【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「未来社会創造事業」、「大規模プロジェクト型」、「自己位置推定機器の革新的な高精度化及び小型化につながる量子慣性センサー技術」、「冷却原子・イオンを用いた高性能ジャイロスコープの開発」、「原子ビームジャイロ型慣性航法装置の実証機試作」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1レーザー光が伝播する光ファイバーと、前記光ファイバーと接続されており且つ前記第1レーザー光の周波数をシフトする周波数シフターと、を含む光学変調装置を含み、前記光学変調装置からの前記第1レーザー光および前記光学変調装置からの前記第1レーザー光と対向するもう一つの第2レーザー光から進行光定在波を生成する光学システムと、
原子線と3個以上の前記進行光定在波が相互作用する干渉システムと、
前記干渉システムからの前記原子線を観測することによって角速度または加速度を検出する観測部と
を含む原子ジャイロスコープ。
第1レーザー光が伝播する光ファイバーと、前記光ファイバーと接続されており且つ前記第1レーザー光の周波数をシフトする周波数シフターと、を含む光学変調装置を含み、前記光学変調装置からの前記第1レーザー光および前記光学変調装置からの前記第1レーザー光と対向するもう一つの第2レーザー光から進行光定在波を生成する光学システムと、
原子線と3個以上の前記進行光定在波が相互作用する干渉システムと
を含む原子干渉計。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザー技術の進展に伴い、原子干渉計、原子干渉を利用した重力加速度計および原子ジャイロスコープなどの研究が進んでいる。原子干渉計としてマッハ-ツェンダー(Mach-Zehnder)型原子干渉計やラムゼー-ボーデ(Ramsey-Borde)型原子干渉計などが知られている。
図1に示す従来のマッハ-ツェンダー型原子干渉計900は、原子線源100と干渉システム200と光学システム300と観測部400を含む。原子線源100と干渉システム200と観測部400は図示しない真空チャンバー内に収容されている。
【0003】
原子線源100は原子線100aを生成する。原子線100aは、熱的原子線、熱的原子線の速度よりも遅い速度を持つ原子線である冷却原子線、ボース-アインシュタイン凝縮体(Bose-Einstein Condensate)などである。熱的原子線は、例えば、純度の高い元素をオーブンで加熱することによって生成される。冷却原子線は、例えば、熱的原子線をレーザー冷却することによって生成される。ボース-アインシュタイン凝縮体は、ボース粒子を絶対零度近くまで冷却することによって生成される。原子線100aに含まれる個々の原子は光ポンピングによって同じエネルギー準位―例えば、後述する|g>である―に設定される。
【0004】
干渉システム200では、原子線100aが3個の進行光定在波200a,200b,200cを通過する。各進行光定在波は、周波数が異なり且つ対向伝播する2個のレーザー光によって生成される。進行光定在波は、光の速度に比べて十分に遅い速度でドリフトする。ただし、一方のレーザー光の波数と他方のレーザー光の波数の差は十分に小さい。
【0005】
ここで、進行光定在波を生成する光学システム300の光学的構成の一例を簡単に概説する。
【0006】
マスターレーザー光源301からのマスターレーザー光MLは、例えばビームスプリッターBS1とミラーM1とによって2分岐される。2分岐されたマスターレーザー光MLの一方は、第1スレーブレーザー光源303に注入される。マスターレーザー光MLに同期した第1スレーブレーザー光SL1を1/2波長板HWP1に通すことによってレーザー光L
1が得られる。レーザー光L
1はミラーM2を経由して偏光ビームスプリッターPBS1に入る。2分岐されたマスターレーザー光MLの他方は、例えばEOM(Electro-Optic Modulator;電気光学変調器)302を通過することによって所定の周波数f―これは、後述する共鳴周波数に概ね等しい―だけ周波数シフトされる。周波数シフトされたマスターレーザー光MLは、第2スレーブレーザー光源304に注入される。周波数シフトされたマスターレーザー光MLに同期した第2スレーブレーザー光SL2を1/2波長板HWP2に通すことによってレーザー光L
2が得られる。ただし、レーザー光L
1の偏光方向とレーザー光L
2の偏光方向は互いに直交する。レーザー光L
2は偏光ビームスプリッターPBS1に入る。
【0007】
レーザー光L
1とレーザー光L
2は、偏光ビームスプリッターPBS1によって互いにオーバーラップし、シングルモードの偏光保持ファイバーPMFによって原子線100aの近くまで導かれる。
