(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
まず、本発明の原理の概要について説明する。
【0020】
本発明は、レールを挟んで配置される一対のコイル(送信コイルL1及び受信コイルL2)間の磁束結合を用いる車輪検知器であって、両コイル間を車輪が通過する際に、車輪が磁束を最大遮蔽する位置より所定距離前(又は最大遮蔽する位置より所定距離後)の位置にあるとき(以下、「車輪無し時」という)に、送信コイルL1の発する高周波磁束によって、受信コイルL2に誘起される誘導電圧V1を極大化することと、車輪が磁束を最大遮蔽する位置にあるとき(以下、「車輪有り時」という)に、受信コイルL2に誘起される誘導電圧V2を極小化することを同時に達成できるようにするものである。
【0021】
受信コイルL2において観測される上記電圧V1,V2には、通常、磁束雑音と回路雑音に起因するノイズ電圧V3が重畳しているので、車輪有無判断の評価指標としてのS/Nは、以下の式1で表される。
【0022】
S/N=(V1+V3)/(V2+V3) ・・・・・(1)
【0023】
通常、V3はV1に比べ無視できる程度に小さいので、S/N最大化のためにはV1の極大化とV2+V3の極小化が同時に満たされるようにすればよい。また、L1,L2コイル間距離とコイルの主軸角度が固定されると、V1は主として送信コイルL1の励磁電流によって決まるので、S/Nの最大化は、V2+V3を励磁電流によらず雑音レベルに最小化することに帰することになる。
【0024】
従来は、送信コイルL1及び受信コイルL2それぞれを多層巻した円筒型や角筒型の同心軸長を有するソレノイドで構成しており、一定のL1励磁電流下で、送信コイルL1及び受信コイルL2のコイル相対位置とコイル主軸間の相対角調整によって、V1の最大化とV2の最小化を図っていた。しかしながら、送信コイルL1からコイル主軸対称に発散する磁束ベクトル場は、受信コイルL2位置においても、受信コイルL2の主軸方向及び断面方向ともに不均一な分布を有することに加え、車輪有り時においても遮蔽の影響を受けずに、レールと車輪を周りこむ漏洩磁束が残留する結果、V2には、L1駆動電流に比例し、V2>>V3なる電圧成分が残ることになり、S/Nは、例えば、15dB程度が限界であった。
【0025】
本発明においては、受信コイルL2を平面型コイル(単一の平面コイル又は積層された平面コイルによって構成されるもの)で構成し、送信コイルL1からの拡散磁束ベクトル流に沿い平面近似できる感度領域Sに、受信コイルL2を配置する。更に、送信コイルL1の背面側に、受信コイルL2面を貫通するL1磁束ベクトル調整用の調整部材(具体的には、金属板)を設けることにより、V2がほぼ0になるよう調整できるようにするものである。
【0026】
以上のような構成を採用することにより、S/N=V1/V3となり、V1はL1駆動電流に比例することから、例えば、30〜60dB程度の高S/Nを得ることが可能となる。
【0027】
ここで、平面近似できる感度領域Sとは、送信コイルL1の形成する磁束が、同コイル軸長方向距離とともに還流磁界を形成しない範囲(磁束反転が起こっていない範囲)において、平面型コイルの厚み程度のスケール範囲において、磁束のゆるやかなベクトル変化量が線形とみなせる範囲を意味し、当該感度領域Sにおいては、車輪移動方向(
図1におけるX軸方向)に関しては、平面型コイルの最大幅と同程度の範囲にわたって、磁束がほぼ均一とみなすことができ、車輪移動に伴う電圧変化はゆるやかとなり、信号検出帯域上メリットとなる。これに対し、車輪移動方向に直交する方向では、磁束がコイル面を貫通するので、平面近似できる磁束ベクトル角度範囲は狭くなり、調整部材(金属板)による磁束調整が有効となる。
【0028】
次に、本発明の原理の詳細について説明する。
【0029】
図1及び
図2は、送信コイルL1からの磁束発散の様子を示す図である。
図1は、YZ面(車軸移動方向からみた断面)における磁束発散の様子を示し、
図2は、XY面(レール上面)における磁束発散の様子を示す。
【0030】
