【実施例】
【0103】
実施例1−緑内障眼に対するデキストラン硫酸の効果
結果
眼圧(IOP)
28日間の全期間にわたる炎症性サイトカインTGF−βの週2回の前房内注射により、IOP上昇を誘発した。これにより、14日目までに線維柱帯網(TM)ドレナージポータルの瘢痕化が誘発され、IOPが上昇した。毎日のデキストラン硫酸塩/生理食塩水の皮下投与を14日目に開始した。
【0104】
両群においてIOPは14日目に上昇し、生理食塩水を皮下注射した動物では、IOP上昇が進行した。しかしながら、上昇したIOPは、7日間のデキストラン硫酸処置後に低下し始め、24日目までにデキストラン硫酸群のIOPは、対照に比べて有意に低く(P<0.001)、正常化した。28日目の実験終了時において、IOPは対照群よりも有意に低いままであった(P>0.001)(
図1)。
【0105】
網膜神経節細胞(RGC)数
デキストラン硫酸処置は、28日目に網膜に存在するRGC数の減少を有意に予防した(P>0.001)(
図2)が、これはデキストラン硫酸の神経保護効果を示唆している。この神経保護効果は、IOP低下による直接または間接的な効果によるものである可能性がある。
【0106】
網膜神経線維層(RNFL)の光干渉断層撮影(OCT)分析
RNFLは、RGCに属する軸索を含み、RGC細胞体の喪失に付随して失われる。RNFLは、生理食塩水処置と比較してデキストラン硫酸処置後も保持された(
図3及び11)が、これはデキストラン硫酸の神経保護効果を示唆している。この神経保護効果は、IOP低下による直接または間接的な効果によるものである可能性がある。
【0107】
隅角の前眼部画像化
生理食塩水とデキストラン硫酸で処置した眼の両方で、虹彩角膜角は「開いた」ままであったが、これはIOPの増加が隅角の閉塞によるものではないことを示している。
図4参照。
【0108】
線維柱帯網(TM)瘢痕
デキストラン硫酸処置は、隅角の免疫反応性ラミニン(
図5)及びフィブロネクチン(
図6)のレベルの有意な減少(P<0.001ラミニン;P<0.01フィブロネクチン)によって証明されるように、TM瘢痕を有意に減衰させた。
【0109】
体重
デキストラン硫酸処置群のラットはより活動的あった。両群で体重を測定した場合、デキストラン硫酸処置した動物は、生理食塩水処置した動物よりも治療期間中に体重増加が少なかったため、その差はわずかに存在するが有意なものではなかった(
図7)。
【0110】
結論
デキストラン硫酸処置により、緑内障眼において正常なIOPの迅速かつ再現性のある回復がもたらされた。正常なIOPレベルの回復は、デキストラン硫酸処置ラットの眼におけるRGCカウント数の維持及びRNFL厚さの保持によって証明されるように、網膜のRGCの保持に関連していた。デキストラン硫酸処置ラットの隅角においてラミニン及びフィブロネクチンのレベルが有意に低かったため、IOP低下は、おそらくは確立されたTM瘢痕要素の溶解に起因するものであった。
【0111】
観察の臨床的意味は以下の通りである。緑内障の患者は現在、眼液産生を制限するか、または眼液流出を増加させることによりIOPを低下させる薬剤の点眼薬で毎日治療されている。これらの治療法は、コンプライアンスが不十分であるため、IOPの制御が不完全であり、ほとんどの患者で進行性の視力喪失をもたらす。視力低下をもたらす眼の病変を逆転させ、IOP制御を有意に向上させる治療法は非常に価値が高いであろう。実施形態によるデキストラン硫酸は、IOPの正常化、RGC及びRNFLの保持、ならびにTM瘢痕要素の溶解をもたらすそのような治療を可能にする。
【0112】
材料及び方法
研究の設計
成体雄スプラーグドーリーラットにおいて、週2回のトランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)の前房内(IC)注射を繰り返して眼圧(IOP)を高めることにより、緑内障を誘発した。IOPの持続的な増加(2週間後)は、網膜神経節細胞の細胞死をもたらす(30〜40%)。デキストラン硫酸(Tikomed AB、スウェーデン、WO2016/076780)を、実験開始から毎日皮下注射により15mg/kg投与し、RGC保護を対照と比較して評価した。
【0113】
群1 n=12匹のラット;24眼のIOP+IC TGF−β(週2回、28日間)(0日目〜28日目)+デキストラン硫酸を毎日皮下投与(14日目〜28日目)。
【0114】
群2 n=8匹のラット;16眼のIOP+IC TGF−β(28日間、週2回)(0日目〜28日目)+ビヒクル(生理食塩水)を毎日皮下投与(14日目〜28日目)。
【0115】
群3 n=8匹のラット;8眼のIOP+インタクト(非損傷眼)及び8眼のIOP+IC リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を毎日(28日間)。
【0116】
測定する評価項目
・IOP、0日目〜28日目の試験を通して、週2回;
・28日目の脳特異的ホメオボックス/POUドメインタンパク質3A(Brn3a)に対して免疫反応性のあるRGC(RGCの生存率)をカウントするための免疫組織化学;
・群1及び2における28日目の線維柱帯網の瘢痕を評価するためのラミニン及びフィブロネクチンの免疫組織化学;
・RGC軸索を含む網膜神経線維層の角度と厚さを調べるための28日目の前眼部及びOCT画像;ならびに
・28日目の体重。
【0117】
動物及び手術
12時間の光周期サイクルで餌と水を自由に摂取させて飼育した16匹の8〜10週齢の雄の175〜200gのスプラーグドーリーラット(Charles River,Kent,UK)をこれらの実験に使用した。1986年動物法(英国)及び眼科及び視覚研究における動物の使用に関するARVO声明に定められた内務省のガイドラインに従って、バーミンガム大学の生物医学サービスユニットにおいて手術を実施した。すべての眼科手術手順及びIOP測定は、1.5L/minの流速で2〜5%イソフルラン/95%O