【0008】
3個の進行光定在波200a,200b,200cのうち第1および第3の進行光定在波200a,200cは後述するπ/2パルスと呼ばれる性質を持ち、第2の進行光定在波200bは後述するπパルスと呼ばれる性質を持つ。このような性質の違いを実現するために、まず、偏光保持ファイバーPMFから出たレーザー光、つまりオーバーラップしているレーザー光L
1とレーザー光L
2は、例えばレンズ、コリメーター、光増幅器などで構成されるビーム整形器305によって所望のガウシアンビームに整形される。次いで、得られたガウシアンビームは、例えば1/2波長板とビームスプリッターなどで構成されるビーム分配器306によって3個のレーザー光のペア、つまり、レーザー光L
1,aとレーザー光L
2,aのペアと、レーザー光L
1,bとレーザー光L
2,bのペアと、レーザー光L
1,cとレーザー光L
2,cのペアに分配される。
【0009】
レーザー光L
1,xとレーザー光L
2,x(x∈{a,b,c})は、1/4波長板QWP1xを通過し、右円偏光σ
1,x+,iと左円偏光σ
2,x-,iになる。右円偏光σ
1,x+,iと左円偏光σ
2,x-,iは、さらに1/4波長板QWP2xを通過し、偏光ビームスプリッターPBS2xに入る。右円偏光σ
1,x+,iに対応する直線偏光の進路は、偏光ビームスプリッターPBS2xによって変更される。左円偏光σ
2,x-,iに対応する直線偏光は、偏光ビームスプリッターPBS2xを通過し、レトロリフレクターRRxで反射し、再び偏光ビームスプリッターPBS2xを通過し、再び1/4波長板QWP2xを通過し、右円偏光σ
2,x+,rになる。この結果、偏光保持ファイバーPMFからのレーザー光に由来する右円偏光σ
1,x+,iおよびレトロリフレクターRRxからのレーザー光に由来する右円偏光σ
2,x+,rが自由空間中を対向伝播し、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})が得られる。
【0010】
原子干渉計では、光照射による原子の2準位間遷移が利用される。したがって、自然放出によるデコヒーレンスを避ける観点から、一般的に、寿命の長い2準位間遷移が利用される。例えば、原子線がアルカリ金属原子線である場合、基底状態の超微細構造に含まれる2準位の間の誘導ラマン遷移が利用される。超微細構造において、最も低いエネルギー準位を|g>とし、|g>よりも高いエネルギー準位を|e>とする。2準位間の誘導ラマン遷移は、一般的に、差周波数が|g>と|e>との共鳴周波数に概ね等しい2個のレーザー光の対向照射で形成される進行光定在波によって実現される。
以下、進行光定在波による2光子ラマン過程を利用した原子干渉について説明する。
【0011】
原子線源100からの原子線100aが第1の進行光定在波200aを通過すると、初期状態が|g, p>にある個々の原子の状態は|g, p>と|e, p+h(k
1-k
2)>との重ね合わせ状態に変化する。ただし、pは原子の運動量であり、hはディラック定数、つまりプランク定数を2πで割った値であり、k
1は進行光定在波を生成する2個のレーザー光のうちの一方のレーザー光の波数であり、k
2は他方のレーザー光の波数である。例えば第1の進行光定在波200aの通過時間Δt(つまり、進行光定在波と原子との相互作用時間)を適切に設定すると、第1の進行光定在波200aを通過した直後の|g, p>の存在確率と|e, p+h(k
1-k
2)>の存在確率の比は1対1になる。原子は、対向して進む2光子の吸収・放出を通して、|g, p>から|e, p+h(k
1-k
2)>に遷移する際に光子2個分の運動量を得る。したがって、状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子の運動方向は、状態|g, p>の原子の運動方向からずれる。つまり、原子線100aが第1の進行光定在波200aを通過すると、原子線100aは、1対1の割合で、状態|g, p>の原子からなる原子線と状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線に分裂する。第1の進行光定在波200aは、π/2パルスと呼ばれ、原子線のスプリッターとしての機能を持つ。
【0012】
分裂後、状態|g, p>の原子からなる原子線と状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線は、第2の進行光定在波200bを通過する。このとき、例えば第2の進行光定在波200bの通過時間、つまり進行光定在波と原子との相互作用時間を2Δtに設定すると、第2の進行光定在波200bを通過することによって、状態|g, p>の原子からなる原子線は通過過程で状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線に反転し、状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線は通過過程で状態|g, p>の原子からなる原子線に反転する。このとき、前者については、|g, p>から|e, p+h(k
