(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6818095
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】海藻の色を制御するための養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
A01G33/00
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-128878(P2019-128878)
(22)【出願日】2019年7月11日
(65)【公開番号】特開2020-191858(P2020-191858A)
(43)【公開日】2020年12月3日
【審査請求日】2019年7月11日
(31)【優先権主張番号】108118415
(32)【優先日】2019年5月28日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519051920
【氏名又は名称】台湾中油股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CPC Corporation,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】翁 ▲いく▼翔
(72)【発明者】
【氏名】王 昭竣
(72)【発明者】
【氏名】陳 信舟
(72)【発明者】
【氏名】周 金言
(72)【発明者】
【氏名】曽 裕峰
(72)【発明者】
【氏名】許 新春
(72)【発明者】
【氏名】黄 冬梨
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−008268(JP,A)
【文献】
特開2011−050279(JP,A)
【文献】
特開2018−131377(JP,A)
【文献】
小林美樹,紅藻の黄化に関する生理生態学的研究,東京海洋大学博士学位論文,2014年 6月23日,p.1-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が注水された培養プール内に海藻を入れ、前記培養プール内の水が18℃乃至26℃に維持されるステップ(a)と、
栄養素が添加され、毎日13時間乃至24時間水に空気が持続的または間欠的に注入され、前記空気の空気量は0.01vvm乃至0.4vvmであり、且つ前記海藻に対して光線が照射され、
続いて前記栄養素の添加を停止して、前記培養プール内の全ての水を交換し、毎日13時間乃至24時間水に空気が持続的または間欠的に注入され、前記空気の空気量は0.01vvm乃至0.4vvmであり、且つ前記海藻に対して光線が照射されるステップ(b)と、
前記海藻が黄色に変色すると、前記海藻が前記培養プール内から取り出されるステップ(c)と、を含み、
前記栄養素は、窒素及びリンを含むことを特徴とする海藻の色を制御するための養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻養殖法に関し、更に詳しくは、海藻の色を制御するための養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻は海中で生長する藻類であり、主に紅藻、褐藻、及び緑藻を含む。藻類は栄養素を豊富に含むため、健康にとって大きな助けとなる。例えば、褐藻にはラミニンが含まれる。藻類に含まれるヨウ素は甲状腺機能亢進を防止する。エイコサペンタエン酸は高度不飽和脂肪酸に属し、血栓の形成防止効果を有する。
【0003】
また、海藻内部に含まれる物質のうちアルギン酸には非常に広い用途があり、陽イオンと結びついてゲル化しやすく、例えばアルギン酸ナトリウム等があり、海藻ゲル、褐藻ゲル、アルギンゲル等とも呼ばれる。これは高速吸水機能を有し、製紙及び紡績方面において脱水剤やサイジング剤として常用されている。食品工業方面では、乳化剤や増粘剤として使用されている。高い粘性を有するため、製薬業界では錠剤の粘着剤として使用されている。
【0004】
なお、アルギン酸及びアルギン酸ナトリウムは上記の長所を有するため、現在台湾知財局において公告されている特許の多くはアルギン酸及びアルギン酸ナトリウムに関連するかそれらが応用される製造方法が主である。例えば、特許文献1に開示される金属結晶を含有するラミニンモノマーの製造方法、特許文献2に開示されるラミニン塩でキトサン吸着粒子を被覆する製造方法及び用途、特許文献3に開示されるラミニン塩系でわら粉末を被覆する組成物及び製造方法、特許文献4に開示される海藻多糖類マスク及びその製造方法などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】台湾特許出願公開第I626955号明細書
【特許文献2】台湾特許出願公開第I583446号明細書
【特許文献3】台湾特許出願公開第I506096号明細書
【特許文献4】台湾特許出願公開第I503131号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の技術では、すなわち、前記特許の多くはアルギン酸及びアルギン酸ナトリウムに抽出精製に関するもの、またはコラーゲンの抽出技術に関するものであり、海藻の培養及び変色についての更なる研究成果に関連する技術文献はない。
【0007】
