特許第6817270号(P6817270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6817270レーザ装置、樹脂劣化検出方法、及び光パワーの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817270
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】レーザ装置、樹脂劣化検出方法、及び光パワーの検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/00 20060101AFI20210107BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20210107BHJP
   H01S 3/067 20060101ALI20210107BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   H01S3/00 G
   G02B6/42
   H01S3/067
   G01H17/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-191689(P2018-191689)
(22)【出願日】2018年10月10日
(65)【公開番号】特開2020-61456(P2020-61456A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【弁理士】
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】杉山 直行
【審査官】 百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/107736(WO,A1)
【文献】 特開2007−121166(JP,A)
【文献】 特開2017−194497(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0254594(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
G01H 17/00
G02B 6/00−6/25
G02B 6/36−6/54
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を伝搬する光ファイバと、
前記光ファイバを固定する樹脂と、
前記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに前記樹脂が収縮することにより生じる音を検出する音センサと、
前記樹脂が収縮する際に生じる音に関する閾値を保存する記憶部と、
前記音センサにより検出された音を表す検出値と前記記憶部に保存された閾値とを比較し、前記検出値が前記閾値を超えた場合に、前記樹脂が劣化したと判断する比較判断部と
を備える、レーザ装置。
【請求項2】
前記閾値は、特定の周波数又は特定の周波数帯域における音の振幅に関する閾値であり、
前記音センサにより検出された音を表すデータを周波数解析して前記特定の周波数又は前記特定の周波数帯域の振幅を前記検出値として前記比較判断部に出力する解析部をさらに備える、
請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記光ファイバに接続される1以上のファイバレーザを備える、請求項1又は2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
光ファイバを固定する樹脂の劣化を検出する方法であって、
所定の閾値を設定し、
前記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに前記樹脂が収縮することにより生じる音を検出し、
前記検出された音を表す検出値と前記閾値とを比較し、
前記検出値が前記閾値を超えた場合に、前記樹脂が劣化したと判断する、
樹脂劣化検出方法。
【請求項5】
前記閾値は、特定の周波数又は特定の周波数帯域における音の振幅に関する閾値であり、
前記検出値と前記閾値とを比較する際に、前記検出された音を表すデータを周波数解析して前記特定の周波数又は前記特定の周波数帯域の振幅を前記検出値として前記閾値と比較する、
請求項4に記載の樹脂劣化検出方法。
【請求項6】
前記閾値を設定する際に、
前記樹脂が劣化する前に、前記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに前記樹脂が収縮することにより生じる基準音を検出し、
前記検出された基準音に基づいて前記閾値を決定する、
請求項4又は5に記載の樹脂劣化検出方法。
【請求項7】
光ファイバを固定する樹脂が収縮することにより生じる音を検出し、
前記検出された音に基づいて、前記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したことを検出する、
