(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工層のうち前記一方の加工対象単結晶基板面側を構成する加工層一方基板面方部の外周側は、前記一方の加工対象単結晶基板面から離れるにつれて径が徐々に大きくなる湾曲凸面状にされていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の基板加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、すでに説明したものと同一または類似の構成要素には同一または類似の符号を付し、その詳細な説明を適宜省略している。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための例示であって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の実施の形態は、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0014】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る基板加工装置を説明する模式的な側面図である。
図2で(a)から(c)は、それぞれ、本実施形態に係る基板加工方法により加工層含有基板を製造するプロセスを説明する模式的な側面図である。
図3で(a)および(b)は、それぞれ、本実施形態に係る基板加工方法により加工層が形成されていくことを示す模式的な側面断面図である。
図4は、本実施形態で、加工層含有基板から単結晶基板をくり抜くことを説明する模式的な斜視図である。
図5は、本実施形態に係る基板加工装置で、収差補正の調整機能を説明するための模式的な側面図である。
図6は、本実施形態に係る基板加工方法で形成された加工層に加工痕が配列されていることを説明する模式的な説明図である。
図7は、本実施形態、および、実験例で、基板厚み位置とレーザ出力との関係を説明するグラフ図である。
図8は、本実施形態で、基板厚み位置とレーザ出力との関係の変形例を説明するグラフ図である。
【0015】
(基板加工装置)
図1、
図2に示すように、本実施形態に係る基板加工装置10は、載置された加工対象結晶基板20aを保持して回転する回転ステージ11と、回転ステージ11のステージ面Su上に保持された加工対象結晶基板20aに向けてレーザ光Bを集光するレーザ集光手段12(例えば集光器)と、回転ステージ11とレーザ集光手段12との距離Lを変える照射軸方向距離変更手段(図示せず)と、この距離Lに応じてレーザ集光手段12に入射するレーザ光Bの出力を変化させるレーザ出力制御手段14とを備える。更に基板加工装置10は、回転ステージ11の回転中心軸Csとレーザ集光手段12によるレーザ光Bの加工対象結晶基板20aへの照射中心軸Cbとの距離rを変える半径方向距離変更手段(図示せず)を備える。
【0016】
照射軸方向距離変更手段としては、レーザ集光手段12を回転ステージ11に対して遠近方向に移動させる機構であってもよいし、回転ステージ11をレーザ集光手段12に対して遠近方向に移動させる機構(例えば、XステージあるいはXYステージ)であってもよい。
【0017】
半径方向距離変更手段としては、レーザ集光手段12をステージ面Suに平行な一方向(例えば
図1、
図2のX方向)に移動させる移動機構であってもよいし、回転ステージ11をステージ面Suに平行な一方向(例えば
図1、
図2のX方向)に移動させる移動機構であってもよい。
【0018】
レーザ出力制御手段14は、第2工程では、加工対象結晶基板20a内部および少なくとも一方の加工対象結晶基板面近傍で、レーザ光Bの集光位置において生じる加工痕が加工対象結晶基板20aの結晶方位に沿って伸張しないようにレーザ集光手段12に入射するレーザ光の出力を制御するとともに、距離Lに応じてレーザ発振装置Jの出力を制御する制御信号を送信している。このレーザ出力制御手段14は、少なくとも一方の加工対象結晶基板面近傍(表面近傍(上面近傍)または裏面近傍(下面近傍))で、レーザ光Bの集光位置Bfが加工対象結晶基板面に近いほどレーザ発振装置Jの出力を増大させることでレーザ集光手段12に入射するレーザ光Bの出力が増大するように制御する。本実施形態の基板加工装置10は、このような出力増大の制御を行う加工対象結晶基板面近傍をレーザ光Bの被照射面20u(表面)近傍としており、被照射面20uとは反対側の面、すなわち回転ステージ側の面(裏面20v)近傍ではレーザ出力制御手段14はこのような制御はしない。なお、裏面20v近傍であっても、切り替えスイッチなどによりレーザ出力制御手段14でこのような制御が可能にされた装置構成にされていてもよい。
