特許第6817457号(P6817457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817457
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/02 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   F15B11/02 F
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-546405(P2019-546405)
(86)(22)【出願日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2018010351
(87)【国際公開番号】WO2019176075
(87)【国際公開日】20190919
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中野 寿身
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−053259(JP,A)
【文献】 特開平10−252093(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/047695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22;21/14
E02F 3/42− 3/43; 3/84− 3/85; 9/20− 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーム及びブームを有する多関節型の作業装置と、
前記アームを駆動するアームシリンダと前記ブームを駆動するブームシリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、
前記作業装置を操作するための操作装置と、
原動機によって駆動される第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、
前記第1油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第1流量制御弁と、
前記第2油圧ポンプから前記ブームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第2流量制御弁と、
前記第2油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第3流量制御弁と、
前記第1、第2及び第3流量制御弁を制御する制御装置とを備える作業機械において、
前記制御装置は、
前記作業装置の姿勢情報から前記作業装置における所定の制御点の位置情報を演算する制御点位置演算部と、
前記制御点の位置情報と所定の目標面の位置情報とに基づいて前記制御点と前記目標面との距離を演算する距離演算部と、
前記操作装置の操作時に、前記作業装置の動作範囲が前記目標面上及びその上方に制限されるように前記アームシリンダ及び前記ブームシリンダの目標速度を前記距離に応じて演算する目標速度演算部と、
前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の操作性を優先する第1作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁と前記第3流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御し、前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の制御性を優先する第2作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御する流量制御弁制御部とを備え
前記制御点が前記目標面の上方に位置している時の前記制御点と前記目標面との距離を正とし、
前記制御装置は、前記距離が所定の距離閾値以上のとき前記第1作業モードを選択し、前記距離が前記距離閾値未満のとき前記第2作業モードを選択する作業モード選択部をさらに備えることを特徴とする作業機械。
【請求項2】
アーム及びブームを有する多関節型の作業装置と、
前記アームを駆動するアームシリンダと前記ブームを駆動するブームシリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、
前記作業装置を操作するための操作装置と、
原動機によって駆動される第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、
前記第1油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第1流量制御弁と、
前記第2油圧ポンプから前記ブームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第2流量制御弁と、
前記第2油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第3流量制御弁と、
前記第1、第2及び第3流量制御弁を制御する制御装置とを備える作業機械において、
前記制御装置は、
前記作業装置の姿勢情報から前記作業装置における所定の制御点の位置情報を演算する制御点位置演算部と、
前記制御点の位置情報と所定の目標面の位置情報とに基づいて前記制御点と前記目標面との距離を演算する距離演算部と、
前記操作装置の操作時に、前記作業装置の動作範囲が前記目標面上及びその上方に制限されるように前記アームシリンダ及び前記ブームシリンダの目標速度を前記距離に応じて演算する目標速度演算部と、
前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の操作性を優先する第1作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁と前記第3流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御し、前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の制御性を優先する第2作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御する流量制御弁制御部とを備え
前記制御点が前記目標面の上方に位置している時の前記制御点と前記目標面との距離を正とし、
前記制御装置は、前記アームシリンダの目標速度が所定の速度閾値より大きいとき及び前記距離が所定の距離閾値以上のとき前記第1作業モードを選択し、前記アームシリンダの目標速度が前記速度閾値未満かつ前記距離が前記距離閾値未満のとき前記第2作業モードを選択する作業モード選択部をさらに備えることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項の作業機械において、
前記距離閾値は0以上であることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項の作業機械において、
前記速度閾値は、前記第1油圧ポンプの供給可能な最大流量に相当する前記アームシリンダの速度であることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
アーム及びブームを有する多関節型の作業装置と、
前記アームを駆動するアームシリンダと前記ブームを駆動するブームシリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、
前記作業装置を操作するための操作装置と、
原動機によって駆動される第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、
前記第1油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第1流量制御弁と、
前記第2油圧ポンプから前記ブームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第2流量制御弁と、
前記第2油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第3流量制御弁と、
前記第1、第2及び第3流量制御弁を制御する制御装置とを備える作業機械において、
前記制御装置は、
前記作業装置の姿勢情報から前記作業装置における所定の制御点の位置情報を演算する制御点位置演算部と、
前記制御点の位置情報と所定の目標面の位置情報とに基づいて前記制御点と前記目標面との距離を演算する距離演算部と、
