【文献】
XU YONGHONG,PROMOTIVE EFFECTS OF CH-HCL CHITOSAN SOLUTION ON EPITHELIAL CORNEAL ABRASION IN RABBITS,WUHAN UNIVERSITY JOURNAL(MEDICAL SCIENCE EDITION),中国,2009年 3月,VOL:30, NR:2,PAGE(S):173 - 176,URL,https://www.researchgate.net/publication/288210278_Promotive_effects_of_ch-hcl_chitosan_solution_on_epithelial_corneal_abrasion_in_rabbits
【文献】
HOELLER SONJA,SAFETY AND TOLERABILITY OF CHITOSAN-N-ACETYLCYSTEINE EYE DROPS IN HEALTHY YOUNG VOLUNTEERS,ARVO ANNUAL MEETING ABSTRACT,2011年,PAGE(S):1-2,URL,https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2355988
【文献】
GERHARD GARHOFER,CHITOSAN-N-ACETYLCYSTEINE EYE DROPS,ONLINE,2011年11月,PAGE(S):49-50,URL,http://bmctoday.net/crstodayeurope/pdfs/CRSTE1111_feature_pflugfelder_2.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
角膜創傷の治療における使用のための、担体溶液中に、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む滅菌水性点眼液であって、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンの遊離チオール基の含量が、80μmol/ポリマー1g〜280μmol/ポリマー1gである、点眼液。
治療される角膜創傷が、非治癒性角膜上皮欠損、遷延性角膜上皮欠損、治癒遅延性角膜上皮欠損、および神経障害性(神経栄養性)上皮欠損からなる群から選択される上皮欠損である、請求項1に記載の使用のための点眼液。
前記溶液中のN−(N−アセチルシステイニル−)キトサンまたは前記その薬学的に許容可能な塩の濃度が、0.05〜0.3%(w/w)、好ましくは0.05〜0.2%(w/w)、より好ましくは0.08〜0.16%(w/w)である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための点眼液。
N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンの遊離チオール基の含量が、105μmol/ポリマー1g〜250μmol/ポリマー1g、好ましくは110μmol/ポリマー1g〜250μmol/ポリマー1g、最も好ましくは140〜250μmol/ポリマー1gである、請求項1から6のいずれかに記載の使用のための点眼液。
N−(N−アセチルシステイニル−)キトサン中の架橋チオール基の量が、その中の全チオール基の30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは15%以下である、請求項1から7のいずれかに記載の使用のための点眼液。
【背景技術】
【0002】
機械的角膜損傷は、最も一般的な眼科的損傷である。それは多くの場合、物理的外力の影響(例えば、木の枝、指の爪、メイクアップ用アプリケーター)によって生じ、その結果、角膜表面の小さな部分または大きな部分に傷害を引き起こす。異物が関連する剥離は、典型的には、角膜に入り込んだ浮遊粉塵片(金属片、木材片、ガラス片など)によって生じる。異物を除去した後に、角膜上皮に欠損が残される。コンタクトレンズが関連する剥離は、角膜上皮の欠損であり、これはコンタクトレンズの過度の使用もしくは不適切なフィッティングでの装着、またはコンタクトレンズの不適切な洗浄によって生じる。
【0003】
化学的角膜損傷は、角膜外傷のもう1つの原因である。アルカリ性または酸性物質に曝露すると、角膜表面に広範囲に及ぶ傷害が生じることがある。
【0004】
角膜上皮傷害もまた、眼の保護を適切に行わなかったことに起因して、紫外線光への強い曝露(光線角膜炎)の結果として生じる(例えば、雪盲)。角膜創傷はまた、白内障手術、角膜移植、緑内障ろ過手術、ならびに光学的屈折矯正角膜切除術(PRK)およびレーザー角膜内切削形成術(LASIK)などの屈折矯正手術などの外科手術の結果としても、または硝子体切除術などの眼内手術の角膜合併症としても生じる(Hammil、M.Bowes、2011、Mechanical Injury.In Krachmer、Mannisら(編):Cornea[第3版]Elsevier Inc.:1169〜1185ページ)。
【0005】
再発性角膜びらんは、角膜上皮の破壊が繰り返し発現することに特徴づけられる。これは、上皮基底膜ジストロフィーなどの角膜ジストロフィーによって生じることがあり、またはこれは、わずかな角膜外傷もしくは剥離の結果とされることがある(Steele、Chris、1999、The role of therapeutic contact lenses in corneal wound healing、Optometry today(October 8):36〜40ページ)。上皮層の破壊または喪失は、角膜表面の完全性を損なうことにつながる。したがって、角膜びらんと関連する角膜創傷は、主に上皮傷害である。1〜2週間経っても治癒しない、または治癒と破壊とを繰り返す上皮欠損は、例えば、非治癒性角膜上皮欠損、遷延性角膜上皮欠損、治癒遅延性角膜上皮欠損、および神経障害性(神経栄養性)上皮欠損である。
【0006】
典型的な散在性の、微細な、点状の角膜上皮喪失または傷害を伴う他の上皮欠損は、いわゆる点状表層角膜炎(SPK)である。この角膜の炎症は、ウイルス性結膜炎(最も一般にはアデノウイルス)、眼瞼炎、乾性角結膜炎、トラコーマ、化学熱傷、紫外線(UV)光曝露(例えば、溶接アーク、太陽灯、雪の照り返しによる光)、コンタクトレンズの過度の装着、全身用薬物(例えば、アデニンアラビノシド)、局所用薬物、または防腐剤による毒性、および末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺を含む)などのさまざまな原因の結果であり得る。したがって、SPKは感染症ならびに非感染性の原因によって生じることがある。