【0019】
レーザ集光手段12は、本実施形態では、
図5、
図6に示すように、集光レンズ15を備えており、加工対象結晶基板20aの屈折率に起因する収差を補正する機能、すなわち収差補正環としての機能を有している。具体的には、集光レンズ15は、空気中で集光した際に、集光レンズ15の外周部Eに到達したレーザ光が集光レンズ15の中央部Mに到達したレーザ光よりも集光レンズ側で集光するように補正する構成になっている。つまり、集光した際、集光レンズ15の外周部Eに到達したレーザ光の集光点EPが、集光レンズ15の中央部Mに到達したレーザ光の集光点MPに比べ、集光レンズ15に近い位置となるように補正する構成になっている。
【0020】
集光レンズ15は、空気中で集光する第1レンズ16と、この第1レンズ16と加工対象結晶基板20aとの間に配置される第2レンズ18と、で構成される。本実施形態では、第1レンズ16および第2レンズ18は、何れもレーザ光を円錐状に集光できるレンズとされている。そして、第1レンズ16と第2レンズ18との間隔調整により、集光点EPと集光点MPとの長さが調整できるようになっており、集光レンズ15は補正環付きレンズとしての機能を有している。
【0021】
第1レンズ16としては、球面または非球面の単レンズのほか、各種の収差補正や作動距離を確保するために組レンズを用いることが可能であり、NAが0.3〜0.7であることが好ましい。第2レンズ18としては、第1レンズ16よりも小さなNAのレンズで、例えば曲率半径が3〜5mm程度の凸ガラスレンズが、簡便に使用する観点で好ましい。
【0022】
なお、第2レンズ18に代えて、レーザ光Bの収差増強材(例えば収差増強ガラス板)を配置することも可能である。
【0023】
(基板加工方法)
以下、加工対象結晶基板20aが単結晶基板である例を挙げ、基板加工装置10を用いて本実施形態に係る基板加工方法を行うことを効果も含めて説明する。
【0024】
本実施形態では、レーザ集光手段12を、加工対象単結晶基板20amの被照射面20u上に非接触に配置する第1工程を行う。そして、レーザ集光手段12により加工対象単結晶基板20amの内部にレーザ光Bを集光しつつ、レーザ光Bの集光位置Bfを加工対象単結晶基板20amのくり抜き対象部20bの厚み方向(
図1、
図2のZ方向)に変化させ、破断強度が低下した加工層22をくり抜き対象部20bの外周側に形成することで加工層含有基板20cとする第2工程を行う。本実施形態では、この第2工程では、被照射面20u近傍で、レーザ光Bの集光位置Bfが被照射面20uに近いほどレーザ光Bの出力を増大させる。
【0025】
以下、第2工程で加工層22を形成する手順を詳細に説明する。レーザ光Bを加工対象単結晶基板20amに照射する際、被照射面20uとは反対側の面(裏面20v)側から照射を開始できるように、回転ステージ11上に配置した加工対象単結晶基板20amにおける集光位置BfのZ軸方向位置を決定する。
【0026】
そして、まず回転ステージ11を少なくとも一回転させつつ、同心円に沿ってレーザ光Bを照射する。その後、基板加工装置10のZ軸方向に集光位置Bfを移動してレーザ光Bを同様にて同心円に沿って照射する。このときZ軸方向への集光位置Bfの移動が、加工対象単結晶基板20amの厚さ方向と同方向になっているので、加工層22を、被照射面20uに直交する短円筒状に形成することができる。
【0027】
この一連の動作を加工対象単結晶基板20amの被照射面20uの近傍にまで行うことにより、加工層22を完成させることができる。集光位置Bfのこの移動を行うには、レーザ集光手段12あるいは回転ステージ11の少なくとも一方を移動すればよい。
【0028】