2を使用した吸入麻酔(National Vet Supplies,Stoke,UK)の下で完了させた。すべてのラットの術後の福祉を綿密にモニタリングした。
【0118】
0日目に、15°使い捨てブレードを使用して角膜を通して両眼の前房に1ヶ所の自己閉鎖創を作出し、自作の使い捨て滅菌ガラスマイクロピペット(Harvard Apparatus,Kent,UK)を使用して生成したトンネルを通して、28日間にわたって1週間に2回(週2回)、繰り返し、3.5μlの活性ヒト組換えTGF−β1(5ng/μl;Peprotech,London,UK)をIC注射(毎週月曜日及び木曜日)できるようにした。
【0119】
IOP測定
iCare Tonolab反跳式眼圧計(Icare,Helsinki,Finland)を使用して、各実験の期間中、午前9時〜11時の間に週2回、IOPを記録し、サーカディアン変動による読み取り値の交絡を回避した。5%イソフルランによる麻酔導入直後に、各測定機会において、眼圧計で中心角膜の6回の反跳測定を行い、全体的な平均IOP測定値(mmHg)を求めたが、グラフのすべてのデータポイントは、正確な測定値を確保するために、順番に取得した3つの読み取り値の平均±SEM(6回の反跳ごとに)を表す。
【0120】
OCT及び前眼部画像化
光干渉断層撮影により、RGC密度の代替測定値であるRNFLの網膜の厚さをin vivoで測定することができる。28日目に、吸入麻酔下のすべてのラットにおいて、Spectralis HRA3共焦点走査レーザー検眼鏡(Heidelberg Engineering)を使用して、OCT網膜神経線維層分析を実施した。隅角の前眼部画像を、視神経乳頭周囲の網膜のOCT画像とともに撮影した。内蔵ソフトウェアを使用して画像を分割し、RNFLの厚さを定量化した。
【0121】
免疫組織化学(IHC)用の組織調製
ラットを高濃度CO
2にさらして殺傷し、100mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で経心腔的灌流を行って血液を洗い流した後、pH7.4のPBS中の100mlの4%パラホルムアルデヒド(PFA)でさらに灌流した。解剖したIHC用の眼を、PBS中の4%PFA中に4℃で2時間浸漬して後固定し、その後、高濃度スクロース溶液(10%、20%及び30%スクロースを含有するPBS;すべてSigma,Poole,UKより購入)に、それぞれ4℃、24時間、浸漬することにより凍結保護し、次いで、peel−away金型容器(Agar Scientific,Essex,UK)内でoptimal cutting temperature embedding medium(Thermo Shandon,Runcorn,UK)に包埋した。optimal cutting temperature embedding mediumに浸漬した眼を、砕いたドライアイスで急速に凍結させた後、−80℃で保存し、その後、−22℃で、Brightクライオスタットミクロトーム(Bright,Huntingdon,UK)を用いて、視神経乳頭を通る傍矢状平面において厚さ15μmで切片化した。切片を正に帯電したガラススライド(Superfrost plus;Fisher Scientific,Pittsburgh,USA)にマウントし、37℃で2時間放置して乾燥させ、−20℃で保存した。
【0122】
免疫組織化学
凍結切片を30分間解凍した後、PBSで3×5分間洗浄し、次いで0.1%Triton X−100(Sigma)で20分間透過処理した。切片をPBS中の0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.3%Tween−20(すべてSigmaより購入)で30分間ブロックし、一次抗体(表1)で一晩インキュベートした後、PBSで3×5分間洗浄し、二次抗体(表1)で室温(RT;20〜25℃)、1時間インキュベートした。次いで、切片をPBSで3×5分間洗浄し、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Vector Laboratories)を含有するVectorshield封入剤にマウントした。二次抗体のみでインキュベートした対照組織切片はすべて陰性に染色された(示さず)。
【表1】
【0123】
免疫組織化学の定量化
免疫蛍光染色後、Zeiss Axioplan 2落射蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Ltd)で切片を観察し、Zeiss AxioCam HRcを使用して各抗体について同じ露光時間で画像をキャプチャした。前述の方法[1]に従ってIHCを定量した。簡潔に述べると、TM線維形成の定量に使用する関心領域は、すべての眼/TM内の処置に対する同じ規定サイズの象限によって画定され、TMのこの画定した象限内でECMの堆積を定量化し、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を使用して、標準化バックグラウンド閾値を上回る免疫蛍光ピクセル(%)を計算した。各抗体について、TMの領域における明るさの閾値レベルをインタクトな未処置の眼の切片を使用して設定し、被験群のピクセル強度分析の基準レベルを規定した。画像には無作為化した番号を割り当て、評価者による定量化中の治療群の盲検化を確保した。
【0124】
網膜切片におけるRGCを定量化するために、視神経のいずれかの側の神経節細胞層由来の250μmの直線部分由来の網膜の厚さ15μmの傍矢状切片において、RPBMS
+/DAPI