1-k
2)>に遷移した原子の進行方向は、上述のとおり、状態|g, p>の原子の運動方向からずれる。この結果、第2の進行光定在波200bを通過後の状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線の進行方向は、第1の進行光定在波200aを通過後の状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線の進行方向と平行になる。また、後者については、原子は、対向して進む2光子の吸収・放出を通して、|e, p+h(k
1-k
2)>から|g, p>に遷移する際に、2光子から得た運動量と同じ運動量を失う。つまり、|e, p+h(k
1-k
2)>から|g, p>に遷移した原子の運動方向は、遷移前の状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子の運動方向からずれる。この結果、第2の進行光定在波200bを通過後の状態|g, p>の原子からなる原子線の進行方向は、第1の進行光定在波200aを通過後の状態|g, p>の原子からなる原子線の進行方向と平行になる。第2の進行光定在波200bは、πパルスと呼ばれ、原子線のミラーとしての機能を持つ。
【0013】
反転後、状態|g, p>の原子からなる原子線と状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線は、第3の進行光定在波200cを通過する。原子線源100からの原子線100aが第1の進行光定在波200aを通過する時刻をt
1=Tとし、分裂後の2個の原子線が第2の進行光定在波200bを通過する時刻をt
2=T+ΔTとすると、反転後の2個の原子線が第3の進行光定在波200cを通過する時刻はt
3=T+2ΔTである。時刻t
3にて、反転後の状態|g, p>の原子からなる原子線と反転後の状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線は互いに交差する。このとき、例えば第3の進行光定在波200cの通過時間、つまり進行光定在波と原子との相互作用時間を適切に設定すると―具体的には、第3の進行光定在波200cの通過時間を上記Δtに設定する―、状態|g, p>の原子からなる原子線と状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からなる原子線との交差領域に含まれる個々の原子の|g, p>と|e, p+h(k
1-k
2)>との重ね合わせ状態に応じた原子線100bが得られる。この原子線100bが、干渉システム200の出力である。第3の進行光定在波200cは、π/2パルスと呼ばれ、原子線のコンバイナーとしての機能を持つ。
【0014】
マッハ-ツェンダー型原子干渉計900に、第1の進行光定在波200aの照射から第3の進行光定在波200cの照射までの原子線の2個の経路を含む平面内の角速度または加速度が加わると、第1の進行光定在波200aの照射から第3の進行光定在波200cの照射までの原子線の2個の経路に位相差が生じ、この位相差が第3の進行光定在波200cを通過した個々の原子の状態|g>の存在確率と状態|e>の存在確率に反映される。したがって、観測部400は、干渉システム200からの原子線100b、つまり第3の進行光定在波200cを通過した後に得られる原子線を観測する、つまり、例えば励起状態|e>にある原子のポピュレーションを計測することによって角速度または加速度を検出する。例えば、観測部400は、干渉システム200からの原子線100bにプローブ光408を照射して、状態|e, p+h(k
1-k
2)>の原子からの蛍光を光検出器409によって検出する。光検出器409としては、光電子増倍管、蛍光フォトディテクタなどを例示できる。あるいは、光検出器409としてチャンネルトロンを用いる場合は、第3の進行光定在波を通過した後の2個の経路の一方の原子線を、プローブ光の替わりにレーザー等によってイオン化し、チャンネルトロンでイオンを検出してもよい。
【0015】
上述の光学システム300において、左円偏光σ
2,x-,iを右円偏光σ
2,x+,rに転換する再帰反射光学構成にAOM(Acousto-Optic Modulator;音響光学変調器)307x(x∈{a,b,c})が付加された構成も知られている(
図2参照。
図2は、非特許文献2の
図5.18の構成を