加工対象単結晶基板20amの裏面20v(底面)側への最初の集光位置Bfは、レーザ光Bの照射により形成される加工層22が加工対象単結晶基板20amの裏面20vに亀裂やアブレーションなどによる無用なダメージ(特にくり抜き対象部20bへのダメージ)を与えない所定範囲内に設定する。
【0029】
加工層22には、レーザ光Bの集光によって形成された加工痕22cが、一定の間隔で規則的に配列されている。この加工痕22cを形成する間隔に関しては、基板平面方向(被照射面20uや裏面20vに平行な方向)ではレーザ光Bの発振繰り返し周波数と回転ステージ11の回転速度すなわち周速との関係で決定され、基板高さ(深さ)方向では集光位置BfのZ軸方向の移動量により決定される。加工層22は上記のように所定間隔にレーザ光Bを照射して、加工痕22cが断続的に形成された領域として得られる。この時レーザ光Bは、例えばパルス幅が1μs以下のパルスレーザ光からなり、300nm以上の波長が選択され、例えば加工対象単結晶基板20amがシリコンウエハの場合は、1000nm以上の波長のYAGレーザ等が好適に使用される。
【0030】
そして、レーザ光Bの集光位置Bfにおいて加工対象結晶基板20aの基板厚み方向長さKが10μm以下となるようにレーザ出力を制御する。具体的には集光位置Bfが被照射面20uに近いほどレーザ出力を増大させる。さらに被照射面20u近傍ではレーザ照射を中止し加工対象単結晶基板の被照射面側にアブレーションや欠けなどを生じさせない。
【0031】
ここで、本実施形態では、加工対象単結晶基板内の集光位置Bfにおいて加工痕22cの基板厚み方向長さKが10μm以下、好ましくは5μm〜10μmに形成するようにレーザ出力を調整する。集光位置Bfを段階的に加工対象単結晶基板20amの表面側に移動しつつ長さKが10μm以下の加工痕22cを正確に繋げて形成することにより良好な品質のくり抜き結晶基板を得ることができる。そのため、あらかじめ確認しておいた出力に基づき、集光位置Bfに対してレーザ光の出力を制御することによって各集光位置Bfで長さKが10μm以下の加工痕22cを形成することができる。このように加工痕22cを10μm以下に形成することによって、加工対象結晶基板20aの結晶方位に加工痕22cが伸張したりクラックが発生したりすることを防止できる。
【0032】
なお、裏面20v近傍において裏面20vに近いほどレーザ光の出力を低下させてもよく、これにより、この効果はより顕著なものとなる。
【0033】
そして本実施形態では、被照射面20u近傍では、レーザ光Bの集光位置Bfが被照射面20uに近いほどレーザ光Bの出力を増大させており、被照射面20u近傍の加工層部分では、他の加工層部分に比べ、加工痕22cが小さく、しかも、加工痕22cの周囲に生じる歪が小さい。従って、使用者が、裏面側の近傍の加工痕22cからクラックを発生させて隣接する加工痕同士をクラックで順次連続させてくり抜き対象部20bをくり抜いた際、被照射面20u近傍で加工痕22cから無用なクラックが発生してくり抜き単結晶基板20dに損傷が生じることを大幅に抑えることができる。
【0034】
従って、本実施形態により、加工対象単結晶基板20amから欠け(チッピング)のないくり抜き単結晶基板20dを短時間で容易に得やすい基板加工装置10および基板加工方法を実現させることができる。なお、得られたくり抜き単結晶基板20dの外周面には、必要に応じて研磨等の加工を行う。
【0035】
ここで、被照射面20u近傍とは、このようなレーザ光照射によって、加工層22形成後の人手によるくり抜き作業を無用なチッピングを生じさせずに行うことができる被照射面付近の部位のことであり、具体的には被照射面(基板表面)から内部に100μmまでの範囲であって、さらには基板表面から50μmまでの範囲をいう。この範囲においてレーザ出力調整手段によりレーザ光Bの出力を調整することで、アブレーションを発生させずに加工痕を形成することが必要である。
【0036】
単結晶基板の寸法が使用予定の寸法よりも大きい場合、このようにして、この単結晶基板を加工対象単結晶基板20amとし、加工対象単結晶基板20amよりも小さい寸法のくり抜き単結晶基板20dを得ることで加工対象単結晶基板20amを再利用することができ、資源の有効活用が図られる。
【0037】
