特許第6818051号(P6818051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6818051
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】生物学的試料からの核酸抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20210107BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   C12Q1/6806 Z
   C12N15/10 100Z
   C12N15/10 120Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-562493(P2018-562493)
(86)(22)【出願日】2017年2月24日
(65)【公表番号】特表2019-505235(P2019-505235A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】KR2017002088
(87)【国際公開番号】WO2017146532
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0023251
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0023193
(32)【優先日】2017年2月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518299965
【氏名又は名称】シーティー・バイオ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ホン・ミン
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ユン・ベク
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−510239(JP,A)
【文献】 J. Microbiol. Methods,2005年,Vol. 63,p. 115-126
【文献】 J. Microbiol. Methods,2013年,Vol. 94,p. 103-110
【文献】 Bio Techniques,2004年,Vol. 36,p. 808-812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 − 1/70
C12N 15/00 − 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)糞便、血液および土壌からなる群より選択される生物学的試料に緩衝溶液(buffer solution)、5〜10%(v/v)のアニオン性界面活性剤およびビード(bead)を添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティング(bead beating)することによって生物学的試料を破砕するステップ、
(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を精製するステップ、
(c)前記精製された溶液に、1.0〜2.5Mの硫酸ナトリウム(NaSO)溶液であるコスモトロピック塩(Kosmotropic salt)溶液を添加して再精製するステップ、および
(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップ
を含む、生物学的試料からの核酸抽出方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)は、前記生物学的試料−ビード溶液を10〜80Hz条件でビードビーティングして生物学的試料を破砕することを特徴とする、請求項に記載の生物学的試料からの核酸抽出方法。
【請求項3】
前記精製は遠心分離または濾過によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の生物学的試料からの核酸抽出方法。
【請求項4】
前記再精製は遠心分離または熱処理によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の生物学的試料からの核酸抽出方法。
【請求項5】
前記熱処理は50〜90℃で行われることを特徴とする、請求項に記載の生物学的試料からの核酸抽出方法。
【請求項6】
(a)糞便、血液および土壌からなる群より選択される生物学的試料に緩衝溶液、5〜10%(v/v)のアニオン性界面活性剤およびビードを添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティングすることによって生物学的試料を破砕するステップ、
(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を遠心分離して精製するステップ、
(c)前記精製された溶液に、1.0〜2.5Mの硫酸ナトリウム(NaSO)溶液であるコスモトロピック塩溶液を添加し遠心分離して再精製するステップ、および
(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップ
を含む、生物学的試料からの核酸抽出方法。
【請求項7】