図1の構成に適用した構成を示している)。AOM307x(x∈{a,b,c})が付加された再帰反射光学構成は、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})を生成する2個のレーザー光のうちの少なくとも一方のレーザー光の位相をAOM307x(x∈{a,b,c})によって調整できるので、レトロリフレクターRRxの動揺の効果をキャンセルできるという利点を有する。
【0016】
上述の進行光定在波による2光子ラマン過程を利用したマッハ-ツェンダー型原子干渉計については、例えば非特許文献1、非特許文献2などが参考になる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
マッハ-ツェンダー型原子干渉スキームを例にとって本発明の実施形態を説明する。なお、図は実施形態の理解のためのものであり、図示される各構成要素の寸法は実際の寸法と異なる。実施形態の説明は、便宜上、マッハ-ツェンダー型原子干渉計に基づくが、本発明の要旨は、進行光定在波を用いる任意の原子干渉スキームに適用できることに留意すべきである。
【0025】
実施形態のマッハ-ツェンダー型原子干渉計500は、上述の「AOMが付加された再帰反射光学構成」に替えて「AOMを含み且つ光ファイバーでレーザー光を導く光学構成を採用した光学変調装置」を持つ。
【0026】
実施形態のマッハ-ツェンダー型原子干渉計500に含まれる光学システム300は、3個の進行光定在波200a,200b,200cに対応して3個の光学変調装置510a,510b,510cを持つ。光学変調装置510x(x∈{a,b,c})は、レーザー光が伝播する光ファイバー511x,514xと、光ファイバー511x,514xに接続されており且つ当該レーザー光の周波数をシフトする周波数シフター513xを含む。周波数シフター513xに限定は無いが、例えば、AOMまたはEOMである。
【0027】
以下、光学変調装置510xを用いたマッハ-ツェンダー型原子干渉計500の第1例(
図3参照)、第2例(
図4参照)、第3例(
図5参照)、および第4例(
図6参照)を説明する。
【0028】
<第1例>
レーザー光源311からの円偏光であるレーザー光Lは、EOM312を通過することによって所定の周波数だけ周波数シフトされる。周波数シフトされたレーザー光Lは、光ファイバーカプラ313aによって等分配される。光ファイバーカプラ313aから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、光ファイバーカプラ313cによって等分配され、光ファイバーカプラ313aから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、光ファイバーカプラ313bによって等分配される。光ファイバーカプラ313bから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、光ファイバーカプラ313dによって等分配され、光ファイバーカプラ313bから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、光ファイバーカプラ313eによって等分配される。
【0029】
光ファイバーカプラ313cから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA(Variable Optical Attenuator;可変光減衰器)314aによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315aによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
a+は干渉システム200に入る。光ファイバーカプラ313cから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、図示しない光コネクタによって光ファイバーカプラ313cに一端が接続されている光ファイバー511aによって、原子線を横切ることなく、AOM513aに案内される。
図3では、見易さを考慮して、光ファイバー511aの中間部分の図示を省略している。
【0030】
光ファイバーカプラ313dから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA314bによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315bによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
b+は干渉システム200に入る。光ファイバーカプラ313dから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、図示しない光コネクタによって光ファイバーカプラ313dに一端が接続されている光ファイバー511bによって、原子線を横切ることなく、AOM513bに案内される。