前記操作装置の操作時に、前記作業装置の動作範囲が前記目標面上及びその上方に制限されるように前記アームシリンダ及び前記ブームシリンダの目標速度を前記距離に応じて演算する目標速度演算部と、
前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の操作性を優先する第1作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁と前記第3流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御し、前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の制御性を優先する第2作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御する流量制御弁制御部とを備え
前記原動機によって駆動される第3油圧ポンプと、
前記第3油圧ポンプから前記ブームシリンダに供給される作動油の流量を制御する第4流量制御弁とをさらに備え、
前記流量制御弁制御部は、前記第1作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁と前記第3流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁と前記第4流量制御弁を制御し、前記第2作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第4流量制御弁を制御することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に油圧を動力とする作業機械の油圧システムは、複数の油圧ポンプと、複数の油圧アクチュエータと、当該複数の油圧ポンプから当該複数の油圧アクチュエータに供給する作動油を制御するための複数の流量制御弁とから構成されている。この種の油圧システムとしては主に、センタバイパスラインからのブリードオフ流量が油圧アクチュエータの負荷に応じて変化し得る流量制御弁を備えるオープンセンタシステムと、圧力補償弁の機能により負荷に関係なく絞り開度に応じた流量を油圧アクチュエータに供給し得る流量制御弁を備えるクローズドセンタロードセンシングシステムとがある。オープンセンタシステムはフロント作業装置の操作性に優れており、クローズドセンタロードセンシングシステムは複合操作時におけるフロント作業装置の制御性に優れている。
【0003】
また、作業機械の一形態である油圧ショベルにおいて、フロント作業装置の制御点(例えばバケット爪先)が設計面へ侵入することを防止するようにフロント作業装置の制御を行う領域制限機能が知られている。
【0004】
一般的なオープンセンタシステムのように複数の油圧ポンプから供給される作動油を流量制御弁により合流および分流して油圧アクチュエータの速度を制御する油圧システムに領域制限機能を適用する場合、流量制御弁の絞り開度が同じでも油圧アクチュエータの複合操作の有無や油圧アクチュエータの負荷の大小に応じて油圧アクチュエータ間の分流量が変動し得る。そのため、各油圧アクチュエータの制御性が低下し、施工精度が悪化する可能性がある。
【0005】
特許文献1によれば、複数の油圧アクチュエータの複合操作時の目標面と制御点とのずれから各油圧アクチュエータの制御動作の誤差を演算し、その誤差に基づいて電流−制御量特性を補正することで、複合操作であっても各油圧アクチュエータを精度よく制御できるとある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開11−350537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際の施工においては掘削時のアクチュエータ負荷は時々刻々と変化している。そのため、特許文献1のように或る時の複合操作時の目標面と制御点とのずれに応じて電流−制御量特性を補正したとしても、アクチュエータ負荷が補正時と異なる場合はやはり各油圧アクチュエータ間の分流量が変動し、施工精度が悪化する可能性がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたものであり、その目的は、制御性が優先される時は負荷によらず各油圧アクチュエータを精度良く制御できるとともに、操作性が優先される時は良好な操作性が得られる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、アーム及びブームを有する多関節型の作業装置と、前記アームを駆動するアームシリンダと前記ブームを駆動するブームシリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、前記作業装置を操作するための操作装置と、原動機によって駆動される第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプと、前記第1油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第1流量制御弁と、前記第2油圧ポンプから前記ブームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第2流量制御弁と、前記第2油圧ポンプから前記アームシリンダに供給する作動油の流量を制御する第3流量制御弁と、前記第1、第2及び第3流量制御弁を制御する制御装置とを備える作業機械において、前記制御装置は、前記作業装置の姿勢情報から前記作業装置における所定の制御点の位置情報を演算する制御点位置演算部と、前記制御点の位置情報と所定の目標面の位置情報とに基づいて前記制御点と前記目標面との距離を演算する距離演算部と、前記操作装置の操作時に、前記作業装置の動作範囲が前記目標面上及びその上方に制限されるように前記アームシリンダ及び前記ブームシリンダの目標速度を前記距離に応じて演算する目標速度演算部と、前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の操作性を優先する第1作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁と前記第3流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御し、前記作業機械の作業モードとして前記作業装置の制御性を優先する第2作業モードが選択されている場合、前記アームシリンダの目標速度に基づいて前記第1流量制御弁を制御しつつ、前記ブームシリンダの目標速度に基づいて前記第2流量制御弁を制御する流量制御弁制御部とを備え、前記制御点が前記目標面の上方に位置している時の前記制御点と前記目標面との距離を正とし、前記制御装置は、前記距離が所定の距離閾値以上のとき前記第1作業モードを選択し、前記距離が前記距離閾値未満のとき前記第2作業モードを選択する作業モード選択部をさらに備える
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制御性が優先される時は油圧アクチュエータ間の分流が防止されるので負荷によらず精度よく各油圧アクチュエータを制御できる一方で、操作性が優先される時は油圧アクチュエータ間の合分流が許容されるので良好な操作性を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベル1の側面図。
図2】ブーム角度θ1、アーム角度θ2、バケット角度θ3、車体前後傾斜角θ4等の説明図。
図3】油圧ショベル1の車体制御システム23の構成図。
図4】コントローラ25のハードウェア構成の概略図。
図5】油圧ショベル1の油圧回路27の概略図。
図6】第1実施形態に係るコントローラ25の機能ブロック図。
図7】バケット先端P4と目標面60の距離Dと速度補正係数kとの関係を表すグラフ。
図8】バケット先端P4における距離Dに応じた補正前後の速度ベクトルを表す模式図。
図9】第1実施形態の流量制御弁制御部40の機能ブロック図。
図10】第1実施形態のコントローラ25による制御フローを表すフローチャート。
図11】本発明の第2実施形態に係る作業機械のコントローラ25Aの機能ブロック図。
図12】第2実施形態のコントローラ25Aによる制御フローを表すフローチャート。
図13】第3実施形態に係る油圧ショベル1の油圧回路の概略図。
図14】第3実施形態の流量制御弁制御部40Aの機能ブロック図。
図15】第3実施形態のコントローラによる制御フローを表すフローチャート。