なお、ここでは、レール10に沿った方向(車輪移動方向11)をX軸方向、これに直交し、送信コイルL1及び受信コイルL2を結ぶ方向をY軸方向、対地垂直方向をZ軸方向としている。そして、例えば、X軸方向といった場合には、基本的に、正負両方の方向を含むものとする。また、簡単のため、
図1においては、レール10は省略してある。
【0031】
筒状に巻き上げられた送信コイルL1に励磁電流を印加することで発生する磁束は、コイル主軸について対称に発散し、コイル外空間を経て回り込む磁束ループを形成する。送信コイルL1のインダクタンスは、例えば、数mH程度であり、通常、高効率の磁束発生のために共振を用いる。
【0032】
なお、送信コイルL1及び受信コイルL2ともに、実設置環境下での温度や安定性などの制約から、通常、空芯コイルが用いられる。また、種々の列車運行システム信号や商用電源周波数との干渉を避けるために、L1励磁電流としては、通常30kHz程度の交流電流が用いられる。
【0033】
図2に示すように、送信コイルL1の磁束はレール10によって一部遮断されるが全体として発散し、磁束ループを形成する。空芯コイルである送信コイルL1から放散される磁束は、個々の巻線輪の漏洩磁束のベクトル和として、コイル近くにおいては、同コイル側面に沿う急峻な還流磁束を形成する。主軸方向では磁束密度がコイル端から距離とともに減衰し、また主軸から外れる方向においては、磁束の一部が還流ベクトルとして回転折り返す位置が主軸に直交する方向にシフトする。
【0034】
V1については、送信コイルL1と受信コイルL2との間隔が小さい方がS/N的に有利であるが、その時、送信コイルL1と受信コイルL2との距離の下限は、L1還流磁束ベクトルの折り返し位置が受信コイルL2位置に達しない範囲で決まる。これは、実レール寸法から決まる送信コイルL1の拡がりと同程度の寸法距離として、例えば、100〜200mm程度となる。
【0035】
車輪(とレール)が送信コイルL1の磁束ループの一部をさえぎる時、送信コイルL1の磁束は、金属表面の高周波表皮効果深さ範囲に渦電流を生じさせる。これは、レールや車輪など鉄材の電気抵抗により大部分がジュール熱として消費される結果、これら鉄材渦電流からの逆磁束の発生は無視できるレベルとなり、送信コイルL1の磁束は、車輪及びレールによって単純遮蔽されることになる。車輪通過に伴い、この磁束遮蔽の領域が受信コイルL2の置かれた感度領域Sを移動する結果、固定されている受信コイルL2を貫通する磁束量が時間変化し、誘導電圧が誘起される。
【0036】
図1及び
図2に示した例では、便宜的に、送信コイルL1の主軸は、レール方向に向けて、水平(Y軸方向)になるよう配置しているが、YZ面での角度配置については、車輪有り時の磁束遮蔽が極大となる適正角度が存在する。実際の車輪検知においては、V1が最大となる角度が採用されることになる。
【0037】
送信コイルL1の主軸をY軸方向に向けた場合、
図1に示すような発散磁束ベクトルが生ずる。例えば、送信コイルL1の寸法が、50×50×50mm
3(約10mH)の場合、XY面内で送信コイルL1端から受信コイルL2領域(100mm程度)にわたる平面近似できる領域への発散角度θは、約60度となる。
【0038】
送信コイルL1の主軸方向に発散する磁束の密度は、送信コイルL1と受信コイルL2との間の距離とともに急速に低下するなかで、車輪通過時、受信コイルL2への磁束遮蔽効果が有効な感度領域Sとして、Y軸方向には車輪に近接し、X軸方向には磁束発散角で決まる範囲を用いる。
【0039】
従来は、車輪通過時の検出電圧パルスの過渡応答伝達特性を損なうことなく、高S/Nを得るために、受信コイルとして、送信コイルとほぼ同じ形状・断面積で多層巻線を施し、相当のコイル軸長を有する筒型広帯域ソレノイドであって、自己インダクタンスが10mH程度のものが用いられていた。
【0040】
受信コイルL2に対し磁束遮蔽効果が見込める感度領域Sは、Z軸方向には車輪のフランジ位置で制約を受けるので、レール上面より数cm程度の垂下部に上限がくる。受信コイルL2として、筒型コイルを使用した場合、筒型コイルでは軸長があるので、コイル下端と上端とで、漏洩磁束回り込み状況が異なることに加え、車輪による磁束遮蔽効果も受信コイルL2の上面に比べ下面で減少し、S/Nに寄与する有効な巻き線比率が少なくなるという問題があった。
