(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6818364
(24)【登録日】2021年1月5日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】食味のすぐれた大豆あん
(51)【国際特許分類】
A23L 11/00 20210101AFI20210107BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
A23L11/00 301Z
A23G3/34 106
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-216688(P2018-216688)
(22)【出願日】2018年11月19日
(65)【公開番号】特開2020-80678(P2020-80678A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2019年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 滋一
(72)【発明者】
【氏名】向山 信
(72)【発明者】
【氏名】糸賀 章登
【審査官】
田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−158431(JP,A)
【文献】
特開2004−073042(JP,A)
【文献】
特開昭63−181970(JP,A)
【文献】
栄養と食糧, 1966年,第19巻, 第4号,p.34-41 (p.268-275)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00−11/10;11/30
A23G 1/00−9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)大豆を水に浸漬し、膨潤させる工程、
(2)膨潤させた大豆と大豆種皮を水煮する工程、
(3)水煮した大豆および大豆種皮を磨砕する工程、
から成る大豆あんの製造方法において、原料大豆として、種皮を含まない大豆と大豆種皮
を、重量比1:0.07〜0.22の割合となるように混合したものを用いる大豆あんの
製造方法。
【請求項2】
(3)の磨砕する工程が、カッターミキサーやマスコロイダーによって磨砕する工程であ
る、請求項1記載の大豆あんの製造方法。
【請求項3】
(2)の水煮する工程が、80〜100℃の条件下、60分〜120分間加熱する工程で
ある、請求項1記載の大豆あんの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆種皮を含有し、食味や食感のすぐれた大豆あんに関するものである。
【背景技術】
【0002】
あんは、各種の和菓子や菓子パンなどの材料等として広く用いられる食品である。一般に、原料の煮豆をすり潰し、水晒しすることにより得られたものは生あん、生あんに砂糖などの糖類を添加し、加熱しながら混合したものは練りあんと称されている。
【0003】
あんの原料としては、小豆が最も一般的であるが、他に白インゲンなどを用いた白あん、青えんどう豆を用いたうぐいすあんなどがよく知られている。一方、大豆はタンパク質を豊富に含み、栄養的にすぐれた食材であることから、あんの原料としての需要はある一方、小豆などの他の豆類に比べて澱粉の含有量が少ないために、あんを製造したときの物性が不適となるなど、あんの一般的な原料とはされてこなかった。
【0004】
また、大豆粉と糖を温水で練ってあん状にする製品も市販されているが、やはり、タンパク質が多く含まれるのに対し澱粉含有量の少ない大豆の特性により、練っても粘性の強い糊状になってしまい、いわゆる小豆等を用いたあんとは物性の全く異なるものとなってしまっていた。
【0005】
従来、大豆を使ったあんの食味や物性を向上させるため、様々な工夫がなされている。たとえば、大豆を水中下、130〜180℃で40分以内加熱した後、水を分離して磨砕する方法(特許文献1)や、水に浸漬した大豆を2回水煮した後、脱皮・擂砕し、水を流しながら裏ごしし、次いで落下した部分を脱水する方法(特許文献2)、大豆を煮た後に磨砕し、摩砕物と甘味料とを加熱しながら混練する方法(特許文献3)、原料大豆を高温・加熱の熱風に晒した後、粉砕・煮熟する方法(特許文献4)などが知られている。
【0006】
また、大豆の種皮については、あん中に残存しているとあんの風味・食感が良くない等の理由から製造工程中に除去するのが好ましいとされる文献もあり(特許文献2、3)、その扱いについては定見がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−143558
