(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における実施形態では、車両の走行安定性を高めるための制御に通常使用されるセンサを用いて取得可能な車両の物理量を参照して、車両の車輪における接地荷重を十分に高い精度で推定する。なお、本明細書において物理量を「参照」とは、当該物理量を直接または間接的に使用することの総称であり、これらの一方または両方を意味する。
【0012】
本実施形態において、センサは、車両の走行に係る標準的な制御に通常使用されるセンサ(以下「汎用センサ」とも言う)であってよく、ロールレートセンサおよびピッチレートセンサを含まなくてよい。汎用センサの例には、車両の前後加速度を取得する前後加速度センサ、車両の横加速度を取得する横加速度センサ、車両の車輪角速度を取得する車輪速センサ、および、車両の旋回情報を取得する旋回情報センサ、が含まれる。旋回情報センサの例には、ヨーレートセンサおよび操舵角センサが含まれる。
【0013】
本実施形態において、上記のセンサが検出する物理量の例には、車両の定常荷重、車両の慣性荷重、前後加速度センサの値、横加速度センサの値、車輪速センサの値、旋回情報センサの値、車両の質量、車両の重心高、ロール慣性モーメント、ピッチ慣性モーメント、車両の前車軸重心間距離、車両の後車軸重心間距離、車両のフロントトレッド長、および、車両のリアトレッド長、が含まれる。
【0014】
また、本実施形態において、路面荷重とは、路面の凹凸などの路面の効果による接地荷重の変動を意味する。また、慣性荷重とは、車両の旋回の効果および加減速の効果による接地荷重の変動を意味する。また、実施形態において、定常荷重とは、車両の1Gにおける接地荷重であり、例えば、車両の質量に基づく算出値であってもよいし、車両に特有の定数であってもよい。さらに、本実施形態において、車両の接地荷重は、車両の路面荷重を参照して推定することができ、例えば、車両の定常荷重および慣性荷重に車両の路面荷重を足すことにより推定することができる。
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
〔実施形態1〕
[接地荷重推定装置の機能的構成]
図1は、本発明の実施形態1に係る接地荷重推定装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図1に示されるように、接地荷重推定装置100は、慣性荷重推定部110、路面荷重推定部120、前後加速度センサおよび横加速度センサ(前後、横加速度センサ)131、操舵角センサまたはヨーレートセンサ(操舵角/ヨーレートセンサ)132、車輪速センサ133、定常荷重提供部141、遅延部142および加算部143、144を備えている。
【0017】
前後、横加速度センサ131、操舵角/ヨーレートセンサ132および車輪速センサ133は、慣性荷重推定部110に接続されている。前後、横加速度センサ131、および車輪速センサ133は、路面荷重推定部120に接続されている。前後、横加速度センサ131、操舵角/ヨーレートセンサ132および車輪速センサ133は、慣性荷重推定部110および路面荷重推定部120のそれぞれが取得すべき車両に関する物理量を提供しており、慣性荷重推定部110および路面荷重推定部120のそれぞれに対して、取得部となっている。
【0018】
慣性荷重推定部110は、算出した慣性荷重の信号を出力する。慣性荷重推定部110は、遅延部142を介して加算部143に接続されている。定常荷重提供部141は、定常荷重の信号を出力する。定常荷重提供部141も加算部143に接続されている。加算部143は、加算部144および路面荷重推定部120のそれぞれに接続されている。路面荷重推定部120は、加算部144と接続されている。
【0019】
また、図示しないが、慣性荷重推定部110および路面荷重推定部120は、それぞれ、車両が有する制御系のネットワーク(例えば後述のCANなど)に接続されており、当該ネットワークを介して、車両の質量、車両の重心の高さ、車両の重心に対応する路面上の点を基準とするロール慣性モーメント、当該路面上の点を基準とするピッチ慣性モーメント、前車軸重心間距離、後車軸重心間距離、フロントトレッド長、および、リアトレッド長などの、車両に特有の物理量を取得する。当該ネットワークも、本実施形態における取得部に該当する。