【0041】
図2に示したレール10上の位置a,b,cのうち、b点は、送信コイルL1の主軸を含むYZ面がレール10と交叉する位置として、車輪有り時に対応する。車輪有り時、感度領域S内に置かれた受信コイルL2を貫通する送信コイルL1の磁束ベクトルは、このb点におけるYZ面を境界として、受信コイルL2面において、X軸方向(レール方向)に対称分布していることから、b点で極小電圧V2を示し、通過前a点および通過後c点で極大電圧V1を示すことになる。
【0042】
図3は、車輪が通過する際に受信コイルL2によって検出される電圧の変化の様子を示す図である。
【0043】
同図に示すように、受信コイルL2によって検出される電圧は、車輪がb点に位置する際に、極小値を示す。
【0044】
同図に示す車輪移動に伴う各位置での検出電圧は、最終的に列車速度で決まるパルス電圧信号として検出される。通常ac間隔は数cm程度なので、列車速度100km/hとすると、このパルス波形はおよそ1m秒程度の過渡応答信号となり、これを増幅など広帯域信号処理するためには、この帯域で、20dB以上のS/Nが必要とされる。
【0045】
本発明では、まず受信コイルL2を平面型コイル(単一の平面コイル又は積層された平面コイルによって構成されるもの)とする。車輪検知におけるコイル対は、レール及び(通過時の)車輪に近くなるよう、例えば、送信コイルL1と受信コイルL2との間隔が20cm程度となり、受信コイルL2は、感度領域S内で、水平、垂直両方向ともに(通過時の)車輪から数cm程度離れた位置に配置される。
【0046】
次に、本発明の実施形態の概要について説明する。
【0047】
図4は、本発明の実施形態の概要を説明するための図である。同図においては、YZ面における発散磁束を示している。また、同図では、比較のために、本発明の平面型コイルと共に、従来の円筒型コイル41をあわせて示している。
【0048】
平面型コイルは、矩形状に巻回された平面コイルによって構成されており、矩形状に巻回された平面コイルの長辺がレールと平行、かつ、送信コイルL1の主軸に対しXY面で対称となるよう(送信コイルL1の主軸を含むYZ面が長辺の中央を通るよう)配置される。平面型コイルは、感度領域S内の車輪進行方向(X軸方向)でb点(車輪有り時の平衡位置)からのずれに対し、面内貫通磁束の変化が少なくほとんど感度を有しないので、V2を極小とするための受信コイルL2の調整は、コイル主軸からの垂直位置ずれhと角度φの調整に集約される。
【0049】
これに対して、受信コイルL2が円筒型コイルの場合は、コイル主軸長があるために、どの相対配置においても、送信コイルL1の磁束発散面が、受信コイルL2軸に沿って湾曲分布することから、平面型コイルのような角度及び位置での調整はできず、貫通磁束残留があり、V2最小化に限界がある。
【0050】
平面型コイルを構成する平面コイルでは巻き線がすべて単一平面内にあるので、巻き線材の直径とコイル形状広がりで決まる角度精度で平面コイル面を、送信コイルL1の磁束面に近似的に一致あるいは沿わせることができる。
【0051】
V1極大化のために、送信コイルL1は、通常、レール上面近くに配置されるが、受信コイルL2については、車輪のフランジに接触せぬよう、垂直方向の制約を受け、送信コイルL1の主軸から垂直方向に所定距離hだけずれた位置に配置される。その結果、車輪有り時、受信コイルL2面は、拡散磁束流に一致または沿うためには、YZ面内でずれhに対応する回転角φにおいて、V2極小値を与える。この条件下で遮蔽される磁束は、車輪無し時に回復し、受信コイルL2面を貫通する磁束として、V1を出力する。
【0052】