光パワーの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置、樹脂劣化検出方法、及び光パワーの検出方法に係り、特にレーザ装置において光ファイバを固定する樹脂の劣化を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、ファイバレーザからのレーザ光を加工ヘッドから被加工物に照射して被加工物を加工するレーザ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなレーザ装置において、被加工物が反射率の高い材料(例えば銅や金)から形成されている場合には、被加工物に照射されたレーザ光が高い割合で反射されるため、この反射した光が加工ヘッドを通じてレーザ装置の内部に戻ってくることがある。
【0003】
レーザ装置に戻る光の量が多くなると、レーザ装置内の構成部品(例えば出力コンバイナ)が戻り光によって発熱し、光ファイバの焼損や断線などの故障を引き起こす。これを防止するために、レーザ装置内を伝搬する戻り光を検出し、その量が所定の閾値を超えたときに、レーザ装置を停止する方法も考えられている。
【0004】
しかしながら、このような戻り光が繰り返しレーザ装置に戻ってくると、光ファイバなどを固定するための樹脂に戻り光の一部が吸収され、この樹脂が次第に劣化してしまう。この結果、検出される戻り光の量が上記閾値を超える前に樹脂の部分から故障に至ってしまうことがある。
【0005】
したがって、レーザ装置の故障を防止するためには、光ファイバなどを固定する樹脂の劣化を検出することが重要となるが、このような樹脂は外部から見えない位置にあることが多く、樹脂の劣化を確認することが難しい。また、外部から樹脂が見えたとしても、目視では分からないような樹脂の劣化もあり得るため、樹脂の劣化を正確に検出することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−21099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、光ファイバを固定する樹脂の劣化を効果的に検出することができるレーザ装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、光ファイバを固定する樹脂の劣化を効果的に検出することができるレーザ装置が提供される。このレーザ装置は、レーザ光を伝搬する光ファイバと、上記光ファイバを固定する樹脂と、上記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに上記樹脂が収縮することにより生じる音を検出する音センサと、上記樹脂が収縮する際に生じる音に関する閾値を保存する記憶部と、上記音センサにより検出された音を表す検出値と上記記憶部に保存された閾値とを比較し、上記検出値が上記閾値を超えた場合に、上記樹脂が劣化したと判断する比較判断部とを備える。上記レーザ装置は、上記光ファイバに接続される1以上のファイバレーザを備えていてもよい。
【0009】
このような構成によれば、光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに樹脂が収縮することにより生じる音(樹脂収縮音)を利用して、樹脂の劣化を検出することができる。このような樹脂収縮音を利用して樹脂の劣化を検出することができるため、目視では判断できないような劣化を検出することができる。また、外部から樹脂が見えないような構造のレーザ装置においても樹脂の劣化を検出することができる。また、樹脂の劣化を検出することができるので、レーザ装置が故障に至る前に停止や警告などの措置を取ることが可能となる。
【0010】
上記閾値は、特定の周波数又は特定の周波数帯域における音の振幅に関する閾値であってもよい。この場合において、上記レーザ装置は、上記音センサにより検出された音を表すデータを周波数解析して上記特定の周波数又は上記特定の周波数帯域の振幅を上記検出値として上記比較判断部に出力する解析部をさらに備えることが好ましい。このように、樹脂収縮音を表すデータを周波数解析して得られる結果を用いて閾値と比較することにより、より正確に樹脂の劣化を検出することが可能となる。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、光ファイバを固定する樹脂の劣化を効果的に検出することができる方法が提供される。この方法では、所定の閾値を設定し、上記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに上記樹脂が収縮することにより生じる音を検出し、上記検出された音を表す検出値と上記閾値とを比較し、上記検出値が上記閾値を超えた場合に、上記樹脂が劣化したと判断する。
【0012】
この方法によれば、光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに樹脂が収縮することにより生じる音(樹脂収縮音)を利用して、樹脂の劣化を検出することができる。このような樹脂収縮音を利用して樹脂の劣化を検出することができるため、目視では判断できないような劣化を検出することができる。また、外部から樹脂が見えないような構造のレーザ装置においても樹脂の劣化を検出することができる。
【0013】
上記閾値は、特定の周波数又は特定の周波数帯域における音の振幅に関する閾値であってもよい。この場合には、上記検出値と上記閾値とを比較する際に、上記検出された音を表すデータを周波数解析して上記特定の周波数又は上記特定の周波数帯域の振幅を上記検出値として上記閾値と比較することが好ましい。このように、樹脂収縮音を表すデータを周波数解析して得られる結果を用いて閾値と比較することにより、より正確に樹脂の劣化を検出することが可能となる。