(a)糞便、血液および土壌からなる群より選択される生物学的試料に緩衝溶液、5〜10%(v/v)のアニオン性界面活性剤およびビードを添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティングすることによって生物学的試料を破砕するステップ、
(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を濾過して精製するステップ、
(c)前記精製された溶液に、1.0〜2.5Mの硫酸ナトリウム(NaSO)溶液であるコスモトロピック塩溶液を添加し熱処理して再精製するステップ、および
(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップ
を含む、生物学的試料からの核酸抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料からの核酸抽出方法に関し、より詳しくは、既存の商業的な生物学的試料を用いた核酸抽出方法とは差別化される方法によって複雑な環境および生物学的試料から不純物を効果的に除去して核酸回収率を向上させた核酸抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、選択培地法(selective media method)、特定の抗体または抗原を用いた特異反応法、または核酸増幅法のような方法のように敏感で正確に病原菌を検出する様々な方法が開発されてきた。前記方法の検出の限界点は、ナノパーティクル(Nano particle)、酵素(Enzyme)、化学発光試薬(chemiluminescent reagent)、またはリポソーム(Liposome)のような幾つかの生物学的または化学的材料を用いた検出信号増幅の導入によって急激に発展してきており、この中でも幾つかの方法は既に商業化されている。
【0003】
しかし、サンプル前処理過程(濃縮、精製)は続けて長い時間が必要となるため、依然として試料からの病原菌検出方法における信号増幅法の開発と検出時間の短縮は重要な発展課題として残っている。
【0004】
抗体を用いた検査法または酵素反応のような生物学的な検出方法は、試料の複雑な成分のために前処理過程なしで行われ難く、さらには、このような濃縮プロセスはノロウイルス(Norovirus)のように培養が不可能なターゲットの場合には適用し難い。
【0005】
飲水と果物、野菜のような簡単な食べ物サンプルに内在している病原菌の物理的、化学的または生物学的な濃縮方法は、遠心分離法、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)を用いた堆積法、電荷を帯びたフィルタを用いた濃縮法、NaClを用いたイオン強さの増加を通じた吸着法、2価カチオン(Ca2+、Mg2+)を用いた濃縮法および抗体を用いた分離法のように多様に開発されている。
【0006】
しかし、現場でバクテリアまたはウイルスを速くてかつ生産性があるように検出するためには、長い前処理時間の短縮と低濃度における検出効率の増加という二つの重要な問題点が残っている。したがって、科学的や商業的に簡単に病原菌を濃縮および破壊する方法が持続的に要求されている。
【0007】
生物学的試料が糞便である場合、既存の商業化された工程は糞便試料を分離する過程で糞便を沈殿させて核酸と分離する方法を多く用いている。例えば、MoBio Laboratories Inc.(Carlsbad、USA)ではアルミニウム(Aluminum)のような3価カチオンを用いて不純物を凝集(flocculation)させ、ブームテクノロジー(Boom technology)を用いてDNAを濃縮/精製するのに重要な特徴はAl3+、NH3+を用いて沈殿させる方法などにあり、糞便または土壌のような複雑な試料に非常に効果的であり、現存する技術のうち最も高い効率を示しているが、回収率が1%未満に留まっている。キアゲン(Qiagen、Hilden、Germany)では炭水化物系吸着マトリックス(Carbohydrate based adsorptive matrix)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)を阻害する物質を吸着させて除去し、これは糞便試料のような複雑な試料を精製するのに非常に効果的であるが、回収率が0.1%未満である。また、Zymo Research Corp.(Irvine、USA)では500μmのビードを用いて物理的な力を加えることによって糞便内に存在する核酸を抽出する方法を提案しているが、糞便試料に存在する様々な不純物を除去することができず、精製率が低いという限界点を有している。
【0008】
したがって、前記糞便のような複雑な試料に存在する様々な不純物を除去して核酸抽出率を高める方法に関する開発が必要な現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生物学的試料から効果的に核酸を抽出するために界面活性剤およびコスモトロピック塩を用いることによって、バクテリアおよび核酸回収率を向上できる生物学的試料からの核酸抽出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一様態は、(a)生物学的試料に緩衝溶液(buffer solution)、界面活性剤およびビード(bead)を添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティング(bead beating)によって生物学的試料を破砕するステップ、(b)前記破砕された生物学的試料−ビード溶液を分離するステップ、(c)前記精製された溶液にコスモトロピック塩(Kosmotropic salt)溶液を添加して再精製するステップ、および(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップを含む生物学的試料からの核酸抽出方法を提供する。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記界面活性剤はアニオン性界面活性剤であってもよい。
