特許第6817303号(P6817303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6817303靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817303
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210107BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20210107BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   C22C38/00 302A
   C22C38/04
   C21D8/02 D
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-528069(P2018-528069)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公表番号】特表2019-504184(P2019-504184A)
(43)【公表日】2019年2月14日
(86)【国際出願番号】KR2016014810
(87)【国際公開番号】WO2017105134
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年7月2日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0181859
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン ジン
(72)【発明者】
【氏名】リ,スン ギ
(72)【発明者】
【氏名】イ,イル チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】カン,サン ドク
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウン ヘ
【審査官】 橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−079717(JP,A)
【文献】 特表2017−507242(JP,A)
【文献】 特開昭57−126923(JP,A)
【文献】 特表2008−520830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、炭素(C):0.6〜1.3%、マンガン(Mn):14〜22%、残部がFe及び不可避不純物からなり、
面積分率で5%以下(0%を含む)の炭化物及び残部オーステナイトからなる微細組織を有し、
関係式1で表すマンガン(Mn)偏析度が1.16以下であることを特徴とする靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材。
[関係式1]
Mn偏析度=(鋼材中心部のMn成分)/(溶鋼中のMn成分)
関係式1において、鋼材中心部は、1/2t位置(ここで、tは厚さ(mm)から厚さ方向に50μm以下の領域を意味する。)
【請求項2】
前記鋼材は、マンガン(Mn)を15%超えて含むことを特徴とする請求項1に記載の靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材。
【請求項3】
請求項1に記載された耐摩耗鋼材の製造方法であって、
質量%で、炭素(C):0.6〜1.3%、マンガン(Mn):14〜22%、残部がFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブを850〜1050℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼材を製造する段階と、
前記熱延鋼材を5℃/s以上の冷却速度で600℃以下まで冷却する段階と、を含み、
前記再加熱する段階は、関係式2で表される温度(T、℃)以下で行われることを特徴とする靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材の製造方法。
関係式2]
T(℃)=1446−(174.459×C)−(3.9507×Mn)
関係式2において、C及びMnは、該当元素の質量含量を意味する。
【請求項4】
前記鋼スラブは、マンガン(Mn)を15%超えて含むことを特徴とする請求項3に記載の靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記熱延鋼材は、10〜80mmの厚さを有するものであることを特徴とする請求項3に記載の靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延性、耐摩耗性などの物性が要求される産業機械、構造材料、スラリーパイプ用鋼材、耐サワー(sour)鋼材、オイル・ガス産業における採掘、輸送、貯蔵分野などに好適に用いることができる耐摩耗鋼材に関するもので、より詳細には、靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉱山産業、オイル・ガス産業(Oil and Gas Industries)の成長に伴い、採掘、輸送、精製、及び貯蔵過程において使用される厚い鋼板(所謂、厚鋼板)の摩耗が大きな問題となっている。