【0007】
非感染性角膜創傷の治療は、痛み止めを全身的におよび/または局所的に投与することを介した患者の症状の軽減、(必要と判断された場合)抗生物質を局所的に滴下することを介した感染症の予防、ならびに角膜上皮の保護の3つの目的を有する。角膜移植などの外科的処置は典型的には、術後期のさらなる投薬を必要とするが、角膜表面の保護用および潤滑用の点眼薬は治療法の一部である。
【0008】
角膜上皮の保護は、角膜上皮損傷後の主な治療目標であって、上皮の再生および無傷眼表面の再構築を可能にする。現在の治療選択肢としては、眼用潤滑剤の使用、治療用ソフトコンタクトレンズ(包帯レンズ)、または眼のパッチ貼付がある。コンタクトレンズも眼用パッチも患者に目の不快感をもたらす場合があり、治癒に時間がかかり、かつ細菌性角膜炎の危険性を高めることがある。したがって、その使用は眼科医によって厳重に監視されなければならい。眼用パッチの関連においてはまた、組織工学も研究される。ヒドロキシエチルキトサン、ゼラチン、および硫酸コンドロイチンを含み、角膜上皮細胞が播種され、機械的傷害角膜上皮に移植される人工ブレンド膜は、ウサギにおいて、術後2〜4日目に傷害面積のサイズを減少することが報告された(Liangら、2014、Tissue−engineered membrane based on chitosan for repair of mechanically damaged corneal epithelium、Journal of Materials Science:Materials in Medcine(25):2163〜2171ページ)。ヒアルロン酸を含む製剤は、一般的に眼用潤滑剤として使用される。これを急性期の治癒中、1日4回適用するときに、角膜上皮の治癒を促進することが報告された(Stiebel−Kalishら、1998、A comparison of the effect of hyaluronic acid versus gentamicin on corneal epithelial healing、Eye(12):829〜833ページ)。再発性角膜びらんの場合、剥離が治癒した後に、予防対策として潤滑治療法を最短でも6カ月間継続しなくてはならない(Steele、Chris、1999、The role of therapeutic contact lenses in corneal wound healing、Optometry today(October 8):36〜40ページ)。
【0009】
キトサンは、局所用包帯剤として皮膚創傷の管理に広く使用されてきた(Dai、Tanakaら、2011、Chitosan preparations for wounds and burns:antimicrobial and wound−healing effects、Expert Rev Anti Infect Ther(9):857〜879ページ)。チオール化炭水化物(チオール化キトサンを含む)の使用もまた、創傷包帯剤の調製に提唱されてきた(EP1487508 Johnson&Johnson「Therapeutic compositions comprising modified polysaccharides」)。
【0010】
1.5%キトサンHClを含む点眼薬は、ウサギモデルにおける角膜上皮の治癒プロセスを促進する点で、ウシ組換え型塩基性線維芽細胞増殖因子点眼薬と効果が類似することが認められた。0.5%キトサンHClを含む点眼薬を1日3回適用すると、こうした促進効果の程度が著しく劣ることが示され、陰性対照よりもわずかに優れて機能した(Yonghon Xuら、2009、Promotive Effects of CH−HCL Chitosan Solution on Epithelial Corneal Abrasion in Rabbits、Wuhan University Journal Medical Section 30(2):173〜176ページ)。しかし、キトサンの角膜創傷治癒に対する効果の報告は、相反する。1%のキトサン溶液では、ウサギモデルを使用した研究において1日3回、3週間適用したときに、角膜創傷治癒を改善することができなかった(Sall、Kreterら、1987、The effect of chitosan on corneal wound healing、Ann Ophthalmol(19):31〜33ページ)。別の研究グループからは、0.5%キトサン溶液が、ウサギ角膜を器官培養でインキュベートしてから24時間後に、角膜創傷治癒を刺激したことが報告された(Cuiら、2014、Chitosan promoted the corneal epithelial wound healing via activation of ERK MAPK Pathway、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.55(13):499ページ)。
【0011】
WO2011/127144では、角膜創傷を治療するためのキトサン−アルギニンポリマーの使用を含む、いくつかの異なる創傷治癒用途のための誘導体化キトサンの使用が開示されている。ウサギ角膜のアルカリ熱傷モデルにおいて、キトサン−アルギニン誘導体を含む製剤を1日4回、9日間適用すると、炎症が縮小し、かつ創傷治癒が加速された。別の粘膜付着性ポリマーであるカラマツアラビノガラクタンは、5%溶液として1日3回、3日間適用したときに、ビヒクル対照と比較して角膜創傷の治癒速度を著しく高めることが報告された(Burgalassi、Nicosiaら、2011、Arabinogalactan as active compound in the management of corneal wounds:in vitro toxicity and in vivo investigations on rabbits、Curr Eye Res(36):21〜28ページ)。
【0012】