図16】第1実施形態のコントローラ25による制御フローの変形例を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る作業機械について図に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベル1の側面図である。油圧ショベル1は、左右側部のそれぞれに設けられる履帯を油圧モータ(図示せず)により駆動させて走行する走行体(下部走行体)2と、走行体2上に旋回可能に設けられる旋回体(上部旋回体)3とを備えている。
【0013】
旋回体3は、運転室4、機械室5、カウンタウェイト6を有する。運転室4は、旋回体3の前部における左側部に設けられている。機械室5は、運転室4の後方に設けられている。カウンタウェイトは、機械室5の後方、すなわち旋回体3の後端に設けられている。
【0014】
また、旋回体3は、多関節型の作業装置7を装備している。作業装置7は、旋回体3の前部における運転室4の右側、すなわち旋回体3の前部における略中央部に設けられている。作業装置7は、ブーム8と、アーム9と、バケット(作業具)10と、ブームシリンダ11と、アームシリンダ12と、バケットシリンダ13とを有する。ブーム8の基端部は、ブームピンP1(図2参照)を介して、旋回体3の前部に回動可能に取り付けられている。アーム9の基端部は、アームピンP2(図2参照)を介して、ブーム8の先端部に回動可能に取り付けられている。バケット10の基端部は、バケットピンP3(図2参照)を介して、アーム9の先端部に回動可能に取り付けられている。ブームシリンダ11と、アームシリンダ12と、バケットシリンダ13とはそれぞれ作動油によって駆動される油圧シリンダである。ブームシリンダ11は伸縮してブーム8を駆動し、アームシリンダ12は伸縮したアーム9を駆動し、バケットシリンダ13は伸縮してバケット10を駆動する。なお、以下では、ブーム8、アーム9及びバケット(作業具)10をそれぞれフロント部材と称することがある。
【0015】
機械室5の内部には可変容量型の第1油圧ポンプ14及び第2油圧ポンプ15(図3参照)と、第1油圧ポンプ14及び第2油圧ポンプ15を駆動するエンジン(原動機)16(図3参照)とが設置されている。
【0016】
運転室4の内部には車体傾斜センサ17、ブーム8にはブーム傾斜センサ18、アーム9にはアーム傾斜センサ19、バケット10にはバケット傾斜センサ20が取り付けられている。例えば、車体傾斜センサ17、ブーム傾斜センサ18、アーム傾斜センサ19、バケット傾斜センサ20はIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)である。車体傾斜センサ17は水平面に対する上部旋回体(車体)3の角度(対地角度)を、ブーム傾斜センサ18は、ブームの対地角度を、アーム傾斜センサ19は、アーム9の対地角度を、バケット傾斜センサ20は、バケット10の対地角度を計測する。
【0017】
旋回体3の後部の左右に第1GNSSアンテナ21と第2GNSSアンテナ22が取り付けられている。第1GNSSアンテナ21と第2GNSSアンテナ22がそれぞれ複数の航法衛星(好ましくは4基以上の航法衛星)から受信した航法信号からグローバル座標系における所定の2点(例えば、アンテナ21,22の基端部の位置)の位置情報が算出できる。そして、算出した2点のグローバル座標系における位置情報(座標値)により、油圧ショベル1に設定したローカル座標系(車体基準座標系)の原点P0(図2参照)のグローバル座標系における座標値と、ローカル座標系を構成する3軸のグローバル座標系における姿勢(すなわち図2の例では走行体2及び旋回体3の姿勢・方位)を計算することが可能である。このような航法信号に基づく各種位置の演算処理は後述するコントローラ25で行うことができる。
【0018】
図2は油圧ショベル1の側面図である。図2に示すように、ブーム8の長さ、つまり、ブームピンP1からアームピンP2までの長さをL1とする。また、アーム9の長さ、つまり、アームピンP2からバケットピンP3までの長さをL2とする。また、バケット10の長さ、つまり、バケットピンP3からバケット先端(バケット10の爪先)P4までの長さをL3とする。また、グローバル座標系に対する旋回体3の傾斜、つまり、水平面鉛直方向(水平面に垂直な方向)と車体鉛直方向(旋回体3の旋回中心軸方向)のなす角度をθ4とする。以下、車体前後傾斜角θ4という。ブームピンP1とアームピンP2を結んだ線分と車体鉛直方向のなす角度をθ1とし、以下、ブーム角度θ1という。アームピンP2とバケットピンP3を結んだ線分と、ブームピンP1とアームピンP2からなる直線とのなす角度をθ2とし、以下、アーム角度θ2という。バケットピンP3とバケット先端P4を結んだ線分と、アームピンP2とバケットピンP3からなる直線とのなす角度をθ3とし、以下、バケット角度θ3という。
【0019】
図3は油圧ショベル1の車体制御システム23の構成である。車体制御システム23は、作業装置7を操作するための操作装置24と、第1,第2油圧ポンプ14,15を駆動するエンジン16と、第1,第2油圧ポンプ14,15からブームシリンダ11、アームシリンダ12及びバケットシリンダ13に供給する作動油の流量と方向を制御する流量制御弁装置26と、流量制御弁装置26を制御する制御装置であるコントローラ25とを備えている。
【0020】
操作装置24は、ブーム8(ブームシリンダ11)を操作するためのブーム操作レバー24aと、アーム9(アームシリンダ12)を操作するためのアーム操作レバー24bと、バケット10(バケットシリンダ13)を操作するためのバケット操作レバー24cとを有する。例えば、各操作レバー24a,24b,24cは電気レバーであり、各レバーの傾倒量(操作量)に応じた電圧値をコントローラ25に出力する。ブーム操作レバー24aはブームシリンダ11の目標動作量をブーム操作レバー24aの操作量に応じた電圧値として出力する(以下、ブーム操作量とする)。アーム操作レバー24bはアームシリンダ12の目標動作量をアーム操作レバー24bの操作量に応じた電圧値として出力する(以下、アーム操作量とする)。バケット操作レバー24cはバケットシリンダ13の目標動作量をバケット操作レバー24cに応じた電圧値として出力する(以下、バケット操作量とする)。また、各操作レバー24a,24b,24cを油圧パイロットレバーとし、各レバー24a,24b,24cの傾倒量に応じて生成されるパイロット圧力を圧力センサ(図示せず)で電圧値に変換してコントローラ25に出力することで各操作量を検出してもよい。
【0021】
コントローラ25は、操作装置24から出力された操作量と、作業装置7に予め設定した所定の制御点であるバケット先端P4の位置情報(制御点位置情報)と、コントローラ25内に予め記憶された目標面60(図2参照)の位置情報(目標面情報)とに基づいて制御指令を演算し、その制御指令を流量制御弁装置26に出力する。本実施形態のコントローラ25は、操作装置24の操作時に、作業装置7の動作範囲が目標面60上及びその上方に制限されるようにアームシリンダ12及びブームシリンダ11の目標速度をバケット先端P4(制御点)と目標面60の距離(目標面距離)D(図2参照)に応じて演算する。なお、本実施形態では作業装置7の制御点としてバケット先端P4(バケット10の爪先)を設定したが、作業装置7上の任意の点を制御点に設定でき、例えば作業装置7においてアーム9より先の部分で目標面60に最も近い点を制御点に設定しても良い。
【0022】
図4はコントローラ25のハードウェア構成の概略図である。図4においてコントローラ25は,入力インターフェース91と,プロセッサである中央処理装置(CPU)92と,記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と,出力インターフェース95とを有している。入力インターフェース91には,作業装置7の姿勢を検出する作業装置姿勢検出装置50である傾斜センサ17,18,19,20からの信号と,各操作レバー24a,24b,24cの操作量を示す操作装置24からの電圧値(信号)と、作業装置7による掘削作業や盛土作業の基準となる目標面60を設定するための装置である目標面設定装置51からの信号が入力され,CPU92が演算可能なように変換する。ROM93は,後述するフローチャートに係る処理を含めコントローラ25が各種制御処理を実行するための制御プログラムと,当該各種制御処理の実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体である。CPU92は,ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力インターフェース91及びROM93,RAM94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力インターフェース95は,CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成して出力する。出力インターフェース95の出力用の信号としては電磁弁32,33,34,35(図5参照)の制御指令があり、電磁弁32,33,34,35はその制御指令に基づいて動作して油圧シリンダ11,12,13を制御する。なお,図4のコントローラ25は,記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えているが,記憶装置であれば特に代替可能であり,例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備えても良い。
