(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817811
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】内燃機関の運転方法
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20210107BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20210107BHJP
F01N 3/033 20060101ALI20210107BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20210107BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20210107BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
F02D41/04
B01D53/94 222
F01N3/033 Z
F01N3/08 H
F01N3/24 RZAB
F02D45/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-530478(P2016-530478)
(86)(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公表番号】特表2016-532810(P2016-532810A)
(43)【公表日】2016年10月20日
(86)【国際出願番号】EP2014066196
(87)【国際公開番号】WO2015014805
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2016年2月9日
【審判番号】不服2018-15431(P2018-15431/J1)
【審判請求日】2018年11月21日
(31)【優先権主張番号】102013012566.9
(32)【優先日】2013年7月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
【氏名又は名称原語表記】MAN ENERGY SOLUTIONS SE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・デーリング
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・バウアー
【合議体】
【審判長】
谷治 和文
【審判官】
鈴木 充
【審判官】
金澤 俊郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−31787(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/125659(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/058632(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/018850(WO,A1)
【文献】
特開2009−7948(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0035194(US,A1)
【文献】
特開2012−36837(JP,A)
【文献】
特開2004−92557(JP,A)
【文献】
特開2012−167549(JP,A)
【文献】
特表2011−511897(JP,A)
【文献】
特開平11−36923(JP,A)
【文献】
特開2002−47923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/04
F02D45/00
F01N 3/24
F01N 3/033
F01N 3/08
B01D53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状でメタンを含む燃料を燃焼させる火花点火ガスエンジンを持つ内燃機関(10)の運転方法であって、該内燃機関は少なくとも一つのエンジン(11)及び排気ガス後処理システム(13)を有しており、燃料燃焼の際に前記エンジン(11)内で発生する排気ガスは浄化のために前記排気ガス後処理システム(13)を介して導かれる運転方法において、排気ガス実際値が特定され、該排気ガス実際値は前記排気ガス後処理システム(13)の排気ガス後処理構成要素(14)の上流における排気ガスの窒素酸化物内の二酸化窒素割合の実際値に依存しており、また、前記排気ガス後処理構成要素(14)を最適化して運転するために前記二酸化窒素割合の実際値が、対応する二酸化窒素割合の基準値に近似するよう、ラムダ値、及び/又は、点火時期、及び/又は、バルブタイミング、及び/又は、エンジン圧縮比、及び/又は、エンジン燃焼室内に導入される排気ガス割合を含む前記エンジン(11)の運転パラメータの少なくとも一つが変更され、前記二酸化窒素割合の基準値が前記エンジン(11)の少なくとも