+ RGCをカウントした。対照群と治療群の各眼の4つの網膜切片を定量化した。画像には無作為化した番号を割り当て、評価者による定量化中の治療群の盲検化を確保した。
【0125】
統計
すべての統計解析は、SPSS20(IBM,USA)を使用して実施した。正規分布試験を実施して、治療を比較するための最も適切な統計解析を決定した。統計的有意性はp<0.05で判定した。IOPデータ、TM線維形成、及びRGC生存率を、スチューデントt検定を用いて有意差について、または>2群の比較±SEMについて1因子ANOVAを使用して試験し、これをテキストで提供するか、または平均±SEMとしてグラフで示す。
【0126】
実施例2−新生血管の加齢性黄斑変性(nAMD)のマウスモデルにおけるデキストラン硫酸の血管への影響の調査
眼の病理学的な血管形成は、重度の視覚障害をもたらし得る。したがって、血管新生を誘発するか、または血管新生の病状を促進する薬物は極めて禁忌である。
【0127】
マウスレーザー誘発性脈絡膜血管新生(CNV)モデルは、血管新生の加齢性黄斑変性(AMD)研究の重要な主力モデルである。網膜色素上皮(RPE)及びブルッフ膜に標的化レーザー損傷を投与することにより、この手順は血管形成を誘導し、血管新生AMDで観察される顕著な病理をモデリングする。非ヒト霊長類で最初に開発されたレーザー誘発性CNVモデルは、他の多くの種に実装されるようになり、その最新のモデルはマウスである。このモデルは、分子メカニズム、遺伝子操作の効果、薬物治療効果などの、眼の新生血管生物学の多くの態様の研究に適用することができる。
【0128】
結果
眼底フルオレセイン血管造影における脈絡膜の新生血管膜の可視化
網膜血管を、眼底フルオレセイン血管造影で明確に可視化した。脈絡膜血管新生を、過蛍光のパッチとして示した。
図8は、各マウスの代表的なフルオレセイン血管造影画像を示す。様々な眼においてCNVのサイズにはばらつきがあった。時折、2つのCNVが合併して強いフルオレセインのリークを有していたが、これらは定量分析から除外した。眼底フルオレセイン血管造影画像の目視検査では、2群間でCNVのサイズに有意差は示されなかった。
【0129】
CNV分析
各群で72のレーザー燃焼スポットを実施した。網膜下出血または重度の炎症のために2つのレーザースポットが合併するか、または大きすぎた(>100000μm
2)CNVは、最終データ分析から除外した。表2は、最終データ分析に含めたCNVの数をまとめたものである。
【表2】
【0130】
イソレクチンB4を使用した血管新生の定量化
イソレクチンB4(Griffonia simplicifoliaレクチンI−イソレクチンB4)は、内皮細胞で発現するため、網膜血管のマーカーとして使用されている。また、活性化ミクログリア及び網膜の浸潤性マクロファージにも発現している。イソレクチンB4陽性面積の平均は、被験化合物処置群で43972±2302μm
2、生理食塩水対照群で42432±2015μm
2であった(
図9)。レクチンB4
+病変の2群間に統計的な差はなかった。
【0131】
IV型コラーゲンを使用した新規血管領域の定量化
IV型コラーゲンは、血管マトリックスの層状の層を形成する。したがって、新規血管を実証するために使用されている。デキストラン硫酸塩処置群では、新規血管の面積の平均は54681±2378μm
2であったが、ビヒクル(生理食塩水)処置対照群では58215±2293μm
2であった(
図10)。2群間に統計的な有意差はなかった。
【0132】
結論
結果は、デキストラン硫酸が、1日あたり0.6mg/mlの用量では、レーザー誘発性CNVに対して抗血管形成効果も血管形成促進効果も有さないことを示している。これは、眼の適応症に対するデキストラン硫酸の適応性を示している。
【0133】
材料及び方法
マウス
24匹の10〜12週齢のC57BL/6Jマウスを、クイーンズ大学ベルファストの生物サービスユニットから購入した。すべてのマウスを、水と固形飼料を自由に摂取できる状態で飼育し、12時間の光周期サイクルにさらした。この研究での動物の使用に関するすべての手順は、眼と視覚の研究における動物の使用に関する視覚と眼科学研究協会会議(ARVO)の声明に従って、及び1986年の動物法(科学的手順)の規制(UK)の下で実施した。プロトコールは、クイーンズ大学ベルファストの動物福祉倫理委員会によって承認された。
【0134】
被験化合物
被験化合物であるデキストラン硫酸(Tikomed AB,Sweden,WO2016/076780)を、6mg/mlの濃度で提供した。滅菌生理食塩水(Aqupharmから購入)を使用して、化合物を使用濃度(0.6mg/ml)に希釈した。
【0135】
CNV誘発
75mg/kgケタミン及び7.5mg/kgキシラジンの腹腔内注射でマウスを麻酔した。1%アトロピン及び2.5%フェニレフリンで瞳孔を拡張させた(Bausch & Lomb)。CNVを誘発するために、スポットサイズ100μm、出力250mW、及び持続時間100ミリ秒で、HGM Elite 532 Green Laser(Litechnica Ltd,Middesex,UK)を使用したレーザー光凝固によってブルッフ膜−脈絡膜の破裂を達成した。レーザースポットは、網膜血管と視神経乳頭から2〜3乳頭直径の間に配置した。レーザーを当てた部位での泡形成は、ブルッフ膜の破裂の成功を示す。気泡が発生したレーザー熱傷のみが本研究に含まれる。さらに、CNV誘発中に重度の網膜下出血を示したレーザー熱傷は研究から除外した。各網膜に3回のレーザー熱傷を当てた。
【0136】
薬物投与
CNV誘発の直後に、すべてのマウスに500μlのデキストラン硫酸または生理食塩水を皮下注射した。レーザーCNV誘発後9日間、1日1回注射を繰り返した。詳細な処置を表3に示す。
【表3】
【0137】
蛍光血管造影