特に、最近は石油を代替する化石燃料としてオイルサンド(Oil Sands)に対する開発が本格化するにつれ、オイル、砂利、砂などが含まれたスラリーによる鋼材の摩耗が生産コストの増加を起こす主な原因となっており、よって、耐摩耗性に優れた鋼材の開発及び適用への需要が大きく増加している。
従来の鉱山産業では、耐摩耗性に優れたハッドフィールド(Hadfield)鋼が主に用いられており、鋼材の耐摩耗性を高めるために高含量の炭素と多量のマンガンを含有させてオーステナイト組織及び摩耗抵抗性を増加させようとする努力が続けられてきた。しかしながら、ハッドフィールド鋼の場合、高い含量で添加される炭素が、高温でオーステナイト粒界に沿ってネットワーク(network)状の炭化物を生成させて鋼材の物性、特に、延性を急激に低下させるという短所がある。
【0003】
このようなネットワーク状の炭化物析出を抑制するために、高温で溶体化処理をするか又は熱間加工後に常温まで急冷させて高マンガン鋼を製造する方法が提示されている。しかしながら、鋼材の厚さが厚い場合又は溶接が必須となる場合のように、製造条件の変化が容易ではない場合には、このようなネットワーク状の炭化物析出を抑制するのが困難であり、これにより、鋼材の物性が急激に劣化するという問題が発生する。
また、高マンガン鋼のインゴット又は鋳片では、凝固中にマンガン及び炭素などの合金元素による偏析が必然的に発生するが、これは、熱間圧延などの後加工時にさらに悪化し、結局、最終製品において深化した偏析帯に沿って炭化物の部分的析出がネットワーク状に発生して微細組織の不均一性を助長し、物性を劣化させる結果をもたらす。
【0004】
上記のとおり、鋼材の耐摩耗性の向上のためには炭素の含量を増加させる必要があり、炭素による炭化物析出によって物性が劣化する問題を解決するために、相対的にマンガンの含量を増加させることを一般の方法として用いることができるが、これにより合金量と製造単価の上昇を招くことになる。
したがって、マンガンの含量を増加させるのに備えて、炭化物の形成を抑制できる技術の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鋼材の耐摩耗性を得るために、C及びMnを必須に含み、かつC及びMnによる鋳片及び圧延材中心部における物性の劣化を効果的に抑制することによって、靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼は、重量%で、炭素(C):0.6〜1.3%、マンガン(Mn):14〜22%、残部Fe及び不可避不純物を含み、面積分率で5%以下(0%を含む)の炭化物及び残部オーステナイトからなる微細組織を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材の製造方法は、上記の合金組成を満たす鋼スラブを再加熱する段階と、再加熱された鋼スラブを850〜1050℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼材を製造する段階と、熱延鋼材を5℃/s以上の冷却速度で600℃以下まで冷却する段階と、を含み、再加熱する段階は、下記関係式2で表される温度(T℃)以下で行われることを特徴とする。
[関係式2]
T(℃)=1446−(174.459×C)−(3.9507×Mn)
(関係式2において、C及びMnは、該当元素の重量含量を意味する。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、C及びMn以外のその他の合金元素を添加することなく、靭性及び耐摩耗性に加えて、鋼材の内部品質に優れた耐摩耗鋼材を提供することができる。
さらに、本発明の耐摩耗鋼材は、耐摩耗性が求められる分野において有利に適用可能であり、特に、靭性及び内部品質が求められる分野へ適用範囲を拡大することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例による比較鋼4の微細組織写真であり、UT不良検査における不良部をSEMで確認した結果(a)と、EPMA測定写真(b)を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、鋼材の耐摩耗性に加えて、内部品質(物性など)に優れた鋼材を製造できる方案について鋭意研究した。その結果、炭素及びマンガンの含量の高い高マンガン鋼で、fcc構造を有するオーステナイト系鋼材を活用する一方で、従来から耐摩耗鋼材の問題点として指摘されてきた、炭素及びマンガンの多量含有による鋼材中心部の脆化という問題を抑えるために製造条件を最適化することにより、目標とする耐摩耗鋼材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
