(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る電気化学セル用接合体を適用した電気化学セルの一例として、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池(AFC)の一種である固体アルカリ形燃料電池10の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(固体アルカリ形燃料電池10)
図1は、実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10の構成を示す断面図である。固体アルカリ形燃料電池10は、アノード14(第1多孔質体の一例)、カソード12(第2多孔質体の一例)、電解質16、及び複数のスリット部31(
図2参照)を備える。本実施形態において、このアノード14と電解質16との接合体30が本発明の電気化学セル用接合体に相当する。
【0027】
固体アルカリ形燃料電池10は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃〜250℃)で発電する。ただし、下記の電気化学反応式では、燃料の一例としてメタノールが用いられている。
【0028】
・カソード12: 3/2O
2+3H
2O+6e
−→6OH
−
・アノード14: CH
3OH+6OH
−→6e
−+CO
2+5H
2O
・全体 : CH
3OH+3/2O
2→CO
2+2H
2O
【0029】
(カソード12)
カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、カソード12には、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O
2)を含む酸化剤が供給される。酸化剤供給手段13は、酸化剤供給部13a及び酸化剤排出部13bを有する。酸化剤供給部13aから酸化剤が供給され、酸化剤排出部13bから酸化剤が排出される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。カソード12の厚みは特に制限されないが、例えば10〜200μmとすることができる。
【0030】
カソード12は、AFCに使用される公知の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜10mg/cm
2、より好ましくは、0.1〜5mg/cm
2である。カソード触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード12ないしそれを構成する触媒の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0031】
カソード12の作製方法は特に限定されないが、例えば、カソード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のカソード側主面16Sに塗布することにより形成することができる。
【0032】
(アノード14)
アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。アノード14は、内部に燃料を拡散可能な多孔質体である。アノード14の気孔率は特に制限されない。アノード14の厚みは特に制限されないが、例えば10〜500μmとすることができる。
【0033】
アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。燃料供給手段15は、燃料供給部15a及び燃料排出部15bを有する。燃料供給部15aから燃料が供給され、燃料排出部15bから燃料が排出される。
【0034】
燃料は、アノード14において水酸化物イオン(OH
−)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。
【0035】
燃料化合物としては、例えば、(i)ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)、炭酸ヒドラジン((NH
2NH
2)
2CO
2)、硫酸ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2SO
4)、モノメチルヒドラジン(CH
3NHNH
2)、ジメチルヒドラジン((CH
3)
2NNH
2、CH
3NHNHCH
3)、及びカルボンヒドラジド((NHNH
2)
2CO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NH
2CONH
2)、(iii)アンモニア(NH
3)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NH
2OH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH
2OH・H
2SO
4)等のヒドロキシルアミン類、及びこれらの組合せが挙げられる。これらの燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため特に好適である。
【0036】
燃料化合物は、そのまま燃料として用いてもよいが、水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であるので、そのまま液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶である。1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。このように、固体の燃料化合物は、水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば1〜90重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。
【0037】
