特許第6818023号(P6818023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6818023圧電基材、圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、及びアクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6818023
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】圧電基材、圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、及びアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/193 20060101AFI20210107BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20210107BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20210107BHJP
   H01L 41/053 20060101ALI20210107BHJP
   H01L 41/04 20060101ALI20210107BHJP
   H01L 41/313 20130101ALI20210107BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   H01L41/193
   H01L41/09
   H01L41/113
   H01L41/053
   H01L41/04
   H01L41/313
   C08L101/12
【請求項の数】21
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2018-522490(P2018-522490)
(86)(22)【出願日】2017年6月5日
(86)【国際出願番号】JP2017020886
(87)【国際公開番号】WO2017213108
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2018年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-113011(P2016-113011)
(32)【優先日】2016年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光伸
(72)【発明者】
【氏名】谷本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】大西 克己
(72)【発明者】
【氏名】西川 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正道
【審査官】 宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/089803(WO,A1)
【文献】 特開平02−077676(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/104196(WO,A1)
【文献】 特開2006−098062(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/058077(WO,A1)
【文献】 特開2002−111089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/193
C08L 101/12
H01L 41/04
H01L 41/053
H01L 41/09
H01L 41/113
H01L 41/313
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の芯材と、前記芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備え、
前記芯材が、非導電性の芯材であり、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
前記第1の圧電体が、単数又は複数の束からなる繊維形状を有し、
前記第1の圧電体の断面の長軸径が、0.0001mm〜10mmである圧電基材。
配向度F=(180°−α)/180°・・(a)
(ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。)
【請求項2】
さらに、前記一方向とは異なる方向に巻回された繊維を備え、
前記第1の圧電体と前記繊維とは交互に交差された組紐構造をなす請求項1に記載の圧電基材。
【請求項3】
長尺状の芯材と、前記芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備え、
前記芯材が、非導電性の芯材であり、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
さらに、前記一方向とは異なる方向に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
前記第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第2の圧電体の長さ方向と、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(a)によって求められる前記第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
前記第1の圧電体と前記第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なる圧電基材。
配向度F=(180°−α)/180°・・(a)
(ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。)
【請求項4】
前記第1の圧電体が長尺平板形状を有し、
前記第1の圧電体の厚さが0.001mm〜0.2mmであり、
前記第1の圧電体の幅が0.1mm〜30mmであり、
前記第1の圧電体の厚さに対する前記第1の圧電体の幅の比が1.5以上である請求項に記載の圧電基材。
【請求項5】
前記第1の圧電体の螺旋角度は10°〜80°である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項6】
長尺状の芯材と、前記芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備え、
前記芯材が、非導電性の芯材であり、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
前記芯材と前記第1の圧電体とが、互いに捩り合わされている圧電基材。
配向度F=(180°−α)/180°・・(a)
(ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。)
【請求項7】
前記第1の圧電体が、単数又は複数の束からなる繊維形状を有し、
前記第1の圧電体の断面の長軸径が、0.0001mm〜2mmである請求項に記載の圧電基材。
【請求項8】
前記第1の圧電体は、接着剤組成物を含み、
ASTM D−882に準拠して測定された前記接着剤組成物の硬化物の引張弾性率が0.1MPa〜10GPaである請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項9】
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
【化1】
【請求項10】
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、光学純度が95.00%ee以上である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項11】
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)が、D体又はL体からなる請求項1〜請求項1のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項12】
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の含有量が、前記第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上である請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項13】
前記非導電性の芯材が、導電性を有さない材料からなる請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項14】
前記非導電性の芯材が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ガラス、シリカゲル、セラミックスからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の圧電基材。
【請求項15】
縦糸及び横糸からなる織物構造体を備え、
前記縦糸及び前記横糸の少なくとも一方が、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を含む圧電織物。
【請求項16】
縦糸及び横糸からなる織物構造体を備え、
前記縦糸及び前記横糸の両方が、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を含み、
前記縦糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向と、前記横糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向とが互いに異なり、
前記縦糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記横糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとが同一である圧電織物。
【請求項17】
縦糸及び横糸からなる織物構造体を備え、
前記縦糸及び前記横糸の両方が、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を含み、
前記縦糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向と、前記横糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向とが同一であり、
前記縦糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記横糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとが互いに異なる圧電織物。
【請求項18】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を含む編物構造体を備える圧電編物。
【請求項19】
請求項15〜請求項17のいずれか1項に記載の圧電織物又は請求項18に記載の圧電編物を備える圧電デバイス。
【請求項20】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を備える力センサー。
【請求項21】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の圧電基材を備えるアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電基材、圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、及びアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘリカルキラル高分子を含む圧電体を、センサーやアクチュエータ等の圧電デバイスへ応用をすることが検討されている。このような圧電デバイスには、フィルム形状の圧電体が用いられている。
上記圧電体におけるヘリカルキラル高分子として、ポリペプチドやポリ乳酸系高分子等の光学活性を有する高分子を用いることが着目されている。中でも、ポリ乳酸系高分子は、機械的な延伸操作のみで圧電性を発現することが知られている。ポリ乳酸系高分子を用いた圧電体においては、ポーリング処理が不要であり、また、圧電性が数年にわたり減少しないことが知られている。
例えば、特許第4934235号公報及び国際公開第2010/104196号には、ポリ乳酸系高分子を含む圧電体として、圧電定数d14が大きく、透明性に優れる圧電体が報告されている。
また、最近、圧電性を有する材料を、導体に被覆して利用する試みもなされている。
例えば、特開平10−132669号公報には、中心から外側に向って順に同軸状に配置された中心導体、圧電材料層、外側導体及び外被から構成される、ピエゾケーブルが知られている。
また、国際公開第2014/058077号には、圧電性高分子からなる繊維を導電性繊維に被覆してなる圧電単位が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、フィルム形状の圧電体(例えば、特許第4934235号公報及び国際公開第2010/104196号の実施例における圧電体)を、凹凸が大きい場所や変形量が大きい場所で使用した場合(例えば、ウェアラブル製品の一部又は全部として使用した場合)、変形により圧電体中に折れやシワ等の損傷が生じ、その結果、圧電感度(例えば、圧電体をセンサーとして用いた場合のセンサー感度、及び、圧電体をアクチュエータとして用いた場合の動作感度。以下同じ。)が低下する場合がある。
また、特開平10−132669号公報では、上述のように中心から外側に向って順に同軸状に配置された中心導体、圧電材料層、外側導体及び外被から構成されるピエゾケーブルが記載され、圧電材料としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)が記載されている。しかし、PVDFは経時的に圧電定数の変動が見られ、経時により圧電定数が低下する場合がある。また、PVDFは、強誘電体であるため焦電性を有し、このため、周囲の温度変化により圧電信号出力が変動する場合がある。従って、特開平10−132669号公報に記載のピエゾケーブルでは、圧電感度の安定性、及び圧電出力の安定性(経時に対する安定性)が不足する場合がある。また、繰り返し折り曲げ等の負荷がかかると、金属の導体部分が疲労破壊する可能性がある。
また、国際公開第2014/058077号には、圧電性高分子からなる繊維(以下、圧電性繊維と称する)を被覆してなる圧電単位として、例えば、圧電性繊維で作製した編組チューブや丸打組紐を導電性繊維に巻き付けてなる圧電単位が記載されている。しかし、国際公開第2014/058077号に記載の圧電単位では、導電性繊維に対して、圧電性繊維を巻回する方向を特に限定していないため、編組チューブや、丸打組紐全体に張力を印加した結果、巻回してある圧電性高分子に発生するずり応力により、圧電性高分子内に電荷が発生しても、圧電性高分子内に発生する電荷の極性が互いに打ち消し合う場合がある。従って、国際公開第2014/058077号に記載の圧電性繊維では、圧電感度が不足する場合がある。
【0004】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものである。
即ち、本開示の目的は、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上した、圧電基材、圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、及びアクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体を備え、芯材を備えず、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である圧電基材。
配向度F=(180°―α)/180°・・(a)
(ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。)
<2> 長尺状の芯材と、前記芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備え、
前記芯材が、非導電性の芯材であり、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である圧電基材。
配向度F=(180°―α)/180°・・(a)
(ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。)
<3> 前記第1の圧電体が、単数又は複数の束からなる繊維形状を有し、
前記第1の圧電体の断面の長軸径が、0.0001mm〜10mmである<1>又は<2>に記載の圧電基材。
<4> 前記第1の圧電体が長尺平板形状を有し、
前記第1の圧電体の厚さが0.001mm〜0.2mmであり、
前記第1の圧電体の幅が0.1mm〜30mmであり、
前記第1の圧電体の厚さに対する前記第1の圧電体の幅の比が1.5以上である<1>又は<2>に記載の圧電基材。
<5> さらに、前記一方向とは異なる方向に巻回された繊維を備え、