【特許文献2】特開昭61−104758
【特許文献3】特開平9−56356
【特許文献4】特開2014−158431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の大豆を用いた大豆あんの製法は、いずれも特殊な工程や機械を必要としたり、工程が煩雑であるなどの問題があった。したがって本発明の課題は、これらのような特殊・煩雑な工程を経ずに、すぐれた食感や食味を有する大豆あんを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく発明者らは鋭意検討を行った結果、大豆あんの原料として種皮を含まない大豆と大豆種皮とを用い、かつ種皮を含まない大豆と大豆種皮の重量比1:0.07〜0.22、好ましくは1:0.1〜1:0.22、さらに好ましくは1:0.1〜1:0.18、より好ましくは1:0.13〜1:0.18に設定してあんを製造したときに、食感や外観がすぐれ、食味も良好な大豆あんを得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明の大豆あんは、食感や外観が糊状ではなくしっとりしていて従来の小豆等を用いたあんと同様であるだけでなく、味がまろやかで甘味も適度であり、さらには大豆の風味も十分に感じられるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の大豆あんは、種皮を含まない大豆と大豆種皮を主原料とし、種皮を含まない大豆と大豆種皮の重量比が1:0.07〜0.22、好ましくは1:0.1〜1:0.22、さらに好ましくは1:0.1〜1:0.18、より好ましくは1:0.13〜1:0.18であることを特徴とする。なお、とくに指定がない限り、本明細書における重量とは、大豆および大豆種皮を水に浸漬する前の乾燥重量を指す。あんの種別としては、生あんあっても練りあんであってもよい。
【0012】
本発明の大豆あんは、(1)大豆を水に浸漬し、膨潤させる工程、(2)膨潤させた大豆と大豆種皮を水煮する工程、(3)水煮した大豆および大豆種皮を磨砕する工程、を含む製造工程によって得ることができる。
【0013】
(1)大豆を水に浸漬し、膨潤させる工程では、原料大豆を水に浸漬し、膨潤させる。具体的には、原料大豆を5分〜60分間、好ましくは15〜30分間程度、水中に浸漬する。原料大豆としては、丸大豆、脱脂大豆、脱皮大豆など任意のものを用いることができる。
【0014】
(2)膨潤させた大豆と大豆種皮を水煮する工程では、上記膨潤させた大豆および大豆種皮に水を加えて加熱する。大豆種皮は、原料の一部または全部に丸大豆を用いた場合には、当該丸大豆由来のものを用いることができ、これとは別に、脱皮した大豆の種皮をさらに添加することもできる。また、脱皮大豆等の種皮を含まない大豆を原料に用いた場合には、所期の量となるように別途大豆種皮を添加して煮る工程に処する。
【0015】
本発明の大豆あんは、原料として、種皮を含まない大豆と大豆種皮を、種皮を含まない大豆と大豆種皮の重量比1:0.02〜0.17、好ましくは1:0.04〜1:0.17、さらに好ましくは1:0.04〜1:0.1で用いることを特徴とする。種皮の含有比がこれより少ないと、得られる大豆あんは、旨味や味のまろやかさに欠け、大豆感も不十分であり、全体的な嗜好性も低下してしまう。一方、種皮量がこれより多いと、大豆感や青くささが強くなり過ぎ、全体的な呈味のバランスが崩れるために、やはり味として不適である。
【0016】
煮る工程では、大豆および大豆種皮を、80〜100℃の条件下、60分〜120分間程度加熱する。また、圧力釜等の耐圧容器を用いて加圧下に蒸気加熱してもよい。加温・加圧条件としては、0.5〜1.5kg/cm
2(ゲージ圧、以下同様)程度の加圧下、110〜130℃の温度で、10〜60分間程度蒸気加熱することにより行うことができる。なお、加熱時間は、圧力および温度により適宜調整される。
【0017】
(3)水煮した大豆および大豆種皮を磨砕する工程では、工程(2)で得られた大豆を公知の方法によって磨砕する。具体的には、カッターミキサーやマスコロイダーにより細かく摩砕すると、種皮の残存によって食感を損ねることがなく、好ましい。
【0018】
(4)本発明の大豆あんは、工程(3)のあと、水晒しすることにより生あんとしてもよく、必要によりさらに砂糖等の甘味料を加えて、加熱しながら混練することで練りあんとしてもよい。
【0019】
