(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6818462
(24)【登録日】2021年1月5日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】耐火構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20210107BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20210107BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20210107BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
E04B1/94 F
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
F16F1/40
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-153004(P2016-153004)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-21373(P2018-21373A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 智仁
(72)【発明者】
【氏名】長岡 勉
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊彦
【審査官】
土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−024617(JP,A)
【文献】
特開2013−011063(JP,A)
【文献】
特開2005−220947(JP,A)
【文献】
特開2010−281069(JP,A)
【文献】
特開平09−242215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04H 9/02
E04B 1/24
F16F 15/04
F16F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下柱と、
前記下柱の上部に設置され上柱と鉄骨梁の接合部を支持する、又は前記下柱と前記鉄骨梁の接合部の上部に設置され前記上柱を支持する免震装置と、
前記鉄骨梁の上に設けられた床スラブと、
前記床スラブから吊下され前記接合部の周りに設けられた第1耐火被覆部と、
前記免震装置を壁状に取り囲むと共に、前記第1耐火被覆部に対して下部又は上部が相対移動可能に配置された第2耐火被覆部と、
前記第1耐火被覆部の外側にある前記鉄骨梁を耐火被覆する第3耐火被覆部と、
を有する耐火構造。
【請求項2】
前記床スラブは、コンクリートスラブである請求項1に記載の耐火構造。
【請求項3】
前記接合部の周りの前記鉄骨梁に熱吸収手段が設けられている請求項1又は2に記載の耐火構造。
【請求項4】
前記第1耐火被覆部の内側にある前記鉄骨梁には、耐火被覆が施されていない、又は前記第3耐火被覆部の厚さよりも薄い厚さで耐火被覆が施されている請求項1又は2に記載の耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間層免震を構成する免震装置に対して耐火性能を発揮する耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下柱の上部に設置されて、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の梁と上柱の接合部を支持する免震装置や、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の梁と下柱の接合部の上部に設置されて上柱を支持する免震装置などの、建物の中間層免震を構成する免震装置は、建築基準法上において主要構造部材の柱とされるので、耐火処理が施されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、構造支持柱の上に設置されて、鉄骨鉄筋コンクリート造の梁と鉄骨柱の柱梁仕口部を支持する免震装置を耐火被覆材で被覆した免震構造が開示されている。
【0004】
しかし、下柱の上部に設置された免震装置により、鉄骨梁と鉄骨上柱の接合部を支持する免震構造や、鉄骨梁と鉄骨下柱の接合部の上部に設置された免震装置により上柱を支持する免震構造の場合、この免震装置を耐火被覆で被覆しても、火災時に温度上昇した接合部から伝達される熱によって免震装置の耐火性が低下することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−281069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、火災時に柱と鉄骨梁の接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱によって免震装置の耐火性が低下することを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様の発明は、下柱と、前記下柱の上部に設置され上柱と鉄骨梁の接合部を支持する、又は前記下柱と前記鉄骨梁の接合部の上部に設置され前記上柱を支持する免震装置と、前記接合部の周りに設けられた第1耐火被覆部と、前記免震装置を取り囲む第2耐火被覆部と、前記第1耐火被覆部の外側にある前記鉄骨梁を耐火被覆する第3耐火被覆部と、を有する耐火構造である。
【0008】