ポリマーのチオール化が、それらの粘膜付着特性をさらに増加させるために開示されている。EP1126881B1では、少なくとも1つの非末端チオール基を含む粘膜付着性ポリマーが開示されている。組織増強用の埋込体を調製するためのチオール化多糖類の使用は、WO2008/077172で開示され、前記チオール化ポリマーが、ポリマー網目構造の安定化をもたらすジスルフィド結合の形成によって特徴づけられている。WO2008/077172の優先権主張出願であるA2136/2006は、チオール化ポリマーのさらなる適用分野を開示している。
【0013】
チオール基を有する配位子の共有結合によるキトサンの修飾(すなわち、チオール化)が開示されている。チオール化が、キトサンの粘膜付着特性を増加することも開示されている(KastおよびBernkop−Schnurch、2001、Thiolated polymers−thiomers:development and in vitro evaluation of chitosan−thioglycolic acid conjugates、Biomaterials(22):2345〜2352ページ;Bernkop−Schnurch、Hornofら、2004、Thiolated chitosans、Eur J Pharm Biopharm(57):9〜17ページ;Bernkop−Schnurch、2005、Thiomers:a new generation of mucoadhesive polymers、Adv Drug Deliv Rev(57):1569〜1582ページ;Schmitz、Grabovacら、2008、Synthesis and characterization of a chitosan−N−acetyl cysteine conjugate、Int J Pharm(347):79〜85ページ)。いくつかのチオール化キトサンの抗菌有効性が同様に評価された(WO2009132226A1;WO2009132227A1;WO2009132228A1;Geisberger、Gyengeら、2013、Chitosan−thioglycolic acid as a versatile antimicrobial agent、Biomacromolecules(14):1010〜1017ページ)。
【0014】
N−アセチルシステイン(NAC)は、チオール基を有するアミノ酸L−システインの誘導体である。NACは、抗酸化活性を有する還元剤である。また、ムチンジスルフィド結合を還元することによって、粘液粘度を低下させるその能力もよく知られている。これらの粘液溶解特性のため、NACは、過度の粘液産生を伴う気管支肺障害において粘液粘度を低下するために広く使用される。粘液溶解および抗酸化剤であるNACを含む局所用眼科用製剤は、マイボーム腺機能障害およびDESなどの角膜疾患の治療に使用される(Lemp、2008、Management of dry eye disease、Am J Manag Care(14):S88〜101ページ;Akyol−Salman、Aziziら、2010、Efficacy of topical N−acetylcysteine in the treatment of meibomian gland dysfunction、J Ocul Pharmacol Ther(26):329〜333ページ)。EP0551848B1では、3%から5%(w/v)の間の濃度のNACおよびポリビニルアルコールを含む、DESの治療のための眼科用医薬組成物が開示されている。NACを使用してキトサンをチオール化すると、ウサギ眼上のその眼滞留時間が、非チオール化キトサンと比較すると増加することが開示されている(Dangl、Hornofら、2009、In vivo Evaluation of Ocular Residence Time of
124I−labelled Thiolated Chitosan in Rabbits Using MicroPET Technology、ARVO Meeting Abstracts(50):3689ページ)。
【0015】
N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンHClが、マウスドライアイモデルにおけるマウス眼の眼表面に対していくつかの有益な効果を有することが開示されている(Hongyok、Chaeら、2009、Effect of chitosan−N−acetylcysteine conjugate in a mouse model of botulinum toxin B−induced dry eye、Arch Ophthalmol(127):525〜532ページ;Hornof、Goyalら、2009、Thiolated Chitosan for the Treatment of Dry Eye−Evaluation in Mice Using the Controlled−Environment Chamber Model、ARVO Meeting Abstracts(50):3663ページ)。Hoellerら、2011、Safety And Tolerability Of Chitosan−N−acetylcysteine Eye Drops In Healthy Young Volunteers、arvo annual meeting abstract search and program planner;Garhoferら、2011 Chitosan−N−Acetylcaxteine Eye Drops、Cataract&Refractive Surgery Today Europe、49〜50ページ)。
【0016】
チオール化ポリマーの種々の使用を再検討し、論じているさらなる刊行物を下記に挙げる:
【0017】