前記第1の圧電体と前記繊維とは交互に交差された組紐構造をなす<1>〜<4>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<6> さらに、前記一方向とは異なる方向に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
前記第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第2の圧電体の長さ方向と、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(a)によって求められる前記第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
前記第1の圧電体と前記第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なる<1>〜<4>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<7> 前記第1の圧電体の螺旋角度は10°〜80°である、<1>〜<6>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<8> 前記芯材と前記第1の圧電体とが、互いに捩り合わされている<2>に記載の圧電基材。
<9> 前記第1の圧電体が、単数又は複数の束からなる繊維形状を有し、
前記第1の圧電体の断面の長軸径が、0.0001mm〜2mmである<8>に記載の圧電基材。
<10> 前記第1の圧電体は、接着剤組成物を含み、
ASTM D−882に準拠して測定された前記接着剤組成物の硬化物の引張弾性率が0.1MPa〜10GPaである<1>〜<9>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<11> 前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である<1>〜<10>のいずれか1つに記載の圧電基材。
【化1】

<12> 前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、光学純度が95.00%ee以上である<1>〜<11>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<13> 前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)が、D体又はL体からなる<1>〜<12>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<14> 前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の含有量が、前記第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上である<1>〜<13>のいずれか1つに記載の圧電基材。
<15> 縦糸及び横糸からなる織物構造体を備え、
前記縦糸及び前記横糸の少なくとも一方が、<1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材を含む圧電織物。
<16> 縦糸及び横糸からなる織物構造体を備え、
前記縦糸及び前記横糸の両方が、<1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材を含み、
前記縦糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向と、前記横糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向とが互いに異なり、
前記縦糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記横糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとが同一である圧電織物。
<17> 縦糸及び横糸からなる織物構造体を備え、
前記縦糸及び前記横糸の両方が、<1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材を含み、
前記縦糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向と、前記横糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向とが同一であり、
前記縦糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、前記横糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとが互いに異なる圧電織物。
<18> <1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材を含む編物構造体を備える圧電編物。
<19> <15>〜<17>のいずれか1つに記載の圧電織物又は<18>に記載の圧電編物を備える圧電デバイス。
<20> <1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材を備える力センサー。
<21> <1>〜<14>のいずれか1つに記載の圧電基材を備えるアクチュエータ。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上した、圧電基材、圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、及びアクチュエータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様Aを示す側面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様Bを示す側面図である。
図3図3は、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Cを示す側面図である。
図4図4は、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Dを示す側面図である。
図5図5は、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Eを示す側面図である。
図6図6は、本実施形態に係る圧電編物の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、長尺平板状の圧電体(第1の圧電体及び第2の圧電体)の「主面」とは、長尺平板状の圧電体の厚さ方向に直交する面(言い換えれば、長さ方向及び幅方向を含む面)を意味する。織物の「主面」、及び編物の「主面」についても同様である。
本明細書中において、部材の「面」は、特に断りが無い限り、部材の「主面」を意味する。
本明細書において、厚さ、幅、及び長さは、通常の定義どおり、厚さ<幅<長さの関係を満たす。
本明細書において、2つの線分のなす角度は、0°以上90°以下の範囲で表す。
本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
本明細書において、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)、すなわち、延伸方向であり、「TD方向」とは、前記MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)である。
【0009】
以下、本開示に係る圧電基材の第1実施形態について詳細に説明する。
【0010】
〔第1実施形態の圧電基材〕
第1実施形態の圧電基材は、一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体を備え、芯材を備えない。
すなわち、第1実施形態の圧電基材では、芯材ではなく、仮想の螺旋軸に対して、上記第1の圧電体が一方向に螺旋状に巻回されている。
「螺旋軸」とは、第1の圧電体により形成される螺旋構造の中心軸を意味する。
また、第1実施形態の圧電基材は、前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である圧電基材である。
配向度F=(180°―α)/180°・・(a)
ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。αの単位は、°である。
【0011】
以下、第1実施形態の圧電基材の説明において、「長尺状の第1の圧電体」を、単に「第1の圧電体」と称して説明することがある。また、「仮想の螺旋軸」を、単に「螺旋軸」と称して説明することがある。
【0012】
芯材を備えない圧電基材の態様としては、第1の圧電体により形成される螺旋構造において、螺旋軸の周りに空間(隙間)が存在しないか又は存在しないに等しい態様;螺旋軸の周りに所定の空間が存在する態様が挙げられる。
螺旋軸の周りの空間の大きさを調整する方法としては、例えば、第1の圧電体の巻回方法を調整する方法;特定の作用で溶ける繊維(例えば水に溶ける糸)の周りに第1の圧電体を上記条件で巻回した後、経時で繊維が溶ける、又は、繊維を水で溶解除去する方法;芯材の周りに第1の圧電体を上記条件で巻回した後、前記芯材を除去する方法が挙げられる。なお、前記繊維の長軸径又は前記芯材の長軸径は、空間の態様に応じて適宜選択することができる。また、第1の圧電体が長尺平板形状である場合、1m当たりの巻回数を加減制御することにより、螺旋軸の周りの空間の大きさを制御することが可能である。
第1の圧電体の配向度Fは、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標であり、例えば、広角X線回折装置(リガク社製 RINT2550、付属装置:回転試料台、X線源:CuKα、出力:40kV 370mA、検出器:シンチレーションカウンター)により測定されるc軸配向度である。
なお、第1の圧電体の配向度Fの測定方法の例は、後述の実施例に示すとおりである。
「一方向」とは、第1実施形態の圧電基材を螺旋軸の一端側から見たときに、第1の圧電体が手前側から奥側に向かって巻回されている方向をいう。具体的には、右方向(右巻き、即ち時計周り)又は左方向(左巻き、即ち反時計周り)をいう。
【0013】
第1実施形態の圧電基材は、上記構成を備えることにより、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上する。
より詳細には、第1実施形態の圧電基材では、第1の圧電体がヘリカルキラル高分子(A)を含むこと、第1の圧電体の長さ方向とヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向とが略平行であること、及び、第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満であることにより圧電性が発現される。
【0014】
また、第1実施形態の圧電基材では、第1の圧電体を、上記のように配置することにより、圧電基材の長さ方向に張力(応力)が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、圧電基材の径方向にヘリカルキラル高分子(A)の分極が生じる。その分極方向は、螺旋状に巻回された第1の圧電体を、その長さ方向に対して平面と見做せる程度の微小領域の集合体とみなした場合、その構成する微小領域の平面に、張力(応力)に起因したずり力がヘリカルキラル高分子に印加された場合、圧電応力定数d14に起因して発生する電界の方向と略一致する。
具体的には、例えばポリ乳酸においては、分子構造が左巻き螺旋構造からなるL−乳酸のホモポリマー(PLLA)の場合、PLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、螺旋軸に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、螺旋軸に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加された場合、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。
【0015】
また、例えば分子構造が右巻き螺旋構造からなるD−乳酸のホモポリマー(PDLA)の場合、PDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、螺旋軸に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、螺旋軸に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。
これにより、圧電基材の長さ方向に張力が印加された際、螺旋状に配置された第1の圧電体の各部位において、張力に比例した電位差が位相の揃った状態で発生するため、効果的に張力に比例した電圧信号が検出されると考えられる。
従って、第1実施形態の圧電基材によれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れる。
【0016】
さらに、第1実施形態の圧電基材は、芯材がないため、屈曲性及び可撓性(しなやかさ)に優れる。
従って、第1実施形態の圧電基材によれば、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上する。
【0017】
特に、ヘリカルキラル高分子(A)として、非焦電性のポリ乳酸系高分子を用いた圧電基材は、焦電性のPVDFを用いた圧電基材に比べ、圧電感度の安定性、及び圧電出力の安定性(経時に対する安定性)がより向上する。
また、前述の国際公開第2014/058077号に記載の圧電性繊維を備える圧電単位では、導電性繊維に対する圧電性繊維の巻回方向が限定されていない上、ずり力を構成する力の起点も力の方向も、第1実施形態の圧電基材、及び、後述する第2実施形態の圧電基材とは異なる。このため、国際公開第2014/058077号に記載の圧電単位に張力を印加しても、圧電単位の径方向に分極が生じないため、即ち、圧電応力定数d14に起因して発生する電界の方向に分極が生じないため、圧電感度が不足すると考えられる。
【0018】
ここで、第1の圧電体の長さ方向と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であることは、第1の圧電体が長さ方向への引張に強い(即ち、長さ方向の引張強度に優れる)という利点を有する。従って、第1の圧電体を、螺旋軸に対して一方向に螺旋状に巻回しても破断しにくくなる。
更に、第1の圧電体の長さ方向と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であることは、例えば、延伸された圧電フィルムをスリットして第1の圧電体(例えばスリットリボン)を得る際の生産性の面でも有利である。
本明細書中において、「略平行」とは、2つの線分のなす角度が、0°以上30°未満(好ましくは0°以上22.5°以下、より好ましくは0°以上10°以下、更に好ましくは0°以上5°以下、特に好ましくは0°以上3°以下)であることを指す。
また、本明細書中において、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向とは、ヘリカルキラル高分子(A)の主たる配向方向を意味する。ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、第1の圧電体の配向度Fを測定することによって確認できる。
また、原料を溶融紡糸した後にこれを延伸して、第1の圧電体を製造する場合、製造された第1の圧電体におけるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、主延伸方向を意味する。主延伸方向とは、延伸方向を指す。
同様に、フィルムの延伸及び延伸されたフィルムのスリットを形成して第1の圧電体を製造する場合、製造された第1の圧電体におけるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、主延伸方向を意味する。ここで、主延伸方向とは、一軸延伸の場合には延伸方向を指し、二軸延伸の場合には、延伸倍率が高い方の延伸方向を指す。
【0019】
以下、第1実施形態の圧電基材の好ましい態様について説明する。
【0020】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体は、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、単数又は複数の束からなる繊維形状を有し、第1の圧電体の断面の長軸径が、0.0001mm〜10mmであることが好ましく、0.001mm〜5mmであることがより好ましく、0.002mm〜1mmであることが更に好ましい。
ここで、「断面の長軸径」は、第1の圧電体(好ましくは繊維状圧電体)の断面が円形状である場合、「直径」に相当する。
第1の圧電体の断面が異形状である場合、「断面の長軸径」とは、断面の幅の中で、最も長い幅とする。
第1の圧電体が複数の束からなる圧電体の場合、「断面の長軸径」とは、複数の束からなる圧電体の断面の長軸径とする。
【0021】
第1実施形態の圧電基材において、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、第1の圧電体は長尺平板形状を有することが好ましい。
また、第1の圧電体の厚さは0.001mm〜0.2mmであり、第1の圧電体の幅は0.1mm〜30mmであり、第1の圧電体の厚さに対する第1の圧電体の幅の比は1.5以上であることが好ましい。
