特許第6817746号(P6817746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6817746吸着ローラ、塗工装置および膜・電極接合体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817746
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】吸着ローラ、塗工装置および膜・電極接合体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 20/12 20060101AFI20210107BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20210107BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20210107BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20210107BHJP
【FI】
   B65H20/12
   F16C13/00 Z
   F16C13/00 C
   F16C13/00 E
   H01M4/88 K
   !H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-160951(P2016-160951)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2018-28361(P2018-28361A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 光雄
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅文
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−089269(JP,A)
【文献】 特開2016−117588(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050406(WO,A1)
【文献】 中国実用新案第205274830(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 20/12
F16C 13/00
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の基材を外周面の一部分に吸着保持しつつ回転する吸着ローラであって、
前記外周面を有する円筒状のローラ本体と、
前記ローラ本体の軸心方向の端面に固定されたオリフィスプレートと、
前記オリフィスプレートの前記ローラ本体とは反対側の面に固定されたサイドプレートと、
を備え、
前記ローラ本体は、
前記外周面に設けられた複数の吸着孔と、
前記外周面の内側に設けられ、前記複数の吸着孔と連通する内部流路と、
を有し、
前記オリフィスプレートは、
前記内部流路に連通するオリフィス孔
を有し、
前記サイドプレートは、
前記オリフィス孔に連通する排気流路
を有し、
前記排気流路は、前記軸心と同軸に設けられた中央流路に連通し、前記中央流路は吸引機構に接続され、
前記軸心方向に見て、前記オリフィス孔は、前記内部流路および前記排気流路よりも小さく、
前記軸心に沿って設けられた前記中央流路を有するシャフトと、
前記シャフトの端部に接続されたモータと、
をさらに備え、
前記モータにより、前記ローラ本体、前記オリフィスプレート、前記サイドプレート、および前記シャフトが、一体として前記軸心周りに回転する吸着ローラ。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着ローラであって、
前記ローラ本体は、複数の前記内部流路を有し、
前記複数の内部流路は、前記軸心の周囲に互いに間隔をあけて配列され、
前記複数の内部流路のそれぞれが、前記軸心方向に延びる吸着ローラ。
【請求項3】
請求項2に記載の吸着ローラであって、
前記オリフィスプレートは、前記複数の内部流路の各々に連通する複数の前記オリフィス孔を有する吸着ローラ。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の吸着ローラであって、
前記ローラ本体の前記内部流路よりも内側に設けられた加熱機構
をさらに有する吸着ローラ。
【請求項5】
請求項4に記載の吸着ローラであって、
前記オリフィスプレートは、樹脂製である吸着ローラ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の吸着ローラであって、
前記オリフィス孔の内径は、0.1mm以上かつ3.0mm以下である吸着ローラ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の吸着ローラであって、
前記オリフィスプレートは、前記ローラ本体に対して着脱可能である吸着ローラ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の吸着ローラと、