Hornofら、Mucoadhesive ocular insert based on thiolated poly(acrylic acid):development and in vivo evaluation in humans、Journal of Controlled Release 89(2003)419〜428ページ;Hornof,M.、In vitro and in vivo evaluation of novel polymeric excipients in the ophthalmic field、Thesis、University of Vienna、2003;Bernkop−Schnurchら、Permeation enhancing polymers in oral delivery of hydrophilic macromolecules:Thiomer/GSH systems、J.Contr.Release 93(2003)95〜103ページ;M.Hornofら、In Vitro Evaluation of the Permeation Enhancing Effect of Polycarbophil−Cystein Conjugates on the Cornea of Rabbits、J.Pharm.Sci.91(12)2002、2588〜2592ページ;およびClausenら、The Role of Glutathione in the Permeation Enhancing Effect of Thiolated Polymers、Pharm.Res.19(5)2002、602〜608ページ;Yamashitaら、Synthesis and Evaluation of Thiol Polymers、J.Macromol.Sc.26(1989)、9、1291〜1304ページ;Zhengら、Disulfide Cross−Linked Hyaluronan Hydrogels、Biomacromolecules 3(6)2002、1304〜1311ページ;Wangら、Chitosan−NAC Nanoparticles as a Vehicle for Nasal Absorption Enhancement of Insulin、J. Biomed Mater Res Part B:Appl Biomater 88B、150〜161ページ、2009;WO2008/094675A2;US5,412,076A。
【0018】
WO2015/169728では、担体溶液中に、約0.05%〜約0.5%(w/w)のN−(N−アセチルシステイニル−)キトサンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む滅菌水性点眼液であって、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンの遊離チオール基の含量が、80μmol/ポリマー1g〜280μmol/ポリマー1gである点眼液、ならびにドライアイ症候群の治療における前記溶液の使用が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
驚くべきことに、担体溶液中に、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む滅菌水性点眼液であって、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンの遊離チオール基の含量が、80μmol/ポリマー1g〜280μmol/ポリマー1gである、点眼液は、角膜創傷の治療に有効であることが見出された。
【0024】
好ましい実施形態において、前記角膜創傷は非感染性創傷であってもよい。
【0025】
別の好ましい実施形態において、前記角膜創傷はまた、角膜びらんと関連し得る。
【0026】
本発明に従って使用する点眼液は、角膜びらんの治療に特に適する。他の因子のうち、再発性角膜びらんは、角膜上皮の完全性に影響を及ぼす上皮基底膜ジストロフィー(コーガンジストロフィー)などの角膜ジストロフィーによって生じる場合がある。
【0027】
さらに、前記角膜創傷はまた、上皮欠損であってもよい。例えば、非治癒性角膜上皮欠損、遷延性角膜上皮欠損、治癒遅延性角膜上皮欠損、および神経障害性(神経栄養性)上皮欠損からなる群から選択してもよい。
【0028】
別の実施形態において、角膜創傷は、点状表層角膜炎(SPK)と関連し得る。
【0029】
下記において、「キトサン−NAC」という用語は、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンおよびその薬学的に許容可能な塩の両方を表す。
【0030】
いずれの理論にも束縛されるものではないが、キトサン−NACの有益な効果は、その粘膜付着性が改善され、その結果、眼滞留時間が延長されたことと、眼表面上の保護被膜を形成するその能力とによるものであり得る。
【0031】
角膜創傷の治療においてキトサン−NACを使用すると、必要な適用頻度が少なく、1日1回または2回のみであるというさらなる利点があることが見出された。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、前記点眼液中のN−(N−アセチルシステイニル−)キトサンまたは前記その薬学的に許容可能な塩の濃度は、0.05〜0.3%(w/w)、好ましくは0.05〜0.2%(w/w)、より好ましくは0.08〜0.16%(w/w)である。
【0033】
さらに、前記薬学的に許容可能な塩は、好ましくは、酢酸、クエン酸、ギ酸、および酒石酸などの有機酸の塩、ならびにHClおよびH
2SO
4などの鉱酸の塩からなる群から選択される。
【0034】
N−(N−アセチルシステイニル−)キトサンの遊離チオール基の含量は、好ましくは、105μmol/ポリマー1g〜250μmol/ポリマー1g、好ましくは110μmol/ポリマー1g〜250μmol/ポリマー1g、最も好ましくは140〜250μmol/ポリマー1gである。
【0035】
N−(N−アセチルシステイニル−)キトサン中の架橋チオール基の量は、その中の全チオール基の30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは15%以下であってもよい。
【0036】
水性点眼液中のキトサン−NAC上に固定化された遊離チオール基の量は、当業者によって、エルマン試薬を用いるなどの公知の方法で、測定することができる。
【0037】
水性点眼液中のキトサン−NACポリマー上の遊離チオール基の量が多いことが重要であるという事実に加えて、本発明の溶液中のキトサン−NACポリマー上の架橋チオール(ジスルフィド)の量が少ないことも好ましい。水性点眼液の調製および保存中に、キトサン−NAC上に固定化されたチオール基の架橋が生じることがある。製剤中に存在する架橋チオールの量が低いことは、本発明のキトサン−NACポリマー製剤の好ましいパラメータである。
【0038】
したがって、好ましい実施形態によれば、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサン中の架橋チオール基の量は、その中の全チオール基の30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは15%以下である。