一つの運転パラメータに依存して決定され、前記排気ガス実際値として、前記排気ガス後処理システム(13)の排気ガス後処理構成要素(14)の下流においてNOxセンサーを用いてNOx実際値が測定技術的に測定され、この排気ガス実際値に依存して、前記排気ガス後処理構成要素(14)の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合の実際値が特定され、この二酸化窒素割合の実際値が前記二酸化窒素割合の基準値と比較され、この比較に依存して、前記二酸化窒素割合の実際値が前記二酸化窒素割合の基準値に近似するように、前記エンジン(11)の少なくとも一つの運転パラメータが変更され、排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値は、この基準値に依存して変更された前記エンジン(11)の少なくとも一つの運転パラメータが、前記エンジン(11)のエンジン出口NOxエミッションを最大15%低下させるように選ばれることを特徴とする、方法。
【請求項2】
排気ガス実際値が特定され、該排気ガス実際値は、前記排気ガス後処理システム(13)のSCR触媒の上流における排気ガス内の窒素酸化物の二酸化窒素割合の実際値に依存していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
排気ガス実際値が特定され、該排気ガス実際値は、前記排気ガス後処理システム(13)の粒子フィルターの上流における排気ガス内の窒素酸化物の二酸化窒素割合の実際値に依存していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
排気ガス実際値が特定され、該排気ガス実際値は、前記排気ガス後処理システム(13)のNOx吸蔵触媒の上流における排気ガス内の窒素酸化物の二酸化窒素割合の実際値に依存していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のおいて書きに記載の、内燃機関の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実地より知られている内燃機関はエンジンのほかに排気ガス後処理システムを備えており、それにより、内燃機関のエンジン内において燃料燃焼の際に発生する排気ガスは排気ガス後処理システム内で浄化される。ますます厳しくなる排気ガス規制値を達成するために効率的な排気ガス後処理が必要とされている。
【0003】
固体粒子に加えて排気ガス内の窒素酸化物(NOx)も、ますます厳しくなる規制値を達成する必要がある。排気ガス内の窒素酸化物の低減は触媒を用いて行われ、例えばSCR触媒が用いられ、SCR触媒では、窒素酸化物を変換するために還元剤としてアンモニアが用いられる。アンモニアはアンモニア生成装置内で生成され、排気ガス流内に送り込むことができる。それとは異なり、アンモニア前駆物質、例えば尿素水溶液を排気ガス流内に送り込むこともでき、これは、排気ガス流内でアンモニア、二酸化炭素、及び水蒸気に変換される。排気ガス内でのアンモニア前駆物質からアンモニアへの変換は、代表的にはいわゆる加水分解触媒を用いて行われる。
【0004】
排気ガス内に一酸化窒素のみが存在する場合、SCR触媒内での窒素酸化物は以下の化学式により変換される。
4NO+4NH
3+O
2→4N
2+6H
2O
【0005】
SCR触媒内で上記の化学式による一酸化窒素の変換は比較的ゆっくり進行する。そのため、排気ガス内の窒素酸化物の変換を早めるために、SCR触媒の上流においてとりわけ白金含有のNO酸化触媒を配置して、SCR触媒の上流において一酸化窒素を二酸化窒素に変換することが実地よりすでに知られており、また、排気ガス内に一酸化窒素に加えて二酸化窒素も存在する場合は、触媒内での窒素酸化物の変換は以下の化学式により行われる。
NO+2NH
3+NO
2→2N
2+3H
2O
【0006】
SCR触媒内に一酸化窒素及び二酸化窒素が存在する際、上記の化学式による窒素酸化物の変換は、SCR触媒内での一酸化窒素の純粋な変換より早く進む。
【0007】
そのため、排気ガス内に含まれる窒素酸化物をSCR触媒内で変換する速さは、排気ガス内の二酸化窒素の割合に依存する。しかし、一酸化窒素を二酸化窒素に変換するためにSCR触媒の上流で別個のNO酸化触媒を使用することには、装置技術上の手間がかかり、それにより内燃機関のコストが上昇するという短所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに鑑みて本発明の課題は、内燃機関の新規の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の方法により解決される。
【0010】
本発明では排気ガス
実際値が
特定され、これは、排気ガス後処理システムの排気ガス後処理構成要素の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合の
実際値に依存しているため、二酸化窒素割合の