【0023】
流量制御弁装置26は、電磁駆動可能な複数のスプールを備えており、コントローラ25により出力された制御指令に基づいて各スプールの開口面積(絞り開度)を変化させることで、油圧シリンダ11,12,13を含む油圧ショベル1に搭載された複数の油圧アクチュエータを駆動する。
【0024】
図5は油圧ショベル1の油圧回路27の概略図である。油圧回路27は、第1油圧ポンプ14と、第2油圧ポンプ15と、流量制御弁装置26と、作動油タンク36a、36bを備えている。
【0025】
流量制御弁装置26は、第1油圧ポンプ14からアームシリンダ12に供給する作動油の流量を制御する第1流量制御弁である第1アームスプール28と、第2ポンプ15からアームシリンダ12に供給する作動油の流量を制御する第3流量制御弁である第2アームスプール29と、第1油圧ポンプ14からバケットシリンダ13に供給する作動油の流量を制御するバケットスプール30と、第2油圧ポンプ15からブームシリンダ11に供給する作動油の流量を制御する第2流量制御弁であるブームスプール(第1ブームスプール)31と、第1アームスプール28を駆動する第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bと、第2アームスプール29を駆動する第2アームスプール駆動電磁弁33a、33bと、バケットスプール30を駆動するバケットスプール駆動電磁弁34a、34bと、ブームスプール31を駆動するブームスプール駆動電磁弁(第1ブームスプール駆動電磁弁)35a、35bとを備えている。
【0026】
第1アームスプール28とバケットスプール30は第1油圧ポンプ14に並列接続されており、第2アームスプール29とブームスプール31は第2油圧ポンプ15に並列接続されている。
【0027】
流量制御弁装置26はいわゆるオープンセンタ式(センタバイパス式)である。各スプール28,29,30,31は、中立位置から所定のスプール位置に達するまで油圧ポンプ14,15から吐出された作動油を作動油タンク36a,36bへ導く流路であるセンタバイパス部28a,29a,30a,31aを有している。本実施形態では、第1油圧ポンプ14と、第1アームスプール28のセンタバイパス部28aと、バケットスプール30のセンタバイパス部30aと、タンク36aは、この順序で直列接続されており、センタバイパス部28aとセンタバイパス部30aは第1油圧ポンプ14から吐出される作動油をタンク36aに導くセンタバイパス流路を構成している。また、第2油圧ポンプ15と、第2アームスプール29のセンタバイパス部29aと、ブームスプール31のセンタバイパス部31aと、タンク36bは、この順序で直列接続されており、センタバイパス部29aとセンタバイパス部31aは第2油圧ポンプ15から吐出される作動油をタンク36bに導くセンタバイパス流路を構成している。
【0028】
各電磁弁32,33,34,35には、エンジン16によって駆動されるパイロットポンプ(図示せず)が吐出した圧油が導かれている。各電磁弁32,33,34,35は、コントローラ25からの制御指令に基づいて適宜動作してパイロットポンプからの圧油を各スプール28,29,30,31の駆動部に作用させ、これにより各スプール28,29,30,31が駆動されて油圧シリンダ11,12,13が動作する。
【0029】
例えば、コントローラ25によりアームシリンダ12の伸長方向に指令が出た場合は、第1アームスプール駆動電磁弁32aと、第2アームスプール駆動電磁弁33aとに指令が出力される。アームシリンダ12の短縮方向に指令が出た場合は、第1アームスプール駆動電磁弁32bと、第2アームスプール駆動電磁弁33bとに指令が出力される。バケットシリンダ13の伸長方向に指令が出た場合は、バケットスプール駆動電磁弁34aに指令が出力され、バケットシリンダ13の短縮方向に指令が出た場合は、バケットスプール駆動電磁弁34bに指令が出力される。ブームシリンダ11の伸長方向に指令が出力された場合は、ブームスプール駆動電磁弁35aに指令が出力され、ブームシリンダ11の短縮方向に指令が出力された場合は、ブームスプール駆動電磁弁35bに指令が出力される。
【0030】
図6に本実施形態に係るコントローラ25が実行する処理を機能的側面から複数のブロックに分類してまとめた機能ブロック図を示す。この図に示すようにコントローラ25になされる処理は、制御点位置演算部53と、目標面記憶部54と、距離演算部37と、目標速度演算部38と、作業モード選択部39と、流量制御弁制御部40とに区分できる。
【0031】
制御点位置演算部53は,グローバル座標系における本実施形態の制御点であるバケット先端P4の位置と、グローバル座標系における作業装置7の各フロント部材8,9,10の姿勢を演算する。演算は公知の方法に基づけば良いが、例えば、まず、第1,第2GNSSアンテナ21,22で受信された航法信号から、ローカル座標系(車体基準座標系)の原点P0(図2参照)のグローバル座標系における座標値と、グローバル座標系における走行体2と旋回体3の姿勢情報・方位情報を計算する。そして、この演算結果と、作業装置姿勢検出装置50からの傾斜角θ1,θ2,θ3,θ4の情報と、ローカル座標系におけるブームフートピンP1の座標値と、ブーム長さL1及びアーム長さL2及びバケット長さL3を利用して、グローバル座標系における本実施形態の制御点であるバケット先端P4の位置と、グローバル座標系における作業装置7の各フロント部材8,9,10の姿勢を演算する。なお、作業装置7の制御点の座標値は、レーザー測量計などの外部計測機器により計測し、その外部計測機器との通信により取得されてもよい。
【0032】
目標面記憶部54は,運転室4内にある目標面設定装置51からの情報に基づき演算された目標面60のグローバル座標系における位置情報(目標面データ)を記憶している。本実施形態では,図2に示すように,作業装置7の各フロント部材8,9,10が動作する平面(作業機の動作平面)で目標面の3次元データを切断した断面形状を目標面60(2次元の目標面)として利用する。なお,図2の例では目標面60は1つだが,目標面が複数存在する場合もある。目標面が複数存在する場合には,例えば,作業装置7の制御点から距離の最も近いものを目標面と設定する方法や,バケット先端P4の鉛直下方に位置するものを目標面とする方法や,任意に選択したものを目標面とする方法等がある。また、目標面60の位置情報は、グローバル座標系における作業装置7の制御点の位置情報に基づいて、油圧ショベル1の周辺の目標面60の位置情報を外部サーバから通信により取得して目標面記憶部54に記憶してもよい。
【0033】
距離演算部37は、制御点位置演算部53で演算された作業装置7の制御点の位置情報と、目標面記憶部54から取得した目標面60の位置情報とから作業装置7の制御点と目標面60との距離D(図2参照)を演算する。
【0034】
目標速度演算部38は、操作装置24の操作時に、作業装置の動作範囲が目標面60上及びその上方に制限されるように各油圧シリンダ11,12,13の目標速度を距離Dに応じて演算する部分である。本実施の形態では下記の演算を行う。
【0035】
まず、目標速度演算部38は、まず、操作レバー24aから入力される電圧値(ブーム操作量)からブームシリンダ11への要求速度(ブームシリンダ要求速度)を計算し、操作レバー24bから入力される電圧値(アーム操作量)からアームシリンダ12への要求速度を計算し、操作レバー24cから入力される電圧値(バケット操作量)からバケットシリンダ13への要求速度を計算する。この3つの要求速度と制御点位置演算部53で演算された作業装置7の各フロント部材8,9,10の姿勢から、バケット先端P4における作業装置7の速度ベクトル(要求速度ベクトル)V0を計算する。そして、速度ベクトルV0の目標面鉛直方向の速度成分V0zと目標面水平方向の速度成分V0xも計算する。
【0036】
次に、目標速度演算部38は、距離Dに応じて決定される補正係数kを演算する。図7はバケット先端P4と目標面60の距離Dと速度補正係数kとの関係を表すグラフである。バケット爪先座標P4(作業装置7の制御点)が目標面60の上方に位置している時の距離を正、目標面60の下方に位置している時の距離を負として、距離Dが正の時は正の補正係数を、距離Dが負の時は負の補正係数を、1以下の値として出力する。なお、速度ベクトルは目標面60の上方から目標面60に近づく方向を正としている。