このようにしてS/Nの極大化は、受信コイルL2平面の位置・角度調整で行えるが、概略20dB以上の高S/Nの実現には、受信コイルL2面と送信コイルL1の磁束発散面の平行性に残る不完全性(L1磁束発散ベクトルの曲率によるもの)を取り除き、V2下限値を可能な限りゼロに近づける必要がある。しかし、送信コイルL1の磁束拡散は三次元的であるので、平面型コイルL2の角度調整のみで、L2面を貫通する磁束成分を完全に消すことはできない。平面コイル面内の磁束ベクトル曲率の変化は、貫通磁束が平面コイルに誘起する電流が、L2巻線にわたる経路積分として平均化されているので微調整は容易である。
【0053】
本実施形態では、受信コイルL2面近傍における発散磁束ベクトルの微調整手段として、送信コイルL1の背面側(受信コイルL2と逆側)に、低電気抵抗の金属(例えば、銅(Cu)やアルミニウム(Al))からなる調整板Mを配置し、発生する渦電流磁束ベクトルを利用する。渦電流磁束は、調整板Mの面に垂直な法線にそって拡散放射され、その放射面での強度分布は入射磁束分布に相似であるので、送信コイルL1に対し離れた位置にある受信コイルL2におけるL1発散磁束の平面性からのずれを補正することができ、V2を概ね0とすることが可能となる。このとき、S/N=V1/V3となり、送信コイルL1の駆動電流に比例するS/Nを得ることができる。
【0054】
図5及び
図6は、本発明の効果を説明するための図である。
図5は、L1駆動電流と、L2検出電圧との関係を示すものであり、同図の横軸は、L1駆動電流(単位:A)を示し、同図の縦軸は、L2検出電圧(単位:mV)を示す。また、
図6は、L1駆動電流と、S/Nとの関係を示すものであり、同図の横軸は、L1駆動電流(単位:A)を示し、同図の縦軸は、S/Nを示す。
【0055】
従来の円筒型コイル対では、V2に、L1磁束比例成分が残留するために、
図5のグラフ511,512に示すように、L1駆動電流増大に対し、V1,V2とも比例的に増大するので、
図6のグラフ610に示すように、S/N=V1/V2は一定値にとどまる。
【0056】
一方、本実施形態においては、平面型コイルと補正金属板を用いることで、
図5のグラフ522に示すように、V2をL1駆動電流によらず残留雑音レベルまで下げることができ、かつ、同図のグラフ521に示すように、V1はL1駆動電流に比例するようになっているので、
図6のグラフ620に示すように、S/N=V1/V3を任意設定することが可能となる。
【0057】
車輪通過時の信号は、受信コイルL2のレールに沿った方向(X軸方向)の寸法を列車速度で除算した時間パルス波形となるが、本発明の平面型コイルでは、筒型コイルに比べ、レール方向に感度域を長く設定できるので、パルス幅を数倍大きくとることが可能となる。これにより過渡応答信号周波数が下がり、信号処理システムの帯域制約が軽減するので、信号から車輪検出への演算システムの信頼性向上やコストの点で実用上のメリットを有する。調整板Mと送信コイルL1端面との距離f1は、例えば、0〜10mm程度であり、調整板Mのあおり角は、例えば、0〜45度の範囲で、V2=0とするような調整が可能となる。
【0058】
次に、本発明で用いる平面型コイルの詳細について説明する。
【0059】
図7は、本発明で用いる平面型コイルの構成例を示す図である。同図(a)は平面図を示し、同図(b)は正面図を示す。
【0060】
同図に示すように、平面型コイル700は、2つの平面コイル711,712を備え、2つの平面コイル711,712は、上下方向に積層されている。
【0061】
本実施形態においては、各平面コイル711,712は、30kHz帯の高周波電流による損失を低減するために、直径50μm程度の銅素線20〜30本を撚糸したリッツ線を用い、これを矩形状に平面巻線することで形成されており、厚み0.5mm以下の平面コイルシートとして実装されている。矩形状の平面コイルの形状寸法の最大値は、送信コイルL1磁束の発散角と送信コイルL1からの距離で決まり、車輪移動方向に沿う長辺は、例えば、10cm程度となる。
【0062】
このような単層平面コイルを用いた場合、100km/h程度の列車速度において、例えば、パルス幅が1m秒程度と処理しやすい過渡信号を得ることができる。
【0063】