CNV誘発後10日目に、各群から3匹のマウスを眼底フルオレセイン血管造影のために無作為に選択した。75mg/kgケタミン及び7.5mg/kgキシラジンの腹腔内注射でマウスを麻酔した。1%アトロピン及び2.5%フェニレフリンで瞳孔を拡張させた。100μlの1%ナトリウム蛍光を腹腔内に注射した。Micron IV Retinal Imaging Microscope(Phoenix Research Labs)を使用して眼底画像をキャプチャした。フルオレセイン血管造影及び眼の採取後、マウスを殺処分した。
【0138】
試料収集
CNV誘発後10日目に、すべてのマウスを殺処分し、眼を慎重に除去した。すべての目を2%パラホルムアルデヒド/PBS(Sigma−Aldrich,Dorset,UK)で室温、2時間固定し、次いで洗浄し、4℃でPBS中に保存した。記載するプロトコール[2,3]を使用して、RPE−脈絡膜−強膜全組織標本を調製した。簡潔に述べると、角膜、毛様体、虹彩及び水晶体を含む眼の前眼部を除去した。眼杯に5つの垂直カットを行い、網膜組織を慎重に除去した。結膜及び眼筋を含む眼球外組織を、眼杯(RPE/脈絡膜/強膜を含む)から慎重に除去した。RPE/脈絡膜/強膜全組織標本を、Griffonia simplicifoliaレクチンI−イソレクチンB4及びIV型コラーゲン免疫染色のためにさらに処理した。
【0139】
RPE/脈絡膜/強膜全組織標本の免疫染色
十分に確立されたイソレクチンB4及びIV型コラーゲン標識技術を使用してCNVを検出した。イソレクチンB4は、浸潤性マクロファージと血管内皮細胞の両方を標識する。IV型コラーゲンは、血管の基底膜を標識する。両方のマーカーは、CNVを検出するために広く使用されている。
【0140】
RPE/脈絡膜/強膜全組織標本を、室温で1時間、0.5%Triton X−100/PBSで透過処理した。次いで、試料を0.5%Triton X−100/PBS中の10%BSAで1時間ブロックし、ビオチン化Griffonia simplicifoliaレクチンI−イソレクチンB4(GSL Isolectin B4、1:50、Vector Laboratories Ltd,UK)及びIV型コラーゲン(1:50、BIO−RAD,UK)の存在下で4℃、一晩インキュベートした。PBSで徹底的に洗浄(10分×3)した後、試料をストレプトアビジン−フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(1:100、Vector Laboratories、UK)及びヤギ抗ウサギAF594(1:100、Invitrogen,UK)の存在下で室温、2時間インキュベートした。試料を、Vectashield Mounting Medium(Vector Laboratories Ltd,UK)を使用してスライドガラスにフラットマウントし、蛍光顕微鏡で観察した。
【0141】
画像の取得及び解析
Lecia蛍光顕微鏡を使用して、上記で調製したRPE脈絡膜/強膜全組織標本試料から画像を取得した。CNVの全領域をキャプチャできるように、10倍の対物レンズを使用した。画像化ソフトウェアImageJを使用して画像を解析した。CNVのサイズを測定するために、CNVの境界線に対し、手動で輪郭を描き、Image Jソフトウェアを使用してサイズを自動的に計算した。
【0142】
統計解析
すべてのデータ(各群のCNVのサイズ)を、平均値±SEMとして表した。スチューデントt検定を使用して、デキストラン硫酸群と生理食塩水対照群の差を比較した。
【0143】
研究の設計
本研究では、24匹のC57BL/6Jマウス(10〜12週齢)を使用した。マウスを無作為に2つの群に分けた(群あたり12匹のマウス)
・群1:デキストラン硫酸処置(生理食塩水中のデキストラン硫酸0.6mg/ml 500μl)、皮下注射、9日間のCNV誘導後1日1回。
・群2:ビヒクル処置(生理食塩水500μl)、皮下注射、9日間のCNV誘導後1日1回。
CNV誘発後10日目に、各群から3匹のマウスを、眼底フルオレセイン血管造影のために無作為に選択した。CNV誘発後10日目にすべてのマウスを殺処分した。免疫組織化学検査のために、眼を採取して処理した。
【0144】
実施例3−シュワン細胞においてデキストラン硫酸により誘導される遺伝子発現の変化の解析
結果
シュワン細胞の発現解析
シュワン細胞で発現していない遺伝子を、データ解析の前に除去した。log2対数変換した発現値に対して、「発現未満」レベルを5に設定した。これにより、シュワン細胞培養物において解析するための15,842のユニークなプローブが残った。解析の次の工程では、3セットのデータ(D0対照試料とD2対照試料の比較;D0対照試料とD2デキストラン硫酸処置試料の比較;D2対照試料とD2デキストラン硫酸処置試料の比較)を解析して、細胞に対するCMの影響及びデキストラン硫酸によって誘発される相対的変化を確立した。
【0145】
D0対照試料をD2対照試料と比較すると、シュワン細胞培養物において585個の遺伝子が示差的に発現していた。これらの遺伝子の影響を受ける分子機能は、細胞運動(1.14E−07−2.49E−03);細胞形態(5.56E−07−2.36E−03);細胞発生(7.3E−06−2.48E−03);細胞の成長及び増殖(7.3E−06−2.48E−03);細胞の集合及び組織化(1.23E−05−2.36E−03);細胞機能及び維持(1.23E−05−2.47E−03);細胞死及び生存(1.53E−05−2.51E−03);脂質代謝(8.14E−05−1.6E−03);低分子生化学(8.14E−05−1.6E−03);分子輸送(1.18E−04−2.29E−03);タンパク質輸送(1.62E−04−1.6E−03);炭水化物代謝(3.22E−04−1.78E−03);遺伝子発現(3.98E−04−2.2E−03);細胞シグナル伝達(4.39E−04−2.25E−03);細胞間シグナル伝達及び相互作用(5.05E−04−2.48E−03);細胞の易感染性(7.69E−04−1.58E−03);細胞周期(1.12E−03−1.8E−03);アミノ酸代謝(1.6E−03−1.6E−03);ならびに核酸代謝(1.6E−03−1.6E−03)に関連している。