また、メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などは、そのまま燃料として用いることができる。特に、本実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び、気液混合状態のいずれであってもよい。
【0038】
アノード14は、AFCに使用される公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、アノード触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード14及びそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0039】
アノード14の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のアノード側主面16Tに塗布することにより形成することができる。
【0040】
(電解質16)
電解質16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質16は、カソード12及びアノード14のそれぞれと接合している。電解質16は、主面及び側面を有する膜状に形成される。電解質16のカソード側主面16Sにはカソード12が配置されており、アノード側主面16Tにはアノード14が配置されている。
【0041】
図2は、膜電極接合体の断面を拡大して示す模式図である。電解質16は、多孔質基材20と、第1イオン伝導体21とを有する。また、電解質16は、第2イオン伝導体22、及び第3イオン伝導体23を有する。
【0042】
多孔質基材20は、電解質16の側面に露出している。このため、電解質16の側面は、多孔質基材20及び第1イオン伝導体21によって構成されている。また、電解質16の側面は、第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23によっても構成されている。例えば、電解質16の側面において、電解質16の側面の面積に対して、多孔質基材20が占める面積の割合は、10〜90%程度である。
【0043】
多孔質基材20は、三次元網目構造を有する。「三次元網目構造」とは、基材の構成物質が立体的かつ網目状に繋がった構造である。多孔質基材20は、連続孔20aを形成する。連続孔20aは、立体的かつ網目状に孔が繋がることによって構成されており、多孔質基材20の外表面に露出している。連続孔20aには、第1イオン伝導体21が含浸されている。
【0044】
多孔質基材20は、セラミックス材料及び高分子材料から選択される少なくとも1種によって構成することができる。セラミックス材料としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージェライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。高分子材料としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びこれらの任意の組合せが挙げられる。多孔質基材20をフレキシブル性の高分子材料で構成する場合には、気孔率を高めながら厚さを薄くしやすいため、水酸化物イオン伝導性を向上させることができる。高分子材料によって構成される多孔質基材20としては、リチウム電池用セパレータとして市販されているような微多孔膜を用いることができる。
【0045】
多孔質基材20の厚さは特に制限されないが、例えば、200μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下であり、5μm以下が最も好ましい。多孔質基材20の厚さの下限値は、用途に応じて適宜設定すればよいが、ある程度の堅さを確保するには1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。
【0046】
多孔質基材20の断面における連続孔20aの平均内径は特に制限されないが、例えば、0.001〜1.5μmとすることができ、好ましくは0.01〜1.25μm、より好ましくは0.05〜1.0μm、さらに好ましくは0.07〜0.75μm、特に好ましくは0.1〜0.5μmである。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を付与しつつ、第1イオン伝導体21の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの平均内径とは、多孔質基材20の断面を電子顕微鏡で観察した場合に、観察画像上で無作為に選出した20箇所における連続孔20aの円相当径を算術平均することによって得られる。連続孔20aの円相当径とは、観察画像において、連続孔20aの断面積と同じ面積を有する円の直径である。なお、電子顕微鏡の倍率は、連続孔20aの断面サイズに応じて適宜設定すればよい。
【0047】
連続孔20aの体積率は特に制限されないが、例えば、10〜80%とすることができ、好ましくは15〜75%、より好ましくは20〜70%である。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を確保しつつ、第1イオン伝導体21の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの体積率は、アルキメデス法により測定することができる。
【0048】
また、
図2では図示されていないが、多孔質基材20は、それ自体の内部に複数の細孔を有することが好ましい。複数の細孔は、多孔質基材20の内部において、互いに繋がっていてもよい。そして、各細孔は多孔質基材20の表面に開口する開気孔であって、各細孔には第1イオン伝導体21が含浸していることがより好ましい。これによって、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→連続孔20aという短距離イオン伝導パスや、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→第2イオン伝導体22、或いは、第3イオン伝導体23→多孔質基材20内の細孔→第2イオン伝導体22という長距離イオン伝導パスを形成することができる。その結果、第1イオン伝導体21内のイオン伝導可能領域が広がるため、電解質16全体としてのイオン伝導性を向上させることができる。