【0037】
次に、目標速度演算部38は、距離Dに応じて決定される補正係数kを、速度ベクトルV0の目標面鉛直方向の速度成分V0zに乗ずることによって速度成分V1zを計算する。この速度成分V1zと、速度ベクトルV0の目標面水平方向の速度成分V0xとを合成することで合成速度ベクトル(目標速度ベクトル)V1を計算し、この合成速度ベクトルV1を発生可能なブームシリンダ速度と、アームシリンダ速度(Va1)と、バケットシリンダ速度をそれぞれ目標速度として演算する。この目標速度の演算の際には、制御点位置演算部53で演算された作業装置7の各フロント部材8,9,10の姿勢を利用しても良い。
【0038】
図8はバケット先端P4における距離Dに応じた補正前後の速度ベクトルを表す模式図である。要求速度ベクトルV0の目標面鉛直方向の成分V0z(図8の左の図参照)に速度補正係数kを乗じることにより、V0z以下の目標面鉛直方向の速度ベクトルV1z(図8の右の図参照)が得られる。V1zと要求速度ベクトルV0の目標面水平方向の成分のV0xとの合成速度ベクトルV1を計算し、V1を出力可能なアームシリンダ目標速度Va1と、ブームシリンダ目標速度と、バケットシリンダ目標速度とが計算される。
【0039】
作業モード選択部39は、アームシリンダ12の目標速度Va1と距離Dに基づいて油圧ショベル1の作業モードを選択する。ここで選択される作業モードとしては、作業装置7の制御性よりも操作性(応答性)を優先する「第1作業モード(操作性優先モード)」と、作業装置7の操作性よりも制御性を優先する「第2作業モード(制御性優先モード)」がある。より具体的には、作業モード選択部39は、バケット爪先座標P4(作業装置7の制御点)が目標面60の上方に位置している時の距離Dを正とし、アームシリンダ12の目標速度Va1が所定の速度閾値V0より大きいとき第1作業モードを選択し、距離Dが所定の距離閾値D0以上のとき第1作業モードを選択し、アームシリンダ12の目標速度Va1が速度閾値V0未満かつ距離Dが距離閾値D0未満のとき第2作業モードを選択する。
【0040】
本実施形態の速度閾値V0は、第1油圧ポンプ14の供給可能な最大流量に相当するアームシリンダ11の最大速度Va1maxとする。距離閾値D0は0以上の値、すなわち正の値とする。
【0041】
流量制御弁制御部40は、作業モード選択部39で選択された作業モードと、目標速度演算部38で演算された各油圧シリンダ11,12,13の目標速度に基づいて、電磁弁32,33,34,35への制御指令を演算し、その制御指令を対応する電磁弁32,33,34,35に出力することで各流量制御弁(各スプール)28,29,30,31を制御する部分である。
【0042】
図9は流量制御弁制御部40の機能ブロック図である。流量制御弁制御部40は、アーム用流量制御弁制御部40aと、ブーム用流量制御弁制御部40bと、バケット用流量制御弁40cを有している。
【0043】
アーム用流量制御弁制御部40aは、油圧ショベル1の作業モードとして第1モードが選択されているときに利用される第1モード制御部40a1と、油圧ショベル1の作業モードとして第2モードが選択されているときに利用される第2モード制御部40a2を備えている。これにより、アーム用流量制御弁制御部40aは、油圧ショベル1の作業モードとして第1作業モードが選択されている場合には、第1モード制御部40a1により、アームシリンダ12の目標速度に基づいて第1流量制御弁(第1アームスプール)28と第3流量制御弁(第2アームスプール)29を制御する。一方、油圧ショベル1の作業モードとして第2作業モードが選択されている場合には、第2モード制御部40a2により、アームシリンダ12の目標速度に基づいて第1流量制御弁(第1アームスプール)28のみを制御する。
【0044】
第1モード制御部40a1は、目標速度演算部38で演算されたアームシリンダ12の目標速度を入力し、その目標速度に対応する第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bと第2アームスプール駆動電磁弁33a,33bの制御指令(具体的には第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bと第2アームスプール駆動電磁弁33a,33bの弁開度を規定する指令電流値)を演算して出力する。すなわち第1モードが選択されている場合には、アームシリンダ12は2つのアームスプール28,29(つまり2つの油圧ポンプ14,15)から導入される作動油で駆動される。第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bと第2アームスプール駆動電磁弁33a,33bの制御指令の演算に際して、本実施形態の第1モード制御部40a1は、アームシリンダ12の目標速度と、第1アームスプール駆動電磁弁32a、32b及び第2アームスプール駆動電磁弁33a,33bの制御指令との相関関係が一対一で規定されたテーブルを利用する。このテーブルには、まず、アームシリンダ12を伸長する場合に利用される2つのテーブルとして、第1アームスプール駆動電磁弁32a用のテーブルと、第2アームスプール駆動電磁弁33a用のテーブルがある。また、アームシリンダ12を縮短する場合に利用される2つのテーブルとして、第1アームスプール駆動電磁弁32b用のテーブルと、第2アームスプール駆動電磁弁33b用のテーブルがある。これらの4つのテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた電磁弁32a,32b,33a,33bへの電流値とアームシリンダ12の実速度の関係に基づいて,アームシリンダ目標速度の大きさの増加とともに電磁弁32a,32b,33a,33bへの電流値が単調に増加するように目標速度と電流値の相関関係が規定されている。
【0045】
第2モード制御部40a2は、目標速度演算部38で演算されたアームシリンダ12の目標速度を入力し、その目標速度に対応する第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bの制御指令(具体的には第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bの弁開度を規定する指令電流値)を演算して出力する。すなわち第2モードが選択されている場合には、アームシリンダ12は1つのアームスプール28のみ(つまり1つの油圧ポンプ14のみ)から導入される作動油で駆動される。第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bの制御指令の演算に際して、本実施形態の第2モード制御部40a2は、アームシリンダ12の目標速度と第1アームスプール駆動電磁弁32a、32bの制御指令との相関関係が一対一で規定されたテーブルを利用する。このテーブルには、アームシリンダ12を伸長する場合に利用される第1アームスプール駆動電磁弁32a用のテーブルと、アームシリンダ12を縮短する場合に利用される第1アームスプール駆動電磁弁32b用のテーブルがある。これらの2つのテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた電磁弁32a,32bへの電流値とアームシリンダ12の実速度の関係に基づいて,アームシリンダ目標速度の大きさの増加とともに電磁弁32a,32bへの電流値が単調に増加するように目標速度と電流値の相関関係が規定されている。
【0046】
ブーム用流量制御弁制御部40bは、目標速度演算部38で演算されたブームシリンダ11の目標速度を入力し、その目標速度に対応するブームスプール駆動電磁弁35a、35bの制御指令(具体的にはブームスプール駆動電磁弁35a、35bの弁開度を規定する指令電流値)を演算して出力する。ブームスプール駆動電磁弁35a、35bの制御指令の演算に際して、本実施形態のブーム用流量制御弁制御部40bは、ブームシリンダ11の目標速度とブームスプール駆動電磁弁35a、35bの制御指令の相関関係が一対一で規定されたテーブルを利用する。テーブルは、ブームシリンダ11を伸長する場合に利用されるブームスプール駆動電磁弁35a用のテーブルと、ブームシリンダ11を短縮する場合に利用されるブームスプール駆動電磁弁35b用のテーブルがある。これらの2つのテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた電磁弁35a,35bへの電流値とブームシリンダ11の実速度の関係に基づいて,ブームシリンダ目標速度の大きさの増加とともに電磁弁35a,35bへの電流値が単調に増加するように目標速度と電流値の相関関係が規定されている。ブーム用流量制御弁制御部40bは、ブームスプール駆動電磁弁35a、35bの制御指令の演算に際して、作業モード選択部39に選択されている作業モードに係わらず同じテーブルを利用する。