以下、長尺平板形状を有する第1の圧電体(以下、「長尺平板状圧電体」ともいう)の寸法(厚さ、幅、比(幅/厚さ、長さ/幅))に関し、より詳細に説明する。
第1の圧電体の厚さは0.001mm〜0.2mmであることが好ましい。
厚さが0.001mm以上であることにより、長尺平板状圧電体の強度が確保される。更に、長尺平板状圧電体の製造適性にも優れる。
一方、厚さが0.2mm以下であることにより、長尺平板状圧電体の厚さ方向の変形の自由度(柔軟性)が向上する。
【0022】
また、第1の圧電体の幅は0.1mm〜30mmであることが好ましい。
幅が0.1mm以上であることにより、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の強度が確保される。更に、長尺平板状圧電体の製造適性(例えば、後述するスリット工程における製造適性)にも優れる。
一方、幅が30mm以下であることにより、長尺平板状圧電体の変形の自由度(柔軟性)が向上する。
【0023】
また、第1の圧電体の厚さに対する第1の圧電体の幅の比(以下、「比〔幅/厚さ〕」ともいう)は1.5以上であることが好ましい。
比〔幅/厚さ〕が1.5以上であることにより、主面が明確となるので、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の長さ方向に渡って向きを揃えて、電荷発生層を形成し易い。また、長尺平板状圧電体を、例えば後述の圧電織物又は圧電編物にする際に、圧電織物又は圧電編物の主面に電荷発生層を揃えて配置することが容易である。このため、非接触表面電位計等による表面電位の測定時の圧電感度に優れ、また、圧電感度の安定性にも優れた圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)が得られやすい。
【0024】
第1の圧電体の幅は、0.5mm〜15mmであることがより好ましい。
幅が0.5mm以上であると、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の強度がより向上する。更に、長尺平板状圧電体のねじれをより抑制できるので、圧電感度及びその安定性がより向上する。
幅が15mm以下であると、長尺平板状圧電体の変形の自由度(柔軟性)がより向上する。
【0025】
第1の圧電体は、幅に対する長さの比(以下、比〔長さ/幅〕ともいう)が、10以上であることが好ましい。
比〔長さ/幅〕が10以上であると、第1の圧電体(長尺平板状圧電体)の変形の自由度(柔軟性)がより向上する。更に、長尺平板状圧電体が適用される圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)において、より広範囲に渡り、圧電性を付与できる。
【0026】
第1実施形態の圧電基材において、さらに、前記一方向とは異なる方向に巻回された繊維を備え、第1の圧電体と前記繊維とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
これにより、圧電基材の屈曲変形時において、第1の圧電体が螺旋軸に対して一方向に巻回した状態が保持されやすくなる。この結果、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)に分極が生じやすくなる。なお、この態様の組紐構造においては、第1の圧電体に張力がかかりやすくなる観点から、第1の圧電体と繊維との隙間が無い方が好ましい。
【0027】
第1実施形態の圧電基材において、
さらに、前記一方向とは異なる方向に巻回された長尺状の第2の圧電体を備え、
第2の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(a)によって求められる第2の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲であり、
第1の圧電体と前記第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなし、
第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なることが好ましい。
これにより、例えば、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の両方に分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材の径方向である。
これにより、より効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。この結果、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
また、第1実施形態の圧電基材は、前述の通り、芯材がないため、屈曲性及び可撓性(しなやかさ)に優れる圧電基材である。
その上、第1実施形態の圧電基材が、第1の圧電体及び第2の圧電体を備える組紐構造をなす場合、第1の圧電体及び第2の圧電体間に適度な空隙があるため、圧電基材に屈曲変形させるような力が働いた際にも、空隙が変形を吸収し、しなやかに屈曲変形し易くなる。
そのため、第1実施形態の圧電基材は3次元平面に沿わすような、例えばウェアラブル製品(後述する圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、生体情報取得デバイス等)の一構成部材として好適に使用できる。
【0028】
第1実施形態の圧電基材において、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、第1の圧電体の螺旋角度は10°〜80°(45°±35°)であることが好ましく、15°〜75°(45°±30°)であることがより好ましく、35°〜65°(45°±10°)であることがさらに好ましい。
「螺旋角度」とは、螺旋軸と、螺旋軸に対する第1の圧電体の配置方向とがなす角度を意味する。
【0029】
第1態様の圧電基材において、第1の圧電体は、接着剤組成物を含み、
ASTM D−882に準拠して測定された接着剤組成物の硬化物の引張弾性率が0.1MPa〜10GPaであることが好ましく、0.1MPa〜5GPaであることがより好ましく、0.1MPa〜3GPaであることがさらに好ましい。
これにより、隣接する第1の圧電体同士が接着剤組成物(接着剤)により接着され、第1の圧電体間の相対位置がずれにくくなるため、第1の圧電体に効率的に張力がかかりやすくなり、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり応力が印加されやすくなる。この結果、効果的に張力に比例した電圧信号(電荷信号)が検出される。
接着剤の硬化物の引張弾性率が0.1MPa以上であると、第1実施形態の圧電基材に印加された張力による歪(圧電歪)が接着剤部分で緩和されにくくなり、第1の圧電体への歪の伝達効率が向上する。
したがって、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。
なお、第1実施形態における接着剤は、接合後の引張弾性率、すなわち、接着剤の硬化物の引張弾性率が第1の圧電体と同程度以上であることがより好ましい。
接着剤組成物の硬化物の引張弾性率の測定方法については、実施例において詳述する。
【0030】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、圧電性をより向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子であることが好ましい。
【化2】
【0031】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、圧電性をより向上させる観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましい。
【0032】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、圧電性をより向上させる観点から、D体又はL体からなることが好ましい。
【0033】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の含有量は、圧電性をより向上させる観点から、第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上であることが好ましい。
【0034】
以下、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様Aについて、図面を参照しながら説明する。
【0035】
〔具体的態様A〕
図1は、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様Aを示す側面図である。
図1に示すように、具体的態様Aの圧電基材10は、長尺状の第1の圧電体14Aを備え、芯材を備えない。
第1の圧電体14Aは、螺旋軸G1に対して、螺旋角度β1で一端から他端にかけて、隙間がないように、また、螺旋軸G1の周りに空間が存在しないように、一方向に螺旋状に巻回されている。さらに、第1の圧電体14Aには、接着剤(不図示)が含浸されており、隣接する第1の圧電体14A同士はこの接着剤により接着されている。
「螺旋角度β1」とは、螺旋軸G1と、螺旋軸G1に対する第1の圧電体14Aの配置方向とがなす角度を意味する。
また、具体的態様Aでは、第1の圧電体14Aは、螺旋軸G1に対して左巻きで巻回している。具体的には、圧電基材10を螺旋軸G1の一端側(図1の場合、右端側)から見たときに、第1の圧電体14Aは、手前側から奥側に向かって左巻きで巻回している。
また、図1中、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、両矢印E1で示されている。即ち、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、第1の圧電体14Aの配置方向(第1の圧電体14Aの長さ方向)とは、略平行となっている。
【0036】
以下、具体的態様Aの圧電基材10の作用について説明する。
例えば、圧電基材10の長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、ヘリカルキラル高分子(A)は分極する。このヘリカルキラル高分子(A)の分極は、圧電基材10の径方向に生じ、その分極方向は位相が揃えられて生じると考えられる。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
また、圧電基材10では、前述の通り、第1の圧電体14Aには、接着剤(不図示)が含浸されているため、第1の圧電体14A間の相対位置がずれにくく、第1の圧電体14Aに張力がより印加されやすくなっている。
さらに、圧電基材10は、芯材がないため、屈曲性及び可撓性に優れたものとなる。
以上のことから、具体的態様Aの圧電基材10によれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
【0037】
次に、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様B1、B2について、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、具体的態様Aと重複する説明は省略する。
【0038】
〔具体的態様B1〕
図2は、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様B1を示す側面図である。
具体的態様B1の圧電基材10Aは、第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bを備え、芯材を備えない。第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bは交互に交差されており組紐構造をなしている。
なお、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体14Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとは、互いに異なっている。
図2に示すように、具体的態様B1の圧電基材10Aでは、第1の圧電体14Aが、螺旋軸G2に対し、螺旋角度β1で左巻きで螺旋状に巻回され、第2の圧電体14Bが、螺旋角度β2で右巻きで螺旋状に巻回されると共に、第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bが交互に交差されている。
また、図2に示す組紐構造において、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E1)と、第1の圧電体14Aの配置方向とは、略平行となっている。同様に、第2の圧電体14Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向(両矢印E2)と、第2の圧電体14Bの配置方向とは、略平行となっている。
【0039】
以下、具体的態様B1の圧電基材10Aの作用について説明する。
例えば、圧電基材10Aの長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体14Aに含まれるヘリカルキラル高分子(A)、及び第2の圧電体14Bに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の両方に分極が生じる。分極方向はいずれも圧電基材10Aの径方向である。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される
さらに、圧電基材10Aは、芯材がない組紐構造をなすため、屈曲性及び可撓性に優れたものとなる。
以上のことから、具体的態様B1の圧電基材10Aによれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
【0040】
特に、具体的態様B1の圧電基材10Aは、圧電基材10Aの長さ方向に張力が印加されたときに、組紐構造を形成する左巻きの第1の圧電体14A及び右巻きの第2の圧電体14Bにずり応力が印加され、その分極の方向は一致する。このため、第1の圧電体14A及び第2の圧電体14Bにおける圧電性能に寄与する体積分率が増えるため、圧電性能がより向上する。したがって、具体的態様B1の圧電基材10Aは、3次元平面に沿わすような、例えばウェアラブル製品(後述する圧電織物、圧電編物、圧電デバイス、力センサー、生体情報取得デバイス等)の一構成部材として好適に使用できる。
【0041】
〔具体的態様B2〕
具体的態様B2の圧電基材は、図2における具体的態様B1の圧電基材10Aにおいて、第2の圧電体14Bの代わりに、繊維を備えること以外は具体的態様B1の圧電基材10Aと同様の構成である。すなわち、具体的態様B2の圧電基材は、第1の圧電体と繊維を備え、芯材を備えず、第1の圧電体と繊維とが交互に交差された組紐構造をなす。なお、具体的態様B2における繊維は、圧電性を有しない繊維である。この態様の場合、前記繊維の巻回方向は右巻きであっても左巻きであってもよい。
具体的態様B2では、圧電基材の屈曲変形時において、第1の圧電体が螺旋軸に対して一方向に巻回した状態が保持されやすくなる。これにより、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)に分極が生じやすくなる。
さらに、具体的態様B2の圧電基材は、芯材がない組紐構造をなすため、屈曲性及び可撓性に優れたものとなる。
以上のことから、具体的態様B2の圧電基材においても、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
【0042】
次に、第1実施形態に係る圧電基材を構成する材料等について説明する。
【0043】
<第1の圧電体>
第1実施形態の圧電基材は、長尺状の第1の圧電体を備える。
第1の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含む圧電体である。
【0044】
(ヘリカルキラル高分子(A))
第1実施形態における第1の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含む。
ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
【0045】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0046】
ヘリカルキラル高分子(A)は、第1の圧電体の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。望ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0047】
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
【0048】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0049】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0050】
【化3】
【0051】
上記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸またはD−乳酸と、該L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA、単に「L体」ともいう)またはD−乳酸のホモポリマー(PDLA、単に「D体」ともいう)が最も好ましい。
