特許第6817995号(P6817995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817995
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】動的なクロノメーター試験
(51)【国際特許分類】
   G04D 7/00 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   G04D7/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-214323(P2018-214323)
(22)【出願日】2018年11月15日
(65)【公開番号】特開2019-101028(P2019-101028A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2018年11月15日
(31)【優先権主張番号】17204924.9
(32)【優先日】2017年12月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ストランツル
(72)【発明者】
【氏名】ルネ・ピゲ
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−96914(JP,A)
【文献】 スイス国特許発明第695197(CH,A5)
【文献】 Oliver Wieers,Une nouvelle dimension dans le controle horloger:le FQFLab,Societe Suisse de Chronometrie Bulletin 80(スイス時計学会論文集 80),スイス,2015年12月,pages.27-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04D 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腕時計(3)用のムーブメント(2)又は腕時計(3)の動的なクロノメーター試験用のデバイス(1)であって、
当該デバイス(1)は、所与の加速度しきい値までは少なくとも1つのムーブメント(2)又は腕時計(3)を保持するように構成している少なくとも1つの受容体(4)を有し、また、各受容体(4)を空間的にハンドリングするように構成しているハンドリング手段(20)を有し、
クロック(6)を有した制御手段(5)又は外部タイムベースに接続された制御手段(5)の精密制御の下で、経路に対して所定又はランダムなサイクル及びこの経路に沿った動的な展開を各受容体(4)に行わせるように構成しており、
前記サイクルは、スイスのクロノメーター試験所(COSC)で標準化され、もしくは、ジュネーブクロノメトリー測定所、ブザンソン測定所、ハンブルク測定所、旧ヌーシャテルクロノメトリー測定所におけるガイドラインまたはこれらと同等のガイドラインにおいて標準化されたクロノメーター試験における静的ポジションをとる過程を含み、
前記ハンドリング手段(20)は、各受容体(4)の連続的な空間的ハンドリングを行うように構成しており、
当該デバイス(1)は、前記受容体(4)に配置された各ムーブメント(2)が運動及び/又は加速をしているときにレートパラメーターの連続的かつ動的な記録を行うレートセンサー手段(7)と、前記記録と相関するクロノメーター試験が行われる環境の物理的状況を連続的に記録する環境センサー手段(8)とを有し、
当該デバイス(1)は、前記制御手段(5)、前記レートセンサー手段(7)及び前記環境センサー手段(8)と接続された精密制御手段(10)と解析手段(9)を有し、
各ムーブメント(2)又は各腕時計(3)を装着している際のふるまいを評価するよう
に構成しており
記標準化された静的ポジションと、加速度および速度がゼロではない付加的な動的なクロノメトリー基準に対応する動的ポジションの両方において、測定されたすべての値が所定の許容範囲内である場合には試験認証を発行するようにし、
そうでなければ繰り返しのレートセッティング修正と試験のプロセスを再開し、
前記精密制御手段(10)は、角振幅が肩部、肘部、手首の各レベルにおける自然な角振幅に制限されている右利き又は左利きのユーザーの腕及び/又は前腕及び/又は手の運動を模するように、前記ハンドリング手段(20)を制御するように構成しており、