【0047】
バケット用流量制御弁制御部40cは、目標速度演算部38で演算されたバケットシリンダ13の目標速度を入力し、その目標速度に対応するバケットスプール駆動電磁弁34a、34bの制御指令(具体的にはバケットスプール駆動電磁弁34a、34bの弁開度を規定する指令電流値)を演算して出力する。バケットスプール駆動電磁弁34a、34bの制御指令の演算に際して、本実施形態のバケット用流量制御弁制御部40cは、バケットシリンダ13の目標速度とバケットスプール駆動電磁弁34a、34bの制御指令の相関関係が一対一で規定されたテーブルを利用する。テーブルは、バケットシリンダ13を伸長する場合に利用されるバケットスプール駆動電磁弁34a用のテーブルと、バケットシリンダ13を短縮する場合に利用されるバケットスプール駆動電磁弁34b用のテーブルがある。これらの2つのテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた電磁弁34a,34bへの電流値とバケットシリンダ13の実速度の関係に基づいて,バケットシリンダ目標速度の大きさの増加とともに電磁弁34a,34bへの電流値が単調に増加するように目標速度と電流値の相関関係が規定されている。バケット用流量制御弁制御部40cは、バケットスプール駆動電磁弁34a、34bの制御指令の演算に際して、作業モード選択部39に選択されている作業モードに係わらず同じテーブルを利用する。
【0048】
流量制御弁制御部40は、例えば、第1作業モードが選択されている場合に、アームシリンダ目標速度とブームシリンダ目標速度の指令があるときは、電磁弁32,33,35の制御指令を生成して、第1アームスプール28と第2アームスプール29とブームスプール31とを駆動する。一方、第2作業モードが選択されている場合に、アームシリンダ目標速度とブームシリンダ目標速度の指令があるときは、電磁弁32,35の制御指令を生成して、第1アームスプール28とブームスプール31とを駆動する。
【0049】
図10はコントローラ25による制御フローを表すフローチャートである。コントローラ25は操作装置24がオペレータにより操作されると図10の処理を開始し,制御点位置演算部53は、作業装置姿勢検出装置50から傾斜角θ1,θ2,θ3,θ4の情報や、GNSSアンテナ21,22の航法信号から演算される油圧ショベル1の位置情報、姿勢情報(角度情報)及び方位情報や、予め記憶されている各フロント部材の寸法情報L1,L2,L3等に基づきグローバル座標系におけるバケット先端P4(制御点)の位置情報を演算する(手順S1)。
【0050】
手順S2では、距離演算部37が,制御点位置演算部53で演算されたグローバル座標系におけるバケット先端P4の位置情報(油圧ショベル1の位置情報を利用しても良い)を基準として所定の範囲に含まれる目標面の位置情報(目標面データ)を目標面記憶部54から抽出・取得する。そして、その中からバケット先端P4に最も近い位置に在る目標面を制御対象の目標面60、すなわち距離Dを演算する目標面60として設定する。
【0051】
手順S3では、距離演算部37は、手順S1で演算したバケット先端P4の位置情報と手順S2で設定した目標面60の位置情報に基づいて距離Dを演算する。
【0052】
手順S4では、目標速度演算部38は、手順S3で演算した距離Dと、操作装置24から入力される各操作レバーの操作量(電圧値)とに基づいて、作業装置7が動作してもバケット先端P4が目標面60上またはその上方に保持されるように各油圧アクチュエータ11,12,13の目標速度を演算する。
【0053】
手順S5では、作業モード選択部39は、手順S3で演算した距離Dが距離閾値D0より小さいか否かを判定する。この判定で距離Dが距離閾値D0より小さいと判定された場合には手順S6に進み、そうでない場合(すなわち距離Dが距離閾値D0以上の場合)には手順S9に進む。
【0054】
手順S6では、作業モード選択部39は、手順S4で演算したアームシリンダ12の目標速度Va1の大きさが速度閾値Va1max(すなわちV0)以下か否かを判定する。この判定でアームシリンダ12の目標速度Va1が速度閾値Va1max以下と判定された場合には手順S7に進み、そうでない場合(すなわち目標速度Va1が速度閾値Va1maxより大きい場合)には手順S9に進む。
【0055】
手順S7では、作業モード選択部39は、油圧ショベル1の作業モードとして第2モード(制御性優先モード)を選択する。
【0056】
手順S8では、アーム用流量制御弁制御部40aにおける第2モード制御部40a2が第1流量制御弁(第1アームスプール)28を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁32aまたは電磁弁32bに出力し、手順S11に進む。
【0057】
手順S11では、ブーム用流量制御弁制御部40bが第2流量制御弁(ブームスプール)31を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁31aまたは電磁弁31bに出力し、手順S12に進む。
【0058】
手順S12では、バケット用流量制御弁制御部40cが流量制御弁(バケットスプール)30を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁34aまたは電磁弁34bに出力する。手順S12の処理が終了したら、操作装置24の操作が継続していることを確認してはじめに戻り手順S1以降の処理を繰り返す。なお、図10のフローの途中であっても操作装置24の操作が終了した場合には処理を終了して次回の操作装置24の操作が開始されるまで待機する。
【0059】
手順S9では、作業モード選択部39は、油圧ショベル1の作業モードとして第1モード(操作性優先モード)を選択する。
【0060】
手順S10では、アーム用流量制御弁制御部40aにおける第1モード制御部40a1が第1流量制御弁(第1アームスプール)28と第3流量制御弁(第2アームスプール)29を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁32a及び電磁弁33aまたは電磁弁32b及び電磁弁33bに出力し、手順S11に進む。以降の処理は既に説明したので省略する。
【0061】
<動作・効果>
上記のように構成された本実施形態の作業機械では、距離Dが距離閾値D0より小さく、かつ、アームシリンダ12の目標速度Va1が第1油圧ポンプ14から供給可能な最大の速度Va1max以下である場合には、コントローラ25(作業モード選択部39)により作業装置7の制御性を優先する第2制御モードが自動的に選択される。第2制御モードが選択される場面は、第1制御モードが選択される場合に比して作業装置7の制御点であるバケット先端P4が目標面60に相対的に近く、目標面60に沿ってバケット先端P4を移動させることで出来形を目標面60に近づける仕上げ作業が行われることが多い。仕上げ作業はアーム操作量が比較的小さいことが多く、操作性よりも制御性が重要となる。
【0062】
第2制御モードが選択された場合、アームシリンダ12の制御は第2モード制御部40a2が行うが、この場合、第1流量制御弁(第1アームスプール)28のみを駆動してアームシリンダ12を制御し、ブームシリンダ11の制御に利用される第2流量制御弁(ブームスプール)31と並列接続された第3流量制御弁(第2アームスプール)29は中立位置に保持されてアームシリンダ12の制御に利用されない。すなわち、アームシリンダ12とブームシリンダ11は異なる油圧ポンプからの作動油で駆動され、アームシリンダ12とブームシリンダ11間で作動油の分流が発生することが防止される。これによりアームシリンダ12とブームシリンダ11の負荷の大小に応じてアームシリンダ11に導入される作動油の流量が変動することがなくなるため、アームシリンダ12とブームシリンダ11は目標速度演算部38で演算された目標速度に基づいて精度よく制御される。したがって、作業装置7により形成した出来形を目標面60に近づけることができる。
【0063】
一方、距離Dが距離閾値D0よりも大きい場合、または、アームシリンダ12の目標速度Va1が第1油圧ポンプ14から供給可能な最大の速度Va1maxより大きい場合には、コントローラ25(作業モード選択部39)により作業装置7の応答性や操作性を優先する第1制御モードが自動的に選択される。第1制御モードが選択される場面は、第2制御モードが選択される場合に比してバケット先端P4が目標面60から相対的に遠い位置にあり、目標面60の下方に侵入しない範囲でできるだけ速くアーム9をクラウド動作して効率良く掘削作業を進める粗掘削作業が行われることが多い。粗掘削作業は時間あたりの作業効率が重要視されるためアーム操作量が比較的大きい場合が多く、制御性よりも応答性や操作性が重要となる。