【0052】
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子である。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0053】
上記「L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸及びこれらの無水物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール;セルロース等の多糖類;α−アミノ酸等のアミノカルボン酸;等を挙げることができる。
【0054】
上記「L−乳酸またはD−乳酸と、該L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが挙げられる。
【0055】
また、ヘリカルキラル高分子(A)中におけるコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
【0056】
ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法;米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法;などにより製造することができる。
【0057】
さらに、上記各製造方法により得られたポリ乳酸系高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0058】
−重量平均分子量−
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)は、5万〜100万であることが好ましい。
ヘリカルキラル高分子(A)のMwが5万以上であることにより、第1の圧電体の機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)のMwが100万以下であることにより、成形(例えば押出成形、溶融紡糸)によって第1の圧電体を得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0059】
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、第1の圧電体の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0060】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて測定された値を指す。ここで、Mnは、ヘリカルキラル高分子(A)の数平均分子量である。
以下、GPCによるヘリカルキラル高分子(A)のMw及びMw/Mnの測定方法の一例を示す。
【0061】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
第1の圧電体を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
【0062】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。
ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0063】
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いることができる。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeoTM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、または直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
【0064】
第1実施形態における第1の圧電体は、上述したヘリカルキラル高分子(A)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
第1実施形態における第1の圧電体中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、第1の圧電体の全量に対し、80質量%以上が好ましい。
【0065】
(安定化剤)
第1実施形態における第1の圧電体は、更に、一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤(B)を含有することが好ましい。これにより、耐湿熱性をより向上させることができる。
【0066】
安定化剤(B)としては、国際公開第2013/054918号の段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
【0067】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成社製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1(商品名)、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0068】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0069】
安定化剤(B)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0070】
安定化剤(B)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000であるが、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
分子量が上記範囲内ならば、安定化剤(B)がより移動しやすくなり、耐湿熱性改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(B)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0071】
第1実施形態における第1の圧電体が安定化剤(B)を含有する場合、上記第1の圧電体は、安定化剤(B)を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
第1実施形態における第1の圧電体が安定化剤(B)を含む場合、安定化剤(B)の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることがより好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
【0072】
安定化剤(B)の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤として安定化剤(B1)と安定化剤(B2)とを併用する場合、安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(B1)100質量部に対して、安定化剤(B2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましい。
【0073】
以下、安定化剤(B)の具体例(安定化剤B−1〜B−3)を示す。
【0074】
【化4】

【0075】
以下、上記安定化剤B−1〜B−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤B−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤B−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤B−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
【0076】
<その他の成分>
第1実施形態における第1の圧電体は、必要に応じ、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の公知の樹脂;シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の公知の無機フィラー;フタロシアニン等の公知の結晶核剤;安定化剤(B)以外の安定化剤;等が挙げられる。
無機フィラー及び結晶核剤としては、国際公開第2013/054918号の段落0057〜0058に記載された成分を挙げることもできる。
【0077】
(配向度F)
第1実施形態における第1の圧電体の配向度Fは、上述したとおり、0.5以上1.0未満であるが、0.7以上1.0未満であることが好ましく、0.8以上1.0未満であることがより好ましい。
第1の圧電体の配向度Fが0.5以上であれば、延伸方向に配列するヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、より高い圧電性を発現することが可能となる。
第1の圧電体の配向度Fが1.0未満であれば、縦裂強度が更に向上する。
【0078】
(結晶化度)
第1実施形態における第1の圧電体の結晶化度は、上述のX線回折測定(広角X線回折測定)によって測定される値である。
第1実施形態における第1の圧電体の結晶化度は、好ましくは20%〜80%であり、より好ましくは25%〜70%であり、更に好ましくは30%〜60%である。
結晶化度が20%以上であることにより、圧電性が高く維持される。結晶化度が80%以下であることにより、第1の圧電体の透明性が高く維持される。
結晶化度が80%以下であることにより、例えば、第1の圧電体の原料となる圧電フィルムを延伸によって製造する際に白化や破断がおきにくいので、第1の圧電体を製造しやすい。また、結晶化度が80%以下であることにより、例えば、第1の圧電体の原料(例えばポリ乳酸)を溶融紡糸後に延伸によって製造する際に屈曲性が高く、しなやかな性質を有する繊維となり、第1の圧電体を製造しやすい。
【0079】
(透明性(内部ヘイズ))
第1実施形態における第1の圧電体において、透明性は特に要求されないが、透明性を有していてももちろん構わない。
第1の圧電体の透明性は、内部ヘイズを測定することにより評価することができる。ここで、第1の圧電体の内部ヘイズとは、第1の圧電体の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
第1の圧電体は、透明性が要求される場合には、可視光線に対する内部ヘイズが5%以下であることが好ましく、透明性及び縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。第1の圧電体の前記内部ヘイズの下限値は特に限定はないが、下限値としては、例えば0.01%が挙げられる。
第1の圧電体の内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの第1の圧電体に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色社製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値である。
以下、第1の圧電体の内部ヘイズの測定方法の例を示す。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んだサンプル1を準備し、このサンプル1の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定する。
次に、上記のガラス板2枚の間に、シリコーンオイルで表面を均一に塗らした複数の第1の圧電体を隙間なく並べて挟んだサンプル2を準備し、このサンプル2の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定する。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、第1の圧電体の内部ヘイズ(H1)を得る。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行う。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0080】
(引張弾性率)
第1の圧電体の引張弾性率は、0.1GPa〜100GPaであることが好ましく、1GPa〜50GPaであることがより好ましい。
引張弾性率とは、第1の圧電体を延伸工程を経て得た場合、延伸方向(MD方向)の引張弾性率を意味する。
なお、第1の圧電体は、引張弾性率をより向上させる観点から、ヘリカルキラル高分子(A)(例えばポリ乳酸系高分子)と共に、ポリフッ化ビニリデンを含んでもよい。
この態様の場合、第1の圧電体の引張弾性率は、1GPa〜10GPaであることが好ましい。
第1の圧電体の引張弾性率の測定方法は以下の通りである。
第1の圧電体がフィルム(長尺平板形状の一例)である場合、長さ100mmの矩形形状の試験片(フィルム)を準備する。試験片の質量(g)をその材料の密度(g/cc)で除した値を試験片の体積とし、その体積をフィルムの主面の面積(長さと幅との積)で除した値を、その試験片の平均厚さとする。この厚さと試験片の幅より試験片の断面積を計算する。
引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG1250)により試験片に張力を印加したときの、応力と歪量とからS−Sカーブをプロットし、S−Sカーブの初期の線形歪領域の傾きより引張弾性率を算出する。
第1の圧電体が糸(繊維形状の一例)である場合、長さ100mmの試験片(糸)を準備する。試験片の質量(g)をその材料の密度(g/cc)で除した値を試験片の体積とし、その体積を糸の長さで除した値を、その試験片の平均断面積とする。引張試験機により試験片に張力を印加したときの、応力と歪量とからS−Sカーブをプロットし、S−Sカーブの初期の線形歪領域の傾きより引張弾性率を算出する。
【0081】
(第1の圧電体の形状、寸法)
第1実施形態の圧電基材は、長尺状の第1の圧電体を備える。
長尺状の第1の圧電体としては、単数若しくは複数の束からなる繊維形状(糸形状)を有する圧電体、又は長尺平板形状を有する圧電体であることが好ましい。
以下、繊維形状を有する圧電体(以下、繊維状圧電体ともいう)、長尺平板形状を有する圧電体(以下、長尺平板状圧電体ともいう)について順に説明する。
【0082】
−繊維状圧電体−
繊維状圧電体としては、例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸が挙げられる。
【0083】
・モノフィラメント糸
モノフィラメント糸の単糸繊度は、好ましくは3dtex〜30dtexであり、より好ましくは5dtex〜20dtexである。
単糸繊度が3dtex未満になると、織物準備工程や製織工程において糸を取り扱うことが困難となる。一方、単糸繊度が30dtexを超えると、糸間で融着が発生し易くなる。
モノフィラメント糸は、コストの点を考慮すれば直接的に紡糸、延伸して得ることが好ましい。なお、モノフィラメント糸は入手したものであってもよい。
【0084】
・マルチフィラメント糸
マルチフィラメント糸の総繊度は、好ましくは30dtex〜600dtexであり、より好ましくは100dtex〜400dtexである。
マルチフィラメント糸は、例えば、スピンドロー糸などの一工程糸の他、UDY(未延伸糸)やPOY(高配向未延伸糸)などを延伸して得る二工程糸のいずれもが採用可能である。なお、マルチフィラメント糸は入手したものであってもよい。
ポリ乳酸系モノフィラメント糸、ポリ乳酸系マルチフィラメント糸の市販品としては、東レ社製のエコディア(R)PLA、ユニチカ社製のテラマック(R)、クラレ社製プラスターチ(R)が使用可能である。
【0085】
繊維状圧電体の製造方法には特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、第1の圧電体としてのフィラメント糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸)は、原料(例えばポリ乳酸)を溶融紡糸した後、これを延伸することにより得ることができる(溶融紡糸延伸法)。なお、紡出後において、冷却固化するまでの糸条近傍の雰囲気温度を一定温度範囲に保つことが好ましい。
また、第1の圧電体としてのフィラメント糸は、例えば、上記溶融紡糸延伸法で得られたフィラメント糸をさらに分繊することにより得てもよい。
【0086】
・断面形状
繊維状圧電体の断面形状としては、繊維状圧電体の長手方向に垂直な方向の断面において、円形状、楕円形状、矩形状、繭形状、リボン形状、4つ葉形状、星形状、異形状など様々な断面形状を適用することが可能である。
【0087】
−長尺平板状圧電体−
長尺平板状圧電体としては、例えば、公知の方法で作製した圧電フィルム、又は入手した圧電フィルムをスリットすることにより得た長尺平板状圧電体(例えばスリットリボン)などが挙げられる。
【0088】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体が長尺平板形状を有する場合、第1実施形態の効果を阻害しない範囲で、第1の圧電体の少なくとも一方の主面の側に機能層が配置されていてもよい。
機能層は、単層構造であっても二層以上からなる構造であってもよい。
例えば、長尺平板状圧電体の両方の主面の側に機能層が配置される場合、一方の主面(以下、便宜上、「オモテ面」ともいう)の側に配置される機能層、及び、他方の面(以下、便宜上、「ウラ面」ともいう)の側に配置される機能層は、それぞれ独立に、単層構造であっても二層以上からなる構造であってもよい。