【0012】
本発明の一実施例によれば、前記界面活性剤は、前記生物学的試料の総重量を基準に1〜20%(v/v)であってもよい。
【0013】
本発明の一実施例によれば、前記ステップ(a)は、前記生物学的試料−ビード溶液を10〜80Hz条件でビードビーティングして生物学的試料を破砕することであってもよい。
【0014】
本発明の一実施例によれば、前記精製は遠心分離または濾過によって行われるものであってもよい。
【0015】
本発明の一実施例によれば、前記再精製は遠心分離または熱処理によって行われるものであってもよい。本発明の一実施例によれば、前記熱処理は50〜90℃で行われてもよい。
【0016】
本発明の一実施例によれば、前記コスモトロピック塩溶液は硫酸ナトリウム(NaSO)溶液であってもよい。
【0017】
本発明の一実施例によれば、前記コスモトロピック塩溶液は1.0〜5.0Mの溶液であってもよい。
【0018】
本発明の一実施例によれば、前記生物学的試料は、糞便、血液および土壌からなる群より選択されるいずれか一つであってもよい。
【0019】
本発明の一様態は、(a)生物学的試料に緩衝溶液、界面活性剤およびビードを添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティングすることによって生物学的試料を破砕するステップ、(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を遠心分離して精製するステップ、(c)前記精製された溶液にコスモトロピック塩溶液を添加し遠心分離して再精製するステップ、および(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップを含む、生物学的試料からの核酸抽出方法を提供する。
【0020】
本発明のまた他の一様態は、(a)生物学的試料に緩衝溶液、界面活性剤およびビードを添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティングすることによって生物学的試料を破砕するステップ、(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を濾過して精製するステップ、(c)前記精製された溶液にコスモトロピック塩溶液を添加し熱処理して再精製するステップ、および(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップを含む、生物学的試料からの核酸抽出方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生物学的試料を破砕するステップおよび精製するステップにおいて各々界面活性剤およびコスモトロピック塩溶液を添加することによって、試料中の不純物を効果的に除去してバクテリアおよび核酸回収率が向上し、それにより、敏感で正確に病原菌を検出できるようにする効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】界面活性剤の濃度に応じた全体バクテリア回収、バクテリア回収率、核酸回収率、および糞便分離を示す図である。
図2】硫酸ナトリウム(NaSO)の濃度に応じた全体バクテリア回収、および糞便分離を示す図である。
図3】熱処理に応じた全体バクテリア回収、バクテリア回収率、および核酸回収率を示す図である。
図4】遠心分離強さに応じた全体バクテリア回収、バクテリア回収率、核酸回収率、および糞便分離を示す図である。
図5】糞便試料の種類に応じた全体バクテリア回収、バクテリア回収率、および核酸回収率を示す図である。
図6】糞便試料の量に応じた犬(上段)およびヒト(下部)糞便試料の分離および精製結果を示す図である。
図7】試料量に応じたヒト血液試料の分離および精製結果(a)、および本発明および市販キット(キアゲン(Qiagen)社)によるウイルス回収率およびグラム陽性バクテリアの回収率(b)を示す図である。
図8】土壌試料の分離および精製結果(a)、および土壌試料におけるグラム陽性バクテリアの回収率(b)を示す図である。
図9】様々なビード大きさに応じた糞便試料からの核酸抽出率(a)、および様々なビード大きさに応じた黄色ブドウ球菌核酸回収率(b)を示す図である。
図10】濾過および遠心分離を用いた糞便試料の分離および精製結果を示す図である。
図11】熱処理によって糞便試料(a)および血液試料(b)を再精製した結果aおよび糞便試料における核酸回収率(c)を示す図である。
図12】精製ステップを濾過により、再精製ステップを熱処理により行った、非遠心分離方法を用いた糞便試料の分離および精製結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一様態は、(a)生物学的試料に緩衝溶液、界面活性剤およびビードを添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティングすることによって生物学的試料を破砕するステップ、(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を精製するステップ、(c)前記精製された溶液にコスモトロピック塩溶液を添加して再精製するステップ、および(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップを含む、生物学的試料からの核酸抽出方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0025】