【0014】
上記樹脂が劣化する前に、上記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したときに上記樹脂が収縮することにより生じる基準音を検出し、上記検出された基準音に基づいて上記閾値を決定してもよい。このような閾値を用いることで、劣化する前の状態との比較が可能となるので、より正確に樹脂の劣化を検出することができる。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、光ファイバを伝搬する光のパワーを検出することができる方法が提供される。この方法では、光ファイバを固定する樹脂が収縮することにより生じる音を検出し、上記検出された音に基づいて、上記光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したことを検出する。
【0016】
この方法によれば、光ファイバを固定する樹脂が収縮することにより生じる音を用いて、光ファイバを伝搬する光のパワーがピーク値から低下したことを検出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光ファイバを固定する樹脂が収縮することにより生じる音を利用して、樹脂の劣化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1Aは、戻り光により音が発生する現象を説明するための図である。
図1B図1Bは、戻り光により音が発生する現象を説明するための図である。
図2図2は、本発明の一実施形態におけるレーザ装置を模式的に示す図である。
図3図3は、図2のレーザ装置の出力コンバイナ及び音センサを模式的に示す図である。
図4A図4Aは、閾値を決定する際に図2の音センサにより検出される基準音を表す電圧データを示すグラフである。
図4B図4Bは、図4Aに示す電圧データを離散フーリエ変換して得られた周波数スペクトルを示すグラフである。
図5図5は、図2のレーザ装置の動作を示すフローチャートである。
図6A図6Aは、運転時に図2の音センサにより検出される音を表す電圧データを示すグラフである。
図6B図6Bは、図6Aに示す電圧データを離散フーリエ変換して得られた周波数スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る樹脂劣化検出方法及びレーザ装置の実施形態について図1Aから図6Bを参照して詳細に説明する。なお、図1Aから図6Bにおいて、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、図1Aから図6Bにおいては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や一部の構成要素が省略されている場合がある。また、以下の実施形態では、本発明に係るレーザ装置の例として、ファイバレーザを用いたレーザ装置について説明するが、本発明は、レーザ光を出力する任意のレーザ装置に適用できるものである。
【0020】
本発明者は、上述した戻り光に起因するレーザ装置の故障を防止すべく、戻り光による樹脂の劣化を効果的に検出する方法について鋭意研究を重ねたところ、戻り光によって樹脂が発熱して膨張し、戻り光のパワーがピーク値から低下した際に樹脂が収縮して音が発生することを発見した。
【0021】
図1Aに示すように、光ファイバ110に戻り光が伝搬すると、例えば出力コンバイナ内の光ファイバ110を固定する樹脂120に戻り光の一部が吸収され、図1Aの下側のグラフに示すように、その樹脂120の部分130の温度が局所的に上昇する。これに伴い、その樹脂120の部分130が熱膨張により延びる。その後、戻り光がなくなるか、あるいは戻り光の光量が低下すると、図1Bの下側のグラフに示すように、熱膨張した樹脂120の部分130の熱が周囲に拡散し、この部分130の温度が下がる。これにより、熱膨張した部分130が元の状態まで収縮する。このような樹脂120の局所的な膨張と収縮のサイクルによって、樹脂120が固定されている構造(例えば出力コンバイナ)が振動し、この結果、音が発生する。換言すれば、光ファイバ110を伝搬する戻り光のパワーがピーク値から低下したときに音が発生する。したがって、光ファイバ110を固定する樹脂120が収縮することにより生じる音(以下、「樹脂収縮音」という)を検出することにより、光ファイバ110を伝搬する戻り光のパワーがピーク値から低下したことを検出することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明者は、この樹脂収縮音を様々な条件でサンプリングしたところ、樹脂120の劣化とともに樹脂収縮音の強さが大きくなることを見出した。したがって、劣化したと判断すべき状態の樹脂120の樹脂収縮音の強さを閾値とし、樹脂120から発生する樹脂収縮音の強さがこの閾値を超えるか否かによって、樹脂120の劣化を判断することが可能となる。
【0023】
発生する樹脂収縮音の周波数は、樹脂120が膨張収縮する位置や周囲の構造、樹脂120の固定方法等によって定まる固有振動数に依存する。したがって、樹脂120が膨張収縮する際に発生する樹脂収縮音を周波数解析して、例えばこの固有振動数に対応する特定の周波数又は特定の周波数帯域の振幅を取得し、これを閾値と比較することでより正確に樹脂120の劣化を判断することができる。