甘味料としては任意のものを用いることができ、例えば砂糖(上白糖、グラニュー糖等)、液糖、イソマルトオリゴ糖、ソルビトール、水飴、ハイマルトースシラップ、ステビア、スクラロース、アセスルファムKなどが例示できる。甘味料の使用量は、大豆磨砕物に対して60〜120重量%程度、好ましくは80〜100重量%である。
【0020】
本発明の大豆あんには、上記大豆、大豆種皮および甘味料のほかにも、その目的とする食味に合わせて各種原料を添加することができる。具体的には、食塩や味噌、醤油、グルタミン酸ナトリウムなどの調味料、乳酸カルシウム、炭酸カルシウムなどのミネラル類、柑橘類等の果汁・果皮などの香味料、栗、ごま、ナッツ類などの種実類、押し麦、大麦粉、小麦粉などを挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)大豆あんの製造
下記(1)〜(4)の工程によって大豆あんを製造した。なお、工程(2)において、含有させる大豆種皮の重量を調整した。具体的には、種皮を含まない大豆と大豆種皮の重量(浸漬前の乾燥時での数値)比を、種皮を含まない大豆:種皮=1:0.05(試験区(1))、1:0.08(試験区(2))、1:0.10(試験区(3))、1:0.17(試験区(4))または1:0.29(試験区(5))の比率となるよう混合した原料による大豆あんを得た。
【0022】
(1)大豆を水に浸漬し、膨潤させる工程
500gの種皮を含まない圧扁大豆を5L水にて15分間浸漬し、ざるに越して水を切り、1226gの浸漬大豆を得た。
【0023】
(2)膨潤させた大豆と大豆種皮を水煮する工程
浸漬・膨潤させた大豆と所定の量の大豆種皮を混合した上で、5Lの水とともに加熱し、90℃達温後、90〜95℃で60分間煮た。
【0024】
(3)水煮した大豆および大豆種皮を磨砕する工程
60分間煮た後、ざるごしして水を切り、水煮大豆1303gを得た。得られた大豆および種皮の混合物300gに対し、水380gの割合で混ぜ、ミキサーの弱で1分、強で1分処理し、大豆ペーストを得た。
【0025】
(4)砂糖等を加えて調味する工程
得られた大豆ペースト600gに対し、グラニュー糖500gの割合で混合し、手鍋に入れて混ぜながら加熱してグラニュー糖を溶かし込んだ。その後加熱を継続し、1100gのグラニュー糖を溶かし込んだ大豆ペーストを851gになるまで煮詰めた。
【0026】
得られた大豆あんは、いずれも糊状にはならず、しっとりとした外見で小豆等によって得られたあんと質感としても近いものであった。
【0027】
(実施例2)官能評価
実施例1で製造したそれぞれの大豆あんについて、官能評価を実施した。官能評価では、あんの「大豆感」「甘み」「旨み」「青臭さ」「まろやかさ」「嗜好性」「総合評価」について、それぞれ評点1(弱い・好ましくない)〜評点5(強い・好ましい)として評価を行った。評価は、訓練された社内パネラー6名によって実施し、その評点の平均を算出した。
評価結果を、下記表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
上記表に示すように、試験区(1)の種皮を含まない大豆:大豆種皮の重量比=1:0.05の大豆あんでは、青臭さはないものの大豆感が不十分で、旨みやまろやかさにも欠けていた。また、砂糖由来の甘みが強すぎるために甘みがきつく感じられ、嗜好や総合評価の評点も低くなった。
【0030】
試験区(2)の種皮を含まない大豆:大豆種皮の重量比=1:0.08のあんは、試験区(1)の大豆あんと比べてまろやかさが向上し、大豆感や旨みにおいても改善が見られ、嗜好や総合評価も向上した。一方、甘みがきつく感じられる点においては試験区(1)と同様であった。
【0031】
試験区(3)(4)の種皮を含まない大豆:大豆種皮の重量比=1:0.10または1:0.17の大豆あんは、旨みやまろやかさが非常に強く感じられ、さらに大豆感も十分で、大豆らしい豊かな風味を感じるものであった。また、甘みのきつさも和らげられ、青臭さも強すぎないなど、全体的な味のバランスもすぐれており、嗜好や総合評価においてもきわめて高いものであった。総合評価においては、試験区(4)の大豆あんが最も高かった。
【0032】
試験区(5)の種皮を含まない大豆:大豆種皮の重量比=1:0.29のあんは、旨みは強いものの大豆感や青臭さが強くなり過ぎ、まろやかさが低下するなど、食味のバランスが不適であった。嗜好や総合評価の値も低くなっていた。
【0033】
以上の結果から、種皮を含まない大豆:大豆種皮を重量比1:0.07〜0.22で混合して原料に用いたときに得られる大豆あんにおいて、旨みや甘み、大豆の風味が強く、一方で甘みのきつさや青臭さが程よく抑えられ、食味の良好な大豆あんを得られることが明らかになった。