図3では、見易さを考慮して、光ファイバー511bの中間部分の図示を省略している。
【0031】
光ファイバーカプラ313eから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA314cによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315cによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
c+は干渉システム200に入る。光ファイバーカプラ313eから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、図示しない光コネクタによって光ファイバーカプラ313eに一端が接続されている光ファイバー511cによって、原子線を横切ることなく、AOM513cに案内される。
図3では、見易さを考慮して、光ファイバー511cの中間部分の図示を省略している。
【0032】
光ファイバー511x(x∈{a,b,c})の他端は光コネクタによって周波数シフター513xに接続されており、レーザー光Lは周波数シフター513xに入る。レーザー光Lの周波数は、周波数シフター513xによってシフトされる。シフト量は、周波数シフター513xへの入力信号周波数f
xに依存する。この結果、レーザー光Lは位相変調される。光ファイバー514xの一端が光コネクタによって周波数シフター513xに接続されており、周波数シフター513xから出たレーザー光Lは光ファイバー514xに入る。レーザー光Lは、光ファイバー514xの他端に取り付けられている光コネクタから出て、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器316xによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
x+は干渉システム200に入る。
【0033】
この結果、光学変調装置510xを経ていないレーザー光に由来する円偏光σ
x+および光学変調装置510xを経たレーザー光に由来する円偏光σ
x+が自由空間中を対向伝播し、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})が得られる。
【0034】
<第2例>
第2例は、第1例の変形例である。レーザー光源311からの円偏光であるレーザー光Lは、EOM312を通過することによって所定の周波数だけ周波数シフトされる。周波数シフトされたレーザー光Lは、光ファイバーカプラ313aによって等分配される。光ファイバーカプラ313aから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA314aによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315aによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
a+は干渉システム200に入る。
【0035】
光ファイバーカプラ313aから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、光ファイバーカプラ313bによって等分配される。光ファイバーカプラ313bから出た2個のレーザー光Lのうちの一方は、VOA314bによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315bによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
b+は干渉システム200に入る。光ファイバーカプラ313bから出た2個のレーザー光Lのうちの他方は、VOA314cによって減衰され、さらに、例えばレンズとコリメーターなどで構成されるビーム整形器315cによって所望のガウシアンビームに整形される。得られた円偏光のガウシアンビームσ
c+は干渉システム200に入る。
【0036】
光学変調装置510x(x∈{a,b,c})は、さらに、3ポートタイプの光サーキュレーター515xを含む。周波数シフター513xの一端は光ファイバー511xの一端に接続されており、光ファイバー511xの他端は光サーキュレーター515xの第1ポートに接続されており、周波数シフター513xの他端は光ファイバー514xの一端に接続されており、光ファイバー514xの他端は光サーキュレーター515xの第3ポートに接続されている。光ファイバー511x,514xと周波数シフター513xとの接続には光コネクタが用いられる。
【0037】