送信コイルL1と受信コイルL2との間の距離が離れるとともに発散磁束密度が下がり、また車輪による磁束遮蔽効果も減ずるので、平面コイル短辺の有効長は、例えば、3〜8cm程度となる。平面コイルは非共振で信号検出するので、磁束検出感度を上げるために、巻線はコイルの自己共振周波数がL1駆動周波数以下にならない範囲で最大巻線長とする必要があり、巻線が長短両辺で囲まれる領域に収まるよう、リッツ線径が決まることになる。通常、平面コイル一枚あたり最大インダクタンスとして1〜2mH程度なので、複数の平面コイルを積層することで、検出感度が上げられる。
【0064】
図7では、2層コイルの例を示しているが、例えば、10層程度積層させて、コイル厚み5mm以下、自己インダクタンス10〜20mH程度の多層コイルとすることもできる。磁束変化の角度分解精度については、例えば、短辺5cmの平面コイルで得られる精度は、±0.5度程度となり、V2最小化のために送信コイルL1の拡散磁束面内での受信コイルL2の配置位置調整で高精度な調整が可能となる。積層平面コイルの厚みについては、例えば、コイル辺長さの1〜10%が実用範囲となる。
【0065】
積層コイルではインピーダンスが高くなるが、静電シールドを用いることにより、雑音電圧V3を下げることができる。
図7に示した例では、平面コイル711,712を挟むように、一対の静電シールド部材721,722が設けられている。各静電シールド部材721,722は、例えば、線径0.3mm程度の銅線すだれ(すれだ状ワイヤ)によって構成されており、当該銅線すだれの一端をシールド接地とすることで高周波磁束透過に影響することなく、静電遮蔽をおこなうことが可能となる。
【0066】
図8は、
図7に示した平面型コイルを構成する各平面コイルの構成例を示す図である。
図8(a)は、上側に配置される平面コイルの平面図を示し、同図(b)は、下側に配置される平面コイルの平面図を示す。
【0067】
同図に示すように、上側平面コイル810は、コイル外縁付近に配置された巻線開始端811から、コイル中心付近に配置された巻線終了端812に向かって、左巻きに巻回されている。
【0068】
一方、下側平面コイル820は、コイル中心付近に配置された巻線開始端821から、コイル外縁付近に配置された巻線終了端822に向かって、左巻きに巻回されている。
【0069】
上下方向に隣接する一対の平面コイルを、同図に示すように巻回することにより、上側平面コイル810の巻線終了点812と、下側平面コイル820の巻線開始端821とは、共に、コイル中心付近に配置されることとなるので、上側平面コイル810(巻線終了端812)と下側平面コイル820(巻線開始端821)との結線が容易に行えるようになる。例えば、プリント配線基板の両面に形成された配線パターンによって二層の平面コイルを実装する場合にも、同図に示すような巻線パターンを形成することにより、一つの貫通接続孔で、プリント配線基板の両面に形成された平面コイル間の結線が実現できるようになる。また、線材で平面コイルを実装する場合は、隣接する平面コイルを接続する接続線がコイル面を横切らないので、積層面に凹凸が生じず、平面型コイルの平面性を確保することが可能となる。
【0070】
また、上側平面コイル810の巻線開始端811と、下側平面コイル820の巻線終了端822とは、共に、コイル外縁付近に配置されることとなるので、外部との結線も容易に行えるようになる。
【0071】
《第一実施形態》
図9は、本発明による第一の車輪検知器(第一実施形態)の構成を説明するための図である。
【0072】
同図に示すように、本発明による第一の車輪検知器900は、送信コイルL1と、受信コイルL2と、調整板Mとを備える。送信コイルL1と、受信コイルL2とは、レール10を挟むようにレール10の両側に配置される。
【0073】
送信コイルL1は、筒型コイルによって構成され、水平面(地面)に対して所定の角度をなすように配置される。一方、受信コイルL2は、平面型コイルによって構成され、送信コイルL1によって形成される磁束に沿うように配置される。すなわち、受信コイルL2の平面コイル面を垂直に貫くL1磁束による起電力を近似的に無視でき、ゆるやかな磁束拡散面内に平面コイル面が近似的に入るような位置に配置される。
【0074】