前記吸着ローラに吸着保持された基材の表面に材料を塗布する塗布部と、
を備える塗工装置。
【請求項9】
請求項8に記載の塗工装置と、
基材の表面に塗布された材料を乾燥させる乾燥機構と、
を備え、
前記基材は、電解質膜であり、
前記材料は、電極材料である膜・電極接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の基材を外周面の一部分に吸着保持しつつ回転する吸着ローラ、当該吸着ローラを備えた塗工装置および膜・電極接合体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や携帯電話などの駆動電源として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、燃料に含まれる水素(H)と空気中の酸素(O)との電気化学反応によって電力を作り出す発電システムである。燃料電池は、他の電池と比べて、発電効率が高く環境への負荷が小さいという特長を有する。
【0003】
燃料電池には、使用する電解質によって幾つかの種類が存在する。そのうちの1つが、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)である。固体高分子形燃料電池は、常温での動作および小型軽量化が可能であるため、自動車や携帯機器への適用が期待されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、一般的には複数のセルが積層された構造を有する。1つのセルは、膜・電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)の両側を一対のセパレータで挟み込むことにより構成される。膜・電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の両面に形成された一対の電極層とを有する。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方がカソード電極となる。アノード電極に水素を含む燃料ガスが接触するとともに、カソード電極に空気が接触すると、電気化学反応によって電力が発生する。
【0005】
上記の膜・電極接合体の製造時には、複数の吸着孔を有する吸着ローラの外周面に、帯状の基材である電解質膜が吸着保持される。そして、吸着ローラに保持された電解質膜の表面に、白金(Pt)を含む触媒粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた触媒インク(電極ペースト)が塗布される。その後、触媒インクを乾燥させることにより、電極層が形成される。
【0006】
ローラの外周面に帯状の基材を保持しつつ搬送する従来の装置については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−234541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
吸着ローラを用いて基材を搬送する場合、基材は、吸着ローラの外周面の一部分に接触する。したがって、吸着ローラの外周面には、基材に覆われる閉鎖領域と、基材に覆われない開放領域とが生じる。開放領域においては、外部空間から吸着孔を通って吸着ローラの内部へ気体が進入する。そして、この開放領域からの気体の進入によって、閉鎖領域における基材の吸着力が低下してしまうという問題がある。
【0009】
特許文献1には、互いに摺動する回転リングユニットと固定リングユニットと有するローラの構造が記載されている。特許文献1のローラでは、回転リングユニットと固定リングユニットとの摺動面の、基材が巻き付けられる角度範囲内のみに、開口部が設けられている。このような構造を吸着ローラに採用すれば、閉鎖領域のみに吸着力を発生させ、開放領域からの気体の進入を防止できる。
【0010】
しかしながら、2つの回転体を摺動させつつ、それらの部材の内部で吸引力を伝達しようとすると、2つの回転体の間にシール部材を設ける必要がある。このシール部材は、摺動に伴い劣化するため、定期的に交換しなければならない。また、2つの回転体の間には、強い摺動抵抗が生じる。したがって、吸着ローラを回転させるために、摺動抵抗以上の強い駆動力が必要となる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、吸着ローラの外周面の開放領域から進入する気体によって、閉鎖領域の吸引力が低下することを抑制でき、かつ、摺動による部材の劣化も抑制できる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、帯状の基材を外周面の一部分に吸着保持しつつ回転する吸着ローラであって、前記外周面を有する円筒状のローラ本体と、前記ローラ本体の軸心方向の端面に固定されたオリフィスプレートと、前記オリフィスプレートの前記ローラ本体とは反対側の面に固定されたサイドプレートと、を備え、前記ローラ本体は、前記外周面に設けられた複数の吸着孔と、前記外周面の内側に設けられ、前記複数の吸着孔と連通する内部流路と、を有し、前記オリフィスプレートは、前記内部流路に連通するオリフィス孔を有し、前記サイドプレートは、前記オリフィス孔に連通する排気流路を有し、前記排気流路は、前記軸心と同軸に設けられた中央流路に連通し、前記中央流路は吸引機構に接続され、前記軸心方向に見て、前記オリフィス孔は、前記内部流路および前記排気流路よりも小さく、前記軸心に沿って設けられた前記中央流路を有するシャフトと、前記シャフトの端部に接続されたモータと、をさらに備え、前記モータにより、前記ローラ本体、前記オリフィスプレート、前記サイドプレート、および前記シャフトが、一体として前記軸心周りに回転する