前記精密制御手段(10)は、前記所定のサイクルのスイッチングをランダムな時間にトリガーして、前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)がランダムな速度及び/又はランダムな加速度及び/又はランダムなモジュラス及び/又は方向及び/又はランダムな方向運動ベクトルにしたがう所定のエンベロープ体積内に制限されたトラベルに沿った経路を経るように構成している乱数生成手段(14)を有し、
当該デバイス(1)は、レートセッティング手段(11)をさらに有し、
前記精密制御手段(10)は、少なくとも1つの新規な前記所定又はランダムな試験サイクルに進む前に、前記レートセッティング手段(11)にあるアクチュエーター(12)に制御信号を送って前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)の共振器にある調整手段(13)のレートを変更するように構成している
ことを特徴とするデバイス(1)。
【請求項2】
前記ハンドリング手段(20)は、同時に少なくとも2つの自由度にしたがって各受容体(4)を空間的にハンドリングするように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項3】
前記レートセンサー手段(7)と前記環境センサー手段(8)は、前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)に対して付加的な所定又はランダムな確認試験をさせるように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項4】
前記精密制御手段(10)は、前記ハンドリング手段(20)を制御して、セットされた表面、球体、楕円体又は双曲面に沿って、前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)を運動させるように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項5】
前記乱数生成手段(14)は、前記スイッチングのランダムな持続時間を前記精密制御手段(10)に適用するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項6】
前記精密制御手段(10)は、スイッチングの際に到達したポジションにしたがってそのスイッチングの終わりから前記所定又はランダムなサイクルを再開するように構成している
ことを特徴とする請求項5に記載のデバイス(1)。
【請求項7】
前記ハンドリング手段(20)は、少なくとも1つの多軸ロボット(21)を有し、
この多軸ロボット(21)は、人間の腕と同様な角トラベルに制限された肩関節(22)と肘関節(23)の間にある、人間の腕と同様な寸法の上側ロボットアーム(24)と、及び前記肘関節(23)を越えた遠位部分において、人間の前腕と同様な寸法の下側アーム(25)とを有しており、
この下側アーム(25)の遠位端の近傍にて前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)が装着される
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項8】
前記多軸ロボット(21)は、前記肩関節(22)のレベルにて3つの軸及び前記肘関節(23)のレベルにて3つの軸を有する
ことを特徴とする請求項7に記載のデバイス(1)。
【請求項9】
前記精密制御手段(10)が、許容範囲、角クリアランスしきい値、速度しきい値、及び加速度しきい値に関するパラメーターを格納するように構成している格納手段(30)
を有し、及び/又は
前記格納手段(30)が、典型的なユーザーの運動にしたがって記録された運動シーケンス、及び/又はプログラムされた運動シーケンスを格納するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項10】
各受容体(4)は、前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)が経る加速度を測定するように構成している少なくとも1つの加速度計を有する少なくとも1つの慣性センサーを有し、
この加速度計は、加速度と速度がゼロであり前記標準化されたクロノメーター試験における静的ポジションを含む静的ポジションと、加速度と速度がゼロではなく付加的な動的なクロノメトリー基準に対応する動的ポジションとを識別する
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1つに記載のデバイスを用いて腕時計(3)用のムーブメント(2)又は腕時計(3)の動的なクロノメーター試験を行う方法であって、
前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)を前記受容体(4)に固定し、