また、本実施形態では、レーザ集光手段12と加工対象単結晶基板20amの裏面20vとが離れる方向の移動では、基板厚み方向と同方向に移動させている。従って、加工層22が短円筒状に形成されているので、得られたくり抜き単結晶基板20dの外周は円筒外周状となっており、使い勝手が良い。ここで本実施形態では、加工層含有基板20cの被照射面20u近傍では、加工痕22cの周囲に生じる歪や損傷が小さく、その上、加工対象単結晶基板20amの裏面20v側への最初の集光位置Bfは、裏面20vに亀裂やアブレーションなどによる無用なダメージを与えないように裏面20vから所定範囲内の基板厚さ位置に設定されている。従って、加工層22の形状をチッピングが発生し難い形状(例えば、裏面側に広がるテーパ状)にせずに単に短円筒状としても、加工痕22cから無用なクラックが発生することが大幅に抑えられている。
【0038】
また、本実施形態では、第2工程で、レーザ集光手段12に設けられた第1レンズ16と第2レンズ18との間隔を一定に、すなわち、収差補正の調整機能によるレーザ光Bの調整状態を一定にしている。従って、集光位置BfがZ軸方向に移動することに応じたパラメータの変更をレーザ光Bの出力のみにしており、レーザ出力制御手段14で制御することによってこれらの効果を得ることが可能である。第1レンズ16と第2レンズ18とのこの間隔は、くり抜き時における無用なクラックの発生し難さ、加工層22の形成のし易さ、などを考慮して適切な値に設定する。
【0039】
なお、レーザ光Bの出力を変化させつつ、第1レンズ16と第2レンズ18との間隔調整、すなわち、収差補正環としての機能によるレーザ光Bの調整を変化させてもよい。これにより、加工痕22cの寸法や加工痕22c周囲の歪を更に精度良く制御することができる。
【0040】
また、基板加工装置10は、回転ステージ11の回転中心軸Csとレーザ集光手段12によるレーザ光Bの加工対象単結晶基板20amへの照射中心軸Cbとの距離rを変える半径方向距離変更手段を備えている。従って、くり抜き対象部20bの半径に合わせて加工層22の形成位置を変更することが容易にできる。
【0041】
また、
図4では、加工層22には加工痕22cが一列に配置されているように描いているが、実際には、加工層22には複数列にわたって加工痕22cが散りばめられるようにレーザ光Bを照射してもよい。これにより、くり抜き対象部20bを加工層含有基板20cからくり抜く際の作業が更に容易になる。
【0042】
また、第2工程では、レーザ光Bの出力を増大させる際、被照射面20uから集光位置Bfまでの基板厚みの低減量に対するレーザ出力の増大量の割合を、例えば
図7の直線Q1のようにリニア(一次関数的、すなわち一定)としてもよい。これにより、レーザ出力制御手段14による出力制御が簡単である。
【0043】
また、第2工程では、レーザ光Bの出力を増大させる際、被照射面20uから集光位置Bfまでの基板厚みの低減量に対するレーザ出力の増大量の割合を、被照射面20uに近くなるほど抑えてもよい(例えば
図8の曲線Q2や曲線Q3のように、二次関数的あるいは三次関数的などのように増大割合を抑えることで、被照射面20uに近くなるほど抑えてもよい)。これにより、リニアに増大させる場合に比べ、くり抜き対象部20bをくり抜く際に無用なクラックが発生してくり抜き対象部20bに損傷が生じることを更に効果的に抑えることができる。
【0044】
また、第2工程では、
図6に示すように、レーザ光Bの集光によって加工層22に形成される加工痕22cの基板厚み方向長さKを10μm以下とすることが好ましい。これにより、加工対象単結晶基板20amの劈開方向にクラックが延びて制御できなくなることを十分に防止し易い。
【0045】
また、レーザ出力制御手段14は、加工対象結晶基板20a内部および少なくとも一方の加工対象結晶基板面近傍(表面近傍(上面近傍)または裏面近傍(下面近傍))で、レーザ光Bの集光位置Bfに生じる加工痕22c(
図6参照)が、加工対象結晶基板20aの結晶方位に沿って伸張しないようにレーザ集光手段12に入射するレーザ光Bの出力を変化させるだけでなく、加工対象結晶基板20aの結晶方位と異なる結晶方位に沿っても伸張しないようにレーザ光Bの出力を変化させる構成にされていてもよい。
【0046】