実際値が、対応する二酸化窒素割合の基準値に近似するよう少なくとも一つのエンジン運転パラメータを変更し、それによりそれぞれの排気ガス後処理構成要素が最適化されて運転されるようにする。本発明では、二酸化窒素割合の基準値は、少なくとも一つのエンジン運転パラメータ、及び、排気ガス後処理システムの少なくとも一つの運転パラメータに依存して決定される。
【0011】
内燃機関の少なくとも一つのエンジン運転パラメータを変更することにより、排気ガス後処理システムの排気ガス後処理構成要素の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合を、定義されたように設定し、それにより、排気ガス後処理構成要素を最適化して運転できるようにするということは、本発明で初めて提案されるものである。それにより、より小さいNO酸化触媒を使用すること、又は、NO酸化触媒をまったく使用しないことが可能になる。
【0012】
排気ガス内の二酸化窒素割合には、負荷点もしくは運転点に依存した基準値を使用することが特に望ましく、それは、それにより、内燃機関のすべての負荷点もしくは運転点にとって、一方では、内燃機関のエンジンの最適な運転が、他方では、排気ガス後処理システムの最適な運転が保障されるためである。
【0013】
好適な発展形の一つによると、そのように変更されるエンジン運転パラメータとして、ラムダ値、及び/又は、点火時期、及び/又は、バルブタイミング、及び/又は、エンジン圧縮、及び/又は、エンジン燃焼室内の排気ガス割合が挙げられる。上記のエンジン運転パラメータの少なくとも一つを介して、排気ガス内の二酸化窒素割合を簡単かつ信頼的に設定することができる。
【0014】
好適な発展形の一つによると排気ガス
実際値として、排気ガス後処理システムの排気ガス後処理構成要素の下流におけるNOx
実際値が、NOxセンサーを用いて測定技術的に測定され、この排気ガス
実際値に依存して、排気ガス後処理構成要素の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合の
実際値が
特定され、二酸化窒素割合のこの
実際値が二酸化窒素割合の基準値と比較され、また、この比較に依存して、二酸化窒素割合の
実際値が二酸化窒素割合の基準値に近似するように、少なくとも一つのエンジン運転パラメータが変更される。この実施例が特に望ましいのは、排気ガス後処理構成要素の下流におけるNOx
実際値が、NOxセンサーを用いて簡単に、測定技術的に測定できるからである。測定技術的に測定可能なこのNOx
実際値に基づいて、排気ガス内の二酸化窒素割合の
実際値を導き出すことができ、それにより、二酸化窒素割合の
実際値と、二酸化窒素割合の基準値との比較に依存して、少なくとも一つのエンジン運転パラメータが変更され、それにより二酸化窒素割合の
実際値が基準値に近づけられる。
【0015】
望ましくは運転パラメータは、エンジンのエンジン出口NOxエミッションが最大で15%減少するように変更される。それにより、エンジンを良好な効率で、かつ、燃料消費の増加を回避して運転することが可能となる。
【0016】
本発明の望ましい発展形は、従属請求項及び以下の詳細な説明より理解できる。本発明の実施例を図を用いて詳細に説明するが、これに限定されるわけではない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は内燃機関の運転方法に関する。
【0019】
図1には内燃機関10が大幅に図式化されて図示されており、内燃機関10は、複数のシリンダー12を持つエンジン11、少なくとも一つの排気ガス後処理構成要素14を持つ排気ガス後処理システム13を有している。内燃機関10のエンジン11のシリンダー12内で燃料が燃焼する際に発生する排気ガスは、排気ガス後処理システム13内で排気ガスを浄化するために、排気ガス後処理システム13を介して導くことができる。
図1において排気ガス後処理システム13の下流にはセンサー15が配置されており、これは、排気ガス後処理システム13の下流での排気ガス内のNOxエミッションを測定するために、NOxセンサーとすることができる。排気ガス後処理システム13の排気ガス後処理構成要素14は、SCR触媒、粒子フィルター、又はNOx吸蔵触媒とすることができる。
【0020】
本発明によるとそのような内燃機関10を運転するために、排気ガス
実際値が
特定され、これは、排気ガス後処理システム13の排気ガス後処理構成要素14の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合の
実際値に依存している。排気ガス後処理システム13のそれぞれの排気ガス後処理構成要素14を最適化して運転するために、この排気ガス
実際値に依存して、二酸化窒素割合の
実際値を、対応する二酸化窒素割合の基準値に近似させるように、エンジン11の少なくとも一つの運転パラメータが変更される。
【0021】
したがって本発明においては、エンジン11の少なくとも一つの運転パラメータを変更して排気ガス内の二酸化窒素割合に適切に影響を与えることにより、エンジン11の下流に位置する、排気ガス後処理システム13の排気ガス後処理構成要素14を最適に運転できるようにする。
【0022】