前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)のレートパラメーターを、前記標準化されたクロノメーター試験における静的ポジション及びさらなるプログラムされた中間ポジション及び/又はランダムな中間ポジションにおいて測定し、
前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)の連続的なクロノメーター試験を行い、
前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)のレートパラメーターを連続的かつ動的に記録して前記レートパラメーター設定点の値と比較し、
測定されたすべての値が所定の許容範囲内であれば、試験認証が発行されるようにし、
そうでなければ、繰り返しのレートセッティング修正と試験のプロセスを再開させ、
前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)が経る加速度を測定して、加速度と速度がゼロであり前記標準化されたクロノメーター試験における静的ポジションを含む静的ポジションと、加速度と速度がゼロではなく前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)が行う連続的な運動の間にレートが適格か判断するように定められた付加的な動的なクロノメトリー基準に対応する動的ポジションとを区別し、
付加的な動的なクロノメトリー試験が行われる前記動的ポジションとなるように前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)のランダムな運動が行われ
前記精密制御手段(10)を通じて新規な前記所定又はランダムな試験サイクルに進むと判定されると、前記精密制御手段(10)から前記レートセッティング手段(11)にある前記アクチュエーター(12)に向けて送られる制御信号に基づいて前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)の共振器にある前記調整手段(13)のレートが変更され
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記試験サイクルの少なくとも一部において、前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)に同時に少なくとも2つの自由度にしたがう空間的運動を行わせる
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ムーブメント(2)又は腕時計(3)のハンドリングは、日々の持続時間の間に試験ユーザーに対して記録された運動に基づいて学習することによってプログラムされる。
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕時計用のムーブメント又は腕時計のクロノメーター試験用のデバイスに関する。このデバイスは、所与の加速度しきい値まで、少なくとも1つの腕時計用のムーブメント又は腕時計を保持するように構成している少なくとも1つの受容体を有し、各受容体を空間的にハンドリングするように構成しているハンドリング手段を有する。このハンドリング手段は、経路に対して少なくとも1つの所定又はランダムなサイクルと、クロックを有し又は外部タイムベースに接続された制御手段の精密制御の下でこの経路に沿った動的な展開とを各受容体に行わせるように構成している。このサイクルは、標準化されたクロノメーター試験ポジションを通過する。
【0002】
本発明は、さらに、腕時計用のムーブメント又は腕時計の動的なクロノメーター試験を行う方法に関する。
【0003】
本発明は、腕時計に関連する動く部品、腕時計及びマリン用又は搭乗時のためのクロノメーターのためのクロノメーター試験の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
腕時計に関連する部品、特に、腕時計、又はそのムーブメントのクロノメーター試験は、ユーザーに供給される製品の品質の試験を行うために重要である。この試験は、広く認められている研究所や測定施設によって定められた公的な認証規格によって管理されており、製品のマーケティング上、不可欠なものである。
【0005】
現状のクロノメーター試験においては、静的ポジションにおける腕時計の特性を測定している。伝統的には、2つの水平ポジションと4つの垂直ポジションの6つの試験ポジションにて静的試験が行われている。
【0006】