【0013】
本願の第2発明は、第1発明の吸着ローラであって、前記ローラ本体は、複数の前記内部流路を有し、前記複数の内部流路は、前記軸心の周囲に互いに間隔をあけて配列され、前記複数の内部流路のそれぞれが、前記軸心方向に延びる。
【0014】
本願の第3発明は、第2発明の吸着ローラであって、前記オリフィスプレートは、前記複数の内部流路の各々に連通する複数の前記オリフィス孔を有する。
【0015】
本願の第4発明は、第2発明または第3発明の吸着ローラであって、前記ローラ本体の前記内部流路よりも内側に設けられた加熱機構をさらに有する。
【0016】
本願の第5発明は、第4発明の吸着ローラであって、前記オリフィスプレートは、樹脂製である。
【0017】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の吸着ローラであって、前記オリフィス孔の内径は、0.1mm以上かつ3.0mm以下である。
【0018】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の吸着ローラであって、前記オリフィスプレートは、前記ローラ本体に対して着脱可能である。
【0021】
本願の第発明は、塗工装置であって、第1発明から第発明までのいずれか1発明の吸着ローラと、前記吸着ローラに吸着保持された基材の表面に材料を塗布する塗布部と、を備える。
【0022】
本願の第発明は、膜・電極接合体の製造装置であって、第発明の塗工装置と、基材の表面に塗布された材料を乾燥させる乾燥機構と、を備え、前記基材は、電解質膜であり、前記材料は、電極材料である。
【発明の効果】
【0023】
本願の第1発明〜第発明によれば、ローラ本体の外周面のうち、基材に覆われる閉鎖領域では、複数の吸着孔に生じる負圧によって、ローラ本体の外周面に基材が吸着する。一方、基材に覆われない開放領域では、オリフィス孔を気体が通過しにくいため、外部空間からローラ本体の内部への気体の吸引が抑制される。したがって、開放領域から進入する気体によって、閉鎖領域の吸引力が低下することを抑制できる。また、ローラ本体、オリフィスプレートおよびサイドプレートは、一体として回転する。このため、各部材の摺動による劣化も抑制できる。また、排気流路が、軸心と同軸に設けられた中央流路を介して、下流側の流路に連通する。これにより、吸引のための流路を確保しつつ、回転時における部材同士の摺動をより抑制できる。また、回転時の摺動抵抗が小さいため、搬送時におけるモータの動力を低減できる。
【0024】
特に、本願の第3発明によれば、内部流路毎にオリフィス孔を設けることによって、個々のオリフィス孔の開口面積を、より小さくすることができる。したがって、オリフィス孔における気体の通過を、より抑制できる。
【0025】
特に、本願の第4発明によれば、加熱機構により、ローラ本体の外周面を加熱できる。特に、複数の内部流路が間隔をあけて配列されているため、加熱機構から生じた熱を、内部流路の間を通ってローラ本体の外周面へ、効率よく伝導させることができる。
【0026】
特に、本願の第5発明によれば、加熱機構から生じた熱がオリフィスプレートよりも外側へ伝達することを抑制できる。
【0027】
特に、本願の第7発明によれば、基材の処理条件に応じて、オリフィスプレートを、最適な開口面積のオリフィス孔を有するものに交換できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】吸着ローラの側面図である。
図2】吸着ローラの断面図である。
図3】吸着ローラの部分断面図である。
図4】オリフィスプレートの平面図である。
図5】オリフィスプレートの部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
<1.吸着ローラの構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る吸着ローラ10を軸心Aの方向に見た側面図である。図2は、吸着ローラ10を、軸心Aを含む平面で切断した断面図である。この吸着ローラ10は、長尺帯状の基材91を吸着保持しつつ、水平に延びる軸心A周りに回転することによって、基材9を搬送するローラである。基材91の具体例については、後述する。吸着ローラ10は、複数の吸着孔123を有する円筒状の外周面を有する。製造装置1の稼働時には、図2中に概念的に示した吸引機構17により、複数の吸着孔123に負圧が生じる。帯状の基材91は、当該負圧によって、吸着ローラ10の外周面の一部分に、吸着保持される。なお、吸着ローラ10の直径は、例えば30mm〜1600mmとされる。