一般的に、オーステナイト系鋼材は、鋼自体が有する加工硬化能、非磁性などの性質によって多様な用途に用いられており、特に、従来主に用いられていたフェライト又はマルテンサイトを主組織とする炭素鋼が、要求される物性に限界を示すことにより、これらの短所を克服する代替材としてその適用が増加している状況である。
特に、本願発明は、C及びMn以外の追加成分を含むことなく、オーステナイト系鋼材の優れた耐摩耗性及び内部品質を確保しながら、製造条件の最適化によって炭化物の生成を最大限に低減させ、さらに、鋼材の厚さ中心部におけるマンガン偏析度を最小化することに技術的意義がある。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の一側面による、靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材は、合金組成が、重量%で、炭素(C):0.6〜1.3%、マンガン(Mn):14〜22%を含むことが好ましい。
以下では、本発明で提供する耐摩耗鋼材の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。ここで、各成分の含量は、特に言及しない限り、重量%を意味する。
【0013】
C:0.6〜1.3%
炭素(C)は、オーステナイト安定化元素として均一伸びを向上させる役割を果たすだけでなく、強度の向上及び加工硬化率を高めるのに非常に有用な元素である。このような炭素の含量が0.6%未満であると、常温で安定したオーステナイトを形成することが困難であり、十分な強度及び加工硬化率の確保が難しいという問題がある。一方、その含量が1.3%を超えると、炭化物が多量に析出し、均一伸びを低減させるため、優れた伸びを得ることが困難であり、耐摩耗性の低下及び早期破断の原因となる虞があるため、好ましくない。
したがって、本発明では、Cの含量を0.6〜1.3%に制限することが好ましい。
【0014】
Mn:14〜22%
マンガン(Mn)は、オーステナイトを安定化させる役割を果たす非常に重要な元素であり、均一伸びを向上させる効果を有する。本発明において、主組織としてオーステナイトを得るためには、Mnが14%以上含まれることが好ましい。
若し、Mnの含量が14%未満であると、オーステナイト安定度が低下し、代わってマルテンサイト組織が形成されることがある。オーステナイト組織を十分に確保できなければ、十分な均一伸びを確保できないという問題がある。一方、その含量が22%を超えると、製造コストの上昇だけでなく、マンガンの添加による耐食性の低下、製造工程上の困難性などの問題点があるため、好ましくない。
したがって、本発明では、Mnの含量を14〜22%に制限することがよく、より有利には15%を超えて添加することが好ましい。
【0015】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の鉄鋼製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入される可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容を本明細書では特に言及しない。
上述した合金組成を満たす本発明の耐摩耗鋼材は、微細組織としてオーステナイト単相を有することが好ましい。但し、製造工程において不可避に形成される炭化物を一部に含むことができ、該炭化物は、好ましくは、面積分率で5%以下(0%を含む)で含まれることができる。
【0016】
炭化物は、結晶粒内に比べてエネルギーが高い結晶粒界に偏って形成されるが、このような炭化物が面積分率5%を超えて含まれると、延性が低下し、本発明において目標とする靭性、耐摩耗性などの確保が困難になる問題がある。
上記のような合金組成及び微細組織を満たす本発明の耐摩耗鋼材は、C及びMn以外に、合金元素をさらに添加しなくても、優れた耐摩耗性と靭性を得ることができる。
【0017】
特に、本発明の耐摩耗鋼材は、下記関係式1で表される鋼材中心部のマンガン(Mn)偏析度が1.16以下と、従来のオーステナイト系鋼材に比べて中心部物性に優れていた。
[関係式1]
Mn偏析度=(鋼材中心部のMn成分)/(溶鋼中のMn成分)
(関係式1において、鋼材中心部は、1/2t位置(ここで、tは厚さ(mm)である。)から厚さ方向に50μm以下の領域を意味する。)
【0018】
若し、耐摩耗鋼材の中心部におけるマンガン(Mn)偏析度が1.16を超えると、衝撃靭性が劣化するだけでなく、UT不良を誘発する虞がある。
そのため、本発明で目標とする靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材のためには、中心部におけるマンガン(Mn)偏析度が1.16以下であることが好ましく、より有利には1.10以下であることが好ましい。
このように、本発明の耐摩耗鋼材は、C及びMn以外の合金元素をさらに添加することなく、Mnの含量が14%以上、さらには、15%を超える高い含量でも靭性の確保が可能で、中心部の劣化を最小化できるという技術的効果がある。
【0019】
以下では、本発明の他の一側面による靭性及び内部品質に優れた耐摩耗鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
