特許6818268IP Force 特許公報全文掲載

技術分野

トランスサイレチン(TTR:transthyretin)のアミロイド線維の形成や組織への沈着を効果的に抑制する抗体ならびに、当該抗体を用いた治療法を提供する。本抗体療法は、正常型TTRには作用せず、異常型TTRのアミロイド形成のみを抑えるという新たな治療戦略に基づくものであり、安全性に優れた新規治療法になりうると期待される。

発明が解決しようとする課題[発明の詳細な説明]から抜粋

近年、免疫療法によるFAPの治療に注目が集まっている。TTRアミロイドが形成される過程で、TTRの構造変化に伴って新たなエピトープ(クリプティックエピトープ、Cryptic Epitope)が分子表面に露出することが明らかになってきた(非特許文献10)。 そこでTerazakiらは、Cryptic Epitopeの露出する変異として知られていたTTR Y78F変異体で、FAPのモデル動物であるヒトTTR V30M トランスジェニックマウス(hTTR Tgマウス)を免疫し、マウス組織へのTTRアミロイド沈着に対する影響を評価した(非特許文献11)。その結果、TTR Y78F変異体で免疫したマウス群で、有意に抗TTR抗体の抗体価の上昇が確認され、それに伴って食道、胃および腸におけるTTR沈着量の減少が見られた。また、既にTTR沈着が見られる生後18ヵ月齢のhTTR Tgマウスを用いた同様の試験においても、Y78F免疫群で有意にTTRアミロイド沈着量の減少が見られた。以上の結果から、Cryptic Epitopeが露出するTTR変異体でマウスを免疫することにより、TTRに対する抗体がマウス体内で産生され、その結果TTRアミロイドの沈着が抑制された可能性が示唆された。 一方でBergstroemらは、Cryptic Epitopeの1つであるTTR 115-124部位のペプチドでウサギを免疫し、抗TTR115-124 ポリクローナル抗体を調製した(非特許文献12)。このポリクローナル抗体をhTTR V30Mトランスジェニックラットに投与し、ラット組織へのTTR沈着に及ぼす影響を評価したところ、ラット腸管におけるTTRの沈着量は、ポリクローナル抗体を投与した群で有意に減少していた(特許文献3) これらの結果から、TTRのCryptic Epitopeを特異的に認識する抗体が、TTRアミロイド(あるいはTTRアミロイドを構成する、構造変化を起こしたTTR)に特異的に結合し、TTRアミロイドの、形成阻害または除去の促進をしている可能性が考えられる。つまり、TTRのCryptic Epitopeを特異的に認識する抗体は、FAPの新規治療薬になりうる可能性が示唆される。 こうしたコンセプトに基づく抗TTR抗体の研究は、BIOCODEX社により報告されている。同社はアミロイド形成性のTTRに特異的なマウスモノクローナル抗体AD7F6を、TTRノックアウトマウスを用いて作製し、FAP病態モデルであるTgマウス(ATTR V30M)を用いてTTRの組織沈着を抑制することを示した(特許文献1)。BIOCODEX社の特許はマウス抗体のアミノ酸配列をクレームしており、ヒトへの投与は困難である。また、本抗体に関しては、四量体構造をとったV30M変異体に対する反応性の有無については明言されていない。V30M変異を有するFAP患者においては、血中に存在するV30M変異体は四量体構造をとっているが、単量体に解離後その一部が構造変化を起こしてアミロイドを形成すると考えられている。よって、四量体構造をとったV30M変異体には反応せず、アミロイド化した(或いはアミロイドを形成する途中段階の)V30M変異体にのみ反応する抗体であることが、より効果的で安全な抗体療法を実現する上では必要な要件と考えられる。また、本抗体の反応性については、臨床サンプルとしてはV30Mキャリアの血清を用いているのみであるため、患者の体内に存在する組織沈着性のアミロイドとの反応性は不明である。 同様なコンセプトに基づく抗TTR抗体の研究は、ポルトガルのPorto大学のグループからも報告されている(非特許文献10)。構造変化を起こしたTTRに特異的なマウスモノクローナル抗体mAb 39-44及びmAb 56-61を作製したこと、これらが生体由来のV30M変異体のアミロイドと反応することが報告されている。しかし、これらはアミロイド形成に対して阻害作用を示さなかったことが明記されており、FAPの診断に利用できる可能性について言及されているのみである。 上述のように、TTRのCryptic Epitopeをマウス(又はラット)へ免疫して得られたポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が、TTRの沈着を抑制することは報告されているが、構造変化を起こしたTTRへ特異的に結合する活性、TTRの線維化を阻害する活性を有する抗体や、人体への投与に適したヒト化抗体やヒト抗体は報告されていない。