設計者は、さらに、実際の腕時計の装着状態をよく表すように考えられる様々な中間的な空間的ポジションに注目している。例えば、スイスにてFET(技術学校連盟)によって出版されたReymondin、Monnier、Jeanneret、Pelarattiによる集合的な文献「Theorie d'horlogerie」の158ページ、図7.85は、傾斜30°の垂直方向の8時が上のポジションについて記載している。
【0007】
コロンビエー(スイス)で開催された2007年国際クロノメトリー会議(2007 International Congress of Chronometry)におけるMeissner、Pellet、Muller、Gervaise、Meylanによる論文の45ページにおいて、6つの基準ポジションに45°の中間ポジションを加えた自動測定サイクルについて報告している。
【0008】
「サイクロテスト(cyclotest)」デバイスは、自動ワインドシステムを備えた機械式腕時計をワインドしワインドされた状態を維持するために用いられる機械である。腕時計は、動的運動を継続的に維持する回転式デバイス上に配置される。腕時計は、この回転式デバイス上に配置されたときに時間が不正確になる傾向がある。このデバイスは、腕時計が動作し続けるようにするために時計技術者によって規定通りに用いられる。典型的には、時計技術者は、腕時計と基準時間の時間をメモして、腕時計を「サイクロテスト」デバイス上に置いたり、又は自分のベンチ上の静的ポジションに典型的には24時間置き、基準時間とディスプレーされた時間を再度メモして、腕時計のレートのずれを推察する(この測定は日レートに対応している)。
【0009】
ROLEXによる欧州特許文献EP3136189A1は、クロノメーター測定方法について記載しており、特に、測定時の腕時計又は腕時計の頭部のポジションに対するクロノメーター測定方法について記載している。クロノメーター試験は、静的ポジションを介して、典型的な使用日における腕時計の様々なポジションをシミュレーションしている。
【0010】
TAG HEUERによるスイス特許文献CH695197A5は、腕時計の認定方法について記載している。これは、
− 腕時計が少なくとも3つの別個の離散的な品質レベルを含む品質の範囲から選ばれた品質認定レベルの要件を満たしているかどうかを検証するために適している少なくとも2つの別個の試験を含む複数の所定の試験シーケンスから試験シーケンスを選択するステップと、
− 複数の設定可能な試験デバイスを含む在庫がある複数の所定の試験パラメーターをセットするステップであって、これらのパラメーターが、選択された試験シーケンスに依存しており、これらの試験デバイスが、完全な腕時計及び/又は腕時計の要素に対して、摩耗試験、耐水性試験、外側の腕時計の機構の機能性試験、そのうちの押しボタン及び/又はクラスプ及び/又は回転式ベゼル及び/又はリュウズの機能性試験、引き、ねじれ、偏差、曲がり、繰り返しの衝撃、せん断、圧縮及び/又は引き裂きに起因する機械的疲労に対する耐久性の試験、振動試験、加速度及び/又は衝撃試験、気候試験、引き試験、紫外線耐性試験、オゾン耐性試験、溶媒薬剤耐性試験、塩水、塩素化水及び/又は汗を用いた耐食性試験のうちの少なくとも2つの別個の試験を行うように適している、ステップと、
− 構成した試験デバイスを用いて、選択された試験シーケンスに対応する試験プログラムを動かすステップと、
− 試験されている腕時計に、実行された試験それぞれの結果にしたがって認定レベルを割り当てるステップと
を有する。
【0011】
METALLO TESTSによるスイス特許文献CH699301A1は、複数の信頼度試験のために少なくとも1つの腕時計用のムーブメントを受けることに適している支持体を有する腕時計用のムーブメントのための試験デバイスについて記載している。この支持体には、少なくとも1つの開口があり、様々な信頼度試験モジュールにて配置されるように適しており、腕時計用のムーブメントに少なくとも1つの測定センサーが関連づけられており、この測定センサーは、腕時計用のムーブメントの各種パラメーターを表す値をこれらのパラメーターに関連する試験方法の間に測定するために適しており、腕時計用のムーブメントを担持することに適しているキャリア要素を有し、このキャリア要素は、開口を閉じて腕時計用のムーブメントと測定センサーを支持体内に囲むように支持体に取り付け可能である。
【0012】