第1態様の発明では、接合部の周りに設けられた第1耐火被覆部により火災時における第1耐火被覆部の外側から接合部への熱の進入を抑制し、接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱を低減する。
【0009】
また、鉄骨梁を耐火被覆する第3耐火被覆部により火災時における鉄骨梁の温度上昇を抑制することによって、鉄骨梁から接合部へ伝達される熱を低減し、接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱を低減する。
【0010】
さらに、免震装置を取り囲む第2耐火被覆部により、火災時における第2耐火被覆部の外側から免震装置への熱の進入を抑制する。
【0011】
これらにより、火災時に上柱又は下柱と鉄骨梁の接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱によって免震装置の耐火性が低下することを低減することができる。
【0012】
第2態様の発明は、第1態様の耐火構造において、前記鉄骨梁の上にコンクリートスラブが設けられている。
【0013】
第2態様の発明では、コンクリートスラブが鉄骨梁及び接合部の熱を吸収し、接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱をより低減することができる。
【0014】
第3態様の発明は、第1又は第2態様の耐火構造において、前記接合部の周りの前記鉄骨梁に熱吸収手段が設けられている。
【0015】
第3態様の発明では、熱吸収手段が接合部の周りの鉄骨梁の熱を吸収することにより、接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱をより低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記構成としたので、火災時に柱と鉄骨梁の接合部を通じて免震装置へ伝えられる熱によって免震装置の耐火性が低下することを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る耐火構造を示す正面断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る熱吸収手段を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る筒状部材と梁を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る筒状部材と梁を示す斜視図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る熱吸収手段を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の実施形態に係る耐火構造について説明する。
【0019】
図1の正面断面図、
図1のA−A断面図である
図2、及び
図1のB−B断面図である
図3に示すように、本実施形態の耐火構造10は、下柱12、上柱14、鉄骨梁としての梁16、免震装置18、第1耐火被覆部20、第2耐火被覆部22、及び第3耐火被覆部24を有して構成されている。
【0020】
下柱12は、角柱状に形成された鉄筋コンクリート造の柱であり、上柱14は、角形鋼管からなる鉄骨造の柱である。梁16は、H形鋼からなる鉄骨造の梁であり、平面視にて上柱14から四方へ向けて放射状に配置されるとともに、端部が溶接により上柱14の側面に接合されている。
【0021】
梁16の上には、コンクリートスラブとしての鉄筋コンクリートにより形成された床スラブ26が設けられている。
【0022】
免震装置18は、積層ゴム支承からなり、下柱12の上部に設置されている。また、免震装置18は、上柱14と梁16の接合部としての仕口部28(上柱14の下端部)を支持している。すなわち、免震装置18は、建物の中間層免震を構成する免震装置となっている。
【0023】
第1耐火被覆部20は、ケイ酸カルシウム板からなる被覆板部材30により構成され、仕口部28の周りに設けられている。被覆板部材30は、アングル材等の取り付け部材(不図示)を用いて床スラブ26の下面に固定されて吊下されている。
【0024】
第2耐火被覆部22は、被覆板部材30の下部32と、ケイ酸カルシウム板からなりアングル材等の取り付け部材(不図示)を用いて下柱12の上面に固定されて立設された被覆板部材34とによって構成され、免震装置18を取り囲むように設けられている。被覆板部材30(下部32)の下面と、被覆板部材34の上面との間には隙間が形成されており、これによって、被覆板部材30(下部32)と被覆板部材34とが横方向へ相対移動可能となっている。
【0025】
第3耐火被覆部24は、湿式の吹付けロックウールからなり、第1耐火被覆部20の外側にある梁16の外周面を耐火被覆している。仕口部28付近の梁16の端部(第1耐火被覆部20の内側)には、耐火被覆が施されていない。これにより、施工手間を低減し、施工コストを低減することができる。
【0026】
次に、本発明の実施形態に係る耐火構造の作用と効果について説明する。
【0027】
本実施形態の耐火構造10では、
図1〜3に示すように、仕口部28の周りに設けられた第1耐火被覆部20により火災時における第1耐火被覆部20の外側から仕口部28への熱の進入を抑制し、仕口部28を通じて免震装置18へ伝えられる熱を低減する。
【0028】
また、梁16を耐火被覆する第3耐火被覆部24により、火災時における梁16の温度上昇を抑制することによって、梁16から仕口部28へ伝達される熱を低減し、仕口部28を通じて免震装置18へ伝えられる熱を低減する。
【0029】
さらに、免震装置18を取り囲む第2耐火被覆部22により、火災時における第2耐火被覆部22の外側から免震装置18への熱の進入を抑制する。