本発明の発明者らは、生物学的試料からの核酸抽出方法を研究開発している最中、生物学的試料を破砕するステップおよび精製するステップにおいて各々界面活性剤およびコスモトロピック塩を添加する場合、不純物を沈殿させる代わりに上部に浮かすことによって全体バクテリア回収、バクテリア回収率および核酸回収率が向上して、より敏感で正確に病原菌を検出できることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0026】
本発明の一様態は、(a)生物学的試料に緩衝溶液、界面活性剤およびビードを添加して製造された生物学的試料−ビード溶液をビードビーティングすることによって生物学的試料を破砕するステップ、(b)前記生物学的試料が破砕された生物学的試料−ビード溶液を精製するステップ、(c)前記精製された溶液にコスモトロピック塩溶液を添加して再精製するステップ、および(d)前記再精製された溶液から核酸を抽出するステップを含む、生物学的試料からの核酸抽出方法を提供する。
【0027】
本明細書に用いられる用語「生物学的試料」は、生物から得ることができる試料だけでなく、核酸を含有する余地のある全ての試料を指し示す。具体的には、ヒトおよび動物の血液、植物の体液、ヒトおよび動物の排せつ物、微生物培養液、細胞培養液、ウイルス培養液、生検培養液、土壌、空気などを含み、好ましくは糞便、血液、土壌を含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本明細書に用いられる用語「緩衝溶液」は、その種類は特に制限されず、その例としてトリス緩衝溶液、リン酸ナトリウム(Sodium phosphate)緩衝溶液またはリン酸カリウム(Potassium phosphate)緩衝溶液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくはトリス−塩酸(tris−HCl)溶液であり、より好ましくは5〜15mMのトリス−塩酸溶液である。
【0029】
本明細書に用いられる用語「界面活性剤」としてはアニオン性、カチオン性、両性または非イオン性界面活性剤であってもよいが、アニオン性界面活性剤がより好ましい。アニオン性界面活性剤は、例えば、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)、ナトリウムオクチルベンゼンスルホネート(NaOBS)、ナトリウムドデシルベンゼンスルフェート(SDBS)、ナトリウムドデシルスルホネート(SDSA)、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムブチルベンゾエート(NaBBS)、アンモニウムラウリルスルフェート、ナトリウムデオキシコレート、ナトリウムラウリルエーテルスルフェート(SLES)、ナトリウムミレススルフェート(SMES)、ジオクチルナトリウムスルホサクシネート、ペルフルオロオクタンスルホネート(PFOS)、ペルフルオロブタンスルホネート、ナトリウムステアレート、ナトリウムラウロイルサルコシネート、ペルフルオロノナノエートおよびペルフルオロオクタネート(PFOAまたはPFO)およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるいずれか一つであってもよいが、これらに限定されるものではなく、好ましくはナトリウムドデシルスルフェートである。本発明において、界面活性剤を添加する理由は、試料内のターゲット物質の破壊効果を増大させることができ、不純物による核酸分離阻害を防止するためである。本発明において、前記界面活性剤は、生物学的試料の総重量を基準に1〜20%(v/v)であってもよいが、1%未満または20%超過の場合には核酸回収率が阻害される。
【0030】
本明細書に用いられる用語「ビードビーティング」は、試料中の固体物質を物理的な力で破砕する方法であって、ビードが含まれた試料溶液を手で振るかまたは自動振動機を用いて行う。本発明では、自動振動方法によってビードを振動させる方法を用いた。前記「ビード」の素材は特に制限はないが、好ましくは、ガラスビードが用いられる。前記ビードの直径は0.03〜2mm、好ましくは0.1mm〜0.5mm大きさのビードまたはこれらの混合物であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。試料溶液中に含まれるビードの量は10〜200mgが好ましく、より好ましくは、生物学的試料−ビード溶液の1〜25重量%であってもよい。本発明において、生物学的試料−ビード溶液を10〜80Hz条件でビードビーティングによって生物学的試料を破砕することができるが、これに限定されるものではない。前記ビードビーティングは3〜10分間行われることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0031】