The Swatch Group Research & Development Ltdによる欧州特許文献EP10192725は、光学的方法を用いたクロノメーター認定について記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、特に生産された腕時計を認証するクロノメーター試験の基準を定め、適切な試験ツール及び方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このために、本発明は、請求項1に記載の腕時計用のムーブメント又は腕時計の動的なクロノメーター試験用のデバイスに関する。
【0015】
本発明は、さらに、請求項12に記載の腕時計用のムーブメント又は腕時計の動的なクロノメーター試験を行う方法に関する。
【0016】
図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明のさらなる特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ユーザーの上肢を模しているロボットの形態の多軸ハンドリング手段を概略的に示している。これには、肩部と肘関節があり、手首のレベルに、クロノメーター試験を行う計時器用ムーブメント又は腕時計を保持する受容体がある。ここで、このロボットは、調整セッティング手段を支える第2のマニピュレーターに接続されている。この調整セッティング手段は、レート調整のためにこのムーブメント又はこの腕時計と直接連係するために適している。
図2】レート試験を行い、繰り返しの試験及び設定プロセスを終えた後に最終ステージにおいて証明書を発行し、静的試験と動的試験の結果をすべて所定の許容範囲内で得るためのデータバス及び様々な精密制御、試験、解析、タイムベース、制御回路を示しているブロック図である。
図3図1の第2のマニピュレーターによって調整されることに適している偏心的なセッティングねじとともに、共振器のバランスばねの外側コイルを固定するバランスばねスタッドを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、標準的な静的ポジションと動的運動を区別し、「動的ポジション」の概念に対応するクロノメトリー基準を定めることを提案するものである。
【0019】
なお、同じ日の間に、ユーザーが装着する腕時計が、長い間に静的ポジションとなっていることがあり(例えば、日中に机の上に置いたり、夜間にベッドサイドテーブルに置いたり、日中に装着者が本を読んだり、旅行中などに物理的に活動的ではなかったりする)、他のときに、装着者が歩いている場合のように腕時計のポジションが絶えず変わっているときに無限大の種類のポジションでありえる。この「動的ポジション」の概念が連続的運動に対応している。
【0020】
例として、1日当たり12時間鉛直ポジションにて待機しており残りの12時間は宙返りしている(統計的に、右側が上になっている6時間と上下逆さまになっている6時間)ジェットコースターのような乗り物内に配置されている腕時計を考えることによって、本発明に係るアプローチを単純化することができる。
【0021】
伝統的なクロノメーター認証は、以下のようにレートを認証することを伴う。
− 「ペンダントアップ(12時が上)」ポジションで18時間
これは、待機の12時間と、腕時計が宙返りをしている間に統計的にこのポジションにある時間の6時間との合計に対応している。
− 「ペンダントダウン(12時が下)」ポジションで6時間
これは、腕時計が宙返りをしている間に統計的にこのポジションにある時間の6時間に対応している。
− この場合、腕時計は、1日当たり±2秒を超える時間のずれを発生すべきでない。
【0022】
一方、本発明に係る「動的ポジション」タイプの認証は、以下のようにレートを認証することを伴う。
− 「ペンダントアップ」ポジションにて12時間
− (宙返りのような)「動的ポジション」にて12時間
− 腕時計は、1日当たり±x秒の特定の値を超えるずれを発生してはならない。
【0023】
この「動的ポジション」を、特に、以下の点にしたがって定めることが必要である。
− 手首にある加速度計を用いて読み取ることで、腕時計が経験する加速度を読み取ることとなる。静的ポジションを動的運動に対して区別することを可能にする基準、例えば、加速度しきい値、を定めることができる。
− 静的ポジションが、6つの標準的な計時器ポジションにしたがって重み付けされる。
− この動的ポジションは、装着者にて記録される加速度に応じて定めることができる。例えば、動的ポジションは、装着者が歩いているときの腕時計の運動を正確に再現することとすることができる。さらなる動的ポジションは、他のすべてのランダムな日中の運動(衣服を着ること、飲むこと、食べることなど)を再現することができる。
− 動的ポジションにおいて、腕時計は、絶えず動いていたり加速していたりする。これは、単に、静的ポジションの連続であるともいえる。