【0020】
[接地荷重の推定の概要]
本実施形態における接地荷重は、以下の式(1)により表される。式(1)において、F
z0nomは、1G状態における接地荷重を表し、dF
z0,inertiaは、慣性荷重を表し、dF
z0,roadは、路面荷重を表す。
【0022】
前後、横加速度センサ131は、車両における前後加速度および横加速度を検出して出力し、(操舵角/ヨーレートセンサ)132は、車両における操舵角またはヨーレートを検出して出力し、車輪速センサ133は、車両の車輪における車輪速を検出して出力する。また、前述のネットワークは、車両に関する種々の物理量を出力する。
【0023】
慣性荷重推定部110は、上記の物理量を参照して慣性荷重を推定する。慣性荷重推定部110は、慣性荷重dF
z0,inertiaを遅延部142に出力する。遅延部142は、必要に応じて、その後の制御に応じた適当なタイミングとなるように遅らせて当該慣性荷重を出力する。たとえば、遅延部142は、後述する式(11)におけるmovavg(ω)による遅延に合わせて同位相となるように慣性荷重を出力する。加算部143は、定常荷重提供部141から出力された定常荷重F
z0nomと慣性荷重とを合算する。定常荷重と慣性荷重との合計値は、路面荷重推定部120および加算部144に出力される。
【0024】
一方で、路面荷重推定部120は、後述する第二ゲインを参照して路面荷重の推定値を出力する。路面荷重の推定については後述する。
【0025】
路面荷重推定部120から出力された路面荷重の推定値は、加算部144において、上記の合計値と合算される。そして、定常荷重、慣性荷重および路面荷重の合計値が、車両の接地荷重の推定値F
z0として得られる。
【0026】
なお、本発明において、慣性荷重の推定方法は限定されない。慣性荷重dF
z0,inertiaは、例えば特許第6695481号公報の段落0042または特開2008−074184号公報の段落0024に記載の方法によって求めてもよい。
【0027】
次に、本実施形態における路面荷重の推定について、その機能的構成およびそのロジックを以下に説明する。
【0028】
[路面荷重推定部の機能的構成]
図2は、本実施形態における路面荷重推定部の機能的構成の一例を示すブロック図である。本実施形態において、路面荷重推定部120は、
図2に示されるように、タイヤ有効半径変動演算部121および第一ゲイン演算部122を有している。
【0029】
[路面荷重推定のロジック]
車両の車輪について、非線形なタイヤ特性は、下記式(2)および式(3)で表される。式(3)においては、「F
z0」は、式(4)に示されるように、定常荷重と慣性荷重の和である。
【0031】
上記式中、dR
eはタイヤ有効半径変化を表し、a
1は第一ゲインを表し、a
11は第一パラメータを表し、a
12は第二パラメータを表す。
【0032】
第一ゲインa
1は、車両が備える車輪の剛性を示す。第一ゲインa
1は、タイヤの接地荷重に対するバネ定数の関係におけるバネ定数で表される。当該関係は、非線形の曲線で表されるが、式(3)に示されるように、一次式に近似することが可能である。
【0033】
第一パラメータa
11および第二パラメータa
12は、いずれも、第一ゲインa
1を幅広い条件に適用させるための調整パラメータである。第一パラメータは、上記の近似による一次式における傾きで表され、第二パラメータは、当該一次式の切片で表される。
【0034】
図3は、車両の車輪に係る物理量を説明するための図である。
図3中、R
eはタイヤの有効半径を表し、ωはタイヤの角速度を表し、u
0はタイヤの周速を表している。タイヤのスリップ比を考慮すると、タイヤの有効半径R
eは、下記式(5)で表される。式(5)の全微分により下記式(6)が導き出される。
【0036】
スリップ比が変化しないと仮定すると、式(6)から式(7)が導かれ、さらに式(8)が導き出される。下記式中、a
2は第二ゲインを表す。第二ゲインについては後に詳述する。
【0038】
式(8)中のかっこ内は、式(9)に示されるように近似できる。式(9)中、「movavg(ω)」は、角速度の移動平均を表す。よって、式(8)から式(10)が導き出される。