【0039】
とりわけ、この好ましい実施形態において、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサン中の架橋チオール基の量は、溶液を室温で少なくとも12カ月間保存した後で、その中の全チオール基の30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは20%以下である。
【0040】
製剤中に存在する架橋チオール基の量が高すぎる場合は、水性点眼液の特性は所望のパラメータの範囲を超えて変化することになり、例えば、水性点眼液の粘度が、点眼薬に適切になるには高すぎることになるはずである。
【0041】
下記でより詳細に説明されるように、そのチオール基は架橋していないか、または架橋チオール基の量が、全チオール基の5%未満、好ましくは4%以下の架橋チオール基の量でなど、最小限に架橋されているのみである、キトサン−NACの製造が可能であることが見出された。とりわけ、もしこのようなキトサン−NACが本発明に従って使用する点眼液の製造に使用される場合、遊離チオール基は、溶液の全ライフサイクル中で、安定な傾向にある。
【0042】
そのため、製剤の製造中にこのようなキトサン−NACを使用すると、架橋チオール基の増加は、キトサン−NAC原材料に最初に存在する遊離チオール基の量の10%未満であることが見出された。さらに、12カ月、さらには18カ月を超える溶液の保存中では、架橋チオール基の増加は、製剤中に最初に存在する遊離チオール基の量の15%未満である。最終的に、酸素障壁をもたらす溶液の第2の容器(下記に定義されるような)が開封される場合でさえ、開封から30日後の架橋チオール基の増加は、開封前の製剤中に最初に存在する遊離チオール基の量の15%未満である。
【0043】
本質的に、本発明に従って使用するチオール化キトサン眼科用製剤は、下記のステップに従って作られる:
1.キチンを、小エビまたはズワイガニの殻などの甲殻類の殻より単離するステップ、
2.キトサンを、当技術分野で周知の化学的方法、例えば、アルカリ脱アセチル化によってキチンより調製するステップ;
3.キトサンを、本明細書で記述されるようなN−アセチルシステインを使用するなど、チオールを有する配位子の共有結合によってチオール化するステップ;
4.次いで、キトサン−NACを、本明細書で記述されるような水性点眼液の形態に配合するステップ;および
5.次いで、キトサン−NACを含む水性点眼液を、本明細書で記述されているようなその安定性を保証するはずの適切な容器に入れるステップ。
【0044】
本発明で使用されるキトサン−NACは、水性点眼液の調製に有用な濃度範囲内で水溶性であることが必要であり、結果として生じる溶液は、透明でかつ無色であることが必要である。キトサン−NACの有機酸または無機酸との塩の形成は、キトサンの水溶解度を増加させる。本発明のチオール化キトサンの適切な塩としては、酢酸、クエン酸、ギ酸、および酒石酸などの有機酸、ならびにHClおよびH
2SO
4などの鉱酸との任意の薬学的に許容可能な塩が含まれる。キトサン−NAC塩酸塩の使用は、本発明の好ましい実施形態である。
【0045】
重要なことは、合成および精製の後に、キトサン骨格上に固定化された本質的にすべてのチオール基が、遊離形態で、かつジスルフィドのような架橋された形態でなく、すなわち最小限の架橋のみで存在するような反応経路および反応条件が使用されることである。事実上、本発明のチオール化キトサン中のすべての結合チオールは、遊離チオール基の形態であり、すなわちそれらは架橋していない。合成中の最低量の架橋のみが、チオール化キトサンの粘度が規定のパラメータ内にとどまり、かつその水溶解度が水性点眼液の調製に十分である限り、許容可能である。
【0046】
その合成後に、例えばチオアセチル部分のアルカリ加水分解後に、キトサン−NACを還元剤へ曝露することによって、チオール基の架橋度が非常に低い、さらにはゼロのキトサン−NACを製造することが可能であることが見出された。還元剤は、DTT、TCEP、またはNaBH
4の群から選択してよく、NaBH
4が好ましい。さらに、還元ステップは、30℃以上または好ましくは40℃以上などの高温で行われるべきであることが見出された。さらに、還元剤のキトサン骨格ポリマーに対する化学量論比が2:1以上でなど、大量の還元剤の使用が必要とされる。
【0047】
架橋チオール基の程度が、全チオール基の5%未満、好ましくは4%以下のキトサン−NACポリマーを、本実施形態に従って合成することができる。
【0048】
本発明に従って使用する最終的なキトサン−NACの水溶液の粘度は、特定の範囲内に収まるのが好ましく、キトサン−NACの製造中に、キトサン−NACが特定の条件下および特定のパラメータ内で、特に最小限に架橋されたのみであるポリマーをもたらす上述の還元条件に従って処理される場合、キトサン−NACの粘度は、この好ましい範囲内のみに収まることが見出された。結果として生じる製品の粘度は、キトサン−NACが結果として生じる点眼薬製剤に最も有用になるような、許容可能な範囲内に収まるのが好ましい。そのため、キトサン−NACポリマーの動粘度(0.5%水溶液、25℃)は、好ましくは約1〜15mm
2/sの範囲内、より好ましくは約2〜10mm
2/sの範囲内である。粘度があまりにも高い場合、ポリマーが容器内で不溶性粘性物質として残る恐れがあるため、製剤中に好ましい濃度範囲のキトサン−NACを含む有用な点眼薬溶液を作ることができない。
【0049】
キトサン−NACは、本発明に従って使用する製剤において有用となるために精製される必要がある(上記のステップ3の後、とりわけ、キトサン−NACを還元剤で処理した後など)。キトサン−NACは、結果として生じる製品が純粋になるような方法で洗浄されるべきである。1つの公知の方法が、KastおよびBernkop−Schnurch、2001、Thiolated polymers−thiomers:development and in vitro evaluation of chitosan−thioglycolic acid conjugates、Biomaterials(22):2345〜2352ページで開示されている。
【0050】