【0033】
図1および図2に示すように、吸着ローラ10は、シャフト11、ローラ本体12、第1サイドプレート13、オリフィスプレート14、第2サイドプレート15および加熱機構16を有する。
【0034】
シャフト11は、軸心Aに沿って水平に延びる略円柱状の部材である。シャフト11の材料には、例えば、ステンレスや鉄などの金属が用いられる。シャフト11は、図示を省略した軸受によって、回転可能に支持される。また、シャフト11の一方の端部は、駆動源であるモータ70に接続される。モータ70を駆動させると、シャフト11は、軸心A周りに回転する。
【0035】
また、図4に示すように、シャフト11の内部には、複数の接続流路111と、1本の中央流路112とが設けられている。中央流路112は、シャフト11の中央を、軸心Aに沿って延びる。複数の接続流路111は、後述する第2サイドプレート15内の排気流路151と中央流路112とに連通する。また、中央流路112は、吸引機構17に接続される。吸引機構17には、例えば、排気ポンプが用いられる。
【0036】
ローラ本体12は、シャフト11の周囲において、基材91を吸着保持しつつ回転する。本実施形態のローラ本体12は、内筒部材121と外筒部材122とを有し、全体として円筒状に形成される。内筒部材121は、シャフト11の外周面に固定された円筒状の部材である。外筒部材122は、内筒部材121の外周面に固定された円筒状の部材である。外筒部材122の外周面は、ローラ本体12の外周面となる。内筒部材121および外筒部材122の材料には、例えば、ステンレス等の金属が用いられる。
【0037】
図3は、図2中の丸で囲んだ領域における吸着ローラ10の部分断面図である。図2および図3に示すように、外筒部材122は、複数の吸着孔123と、複数の内部流路124とを有する。複数の吸着孔123は、外筒部材122の外周面に、互いに間隔をあけて規則的に分布する。各吸着孔123の開口径は、例えば2mm以下とされる。複数の内部流路124は、外筒部材122の外周面の内側に設けられている。また、複数の内部流路124は、軸心Aに対する周方向に、等間隔に配列されている。各内部流路124は、外筒部材122の一端と他端との間で、軸心Aと平行な方向(以下「軸心方向」と称する)に延びる。複数の吸着孔123は、それぞれ、外筒部材122の外側の空間と、内部流路124とを連通する。
【0038】
第1サイドプレート13は、ローラ本体12の軸心方向の一方の端面に固定された円板状の部材である。第1サイドプレート13の材料には、例えば、ステンレスや鉄などの金属が用いられる。第1サイドプレート13は、内筒部材121および外筒部材122に対して、例えばボルトで固定される。外筒部材122の各内部流路124の一方の端部開口は、第1サイドプレート13によって閉塞される。
【0039】
オリフィスプレート14は、ローラ本体12の軸心方向の他方の端面に固定された円板状の部材である。オリフィスプレート14の材料は、ステンレスや鉄などの金属であってもよく、あるいは樹脂であってもよい。図4は、オリフィスプレート14の軸心方向に見た平面図である。図5は、図4中の丸で囲んだ領域におけるオリフィスプレート14の部分平面図である。図4および図5では、ローラ本体12の吸着孔123および内部流路124と、後述する第2サイドプレート15の排気流路151とが、破線で示されている。
【0040】
図2図5に示すように、オリフィスプレート14は、複数のオリフィス孔141を有する。オリフィス孔141は、軸心方向に見て内部流路124および後述する排気流路151よりも開口面積の小さい貫通孔である。複数のオリフィス孔141は、軸心Aに対する周方向に、等間隔に配列されている。図5に示すように、複数のオリフィス孔141は、それぞれ、内部流路124と重なる位置に設けられている。すなわち、内部流路124と、オリフィス孔141とは、1対1に対応する。各オリフィス孔141は、内部流路124に連通する。
【0041】
第2サイドプレート15は、オリフィスプレート14のローラ本体12とは反対側の面に固定された円板状の部材である。第2サイドプレート15の材料には、例えば、ステンレスや鉄などの金属が用いられる。図2図5に示すように、第2サイドプレート15の内部には、排気流路151が設けられている。排気流路151は、円環状の外側流路152と、外側流路152からシャフト11側へ向けて延びる複数の内側流路153とを有する。外側流路152は、複数のオリフィス孔141に連通する。内側流路153は、シャフト11の複数の接続流路111を介して、中央流路112に連通する。
【0042】
加熱機構16は、ローラ本体12の外周面を加熱するための機構である。加熱機構16は、ローラ本体12の複数の内部流路124よりも内側に設けられている。加熱機構16には、例えば、内筒部材121の内部に設けられた管路内に、加熱された熱媒体(例えば水)を循環させる機構が用いられる。ただし、加熱機構16は、通電により発熱する電熱式のヒータであってもよい。加熱機構16を動作させると、加熱機構16から複数の内部流路124の間を通ってローラ本体12の外周面へ、熱が伝導する。これにより、ローラ本体12の外周面に吸着保持された基材91が加熱される。