− この動的ポジションは、自動巻き式ではない腕時計にも有効である。
− 腕時計に行わせる正確な運動は、所望に応じて、プログラムされていたり、完全にランダムであったりすることができる。
− 正確な運動を具体的にセットし定めることができる。例えば、腕時計の経路が知られている「サイクロテスト」デバイス上に腕時計を配置して行うことができる。
− この運動は、統計的な使用状況を再現することができ、特定の構成可能な所定の中間ポジションを義務的に通過させることができる。
− 運動の速度は、可変であることができ、また、一定であることができる。
− 温度、気圧、湿度(これに限定されない)のようなさらなる物理的パラメーターの変化を、ムーブメント又は腕時計が行う運動と組み合わせることができる。
− 「動的ポジション」の期間の前と後に、クロノメーター特性(レートと振幅)を、動的デバイス上で連続的に、又は状態測定(時間読み取り)を介して、測定することができる。
【0024】
このようにして、本発明によって、腕時計のクロノメーター特性を、顧客の使用/必要性に対して正確かつ誠実に特徴づけることができる。
【0025】
このように、本発明は、腕時計3用のムーブメント2又は腕時計3の動的なクロノメーター試験用のデバイス1に関する。このデバイス1は、少なくとも1つのムーブメント2又は腕時計3を所与の加速度しきい値までは安全に保持するように構成している少なくとも1つの受容体4を有する。
【0026】
このデバイス1は、各受容体4を空間的にハンドリングするように構成している多軸ハンドリング手段20を有する。これは、各受容体4に対して、この経路に対する少なくとも1つの所定又はランダムなサイクルと、クロック6を有し又は外部タイムベースに接続された制御手段5の精密制御の下での前記経路に沿った動的な展開とを行わせるように構成している。
【0027】
このサイクルは、特に予め定められている場合、標準化されたクロノメーターポジション、特に、「スイスの公式のクロノメーター試験所COSC」におけるように6つの標準化されたクロノメーターポジション(これに限定されない)、を通過したり、ジュネーブクロノメトリー測定所、ブザンソン測定所、ハンブルク測定所、旧ヌーシャテルクロノメトリー測定所におけるような同等なガイドラインに必要なポジションを経たりする。
【0028】
ハンドリング手段20は、各受容体4の連続的な空間的ハンドリングを行うように構成しており、デバイス1は、運動及び/又は加速の間に受容体4に配置された各ムーブメント2(又は腕時計3)のレートパラメーターを連続的かつ動的に記録するように構成しているレートセンサー手段7を有する。本発明に特有なこの連続的な記録は、レートパラメーターの記録と、そして、クロノメーター試験が行われる環境の物理的状況と相関している。この連続的ハンドリングは、必ずしも受容体4の連続的な運動を意味しない。この受容体4は、サイクルの間に静的ポジションをとることがある。
【0029】
デバイス1は、精密制御手段10、制御手段5と接続された解析手段9、レートセンサー手段7、及び環境センサー手段8を有する。これらは、各ムーブメント2又は各腕時計3を装着している際のふるまいを評価するように構成している。これらの精密制御手段10と解析手段9は、さらに、加速度と速度がゼロではなくムーブメント2又は腕時計3が行う連続的な運動の間にレートが適格か判断する付加的な動的なクロノメトリー基準に対応する標準化された静的ポジションと動的ポジションの両方において、測定されたすべての値が所定の許容範囲内である場合に試験認証を発行し、また、そうでなければ、繰り返し行われるレート設定の変更と試験のプロセスを再開するように構成している。
【0030】
この精密制御手段10は、許容範囲、値しきい値に関するパラメーターを格納すること、及び/又は特定の典型的な装着シナリオを表す持続時間と物理的状況に関するパラメーターを格納することを行うように構成している格納手段30を有しており、そして、このために、好ましいことに、環境センサー手段8と環境生成手段80に連結している。これは、温度、湿度、磁場のような測定が行われている特定の物理的状況を適用するように構成している。
【0031】
特に、前記多軸ハンドリング手段20は、少なくとも2つの自由度にしたがって各受容体4を同時に空間的にハンドリングするように構成している。
【0032】
特に、デバイス1は、レートセッティング手段11を有し、精密制御手段10は、少なくとも1つの新しい所定又はランダムな試験サイクルを進ませる前に、レートセッティング手段11にあるアクチュエーター12に制御信号を送って、ムーブメント2又は腕時計3の共振器にある調整手段13のレートを変更する。
【0033】
