、既設状況によっては、施工(落下防止具の後付け)ができないこともあり、仮に施工できる場合も容易でないことが推測された。
【0066】
試験条件(D)(本発明)において、加振により吊りボルトは座屈し、破断した。共振周波数は0.7Hzとなった。吊りボルト破断後は、吊り支持機器の落下は生じず、落下防止用具の破損も発生しなかった。よって、試験条件(D)(本発明)の落下防止効果が確認された。
また、試験条件(D)(本発明)は、落下防止具の施工において試験条件(B)(C)のような手間、時間等がかからなかった。
【0067】
以上から、本発明の落下防止効果が確認されるとともに、落下防止対策として適切であることが確認された。