【0043】
吸引機構17を動作させると、中央流路112内の空気が吸引機構17へ吸い出される。これにより、中央流路112、複数の接続流路111、排気流路151、複数のオリフィス孔141、複数の内部流路124および複数の吸着孔123に負圧が生じる。基材91は、複数の吸着孔123に生じる当該負圧によって、吸着ローラ10の外周面に吸着保持される。
【0044】
ただし、図1に示すように、吸着ローラ10の外周面は、基材91に覆われる閉鎖領域101と、基材91に覆われない開放領域102とを有する。開放領域102では、複数の吸着孔123が外部に露出するため、吸着孔123を介して内部流路124へ、空気が進入する。しかしながら、本実施形態では、内部流路124と排気流路151との間に、開口面積の小さいオリフィス孔141が介在する。このオリフィス孔141の流路抵抗が大きいため、内部流路124から排気流路151への空気の通過量が制限される。これにより、外部空間から吸着孔123への空気の進入も抑制される。したがって、開放領域102の吸着孔123から進入する空気によって、閉鎖領域101における基材91の吸着力が低下することを抑制できる。
【0045】
また、ローラ本体12、オリフィスプレート14および第2サイドプレート15は、一体として回転する。本実施形態の構造では、吸着ローラ10の吸引のための流路を構成する部材同士を摺動させることなく、開放領域102からの空気の進入を抑制する。したがって、各部材の摺動による劣化を抑制できる。また、部材同士を摺動させる場合には、摺動抵抗以上の動力をモータ70から出力する必要がある。しかしながら、本実施形態の構造を採れば、吸着ローラ10の回転時の摺動抵抗が小さいため、モータ70の動力を低減できる。
【0046】
オリフィス孔141の内径は、小さ過ぎると、吸引機構17の吸引力が、複数の吸着孔123に十分に伝わらない。一方、オリフィス孔141の内径が大き過ぎると、開放領域102からの空気の進入が生じやすくなる。したがって、オリフィス孔141の内径は、小さ過ぎても大き過ぎても、閉鎖領域101において基材91を十分に吸着することが困難となる。このため、オリフィス孔141の内径は、適度な大きさに設定されることが好ましい。例えば、オリフィス孔141の内径は、0.1mm以上かつ3.0mm以下とすることが好ましい。また、オリフィス孔141の内径は、0.5mm以上かつ1.5mm以下とすることが、より好ましい。
【0047】
また、本実施形態のオリフィスプレート14は、ローラ本体12に対して着脱可能となっている。このため、基材91の処理条件に応じて、オリフィスプレート14を交換できる。これにより、基材91の処理条件ごとに、最適な開口面積のオリフィス孔141を有するオリフィスプレート14を使用することができる。
【0048】
また、本実施形態では、第2サイドプレート15の排気流路151が、軸心Aと同軸に設けられた中央流路112を介して、下流側の流路に連通する。このようにすれば、吸着ローラ10と下流側の流路を構成する部材との間で、部材同士の摺動箇所をより小さくすることができる。その結果、回転時における摺動抵抗をより低減できる。
【0049】
また、本実施形態のように、ローラ本体12の内部に加熱機構16が設けられている場合には、オリフィスプレート14を、金属よりも熱伝導率の小さい樹脂で形成することが好ましい。樹脂には、例えば、断熱性に優れたテフロン(登録商標)を用いるとよい。オリフィスプレート14を、このような樹脂で形成すれば、加熱機構16から生じた熱が、オリフィスプレート14よりも外側へ伝達することを抑制できる。
【0050】
<2.吸着ローラの適用例>
吸着ローラ10は、例えば、長尺帯状の電解質膜の表面に、電極層を形成して、固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体を製造する製造装置に用いることができる。当該製造装置では、吸着ローラ10が、長尺帯状の基材91である電解質膜を吸着保持しながら回転する。また、当該製造装置は、吸着ローラ10および塗布部で構成される塗工装置と、乾燥機構とを備える。
【0051】
塗布部は、吸着ローラ10に吸着保持された電解質膜の表面に電極材料を塗布するためのノズル31(図1参照)を有する。電極材料には、例えば、白金(Pt)を含む触媒粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた触媒インクが用いられる。ノズル31は、吸着ローラ10の外周面に対向するスリット状の吐出口を有する。製造装置の稼働時には、ノズル31から、吸着ローラ10とともに回転する電解質膜の表面に向けて、電極材料が吐出される。なお、ノズル31は、電極材料を、間欠的に吐出してもよく、連続的に吐出してもよい。
【0052】