【0146】
上記に提示した値は、これらの遺伝子と異なる経路との関連の統計的有意性を表すp値である。2つのp値は、観測された統計的有意性の下限と上限を表す(p<0.05は有意である)。
【0147】
D0対照をD2デキストラン硫酸処置試料と比較した場合に評価されるように、デキストラン硫酸は、シュワン細胞培養物において1244個の遺伝子の示差的発現を誘導した。これらの遺伝子の影響を受ける分子機能は、細胞形態(1.43E−08−8.39E−04);細胞運動(1.4E−07−9.6E−04);翻訳後修飾(3.93E−07−6.71E−05);タンパク質合成(3.93E−07−1.08E−04);タンパク質輸送(3.93E−07−1.26E−06);細胞死と生存(2.13E−06−8.65E−04);細胞集合及び組織化(7.46E−06−8.24E−04);DNAの複製、組換え、修復(7.46E−06−7.46E−06);細胞機能及び維持(9.53E−06−6.46E−04);遺伝子発現(1.27E−05−4.92E−04);細胞発生(1.29E−05−9.06E−04);細胞の成長及び増殖(1.29E−05−9.06E−04);細胞間シグナル伝達及び相互作用(1.97E−05−8.81E−04);アミノ酸代謝(4.22E−05−8.24E−04);小分子生化学(4.22E−05−8.24E−04);脂質代謝(4.81E−05−3.64E−04);分子輸送(3.64E−04−3.64E−04);ならびに細胞周期(4.53E−04−4.86E−04)に関連している。
【0148】
D2対照をD2デキストラン硫酸処置試料と比較した場合に評価されるように、デキストラン硫酸は、シュワン細胞培養物において700個の遺伝子の示差的発現を誘導した。これらの遺伝子の影響を受ける分子機能は、細胞形態(1.49E−07−5.62E−03);細胞の集合及び組織化(1.49E−07−5.95E−03);細胞運動(7.24E−07−6.06E−03);細胞死と生存(9.41E−06−5.95E−03);アミノ酸代謝(2.56E−05−3.7E−03);翻訳後修飾(2.56E−05−1.05E−03);低分子生化学(2.56E−05−3.7E−03);細胞間シグナル伝達及び相互作用(5.05E−05−5.76E−03);遺伝子発現(7.18E−05−4.94E−03);細胞周期(1.06E−04−5.95E−03);細胞発生(1.06E−04−5.95E−03);細胞機能及び維持(1.96E−04−5.95E−03);細胞の成長及び増殖(2.35E−04−5.95E−03);DNAの複製、組換え、修復(2.75E−04−5.95E−03);細胞シグナル伝達(5.92E−04−2.54E−03);細胞組成(6.26E−04−6.26E−04);脂質代謝(6.26E−04−1.85E−03);分子輸送(6.26E−04−5.95E−03);タンパク質合成(1.05E−03−1.93E−03);治療薬に対する細胞応答(1.85E−03−1.85E−03);タンパク質輸送(2.66E−03−5.95E−03);ならびにRNA転写後修飾(4.32E−03−4.32E−03)に関連している。
【0149】
機構的分子ネットワークモデルは、デキストラン硫酸により示差的に調節される分子の効果をシミュレートし、これらの変化の機能的結果を評価することができる。in silicoモデルにより、デキストラン硫酸が、神経細胞死;アポトーシス;及びタンパク質の合成を阻害し、さらに、血管形成;細胞の遊走;細胞生存率;細胞生存度;細胞運動;細胞の増殖;細胞の分化;細胞の恒常性;細胞周期の進行;細胞の形質転換;ならびにRNAの発現を活性化することが示された。
【0150】
表4は、培養したシュワン細胞における遺伝子発現変化の結果をまとめたものである。
【表4】
【0151】
対照培養物において2日間で発現が変化した21個の遺伝子は、デキストラン硫酸処置培養物においては同じ2日間で全く変化を示さなかった。対照培養物で発現が増加した1つの遺伝子は、デキストラン硫酸処置培養物においては同じ2日間で下方制御された。対照培養物で下方制御された13個の遺伝子は、デキストラン硫酸処置培養物においては2日間で上方制御された。122個の遺伝子が、培養液中の増殖因子によって有意に下方制御され、この下方制御はデキストラン硫酸処置培養物においてはさらに強力であった。対照培養では441個の遺伝子が上方制御され、デキストラン硫酸の添加により、この上方制御が有意に強化された。
【0152】
細胞接着に対するデキストラン硫酸の効果
デキストラン硫酸の強力で顕著な表現型効果の1つは、細胞接着に対する効果であった。
【0153】
遺伝子発現の解析は、これがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)とも呼ばれるメタロペプチダーゼなどの、細胞接着を調節する酵素の発現に対するデキストラン硫酸の効果によるものであることを示した。表5参照。
【0154】
シュワン細胞の細胞運動及び接着を調節する経路に対するこれらの分子の凝集効果(17分子、表5参照)は、細胞運動を活性化する一方で細胞接着を阻害するものであった。
【表5】
【0155】
この発見は、細胞接着及び接着関連分子に影響を及ぼすすべての分子相互作用、ならびにシュワン細胞における細胞接着に対するそれらの効果の再評価をもたらした。217個の接着関連分子(197個の遺伝子と20個の薬物)の完全なリストを以下に示す。