別の方法は、キトサン−NACを極性溶媒で洗浄し、続いて、溶媒を除去するために乾燥することであろう。1つの好ましい溶媒は、それが非毒性であり、容易に入手でき、かつ経済的であるため、イソプロピルアルコールであるが、他の溶媒、およびイソプロピルアルコール以外の他のアルコールでも同じく有効であろう。この洗浄は、必要に応じて繰り返すことができ、その都度使用される溶媒の体積に依存する。洗浄および乾燥のステップは少なくとも1回は繰り返されることが好ましい。
【0051】
乾燥ステップは、室温でおよび標準湿度で行うことができるが、この方法は非常に時間がかかる恐れがある。したがって、乾燥方法は、高温でおよび/または減圧下で行うことが好ましい。キトサン−NACの乾燥は、好ましくは少なくとも約40℃〜約70℃の高温で、好ましくは少なくとも約5時間行われる。より好ましくは、乾燥方法は、少なくとも約50℃〜約60℃の温度で、約10〜24時間行われる。1つの好ましい多ステップ精製方法は、キトサン−NACポリマーを、イソプロピルアルコールで3回洗浄し、遠心分離し、続いて約60℃で約15〜20時間乾燥することによって固形物を回収することであろう。
【0052】
本発明に従って使用する水性点眼液は、少なくとも1つの眼適合性賦形剤を含むことができる。例えば、溶液の張度、粘度を調整すること、またはpHを安定させること、活性成分の溶解度を高めること、適用後の眼快適度を高めること、もしくは概して製剤を安定させることに適した任意の賦形剤を使用することができる。
【0053】
水性点眼液のpHは、任意の生理的におよび眼科用の許容可能なpH調整酸、pH調整塩基、またはpH調整緩衝液を添加することによって約5.5〜約7の範囲内のpHを有するように調整される。pHが約5.5を大きく下回ると、生理学的に許容可能なパラメータの範囲を超えるであろう(溶液によって、刺すようなまたは焼けるような激しい感覚が眼にもたらされるであろう)。pH7を大きく上回る場合、溶液から析出することがないキトサン−NACの安定な溶液を形成することは困難である。したがって、安定な溶液の配合を容易にするため、pHが7を下回るのが好ましい。本発明に従って使用する水性点眼液の好ましいpHは、約5.8から約6.8の間であり、pH6.0〜6.6が最も好ましい。
【0054】
本発明の製剤に使用される適切な酸の例としては、酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸、および類似のものが含まれ、塩基の例としては、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、トロメタミン、THAM(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、および類似のものが含まれる。好ましい実施形態は、ホウ酸−ホウ酸ナトリウム緩衝系であり、この緩衝系はまた、最も好ましいpH範囲である6.0〜6.6で緩衝能を高めるようなマンニトールなどのポリオールを含む。
【0055】
製剤の安定性を高めるために製剤で使用される適切な賦形剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na
2−EDTA)、メタ重亜硫酸ナトリウム、マンニトール、ポリエチレングリコール、および類似のものが含まれる。
【0056】
本発明で使用する局所用眼科用製剤の容量オスモル濃度は、概して、約150〜約400ミリオスモル(mOsM)であり、より好ましくは約200〜約350mOsMであり、約250〜約330mOsMの容量オスモル濃度が最も好ましい。容量オスモル濃度は、適切な量の生理的におよび眼科用の許容可能なイオン性または非イオン性の薬剤を使用することによって調整することができる。塩化ナトリウムは、一般的な浸透圧性薬剤である。カリウム、アンモニウム、および類似のものなどのカチオン、ならびに塩化物、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、重硫酸塩、および類似のものなどのアニオンで作られた1つまたは複数の等量の塩を、塩化ナトリウムに加えてまたはその代わりに使用し、上述の範囲内の容量オスモル濃度にすることができる。さらに、マンニトール、デキストロース、ソルビトール、グリセロール、グルコース、および類似のものなどの非イオン性薬剤も、容量オスモル濃度の調整に使用することができる。塩化ナトリウムおよびマンニトールが、浸透圧を調整するための好ましい薬剤である。
【0057】
眼科用製剤は、DESの治療に必要とされる定期的な適用に適した、高度な眼快適度をもたらす潤滑剤を含むことができる。ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、液体ポリオール、ヒアルロン酸、およびそれらの薬学的に許容可能な塩、ラブリシン、ならびにセルロース誘導体などの多くの種類の潤滑化剤がある;しかしながら、好ましい薬剤は、ポリエチレングリコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。
【0058】
好ましい実施形態において、本発明に従って使用する点眼液は、N−(N−アセチルシステイニル−)キトサン塩酸塩に加えて下記賦形剤を含む:
1.0〜16.0mg/ml、好ましくは8〜16mg/mlの量のホウ酸;
0.01〜5.0mg/ml、好ましくは1〜5mg/mlの量のポリエチレングリコール400;
0.01〜0.5mg/mlの量のNa
2−EDTA;
0.01〜5.5mg/ml、好ましくは0.1〜4mg/mlの量のマンニトール;
0.01〜9mg/ml、好ましくは1〜3mg/mlの量の塩化ナトリウム;および
0.01〜20mg/ml、好ましくは1〜3mg/mlの量のヒドロキシプロピルメチルセルロース。
【0059】
本発明に従って使用する点眼液は滅菌するべきであり、任意の適切な手法で滅菌することができる。1つの特定の好ましい滅菌方法は、ろ過滅菌である。本発明による点眼液は、塩化ベンザルコニウムなどの保存料を含むことができるが、これはあまり好ましくはない。
【0060】
キトサン−NACを含む水性点眼液は、局所投与のための任意の適切な手段によって患者の眼に投与することができる。これは、水性点眼薬溶液の形態であることが好ましい。この溶液は、開封するまでは滅菌されている使い捨て容器内に入れることができ、そのため、保存料を有する必要がなく、または開封後も滅菌されたままである多回使用容器の形態もしくは保存料を含む製剤とともに多回使用容器内に入れることができる。
【0061】