本発明による耐摩耗鋼材は、本発明で制限する合金組成を満たす鋼スラブを準備した後、鋼スラブを再加熱−熱間圧延−冷却工程を経ることにより製造されることができ、以下、それぞれの工程条件について詳細に説明する。
【0020】
[鋼スラブの再加熱段階]
本発明では、鋼スラブの再加熱時において、下記関係式2で表される温度(T℃)以下で行うことが好ましく、このとき、1100〜1300℃の温度範囲を満たすことが好ましい。
[関係式2]
T(℃)=1446−(174.459×C)−(3.9507×Mn)
(関係式2において、C及びMnは、該当元素の重量含量を意味する。)
若し、再加熱において、関係式2から求められる温度(T)を超えて行うと、スラブ内の偏析帯で部分溶融が発生し、中心部が脆化する現象が発生する虞がある。特に、後工程の熱間圧延の後、中心部におけるマンガン偏析度が1.16を超えることによって衝撃靭性の劣化だけでなく、UT不良を誘発する虞があり好ましくない。
【0021】
[熱間圧延段階]
再加熱された鋼スラブを熱間仕上げ圧延して熱延鋼材に製造することができる。本発明において熱間仕上げ圧延は850〜1050℃の温度範囲で行うことが好ましい。
熱間仕上げ圧延の際、その温度が850℃未満であると、炭化物が多量に析出して均一伸びの低下をもたらす虞があり、微細組織がパンケーキ化して、組織異方性に起因する不均一伸びが発生する虞がある。一方、熱間仕上げ温度が1050℃を超えると、結晶粒成長が活発になり、結晶粒が粗大化しやすくなるため、強度が低下するという問題が発生する。
上記により得られた熱延鋼材は、その厚みが厚い厚板であり、好ましくは、10〜80mmの厚さを有することがよい。
【0022】
[冷却段階]
本発明では、上記により製造された熱延鋼材を急速に冷却する工程によって、基地組織中の炭素(C)の固溶度を高く確保することができる。このとき、冷却工程は5℃/s以上の冷却速度で600℃以下まで冷却することが好ましい。
若し、冷却速度が5℃/s未満であるか、又は、冷却終了温度が600℃を超えると、Cが固溶されず、炭化物として析出して伸びが低下するという問題がある。
冷却は10℃/s以上の冷却速度で行うことがより好ましく、15℃/s以上の冷却速度で行うことがさらに好ましい。但し、冷却設備の限界を考慮して、その上限を50℃/sに限定することとした。
また、冷却終了温度について、常温まで冷却しても鋼材の物性には影響がないものの、設備効率を考慮して、その下限を200℃に限定することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意すべきである。これは、本発明の権利範囲が特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
表1に示す成分系及び組成範囲を満たす鋼スラブを,8表1に示した一連の工程により、厚さ20mmの熱延鋼材に製造した。
その後、それぞれ製造された熱延鋼材の微細組織、中心部のMn偏析度、UT不良、降伏強度、均一伸びを測定し、その結果を表2に示した。さらに、熱延鋼材に対する衝撃靭性(−40℃)を測定し、その結果を表2に示した。
このとき、微細組織は光学顕微鏡を用いて観察し、中心部のMn偏析度は熱延鋼材中心部(1/2t位置から厚さ方向に50μm以下の領域)内のMn含量と溶鋼のMn含量を測定し、その比率で示した。
また、UT不良は、超音波を用いて材料内部における欠陥の有無を確認する非破壊検査であるUT(Ultrasonic Test)検査を行うことで、不良の有無(合格、不合格)を検査した。そして、−40℃での衝撃靭性は、シャルピー衝撃試験機を用いて測定した。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1及び2に示したとおり、本発明で提案する合金組成及び製造条件を全て満たす発明鋼1〜4では、オーステナイト系鋼材でありながら、強度、伸び、及び靭性に優れるだけでなく、Mn偏析度が1.16%以下と内部品質に優れていることが確認された。
一方、Cの含量が不十分な比較鋼1の場合には、十分な強度が得られず、Cの含量が過度に多い比較鋼2の場合は、強度は得られたものの、延性を得ることはできなかった。
また、Mnの含量が不十分な比較鋼3の場合は、オーステナイト相が安定して形成されておらず、オーステナイト以外にマルテンサイトが形成され、衝撃靭性に劣っていた。
【0027】
比較鋼4〜7は、鋼合金組成は本発明を満たすものの、製造条件が本発明の範囲外にある場合であり、そのうちの比較鋼4は、再加熱温度が関係式2よりも高いことによってMn偏析度が1.16を超えており、そのため、UT不良検査において不合格となった。
また、比較鋼5〜7のそれぞれは、仕上げ熱間圧延温度、冷却速度、及び冷却終了温度が本発明を満たしていない場合であり、いずれにおいても多量の炭化物が形成され、衝撃靭性に劣っていた。
【0028】
図1は、中心部のMn偏析度が1.16を超える比較鋼4の微細組織写真を示したもので、EPMA測定の結果、Mn偏析帯が形成されており、UT不良検査における不良部が確認された。
図1