【0040】
式(9)を式(2)に代入すると、式(11)が導き出される。式(11)より、路面荷重が算出される。式(11)は、movavg(ω)を含む。なお、路面荷重の算出は、movavg(ω)の取得に要する時間に応じて(例えば0.05秒)遅くなる。
【0042】
<第二ゲイン>
第二ゲインa
2は、車輪角速度の変動と、路面荷重の変動との間のヒステリシス特性を表現する伝達関数モデルを表す。
【0043】
波状の起伏を有する路面上を走行する実車から車輪速変動と路面荷重変動とを測定すると、それらの相関性について以下の特徴がみられる。
・正の相関性を有するが、その傾き方向に対してやや幅を有する領域に存在する。
・走行速度が速くなるほど傾きは大きくなる。
・走行速度が速くなるほど、傾き方向における幅は大きくなる。
・走行速度が速くなるほど、傾き方向の長さが長くなる。
【0044】
このように、車輪速変動と路面荷重変動との間には、ヒステリシス特性があると考えられる。本実施形態では、車輪速変動と路面荷重変動との間のヒステリシス特性を、第二ゲインとして路面荷重の推定において参照する。
【0045】
本実施形態では、車輪速変動と路面荷重変動との間のヒステリシス特性が、タイヤの粘弾性特性に由来するとし、当該ヒステリシス特性を、一般化マクスウェルモデルを利用して、伝達関数モデルとして表現する。
【0046】
図4は、タイヤの粘弾性特性に由来する車輪速変動と路面荷重変動との間のヒステリシス特性を表現する一般化マクスウエルモデルの一例を説明するための図である。図中、fは、一般化マクスウェルモデル上の路面荷重を表し、K
0およびK
1はタイヤばね定数を表し、x
11はばね変位を表す。また、C
1は懸架装置におけるタイヤの減衰係数を表し、x
12はタイヤ減衰系部の変位を表す。また、xはx
11およびx
12の合計値を表す。
【0047】
上記一般化マクスウエルモデルにおいて、ばねおよびダンパ側の力をf
1とし、ばねのみの列の力をf
0とすると、各並列要素の合力は下記式(12)で表せる。式(12)の両辺をラプラス変換すると、式(13)となる。式(13)の各項を大文字のFで表すと、式(14)のように表される。式(14)の両辺をXにて除算すると、式(15)が得られる。式(15)中、Xは、
図4中のxのラプラス変換(L(x))を表す。
【0049】
f
0については、f
0についての力の釣り合いより、f
0は式(16)で表される。式(16)の両辺をラプラス変換すると、式(17)で表され、式(17)中の各項を大文字で表すと式(18)と表され、式(18)より式(19)が導き出される。
【0051】
f
1については、f
1についての力のつり合いより、f
1は式(20)および式(21)で表される。式(21)中、x
12ドットはx
12の微分値を表す。式(20)および式(21)の両辺をラプラス変換すると、式(22)および式(23)が導き出され、それらの式の各項を大文字で表すことにより式(24)および式(25)が導き出される。式(24)および式(25)から式(26)が導き出され、さらに式(27)が導き出される。
【0053】
式(15)に式(19)および式(27)を代入すると式(28)が得られ、この式を整理すると下記式(29)が得られる。式(29)中、d
1、d
0、n
1およびn
0は、それぞれ、d
1は式(30)で、d
0は式(31)で、n
1は式(32)で、そしてn
0は式(33)で、それぞれ表される。
【0055】
ここで,一般化マクスウエルモデルにて、fを路面荷重に対応させ、xを下記式(35)のように対応させることにより、「車輪速変動−路面荷重変動間のヒステリシス特性」は、下記式(34)で表される。よって、路面荷重dFz0
roadは、式(36)で表される。また、第二ゲインa
2は、式(37)で表される。
【0057】
式(34)の分母分子における係数は、実車の測定データを用い最適化手法などを利用して適宜に決めることができる。
【0058】
なお、上記の説明では、一次数のモデルを仮定してヒステリシス特性を表現するモデルを導き出したが、高次数のモデルを仮定してヒステリシス特性を表現するモデルを導き出してもよい。