キトサン−NACポリマーのチオール基は、水溶液中でジスルフィド結合を形成する傾向があり、そのためキトサン−NACの粘膜付着特性が低下する。この傾向は、水性点眼液中の酸素の存在に依存することが見出された。
【0062】
無酸素の条件下、または本質的に無酸素の条件下で溶液を保存するとき、水溶液中の本発明に従って使用されるキトサン−NACの遊離チオール基をさらにいっそう安定させることが可能であることが見出された。無酸素雰囲気は、窒素雰囲気、真空雰囲気、または希ガスからなる雰囲気とすることができる。
【0063】
そのため、溶液を容器に入れるときは、そのように酸素非存在下で行われるべきである。さらに、容器を本発明の水性点眼液で充填した後は、無酸素のままにするべきである。そのために、本発明はまた、保存中、酸素から遮断された水性点眼液を維持する容器の使用を検討するものでもある。
【0064】
したがって、本発明において、好ましくは、水性点眼液を収容する本質的に無酸素の容器が使用される。「本質的に無酸素」として、1.5%以下の量の酸素を含む雰囲気が理解されるべきである。製剤の製造中および容器へ充填中の溶液中の溶存酸素濃度は、1.0mg/L未満、より好ましくは0.5mg/L未満、さらにより好ましくは0.1mg/Lの範囲である。
【0065】
好ましい実施形態において、容器は、充填後に点眼液が長期間本質的に無酸素のままであるような、酸素不浸透性材料から作られている。このような容器は、ガラスまたは内側をガラスで覆ったポリマー、金属または内側を金属で覆ったポリマーであってもよい。別の好ましい実施形態において、容器は、容器の壁を通過して酸素が溶液に侵入することを阻止するであろう酸素吸収剤をそこに含むポリマーから作られている。このような酸素吸収材としては、鉄塩、亜硫酸塩、アスコルビン酸、不飽和脂肪酸塩、金属ポリアミド複合体またはパラジウム/H
2系システム(palladium/H
2 based system)が含まれる。例えば、WO09/32526では、実質的にその主鎖中に炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂、遷移金属塩、および酸素障壁特性を有する酸素障壁ポリマーが混合された酸素捕捉組成物を含む、活性酸素障壁層を有する膜が開示されている。
【0066】
さらに、容器自体は、埋め込まれた酸素捕捉物質およびエアーレス閉塞システムを有する気密性材料から製造することができる。
【0067】
好ましい実施形態において、点眼液を収容する第1の容器、および前記第1の容器を収容する第2の容器が提供される。
【0068】
そのため、例えば、本発明の点眼液を保持する容器は、それ自体が気密性の小袋または袋の内側に収容される。詳細には、アルミニウム、アルミニウム積層物またはアルミニウム組成物から作られている小袋または袋は、本発明による点眼液を含む1つまたは複数の副容器(すなわち「第1の容器」)をそこに収容してよい。第2の容器、すなわち小袋または袋はまた、いくつかの標準包装で使用されるようなさらなる酸素吸収剤(例えば、PKT KH−20 Pharmakeep(登録商標)またはStabilox(登録商標)Oxygen Scavenger)を含むこともできる。小袋が真空下または不活性雰囲気下で密封される場合でさえ、副容器から残留酸素を除去するために、酸素吸収剤の添加が必要とされ得る。小袋は、1つまたは複数のいずれかの単回投与容器あるいは多回投与容器、例えば、小袋1つ当たり5個の単回投与容器を収容することができる。多回投与容器の場合、本発明による点眼液を、滅菌条件下および本質的に無酸素の条件下で貯蔵しなければならない。
【0069】
室温で少なくとも12カ月保存した後で、好ましくは本発明に従って使用する容器内に収容されているキトサン−NACの遊離チオール基の含量は、80μmol/ポリマー1g〜250μmol/ポリマー1g、好ましくは105μmol/ポリマー1g〜250μmol/ポリマー1gである。これは、遊離チオール基がキトサン−NAC上に残り、しかも結果として生じる製剤は、長期間にわたり安定であることを意味する。この期間は、好ましくは少なくとも約12カ月、より好ましくは少なくとも18カ月、さらにより好ましくは少なくとも約24カ月である。この長時間安定性の好ましさは、許容可能なパラメータから外れて、より不安定な製品になる恐れがある、長期保存時間ならびに商用配送およびサプライチェーンの遅延を、いくつかの製品が有するようになるという事実に起因する。
【0070】
さらに好ましくは、少なくとも12カ月、より好ましくは少なくとも18カ月保存された後の、容器内に収容されているキトサン−NAC中の架橋チオール基の量は、その中の全チオール基の30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは20%以下である。上述のとおり、最小限度の架橋チオール基のみを有するキトサン−NACが溶液の製造に使用される場合に、溶液中の遊離チオール基の安定性はとりわけ優れている。
【0071】
1つまたは複数の第1の容器、例を挙げるとLDPEから作られる使い捨て容器を収容する第2の容器、例を挙げると気密性小袋がある上述の実施形態において、第1の容器を開封してから少なくとも30日後の、溶液中の遊離チオール基の含量は、本発明によって定義されるような範囲内で残存することが好ましい。例を挙げると5つの容器を必要とする治療時間は5日であり、そのため、この安定期間は十分すぎるほどである。
【0072】
上述のとおり、とりわけ最小限度の架橋チオール基のみを有するキトサン−NACが、本発明の点眼液の製造に使用される場合、酸素障壁をもたらす第2の容器を開封した後でさえ、遊離チオール基は安定なままであることが見出された。すなわち、第2の容器を開封してから30日後での架橋チオール基の増加は、開封前の溶液中に最初に存在するチオール基の量の15%未満であることが見出された。
【0073】
さらに好ましい実施形態において、点眼液は、角膜創傷に1日2回または1回適用される。
【0074】
本発明はまた、非感染性角膜創傷を治療する方法であって、上記に定義したN−(N−アセチルシステイニル−)キトサンを含む滅菌水性点眼液を前記創傷に適用する方法に関する。
【実施例】
【0075】
実施例1:角膜創傷治癒モデル