【0089】
機能層としては、様々な機能層が挙げられる。
機能層として、例えば、易接着層、ハードコート層、屈折率調整層、アンチリフレクション層、アンチグレア層、易滑層、アンチブロック層、保護層、接着層、帯電防止層、放熱層、紫外線吸収層、アンチニュートンリング層、光散乱層、偏光層、ガスバリア層、色相調整層などが挙げられる。
機能層は、これらの層のうちの二層以上からなる層であってもよい。
また、機能層としては、これらの機能のうちの2つ以上を兼ね備えた層であってもよい。
長尺平板状圧電体の両方の主面に機能層が設けられている場合は、オモテ面側に配置される機能層及びウラ面側に配置される機能層は、同じ機能層であっても、異なる機能層であってもよい。
【0090】
また、機能層の効果には、長尺平板状圧電体表面のダイラインや打痕などの欠陥が埋められ、外観が向上するという効果もある。この場合は長尺平板状圧電体と機能層との屈折率差が小さいほど長尺平板状圧電体と機能層と界面の反射が低減し、より外観が向上する。
【0091】
前記機能層は、易接着層、ハードコート層、帯電防止層、アンチブロック層、及び保護層のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。これにより、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサー、アクチュエータ、生体情報取得デバイスへの適用がより容易になる。
【0092】
第1実施形態の圧電基材において、第1の圧電体が長尺平板形状を有する場合、第1の圧電体の少なくとも一方(好ましくは両方)の主面の側に電極層が配置されていてもよい。
電極層は、長尺平板状圧電体に接触して設けられていてもよいし、機能層を介して設けられていてもよい。
上記態様により、長尺平板状圧電体を、第1実施形態の圧電基材を、例えば、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサー、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの構成要素の一つとして用いた場合に、例えば、圧電基材で生じた電荷の取出し電極と、積層体との接続をより簡易に行うことができるので、圧電デバイス(圧電織物、圧電編物等)、力センサー、アクチュエータ、生体情報取得デバイスの生産性が向上する。
【0093】
機能層の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば金属や金属酸化物等の無機物;樹脂等の有機物;樹脂と微粒子とを含む複合組成物;などが挙げられる。樹脂としては、例えば、温度や活性エネルギー線で硬化させることで得られる硬化物を利用することもできる。つまり、樹脂としては、硬化性樹脂を利用することもできる。
【0094】
硬化性樹脂としては、例えばアクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、及びシリカ−エポキシハイブリット化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料(硬化性樹脂)が挙げられる。
これらの中でも、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、シラン系化合物がより好ましい。
金属としては、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、In、Sn、W、Ag、Au、Pd、Pt、Sb、Ta及びZrから選ばれる少なくとも一つ、又は、これらの合金が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、及び酸化タンタル、またこれらの複合酸化物の少なくとも1つが挙げられる。
微粒子としては上述したような金属酸化物の微粒子や、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂微粒子などが挙げられる。さらにこれらの微粒子の内部に空孔を有する中空微粒子も挙げられる。
微粒子の平均一次粒径としては、透明性の観点から1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上300nm以下がより好ましく、10nm以上200nm以下が更に好ましい。500nm以下であることで可視光の散乱が抑制され、1nm以上であることで微粒子の二次凝集が抑制され、透明性の維持の観点から望ましい。
【0095】
機能層の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲が好ましい。
【0096】
上記厚さの上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。また、下限値はより好ましくは0.01μm以上であり、更に好ましくは0.02μm以上である。
【0097】
機能層が複数の機能層からなる多層膜の場合には、上記厚さは多層膜全体における厚さを表す。また、機能層は長尺平板状圧電体の両面にあってもよい。また、機能層の屈折率は、それぞれが異なる値であってもよい。
【0098】
長尺平板状圧電体の製造方法には特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。
また、例えば、圧電フィルムから第1の圧電体を製造方法としては、原料(例えばポリ乳酸)をフィルム状に成形して未延伸フィルムを得、得られた未延伸フィルムに対し、延伸及び結晶化を施し、得られた圧電フィルムをスリットすることにより得ることができる。
ここで、「スリットする」とは、上記圧電フィルムを長尺状にカットすることを意味する。
なお、上記延伸及び結晶化は、いずれが先であってもよい。また、未延伸フィルムに対し、予備結晶化、延伸、及び結晶化(アニール)を順次施す方法であってもよい。延伸は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。二軸延伸の場合には、好ましくは一方(主延伸方向)の延伸倍率を高くする。
圧電フィルムの製造方法については、特許第4934235号公報、国際公開第2010/104196号、国際公開第2013/054918号、国際公開第2013/089148号、等の公知文献を適宜参照できる。
【0099】
<繊維>
第1実施形態の圧電基材は、繊維を備えることがある。
繊維は、前記一方向(第1の圧電体の巻回方向)とは異なる方向に巻回されることが好ましく、第1の圧電体と繊維とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
なお、前記繊維の巻回方向(右巻き又は左巻き)は、第1の圧電体の巻回方向と同じ方向であってもよく、異なる方向であってもよい。
【0100】
繊維としては、特に限定はないが、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等のポリマー繊維;綿、麻、絹、セルロース等の天然繊維;アセテート等の半合成繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;ガラス繊維が挙げられる。また、繊維の態様である第2の圧電体も挙げられる。
これらの繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上含有用いてもよい。
また、繊維としては、例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸が挙げられる。モノフィラメント糸の単糸繊度としては、例えば、前述の繊維状圧電体におけるモノフィラメント糸の単糸繊度と同様の範囲が挙げられる。マルチフィラメント糸の総繊度としては、例えば、前述の繊維状圧電体におけるマルチフィラメント糸の総繊度と同様の範囲が挙げられる。
【0101】
<第2の圧電体>
第1実施形態の圧電基材は、長尺状の第2の圧電体を備えることがある。
第2の圧電体は、前記一方向(第1の圧電体の巻回方向)とは異なる方向に巻回されることが好ましく、第1の圧電体と第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
第2の圧電体は、第1の圧電体と同様の特性を有していることが好ましい。
即ち、第2の圧電体は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
第2の圧電体の長さ方向と、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から前記式(a)によって求められる第2の圧電体の配向度Fは0.5以上1.0未満の範囲であることが好ましい。
第2の圧電体は、上記以外の特性においても、第1の圧電体と同様の特性を有していることが好ましい。
第1の圧電体と第2の圧電体とが交互に交差された組紐構造をなす場合、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、第2の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、が互いに異なることが好ましい。
また、第2の圧電体は、第1の圧電体と異なる特性を有していてもよい。
第2の圧電体は、前述の第1の圧電体と同様に、安定化剤(B)及びその他の成分を含んでいてもよい。
【0102】
<接着剤組成物>
第1実施形態における第1の圧電体は、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、接着剤組成物を含むことが好ましい。
なお、「接着」は、「粘着」を包含する概念である。また、「接着剤」は、「粘着剤」を包含する概念である。
以下では、接着剤組成物を「接着剤」と称して説明することがある。
【0103】
接着剤は、第1の圧電体間を機械的に一体化するために用いる。
第1の圧電体が接着剤を含むことにより、第1実施形態の圧電基材に張力が印加されたときに、第1の圧電体間の相対位置がずれにくくなるため、第1の圧電体に効率的に張力がかかりやすくなる。従って、効果的に張力に比例した電圧出力を検出することが可能となる。この結果、圧電感度、及び圧電出力の安定性がより向上する。また、第1の圧電体が接着剤を含むことにより圧電基材の単位引張力当たりの発生電荷量(発生表面電位)の絶対値がより増加する。
一方、第1の圧電体が接着剤を含まない圧電基材では、後述する圧電繊維(例えば圧電編物、圧電織物)などに加工した後もしなやかな性質が保たれるため、ウェアラブルセンサー等にしたときに装着感が良好となる。
【0104】
接着剤組成物(接着剤)の材料としては、以下の材料を用いることが可能である。
エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤、(EVA)系エマルション形接着剤、アクリル樹脂系エマルション形接着剤、スチレン・ブタジエンゴム系ラテックス形接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、α−オレフィン(イソブテン−無水マレイン酸樹脂)系接着剤、塩化ビニル樹脂系溶剤形接着剤、ゴム系接着剤、弾性接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形接着剤、ニトリルゴム系溶剤形接着剤、シアノアクリレート系接着剤等を用いることが可能となる。
【0105】
−厚さ−
第1実施形態における接着剤の接合部位の厚さは、接合する対象間に空隙ができず、接合強度が低下しない範囲であれば薄ければ薄い程良い。接合部位の厚さを小さくすることで、圧電基材に印加された張力による歪が接着剤部分で緩和されにくくなり、第1の圧電体への歪が効率的に小さくなるため、第1実施形態の圧電基材を、例えばセンサーに適用した場合、センサーの感度が向上する。
【0106】
−接着剤の塗布方法−
接着剤の塗布方法は特に限定されないが、主に以下の2つの方法を用いることが可能である。
【0107】
・加工後に接着剤を配置し接合する方法
例えば、第1の圧電体の配置;圧電基材が繊維を備える場合には繊維及び第1の圧電体の配置;圧電基材が電極を備える場合には前記電極の加工及び配置;前記配置の他、圧電基材に備えられる各部材の配置が完了した後に、ディップコート等のコーティングや、含浸等の方法で、各部材同士(例えば第1の圧電体同士)、各部材の界面等に接着剤を配置し接着する方法が挙げられる。
【0108】
・加工前に未硬化の接着剤を配置し、加工後に接合する方法
例えば、予め第1の圧電体の表面に光硬化性の接着剤、熱硬化性の接着剤、熱可塑性の接着剤などを、グラビアコーターやディップコーター等でコーティングし乾燥させ、例えば、第1の圧電体の配置;圧電基材が繊維を備える場合には繊維及び第1の圧電体の配置;圧電基材が電極を備える場合には前記電極の加工及び配置;前記配置の他、圧電基材に備えられる各部材の配置が完了した後に、紫外線照射や加熱により接着剤を硬化させ、各部材同士、各部材の界面等を接合する方法が挙げられる。
また、第1実施形態の圧電基材を、後述する圧電編物や圧電織物に加工する場合も同様の方法により、圧電編物や圧電織物に加工された後に、例えば、各部材同士(例えば第1の圧電体同士)、各部材の界面等を接合又は熱融着してもよい。この場合、圧電編物や圧電織物は、接着剤により各部材間が一体化される前であれば、しなやかな性質が保たれるので、編物や織物の加工が容易となる。
上記方法を用いれば、接着剤をコーティング乾燥後はドライプロセスでの加工が可能となり加工が容易となる、また均一な塗膜厚が形成しやすいためセンサー感度等のバラツキが少ないといった特徴がある。
【0109】
<圧電基材の製造方法>
第1実施形態の圧電基材の製造方法には特に限定はないが、例えば、第1の圧電体を準備して、螺旋軸に対して、第1の圧電体を一方向に螺旋状に巻回することにより製造することができる。
また、第1実施形態の圧電基材は、前述の通り、例えば、特定の作用で溶ける繊維(例えば水に溶ける糸)を用いて、前記繊維の周りに第1の圧電体を一方向に螺旋状に巻回した後、経時で繊維が溶ける、又は、繊維を水で溶解除去することにより製造することもできる。また、芯材の周りに第1の圧電体を一方向に螺旋状に巻回した後、前記芯材を除去することにより製造することもできる。
第1の圧電体は、公知の方法で製造したものであっても、入手したものであってもよい。
また、第1実施形態の圧電基材が、繊維を備え、第1の圧電体及び繊維の組紐構造をなす場合、第1の圧電体を巻回する方法に準じて、第1の圧電体及び繊維を交互に交差して巻回することにより製造することができる。
また、第1実施形態の圧電基材が、第2の圧電体を備え、第1の圧電体及び第2の圧電体の組紐構造をなす場合も同様に、第1の圧電体を巻回する方法に準じて、第1の圧電体及び第2の圧電体を交互に交差して巻回することにより製造することができる。
また、第1実施形態の圧電基材が電極を備える場合、公知の方法により、電極を配置することにより製造することができる。
なお、第1の圧電体間、必要に応じて繊維及び第1の圧電体の間、第1の圧電体及び第2の圧電体の間、第1実施形態の圧電基材に備えられる各部材間を、例えば前述の方法により接着剤を介して貼り合わせることが好ましい。
【0110】
以下、本開示に係る圧電基材の第2実施形態について詳細に説明する。
【0111】
〔第2実施形態の圧電基材〕
第2実施形態の圧電基材は、
長尺状の芯材と、前記芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備え、
前記芯材が、非導電性の芯材であり、
前記第1の圧電体が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み、
前記第1の圧電体の長さ方向と、前記第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行であり、
X線回折測定から下記式(a)によって求められる前記第1の圧電体の配向度Fが0.5以上1.0未満の範囲である圧電基材。
配向度F=(180°―α)/180°・・(a)
ただし、αは配向由来のピークの半値幅を表す。αの単位は、°である。
【0112】
第2実施形態の圧電基材は、非導電性の芯材(非導電性芯材)を備え、第1の圧電体が前記非導電性芯材の周りに一方向に螺旋状に巻回されている点で第1実施形態の圧電基材と相違する。
「非導電性」とは、体積抵抗率が10Ω・cm以上を意味する。
「芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された第1の圧電体」とは、第1の圧電体が芯材の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回されていることを意味する。
「配向度F」及び「一方向」の定義は、前述と同様である。
【0113】
第2実施形態の圧電基材は、上記構成を備えることにより、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上する。
第2実施形態の圧電基材では、第1実施形態の圧電基材と同様の理由により圧電性が発現される。
また、第2実施形態の圧電基材では、第1の圧電体を、上記のように配置することにより、圧電基材の長さ方向に張力(応力)が印加されたときに、ヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、圧電基材の径方向にヘリカルキラル高分子(A)の分極が生じる。その分極方向は、螺旋状に巻回された第1の圧電体を、その長さ方向に対して平面と見做せる程度の微小領域の集合体とみなした場合、その構成する微小領域の平面に、張力(応力)に起因したずり力がヘリカルキラル高分子に印加された場合、圧電応力定数d14に起因して発生する電界の方向と略一致する。