図5は、タイヤの粘弾性特性に由来する車輪速変動と路面荷重変動との間のヒステリシス特性を表現する一般化マクスウエルモデルの他の例を説明するための図である。
図5に示されるように、より高次数(三次数)のモデルを仮定してヒステリシス特性を表現するモデルを導き出してもよい。この場合、一次数のモデルと同様に、並列要素の合力によりするモデルを足し合わせることにより、ヒステリシス特性を表現するモデルを導き出すことが可能である。このような高次数のモデルを用いることは、路面荷重変動のより高い精度の推定結果を得る観点から有利である。
【0059】
[路面荷重の推定]
路面荷重推定部120において、第一ゲイン演算部122は、少なくとも定常荷重および慣性荷重を用いて第一ゲインa
1を演算する(
図2参照)。路面荷重推定部120は、慣性荷重推定部110で得られた慣性荷重の推定値と、定常荷重提供部141から出力される定常荷重との合計値を取得する。第一ゲインa
1は、前述したように車両が備える車輪(タイヤ)の剛性(バネ定数)で表され、接地荷重に対する当該バネ定数の非線形の曲線に近似する一次式で表すことができる。ここでの接地荷重は、上記の定常荷重と慣性荷重との合計値である。第一ゲイン演算部122は、式(3)に当該合計値を代入することにより、第一ゲインを演算する。
【0060】
タイヤ有効半径変動演算部121は、車輪角速度の変動に第二ゲインを乗じる。車輪角速度の変動は、車輪角速度ωの変動値dωを含む数値であり、例えば式(8)中のdω/ωである。具体的には、タイヤ有効半径変動演算部121は、式(10)に基づき、タイヤ有効半径変動を演算する。
【0061】
路面荷重推定部120は、第一ゲイン演算部122とタイヤ有効半径変動演算部121との演算結果および前述した第二ゲインを参照して、例えば前述の式(11)に基づき路面荷重を算出する。このように、路面荷重推定部120は、車輪速センサが取得した車輪角速度の変動、車両の運動に関する特性を表す第一ゲイン、および、車両が備えるタイヤのヒステリシス特性を表す第二ゲインをそれぞれ乗じて車両の路面荷重を推定する。
【0062】
[接地荷重の推定]
慣性荷重推定部110は、慣性荷重dF
z0,inertiaを遅延部142に出力する(
図1参照)。遅延部142は、必要に応じて、その後の制御に応じた適当なタイミングとなるように遅らせて当該慣性荷重を出力する。たとえば、遅延部142は、前述した式(40)におけるmovavg(ω)による遅延に合わせて同位相となるように慣性荷重を出力する。加算部143は、定常荷重提供部141から出力された定常荷重F
z0nomと慣性荷重とを合算する。定常荷重と慣性荷重との合計値は、路面荷重推定部120および加算部144に出力される。
【0063】
一方で、路面荷重推定部120は、路面荷重の推定値を出力する。当該路面荷重の推定値は、定常荷重と慣性荷重とを参照して得られている。
【0064】
路面荷重推定部120から出力された路面荷重の推定値は、加算部144において、上記の合計値と合算される。こうして、定常荷重、慣性荷重および路面荷重の合計値が、車両の接地荷重の推定値F
z0として得られる。
【0065】
本実施形態によれば、所定の条件で車両を走行させる場合に、接地荷重の実測値と実質的に一致する推定値が得られる。以上より、本実施形態は、第二ゲインを定数ゲインとする場合に比べて、より高い精度で接地荷重を推定することが可能である。
【0066】
本実施形態では、前述したヒステリシス特性を示す第二ゲインを用いて路面荷重を推定することから、路面の凹凸の影響を十分に反映して路面荷重を推定することが可能である。そして、このような路面荷重を参照して接地荷重を推定することから、十分に高い精度で車両における接地荷重を推定することが可能である。また、本実施形態では、このような高い精度の接地荷重の推定をより簡易な制御によって推定することも可能である。
【0067】
また、本実施形態では、路面荷重の推定において、定常荷重と推定した慣性荷重とを参照する。よって、これらを参照しない場合に比べて、路面荷重をより高い精度で推定することができる。
【0068】
さらに、本実施形態では、汎用センサで取得可能な物理量を用いて基準慣性荷重を演算するとともに慣性荷重補正値を演算する。よって、センサに係るコストを削減することができる。