1つの代替実施形態において、精密制御手段10は、ムーブメント2又は腕時計3の共振器をセットするための指示を時計技術者に伝えることに適している表示機構を有する。
【0034】
特に、精密制御手段10は、静的試験と動的試験の両方を含む行われたすべての試験が所定のクロノメーター基準を満たす場合、関心事のムーブメント2(又は場合によっては腕時計3)のクロノメトリー証明書である書類を発行するように構成している。
【0035】
特に、前記レートセンサー手段7と前記環境センサー手段8は、ムーブメント2又は腕時計3に対して付加的な所定の確認試験を行わせるように構成している。
【0036】
特に、精密制御手段10は、右利き又は左利きのユーザーの腕及び/又は前腕及び/又は手の運動を模するように、多軸ハンドリング手段20を制御するように構成している。その角振幅は、肩部、肘部、手首のレベルにおいて自然な角振幅に制限される。
【0037】
特に、前記精密制御手段10は、多軸ハンドリング手段20を制御して、セットされた面又は球体又は楕円体又は双曲面に沿ってムーブメント2又は腕時計3の運動が行われる。
【0038】
1つの有利な代替実施形態において、前記精密制御手段10は、乱数生成手段14を有し、これは、精密制御プログラムのパラメーターにランダムな値を割り当てること、又はさらなる運動をトリガーすることによって精密制御プログラムの進行に介在することのいずれかを行うように構成しており、また、所定のサイクルのスイッチングをランダムな時間においてトリガーするように構成している。これによって、ムーブメント2又は腕時計3に、ランダムな速度及び/又はランダムな加速度及び/又はランダムなモジュラス及び/又は方向及び/又はランダムな方向運動ベクトルにしたがう経路を、所定のエンベロープ体積内に制限されるトラベルに沿って経るようにする。
【0039】
特に、前記乱数生成手段14は、このスイッチングのランダムな持続時間を精密制御手段10に適用するように構成している。
【0040】
1つの代替実施形態において、精密制御手段10は、スイッチングの際に到達したポジションにしたがって前記所定又はランダムなサイクルを、スイッチングの終わりから、再開させるように構成している。1つの特定の代替実施形態において、前記スイッチングの終わりは、デバイス1のクロック6によって管理される。
【0041】
1つの特定の実施形態において、多軸ハンドリング手段20は、少なくとも1つの多軸ロボット21を有し、これは、人間の腕と同じ角度的トラベルに制限されて肩関節22と肘関節23の間で、人間の腕の寸法と同様な寸法の上側ロボットアーム24と、及び肘部23を越えた遠位部分における人間の前腕と同様な寸法の下側腕25とを有する。この下側腕25は、その遠位端の近傍にて、ムーブメント2又は腕時計3を装着している。特に、この多軸ロボット21には、肩関節22のレベルに3つの軸(前側平面における外転−内転の運動、そして、矢状平面における屈曲拡張)と、肘関節23のレベルに少なくとも1つの軸とがある。しかし、横断平面における複雑な前腕の回外と回内の運動を、肘部のレベルにおける3つのロボット軸によって、尺骨の突起に当接する前腕上で装着される腕時計3の効果に関連して、近似することができる。したがって、動的なクロノメーターの試験の応用について、伝統的な市販されている6軸ロボットは適している。
【0042】
1つの代替実施形態において、精密制御手段10は、許容範囲、角クリアランスしきい値、速度しきい値、加速度しきい値に関するパラメーターを格納するように構成している格納手段30を有し、及び/又は格納手段30は、典型的なユーザーの運動にしたがって記録された運動学的シーケンス、及び/又はプログラムされた運動学的シーケンスを格納するように構成している。
【0043】
さらなる代替実施形態において、受容体4はそれぞれ、ムーブメント2又は腕時計3に適用される加速度を測定するように構成している少なくとも1つの加速度計を有する少なくとも1つの慣性センサーを有し、加速度と速度がゼロであるような静的ポジションを識別する。この静的ポジションには、標準化されたクロノメーター試験ポジションがあり、特に、6つの標準化されたクロノメーター試験ポジション、そして、加速度と速度がゼロとは異なり、動的ポジションがある。付加的な動的なクロノメトリー基準に対応している。
【0044】
特に、レートセンサー手段7は、マイクロフォンのような音響的な手段であり、あるいはカメラのような光学的な手段である。
【0045】
1つの特定の代替実施形態において、レートセッティング手段11は、ロボット的マニピュレーターを有し、これは、レギュレーターねじをねじ込まれることによって、バランスばねスタッドを動かすこと及び/又は回転させることによって、バランスばねの機構部分の制限ピンを変形させたり動かしたりすることによって、バランスばね又はバランスにレーザー光線を作用させることなどによって、介在するように適している。