【0049】
第1イオン伝導体21は、水酸化物イオン伝導性を有する。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、第1イオン伝導体21は、カソード12側からアノード14側に水酸化物イオン(OH
−)を伝導させる。第1イオン伝導体21の水酸化物イオン伝導率は特に制限されないが、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは1.0mS/cm以上である。第1イオン伝導体21の水酸化物イオン伝導率は、高いほど好ましく、その上限値は特に制限されないが、例えば100mS/cmである。
【0050】
第1イオン伝導体21は、無機固体電解質によって構成することができる。例えば、第1イオン伝導体21は、イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。詳細には、第1イオン伝導体21は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。このようなセラミックス材料としては、層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が好適である。
【0051】
LDHは、M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオン、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M
2+の例としてはMg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、及びZn
2+が挙げられ、M
3+の例としては、Al
3+、Fe
3+、Ti
3+、Y
3+、Ce
3+、Mo
3+、及びCr
3+が挙げられ、A
n−の例としてはCO
32−及びOH
−が挙げられる。M
2+及びM
3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0052】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びH
2Oで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
【0053】
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi
2+であると考えられるが、Ni
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl
3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi
4+であると考えられるが、Ti
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
【0054】
LDHの中間層は、陰イオン及びH
2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH
−及び/又はCO
32−を含む。
【0055】
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi
2+、Al
3+、Ti
4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni
2+1−x−yAl
3+xTi
4+y(OH)
2A
n−(x+2y)/n・mH
2O(式中、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni
2+、Al
3+、Ti
4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0056】
第1イオン伝導体21は、第2イオン伝導体22と第3イオン伝導体23との間に配置される。第1イオン伝導体21は、多孔質基材20に充填されている。詳細には、第1イオン伝導体21は、多孔質基材20の連続孔20a内に配置される。第1イオン伝導体21は、多孔質基材20の連続孔20a内に含浸されており、多孔質基材20と一体化している。このように、第1イオン伝導体21を多孔質基材20で支持することによって、第1イオン伝導体21の強度を向上できるため、第1イオン伝導体21を薄くすることができる。その結果、電解質16の低抵抗化を図ることができる。
【0057】
本実施形態において、第1イオン伝導体21は、多孔質基材20の連続孔20a内の略全域に広がる。ただし、電解質16が第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23の少なくとも一方を有さない場合、第1イオン伝導体21は、多孔質基材20の一部にのみ含浸されていてもよい。
【0058】
ここで、第1イオン伝導体21は、その内部に形成された複数の閉気孔24を有する。このような閉気孔24が第1イオン伝導体21の内部に形成されるため、固体アルカリ形燃料電池10の作動中に第1イオン伝導体21の含水状況の変動に起因する電解質16の体積変化を緩和させることができる。これにより、電解質16とカソード12との界面、又は/及び、電解質16とアノード14との界面に応力が発生することを抑制できる。その結果、カソード12又は/及びアノード14から電解質16が剥離したり、電解質16自体が変形したりすることを抑制できる。
【0059】
さらに、閉気孔24が第1イオン伝導体21の内部に形成されることで、第1イオン伝導体21に柔軟性を付与することができるため、固体アルカリ形燃料電池10内の温度分布に起因して、カソード12と電解質16との界面、又は/及び、アノード14と電解質16との界面に熱応力が発生することを抑制できる。そのため、カソード12又は/及びアノード14から電解質16が剥離したり、或いは、電解質16自体が変形したりすることを抑制できる。
【0060】