ここで、加工対象結晶基板の結晶方位と異なる結晶方位に沿って加工痕が伸張するとは、例えば結晶方位[100]の単結晶シリコンウエハを基板材料とした場合、結晶方位[100]に沿って加工痕を基板厚さ方向に形成する必要があるが、単結晶シリコンではより結合力の弱い[111]および[110]方位に劈開が起こりやすく、加工痕がこれらの結晶方位に沿って進展することをいう。このことによって、くり抜き断面が不均一になったり、欠けや割れなどが生じたりする。
【0047】
加工痕22cが、加工対象結晶基板20aの結晶方位と異なる結晶方位に沿っても伸張しないようにレーザ光Bの出力を変化させることで、くり抜き単結晶基板20dにチッピング等の不具合が生じることを更に効果的に防止することができる。
【0048】
また、本実施形態に係る基板加工方法の説明では、加工対象単結晶基板20amが単結晶基板である例で説明したが、単結晶基板以外であっても、本実施形態に係る基板加工方法が適用可能である。
【0049】
また、本実施形態では、基板加工方法として、本実施形態の基板加工装置10を用いて加工層含有基板20cにする例で説明したが、基板加工装置10を用いずに他の装置を用いて加工層含有基板20cを製造することも勿論可能である。
【0050】
<実験例1>
本発明者は、上記実施形態に係る基板加工方法の一例(以下、実施例1という)として、上記実施形態で説明した基板加工装置10を用い、回転ステージ11上のステージ面Suに、加工対象単結晶基板20amとして円盤状の単結晶シリコンウエハを保持させることで固定した。その際、回転ステージ11の回転中心軸Csと、単結晶シリコンウエハの中心軸とを一致させた。
【0051】
そして、上記実施形態で説明した基板加工方法で、加工対象単結晶基板20amにレーザ光Bを照射して短円筒状の加工層22を形成することで加工層含有基板20cとした。
【0052】
裏面20vからの基板厚み位置と、その厚み位置でのレーザ出力との関係を、
図7に菱形のプロットで示す。
図7に示すように、本実験例では、第2工程では、レーザ光Bの出力を増大させる際、被照射面20uから集光位置Bfまでの基板厚みの低減量に対するレーザ出力の増大量の割合をリニア(一次関数的、すなわち一定)とした。この結果、レーザ出力制御手段14による簡単な出力制御で、上記実施形態で説明した加工層含有基板20cを容易に短時間で製造することができた。
【0053】
<実験例2>
本発明者は、上記実施形態に係る基板加工方法の一例(以下、実施例2という)により、以下の条件で加工対象単結晶基板20am(厚み625μmのものを用いた)に加工を行って加工層含有基板20cを作成した。その際、集光位置Bfを被照射面20uから基板厚み方向に20μmまでの位置としており、被照射面20uから20μmの基板厚み方向位置で加工を止めることで、被照射面20u(基板表面)が加工されないようにした。なお、レーザ光Bの集光位置が被照射面20uに近いほど焦点のピンボケが生じるので、レーザ光Bの集光位置が被照射面20uに近いほどレーザ出力が高くてもアブレーションが生じることは回避されている。
【0054】
単結晶基板 :単結晶シリコンウエハ、結晶方位[100]
レーザ発振器 :波長1064nm、ファイバーレーザ
レーザ出力(W) :0.25、0.15、0.2、0.25、0.3
(基板裏面側から基板表面側(被照射面側)へ段階的に上昇)
発信周波数(kHz):50
パルス幅(ns) :60
ドットピッチ(μm):2
ラインピッチ(μm):2
補正環 :0.8
【0055】
実施例2では、レーザ光Bによる加工痕形成深さの位置に応じてレーザ出力を以下のように調整した。
加工痕形成深さ位置(μm) レーザ出力(W)
20〜180 0.3
180〜250 0.25
250〜370 0.15
370〜430 0.15
430〜625 0.125
【0056】
なお、実施例2における加工痕形成深さ位置(μm)とレーザ出力(W)との関係を
図9に示す。
【0057】
そして、加工層含有基板20cのうち加工痕22cが形成されている基板部分の被照射面を電子顕微鏡で撮像した。その撮像図を
図10、
図11に示す。
図10、