【0030】
これらにより、火災時に仕口部28を通じて免震装置18へ伝えられる熱によって免震装置18の耐火性が低下することを低減することができる。
【0031】
また、本実施形態の耐火構造10では、
図1及び
図2に示すように、梁16の上に床スラブ26が設けられているので、床スラブ26が梁16及び仕口部28の熱を吸収し、仕口部28を通じて免震装置18へ伝えられる熱をより低減することができる。
【0032】
さらに、本実施形態の耐火構造10では、
図1に示すように、被覆板部材30(下部32)と被覆板部材34とが横方向へ相対移動可能に設けられているので、地震時に、下柱12と仕口部28とが横方向へ相対移動しても、第2耐火被覆部22を壊れなくすることができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明した。
【0034】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、鉄筋コンクリート造の下柱12の上部に設置された免震装置18によって、鉄骨造の上柱14と鉄骨造の梁16の仕口部28を支持した構成の例を示したが、下柱12は、耐火被覆された鉄骨造の柱、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱等のさまざまな構造の柱とすることができる。
【0035】
また、鉄骨造の下柱と鉄骨造の梁の接合部(仕口部)の上部に設置された免震装置によって上柱を支持する構成であってもよい。この場合、上柱は、鉄筋コンクリート造の柱、耐火被覆された鉄骨造の柱、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱等のさまざまな構造の柱とすることができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、
図1に示すように、免震装置18を積層ゴム支承とした例を示したが、高減衰積層ゴム支承、鉛プラグ入り積層ゴム支承、弾性すべり支承等の他の種類の免震装置であってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、
図1に示すように、第1耐火被覆部20及び第2耐火被覆部22を、ケイ酸カルシウム板により構成した例を示したが、第1耐火被覆部20は、火災時における第1耐火被覆部20の外側から仕口部28への熱の進入を抑制し、仕口部28を通じて免震装置18へ伝えられる熱を低減することができるものであればよく、第2耐火被覆部22は、火災時における第2耐火被覆部22の外側から免震装置18への熱の進入を抑制することができるものであればよい。例えば、第1耐火被覆部20及び第2耐火被覆部22は、石膏ボード、乾式のボード状ロックウール断熱材等によって構成してもよい。
【0038】
さらに、本実施形態では、
図1に示すように、第3耐火被覆部24を湿式の吹付けロックウールにより構成した例を示したが、第3耐火被覆部24は、火災時における梁16の温度上昇を抑制することができるものであればよい。例えば、第3耐火被覆部24は、乾式のロックウールシート、熱膨張シート、ケイ酸カルシウム板、石膏ボード、耐火塗料等としてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、
図1に示すように、梁16の第1耐火被覆部20の外側にある外周面を第3耐火被覆部24により耐火被覆した例を示したが、仕口部28付近の梁16の端部(第1耐火被覆部20の内側)の外周面に、耐火被覆を施してもよい。この場合、第1耐火被覆部20の外側に位置する梁16に施される耐火被覆よりも、第1耐火被覆部20の内側に位置する梁16に施される耐火被覆を薄くしてもよい。
【0040】
さらに、
図4の斜視図、及び
図7の斜視図に示すように、仕口部28の周り(仕口部28付近)に位置する梁16の端部に熱吸収手段36、44を設けてもよい。
【0041】
図4では、熱吸収手段36が、端部が仕口部28の側面に溶接等により接合された角形鋼管からなる鋼製の筒状部材38と、筒状部材38内に充填され硬化されたコンクリート40とを有して構成されている。また、上柱14の内部にもコンクリート42が充填され硬化されている。
【0042】
図5の斜視図に示すように、筒状部材38の上下端面と、梁16の上下フランジ端面とは、溶接、ボルト等によって接合されており、筒状部材38と梁16とによって1つの梁部材を構成している。すなわち、この梁部材の端部に熱吸収手段36が設けられている。なお、
図6の斜視図に示すように、筒状部材38内に補強プレート46を設けて、筒状部材38の強度を高めるようにしてもよい。
【0043】
図7では、熱吸収手段44が、梁16の端部を取り囲むように梁16に挿入されて配置され、端部が仕口部28の側面に溶接等により接合された角形鋼管からなる鋼製の筒状部材38と、筒状部材38内に充填され硬化されて梁16の端部と筒状部材38とを一体化するコンクリート40とを有して構成されている。また、上柱14の内部にもコンクリート42が充填され硬化されている。
【0044】
このような構成により、熱吸収手段36、44が仕口部28の周りの梁16の熱を吸収し、また、コンクリート42が仕口部28の熱を吸収することにより、仕口部28を通じて免震装置18へ伝えられる熱をより低減することができる。また、筒状部材38を、免震装置18を交換する際に用いる揚重用ジャッキのジャッキ受けとすることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
10 耐火構造
12 下柱
14 上柱
16 梁(鉄骨梁)
18 免震装置
20 第1耐火被覆部
22 第2耐火被覆部
24 第3耐火被覆部
26 床スラブ
28 仕口部(接合部)
36、44 熱吸収手段