本明細書における精製ステップは、粒子大きさの大きい不純物を核酸が含まれた液相物質から一次的に分離する過程を意味し、これは、遠心分離または濾過によって行われることができる。遠心分離によって精製する場合、好ましくは、前記破砕された生物学的試料−ビード溶液を6000〜9000rpmで30〜90秒間遠心分離してその上層液のみを固体不純物から分離することができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
本明細書の再精製ステップは、前記精製された溶液にコスモトロピック塩溶液を添加することによって粒子大きさの小さい不純物を核酸が含まれた液相物質の上部に浮かすことで2次的に分離する過程を意味し、これは、遠心分離または熱処理によって行われることができる。
【0033】
本明細書に用いられる用語「コスモトロピック塩」は、SO2−、HPO2−、OH、F、HCOO、CHCOOまたはClとカチオンとからなる塩を意味する。但し、前記カチオンとしてMg2+は前記コスモトロピックアニオンと結合する場合に例外的にコスモトロピック特性を有しないので、Mg2+は除く。前記カチオンは、NH、Rb、K、Na、Cs、Li、Ca2+またはBa2+であってもよい。前記コスモトロピック塩は、好ましくは硫酸ナトリウム(NaSO)、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸アンモニウム((NHSO)、酢酸ナトリウム(NaOAc)であってもよいが、これらに限定されるものではなく、硫酸ナトリウムが最も好ましい。前記硫酸ナトリウム溶液の濃度は1.0〜5.0Mであることが好ましいが、これに限定されるものではない。コスモトロピック塩溶液を添加する理由は核酸と不純物を分離するためである。コスモトロピック塩溶液を添加した後、該混合物を遠心分離または熱処理することによって上部に分離される不純物を再度除去することができる。前記遠心分離は6000〜9000rpmで30〜90秒間遠心分離することによって行われることができるが、これに限定されるものではない。前記熱処理は50〜90℃で行われることができるが、これに限定されるものではない。
【0034】
本明細書に用いられる用語「核酸抽出」は、当業界で公知の方法によって行われることができ、具体的には、文献[米国特許登録第5234809号]を参照する。
【0035】
前記精製ステップと再精製ステップは、前記開示された方法を任意に選択することによって行うことができる。好ましくは、i)精製ステップと再精製ステップをいずれも遠心分離によって行うことができ、または、ii)精製ステップは濾過によって行い、再精製ステップは熱処理によって行うことができる。特に、i)の方法はキット化方式にii)の方法を用いる場合には機器自動化方式に適用するのに好適である。
【0036】
以下、下記の実施例によって本発明についてより詳細に説明する。但し、このような実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例1.糞便試料の分離および精製
糞便試料200mgに緩衝溶液として10mMのトリス−塩酸(pH8以上)400μlおよび界面活性剤としてナトリウムドデシルスルフェート(SDS、AMRESCO)を緩衝溶液の体積基準の濃度が6%(v/v)になるように添加し、糞便試料および検測対象の破砕のために100μmガラスビード0.4g(DAIHAN科学)を投入した後、50Hzの条件で5分間ビードビーティング(Scientific Industries)を行った。その後、8,000rpmで1分間遠心分離(LABOGENE)して上層液を移し替え、分離された上層液に2.5Mの硫酸ナトリウム(NaSO、Sigma−Aldrich)溶液を添加して均一に混合されるように攪拌した後、再び8,000rpmで1分間遠心分離した。1分後、液体上段に不純物が浮かぶと、下段の溶液のみを新しいチューブに移した。移された溶液は、ブームテクノロジー(Boom technology)を用いて核酸を抽出した(文献[US005234809A]参考])。
【0038】
実施例2.界面活性剤の濃度に応じた糞便試料からのバクテリアおよび核酸の回収率の確認
2.1.界面活性剤の濃度を異にして糞便試料を分離および精製
糞便試料からSDS濃度に応じたバクテリアおよび核酸の回収率を確認するために、糞便試料200mgに10cfu/mlの濃度で準備したサルモネラ(salmonella、ATCC)または10cfu/mlの濃度で抽出した黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus、ATCC)のDNAを追加し、SDSを緩衝溶液の体積基準の各濃度が1.2%、3%、4%、5%、6%、10%、20%になるように添加することを除いては、前記実施例1のような全体工程を行った(図1の(d)参照)。
【0039】
2.2.分離された試料から全体バクテリア量、バクテリア回収率、核酸回収率の測定
核酸抽出はブームテクノロジーを用いて核酸を抽出し、分離された核酸は全体バクテリア量を測定するためにユニバーサルバクテリアプライマ(Universal Bacteria primer)を用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行ってその量を比較し、バクテリアおよび核酸回収率は((抽出されたバクテリアまたは核酸の濃度)/(初期に添加されたバクテリアまたは核酸の濃度)*100(%))を用いて計算した。
【0040】