【0024】
図2は、このような樹脂劣化検出方法を応用したレーザ装置1を模式的に示す図である。図2に示すように、このレーザ装置1は、レーザ光源としての複数のファイバレーザユニット10と、それぞれのファイバレーザユニット10に接続される光ファイバ12と、光ファイバ12に接続される出力コンバイナ20と、出力コンバイナ20に接続される光ファイバ22と、光ファイバ22に接続される加工ヘッド30と、レーザ装置1の動作を制御する制御部40と、出力コンバイナ20の近傍に配置された音センサ50とを備えている。
【0025】
それぞれのファイバレーザユニット10は光共振器を内部に含んでおり、この光共振器により増幅されたレーザ光を出力するように構成されている。これらのファイバレーザユニット10から出力されたレーザ光は、光ファイバ12内を伝搬して、出力コンバイナ20で合波されて1本の光ファイバ22に出力される。合波されたレーザ光は、光ファイバ22を通って加工ヘッド30に至り、加工ヘッド30内の光学系によって集束レーザ光Lとなって被加工物100に照射される。
【0026】
図3は、出力コンバイナ20及び音センサ50を模式的に示す図である。図3に示すように、出力コンバイナ20は、入力側の光ファイバ12と出力側の光ファイバ22とを収容する溝24が形成されたファイバ収容部26を含んでいる。この溝24の一方の端部には、ファイバレーザユニット10から延びバンドル化された複数の光ファイバ12が樹脂28によりファイバ収容部26に固定されている。溝24の他方の端部には、加工ヘッド30に延びる光ファイバ22が樹脂29によりファイバ収容部26に固定されている。本実施形態では、音センサ50が樹脂28の近傍に配置されている。
【0027】
それぞれの光ファイバ12の端部では長手方向に沿って所定の長さで被覆材が除去されており、これにより光ファイバ12のクラッド12Aが露出している。同様に、光ファイバ22の端部では長手方向に沿って所定の長さで被覆材が除去されており、これにより光ファイバ22のクラッド22Aが露出している。これらのクラッド12A及びクラッド22Aが露出している部分は樹脂28と樹脂29の間に配置されている。光ファイバ12のクラッド12Aは、光ファイバ22のクラッドの径に適合するようにテーパ状に径が細くなっており、この光ファイバ12のテーパ部と光ファイバ22のクラッド22Aとが融着接続されている。
【0028】
例えば、図2に示すように、集束レーザ光Lを被加工物100の表面に対して垂直に照射した場合などには、集束レーザ光Lの一部が被加工物100の表面で反射し、加工ヘッド30からレーザ装置1の内部に戻ることがある。このようにレーザ装置1の内部に入射した戻り光は、出力コンバイナ20に至り、一部が例えば光ファイバ12を固定している樹脂28に吸収され、樹脂28が劣化することがある。本実施形態では、この樹脂28の劣化を上述した方法により検出している。
【0029】
音センサ50は、樹脂28の近傍に配置されており、戻り光による加熱によって樹脂28が膨張収縮する際に発生する音(樹脂収縮音)を検出するように構成されている。音センサ50は、所定のサンプリングレートで音を検出し、検出した音を例えば電圧の変化(電圧データ)として外部に出力するようになっている。このような音センサ50としては、樹脂収縮音を検出できるものであればどのようなものであってもよく、動電型音センサ、静電型音センサ(コンデンサマイク)、圧電型音センサ(圧電マイク)など各種の音センサを用いることができる。
【0030】
図2に示すように、レーザ装置1は、音センサ50に接続される演算処理部42と、ハードディスクやROM、RAMなどから構成される記憶部44とを備えている。記憶部44には、樹脂28の樹脂収縮音に関する閾値が保存されている。この閾値の詳細については後述する。演算処理部42には、音センサ50から電圧データが入力されるようになっている。
【0031】
演算処理部42は、音センサ50からの電圧データを離間フーリエ変換して周波数解析する解析部45と、解析部45により得られる周波数スペクトルにおける特定の周波数の振幅(検出値)と記憶部44に保存された閾値とを比較する比較判断部46とを含んでいる。比較判断部46は、特定の周波数の振幅が閾値を超えた場合に、樹脂28が劣化したと判断し、樹脂劣化信号Sを制御部40に送信するように構成されている。
【0032】
次に、記憶部44に保存される閾値について説明する。この閾値は、樹脂28が劣化する前に決定され、記憶部44に保存されることが好ましい。この閾値は、例えば以下のようにして決定される。
【0033】
まず、樹脂28が劣化する前に、所定のパワーのパルス光を加工ヘッド30からレーザ装置1に入射する。これにより樹脂28が加熱され温度が変化するため、樹脂28が膨張及び収縮し、樹脂収縮音(基準音)が発生する。音センサ50はこの基準音を所定のサンプリングレートで検出し、電圧データとして演算処理部42の解析部45に入力する。このとき、音センサ50では、例えば図4Aに示すような電圧データが取得される。
【0034】