【0156】
ACE2、ACP1、ADAM15、ADGRB1、ADGRE2、ADIPOQ、AG490、AMBN、ANGPT1、ANTXR1、ARAP3、ARMS2、バチマスタット、BCAM、BCAP31、BCAR1、ベンジルオキシカルボニル−Leu−Leu−Leu−アルデヒド、BMP2、BMP4、BTC、C1QBP、Ca
2+、CA9、CADM1、CALR、カリクリンA、カスパーゼ、CBL、CD209、CD36、CD44、CD46、CDH13、セリバスタチン、クロラムフェニコール、コンドロイチン硫酸、CLEC4M、コルヒチン、I型コラーゲン、コラーゲン(複数可)、COMP、CRK、CRP、CSF1、CSF2RB、CTGF、クルクミン、CXCL12、サイクリックAMP、DAB2、DAG1、DCN、DDR1、デスフェリキソケリン772SM、DOCK2、DSG2、DSG4、デュラパタイト、Efna、EFNA1、EFNB、EFNB1、EGF、EGFR、EGR1、ELN、ENG、EP300、Eph受容体、EPHA8、EPHB1、エプチフィバチド、エチレンジアミン四酢酸、ETS1、F11R、F3、FBLN5、FBN1、Fc受容体、FCN2、FERMT2、FES、FGF2、FGFR1、フィブリン、FN1、接着斑キナーゼ、FSH 、FUT3、FUT6、FUT7、FYN、HACD1、ヘパリン、ヒストンh3、ヒストンh4、HRAS、HSPG2、HTN1、ヒアルロン酸、ヒドロコルチゾン、過酸化水素、ICAM1、ICAM2、IGF1R、IgG、Igg3、IL1、IL1B、IL6、ILK、インテグリン、インテグリンα4β1、インテグリンα、IPO9、ITGA1、ITGA2、ITGA3、ITGA5、ITGA6、ITGB1、ITGB2、ITGB3、ITGB5、JAK2、Jnk、KP−SD−1、LAMC1、ラミニン、ラミニン1、レボチロキシン、LGALS3、LIF、リポ多糖、LOX、LRP1、LRPAP1、MAD1L1、マンノース、MAPK7、MBL2、MERTK、メトロニダゾール、MGAT5、MMP2、Mn
2+、NCK、NEDD9、NRG1、オカダ酸、OLR1、P38 MAPK、PDGF BB、ホスファチジルイノシトール、PKM、血小板活性化因子、PLD1、PLG、PMP22、PODXL、POSTN、PRKCD、PTAFR、PTEN、PTGER2、PTK2、PTK2B、PTN、PTPN11、PTPRZ1、ピロリジンジチオカルバメート、Rac、RALB、RANBP9、RHOA、RHOB、RPSA、SDC3、SELE、セレクチン、SELL、SEMA3A、シンバスタチン、SIRPA、SPARC、スフィンゴシン−1−リン酸、SPI1、SPP1、SPRY2、SRC、STARD13、SWAP70、TEK、TFPI、TFPI2、TGFA、TGFB1、TGFBI、TGM2、THBS2、THY1、甲状腺ホルモン、TIMP2、チロフィバン、TLN1、TLN2、TNF、TP63、トレチノイン、VAV1、VCAM1、VCAN、Vegf、VHL、VTN、VWF、及びWRR−086。
【0157】
細胞接着を調節する197個の遺伝子のうち、17個の分子がシュワン細胞培養物で示差的に発現し、全体的にわずかに接着が増加した。
【0158】
結果は、組織線維形成のシグナル及び免疫細胞の接着を低下させることによるデキストラン硫酸の抗瘢痕効果に関連している(実施例1参照)。
【0159】
デキストラン硫酸の影響を受ける上流の調節因子経路
シュワン細胞では、上流の調節因子の解析により、デキストラン硫酸が、表6に示すように、いくつかの増殖因子の効果を、系内のそれらの活性化を増加させるかそれらの阻害を減少させることにより、調節したことが明らかになった。
【表6】
【0160】
デキストラン硫酸はデコリン遺伝子を上方制御する
興味深いことに、遺伝子発現データから、デキストラン硫酸がデコリンと呼ばれる天然の瘢痕軽減分子の産生を活性化することが示された。デコリンは、線維芽細胞による瘢痕産生を刺激する増殖因子を「駆逐」することで瘢痕産生をさらに遮断する。
【0161】
デコリンは、平均で90〜140kDの分子量の糖タンパク質である。これは、低分子ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)ファミリーに属し、コンドロイチン硫酸またはデルマタン硫酸のいずれかからなるグルコサミノグリカン(GAG)鎖を有するロイシンリピートを含むタンパク質コアからなる。デコリンは、デコリンのI型コラーゲン結合領域を介して、I型コラーゲン原線維に結合する。
【0162】
デコリンは、トランスフォーミング成長因子β1/2(TGF−β1/2)アンタゴニストとして作用し、瘢痕を軽減する。報告によると、急性瘢痕におけるデコリンの支配的な効果が、TGF−β1/2の中和による炎症性線維形成の抑制を介した抗線維形成性であることが示されている。デコリンはコラーゲンにも直接結合し、その機能の1つは、創傷治癒中のコラーゲンの組織化に影響を与えることである。
【0163】
デコリンは、脳病変、水頭症、及び慢性脊髄創傷のモデルにおける瘢痕の抑制において以前に記載されている。デコリンは、緑内障モデルの既存の線維柱帯網の瘢痕の線維溶解も誘発する。
【0164】
デキストラン硫酸は、デコリン発現の増加を誘導し、その倍率変化は1.242倍であった。
【0165】
結論
シュワン細胞では、栄養素とグルコースを多く含む対照培養物がシュワン細胞の活性化を繰り返す。デキストラン硫酸処置培養物は、グリア活性化の24時間後に加えたデキストラン硫酸の効果を模倣した。
【0166】
シュワン細胞において認められる分子効果は、アポトーシスに対する保護;血管形成の誘導;細胞の遊走及び運動の増加;細胞の生存率及び生存度の向上;ならびに細胞分化の誘導におけるデキストラン硫酸の役割を支持するものであることは結果から明らかである。