【0069】
〔実施形態2:懸架装置の制御装置の実施形態〕
前述した接地荷重推定装置を、車両が有する懸架装置を制御する制御装置に適用する例について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0070】
本実施形態の制御装置は、懸架装置を有する車両に作用する接地荷重を推定して、前記懸架装置の減衰力を当該接地荷重に応じて制御する。当該制御装置は、前述した接地荷重推定装置を含み、当該接地荷重推定装置で推定した接地荷重に応じて懸架装置の減衰力を制御する以外は、懸架装置における公知の制御装置と同様に構成することが可能である。
【0071】
図6は、上記の接地荷重推定装置を有する車両の構成の一例を模式的に示す図である。
図6に示されるように、車両900は、懸架装置(サスペンション)150、車体200、車輪300、車速(V)を検出する車速センサ450、エンジン500およびECU(Electronic Control Unit)600を備えている。ECU600は、前述したプロセッサに該当し、前述の接地荷重推定装置を含む。
【0072】
なお、符号中のアルファベットA〜Dは、それぞれ、車両900における位置を表している。Aは、車両900の左前の位置を表し、Bは、車両900の右前の位置を表し、Cは、車両900の左後ろを表し、Dは、車両900の右後ろを表している。
【0073】
また、車両900は、車両900の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ340などの各種センサを有している。当該センサは、前述した汎用センサに該当する。また、車両900は、記憶媒体を有している。記憶媒体には、物理量の推定に要する種々の情報が記憶されている。当該情報の例には、車輪半径および車両の質量(車重)などの車両に関する種々の物理量が含まれる。
【0074】
各種センサの出力値のECU600への供給、および、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。各センサは、後述の物理量の推定のために新たに設けられてもよいが、コストの面から、車両900に既存のセンサであることが好ましい。
【0075】
本実施形態によれば、車両の接地荷重について実測値と同等の精度を有する推定値に基づいて、懸架装置の減衰力が制御される。よって、汎用センサ以外の特別なセンサを用いずとも、車両の走行安定性を十分に高めることができる。
【0076】
なお、本実施形態では、制御装置において推定した接地荷重を直接的に用いて、車両の懸架装置の減衰力を制御している。本発明では、懸架装置と同様に、推定した接地荷重を、車両が有する種々の装置の制御に用いることができる。このような装置の例には、通常の懸架装置に加えて、電子制御式サスペンション、操舵装置、および、電子制御式駆動力伝達装置、が含まれる。推定した接地荷重は、車両におけるこれらの装置の一またはそれ以上の装置の制御に用いることが可能である。
【0077】
これらの装置の制御において、接地荷重の推定結果は、当該装置の制御に、本実施形態のように直接的に用いられてもよいし、間接的に用いられてもよい。接地荷重の推定結果における間接的な使用とは、例えば、他の状態量に変換し、変換後の状態量の推定値を当該他の装置の制御に用いること、である。上記の他の装置の制御において前述の接地荷重の推定値を用いることにより、本実施形態と同様に、汎用センサ以外の特別なセンサを用いずとも、車両の走行安定性を十分に、あるいはより一層高めることができる。
【0078】
〔ソフトウェアによる実現例〕
接地荷重推定装置100の制御ブロック(特に慣性荷重推定部110および路面荷重推定部120)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0079】
後者の場合、接地荷重推定装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。
【0080】
上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。