具体的には、例えばポリ乳酸においては、分子構造が左巻き螺旋構造からなるL−乳酸のホモポリマー(PLLA)の場合、PLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、非導電性芯材に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPLLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、非導電性芯材に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加された場合、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。
【0114】
また、例えば分子構造が右巻き螺旋構造からなるD−乳酸のホモポリマー(PDLA)の場合、PDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、非導電性芯材に対して、左巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の外側から中心方向への電界(分極)が発生する。また、これとは逆にPDLAの主配向方向と長さ方向が略平行な第1の圧電体を、非導電性芯材に対して、右巻きに螺旋状に巻回した構造体に、張力(応力)が印加されると、径方向に平行に、張力と垂直な円状断面の円の中心から外側方向への電界(分極)が発生する。
これにより、圧電基材の長さ方向に張力が印加された際、螺旋状に配置された第1の圧電体の各部位において、張力に比例した電位差が位相の揃った状態で発生するため、効果的に張力に比例した電圧信号が検出されると考えられる。
従って、第2実施形態の圧電基材は、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れる。
【0115】
さらに、第2実施形態の圧電基材は、芯材として非導電性芯材を備え、第1の圧電体が前記非導電性芯材の周りに一方向に螺旋状に巻回された構成をなす。
ここで、芯材として導電性芯材を備える圧電基材も考えられる。しかし、この圧電基材は、繰り返し折り曲げ等の負荷がかかることによって、導電性芯材の金属の導体部分が疲労破壊しやすい傾向がある。
従って、第2実施形態の圧電基材によれば、上記導電性芯材を備える圧電基材に比べ、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上する。
【0116】
第1の圧電体が、非導電性芯材に対して一方向に螺旋状に巻回されている態様としては特に限定はないが、例えば、第1の圧電体が非導電性芯材の外周面に沿って所定の螺旋角度で一端から他端にかけて一方向に螺旋状に巻回されている態様;非導電性芯材と第1の圧電体とが同じ旋回軸の周りに互いに捩り合わされている態様が挙げられる。
【0117】
以下、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様について説明する。
【0118】
第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Cについて、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、具体的態様Aと重複する説明は省略する。
具体的態様Cの圧電基材は、第1の圧電体が非導電性芯材に対して所定の螺旋角度で一端から他端にかけて一方向に螺旋状に巻回されている態様である。
【0119】
〔具体的態様C〕
図3は、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Cを示す側面図である。
具体的態様Cの圧電基材10Bは、内部に非導電性芯材12Aを備える点で第1実施形態における具体的態様Aの圧電基材10と相違する。
すなわち、具体的態様Cの圧電基材10Bは、非導電性芯材12Aと、長尺状の第1の圧電体14Aとを備える。
第1の圧電体14Aは、非導電性芯材12Aに対して、螺旋角度β1で一端から他端にかけて、隙間がないように一方向に螺旋状に巻回されている。
「螺旋角度β1」とは、非導電性芯材12Aの軸方向、すなわち、螺旋軸G3と、螺旋軸G3に対する第1の圧電体14Aの配置方向とがなす角度を意味する。
【0120】
具体的態様Cの圧電基材10Bによれば、具体的態様Aと同様の理由により、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
また、圧電基材10Bでは、具体的態様Aの圧電基材10と同様に、第1の圧電体14Aに、接着剤(不図示)が含浸されているため、第1の圧電体14A間の相対位置がずれにくく、第1の圧電体14Aに張力がより印加されやすくなっている。
さらに、圧電基材10Bは、芯材として非導電性芯材12Aを備えるため、導電性の芯材(例えば金属製の芯材)を備える場合に比べ、疲労破壊が低減される。
以上のことから、具体的態様Cの圧電基材10Bによれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
【0121】
次に、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様D1、D2について、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、具体的態様B1、B2と重複する説明は省略する。
具体的態様D1、D2の圧電基材は、第1の圧電体が非導電性芯材に対して所定の螺旋角度で一端から他端にかけて一方向に螺旋状に巻回されている態様である。
【0122】
〔具体的態様D1〕
図4は、第1実施形態に係る圧電基材の具体的態様D1を示す側面図である。
具体的態様D1の圧電基材10Cは、内部に非導電性芯材12Aを備える点で第1実施形態における具体的態様B1の圧電基材10Aと相違する。
すなわち、具体的態様D1の圧電基材10Cは、第1の圧電体14Aと第2の圧電体14Bとが交互に交差されて組紐構造をなしている。
【0123】
具体的態様D1の圧電基材10Cによれば、具体的態様B1と同様の理由により、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
さらに、圧電基材10Cは、芯材として非導電性芯材12Aを備えるため、導電性芯材(例えば金属製の芯材)を備える場合に比べ、疲労破壊が低減される。
以上のことから、具体的態様D1の圧電基材10Cによれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
また、具体的態様D1の圧電基材10Cは、具体的態様B1と同様の理由により、3次元平面に沿わすような、例えばウェアラブル製品(後述する圧電織物、圧電編物、力センサー、生体情報取得デバイス等)の一構成部材として好適に使用できる。
【0124】
次に、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様D2について、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、具体的態様B1、B2と重複する説明は省略する。
【0125】
〔具体的態様D2〕
具体的態様D2の圧電基材は、図4における具体的態様D1の圧電基材10Cにおいて、第2の圧電体14Bの代わりに、繊維を備えること以外は具体的態様D1の圧電基材10Cと同様の構成である。すなわち、具体的態様D2の圧電基材は、第1の圧電体と繊維とが交互に交差されて組紐構造をなす圧電基材である。なお、具体的態様D2における繊維は、圧電性を有しない繊維である。この態様の場合、前記繊維の巻回方向は右巻きであっても左巻きであってもよい。
具体的態様D2では、具体的態様B2と同様に、圧電基材の屈曲変形時において、第1の圧電体が非導電性芯材に対して一方向に巻回した状態が保持されやすくなるため、圧電基材の長さ方向に張力が印加されたときに、第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)に分極が生じやすくなる。
また、具体的態様D2の圧電基材では、芯材として非導電性芯材を備えるため、導電性芯材(例えば金属製の芯材)を備える圧電基材に比べ、疲労破壊が低減される。
以上のことから、具体的態様D2の圧電基材においても、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
【0126】
次に、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Eについて、図面を参照しながら説明する。
具体的態様Eは、非導電性芯材と第1の圧電体とが同じ旋回軸の周りに互いに捩り合わされている態様である。
【0127】
〔具体的態様E〕
図5は、第2実施形態に係る圧電基材の具体的態様Eを示す側面図である。
図5に示すように、第2実施形態の圧電基材10Dは、長尺状の非導電性芯材12Bと、長尺状の第1の圧電体14Cとが、同じ旋回軸G5で、かつ同じ周回数にて、互いに捩り合わされている。より詳細には、具体的態様Eの圧電基材10Dでは、第1の圧電体14Cが旋回軸G5に対し、右巻きで螺旋状に巻回されている。
ここで、「右巻き」とは、圧電基材10Dを旋回軸G5の方向の一端側(図5の場合、右端側)から見たときに、第1の圧電体14Cが旋回軸G5の手前側から奥側に向かって右巻きで巻回していることを意味する。
図5は、非導電性芯材12B及び第1の圧電体14Cが周回数「3」で捩られている。この場合、図5中、圧電基材10Dの長さL1あたりの周回数は「3」であり、1周回あたりの第1の圧電体14C間の距離(非導電性芯材12B間の距離も同義)はL2である。また、図5中、旋回軸G5と第1の圧電体14Cの長さ方向のなす角度はβ3である。
また、図5中、第1の圧電体14Cに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向は、両矢印E3で示されている。即ち、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、第1の圧電体14Cの配置方向とは、略平行となっている。
【0128】
以下、第2実施形態に係る圧電基材10Dの作用について説明する。
例えば、圧電基材10Dの長さ方向に張力が印加されると、第1の圧電体14Cに含まれるヘリカルキラル高分子(A)にずり力が加わり、第1の圧電体14Cに含まれるヘリカルキラル高分子(A)は分極する。このヘリカルキラル高分子(A)の分極は、圧電基材10Dの径方向に生じ、その分極方向は位相が揃えられて生じると考えられる。これにより、効果的に張力に比例した電圧信号が検出される。
特に、圧電基材10Dでは、非導電性芯材12Bと第1の圧電体14Cとが捩り合されているにすぎず、非導電性芯材12Bと第1の圧電体14Cの断面積を低減することができ、結果、圧電基材10Dを細くすることができる。そのため、高い屈曲性、可撓性(しなやかさ)を付与することが容易となり、特に、後述する圧電織物、圧電編物などの加工に適している。
さらに、圧電基材10Dは、芯材として非導電性芯材12Bを備えるため、導電性の芯材(例えば金属製の芯材)を備える場合に比べ、疲労破壊が低減される。
以上のことから、具体的態様Eの圧電基材10Dによれば、圧電感度に優れ、圧電出力の安定性にも優れ、また、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上したものとなる。
【0129】
第2実施形態に係る圧電基材を構成する材料等について説明する。
なお、第2実施形態の圧電基材は、第1実施形態の圧電基材に何ら制限されるものではない。
【0130】
<非導電性芯材>
第2実施形態の圧電基材は、芯材として長尺状の非導電性芯材を備える。
非導電性芯材の材料としては、導電性を有さない材料であれば特に限定はないが、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂等のポリマー樹脂;セルロース系樹脂;ガラス、シリカゲル、セラミックス等の無機材料;が挙げられる。これらの材料は、1種のみ用いてもよいし、2種以上含有用いてもよい。
非導電性芯材の形状(長尺状)、長軸径には特に限定はないが、非導電性芯材としては、単数又は複数の束からなる繊維形状を有する芯材であることが好ましい。
繊維形状を有する芯材としては、例えば、糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸)が挙げられる。
【0131】
<第1の圧電体>
第2実施形態における第1の圧電体は、第1実施形態における第1の圧電体と同義であり、好ましい態様も同様である。
また、第2実施形態における第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)は、第1実施形態における第1の圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0132】
<繊維>
第2実施形態の圧電基材は、繊維を備えることがある。
繊維は、前記一方向(第1の圧電体の巻回方向)とは異なる方向に巻回されることが好ましい。そして、第1の圧電体と繊維とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
第2実施形態における繊維は、第1実施形態における繊維と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0133】
<第2の圧電体>
第2実施形態の圧電基材は、長尺状の第2の圧電体を備えることがある。
第2の圧電体は、前記一方向(第1の圧電体の巻回方向)とは異なる方向に巻回されることが好ましい。そして、第1の圧電体と第2の圧電体とは交互に交差された組紐構造をなすことが好ましい。
第2実施形態における第2の圧電体は、第1実施形態における第2の圧電体と同義であり、好ましい態様も同様である。
第2実施形態における第2の圧電体は、第1実施形態における第2の圧電体と同様に、安定化剤(B)及びその他の成分を含んでいてもよい。
【0134】
<接着剤組成物>
第2実施形態における第1の圧電体は、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、接着剤組成物を含むことが好ましい。
第2実施形態における接着剤組成物(接着剤)は、第1実施形態における接着剤と同義であり、好ましい態様も同様である。第2実施形態における接着剤の塗布方法及び物性も、第1実施形態における接着剤の塗布方法及び物性と同様である。
なお、第2実施形態における接着剤の塗布方法では、第1実施形態における接着剤の塗布方法に準じて、例えば芯材及び第1の圧電体の配置が完了した後に、各部材同士(例えば芯材及び第1の圧電体の間)、各部材の界面等に接着剤を配置し接着(接合)してもよい。
また、予め第1の圧電体の表面に光硬化性の接着剤、熱硬化性の接着剤、熱可塑性の接着剤などを、グラビアコーターやディップコーター等でコーティングし乾燥させ、例えば芯材及び第1の圧電体の配置が完了した後に、各部材同士(例えば芯材及び第1の圧電体の間)、各部材の界面等に接着剤を配置し接着(接合)してもよい。
【0135】
第2実施形態の圧電基材が、非導電性芯材と第1の圧電体とが互いに捩り合わされている態様の場合(例えば、具体的態様Eの場合)、当該互いに捩り合わされている態様としては特に限定はないが、同じ旋回軸かつ同じ周回数にて互いに捩り合わされていることがより好ましい。
前記非導電性芯材と前記第1の圧電体との1m当たりの周回数は、非導電性芯材の外径(太さ)及び第1の圧電体の外径(太さ)に応じて異なるが、例えば非導電性芯材の外径及び第1の圧電体の外径が同程度であれば、以下の式で定義される。なお、「外径」とは、前述の「断面の長軸径」と同義である。
周回数(回)=1000(mm)×tanβ3/(πD)
式中、Dは、非導電性芯材又は第1の圧電体の外径(mm)を表す。πDは、非導電性芯材又は第1の圧電体の円周長を表す。β3は、旋回軸と第1の圧電体の長さ方向のなす角度(°)を表す。
【0136】
例えば非導電性芯材の外径及び第1の圧電体の外径が同程度である場合、前記非導電性芯材と前記第1の圧電体との1m当たりの周回数は、圧電感度及び圧電出力の安定性を向上する観点、並びに、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性を向上する観点から、上記式において、1000(mm)×tanβ3/(πD)(回)(但し、β3=45°±30°)で表されることが好ましく、1000(mm)×tanβ3/(πD)(回)(但し、β3=45°±25°)で表されることがより好ましく、1000(mm)×tanβ/(πD)(回)(但し、β3=45°±20°)で表されることが更に好ましく1000(mm)×tanβ3/(πD)(回)(但し、β3=45°±15°)で表されることが特に好ましい。
これにより、非導電性芯材及び第1の圧電体が強く互いに密着すると共に、互いに捩り合わせるときに切断しにくくなるため、圧電性と機械的強度を両立することができる。
【0137】
具体的に、非導電性芯材の外径及び第1の圧電体の外径が同程度である場合、前記非導電性芯材と前記第1の圧電体との1m当たりの周回数は、上記式を満たす範囲であれば特に限定はないが、例えば、200〜2000回が好ましく、200〜1500回がより好ましく、200〜1000回が更に好ましく、200〜500回が特に好ましい。
【0138】
第2実施形態の圧電基材において、非導電性芯材と第1の圧電体とが互いに捩り合わされている態様の場合(例えば、具体的態様Eの場合)、第1の圧電体は、単数又は複数の束からなる繊維形状を有することが好ましい。