ビーム整形器315xによって得られた円偏光のガウシアンビームσ
x+は、光サーキュレーター515xの第2ポートに取り付けられている光コネクタによって光サーキュレーター515xの第2ポートに導入される。この光コネクタは、例えばレンズコリメーターを持つ光コネクタである。ガウシアンビームσ
x+は、第2ポートから第3ポートに伝達し、第3ポートに接続されている光ファイバー514xを経由して周波数シフター513xに入る。ガウシアンビームσ
x+の周波数は、周波数シフター513xによってシフトされる。シフト量は、周波数シフター513xへの入力信号周波数f
xに依存する。この結果、ガウシアンビームσ
x+は位相変調される。周波数シフター513xから出たガウシアンビームσ
x+は、周波数シフター513xに接続されている光ファイバー511xを経由して光サーキュレーター515xの第2ポートに導入される。位相変調されたガウシアンビームσ
x+は、第1ポートから第2ポートに伝達し、光コネクタから出る。この結果、光学変調装置510xを経ていないレーザー光に由来する円偏光σ
x+および光学変調装置510xを経たレーザー光に由来する円偏光σ
x+が自由空間中を対向伝播し、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})が得られる。
【0038】
3ポートタイプの光サーキュレーター515xの代わりに、4ポートタイプの光サーキュレーターを用いてもよい。この場合、第4ポートは使用されない。
【0039】
<第3例>
第3例のマッハ-ツェンダー型原子干渉計500は、上述の「AOMが付加された再帰反射光学構成」に替えて「AOMを含み且つ光ファイバーでレーザー光を導く光学構成を採用した光学変調装置」を持つことを除き、マッハ-ツェンダー型原子干渉計900と同じである。したがって、ここではマッハ-ツェンダー型原子干渉計500とマッハ-ツェンダー型原子干渉計900との相違点、つまり光学変調装置を説明する。マッハ-ツェンダー型原子干渉計500とマッハ-ツェンダー型原子干渉計900の両方に共通の技術事項については上述のマッハ-ツェンダー型原子干渉計900の説明を本実施形態の説明に組み込み、これによって共通事項の重複説明を省略する。
【0040】
上述のようにガウシアンビームから分配されたレーザー光L
1,xとレーザー光L
2,x(x∈{a,b,c})は偏光ビームスプリッターPBS3xに入る。直線偏光であるレーザー光L
1,xは偏光ビームスプリッターPBS3xを通過し、直線偏光であるレーザー光L
2,xは偏光ビームスプリッターPBS3xによって90°反射する。レーザー光L
1,xは、1/4波長板QWP1xを通過し、右円偏光σ
1,x+,iになる。右円偏光σ
1,x+,iは、1/4波長板QWP2xを通過し、偏光ビームスプリッターPBS4xに入る。右円偏光σ
1,x+,iに対応する直線偏光は、偏光ビームスプリッターPBS4xによって90°反射し、図示しない光アイソレータに入る。
【0041】
偏光ビームスプリッターPBS3xで反射されたレーザー光L
2,xは、1/2波長板HWP3xを通過し、原子線を横切ることなく、光ファイバー511xの一端に取り付けられている光コネクタによって光ファイバー511axに導入される。
図3では、見易さを考慮して、光ファイバー511xの中間部分の図示を省略している。この光コネクタは、例えばレンズコリメーターを持つ光コネクタである。光ファイバー511xの他端は周波数シフター513xに接続されており、レーザー光L
2,xは周波数シフター513xに入る。レーザー光L
2,xの周波数は、周波数シフター513xによってシフトされる。シフト量は、周波数シフター513xへの入力信号周波数f
xに依存する。この結果、レーザー光L
2,xは位相変調される。光ファイバー514xの一端が周波数シフター513xに接続されており、周波数シフター513xから出たレーザー光L
2,xは光ファイバー514xに入る。光ファイバー511x,514xと周波数シフター513xとの接続には光コネクタが用いられる。レーザー光L
2,xは、光ファイバー514xの他端に取り付けられている光コネクタから出て、偏光ビームスプリッターPBS4xを通過し、さらに1/4波長板QWP2xを通過し、右円偏光σ
2,x+,rになる。この結果、偏光保持ファイバーPMFからのレーザー光に由来する右円偏光σ
1,x+,iおよび光学変調装置510xからのレーザー光に由来する右円偏光σ
2,x+,rが自由空間中を対向伝播し、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})が得られる。
【0042】
<第4例>