図11から判るように、実施例2では、加工痕22cは加工層含有基板20cの被照射面20uから透けて見えていて、加工層22近辺の被照射面20uにはアブレーション等の損傷は生じていなかった。従って、実施例2で得られた加工層含有基板20cでは、くり抜き対象部20b(後述の
図12参照)をくり抜く際、チッピングが生じることなくくり抜くことができる構造になっている。
【0058】
この後、本発明者は、加工層含有基板20cのくり抜き対象部20bをくり抜いた。
図12は、加工層含有基板20cからくり抜き対象部20bをくり抜いたことを説明する写真図である。そして
図13は、くり抜き対象部20bをくり抜くことで得られたくり抜き単結晶基板20dの被照射面側の外周近辺を電子顕微鏡で撮像して得られた撮像図である。
図13から判るように、くり抜き単結晶基板20dの外周近辺には全周にわたってチッピングは生じていなかった。
【0059】
また、本発明者は、比較のための一例(以下、比較例という)として、被照射面20uまでレーザ光の集光位置を移動させて基板加工を行った。比較例では、実施例2に比べ、レーザ出力を一定(0.3W)にしていることで被照射面にまで基板加工を行っていることが異なり、他の条件は実施例2と同じである。
【0060】
そして、加工痕が形成されている基板部分の被照射面を電子顕微鏡で撮像した。撮像図を
図14に示す。
図14から判るように、比較例では、加工層近辺の被照射面にアブレーションAが生じていた。従って、加工層の内側(くり抜き対象部)をくり抜く際、チッピングが生じる構造になっている。
【0061】
この後、加工層の内側部分をくり抜いた。
図15は、くり抜くことで得られたくり抜き結晶基板の被照射面側の外周近辺を電子顕微鏡で撮像して得られた撮像図である。
図15から判るように、くり抜き結晶基板の外周近辺には、熱影響部を起点としてチッピングTが生じており、溶融した痕跡Rも見られる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。
図16は、本実施形態に係る基板加工方法により製造した加工層含有基板を示す模式的な側面断面図である(基板厚み方向におけるレーザ光の照射エネルギーは実験例3での値を示す)。本実施形態では、第1実施形態と同様、加工対象結晶基板20aが単結晶基板である例を挙げて説明する。
【0063】
本実施形態では、第1実施形態に比べ、第2工程で加工対象単結晶基板20amに加工層22を形成する際、加工層22のうち加工対象単結晶基板20amの裏面(底面)側を構成する加工層裏面方部22vでは、裏面20vから離れるにつれて、回転ステージ11の回転中心軸Csとレーザ集光手段12の照射中心軸Cbとの距離rを徐々に広げ、加工層裏面方部22vよりも被照射面20u側(表面側)ではこの距離を一定にしている(
図16参照)。そして、このように徐々に広げることで、加工層裏面方部22vの外周側を、加工対象単結晶基板20amの裏面20vから離れるにつれて径が徐々に大きくなるR面状(断面円弧状)に形成している。この結果、加工層裏面方部22vは半径Nの面取り形状(すなわち、くり抜き対象部20bのうち加工層裏面方部22vの内周側に位置する部位もR面状)にされており、くり抜き作業でくり抜き対象部20bが加工層裏面方部22vから容易に破断され得る構造にされている。
【0064】
本実施形態で用いる基板加工装置としては、例えば、第1実施形態で説明した基板加工装置10を用い、半径方向距離変更手段(図示せず)により距離rを徐々に広げる。この場合、回転ステージ11をこのように移動させる制御プログラムが基板加工装置の制御手段(CPUなど)に入力されていると、正確性や加工容易性を確保する上で好ましい。
【0065】
本実施形態では、加工層含有基板20cからくり抜き対象部20bをくり抜くことで、基板裏面側が半径NのR面状にされたくり抜き単結晶基板20dが容易に得られる。従って、くり抜き単結晶基板20dの面取り作業を、不要にすること或いは大幅に軽減させることができ、くり抜き単結晶基板20d(ウエハ)のハンドリングが容易になる。
【0066】
また、第2工程でレーザ光を照射する際、加工痕を1つ1つ繋げていくことでこのような加工層22が形成されるので、加工層22を形成する際にかかる時間を第1実施形態とさほど変わらない程度の時間に抑えることができる。
【0067】