本実験の目的は、0.1%キトサン−NAC(修飾度:209μM遊離チオール基/ポリマー1g)を含む水性点眼液が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)からなる対照物質と比較して、創傷治癒プロセスを加速できるかどうかを評価することであった。キトサン−NACを、マンニトール、ポリエチレングリコール40、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)をさらに含むホウ酸緩衝液に溶解することによって、0.1%(w/w)キトサン−NACを含む水性点眼液を、不活性条件下にて調製した。溶液の最終pHは6.4だった。体重1.7kg〜2.5kgの雌のニュージーランドホワイトウサギ(Charles River、Ekrath、Germany)を実験に使用した。動物は、昼夜12時間/12時間の人工的なリズム、室温20℃、湿度60%の制御環境にて2匹1組で飼育した。水およびウサギ用標準餌を自由に与えた。動物が到着して、環境に適合させるための少なくとも2週間の期間の後に、研究を行った。
【0076】
合計16匹の動物において、規定の角膜病変を誘発させた。角膜上皮の中心を、眼科手術用メスを用いて、ボーマン層に傷害を与えないように注意深く取り出した。目標とする欠損のサイズは、直径6mmであった。角膜病変のサイズは、超高分解能OCT、およびフルオレセイン滴下後に細隙灯写真撮影法を適用することによって特徴づけられた。測定は、ベースライン時(切開前)、および角膜病変を誘発してから6、12、24、36、48、および72時間後に行った。点眼薬の投与は、実験期間にわたって12時間ごとに行った。すべての実験は麻酔下で実施し、麻酔はケタミン25mg/kgおよびキシラジン2mg/kgを筋肉内注射することで行った。鎮痛薬としてメタミゾールナトリウムおよびフェンタニル0.025mgを投与した。
【0077】
本研究の結果を
図1に要約する。
図1は、キトサン−NAC(白色マーカー)またはPBS(プラセボ、黒色マーカー)のいずれかを適用した後の創傷治癒の時間経過を示す。y軸は、欠損面積を示す。データは、角膜病変のフルオレセイン染色後に細隙灯写真撮影法(A)から、またはOCT画像(B)から評価した。データは、平均+/−標準偏差として表される。キトサンN−アセチルシステインを含む点眼薬で、プラセボに対して有意に速い治癒速度が観察された(各p<0.05、反復測定ANOVA)。良好な一致が、2つの異なる技法から得られたデータ間で観察された。
【0078】
実施例2:眼表面上におけるポリマー網目構造の形成
ヒト角膜縁上皮(HCLE)細胞を、血清不含ケラチン生成細胞増殖培地(Thermo Fisher Scientific)中、37℃および5%CO
2で維持し、1x105細胞/ウェルを、11mm ACLAR(登録商標)カバースリップディスクが埋められた24ウェルプレートに播種した。細胞がコンフルエンスに達したときに、100mMホウ酸緩衝液で希釈した0.1%(w/w)キトサン−HClまたは0.1%(w/w)キトサン−NAC(修飾度:219μM遊離チオール基/ポリマー1g)で15分間処理した。ホウ酸緩衝液を、対照細胞にも適用した。次に、ポリマー溶液を除去し、細胞を、0.06×PHEM緩衝液(1×PHEM緩衝液は、60mM PIPES、25mM HEPES、10mM EGTA、および2mM MgCl
2を含む)中の2.5%グルタルアルデヒドを添加することによって、走査電子顕微鏡(SEM)用にただちに固定した。次いで、細胞単層を1%四酸化オスミウム水溶液(Agar Scientific、Stansted、UK)で後固定し、特級アセトンで脱水し、液体CO
2で臨界点乾燥し(Leica CPD300、Leica Microsystems GmbH、Vienna、Austria)、C−tabとともに12mmのアルミニウムSEMスタブに載せてから、金スパッタリング被覆(100msec)を回転(Leica sputter coater、Leica Microsystems GmbH、Vienna、Austria)しながら行い、JEOL IT300 SEMを用い15kVで撮影した。すべての画像は、二次電子検出器を用いて300倍の倍率で撮影した。
【0079】
結果を
図2に示す。
図2は、0.1%(w/w)キトサン−HCl(B)または0.1%(w/w)キトサン−NAC(C)とインキュベートされたヒト角膜縁上皮細胞の走査電子顕微鏡法を示す。未処理のコンフルエントな対照細胞を比較(A)に示す。
図2Cより、キトサン−NAC溶液を適用した後、細胞表面上にポリマー網目構造が形成されたことが明らかに示される。この効果は、対照細胞(
図2A)およびキトサン−HClで処理された細胞(
図2B)では観察されない。
【0080】
実施例3:症例研究
きわめて重度のアトピー性皮膚炎および長期間再発性ヘルペス性角膜炎に罹患している男性患者(57歳)に、穿孔による緊急全層角膜移植術が行われた。患者は移植手術後感染症を発症し、それは抗生物質でコントロールすることができた。しかし、患者は、遷延性の上皮欠損に罹患し、それは複数の異なる投薬(局所的投薬:Vigamox1日4回、Dexa EDO1日2回、およびVismed1時間ごと、経口的投薬:Valtrex 1−0−1、Myfortic360mg 2−0−2、Decortin H 12.5mg/1日)にもかかわらず数カ月治癒しなかった。
【0081】
0.1%キトサン−NAC(修飾度:212μM遊離チオール基/ポリマー1g)を含む水性点眼液を、1日1回、7日間、さらに眼に適用した後、角膜上皮の欠損は治癒した。
【0082】
実施例4:症例研究
眼に発赤および疼痛を伴う男性患者(31歳、コンタクトレンズ装着者)は、両眼性の点状表層角膜炎(SPK)および軽度の毛様体充血と診断された。レボフロキサシン点眼薬を用いた最初の治療により、3週間で症状が改善したが、SPKは残ったままであった。Predsol0.5%点眼薬1日3回を投薬に追加した。1週間後の臨床所見は依然として同じままであり、Celluvisc0.5%点眼薬2時間ごとおよびDoxycyline100mgを投薬にさらに追加した。1カ月後、臨床所見は依然として改善しなかった。Azyter点眼薬を用いて反復治療を行っても、SPKの際立った改善は全く得られなかった。Celluvisc点眼薬および眼瞼衛生用ティーツリー油で1カ月間治療した後、患者の症状は再び悪化した。先のすべての投薬を中止した。
【0083】
0.1%キトサン−NAC(修飾度:212μM遊離チオール基/ポリマー1g)を含む水性点眼液を用い、1日1回、5日間治療した後、患者の症状は際立って改善し、残存するSPKは最小限のみであった。