第1の圧電体の断面の長軸径は、0.0001mm〜2mmであることが好ましく、0.001mm〜1mmであることがより好ましく、0.002mm〜0.5mmであることが更に好ましい。
なお、「断面の長軸径」とは、前述の「断面の長軸径」と同義である。
【0139】
<圧電基材の製造方法>
第2実施形態の圧電基材の製造方法には特に限定はないが、例えば、第1の圧電体を準備して、別途準備した非導電性芯材に対して、第1の圧電体を一方向に螺旋状に巻回することにより製造することができる。
また、第2実施形態の圧電基材が、非導電性芯材と第1の圧電体とが互いに捩り合わされている態様の場合、例えば、第1の圧電体を準備して、別途準備した非導電性芯材を、同じ旋回軸にて互いに捩り合わせることにより製造することができる。
第1の圧電体は、公知の方法で製造したものであっても、入手したものであってもよい。
また、第2実施形態の圧電基材が、繊維を備え、第1の圧電体及び繊維の組紐構造をなす場合、第1の圧電体を非導電性芯材に対して巻回する方法に準じて、第1の圧電体及び繊維を交互に交差して巻回することにより製造することができる。
また、第2実施形態の圧電基材が、第2の圧電体を備え、第1の圧電体及び第2の圧電体の組紐構造をなす場合も同様に、第1の圧電体を非導電性芯材に対して巻回する方法に準じて、第1の圧電体及び第2の圧電体を交互に交差して巻回することにより製造することができる。
また、第2実施形態の圧電基材が電極を備える場合、公知の方法により、電極を配置することにより製造することができる。
なお、第1の圧電体間、必要に応じて繊維及び第1の圧電体の間、第1の圧電体及び第2の圧電体の間、第2実施形態の圧電基材に備えられる各部材間を、例えば前述の方法により接着剤を介して貼り合わせることが好ましい。
【0140】
〔圧電織物〕
本実施形態の圧電織物は、織物構造体を備える。
織物構造体は、縦糸及び横糸からなる。
本実施形態の圧電織物では、上記縦糸及び横糸の少なくとも一方が、本実施形態の圧電基材(第1実施形態の圧電基材又は第2実施形態の圧電基材)を含む。
従って、本実施形態の圧電織物によれば、本実施形態の圧電基材と同様の効果が奏される。
ここで、織物とは、糸を交錯させて織物構造体を形成することによりフィルム形状に仕上げたもの全般を指す。圧電織物とは、織物の中でも、外部刺激(例えば物理力)によって圧電効果が発現される織物をいう。
【0141】
本実施形態の圧電織物において、縦糸及び横糸の両方は、本実施形態の圧電基材を含んでもよい。
この態様の場合、圧電感度、及び圧電出力の安定性を向上する観点から、縦糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向と、横糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向とが互いに異なり、かつ、縦糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、横糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとが同一であることが好ましい。
又は、縦糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向と、横糸に含まれる第1の圧電体の巻回方向とが同一であり、かつ、縦糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティと、横糸に含まれるヘリカルキラル高分子(A)のキラリティとが互いに異なることが好ましい。
【0142】
糸としては、例えば高分子を含む糸が挙げられる。
高分子を含む糸における高分子としては、ポリエステル、ポリオレフィン等の一般的な高分子が挙げられ、また、前述のヘリカルキラル高分子(A)等のヘリカルキラル高分子も挙げられる。
また、高分子を含む糸の概念には、本実施形態の圧電基材も包含される。
【0143】
本実施形態の圧電織物における織物構造体には特に制限はない。
織物構造体としては、平織(plain weave)、綾織(twill weave)、朱子織(satin weave)等の基本的な構造体が挙げられる。
本実施形態の圧電基材は、圧電織物中の縦糸として用いても横糸として用いてもよく、また、縦糸の一部として用いてもよく、横糸の一部として用いてもよい。
【0144】
本実施形態の圧電織物は、三次元的構造を有する織物であってもよい。三次元的構造を有する織物とは、二次元的構造に加えて織物の厚み方向にも糸(縦糸、横糸)を編みこむことで立体的に仕上げた織物である。
三次元的構造を有する織物の例は、例えば、特表2001−513855号公報に記載されている。
本実施形態の圧電織物では、織物構造体を構成する糸のうちの少なくとも一部が、本実施形態の圧電基材で構成されていればよい。
【0145】
〔圧電編物〕
本実施形態の圧電編物は、編物構造体を備える。編物構造体は、本実施形態の圧電基材を含む。
従って、本実施形態の圧電編物によれば、本実施形態の圧電基材と同様の効果が奏される。
ここで、編物とは、糸でループを作りながら編み合わせて製造されたもの全般を指す。圧電編物とは、編物の中でも、外部刺激(例えば物理力)によって圧電効果が発現される編物をいう。
【0146】
糸としては、例えば高分子を含む糸が挙げられる。
高分子を含む糸における高分子としては、ポリエステル、ポリオレフィン等の一般的な高分子が挙げられ、また、前述のヘリカルキラル高分子(A)等のヘリカルキラル高分子も挙げられる。
また、高分子を含む糸の概念には、本実施形態の圧電基材も包含される。
【0147】
本実施形態の圧電編物における編物構造体には特に制限はない。
編物構造体としては、緯編み(ヨコ編み)や経編み(タテ編み)等の基本的な構造体が挙げられる。緯編みには、平編み、リブ編み、両面編み、パール編み、丸編み等がある。また、経編みには、トリコット編み、アトラス編み、ダイヤモンド編み、ミラニーズ編み等の基本的な構造体が挙げられる。
本実施形態の圧電基材は、圧電編物中の糸として用いればよく、また、糸の一部として用いてもよい。
【0148】
本実施形態の圧電編物は、三次元的構造を有する編物であってもよい。三次元的構造を有する編物とは、二次元的構造に加えて編物の厚み方向にも糸を編みこむことで立体的に仕上げた編物である。
本実施形態の圧電編物では、編物構造体を構成する糸のうちの少なくとも一部が、本実施形態の圧電基材で構成されていればよい。
【0149】
<圧電織物又は圧電編物の用途>
本実施形態の圧電織物又は圧電編物は、少なくとも一部に圧電性が要求されるあらゆる用途に適用することができる。
本実施形態の圧電織物又は圧電編物の用途の具体例としては、各種衣料(シャツ、スーツ、ブレザー、ブラウス、コート、ジャケット、ブルゾン、ジャンパー、ベスト、ワンピース、ズボン、スカート、パンツ、下着(スリップ、ペチコート、キャミソール、ブラジャー)、靴下、手袋、和服、帯地、金襴、冷感衣料、ネクタイ、ハンカチーフ、マフラー、スカーフ、ストール、アイマスク)、テーブルクロス、履物(スニーカー、ブーツ、サンダル、パンプス、ミュール、スリッパ、バレエシューズ、カンフーシューズ)、タオル、袋物、バッグ(トートバッグ、ショルダーバッグ、ハンドバッグ、ポシェット、ショッピングバッグ、エコバック、リュックサック、デイパック、スポーツバッグ、ボストンバッグ、ウエストバッグ、ウエストポーチ、セカンドバック、クラッチバッグ、バニティ、アクセサリーポーチ、マザーバッグ、パーティバッグ、和装バッグ)、ポーチ・ケース(化粧ポーチ、ティッシュケース、めがねケース、ペンケース、ブックカバー、ゲームポーチ、キーケース、パスケース)、財布、帽子(ハット、キャップ、キャスケット、ハンチング帽、テンガロンハット、チューリップハット、サンバイザー、ベレー帽)、ヘルメット、頭巾、ベルト、エプロン、リボン、コサージュ、ブローチ、カーテン、壁布、シートカバー、シーツ、布団、布団カバー、毛布、枕、枕カバー、ソファー、ベッド、かご、各種ラッピング材料、室内装飾品、自動車用品、造花、マスク、包帯、ロープ、各種ネット、魚網、セメント補強材、スクリーン印刷用メッシュ、各種フィルター(自動車用、家電用)、各種メッシュ、敷布(農業用、レジャーシート)、土木工事用織物、建築工事用織物、ろ過布等が挙げられる。
なお、上記具体例の全体を本実施形態の圧電織物又は圧電編物で構成してもよいし、圧電性が要求される部位のみ本実施形態の圧電織物又は圧電編物で構成してもよい。
本実施形態の圧電織物又は圧電編物の用途としては、身体に身につけるウェアラブル製品が特に好適である。
【0150】
なお、本実施形態の圧電編物の具体的態様についての詳細は、圧電デバイスの具体的態様と共に後述する。
【0151】
〔圧電デバイス〕
本実施形態の圧電デバイスは、本実施形態の圧電織物又は本実施形態の圧電編物を備える。
即ち、本実施形態の圧電デバイスは、本実施形態の圧電基材もしくは本実施形態の圧電基材を含む圧電織物を備えるか、又は、本実施形態の圧電基材もしくは本実施形態の圧電基材を含む圧電編物を備える。
圧電織物又は圧電編物には電極が配置されていることが好ましい。電極は、圧電基材から発生する電荷を検出するための電極である。
電極材料としては特に限定はないが、金属(Al等)が挙げられるが、その他にも、例えば、Ag、Au、Cu、Ag−Pd合金、Agペースト、Cuペースト、カーボンブラック、ITO(結晶化ITO及び非晶ITO)、ZnO、IGZO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー(ポリチオフェン、PEDOT)、Agナノワイヤー、カーボンナノチューブ、グラフェン等も挙げられる。
従って、本実施形態の圧電デバイスによれば、本実施形態の圧電基材(第1実施形態の圧電基材又は第2実施形態の圧電基材)と同様の効果が奏される。
なお、本実施形態の圧電デバイスは、電極と、織物構造体又は編物構造体との間に絶縁体を備えることが好ましい。
これにより、電極間の電気的短絡の発生を抑制しやすい構造となる。
【0152】
<圧電基材の用途>
本実施形態の圧電基材(第1実施形態の圧電基材又は第2実施形態の圧電基材)は、例えば、センサー用途(着座センサー等の力センサー、超音波センサー、ラケット、ゴルフクラブ、バット等の各種球技用スポーツ用具の打撃時の加速度センサーやインパクトセンサー等)、アクチュエータ用途(シート搬送用デバイス等)、エネルギーハーベスティング用途(発電ウエア、発電靴等)、ヘルスケア関連用途(Tシャツ、スポーツウェア、スパッツ、靴下等の各種衣類、サポーター、ギプス、おむつ、靴、靴の中敷、時計等に本センサーを設けた、ウェアラブルモーションセンサー等)などとして利用することができる。
例えば、前述の圧電織物、圧電編物、及び圧電デバイスは、これらの用途に適用することができる。
上記用途の中でも、本実施形態の圧電基材は、センサー用途、又はアクチュエータ用途として利用することが好ましい。
具体的に、本実施形態の圧電基材は、力センサーに搭載して利用されるか、又は、アクチュエータに搭載して利用されることが好ましい。
【0153】
本実施形態の圧電基材の応力や歪によって発生した電荷又は表面電位を検出する方法としては、公知の非接触式表面電位計を用いる方法;公知の導電材料からなる電極を圧電基材に近接させることによってこの圧電基材に静電気的に結合させ、この状態で上記電極の電位変化を電圧計などで読み取る方法;等が挙げられる。また電極として公知の取出し電極を接合することができる。取出し電極としては、コネクター等の電極部品、圧着端子などが挙げられる。電極部品は、半田付けなどのろう付け、導電性接合剤等により圧電基材と接合することができる。
【0154】
以下、本実施形態に係る圧電編物の具体的態様について、図面を参照しながら説明する。
は、本実施形態に係る圧電織物の一例を示す概略図である。
に示すように、本実施形態の圧電編物20は、圧電基材10と、絶縁性糸16と、が緯編みで編まれており、編物構造体の一部に、具体的態様Aの圧電基材10が用いられている。
【0155】
本実施形態の圧電基材、本実施形態の圧電織物、及び本実施形態の圧電編物の用途としては、生体情報取得デバイスも好ましい。
即ち、本実施形態の生体情報取得デバイスは、本実施形態の圧電基材、本実施形態の圧電織物、又は本実施形態の圧電編物を含む。
本実施形態の生体情報取得デバイスは、上記圧電基材、上記圧電織物、又は上記圧電編物によって、被験者又は被験動物(以下、これらをまとめて「被験体」ともいう)の生体信号を検出することにより、被験体の生体情報を取得するためのデバイスである。
ここでいう生体信号としては、脈波信号(心拍信号)、呼吸信号、体動信号、心弾動、生体振戦、等が挙げられる。
生体振戦とは、身体部位(手指、手、前腕、上肢など)の律動的な不随意運動のことである。
【0156】
また、上記心弾動の検出には、身体の心機能による力の効果の検出も含まれる。
即ち、心臓が大動脈及び肺動脈に血液をポンピングする場合、体は、血流と反対の方向に反動力を受ける。この反動力の大きさ及び方向は、心臓の機能的な段階とともに変化する。この反動力は、身体の外側の心弾動をセンシングすることによって検出される。
【0157】
上記生体情報取得デバイスは、各種衣料(シャツ、スーツ、ブレザー、ブラウス、コート、ジャケット、ブルゾン、ジャンパー、ベスト、ワンピース、ズボン、パンツ、下着(スリップ、ペチコート、キャミソール、ブラジャー)、靴下、手袋、和服、帯地、金襴、冷感衣料、ネクタイ、ハンカチーフ、マフラー、スカーフ、ストール、アイマスク)、サポーター(首用サポーター、肩用サポーター、胸用サポーター、腹用サポーター、腰用サポーター、腕用サポーター、足用サポーター、肘用サポーター、膝用サポーター、手首用サポーター、足首用サポーター)、履物(スニーカー、ブーツ、サンダル、パンプス、ミュール、スリッパ、バレエシューズ、カンフーシューズ)、インソール、タオル、リュックサック、帽子(ハット、キャップ、キャスケット、ハンチング帽、テンガロンハット、チューリップハット、サンバイザー、ベレー帽)、ヘルメット、ヘルメット顎紐、頭巾、ベルト、シートカバー、シーツ、座布団、クッション、布団、布団カバー、毛布、枕、枕カバー、ソファー、イス、デスク、テーブル、シート、座席、便座、マッサージチェア、ベッド、ベッドパット、カーペット、かご、マスク、包帯、ロープ、各種ネット、バスタブ、床材、壁材、パソコン、マウス等の各種物品に配設されて使用される。
生体情報取得デバイスが配設される物品としては、履物、インソール、シーツ、座布団、クッション、布団、布団カバー、枕、枕カバー、ソファー、イス、シート、座席、便座、ベット、カーペット、バスタブ、床材等、被験体の体重がかかる物品が好ましい。
【0158】
以下、生体情報取得デバイスの動作の一例を説明する。
生体情報取得デバイスは、例えばベッド上又はイスの座面上などに配設される。この生体情報取得デバイス上に被験体が、横臥、着座、又は起立する。この状態で、被験体から発せられる生体信号(体動、周期的な振動(脈、呼吸など)等)によって、生体情報取得デバイスの圧電基材、圧電織物、又は圧電編物に張力が付与されると、これらの圧電基材、圧電織物、又は圧電編物に含まれるヘリカルキラル高分子(A)に分極が生じ、前記張力に比例した電位が発生する。この電位は被験体から発せられる生体信号に伴って経時的に変化する。例えば、被験体から発せられる生体信号が、脈、呼吸などの周期的な振動である場合には、圧電基材、圧電織物、又は圧電編物にて発生する電位も、周期的に変化する。
上記圧電基材、圧電織物、又は圧電編物への張力の付与に伴って発生した電位の経時的な変化を、電圧信号として測定モジュールにより取得する。取得される電位の経時的な変化(圧電信号)は、複数の生体信号(脈波信号(心拍信号)、呼吸信号、体動信号)の合成波である。この合成波をフーリエ変換によって周波数ごとに分離し、分離信号を生成する。生成した分離信号の各々を逆フーリエ変換することにより、分離信号の各々に対応する生体信号をそれぞれ得る。
【0159】
例えば、被験体から発せられる生体信号が心拍信号と呼吸信号との合成波である場合、生体情報取得デバイスの圧電基材、圧電織物、又は圧電編物への張力の付与に伴って発生する電位は、経時的に周期的に変化する。
一般に、人の脈は一分間当たり50〜90回であって周期としては0.6〜3Hzである。また、一般に、人の呼吸は一分間当たり16〜18回であって周期としては0.1〜1Hzである。また、一般に、人の体動は10Hz以上である。
これらの目安に基づき、複数の生体信号の合成波を、それぞれの生体信号に分離することができる。例えば、合成波を呼吸信号及び心拍信号に分離することができる。さらに心拍信号から速度脈波の信号を得ることもできる。
複数の生体信号の合成波のそれぞれの生体信号への分離は、例えば生体信号報知プログラムを用い、上記フーリエ変換及び上記逆フーリエ変換によって行う。
以上のようにして、複数の生体信号の合成波を、複数の生体信号の各々に分離することができる。
更に、上記のようにして分離された生体信号の少なくとも1つに基づき、生体信号データを生成してもよい。
生体信号データは、生体信号に基づいて算出されたものであれば、特に限定されない。 生体信号データとしては、例えば、単位時間当たりの生体信号数、過去の生体信号数の平均値などが挙げられる。
【実施例】
【0160】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0161】
<リボン状圧電体の作製>
(スリットリボン1の作製)