調整板Mは、金属板によって構成されており、送信コイルL1の後方に配置される。調整板Mを構成する金属板は、銅やアルミニウム等の高導電率材料からなるものであり、例えば、最小サイズの場合は、送信コイルL1のコイル断面と同程度の大きさに形成され、最大サイズの場合は、受信コイルL2と同程度の大きさに形成される。また、調整板Mは、角度調節機構(不図示)によって、送信コイルL1の主軸901に対する板面の角度を調節できるように構成されている。
【0075】
受信コイルL2のZ軸方向位置は、車輪20のフランジ21との接触を避けるために、レール10の上面から、例えば、5cm以上垂直下方に位置する。送信コイルL1と受信コイルL2との間隔gは、L1磁束の発散が少ない範囲として上限は、例えば、40cm程度であり、また下限は、車輪20による磁束遮蔽効果が高く、かつ、受信コイルL2位置での磁束面が平面近似できる範囲として、例えば、25cm程度の範囲内で最適化される。
【0076】
受信コイルL2近傍での磁束は、送信コイルL1の主軸901について軸対称になるよう、ゆるやかに発散する磁束面を形成している。
【0077】
同図に示した車輪検知器900の調整は、例えば、次のようにして行われる。
【0078】
まず、受信コイルL2面を垂直貫通する磁束成分による起電力を車輪有り時にゼロに調整するが、このとき受信コイル面をZ軸方向に貫通する磁束は、車輪による遮蔽から外れたL1磁束のほか、磁束発散面が曲率を有することによる平面性からの「ずれ」が残留する。この残留磁束を消すために、調整板Mが有効なコイル間距離gは、例えば、送信コイルL1が50mm角矩形コイルの場合、20〜30cmの範囲にある。
【0079】
車輪有り条件でV2を最小(ゼロ)にする調整は、まず、例えば、調整板Mの位置が送信コイルL1からの距離f1=0〜5mmにおいて、L1軸交叉角β=0とし、受信コイルL2を設定許容範囲で、車輪フランジ21に最近接する位置に配置し、V2が極小となるよう、YZ面内で煽り角δを調整する。この段階では、必ずしも最小値V2=0とはならない。
【0080】
次に、車輪無し条件で、V1が最大となるよう、YZ面内で、送信コイルL1の主軸901の煽り角αとコイル間隔gを調整する。この時、受信コイルL2は、軸901から垂直距離hだけ外れた所に位置するので、L1磁束の発散ベクトル面は、ほぼδと同程度の傾斜面となる。この傾きは主としてコイル間距離gと、送信コイルL1のコイル角αで決まり、例えば、gが250mm、αが20〜30度のとき、δはおよそ20〜30度となる。
【0081】
次に、再度、車輪有り条件で、受信コイルL2の煽り角δをV2が極小となるよう微調整すると、送受信コイル対の平衡位置として、V2が極小となる位置が定まる。最終調整として、調整板Mの煽り角βを調整することによって、V2をほぼ0とすることができる。β角調整によって、受信コイルL2位置における磁束拡散面をYZ面内で微小角変化させることで、V2のL1磁束に比例する成分を打ち消すことができる。
【0082】
一連の調整は、コイル間距離gが決まれば、設置現場で行う必要があるのはβの調整のみとなり、g、α、δは、予め別の場所(例えば、出荷前の工場内)で決めることができる。これにより、V2=0を含むS/N最大化における車輪検知器の現地調整作業が著しく簡単になる。
【0083】
《第二実施形態》
次に、車輪検知器の別の実施形態について説明する。以下では、基本的に、前述した第一実施形態と相違する部分についてのみ説明する。第一実施形態と同様の構成要素については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0084】
図10は、本発明による第二の車輪検知器(第二実施形態)の構成を説明するための図である。
【0085】
同図に示すように、本発明による第二の車輪検知器1000は、送信コイルL1と、受信コイルL2と、調整板Mと、筒状磁性部材D1と、磁性板D2とを備える。第二の車輪検知器1000は、前述した第一の車輪検知器900に、筒状磁性部材D1と、磁性板D2とを追加したものである。
【0086】
筒状磁性部材D1は、筒状の形状を有する磁性体であって、送信コイルL1の前方に配置される。磁性板D2は、板状の形状を有する磁性体であって、受信コイルL2の下方に配置される。