乾燥機構は、電解質膜の表面に塗布された電極材料を乾燥させる機構である。乾燥機構には、例えば、吸着ローラ10内の、上述した加熱機構16が用いられる。その場合、加熱機構16からの熱によって、電極材料中の溶剤が気化する。これにより、電極材料が乾燥して、電解質膜の表面に電極層が形成される。ただし、乾燥機構は、吸着ローラ10に吸着保持された電解質膜に向けて、加熱された気体を吹き付ける機構であってもよい。
【0053】
電解質膜には、例えば、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。電解質膜の具体例としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標))を挙げることができる。電解質膜の膜厚は、例えば、5μm〜30μmとされる。電解質膜は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。
【0054】
このような電解質膜は、過度な張力をかけると破損するため、低張力で搬送する必要がある。したがって、電解質膜の搬送には、張力により従動回転するフリーローラではなく、電解質膜を吸着しつつ、モータ70の動力により能動的に回転する駆動ローラを用いる必要がある。この点において、本実施形態の吸着ローラ10は、上述の通り、部材同士を摺動箇所が少ない構造で、開放領域102からの空気の進入を抑制できる。したがって、駆動時の摺動抵抗を抑えて、モータ70の動力を低減できる。
【0055】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0056】
上記の実施形態では、ローラ本体12が、内筒部材121および外筒部材122の2部材により構成されていた。しかしながら、ローラ本体12は、単一の部材により構成されていてもよく、3つ以上の部材により構成されていてもよい。また、吸着ローラ10を構成する各部材の間に、シール部材などの他の部材が介在していてもよい。
【0057】
また、上記の実施形態では、金属製の外筒部材122の外周面に、複数の吸着孔123が形成されていた。しかしながら、ローラ本体12の最外周部を、多孔質カーボンや多孔質セラミックス等の多孔質材料により形成してもよい。そして、多孔質材料の微細な気孔を、吸着孔123として利用してもよい。多孔質セラミックスの具体例としては、アルミナ(Al)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体を挙げることができる。この場合、多孔質材料により形成される円筒状の部材の内側に、内部流路124が設けられていればよい。
【0058】
また、上記の実施形態では、吸着ローラ10の外周面に、直接、基材91が吸着保持されていた。しかしながら、吸着ローラ10の外周面と、基材91との間に、多数の微細な気孔を有する多孔質基材を介在させてもよい。すなわち、基材91は、吸着ローラ10の外周面に、多孔質基材を介して間接的に吸着保持されてもよい。このようにすれば、吸着ローラ10の外周面と基材91とが、直接接触しない。したがって、基材91から生じるパーティクルが吸着ローラ10の外周面に付着したり、吸着ローラ10の外周面から基材91へパーティクルが転着したりすることを、防止できる。
【0059】
また、上記の実施形態では、内部流路124毎に、1つのオリフィス孔141を設けていた。しかしながら、2つ以上の内部流路124に対して、1つのオリフィス孔141を設けてもよい。ただし、上記の実施形態のように、内部流路124毎に1つのオリフィス孔141を設ける方が、個々のオリフィス孔141の開口面積を、より小さくすることができる。したがって、オリフィス孔141における気体の通過を、より抑制できる。
【0060】
また、上記の実施形態では、吸着ローラ10により搬送される基材91の例として、電解質膜を挙げた。しかしながら、本発明における「帯状の基材」は、電解質膜には限られない。本発明の吸着ローラは、リチウムイオン電池用の金属箔や、印刷用紙などを保持するものであってもよい。
【0061】
また、吸着ローラ10は、上記の適用例のように、基材91に対して材料の塗布および乾燥を行うために、基材91を保持するものであってもよく、基材に対して他の処理を行うために、基材を保持するものであってもよい。また、吸着ローラ10は、基材91の搬送経路の上流側と下流側とで、基材9にかかる張力を異なる強さとしたいときに、張力を切り替えるべき箇所に配置される、いわゆるテンションカットローラであってもよい。
【0062】
また、吸着ローラの細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 吸着ローラ
11 シャフト
12 ローラ本体
13 第1サイドプレート
14 オリフィスプレート
15 第2サイドプレート
16 加熱機構
17 吸引機構
31 ノズル
70 モータ
91 基材
101 閉鎖領域
102 開放領域
111 接続流路
112 中央流路
121 内筒部材
122 外筒部材
123 吸着孔
124 内部流路
141 オリフィス孔
151 排気流路
152 外側流路
153 内側流路
図1
図2
図3
図4
図5