【0064】
第1制御モードが選択された場合、アームシリンダ12の制御は第1モード制御部40a1が行うが、この場合、第1流量制御弁(第1アームスプール)28と第3流量制御弁(第2アームスプール)29の双方を利用してアームシリンダ12を制御する。すなわち、アームシリンダ12とブームシリンダ11間での作動油の分流が許容されるものの、アームシリンダ12は2つの油圧ポンプ14,15からの作動油で駆動される。これによりアーム操作量に即した流量の作動油をアームシリンダ12に速やかに導入できるので、オペレータの操作に対してアームシリンダ12は応答性良く動作して良好な操作性が得られる。
【0065】
すなわち、本実施形態によれば、制御性が優先される時は負荷によらず各油圧アクチュエータを精度良く制御できるとともに、操作性が優先される時は良好な操作性が得られる。
【0066】
特に上記の実施形態では、アームシリンダ12の目標速度Va1が第1油圧ポンプ14から供給可能な最大の速度Va1maxより大きくなった場合には距離Dに係わらず自動的に第1モードが選択されるように構成している。そのため、距離Dが距離閾値D0より小さい場面でもアームシリンダ12に素早い動作が求められるときには、その動作が許容されるようになっている。すなわち、バケット先端P4が目標面60の近傍にある場合にも、必要な場合にはアームシリンダ12を素早く動作させることができ、操作性が著しく損なわれることを回避している。
【0067】
なお、上記の実施形態ではアームシリンダ12の目標速度Va1が第1油圧ポンプ14から供給可能な最大の速度Va1maxより大きくなった場合には距離Dに係わらず第1モードが選択されるように構成したが、この構成は省略可能である。すなわち、作業モード選択部39を、距離Dが距離閾値D0以上のとき第1作業モードを選択し、距離Dが距離閾値D0未満のとき第2作業モードを選択するように構成しても良い。この場合のコントローラ25のフローチャートを図16に示す。図16のフローチャートは、図10のフローチャートから手順S6を省略して、手順S5でYESと判定された場合に手順S7に進むように構成したものである。この場合にも、制御性が優先される時は負荷によらず各油圧アクチュエータを精度良く制御できるとともに、操作性が優先される時は良好な操作性が得られる。
【0068】
<第2実施形態>
図11は本発明の第2実施形態に係る作業機械のコントローラ25Aの機能ブロック図とコントローラ25の周辺の構成図である。コントローラ25Aは作業モード選択部39を備えておらず、コントローラ25A内の流量制御弁制御部40は、作業モード選択スイッチ55からの信号に基づいて電磁弁32,33,34,35の制御を実行している。その他のハードウェア構成は先の実施形態と同じなので説明は省略する。
【0069】
作業モード選択スイッチ55は、油圧ショベル1の作業モードを前述の第1モードと第2モードのいずれか一方に選択するためのスイッチであり、例えば、運転室4内の操作装置24またはその周辺に設けられている。作業モード選択スイッチ55の切り替え位置には、前述の第1モードが選択される第1位置と、第2モードが選択される第2位置がある。第1位置に切り換えられている場合、作業モード選択スイッチ55は、流量制御弁制御部40のアーム用流量制御弁制御部40aに対して第1モードが選択されていることを示す信号(第1モード選択信号)を出力する。一方、第2位置に切り換えられている場合、作業モード選択スイッチ55は、流量制御弁制御部40のアーム用流量制御弁制御部40aに対して第2モードが選択されていることを示す信号(第2モード選択信号)を出力する。
【0070】
アーム用流量制御弁制御部40aは、作業モード選択スイッチ55から第1モード選択信号が入力されている場合には第1モード制御部40a1によりアームシリンダ12を制御し、第2モード選択信号が入力されている場合には第2モード制御部40a2によりアームシリンダ12を制御する。
【0071】
図12は本実施形態のコントローラ25Aによる制御フローを表すフローチャートである。図10と同じ符号が付された処理は図10と同じ処理であり説明は省略する。
【0072】
手順S13で、流量制御弁制御部40は、作業モード選択スイッチ55から入力される信号が第2モード選択信号であるか否かに基づいて、モード選択スイッチ55が第2モードの第2位置に切り換えられているか否かを判定する。作業モード選択スイッチ55から入力される信号が第2モード選択信号の場合には、流量制御弁制御部40は、第2モード制御部40a2によりアームシリンダ12を制御することを決定して手順S8に進む。一方、作業モード選択スイッチ55から入力される信号が第1モード選択信号の場合には、流量制御弁制御部40は、第1モード制御部40a1によりアームシリンダ12を制御することを決定して手順S10に進む。
【0073】
以上のように構成した作業機械によれば、作業モード選択スイッチ55を操作することでオペレータが所望のタイミングで油圧ショベル1の作業モードを切り換えられるので、オペレータの意思に即したアクチュエータ制御が可能になる。
【0074】
<第3実施形態>
第3実施形態として油圧ショベル1に油圧ポンプが3つ搭載されている場合について説明する。なお、先の各実施形態と共通する部分の説明は省略する。
【0075】
図13は第3実施形態に係る油圧ショベル1の油圧回路の概略図である。この油圧回路は、図5に示した第1実施形態の油圧回路に加えて、エンジン16によって駆動される第3油圧ポンプ41と、第3油圧ポンプ41からブームシリンダ11に供給する作動油の流量を制御する第4の流量制御弁である第2ブームスプール42と、第2ブームスプール42を駆動する第2ブームスプール駆動電磁弁43a、43bと、作動油タンク44を備えている。
【0076】
第2ブームスプール42も、中立位置から所定のスプール位置に達するまで油圧ポンプ41から吐出された作動油を作動油タンク44へ導く流路であるセンタバイパス部42aを有している。本実施形態では、第3油圧ポンプ41と、第2ブームスプール42のセンタバイパス部42aと、タンク44は、この順序で直列接続されており、センタバイパス部42aは第3油圧ポンプ41から吐出される作動油をタンク44に導くセンタバイパス流路を構成している。
【0077】
図14は本実施形態に係る流量制御弁制御部40Aの機能ブロック図である。流量制御弁制御部40Aは、アーム用流量制御弁制御部40aと、ブーム用流量制御弁制御部40bと、バケット用流量制御弁40cを有している。
【0078】
ブーム用流量制御弁制御部40bは、油圧ショベル1の作業モードとして第1モードが選択されているときに利用される第1モード制御部40b1と、油圧ショベル1の作業モードとして第2モードが選択されているときに利用される第2モード制御部40b2を備えている。これにより、ブーム用流量制御弁制御部40bは、油圧ショベル1の作業モードとして第1作業モードが選択されている場合には、第1モード制御部40b1により、ブームシリンダ11の目標速度に基づいて第2流量制御弁(第1ブームスプール)31と第4流量制御弁(第2ブームスプール)42を制御する。一方、油圧ショベル1の作業モードとして第2作業モードが選択されている場合には、第2モード制御部40b2により、ブームシリンダ11の目標速度に基づいて第4流量制御弁(第2ブームスプール)42のみを制御する。
【0079】
第1モード制御部40b1は、目標速度演算部38で演算されたブームシリンダ11の目標速度を入力し、その目標速度に対応する第1ブームスプール駆動電磁弁35a、35bと第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの制御指令(具体的には第1ブームスプール駆動電磁弁35a、35bと第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの弁開度を規定する指令電流値)を演算して出力する。すなわち第1モードが選択されている場合には、ブームシリンダ11は2つのブームスプール31,42(つまり2つの油圧ポンプ15,41)から導入される作動油で駆動される。第1ブームスプール駆動電磁弁35a、35bと第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの制御指令の演算に際して、本実施形態の第1モード制御部40b1は、ブームシリンダ11の目標速度と、第1ブームスプール駆動電磁弁35a、35b及び第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの制御指令との相関関係が一対一で規定されたテーブルを利用する。このテーブルには、まず、ブームシリンダ11を伸長する場合に利用される2つのテーブルとして、第1ブームスプール駆動電磁弁35a用のテーブルと、第2ブームスプール駆動電磁弁43a用のテーブルがある。また、ブームシリンダ11を縮短する場合に利用される2つのテーブルとして、第1ブームスプール駆動電磁弁35b用のテーブルと、第2ブームスプール駆動電磁弁43b用のテーブルがある。これらの4つのテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた電磁弁35a、35b,43a,43bへの電流値とブームシリンダ11の実速度の関係に基づいて,ブームシリンダ目標速度の大きさの増加とともに電磁弁35a、35b,43a,43bへの電流値が単調に増加するように目標速度と電流値の相関関係が規定されている。