実験結果、SDSが6%の濃度で添加された場合において、全体バクテリア量の測定(図1の(a)参照)、バクテリア回収率(図1の(b)参照)、核酸回収率(図1の(c)参照)が最も優れた効果を示した。また、糞便試料の抽出において最も多く用いられるMO BIO社で販売するキットと比較した時にも、全体緩衝溶液の体積基準の6%のSDSを用いた時に最も回収率が高く測定されることを確認した。
【0041】
実施例3.硫酸ナトリウム溶液の濃度に応じた糞便試料からのバクテリア回収量の確認
3.1.硫酸ナトリウム溶液の濃度を異にして糞便試料を分離および精製
効果的に糞便試料を分離しつつ核酸を抽出できる硫酸ナトリウム(NaSO)溶液の濃度を確認するために、硫酸ナトリウム溶液の濃度別(0.25M(0.1X)、1.25M(0.5X)、および2.5M(1X)に異にして添加したことを除いては、前記実施例1のような全体工程を行った(図2の(b)参照)。
【0042】
3.2.分離された試料から全体バクテリア量の測定
前記実施例2.2.に記載された方法によって全体バクテリア回収量を測定した結果、2.5M(最終濃度0.7M)の硫酸ナトリウム溶液を用いた場合の全体バクテリア回収量が最も高く示され(図2の(a)参照)、2.5Mの場合にのみ糞便試料が溶液上段に浮かぶ結果を示した(図2の(b)参照)。
【0043】
実施例4.熱処理に応じた核酸抽出量の確認
精製ステップ前に糞便試料に熱処理が必要であるか否かを確認するために(蓋が自ずから開かれない)40℃の条件で時間別(処理しない、5分、10分および20分)に熱処理を行ったことを除いては、前記実施例1および2のような全体工程を行って核酸抽出量を確認した。
【0044】
実験結果、現在の糞便を分離する過程で糞便試料を熱処理して核酸抽出を行う商業化されたキットのうちキアゲン社のキットとは異なり、糞便試料に熱処理をしないもの(0分)が核酸抽出量、バクテリア回収率およびDNA回収率が高く測定されることを確認した(図3の(a)〜(c)参照)。
【0045】
実施例5.遠心分離強さに応じた核酸抽出量の確認
糞便試料を分離するための効果的な遠心分離強さを確認するために、遠心分離を行う強さを2,000rpm、4,000rpm、6,000rpmおよび8,000rpmの条件に異にすることを除いては、前記実施例1および2のような全体工程を行った。
【0046】
実験結果、遠心分離強さを8,000rpmの条件で遠心分離を行う場合、Ct(Threshold of Cycle)値が最も低く示され(図4の(a)参照)、最も多い量の核酸が存在することを確認した。
【0047】
実施例6.対象試料の種類に応じたバクテリアおよび核酸回収率の確認
犬の糞便とヒトの糞便に応じたバクテリアおよび核酸の回収率を確認するために、各試料に対して前記実施例1および2と同様の実験を行う一方、試料の種類に関係なく最も多く用いられるMO BIO社のキットで同一の結果内容を測定した。
【0048】
実験結果、MO BIO社のキットと比較した時、全体バクテリア回収量、バクテリア回収率および核酸回収率の部分においていずれも優れた性能を示すことを確認した。
【0049】
実施例7.試料の量に応じたバクテリアおよび核酸回収率の確認
現在商業化されたキットは約200〜250mgの試料を用いるように求められているが、より少ない量の試料においても核酸抽出が可能であることを確認するために、犬とヒトの糞便2種の試料の量を異にすること、すなわち、10mg(糞便10mg+蒸留水190μl)、20mg(糞便20mg+蒸留水180μl)、50mg(糞便50mg+蒸留水150μl)、100mg(糞便100mg+蒸留水100μl)、150mg(糞便150mg+蒸留水50μl)、200mg(糞便200mg)および250mg(糞便250mg)の試料を用いたことを除いては、前記実施例1および2のような全体工程を行い、全体バクテリア回収量、バクテリア回収率および核酸回収率を比較した。
【0050】
実験結果、犬の糞便試料は50mg以上、ヒトの糞便試料は100mg以上が含まれた場合に不純物の分離が可能であり、これは、いずれも既存の販売中の商業キットが要求する試料の量より顕著に少ない試料の量だけで核酸の検出が可能であることを示し、糞便の量に関係なくいずれも優れた性能を示すことを確認した(図6参照)。
【0051】
実施例8.血液試料の分離および精製の観察
前記糞便試料の分離に用いられた方法を複雑な試料のうち一つである血液(全血)試料にも適用して不純物の除去を確認した。商業化されたキットに勧められる血液試料の量は200μlであるため、試料の体積を200μlを基準にして実験を行った。
【0052】
ヒトの全血を用いて、各々20μl(全血20μl+蒸留水180μl)、50μl(全血50μl+蒸留水150μl)、100μl(全血100μl+蒸留水100μl)および200μl(全血200μl)を準備した。前記準備した試料を前記実施例1に記載された方法によって不純物を分離および精製した。実験結果、全血が100μl以上含まれた試料から不純物が分離および精製されることを確認した(図7の(a)参照)。
【0053】
血液100μl試料を用いて、前記実施例2に記載された方法を用いて核酸回収率を確認した。実験結果、アデノウイルスはキアゲン社のDNAミニキットに対比して70%の回収率を示し、グラム陽性バクテリアの場合はキアゲン社のDNAミニキットを基準に約40倍の回収率を示した(図7の(b)参照)。
【0054】
実施例9.土壌試料の分離および精製の観察
前記糞便試料の分離に用いられた方法をまた他の複雑な試料のうち一つである土壌試料にも適用して不純物の除去を確認した。先ず、それぞれ異なる場所から採取した2種の土壌試料250mgに蒸留水を100μl添加した試料を準備し、前記実施例1に記載された方法によって不純物を分離および精製した。実験結果、2種の土壌の両方から不純物の分離および精製が行われたことを確認した(図8の(a)参照)。