【0087】
本発明における平面型コイルと調整板による効果は、V2をほぼ0とすることを可能とするところにあるが、さらにL1軸上の磁束放射部に、筒状磁性部材D1を磁極部材として挿入し、L1磁束発散を受信コイルL2位置方向に誘導することにより、例えば、V1を20〜30%改善することができ、S/N=60dBを超す性能を実現することが可能となる。
【0088】
平面コイル面が、L1磁束の緩やかな発散面にあるときに、検出電圧は平面コイル面にわたる経路積分の結果として得られるので、車輪有り時の最終的な微調整を、受信コイル面の一部に微小な磁束ベクトル変化を与えることで実現できる。
【0089】
また、受信コイルL2の下方に磁性板D2を挿入することにより、受信コイルL2近傍での磁束発散面を局部的に垂直方向に引き下げ、調整板Mによる調整をさらに容易とすることができる。磁性板D2は、例えば、受信コイルL2を構成する平面コイルの10〜50%程度の面積のもので十分な効果を得ることができる。
【0090】
筒状磁性部材D1及び磁性板D2は、車輪検知時の動作環境に適合する必要があり、例えば、高温まで安定動作の可能なフェライトや磁性金属微粒子系材料、アモルファス金属磁性体などによって構成される。
【0091】
《第三実施形態》
図11は、本発明による第三の車輪検知器(第三実施形態)の構成を説明するための図である。
【0092】
同図に示すように、本発明による第三の車輪検知器1100は、送信コイルL1と、受信コイルL2と、調整板Mと、筒状磁性部材D1と、磁性板D2と、第二の磁性板D3とを備える。第二の磁性板D3は、受信コイルL2の下方であって、レール10寄りの位置に配置される。第三の車輪検知器1100は、前述した第二の車輪検知器1000に、第二の磁性板D3を追加したものである。
【0093】
磁性板D2に加え、さらに、第二の磁性板D3を、受信コイルL2より垂直位置下方のレール10側に挿入することにより、磁性板D2調整時の平面コイル内磁束バランスの操作を拡大することができる。受信コイルL2を固定したうえで、磁性板D2及び磁性板D3として、受信コイルL2面積の20%程度の広がりをもつ磁性体を使用したとき、V2を概ね0とする調整時の磁性板D2の位置操作が、例えば、30mm程度にわたって可能となり、調整作業の効率化とコイルの安定動作に寄与する。
【0094】
第二の磁性板D3についても、筒状磁性部材D1及び磁性板D2と同様、車輪検知時の動作環境に適合する必要があり、例えば、高温まで安定動作の可能なフェライトや磁性金属微粒子系材料、アモルファス金属磁性体などによって構成される。
【0095】
《第四実施形態》
図12は、本発明による第四の車輪検知器(第四実施形態)の構成を説明するための図である。
【0096】
同図に示すように、本発明による第四の車輪検知器1200は、送信コイルL1と、受信コイルL2と、調整板M1,M2と、筒状磁性部材D1と、磁性板D2と、第二の磁性板D3とを備える。
【0097】
本実施形態においては、L1磁束補正用の調整部材が、2つの調整板、すなわち、粗調用の調整板M1と,微調用の調整板M2とによって構成されている。調整板M1,M2はそれぞれ、角度調節機構(不図示)によって、送信コイルL1の主軸901に対する板面の角度を調節できるように構成されている。
【0098】
粗調用の調整板M1は、送信コイルL1に近い位置に配置されて、補正のほとんどを担うものである。一方、微調用の調整板M2は、粗調用の調整板M1の後方に配置され、微調整のために使用されるものである。
【0099】
本実施形態においては、L1磁束補正用の調整部材を2つの調整板M1,M2によって構成するようにしているので、高S/N時のV2を0にする調整を設置現場で行うときの作業がさらに容易となり、実装信頼性を高くすることが可能となる。
【0100】
《第五実施形態》
図13及び
図14は、本発明による第五の車輪検知器(第五実施形態)の構成を説明するための図である。
【0101】
図13及び