ヘリカルキラル高分子(A)としてのNatureWorks LLC社製ポリ乳酸(品名:IngeoTM biopolymer、銘柄:4032D)100質量部に対して、安定化剤〔ラインケミー社製Stabaxol P400(10質量部)、ラインケミー社製Stabaxol I(70質量部)、及び日清紡ケミカル社製カルボジライトLA−1(20質量部)の混合物〕1.0質量部を添加し、ドライブレンドして原料を作製した。
作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、210℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ6%であった。
得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度10m/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。得られたフィルムの厚さは49.2μmであった。
その後、前記一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に15秒間接触させアニール処理し、その後急冷を行って、圧電フィルムを作製した(アニール処理工程)。
その後、さらに圧電フィルムをスリット加工機を用いて、スリットする方向と圧電フィルムの延伸方向とが略平行となるように幅0.6mmでスリットした。これにより、リボン状圧電体として、幅0.6mm、厚さ49.2μmのスリットリボン1を得た。なお、得られたスリットリボン1の断面形状は矩形であった。
【0162】
(スリットリボン2の作製)
予備結晶化シートを3.4倍までMD方向に一軸延伸したこと以外は、スリットリボン1と同様の方法で延伸工程を実施して、厚さ15μmのフィルムを得た。その後、スリットリボン1と同様の方法でアニール処理工程を実施して、圧電フィルムを得た。
その後、さらに圧電フィルムをスリット加工機を用いて、スリットする方向と圧電フィルムの延伸方向とが略平行となるように幅0.2mmでスリットした。これにより、リボン状圧電体として、幅0.2mm、厚さ15μmのスリットリボン2を得た。なお、得られたスリットリボン2の断面形状は矩形であった。
【0163】
<糸状圧電体の作製>
(マルチフィラメント糸の作製)
ヘリカルキラル高分子(A)として、ポリ乳酸(融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸/D−乳酸のモル比が98.5/1.5(L−乳酸の含有量が98.5モル%)、数平均分子量8.5万)を準備した。
上記ポリ乳酸をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融混練した。紡糸口金より、紡糸温度225℃で溶融紡糸した後、糸条を冷却し、油剤を付与した。続いて一旦捲き取ることなく、150℃に加熱した熱ローラ間で熱延伸を施し、捲き取った。これにより、糸状圧電体として、総繊度295dtex(20番手:長軸径2.7μm)のマルチフィラメント糸(マルチフィラメント1本撚り)を得た。尚、マルチフィラメント糸1本撚りとは、多数の繊維を撚り合わせて一本の糸にした物である。
【0164】
(モノフィラメント糸の作製)
ヘリカルキラル高分子(A)として、ポリ乳酸(融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸/D−乳酸のモル比が98.5/1.5(L−乳酸の含有量が98.5モル%)、数平均分子量8.5万)を準備した。
上記ポリ乳酸をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融混練した。平角断面状の口金より、溶融押出した後、平角糸条を冷却し、続いて一旦捲き取ることなく、70℃に加熱して熱延伸を施し、さらに145℃で加熱し捲き取った。これにより、糸状圧電体として、幅120μm、厚さ30μmの平角断面状のモノフィラメント糸(モノフィラメント1本撚り)を得た。
【0165】
<リボン状圧電体、糸状圧電体の物性測定>
上記のようにして得られたリボン状圧電体及び糸状圧電体について、以下の物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0166】
<ポリ乳酸の配向度F>
広角X線回折装置(リガク社製 RINT2550、付属装置:回転試料台、X線源:CuKα、出力:40kV 370mA、検出器:シンチレーションカウンター)を用いて、サンプル(リボン状圧電体、糸状圧電体)をホルダーに固定し、結晶面ピーク[(110)面/(200)面]の方位角分布強度を測定した。
得られた方位角分布曲線(X線干渉図)において、結晶化度、及びピークの半値幅(α)から下記の式よりポリ乳酸の配向度F(C軸配向度)を算出して評価した。
配向度(F)=(180°−α)/180°
(αは配向由来のピークの半値幅)
【0167】
【表1】
【0168】
〔実施例1〕
<圧電基材の作製>
図1に示す圧電基材10、すなわち、芯材がない圧電基材10と同様の構成の圧電基材を以下に示す方法により作製した。
上記のようにして得た糸状圧電体(マルチフィラメント糸1本撚り)を仮想の螺旋軸に対して左巻きに、前記螺旋軸に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、隙間なく、螺旋状に巻回(旋回)した。前記螺旋軸は、糸状圧電体により形成される螺旋構造の中心軸に相当する。なお、撚り数(捩り数)は、実体顕微鏡で10mm当たり10ターン程度の撚り数であることを目視観察し、本実施例の1m当たりの撚り数を1000ターン(1000T/m)とした。なお、「左巻き」とは、前記螺旋軸の一端(図1の場合、右端側)から見たときに、手前側から奥側に向かって糸状圧電体が左巻き(反時計回り)で巻回していることをいう。
以上のようにして、実施例1の圧電基材を得た。
なお、糸状圧電体は、図1中の第1の圧電体14Aに相当する。螺旋軸は、図1中のG1に相当する。
【0169】
<評価>
(単位引張力当たりの発生表面電位)
実施例1の圧電基材をサンプルとして、チャック間距離を、50mmとし、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG1250)にチャックした。
引張試験機で、サンプルに対して、1.0N〜2.0Nの応力範囲で周期的に三角波状に繰り返し張力を印加し、その時のサンプルの表裏に発生する表面電位を表面電位計(トレック社MODEL541A−2)で測定した。
尚、表面電位計のセンサーヘッドは、引張試験機のチャック間の中央部に設置し、円筒形のセンサーヘッドの円形端面の法線が、測定対象となる線状の圧電基材に直交するように、2mmの距離に近接させて測定した。
また、測定サンプルおよび引張試験機のチャック部位の周囲は、アルミ金属板で囲み、静電シールドし、アルミ金属板と表面電位計のグランド電極を電気的に接続し測定した。
測定した表面電位差ΔV[V]をY軸とし、サンプルの引張力F[N]をX軸としたときの散布図の相関直線の傾きから、単位引張力当たりの発生表面電位を算出し、印加力(張力)に対する電圧感度(力−電圧感度)[V/N]とした。結果を表2に示す。なお、表2に示す力−電圧感度の値は、絶対値である。
力−電圧感度は、ヘリカルキラルポリマーの圧電性発現の仕組みと、巻回の方向の関係より右巻きと、左巻きとでは、張力が増大したときの表面電位計で測定される表面電位の変化分の正負の符号が互いに反対になる。このため、本実施例では、力−電圧感度は負の値となる。
【0170】
〔実施例2〕
図3に示す圧電基材10Bと同様の構成の圧電基材を以下に示す方法により作製した。
まず芯材として、帝人社製メタ系アラミド繊維コーネックス(40番手、線径0.12mm、長さ200mm、2本撚り)を準備した。
次に、上記のようにして得た糸状圧電体(マルチフィラメント糸1本撚り)を2本芯材の周りに左巻きに、芯材の軸方向(螺旋軸方向)に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、芯材が露出して見えないよう隙間なく、螺旋状に巻回し、芯材を包接した。なお、「左巻き」とは、芯材の軸方向の一端(図3の場合、右端側)から見たときに、芯材の手前側から奥側に向かって糸状圧電体が左巻きで巻回していることをいう。巻回には、装飾衣装等に用いられるラメ糸の製造装置に用いられるカバリング装置を用いた。
以上のようにして、実施例2の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
なお、芯材は、図3中の芯材12Aに相当する。糸状圧電体は、図3中の第1の圧電体14Aに相当する。螺旋軸は、図3中のG3に相当する。
【0171】
〔実施例3〕
実施例2と同様の構成の圧電基材のうち、糸状圧電体を以下に示す構成の材料に変えて、圧電基材を作製した。
芯材として、帝人社製メタ系アラミド繊維コーネックス(40番手、線径0.12mm、長さ200mm、2本撚り)の周りに、上記のようにして得た幅0.6mm、厚さ49.2μmのリボン状圧電体(スリットリボン1)を芯材の周りに左巻きに、芯材の軸方向(螺旋軸方向)に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、芯材が露出して見えないよう隙間なく、螺旋状に巻回し、芯材を包接した。
以上のようにして、実施例3の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0172】
〔実施例4〕
実施例1で得られた圧電基材の糸状圧電体に東亞合成社製のアロンアルファ201(シアノアクリレート系接着剤)を滴下、含浸させて前記アロンアルファ201を硬化させたこと以外は実施例1と同様の方法で圧電基材を作製した。
以上のようにして、実施例4の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0173】
〔実施例5〕
実施例2で得られた圧電基材の糸状圧電体に東亞合成社製のアロンアルファ201(シアノアクリレート系接着剤)を滴下、含浸させて前記アロンアルファ201を硬化させたこと以外は実施例2と同様の方法で圧電基材を作製した。
以上のようにして、実施例5の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0174】
〔実施例6〕
実施例3で得られた圧電基材のリボン状圧電体に東亞合成社製のアロンアルファ201(シアノアクリレート系接着剤)を滴下、含浸させて前記アロンアルファ201を硬化させたこと以外は実施例3と同様の方法で圧電基材を作製した。
以上のようにして、実施例6の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0175】
〔実施例7〕
上記のようにして得た幅0.6mm、厚さ49.2μmのリボン状圧電体(スリットリボン1)を芯材がない状態で右巻きに1m当たり1540ターン(1540T/m)撚糸加工し、中心が中空のチューブ状の状態とした。得られたチューブを一体化するために、東亞合成社製のアロンアルファ201(シアノアクリレート系接着剤)を滴下、含浸させて一体化した。以上のようにして、実施例7の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0176】
以下の実施例8〜実施例11では、表2に示す芯材及び圧電体の材料、並びに、圧電体の旋回(巻回)方向に従い、実施例2に準じる方法により圧電基材を作製した。
【0177】
〔実施例8〕
まず芯材として、東レ社製 熱融着ナイロン繊維 エルダー(330T−102−EL94)を5本束ねたものを準備した。
次に、上記のようにして得た幅0.6mm、厚さ49.2μmのリボン状圧電体(スリットリボン1)を芯材の軸方向(螺旋軸方向)に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、芯材が露出して見えないよう隙間なく、螺旋状に右巻に巻回し、芯材を包接した。
さらに上記熱融着ナイロン繊維(以下、「熱融着繊維」ともいう)を溶融し圧電体を接着一体化するために、120℃に設定したオーブンに投入し15分間加熱し、溶融一体化した。
以上のようにして、実施例8の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0178】
〔実施例9〕
まず芯材として、東レ社製 ポリエステル糸(マルチフィラメント糸40デニール)を3本束ねたものを準備した。
次に、上記のようにして得た幅120μm、厚さ30μmの糸状圧電体(モノフィラメント糸)を芯材の軸方向(螺旋軸方向)に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、芯材が露出して見えないよう隙間なく、左巻に螺旋状に巻回し、芯材を包接した。
以上のようにして、実施例9の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0179】
〔実施例10〕
まず芯材として、東レ社製 ポリエステル糸(マルチフィラメント糸40デニール)を3本束ねたものを準備した。上記のようにして得た幅0.2mm、厚さ15μmのリボン状圧電体(スリットリボン2)を芯材の周りに左巻きに、芯材の軸方向(螺旋軸方向)に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、芯材が露出して見えないよう隙間なく、左巻に螺旋状に巻回し、芯材を包接した。
以上のようにして、実施例10の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0180】
〔実施例11〕
まず芯材として、東レ社製 ポリエステル糸(マルチフィラメント糸40デニール)を3本束ねたものを準備した。次に東レ社製 熱融着ナイロン繊維 エルダー(330T−102−EL94、297デニール)1本を芯材に螺旋状に巻回して包接した。上記のようにして得た幅0.2mm、厚さ15μmのリボン状圧電体(スリットリボン2)を上記熱融着繊維が巻回された芯材の周りに左巻きに、芯材の軸方向(螺旋軸方向)に対して45°の方向を向くように(螺旋角度45°)、芯材が露出して見えないよう隙間なく、左巻きに螺旋状に巻回し、芯材を包接した。 さらに上記熱融着繊維を溶融し圧電体と芯材とを接着一体化するために、120℃に設定したオーブンに投入し15分間加熱した。
以上のようにして、実施例11の圧電基材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。但し、評価ではチャック間距離を表2に従って変更した。結果を表2に示す。
【0181】
(接着剤の硬化物の引張弾性率)
実施例4の圧電基材の作製で用いた接着剤(シアノアクリレート系接着剤)を用いて、ASTM D−882に準拠して接着剤の硬化物の引張弾性率を測定した。測定結果は、330MPaであった。なお、測定方法は以下の通りである。
水溶性のポリビニルアルコール(PVA)製のシートで深さ0.5mm、短辺30mm、長辺80mmの桶を造り、そこに接着剤を流し込み、硬化させた。硬化後、水溶性PVC製のシートを水に溶かし取り除くことで、接着剤の硬化物の短冊型試験片を得た。前記短冊形試験片を、チャック間距離を、50mmとし、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG1250)にチャックした。引張試験機で、サンプルに対して、1.0N〜2.0Nの応力範囲で周期的に三角波状に繰り返し張力を印加し、接着剤の硬化物の短冊形試験片の歪を測定した。その結果から引張弾性率を算出した。
【0182】
【表2】
【0183】
実施例1、4、7の圧電基材は、仮想の螺旋軸に対して一方向に螺旋状に巻回された圧電体を備え、芯材を備えない。また、実施例2、3、5、6、8〜11の圧電基材は、芯材と、当該芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された圧電体を備える。
表2に示すように、いずれの実施例1〜11の圧電基材も、張力の印加により表面電位が発生し、「力−電圧感度」が良好であること、すなわち、圧電性が発現されていることがわかった。
これは、実施例1〜11の圧電基材では、螺旋軸に対する圧電体の配置方向(圧電体の長さ方向)と、ヘリカルキラル高分子(A)の主配向方向と、が略平行となっているため、圧電基材への張力の印加により、圧電体に含まれるヘリカルキラル高分子(A)に分極が効果的に生じたためと考えられる。
特に、圧電体が接着剤を含浸した実施例4〜6は、かかる接着剤を含浸していない実施例1〜3に比べ、より大きな「力−電圧感度」が得られることがわかった。これは、実施例4〜6の圧電基材では、隣接する圧電体同士が接着剤で接着されているため、圧電体に張力が伝わりやすくなり、より効果的にヘリカルキラル高分子(A)に分極が生じたためと考えられる。
また、圧電体と芯材とが熱融着繊維によって接着一体化された実施例11は、接着一体化されていない実施例10に比べ、より大きな「力−電圧感度」が得られることがわかった。これは、圧電基材に印加された張力が接着剤を介することにより、圧電体と芯材間のずれが抑制され、圧電体に伝達されるずり応力が増大するためと考えられる。
なお、芯材として導電性芯材を備える圧電基材は、繰り返し折り曲げ等の負荷がかかることによって、導電性芯材の金属の導体部分が疲労破壊しやすい傾向があるが、実施例1〜11の圧電基材は、芯材がないか(実施例1、4、7)、又は、芯材として非導電性芯材を備えるため(実施例2、3、5、6、8〜11)、上記導電性芯材を備える圧電基材に比べ、疲労破壊が低減され、繰り返し折り曲げ等の負荷や変形に対する耐性が向上することが示唆された。
【0184】
2016年6月6日に出願された日本出願2016−113011の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6