また、第1実施形態と同様、レーザ出力制御手段14は、加工対象結晶基板20a内部および少なくとも一方の加工対象結晶基板面近傍で、レーザ光Bの集光位置Bfに生じる加工痕22c(
図6参照)が、加工対象結晶基板20aの結晶方位に沿って伸張しないようにレーザ集光手段12に入射するレーザ光Bの出力を変化させるだけでなく、加工対象結晶基板20aの結晶方位と異なる結晶方位に沿っても伸張しないようにレーザ光Bの出力を変化させる構成にされていてもよい。これにより、くり抜き単結晶基板20dにチッピング等の不具合が生じることを更に効果的に防止することができる。
【0068】
なお、加工層裏面方部22vでは、くり抜き対象部20bを良好にくり抜く観点で、裏面20vに近い位置ほどくり抜き対象部20b(ウエハ)の半径方向へ加工痕22cを繋げることが重要になっており、被照射面側(表面側)に近づくに従い、次第に基板厚み方向へ加工痕22cを繋げることが重要になっている。従って、裏面20vに近い位置ほど加工痕22cのラインピッチを狭くし、被照射面側(表面側)に近づくに従い次第にラインピッチを広げるなどの工夫をすることにより、くり抜き対象部20bを更に良好にくり抜くことが可能になる。
【0069】
また、本実施形態では、加工層裏面方部22vの外周側をR面状に形成した例で説明したが、R面状に限らず湾曲凸面状としても、加工層含有基板20cからくり抜き対象部20bを容易にくり抜くことが可能である。
【0070】
また、加工層裏面方部22vではこのような形状にせずに、加工層22のうち加工対象単結晶基板20amの被照射面側(表面側)を構成する加工層表面方部を加工層裏面方部22vのような形状にすることで、基板表面側が半径NのR面状にされたくり抜き単結晶基板20dを得ることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る基板加工方法の説明では、加工対象単結晶基板20amが単結晶基板である例で説明したが、単結晶基板以外であっても、本実施形態に係る基板加工方法が適用可能である。
【0072】
<実験例3>
本発明者は、基板加工装置10を用い、第2実施形態に係る基板加工方法の一実施例により、以下の条件で加工対象単結晶基板に加工を行った。
【0073】
まず、回転ステージ11上のステージ面Suに、加工対象単結晶基板20amとして円盤状の単結晶シリコンウエハを保持させることで固定した。その際、回転ステージ11の回転中心軸Csと、単結晶シリコンウエハの中心軸とを一致させた。
【0074】
レーザ発振器による照射条件は以下である。
繰り返し周波数(kHz):500
補正環調整量 :1.0
(補正環目盛値)
加工痕ピッチ(μm) :2.0
ラインピッチ(μm) :3.0
【0075】
加工条件としては以下のように行った(
図16も参照)。なお、以下の記載で、加工痕深さ位置とは基板深さ方向位置のことであり、レーザ出力とはレーザのパルスエネルギーのことである。
加工痕深さ位置(μm) レーザ出力(μJ)
725〜660 2.3
660〜580 2.6
580〜500 3.4
500〜420 4.2
420〜360 5.0
360〜260 5.7
260〜50 9.3
50〜5 6.5
【0076】
このようなレーザ照射を行って加工層22を形成することで加工層含有基板20cとした。本実験例では、くり抜き単結晶基板20dの径が12.7mm、加工層裏面方部22vは半径Nが0.3mmとなるように加工層22を形成した。
【0077】
その後、加工層含有基板20cからくり抜き単結晶基板20dをくり抜いてウエハとした。そして、ウエハ(くり抜き単結晶基板20d)の面取り部20de(加工層裏面方部22vの内側を形成しているウエハ部位)の形状を実測するとともに電子顕微鏡で観察した。実測結果を
図17に、観察結果を
図18にそれぞれ示す。
図17では、加工層22のうち回転中心軸Csに最も近い部位をウエハ半径方向位置の始点として示しており、また、加工層22の目標値(すなわち理論値)も示している。
【0078】
図17、
図18から判るように、面取り部20deの形状は、ほぼ目標どおりの形状になっていたことが確認された。なお、
図17の実測結果から判るように、面取り部20deには20μm程度の凹凸が形成されていた。