以上を総合すると、前記特許の重点の多くは海藻内部に含まれる物質の応用及び製造に関連し、海藻の色に関連する特許は未だに提出されていない。海藻の作用は前述のものに限らず、美観、鑑賞等の用途を更に含む。特に、海藻を野菜と混ぜると色合いが増して料理及び食卓の美感が増し、食欲も刺激する。よって、本発明者は、海藻を例えば赤から黄色に変化させて海藻の色彩を多様化させる海藻の変色制御方法が必要であると考えた。
【0008】
そこで、本発明者は上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0009】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものである。上記課題解決のため、本発明は、海藻の色を制御するための養殖方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の海藻の色を制御するための養殖方法は、
水が注水された培養プール内に海藻を入れ、前記培養プール内の水が18℃乃至26℃に維持されるステップ(a)と、
毎日13時間乃至24時間水に空気が持続的または間欠的に注入され、前記空気の空気量は0.01vvm乃至0.4vvmであり、且つ前記海藻に対して光線が照射されるステップ(b)と、
前記海藻が黄色に変色すると、前記海藻が前記培養プール内から取り出されるステップ(c)と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明は主に栄養物質(例えば、栄養素、窒素、リン)の供給を停止し、適度な温度、日照、空気量に制御して海藻を成長させることによって、海藻の生長過程で効果的に徐々に黄色に変化させる。特に紅色海藻が本発明により黄色へ変色されることにより、大量養殖によって十分な量の黄色海藻を提供し、先行技術の不足を改善させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る養殖方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0014】
本発明は海藻の色を制御するための養殖方法に関し、本明細書に係る方法は2つの主要なステップを含む。ステップ1は海藻の培養方法に関し、十分な量の海藻を提供する。ステップ2は海藻変色の培養方法に関し、海藻を生長過程で黄色に変色させてゆく。
【0015】
まず、
図1を参照しながら、ステップ1の海藻培養方法を詳しく説明する。下記ステップを含む。
ステップS1:湿重量3kg/m
2乃至10kg/m
2の海藻が水が注水された培養プール内に入れられ、前記培養プール内の水が18℃乃至26℃に維持される。
水温は温度調節システムにより制御され、または熱交換用廃水を利用して温度制御の目的が達成される。天然ガスプラントは超低音の液化天然ガス(Liquefied Natural Gas:LNG)を液体から気体に変化させるために、大量の海水を汲み出して熱交換を行っている。熱交換後の廃水はLNG冷排水と呼ばれ、LNG冷排水の温度は多くの場合14℃乃至26℃の間であるため、本明細書において指摘する熱交換用廃水は好ましくはLNG冷排水を指し、LNG冷排水を交換することによって温度維持効果を達成させる。また、LNG冷排水以外にも、発電所の温排水を使用してもよく、例えば、実際の作業においては、季節による気温差を利用し、気温が低い冬は好ましくは発電所の温排水を使用して培養し、気温の高い夏は好ましくはLNG冷排水を使用して培養してもよい。
【0016】
ステップS2:毎週少なくとも2日は前記培養プール内に栄養素が添加される。
このステップにより海藻の生長過程で必要な栄養が提供される。前記栄養素内の成分は好ましくは窒素1mg/L乃至8mg/L及びリン0.1mg/L乃至0.8mg/Lを含み、海藻の生長に必要な主要な養分が提供される。また、一般的には、海藻は多くの場合夜間に前記栄養素の養分を吸収しているため、海藻に前記栄養素を十分に吸収させるため、前記栄養素の添加時間は午後3時乃至午後6時の間が好ましい。なお、前記栄養素の添加時間に合わせるため、前記培養プール内の熱交換用廃水の交換時間も同様に調整する。本明細書を例にすると、前記熱交換用廃水の交換時間は午後3時以前がよく、且つ季節に応じて異なる時間に調節する。例えば、夏季の交換時間は好ましくは8:00乃至15:00とし、冬季は10:00乃至13:00とする。また、交換時には前記培養プールの温度に基づいて調整を行い、全ての熱交換用廃水を交換するか、一部分だけ交換するかを選択可能である。
また、前記海藻に十分な光線を与えて光合成を行わせるため、前記光線照射時間は少なくとも毎日10時間以上とし、光線は太陽光の照射や蛍光灯(照明灯や植物用照明灯)により獲得する。
【0017】
ステップS3:毎日13時間乃至24時間熱交換用廃水に空気が持続的または間欠的に注入され、且つ培養プールの清掃が定期的または不定期に行われる。前記海藻の生長には、適度な水温及び十分な養分を取得可能な環境以外、十分な二酸化炭素も必要であり、よって熱交換用廃水に空気を添加する必要がある。また、前記空気の空気量は0.01vvm乃至0.4vvmが好ましい。空気中には0.04%乃至30%のCO