【0055】
土壌250mg試料を用いて、前記実施例2に記載された方法を用いて核酸回収率を確認した。実験結果、2種の土壌試料の両方でグラム陽性バクテリアのうち一つである黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対してMO BIO社のキットを基準に約2倍の回収率を示した(図8の(b)参照)。
【0056】
実施例10.ビード大きさに応じた糞便試料からの核酸抽出の確認
ガラスビードを用いた糞便試料の破砕ステップにおいて、様々なビード大きさに応じた糞便試料からの核酸抽出率を確認するために次のような実験を行った。
【0057】
直径2mm、0.5mmおよび0.1mmのビードとこれらのビードの2mm+0.5mm、2mm+0.1mm、0.5mm+0.1mm混合物を各々同量添加し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を同一の濃度で入れた糞便を破砕した後、糞便に存在する核酸抽出率と黄色ブドウ球菌核酸回収率を確認した(図9参照)。
【0058】
実験結果、直径2mmのビードでは糞便の破砕が部分的によく行われないことを確認し、これは核酸抽出率においても他の大きさのビードに比べて低い効率を示した。したがって、核酸回収効率に優れたビードの大きさは直径0.1mm〜0.5mm大きさのビードまたはこれらの混合物であることを確認した。
【0059】
実施例11.濾過および熱処理による核酸抽出の確認
11.1.濾過による試料の精製
既存の複雑試料を分離する方法において、糞便試料および複雑試料を破砕した後に行われる遠心分離を用いた第1精製過程を非遠心分離方法を用いて精製することができる。第1精製過程が濾過に代替できるか否かを確認するために次のような実験を行った。
【0060】
前記実施例1において遠心分離の代わりに濾過を用いる方法を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法により実験を行った。実施例1に記載した方法により糞便試料および複雑試料対象を破砕した後、ビードおよび大きい不純物が抜け出ない隙間のある物体を通過させて1次精製された溶液を得た。前記精製された溶液を既存の遠心分離を用いて再精製過程を経、再精製された溶液から核酸回収を行った。
【0061】
三つの異なる模様および形態を有した種類の糞便試料を用いて実験した結果、核酸回収率において遠心分離方法に比べて有意な差を示さなかったため、代替可能な工程であることを確認した(図10参照)。
【0062】
11.2.熱による試料の再精製
前記複雑試料を分離する方法には遠心分離を用いて再精製するが、遠心分離を用いずに熱処理することによって不純物を再精製した。
【0063】
糞便試料200mgをpHが8以上の緩衝剤と6%(v/v)の界面活性剤SDSと糞便試料の破壊および検測対象の破壊のための70〜100μmのガラスビード0.4gをチューブに入れ、5分間ビードビーティングを行った。その後、遠心分離を用いて大きい不純物とガラスビードを除いた溶液を新しいチューブに移し替え、2.5MのNaSO溶液を添加して熱処理を各々45℃、55℃、65℃、75℃、85℃および95℃で5分間または10分間行った後、遠心分離を用いて再精製した結果と比較観察した。また、前記温度で10分間処理した糞便試料にPCRを行って核酸抽出濃度(Total bacteria)を測定して遠心分離による試料と比較した。
【0064】
実験結果、様々な温度条件においても糞便の分離が成功的に行われることが確認し、その差は遠心分離によるものと有意な差は示さなかった(図11の(a)参照)、同様の方法を血液試料にも適用した結果、遠心分離の代わりに熱処理によって不純物が成功的に分離されることを確認した(図11の(b)参照)。また、糞便試料に対しPCRを行った結果、温度に影響なく全ての温度において遠心分離と類似したCt値を示すことを確認した(図11の(c)参照)。
【0065】
11.3.濾過および熱処理による糞便試料の分離および精製
三つの異なる模様および形態を有した糞便に対して、前記実施例1において、1次遠心分離の代わりに濾過を、2次遠心分離の代わりに熱処理を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法によって実験を行った。
【0066】
実験結果、精製および再精製ステップを全て遠心分離を用いたものと類似した結果を示すことを確認し、したがって、非遠心分離を用いた複雑試料の分離および精製が可能であることを確認した(図12参照)。
【0067】
以上、本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者であれば、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲内で変形された形態に実現できることを理解するはずである。したがって、開示された実施例は、限定的な観点でなく説明的な観点で考慮しなければならない。本発明の範囲は前述した詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲そしてその均等概念から導き出される全ての変更または変形された形態は本発明の範囲に含まれるものとして解釈しなければならない。
図1
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