第4例は、第3例の変形例である。光学変調装置510xは、さらに、3ポートタイプの光サーキュレーター515xを含む。周波数シフター513xの一端は光ファイバー511xの一端に接続されており、光ファイバー511xの他端は光サーキュレーター515xの第1ポートに接続されており、周波数シフター513xの他端は光ファイバー514xの一端に接続されており、光ファイバー514xの他端は光サーキュレーター515xの第3ポートに接続されている。光ファイバー511x,514xと周波数シフター513xとの接続には光コネクタが用いられる。
【0043】
レーザー光L
1,xとレーザー光L
2,x(x∈{a,b,c})は、1/4波長板QWP1xを通過し、右円偏光σ
1,x+,iと左円偏光σ
2,x-,iになる。右円偏光σ
1,x+,iと左円偏光σ
2,x-,iは、さらに1/4波長板QWP2xを通過し、偏光ビームスプリッターPBS5xに入る。右円偏光σ
1,x+,iに対応する直線偏光は、偏光ビームスプリッターPBS5xによって90°反射し、図示しない光アイソレータに入る。左円偏光σ
2,x-,iに対応する直線偏光は、偏光ビームスプリッターPBS5xを通過し、光サーキュレーター515xの第2ポートに取り付けられている光コネクタによって光サーキュレーター515xの第2ポートに導入される。この光コネクタは、例えばレンズコリメーターを持つ光コネクタである。この直線偏光は、第2ポートから第3ポートに伝達し、第3ポートに接続されている光ファイバー514xを経由して周波数シフター513xに入る。直線偏光の周波数は、周波数シフター513xによってシフトされる。シフト量は、周波数シフター513xへの入力信号周波数f
xに依存する。この結果、直線偏光は位相変調される。周波数シフター513xから出た直線偏光は、周波数シフター513xに接続されている光ファイバー511xを経由して光サーキュレーター515xの第2ポートに導入される。位相変調された直線偏光は、第1ポートから第2ポートに伝達し、光コネクタから出る。レーザー光L
2,xに由来する直線偏光は、偏光ビームスプリッターPBS5xを通過し、再び1/4波長板QWP2xを通過し、右円偏光σ
2,x+,rになる。この結果、偏光保持ファイバーPMFからのレーザー光に由来する右円偏光σ
1,x+,iおよび光学変調装置510xからのレーザー光に由来する右円偏光σ
2,x+,rが自由空間中を対向伝播し、進行光定在波200x(x∈{a,b,c})が得られる。
【0044】
3ポートタイプの光サーキュレーター515xの代わりに、4ポートタイプの光サーキュレーターを用いてもよい。この場合、第4ポートは使用されない。
【0045】
上述の実施形態から明らかなとおり、不要な次数の回折光をAOM307xとレトロリフレクターRRxとの間で空間的に分離する再帰反射光学構成と異なり、光ファイバーでレーザー光を導く光学構成は、光ファイバーの伝播モードの選択または分離によって不要な次数の回折光を除去できる。さらに、光ファイバーでレーザー光を導く光学構成は、レンズLS2xの焦点距離に由来する設計上の制約も受けない。加えて、AOM307xへの入射レーザー光のビーム径―これは結晶中の音響波長よりも十分に大きく典型的には概ね0.5mmである―よりも光ファイバーのコア径―例えばシングルモード光ファイバーのモードフィールド径は典型的には概ね0.005mmである―は十分に小さいので、自由空間を伝播したレーザー光を光ファイバーに導入するためのレンズと光ファイバーまでの焦点距離は、レンズLS1xとAOM307xとの間の距離よりも短くできる。したがって、光ファイバーでレーザー光を導く光学構成は、小型の原子ジャイロスコープと小型の原子干渉計の実現に寄与する。
【0046】
再帰反射光学構成は、気流の影響、レトロリフレクターの動揺などの影響を受ける可能性があり、この影響を除去するための機構が必要であった。本実施形態によると、光学変調装置510x(x∈{a,b,c})はレトロリフレクターを含まないのでレトロリフレクターの動揺の影響を受ける可能性が無い。光学変調装置510xは光ファイバー511x,514xを含むので、光ファイバー511x,514xが気流の影響を受ける可能性が無いとは言えないが、光ファイバー511x,514xが気流などで動揺した場合のエラーキャンセル技術は既に知られている(参考文献1参照)。また、光ファイバー511x,514xを例えば留め具で固定することによって、気流の影響を受ける可能性を抑制することも可能である。
(参考文献1)Longsheng Ma, et al., “Delivering the same optical frequency at two places: accurate cancellation of phase noise introduced by an optical fiber or other time-varying path,” Optics letters (1994), Vol.19, No.21, 1777-1779.