閉気孔24は、多孔質基材20から離れている。すなわち、閉気孔24は、第1イオン伝導体21の内部に閉じこめられており、連続孔20aの内表面と直接的に接触しない。これによって、閉気孔24が多孔質基材20に直接接触する場合に比べて、電解質16に体積変化や変形が生じた場合に、多孔質基材20、第1イオン伝導体21及び閉気孔24の三者で作られる角部を起点として、第1イオン伝導体21が多孔質基材20から剥離することを抑制できる。
【0061】
各閉気孔24の平均円相当径は特に制限されないが、例えば、0.001〜1.0μmとすることがきる。各閉気孔24の平均円相当径は、0.001μm以上が好ましく、0.002μm以上がより好ましい。これによって、第1イオン伝導体21の柔軟性をより向上させることができる。また、各閉気孔24の平均円相当径は、1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましい。これによって、カソード12に供給される酸化剤がアノード14側に透過したり、或いは、アノード14に供給される燃料がカソード12側に透過したりすることを抑制できる。
【0062】
各閉気孔24の平均円相当径は、電解質16の断面を20,000〜1,500,000倍の電子顕微鏡で観察し、無作為に選出した20個の閉気孔24の円相当径を算術平均することによって得られる。閉気孔24の円相当径とは、電解質16の断面において、閉気孔24と同じ面積を有する円の直径である。ただし、0.001μm以下の円相当径を有する閉気孔24は、第1イオン伝導体21の柔軟性向上への寄与が極めて小さいため、各閉気孔24の平均円相当径を求める際には除外するものとする。
【0063】
第2イオン伝導体22は、多孔質基材20の第1主面20Tを覆っている。また、第2イオン伝導体22は、第1イオン伝導体21のアノード14側に連なる。第2イオン伝導体22は、膜状に形成される。第2イオン伝導体22は、第1イオン伝導体21と一体的に形成される。
【0064】
第3イオン伝導体23は、多孔質基材20の第2主面20Sを覆っている。また、第3イオン伝導体23は、第1イオン伝導体21のカソード12側に連なる。第3イオン伝導体23は、膜状に形成される。第3イオン伝導体23は、第1イオン伝導体21と一体的に形成される。
【0065】
第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23それぞれは、イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。詳細には、第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23それぞれは、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23それぞれは、一様な平面状に形成されていてもよいし、縞状など所望の平面形状にパターン化されていてもよい。第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23それぞれの厚さは特に制限されないが、例えば、10μm以下とすることができ、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0066】
(スリット部31)
スリット部31は、電解質16に形成されている。詳細には、スリット部31は、電解質16の第2イオン伝導体22に形成されている。スリット部31は、電解質16内を厚さ方向(z軸方向)に延びている。また、
図3に示すように、スリット部31は、面内方向(xy面内方向)に延びている。なお、面内方向とは、電解質16のアノード側主面16Tに沿って延びる方向である。
【0067】
スリット部31の幅wに対するスリット部31の深さdの割合(d/w)は、5〜1000程度とすることができる。なお、
図4に示すように、スリット部31の幅w及び深さdは、固体アルカリ形燃料電池10を厚さ方向に切断して形成される切断面において測定する。なお、切断面は、スリット部31と交差するように形成される。スリット部31の深さdは、スリット部31の長手方向(本実施形態では厚さ方向)におけるスリット部31の寸法である。また、スリット部31の幅wは、深さdと直交する方向のスリット部31の寸法である。スリット部31を構成する内壁面は、間隔をあけていてもよいし、互いに接触していてもよい。
【0068】
スリット部31の深さdは、例えば、5〜50000nm程度であり、好ましくは、50〜5000nm程度である。また、スリット部31の幅wは、例えば、1〜5000nm程度であり、好ましくは、5〜1000nm程度である。
【0069】
スリット部31は、厚さ方向において、直線状に延びている。また、スリット部31は、面内方向において、直線状に延びている。なお、
図5に示すように、スリット部31は、厚さ方向において、湾曲して延びていてもよい。また、
図6に示すように、スリット部31は、厚さ方向において、屈曲して延びていてもよい。また、
図7に示すように、スリット部31は、厚さ方向において、分岐して延びていてもよい。なお、スリット部31は、面内方向において、屈曲又は湾曲して延びていてもよいし、枝分かれして延びていてもよい。
【0070】
図2に示すように、スリット部31は、電解質16を面内方向において部分的に分離するように形成されている。すなわち、電解質16は、スリット部31によって完全に分離されているのではなく、一部において繋がっている。本実施形態では、電解質16は、第2イオン伝導体22においてスリット部31によって面内方向に分離される一方で、第1イオン伝導体21及び第3イオン伝導体23において繋がっている。
【0071】
スリット部31は、アノード14に向かって開口している。一方で、スリット部31は、多孔質基材20に向かって開口していない。すなわち、スリット部31は、電解質16のアノード側主面16Tから多孔質基材20に向かって延びている。そして、スリット部31は、第2イオン伝導体22内に厚さ方向の終端を有する。スリット部31は、第2イオン伝導体22を貫通していない。
【0072】