課題を解決するための手段[発明の詳細な説明]から抜粋

本発明者らは、TTRアミロイドーシスでは、一部の四量体TTRが単量体へ解離後、単量体TTRが構造変化を起こし、アミロイドを形成する、その一方で、正常に機能する四量体TTRも存在すると考えた。そこで、本発明者らは、構造変化を起こしたTTRへ特異的に結合し、TTRの線維化を阻害する活性を有する抗体について検討を行った。また、最終的にTTRアミロイドーシスに対する抗体医療を目標として、の活性を・・・ 続きを知財ポータルサイト IP Force にログインして見る
【発明の効果】
本発明者らは,構造変化を起こしたTTRを特異的に認識するモノクローナル抗体を創出し,FAPの治療を可能にする抗体医薬開発への道を開くことに成功した.本発明の抗体は、TTRのアミロイド線維の形成や組織への沈着を効果的に抑制し、更に血中で機能する正常なTTRとは反応しないことから、安全性に優れた抗体医薬となることが期待される。また、作用メカニズムとして、(1)TTRのアミロイドの形成と組織沈着を抑制する、更には、(2)組織に沈着しているTTRアミロイドにも作用してクリアランスを促す、すなわち、一旦蓄積したアミロイドを減少させる、という2つの効果を期待することができる。そのような効果は、従来の技術や先行開発品では成しえないものであり、TTRアミロイドーシスに対する新規治療戦略としての本抗体療法に期待が持たれる。 本発明の抗体は、上述のとおり、FAPに対して肝移植以外の新たな治療法を提供することが期待出来るだけでなく、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)治療薬としての可能性も有する。TTRアミロイドーシスには、TTR遺伝子の変異が原因となって起こるFAPの他にも、野生型TTRが主に心臓にアミロイド沈着を起こすことにより発症するSSAが知られている。心臓におけるアルツハイマー病とも位置付けられている。アミロイド沈着は肺や血管壁、腎髄質などにも認められる。患者は、無症状であるか、心症状(緩徐進行性の心不全)を呈することが多く、手根管症候群を呈することもある。60歳代から発症が認められ、80歳以上ではおおよそ4人に1人が発症しているとも言われている。米国のみで40万人を超える患者推計値も報告されている。本疾患にも有効な治療法は確立されていない。本発明の抗体は野生型TTRの線維化を阻害する活性を有するため、SSAへの適用も期待される。 本抗体製剤にはFAPのみならずTTRに起因する各種臓器に対するアミロイド形成性の疾患への適用が期待され、現在治療方法がない多くのこれらの疾患患者への治療貢献ができるものと期待される。

この発明についての権利主張の範囲[特許請求の範囲]

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この特許公報に記載されている図面[図面の簡単な説明]から抜粋

【図1】(a)マウスT24抗体H鎖発現ベクターpKMA010-T24-mCg1、および(b)マウスT24抗体L鎖発現ベクターpKMA009-T24-mCkのマップを示す。

【図2】エピトープ解析の結果を示す。

【図3】表面プラズモン共鳴法を用いた反応特異性解析の結果を示す。(a)はRT24抗体、(b)はDako社製ポリクローナル抗体、(c)は陰性コントロール抗体での結果をそれぞれ示す。

【図4】患者血清への反応性解析の結果を示す。

【図5a】患者組織への反応性解析の結果を示す(パラフィン切片)。

【図5b】患者組織への反応性解析の結果を示す(凍結切片)。

【図6】TTR線維への反応性解析の結果を示す。(a)は銀染色、(b)はウエスタンブロッティングの結果をそれぞれ示す。

【図7】TTR線維化阻害試験の結果を示す。(a)はRT24抗体、(b)はRT24-a抗体およびRT24-b抗体の結果をそれぞれ示す。

【図8】マクロファージ貪食能試験の結果を示す。(a)は未処理の精製V30M、(b)はTTR線維での結果をそれぞれ示す。

【図9】V30M Tgラットを用いた薬効評価試験の結果を示す。

選択図 図1出願人が指定した本件の代表的な図

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