2が含まれ、海藻の生長に適したガス量が提供される。なお、空気の注入は連続式または間欠式で行われ、連続式の場合毎日13時間乃至24時間持続的に絶え間なく空気がLNG冷排水に注入される。間欠式の場合1時間内に持続的に絶え間なく空気が注入され、次の1時間は空気の注入が停止され、次の1時間内に持続的且つ絶え間ない空気の注入が再開し、これが前述のように13時間乃至24時間繰り返された後に停止する。間欠式について述べた時間は一例にすぎず、需要に応じて調整し、例えば、2時間内に持続的に絶え間なく空気を注入し、次の1時間は空気の注入が停止し、その後の2時間内に持続的且つ絶え間ない空気の注入が再開し、これを反復させるようにしてもよい。また、前記培養プール内を清潔に保持させるため、好ましくは1週間乃至3週間毎に前記培養プールの清掃が行われる。前記ステップS2乃至ステップS3は連続するステップのフローチャートではなく、需要に応じてステップの順番を変えることができる。
【0018】
以下、ステップ2の海藻を変色させる培養方法について説明する。
ステップS4:ステップS1の開始から起算して1週間乃至3週間後に前記培養プール内の熱交換用廃水が交換され、続いて前記栄養素の添加が停止される。海藻の変色を開始させて黄色にする鍵は栄養素にあり、よってステップにおいて好ましくは前記培養プール内の全ての熱交換用廃水を交換し、続いて前記栄養素の添加を停止し、これにより前記海藻が前記栄養素のない環境中で生長を開始し、変色を開始する。特に、本発明の方法により、紅色海藻を効果的に徐々に黄色に変色させる。
【0019】
ステップS5:毎日13時間乃至24時間水に空気が持続的または間欠的に注入され、前記空気の空気量は0.01vvm乃至0.4vvmであり、前記海藻に光線が照射され、同時に前記培養プール内の温度が18℃乃至26℃の間に維持される。
前述のように、前記海藻の変色の主要因は栄養素の有無にあり、他の生長条件は固定する必要がある。ゆえに、ステップ2の生長条件はステップ1と比較し、栄養素の添加に差異がある。ステップS5において、前記空気には好ましくは0.04%乃至30%のCO
2が含まれる。また、前記海藻に十分な光線を与えて光合成を行わせるため、前記光線照射時間は少なくとも毎日10時間以上とし、光線は太陽光照射でも、照明灯から取得してもよい。同様に、1週間乃至3週間毎に前記培養プールを清掃してプールを清潔に維持させる。
【0020】
ステップ1について述べたのと同様に、ステップ2において前記培養プール内の温度は温度調節システムによって達成され、交換熱処理廃水により達成されてもよい。好ましくは、前記培養プール内の熱交換用廃水が定期的に交換されて前記培養プール内の温度が保持され、且つ熱交換用廃水の交換時には、前記培養プール内の熱交換用廃水が全て交換されても、一部分のみが交換されてもよい。
【0021】
ステップS6:前記海藻が黄色に変色すると、前記海藻が前記培養プール内から取り出される。
S5に基づいたステップが反復して行われると、前記海藻の変色が開始し、紅色海藻が徐々に黄色の海藻に変化する。この際、前記海藻が前記培養プール内から取り出される。
【0022】
以上を総合すると、本発明に係る方法により、海藻を安定的に黄色に変色させることで、先行技術の不足を克服させる。本発明の属する技術分野の通常の知識を有する者ならば、本発明により黄色の海藻を安定的に獲得できる。以下では各種条件下において本発明に係る方法により獲得した成果を示す。
【実施例1】
【0023】
体積2t、湿重量6.7kg/m
2乃至7.5kg/m
2を養殖し、毎週3回栄養素を添加する。前記栄養素の成分として窒素7mg/L乃至8mg/L及びリン0.7mg/L乃至0.8mg/Lを含み、添加した日は午後に水の交換を停止し、翌日午前9:30から水交換動作を開始する。水の交換量は0.6t/時間乃至1.2t/時間とする。毎週湿重量を計測し、平均採集湿重量は8.6kg/m
2乃至9.6kg/m
2に達し、週平均生産湿重量は1.2kg/m
2乃至2.1kg/m
2になる。表1を参照すると、あつばのりの生産率が高く、色も均一になる。
【表1】
【実施例2】
【0024】
体積2t、湿重量5.9kg/m
2乃至5.5kg/m
2を養殖し、毎週4回栄養素を添加する。前記栄養素の成分として窒素3mg/L乃至4mg/L及びリン0.3mg/L乃至0.4mg/Lを含み、添加した日の午後に水の交換を停止し、翌日午前9:30から水交換動作を開始する。水の交換量は0.6t/時間乃至1.2t/時間とする。2週間毎に湿重量を計測し、平均採集湿重量は10.5kg/m
2乃至11.2kg/m
2に達し、週平均生産湿重量は2.25kg/m
2乃至2.5kg/m
2になり、2週間毎の生産状況は表2を参照する。
【表2】
【実施例3】
【0025】
体積2t、湿重量3.0kg/m
2乃至4.1kg/m
2を養殖し、栄養素は添加せず、毎日前記LNG冷排水を7回乃至17回交換する。水の交換量は0.6t/時間乃至1.2t/時間とする。毎週湿重量を計測し、平均採集湿重量は3.3kg/m
2乃至4.1kg/m
2に達し、平均生産率は湿重量0.3kg/m
2乃至1.1kg/m
2となる。表3を参照すると、あつばのりの色が赤から黄色に変化することが確認された。
【表3】
【0026】
上述の実施形態は本発明の技術思想及び特徴を説明するためのものにすぎず、当該技術分野を熟知する者に本発明の内容を理解させると共にこれをもって実施させることを目的とし、本発明の特許請求の範囲を限定するものではない。従って、本発明の精神を逸脱せずに行う各種の同様の効果をもつ改良又は変更は、後述の請求項に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0027】
S1 ステップ
S2 ステップ
S3 ステップ
S4 ステップ
S5 ステップ
S6 ステップ
S7 ステップ