【0046】
図3は、共振器のバランスばねの外側コイルを固定するバランスばねスタッドに対するセッティングの例を示しており、これには、第2のマニピュレーターによって調整されるように適している偏心的なセッティングねじがある。これは、慣性と非平衡をセットするために慣性ブロック又はねじがバランス上でセットされる傾向がある伝統的な手続きとは異なっている。
【0047】
本発明は、さらに、少なくとも1つの試験サイクルの間にムーブメント2又は腕時計3が空間的運動を行うような腕時計3のムーブメント2又は腕時計3の動的なクロノメーター試験を行う方法に関し、この運動は、少なくとも1つの所定又はランダムなサイクルを行い、また、クロック6を有していたり外部タイムベースに接続されていたりする制御手段5の精密制御の下での前記経路に沿った動的な展開を行う。この所定のサイクルは、標準化されたクロノメーターポジション、特に、6つの標準化されるクロノメーター試験ポジション、を通過する。
【0048】
ムーブメント2又は腕時計3のレートパラメーター(レートと振幅)は、6つのポジションにて、さらに、プログラムされた中間ポジション及び/又はランダムな中間ポジションにて測定される。
【0049】
ムーブメント2又は腕時計3の連続的なクロノメーター試験が行われ、ムーブメント2又は腕時計3のレートパラメーターは、レートパラメーターを設定点の値と比較して、連続的かつ動的に記録される。
【0050】
測定されたすべての値が所定の許容範囲内であれば、試験認証が発行され、そうでなければ、繰り返しレートのセッティングの修正と試験のプロセスが再開される。
【0051】
本発明によると、ムーブメント2又は腕時計3に適用される加速度が測定されて、加速度と速度がゼロであるような静的ポジションどうしを区別する。このような静的ポジションの中で標準化されたクロノメーター試験ポジション、そして、加速度と速度がゼロてはない動的ポジションがある。これは、ムーブメント2又は腕時計3に適用される連続的運動の間のレートが適格か判断するように定められた付加的な動的なクロノメトリー基準に対応している。
【0052】
特に、試験サイクルの少なくとも一部の間に、ムーブメント2又は腕時計3に同時に少なくとも2つの自由度に従う空間的運動をさせる。
【0053】
特に、ムーブメント2又は腕時計3のハンドリングは、日々の持続時間の間、試験ユーザーに対して記録された運動に基づいて学習することによってプログラムされる。
【0054】
1つの代替実施形態において、ムーブメント2又は腕時計3は、付加的な動的なクロノメトリー試験が行われる動的ポジションをとるようにランダムな運動を行う。
【0055】
1つの特定の代替実施形態において、同じ受容体4は、複数のムーブメント2又は腕時計3を収容し、ロボットによってハンドリングされるように構成しており、自身の空間のポジションを正確に識別するためにポジショニング用ガイドマークがあり、センサー及び/又はセッティング手段を挿入するように構成しているオリフィスがある。
【0056】
短く書くと、本発明によって、計時器用ムーブメント又は腕時計のふるまいについて、その使用のすべての段階にわたって、よく知ることが可能になる。伝統的なガイドラインに対する付加的な試験を行うことによって、ユーザーの利益となるような顕著な恩恵を受けることができる。本発明に係るデバイス1の設計によって、従来非生産的な遷移段階であった有用な試験動作を行うことが可能になり、顧客に提供される品質全体を向上させることができる。
【0057】
また、この生産試験ステーションの先進的な自動化によって、動的ポジションのみをベースとした計時器用ムーブメントのレートの徹底的な試験を行うことができ、実際に、静的ポジションに基づく認証は必ずしも必要ではなく、この場合、対応する持続時間の間、ムーブメント又は腕時計を動けなくすることは必要ではない。なぜなら、この動的なクロノメーター試験が、生産を適格か判断する優れた手段であるからである。
【符号の説明】
【0058】
1 動的なクロノメーター試験用のデバイス
2 ムーブメント
3 腕時計
4 受容体
5 制御手段
6 クロック
7 レートセンサー手段
8 環境センサー手段
9 解析手段
10 精密制御手段
11 レートセッティング手段
12 アクチュエーター
13 調整手段
14 乱数生成手段
20 ハンドリング手段
21 多軸ロボット
22 肩関節
23 肘関節
24 上側ロボットアーム
25 下側アーム
30 格納手段
図1
図2
図3