本発明はとりわけ、エンジン11が、ガス状の燃料を燃焼する火花点火ガス機関として実施されている内燃機関10で用いられる。そのような火花点火ガス機関のガス状燃料としては、成分としてメタンを含む天然ガスが代表的である。
【0023】
排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値は、負荷点に依存して選択される。そのため排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値は、エンジンの少なくとも一つの運転パラメータ11に依存して、及び/又は、排気ガス後処理システム13の少なくとも一つの運転パラメータに依存して、決定することが可能である。そのため排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値は、一つ又は複数の排気ガス温度に依存して、ならびに排気ガス後処理システム13の効率に依存して、ならびにエンジン11の効率に依存して決定することが可能である。
【0024】
エンジン11の運転パラメータとして望ましくは、ラムダ値、及び/又は、点火時期、及び/又は、バルブタイミング、及び/又は、エンジン圧縮、及び/又は、エンジン燃焼室内の排気ガス割合が変更される。
【0025】
ラムダ値を低下させると、排気ガス内の二酸化窒素割合は傾向として上昇する。
【0026】
点火時期を、より早い時期の方向にずらすことにより、及び/又は、エンジン燃焼室内の排気ガス割合を高めることにより、排気ガス内の二酸化窒素割合を傾向として高めることができる。
【0027】
また、シリンダー12のインレットバルブをより遅く開くことにより、及び、シリンダー12のアウトレットバルブをより遅く閉じることにより、排気ガス内の二酸化窒素割合を高めることができる。
【0028】
エンジン圧縮を高めることにより、傾向として排気ガス内の二酸化窒素割合は低下する。
【0029】
排気ガス内の二酸化窒素割合に影響を与える上記の関係について、いくつかの運転パラメータを例に
図2を用いて説明する。
図2には、火花点火ガス機関におけるラムダ値の変化に対する、排気ガスの窒素酸化物NOx内の二酸化窒素NO
2の割合が、エンジン11の負荷点、並びに、エンジンの点火時期に対応して、パーセンテージで示されている。
【0030】
特性曲線16及び17は、エンジン11の全負荷運転の特性曲線を表しており、特性曲線16は、点火時期が遅い時期にずらされた場合、特性曲線17は、点火時期が早い時期にずらされた場合を表している。
【0031】
特性曲線18、19は、エンジン11の部分負荷運転の特性曲線を表しており、特性曲線18は点火時期が遅い時期にずらされた場合、特性曲線19は、点火時期が早い時期にずらされた場合を表している。
【0032】
本発明の特に望ましい変形例では排気ガス
実際値として、最適に運転される排気ガス後処理システム13の排気ガス後処理構成要素14の下流におけるNOx
実際値が、
図1に図示されたNOxセンサー15を用いて測定技術的に測定される。次に、この排気ガス
実際値に依存して、排気ガス後処理構成要素14の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合の
実際値が
特定され、この二酸化窒素割合の
実際値が、二酸化窒素割合の基準値と比較される。この比較に依存して、排気ガス後処理構成要素14の上流における排気ガス内の二酸化窒素割合の
実際値が、二酸化窒素割合の基準値に近似するように、エンジン11の少なくとも一つの運転パラメータが変更される。
【0033】
先述のように、本発明により排気ガス内の二酸化窒素割合に影響を与えることにより最適に運転される排気ガス後処理構成要素14は、SCR触媒とすることができる。代替的に、この排気ガス後処理構成要素14は、粒子フィルター又はNOx吸蔵触媒とすることもできる。
【0034】
先述のように、排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値は運転点に依存して選ばれる。二酸化窒素割合の実測値の設定により最適に運転される排気ガス後処理システム13の排気ガス後処理構成要素14がSCR触媒である場合、排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値として望ましくは50%が選ばれる。しかしながら、とりわけ排気ガスの排気ガス温度が高い場合は、排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値として50%未満を選ぶことも可能である。
【0035】
とりわけ排気ガス内の二酸化窒素割合の基準値は、この基準値に依存して変更されたエンジン11の運転パラメータにより、エンジン11のエンジン出口NOxエミッションが15%より大きく下がることがないように選ばれる。それにより、エンジン11の燃料消費の上昇を回避できる。
【符号の説明】
【0036】
10 内燃機関
11 エンジン
12 シリンダー
13 排気ガス後処理システム
14 排気ガス後処理構成要素
15 センサー
16 特性曲線
17 特性曲線
18 特性曲線
19 特性曲線