【0081】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0082】
〔変形例〕
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。また、前述の実施形態における接地荷重を推定するための機能的構成は、所望の精度に応じて適宜に簡略化されてもよい。
【0083】
たとえば、本発明では、前述した慣性荷重推定部に代えて、別の公知の技術によって車両の慣性荷重を取得してもよい。また、本発明では、前述した第一ゲイン演算部に代えて、別の公知の技術によって第一ゲインまたは当該第一ゲインを実質的に含む車両の他の物理量を取得してもよい。
【0084】
また、本発明では、第二ゲインが表す車両が備えるタイヤのヒステリシス特性になり得る範囲において、タイヤの粘弾性特性による車輪角速度の変動と、路面荷重の変動との間のヒステリシス特性以外のヒステリシス特性を採用してもよい。この場合、採用する特性に適応するように、路面荷重推定部における前述した機能的構成の一部を適宜に変更してもよい。
【0085】
さらに、本発明では、ヒステリシス特性は、伝達関数モデル以外の適当な表現で表されてもよい。この場合、採用する表現に適応するように、路面荷重推定部における前述した機能的構成の一部を適宜に変更してもよい。
【0086】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態における接地荷重推定装置(100)は、車両(900)の路面荷重を参照して車両の接地荷重を推定する接地荷重推定装置であって、車両の車輪角速度を取得する車輪速センサ(133)と、車輪速センサが取得した車輪角速度の変動、車両の運動に関する特性を表す第一ゲイン、および、車両が備えるタイヤのヒステリシス特性を表す第二ゲインをそれぞれ乗じて車両の路面荷重を推定する路面荷重推定部(120)とを備える。この構成によれば、実際の測定により近い十分に高い精度で車両における接地荷重を推定することができる。
【0087】
本実施形態において、接地荷重推定装置が車両の慣性運動による接地荷重変動である慣性荷重を推定する慣性荷重推定部(110)をさらに備え、路面荷重推定部は、慣性荷重推定部が推定した慣性荷重を用いて第一ゲインを演算する第一ゲイン演算部(122)をさらに備えてもよい。この構成は、接地荷重の推定精度を高める観点からより一層効果的である。
【0088】
本発明の実施形態において、第二ゲインが表す車両が備えるタイヤのヒステリシス特性は、車両が備えるタイヤの粘弾性特性による車輪角速度の変動と、路面荷重の変動との間のヒステリシス特性であってもよい。この構成は、接地荷重の推定精度を高める観点からより一層効果的である。
【0089】
本発明の実施形態において、第二ゲインは、ヒステリシス特性を表現する伝達関数モデルで表されてもよい。この構成は、接地荷重の推定精度を高める観点および推定の制御の負荷を低減させる観点からより一層効果的である。
【0090】
本発明の実施形態における車両制御装置は、前述した接地荷重推定装置を備え、接地荷重推定装置が推定した接地荷重を用いて、車両が備える他の装置を制御する。この構成によれば、実際の測定により近い十分に高い精度で車両における接地荷重を推定することができ、車両を所望の状態により精密に制御することができる。
【0091】
本発明の実施形態における接地荷重推定方法は、車両の路面荷重を参照して車両の接地荷重を推定する接地荷重推定方法であって、車両の車輪角速度を車輪速センサによって取得するステップと、車輪速センサによって取得した車輪角速度の変動、車両の運動に関する特性を表す第一ゲイン、および、車両が備えるタイヤのヒステリシス特性を表す第二ゲインをそれぞれ乗じて車両の路面荷重を推定する路面荷重推定ステップと、を含む。これらの構成によれば、実際の測定により近い十分に高い精度で車両における接地荷重を推定することができる。
【解決手段】本発明に係る接地荷重推定装置は、車両の車輪角速度、定常荷重および慣性荷重を取得し、定常荷重および慣性荷重を用いて第一ゲインを演算し、第一ゲイン、所定の車両諸元、および、車両が備えるタイヤのヒステリシス特性を表す第二ゲインを用いて路面荷重を推定し、当該路面荷重を参照して車両の接地荷重を推定する。