【0167】
デキストラン硫酸は、シュワン細胞の細胞剥離及び運動を促進した。細胞接着に対する効果は、主にメタロプロテイナーゼ型酵素の発現によるものであったが、他の接着分子の調節もこの効果に寄与した。
【0168】
この発見は、実施例1に認められるデキストラン硫酸の抗瘢痕効果も説明するであろう。結果は、実施例1において認められる抗瘢痕効果が、組織リモデリングを補助し、損傷した組織の線維形成(瘢痕)シグナルをブロックする分解酵素を活性化するデキストラン硫酸によって媒介されることを示唆するものである。
【0169】
病理学的反応としての瘢痕は、TGF−βによって駆動される。TGF−βは、免疫細胞の接着、細胞の活性化、細胞運動、細胞の凝集、線維形成及びTGF−βの誘導を引き起こす171分子の大きな相互接続ネットワークを誘発する。デキストラン硫酸の投与は、免疫細胞の接着、細胞の活性化、細胞の凝集、線維形成、TGF−βの自己活性化におけるTGF−βによる誘発効果を完全に無効化した。シュワン細胞のTGF−βによって駆動される分子ネットワークに対するデキストラン硫酸のこれらの不活性化効果は、TGF−βが活性化されている場合でも、すなわち過剰量のTGF−βの存在下でも認められる。
【0170】
デキストラン硫酸により調節される遺伝子の上流の調節因子の解析により、デキストラン硫酸が、ヘパリンの効果と同様に、細胞に対する既存の増殖因子の効果を増強することが示された。仮説は、デキストラン硫酸が増殖因子分子に結合し、その受容体への結合を促進するというものである。
【0171】
デキストラン硫酸の抗瘢痕作用は、緑内障を含む線維増殖(瘢痕)病態を治療するための潜在的な用途を示している。実験結果は、線維増殖(瘢痕)病態の発症を予防すること、及びそのような線維増殖(瘢痕)病態において既に確立された線維性瘢痕を溶解させることの両方におけるデキストラン硫酸の役割を支持するものである。
【0172】
したがって、抗瘢痕効果を有するデキストラン硫酸は、既に確立された瘢痕を溶解させる必要がある組織リモデリングに有効である。デキストラン硫酸のこの抗瘢痕効果は、例えば、細胞接着の阻害、細胞動員の誘導、メタロプロテアーゼ及び瘢痕溶解酵素の誘導、ならびにデコリンの誘導を介したTGF−β、特にTGF−β1の阻害を含む、デキストラン硫酸の前述の作用機序の結果であると考えられる。デキストラン硫酸で得られるこの後者の効果は、デコリンの誘導による線維形成及び瘢痕形成の予防または少なくとも阻害にさらに関連している。
【0173】
材料及び方法
実験の設計
n=8×25cm
2の培養フラスコを設置した。処置当日(播種後24時間)に2本のフラスコから回収した。これは0日目の時点を表す。残りのフラスコのうち、3つのフラスコを対照培地で処置し、3つを、デキストラン硫酸を含む培地(CM)で処置して、0.01mg/mlの最終濃度にした。処置したフラスコの細胞を、48時間後に回収した。したがって、収集したデータは、(a)未処置細胞(0日目の対照及び2日目の対照)ならびに(b)デキストラン硫酸で48時間処置した細胞(2日目のデキストラン硫酸処置)を表す。
【0174】
全細胞に対する組織培養プレートのコーティング
ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中の50μg/mlのポリ−d−リジンの溶液をフラスコごとに2ml加え、暗所で37℃、一晩インキュベートすることにより、25cm
2フラスコをコーティングした。フラスコを細胞培養水で洗浄し、暗所で30分間風乾した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の25μg/mlラミニンの溶液をフラスコあたり1ml添加し、暗所で37℃、2時間インキュベートすることにより、フラスコをコーティングした。細胞をプレーティングする前にラミニンフラスコをPBSで3回洗浄した。
【0175】
ヒトシュワン細胞
高グルコースDMEMに10%のウシ胎仔血清(FBS)を添加することにより、シュワン細胞増殖培地を調製し、37℃に予熱した。37℃の水浴で2分以内の間、細胞を解凍させた。
【0176】
12個のバイアル由来の細胞をそれぞれ、10mlの高グルコースDMEM培地を含むチューブに静かに移し、400相対遠心力場(RCF)で10分間遠心分離した。ペレットを培地に再懸濁した。12個のバイアル由来の細胞を混合し、以前にコーティングした25cm
2フラスコに均等に分配した(n=8)。細胞を、5%CO
2の存在下、37℃でインキュベートした。細胞をデキストラン硫酸処置の24時間前に静置した。
【0177】
薬物処置
デキストラン硫酸(Tikomed AB、スウェーデン、WO2016/076780)を20mg/mlのストック濃度で提供し、4℃の温度監視式冷蔵庫に保管した。新鮮な100×デキストラン硫酸ストック(1.0mg/ml)を滅菌DMEM−F12中に調製した。濃縮した薬物ストックを滅菌濾過し、それぞれの培地に加えた(19.6mlのCM及び0.4mlのデキストラン硫酸ストック溶液)。19.6mlのCM及び0.4mlのDMEM−F12を使用して対照を作成した。デキストラン硫酸及びCMをそれぞれのフラスコに加え(各5ml)、各ディッシュにおいて、それぞれ0.01mg/mlのデキストラン硫酸濃度及び合計10mlのCMを達成した。
【0178】
培養物回収及び細胞溶解
清潔でラベルの付いた15mlファルコンチューブにCMを吸引した。フラスコ(培地なし)を−80℃の冷凍庫に30分間静置した。Falconチューブ内のCMを3000×gで5分間回転させた。上清を除去し、小さなペレットを室温(RT、約22℃)で2.5mlのトリゾール:水(4:1)溶液に再懸濁した。
【0179】