【0047】
マッハ-ツェンダー型原子干渉計500を原子ジャイロスコープとして利用する場合、観測部400によって、励起状態の原子のポピュレーションから角速度または加速度を検出する処理を行ってもよい。励起状態の原子のポピュレーションから角速度または加速度を検出する処理は良く知られているので説明を省略する。
【0048】
上述の実施形態ではマッハ-ツェンダー型原子干渉スキームを採用したが、例えばラムゼー-ボーデ型原子干渉スキームを採用してもよい。
偏光保持ファイバーからのレーザー光に由来する左円偏光σ
1,x-,iおよび光学変調装置510x(x∈{a,b,c})からのレーザー光に由来する左円偏光σ
2,x-,rから進行光定在波200x(x∈{a,b,c})を得てもよい。
さらに、例えば、上述の実施形態では、3個の進行光定在波を用いて、1回の分裂と1回の反転と1回の混合を行うマッハ-ツェンダー型原子干渉を利用しているが、このような実施形態に限定されず、本発明は、例えば複数回の分裂と複数回の反転と複数回の混合を行う多段のマッハ-ツェンダー型原子干渉を利用した実施形態として実施することもできる。このような多段のマッハ-ツェンダー型原子干渉については、参考文献2を参照のこと。
(参考文献2)Takatoshi Aoki et al., “High-finesse atomic multiple-beam interferometer comprised of copropagating stimulated Raman-pulse fields,” Phys. Rev. A 63, 063611 (2001) - Published 16 May 2001.
【0049】
請求の範囲と明細書において、特に断りが無い限り、「接続された」という用語とこのあらゆる語形変形は、互いに「接続」された2個の要素の間に1個又はそれ以上の中間要素が存在することを必ずしも否定しない。
【0050】
請求の範囲と明細書において、序数詞は、特に断りが無い限り、序数詞で修飾されるまたは序数詞と結合する要素を当該要素の順序または当該要素の量で限定することを意図しない。序数詞の使用は、特段の断りが無い限り、単に、2個以上の要素を互いに区別する便利な表現方法として使用される。したがって、例えば語句「第1のX」と語句「第2のX」は、2つのXを区別するための表現であり、Xの総数が2であることを必ずしも意味せず、あるいは、第1のXが第2のXに先行しなければならないことを必ずしも意味しない。「第1」という用語について、必ずしも「最初」を意味するとは限らない。
【0051】
請求の範囲と明細書において、用語「含む」とその語形変化は非排他的表現として使用されている。例えば、「XはAとBを含む」という文は、XがAとB以外の構成要素―例えばC―を含むことを否定しない。また、或る文が用語「含む」またはその語形変化が否定辞と結合した語句―例えば「含まない」―を含む場合、当該文はその目的語について言及するだけである。したがって、例えば「XはAとBを含まない」という文は、XがAとB以外の構成要素を含む可能性を認めている。さらに、用語「または」は排他的論理和ではないことが意図される。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。
【解決手段】原子干渉計500は、第1レーザー光が伝播する光ファイバー511x,514xと、光ファイバー511x,514xと接続されており且つ第1レーザー光の周波数をシフトする周波数シフター513xと、を含む光学変調装置510xを含み、光学変調装置510xからの第1レーザー光および光学変調装置510xからの第1レーザー光と対向するもう一つの第2レーザー光から進行光定在波を生成する光学システム300と、原子線100aと3個以上の進行光定在波200a,200b、200cが相互作用する干渉システム200を含む。