上述したスリット部31は、例えば、レーザー加工又はスリット形成材を用いることで形成することができる。なお、スリット形成材とは、電解質形成後に熱処理や酸アルカリ処理によって除去可能な材料である。電解質16を形成した後にスリット形成材を除去することによって、スリット部31を形成することができる。
【0073】
(第1イオン伝導体21の製造方法)
第1イオン伝導体21の作製方法は特に限定されないが、第1イオン伝導体21をLDHで構成する場合であって、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含むとき、以下の工程(1)〜(4)で作製することができる。
【0075】
(2)多孔質基材20の全体にアルミナ及びチタニアの混合ゾルを含浸させて熱処理することでアルミナ・チタニア層を形成させる。後述するように、多孔質基材20の表面全体からLDHを成長させるには、多孔質基材20の表面全体にアルミナ・チタニア層を形成させることが重要となるため、アルミナ及びチタニアの混合ゾルを含浸させて熱処理することを複数回実施する。これにより、多孔質基材20の表面全体にアルミナ・チタニア層を形成することができる。
【0076】
(3)ニッケルイオン(Ni
2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材20を浸漬させる。
【0077】
(4)原料水溶液中で多孔質基材20を水熱処理して、LDHを多孔質基材20上及び多孔質基材20中に形成させることによって、第1イオン伝導体21、第2イオン伝導体22、及び第3イオン伝導体23を有する電解質16を形成する。この際、水熱処理時間および溶液濃度を適宜調整することによって、気孔が閉塞する前に反応を停止することで第1イオン伝導体21内に閉気孔24を形成させることができる。LDHは多孔質基材20の表面に形成されたアルミナ・チタニア層を核として成長するため、多孔質基材20の表面全体にアルミナ・チタニア層を形成させた場合においては、多孔質基材20の表面全体からLDHが成長することになる。その結果として、閉気孔24を多孔質基材20から離すことができる。
【0078】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0079】
変形例1
上記実施形態では、スリット部31は、アノード14に向かって開口し、多孔質基材20に向かって開口していないが、スリット部31の構成はこれに限定されない。例えば、
図8に示すように、スリット部31は、多孔質基材20に向かって開口し、アノード14に向かって開口していなくてもよい。また、
図9に示すようにスリット部31は、第2イオン伝導体22を貫通していてもよいし、
図10に示すようにスリット部31は厚さ方向においてアノード14及び多孔質基材20のどちらにも開口していなくてもよい。また、これら各構成のスリット部31が混在していてもよい。なお、
図8及び
図10に示すようなアノード14に向かって開口していないスリット部31は、上述したスリット形成工程の次工程に第2イオン伝導体22の形成工程をさらに加えることによって形成することができる。
【0080】
変形例2
上記実施形態では、第2イオン伝導体22上にアノード14が配置されているが、この構成に限定されない。例えば、第2イオン伝導体22上にカソード12が配置されていてもよい。そして、第3イオン伝導体23上にアノード14が配置されていてもよい。この場合、カソード12と電解質16との接合体が本発明の電気化学セル用接合体に相当し、カソード12が本発明の第1多孔質体に相当し、アノード14が本発明の第2多孔質体に相当する。
【0081】
変形例3
上記実施形態では、スリット部31は第2イオン伝導体22のみに形成されているが、接合体30は、この構成に限定されない。例えば、スリット部31は、第2イオン伝導体22と第3イオン伝導体23の両方に形成されていてもよい。
【0082】
変形例4
図11に示すように、スリット部31は、傾斜した状態で厚さ方向に延びていてもよい。すなわち、スリット部31は、アノード側主面16Tと平行に延びているものでなければよい。
【0083】
変形例5
上記実施形態では、閉気孔24は、多孔質基材20から離れていたが、
図12に示すように、閉気孔24は、多孔質基材20に接していてもよい。すなわち、閉気孔24は、連続孔20aの内表面と直接的に接触していてもよい。これによって、閉気孔24が多孔質基材20から離れている場合に比べて、多孔質基材20の拘束面積を低減できるため、多孔質基材20自体の柔軟性を向上させることができる。そのため、電解質16に体積変化や変形が生じた場合に、カソード12と電解質16との界面、又は/及び、アノード14と電解質16との界面に応力が発生することをより抑制できる。
【0084】
変形例6
上記実施形態では、電解質16は、複数の閉気孔24を有することとしたが、閉気孔24を少なくとも1つ有していれば、閉気孔24を全く有していない場合に比べて、第1イオン伝導体21に柔軟性を付与することができるため、電解質16の剥離を抑制できる。
【0085】
変形例7
上記実施形態では、閉気孔24の形状は断面が円形状に構成されていたが、閉気孔24の形状はこれに限定されない。例えば、閉気孔24は、断面が楕円形状となっていてもよいし、その他の形状であってもよい。
【0086】
変形例8
上記実施形態では、多孔質基材20は、セラミックス材料及び高分子材料から選択される少なくとも一種によって構成されていたが、多孔質基材20の材質はこれに限定されない。例えば、多孔質基材20は、金属材料によっても構成することができる。多孔質基材20を構成する金属材料としては、ステンレス(Fe−Cr系合金、Fe−Ni−Cr系合金など)、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、又は、チタンなどを用いることができる。このような金属材料は、セラミックス材料や高分子材料に比べて熱伝導性が高いため、多孔質基材20の放熱効率を向上させることができるとともに、多孔質基材20内の温度分布を低減させることができる。
【0087】
多孔質基材20の表面には、絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、Cr