【0080】
第2モード制御部40b2は、目標速度演算部38で演算されたブームシリンダ11の目標速度を入力し、その目標速度に対応する第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの制御指令(具体的には第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの弁開度を規定する指令電流値)を演算して出力する。すなわち第2モードが選択されている場合には、ブームシリンダ11は1つのブームスプール42のみ(つまり1つの油圧ポンプ41のみ)から導入される作動油で駆動される。第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの制御指令の演算に際して、本実施形態の第2モード制御部40b2は、ブームシリンダ11の目標速度と第2ブームスプール駆動電磁弁43a,43bの制御指令との相関関係が一対一で規定されたテーブルを利用する。このテーブルには、ブームシリンダ11を伸長する場合に利用される第2ブームスプール駆動電磁弁43a用のテーブルと、ブームシリンダ11を縮短する場合に利用される第2ブームスプール駆動電磁弁43用のテーブルがある。これらの2つのテーブルでは,あらかじめ実験やシミュレーションで求めた電磁弁43a,43bへの電流値とブームシリンダ11の実速度の関係に基づいて,ブームシリンダ目標速度の大きさの増加とともに電磁弁43a,43bへの電流値が単調に増加するように目標速度と電流値の相関関係が規定されている。
【0081】
図15は本実施形態に係る流量制御弁制御部40Aを有するコントローラ25による制御フローを表すフローチャートである。コントローラ25は操作装置24がオペレータにより操作されると図15の処理を開始する。図10のフローチャートと同じ手順については同じ符号を付して説明を省略することがある。
【0082】
手順S7で油圧ショベル1の作業モードとして第2モード(制御性優先モード)が選択された場合、手順S8では、アーム用流量制御弁制御部40aにおける第2モード制御部40a2が第1流量制御弁(第1アームスプール)28を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁32aまたは電磁弁32bに出力し、手順S14に進む。
【0083】
手順S14では、ブーム用流量制御弁制御部40bにおける第2モード制御部40b2が第4流量制御弁(第2ブームスプール)42を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁43aまたは電磁弁43bに出力し、手順S12に進む。
【0084】
一方、手順S9で油圧ショベル1の作業モードとして第1モード(操作性優先モード)が選択された場合、手順S10では、アーム用流量制御弁制御部40aにおける第1モード制御部40a1が第1流量制御弁(第1アームスプール)28と第3流量制御弁(第2アームスプール)29を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁32a及び電磁弁33aまたは電磁弁32b及び電磁弁33bに出力し、手順S15に進む。
【0085】
手順S15では、ブーム用流量制御弁制御部40bにおける第1モード制御部40b1が第2流量制御弁(第1ブームスプール)31と第4流量制御弁(第2ブームスプール)42を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁35a及び電磁弁43aまたは電磁弁35b及び電磁弁43bに出力し、手順S12に進む。
【0086】
手順S12では、バケット用流量制御弁制御部40cが流量制御弁(バケットスプール)30を駆動する信号を演算し、その信号を電磁弁34aまたは電磁弁34bに出力する。手順S12の処理が終了したら、操作装置24の操作が継続していることを確認してはじめに戻り手順S1以降の処理を繰り返す。なお、図15のフローの途中であっても操作装置24の操作が終了した場合には処理を終了して次回の操作装置24の操作が開始されるまで待機する。
【0087】
上記のように構成された本実施形態の作業機械では、制御点と目標面60との距離Dが距離閾値D0以上である時は、第1ブームスプール駆動電磁弁35a、35bと第2ブームスプール駆動電磁弁43a、43bとを制御してブームシリンダ11を駆動し、距離Dが距離閾値D0より小さい時は第2ブームスプール駆動電磁弁43a、43bを制御してブームシリンダ11を駆動する。このように距離Dに応じてブームシリンダ11を駆動することにより、距離Dが距離閾値D0より小さい時はブームシリンダ11とアームシリンダ12に一つの油圧ポンプから分流して油を供給することを防ぐことが可能であり、アーム9に加えてブーム8の速度変動も抑えることが可能である。また、距離Dが距離閾値D0以上である時は第1ブームスプール31と第2ブームスプール42の両方から油を供給することでブームシリンダ11の速度を向上させることも可能である。
【0088】
<その他>
本発明は,上記の実施の形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施の形態に係る構成の一部を,他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0089】
例えば、補正係数kは図7に規定したものに限らず,距離Dが正の範囲でゼロに近づくほど速度ベクトルの鉛直成分V1zがゼロに近づくように補正する係数であればその他の値でも構わない。
【0090】
図10の手順S8,S10,S11,S12では、説明の便宜上、アームシリンダ12、ブームシリンダ11、バケットシリンダ13の順番で制御されるものとしたが、各シリンダ11,12,13の制御は同時に並列して行っても良い。また、順番に行う場合には図10に説明した順番以外でも任意の順番で制御することが可能である。また、その他の手順についても同じ結果が得られるものであれば、任意の順番に変更しても構わない。これらは図12,15のフローチャートにおいても同じである。
【符号の説明】
【0091】
1…油圧ショベル(作業機械)、2…走行体、3…旋回体、4…運転室、5…機械室、6…カウンタウェイト、7…作業装置、8…ブーム、9…アーム、10…バケット、11…ブームシリンダ、12…アームシリンダ、13…バケットシリンダ、14…第1油圧ポンプ、15…第2油圧ポンプ、16…エンジン(原動機)、17…車体傾斜センサ、18…ブーム傾斜センサ、19…アーム傾斜センサ、20…バケット傾斜センサ、21…第1GNSSアンテナ、22…第2GNSSアンテナ、23…車体制御システム、24…操作装置、25,25A…コントローラ、26…流量制御弁装置、27…油圧回路、28…第1アームスプール(第1流量制御弁)、29…第2アームスプール(第3流量制御弁)、30…バケットスプール、31…ブームスプール(第2流量制御弁)、32a、32b…第1アームスプール駆動電磁弁、33a、33b…第2アームスプール駆動電磁弁、34a、34b…バケットスプール駆動電磁弁、35a、35b…ブームスプール駆動電磁弁、36a、36b…作動油タンク、37…距離演算部、38…目標速度演算部、39…作業モード選択部、40,40A…流量制御弁制御部、40aアーム用流量制御弁制御部、40a1…アーム用第1モード制御部、40a2…アーム用第2モード制御部、40b…ブーム用流量制御弁制御部、40b1…ブーム用第1モード制御部、40b2…ブーム用第2モード制御部、40c…バケット用流量制御弁制御部、41…第3油圧ポンプ、42…第2ブームスプール(第4流量制御弁)、43a、43b…第2ブームスプール駆動電磁弁、44…作動油タンク、50…作業装置姿勢検出装置、51…目標面設定装置、53…制御点位置演算部、54…目標面記憶部、55…作業モード選択スイッチ、60…目標面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16