図14に示すように、本発明による第五の車輪検知器1300は、送信コイルL1と、受信コイルL2と、調整板Mと、磁性板D2と、補償コイルL3とを備える。第五の車輪検知器1300は、前述した第一の車輪検知器900に、磁性板D2と、補償コイルL3とを追加したものである。
【0102】
補償コイルL3は、受信コイルL2と同様に、平面型コイルによって構成される。
【0103】
図13と
図14とでは、補償コイルL3の配置位置が異なっている。すなわち、
図13は、磁性板D2が、受信コイルL2と補償コイルL3とによって挟まれるように、補償コイルL3を配置した例を示し、
図14は、受信コイルL2と磁性板D2とによって挟まれるように、補償コイルL3を配置した例を示している。
【0104】
前述したように、調整板Mと磁性板D2によって、V2を極小化でき、高S/Nが、V1のみの調整で得られるようになるが、コイル駆動電力を低減するためには、V3は小なることが望ましい。通常、レールには、区間制御等のために数十Hz〜kHzの信号電流(軌道電流)が流れており、L1駆動電流が低く、V1が小さくなるか、もしくは、軌道電流レベルが高いとき、当該電流に起因する磁束Ψ2からの電圧が、受信コイルL2の検出電圧に信号雑音として重畳し、S/N低下の要因となる。車輪有り時に、送信コイルL1からの磁束Ψ1が受信コイルL2を貫通することによる誘起電圧は、調整板Mや磁性板D2等によりゼロとすることができるが、軌道電流は、送信コイルL1と空間的に独立成分であることから、受信コイルL2に対し、磁束Ψ2による電圧成分ゼロの条件とは一致しない。
【0105】
本実施形態においては、磁束Ψ2の寄与を補償するために、補償コイルL3を用いる。補償電圧が有効となるためには、補償コイルL3の検出電圧位相が受信コイルL2の検出電圧位相と合致する必要があることから、補償コイルL3は、受信コイルL2近傍に設置することになる。その結果、補償コイルL3の信号には、送信コイルL1の磁束による誘起電圧を含むことになり、そのままでは、S/N低下を引き起こすことになる。
【0106】
図15は、車輪検知器1300において、受信コイルL2及び補償コイルL3の出力信号を処理する信号処理システムの構成例を示す図である。
【0107】
同図に示すように、信号処理システム1500は、受信コイルL2と、補償コイルL3と、帯域除去フィルタ1510と、差動アンプ1520とを備える。
【0108】
帯域除去フィルタ1510は、補償コイルL3の出力から、送信コイルL1の駆動周波数の信号を除去するためのものであって、帯域除去フィルタ1510の出力は、差動アンプ1520の一方(−)の入力端子に接続されている。
【0109】
差動アンプ1520は、受信コイルL2の出力から、軌道電流の影響を除去するためのものであって、例えば、オペアンプによって構成される。差動アンプ1520の一方(+)の入力端子には、受信コイルL2の出力が接続され、差動アンプ1520の他方(−)の入力端子には、帯域除去フィルタ1510の出力が接続されており、差動アンプ1520は、受信コイルL2の出力信号(電圧)と、帯域除去フィルタ1510の出力信号(電圧)の差に比例した信号(電圧)を出力する。
【0110】
以上のような構成を有する信号処理システム1500を使用することにより、補償コイルL3の検出電圧から、送信コイルL1の磁束成分による電圧を排除することができ、これによってS/N低下なく、受信コイルL2の検出信号に含まれる軌道電流の影響を補償することが可能となる。
【0111】
補償コイルL3及び受信コイルL2位置における磁束ベクトルは、Ψ1、Ψ2ともに異なる曲率を有するので、軌道電流磁束補償のための補償コイルL3の仰角γは、受信コイルL2の仰角δと異なる値となる。
【0112】
以上説明したように、上述した車輪検知器によれば、高S/Nを実現することが可能となる。
【0113】
また、一度送信コイルL1及び受信コイルL2の位置・角度を固定すると、その後のV2をほぼ0とする調整が、例えば、調整板Mの仰角と磁性板D2の水平位置の調整のみで行え、実用時の調整が簡素となる。また、V2がほぼ0となる磁束遮蔽が、車輪寸法規模の物体の近接によってのみ検出信号として得られるので、車輪検出システムの信頼性が高くなる。