2O
3、Al
2O
3、ZrO
2、MgO、MgAl
2O
4などによって構成することができる。多孔質基材20をステンレスによって構成する場合、ステンレスを酸化処理することにより、絶縁膜としてのCr
2O
3膜を簡便に形成することができる。なお、カソード膜状部22b及びアノード膜状部22cが、カソード12とアノード14との間に絶縁膜として機能するため、多孔質基材20の表面には、絶縁膜が形成されていなくてもよい。
【0088】
変形例9
上記実施形態では、電解質16は、第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23を有しているが、電解質16の構成はこれに限定されない。例えば、電解質16は、第2イオン伝導体22及び第3イオン伝導体23の少なくとも一方を有していなくてもよい。そして、スリット部31は、第1イオン伝導体21に形成されていてもよい。
【0089】
変形例10
図13に示すように、電解質16は、平面視において、第1外側領域R1、第2外側領域R2、及び中央領域R3を有している。
図13の二点鎖線で示すように電解質16を平面視において3等分することによって、第1外側領域R1、第2外側領域R2、及び中央領域R3は構成される。電解質16を平面視において3等分することによって形成される3つの領域のうち、両外側に配置される領域が第1外側領域R1及び第2外側領域R2であり、中央に配置される領域が中央領域R3である。
【0090】
第1外側領域R1に形成されるスリット部31の数は、中央領域R3に形成されるスリット部31の数よりも多い。また、第2外側領域R2に形成されるスリット部31の数は、中央領域R3に形成されるスリット部31の数よりも多い。なお、本変形例において、中央領域R3に形成されるスリット部31の数は、0である。すなわち、本変形例において、中央領域R3にはスリット部31は形成されていない。
【0091】
そして、上述したような電解質16を用いて燃料電池を作製し、第1外周領域R1に燃料供給部15aを設け、第2外周領域R2に燃料排出部15bを設ける。例えば、
図13の左側から燃料を供給し、右側へと燃料を流し、
図13の右側から燃料を排出する。このように構成することで、燃料供給部15a及び燃料排出部15bの近傍にスリット部31を多く形成することができる。
【0092】
なお、上記スリット部31の数の比較は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、電解質16において、第1外周領域R1、中央領域R3,第2外周領域R2を通るような切断面を形成する。そして、それぞれの領域について任意の10箇所の断面を電子顕微鏡により倍率3000〜300000倍で観察し、スリットの数を計測し、平均をとることで各領域のスリット数を決定する。
【0093】
変形例11
上記実施形態では、第2イオン伝導体22が多孔質基材20の第1主面20Tを覆っているが、電解質16の構成はこれに限定されない。例えば、
図14及び
図15に示すように、電解質16は、第2イオン伝導体22の代わりに、複数の凸状イオン伝導体22aを有していてもよい。凸状イオン伝導体22aは、多孔質基材20の第1主面20T上において、互いに間隔をあけて配置されている。凸状イオン伝導体22aは、イオン伝導性を有する。そして、スリット部31は、凸状イオン伝導体22aに形成されている。同様に、第3イオン伝導体23の代わりに、複数の凸状イオン伝導体22aを有していてもよい。なお、多孔質基材20内には第1イオン伝導体21が充填されている。
【0094】
変形例12
図16に示すように、電解質16は、第2イオン伝導体22の代わりに、複数の埋設イオン伝導体22bを有していてもよい。この場合、多孔質基材20は、第1主面20T上に複数の凹部20bを有している。そして、埋設イオン伝導体22bは、凹部20b内に埋設されている。埋設イオン伝導体22bは、イオン伝導性を有する。スリット部31は、埋設イオン伝導体22bに形成されている。この埋設イオン伝導体22bは、多孔質基材20内に充填される第1イオン伝導体21との間でイオン伝導するように接続されている。
【0095】
変形例13
上記実施形態では、電解質16は、多孔質基材20を原料水溶液中で水熱処理することによって形成されているが、電解質16の製造方法はこれに限られない。例えば、電解質16は、バインダー材料(例えば、ポリフッ化ビニリデン粉末など)と水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料(例えば、LDH粉末など)とを混合したペーストを印刷法でシート化した後、当該シートに熱処理を施すことによっても作製できる。この場合、熱処理によって固化したバインダー材料が多孔質基材20を構成する。
【0096】
変形例14
上記実施形態では、本発明に係る電気化学セル用電解質を適用した電気化学セルの一例として、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池について説明したが、本発明に係る電気化学セル用電解質は、種々の電気化学セルに適用可能である。電気化学セルとしては、例えば、プロトンをキャリアとする燃料電池、二次電池(ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池など)、水蒸気から水素と酸素を生成する電解セル(SOEC)などに適用することができる。電気化学セルがプロトンをキャリアとする場合、第1イオン伝導体21、第3イオン伝導体23、及び第2イオン伝導体22は、水酸化物イオン伝導性セラミックス成分に代えて、プロトン伝導性セラミックス成分を含有していればよい。なお、電気化学セルとは、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための装置と、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるための装置であって、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置されたものの総称である。