演算処理部42の解析部45は、音センサ50から送られる図4Aに示すような電圧データを一定時間蓄積し、このデータを離間フーリエ変換する。これにより、図4Bに示すような周波数スペクトルが取得される。そして、この周波数スペクトルにおいて、例えば上述した固有振動数に対応する特定の周波数(注目周波数)の振幅を参照し、その振幅を上回る値を閾値として決定する。例えば、図4Bに示す周波数スペクトルにおいて約2.1kHzの振幅を参照すると約18mVであるので、閾値を35mVに決定する。このようにして決定された閾値(35mV)が記憶部44に保存される。なお、注目周波数をどこに設定するか及び注目周波数の振幅に対して閾値をどの程度高く設定するかは、上述した固有振動数をはじめとする様々なファクターにより決定される。
【0035】
次に、レーザ装置1の通常運転時の動作を説明する。図5は、レーザ装置1の動作を示すフローチャートである。図5に示すように、レーザ装置1の通常運転時には、音センサ50が所定のサンプリングレートで音を検出し、検出した音を電圧データとして演算処理部42の解析部45に入力する(ステップS1)。例えば、図6Aに示すような電圧データが音センサ50により取得され、演算処理部42の解析部45に入力される。なお、音センサ50のサンプリングレートは、サンプリングの定理から、上述した注目周波数の2倍を越える周波数である必要があり、上記の例では4.2kHzよりも高くする必要がある。
【0036】
演算処理部42の解析部45では、入力された電圧データを一定時間蓄積し、この電圧データを離間フーリエ変換する(ステップS2)。電圧データを蓄積する時間は、ある程度の長さがあればよく、例えば10ミリ秒とすることができる。この離散フーリエ変換により、周波数スペクトルが得られ、比較判断部46は、この周波数スペクトルにおける注目周波数(2.1kHz)の振幅が記憶部44に保存された閾値(35mV)を超えるかどうか判断する(ステップS3)。注目周波数の振幅が閾値を超えない場合は、音のサンプリング(ステップS1)に戻り、注目周波数の振幅が閾値を超える場合には、樹脂28が劣化していると判断し、樹脂劣化信号Sを制御部40に送信する(ステップS4)。
【0037】
図6Aに示す電圧データを離散フーリエ変換すると、図6Bに示すような周波数スペクトルとなる。この周波数スペクトルにおける注目周波数(2.1kHz)の振幅は約37mVであり、記憶部44に保存された閾値(35mV)を超えるため、比較判断部46は、樹脂28が劣化していると判断し、樹脂劣化信号Sを制御部40に送信することとなる。
【0038】
樹脂劣化信号Sを受けた制御部40は、例えば、ファイバレーザユニット10に供給している電流を止めてレーザ装置1を停止する(ステップS5)。これにより、レーザ装置1が故障に至る前にレーザ装置1を停止することができる。また、制御部40は、ファイバレーザユニット10に供給している電流を減少させてもよく、あるいは、他のユーザインタフェイス(例えば回転灯やディスプレイ、外部との通信手段)を通じてオペレータに樹脂28の劣化を通知してもよい。
【0039】
このように、本実施形態では、樹脂収縮音を利用して樹脂の劣化を検出することができるため、目視では判断できないような劣化を検出することが可能である。また、音センサ50を出力コンバイナ20の外部に配置しても樹脂28の樹脂収縮音を検出することができ、外部から樹脂28が見えなくても樹脂28の劣化を検出することが可能である。
【0040】
また、上述した実施形態では、樹脂28が劣化する前の状態を反映した閾値を用いているため、レーザ装置1の運転時に現在の状態を樹脂28が劣化する前の状態と比較することができ、より正確に樹脂の劣化を検出することができる。
【0041】
上述した実施形態では、比較判断部46において、周波数スペクトルにおける特定の周波数の振幅を閾値と比較しているが、特定の周波数の振幅に代えて特定の周波数帯域の振幅の積分値を用いてもよい。さらに、上述した実施形態では、音センサ50で検出した音を表すデータ(電圧データ)を演算処理部42の解析部45で離散フーリエ変換しているが、離散フーリエ変換による周波数解析は必須ではなく、音センサ50で検出した音を表す電圧値などの検出値を閾値と比較してもよい。また、音センサ50で検出した音を表す検出値は、電圧値や電流値をはじめとする任意の物理量であり得る。
【0042】
また、上述した演算処理部42や記憶部44などは、レーザ装置1の動作を制御する制御部40と一体に設けてもよいし、あるいは制御部40とは別個に設けてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、出力コンバイナ20内の樹脂28の劣化を検出する例を説明したが、レーザ光により劣化し得る樹脂であれば任意の位置にある樹脂に対して本発明を適用することができる。例えば、クラッドモード光を除去する構造などにおいて光ファイバを固定する樹脂の劣化を検出するために本発明を適用することも可能である。
【0044】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
1 レーザ装置
10 ファイバレーザユニット
12 光ファイバ
12A クラッド
20 出力コンバイナ
22 光ファイバ
22A クラッド
24 溝
26 ファイバ収容部
30 加工ヘッド
40 制御部
42 演算処理部
44 記憶部
45 解析部
46 比較判断部
50 音センサ
100 被加工物
L 集束レーザ光
S 樹脂劣化信号
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B