凍結させたフラスコを冷凍庫から一つずつ取り出し、適切なチューブに由来するトリゾール−水をフラスコに移した。フラスコを室温で5分間放置した後、内容物を吸引して15mlファルコンチューブに戻した(フラスコの底を溶液で完全に洗浄した後)。フラスコを顕微鏡下で検査し、細胞の完全な除去を確保した。15mlのFalconチューブに集めたライセートを−80℃の冷凍庫に静置した。
【0180】
RNA抽出
ホモジネートを含むファルコンチューブを冷凍庫から取り出し、RTで5分間保存して、核タンパク質複合体を完全に解離させた。
【0181】
1mlの溶解物の2つのアリコートを各試料から除去し、200μlのクロロホルムをそれぞれに加え(細胞溶解工程中に使用したTRIzol試薬1mlあたり0.2mlのクロロホルム)、チューブを激しく振盪した。試料を室温で2〜3分間保存し、続いて4℃で15分間、12,000×gで遠心分離した。
【0182】
混合物は3層に分離した:下部の赤色フェノール−クロロホルム相、中間相及び無色の上部水相。RNAは上部の水相に残り、DNAは白い中間(中間期)相に、タンパク質はピンク色の底部(有機)相に残った。水相の上部3/4を新しい清潔なエッペンドルフチューブに移した。
【0183】
等量の100%エタノールを加えることにより、RNAを水相から沈殿させた。沈殿したRNAをスピンカートリッジに固定し、2回洗浄して乾燥させた。RNAを50μlの温かいRNaseフリー水で溶出した。精製されたRNAの量と品質を、Nanodropによって測定した。RNAを、アレイ解析のためにSource Bioscienceに移す前に−80℃で保存した。
【0184】
発現データの解析計画
発現データを、細胞株ごとに別々のファイルにダウンロードした。「バックグラウンド補正」発現は、アレイの「gProcessedSignal」からのデータであり、これは関連するプローブの実際のシグナルから抽出したバックグラウンドシグナルの結果である。これは、アレイ解析で最も頻繁に使用される変数である。すべての試料について、バックグラウンド補正したシグナルを、統計解析のためにlog2対数変換した。試料の誤検出率を減らすために、「発現未満」レベルのシグナルを除去した。log2対数変換した発現値に対して、「発現未満」レベルを5に設定した。
【0185】
統計解析
各アレイ上の対照プローブの発現パターンに基づいて、解析の前にすべてのアレイに対して中央値センタリングを実行して、結果のばらつきを減らすことにした。以下のアルゴリズムを使用してデータを解析した。
・D0対照試料とD2対照試料の比較−通常培養の細胞において認められる発現変化
・D0対照試料とD2デキストラン硫酸処置試料の比較−デキストラン硫酸処置培養物の細胞において認められる発現変化
・D2対照試料とD2デキストラン硫酸処置試料の比較−培養物中のデキストラン硫酸によって誘導される示差発現
【0186】
予備解析を実施して、3つのデータセットの任意の組み合わせ間で示差的に発現しなかった遺伝子をスクリーニング除外した。単純非ストリンジェントANOVA(p<0.05)を実行して、発現パターンを探した。3つのデータセットで変化のないプローブは除外した。残りのプローブセットを、Volcanoプロットを使用して、倍率の変化と有意性を解析した。プローブの発現の20%を超える変化(FC≧1.2またはFC≦0.84)は、第1の例では有意であるとみなし、発現パターンを検出できるようにした。
【0187】
品質パラメーター
シュワン細胞の細胞ストックから取得した細胞カウント数から、播種濃度を計算した。
【0188】
アレイサービスプロバイダーによる追加の品質管理により、RNAが高品質(分解なし)であり、その量がAgilentのLow input RNAマイクロアレイのパラメーター内であることが示された。
【0189】
生データの分析から、予想通り、アレイ間に有意差があることが示された。しかしながら、これらの差異(すべてのアレイに含まれる同じ対照試料の差異によって反映される)は、正規化手法によって容易に除去された。アレイ間のばらつきを除去する選択したデータの中央値センタリング法は、異なるRNA濃度を示す対照間に認められると予想された全体的な差異には影響を及ぼさなかった。
【0190】
上述の実施形態は、本発明のいくつかの例示的な実施例として理解すべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に対して様々な修正、組み合わせ、及び変更を行い得ることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な他の構成で組み合わせることができる。しかしながら、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
参考文献
[1] Hill et al.,Decorin reduces intraocular pressure and retinal ganglion cell loss in rodents through fibrolysis of the scarred trabecular meshwork.Invest Ophthalmol Vis Sci.2015,56(6):3743−3757
[2] Chen et al.,RAGE regulates immune cell infiltration and angiogenesis in choroidal neovascularization.Plos One.2014,9(2):e89548
[3] Chen et al.,Age− and light− dependent development of localised retinal atrophy in CCL2 (−/−) CX3CR1 (GFP/GFP) mice. Plos One.2013,8(4):e61381